唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
一瞬で、
──否。
消えたと錯覚したのは、おそらくこの戦闘を横合いから眺めている余人だけだ。
振りぬかれる右拳を、上体を逸らしたスウェーでもって回避する。
通常であれば回避することすら許さぬ神速の拳が、しかし薫織の鼻先数センチのところを豪快に空振りする。
必殺の拳が、殺し損ねる。
しかし、それが限界。
最高速度かつ最短距離の回避を以てしても、
しかし、
根本的な速度差。
それは、咄嗟の一瞬ではなく、動作から動作への流れの中でこそ如実に表れていく。
「────」
これ以上の回避はできない。
不可避の状況で、
それだけで。
ぐりん!!!! と
横倒しにした竹トンボみたいな恰好で回転するその姿は、傍から見れば致命傷すらも想像できたが──しかし、それは実像とは異なる。
『しまッ──』
焦ったような声を上げたのは、
──攻撃を受けた側が派手に吹っ飛ぶと、それだけの運動エネルギーがあるのだからと大ダメージをイメージするものだが、それは厳密には間違いである。
攻撃を受けてその場から微動だにしないということは、その分の運動エネルギーは受け手の肉体に直接吸収されたということ。
それよりも、吹っ飛んでいる方がその分『移動に運動エネルギーが使われている』ということであり、見た目よりもダメージは少ない。
この場合、
──ただし。
『──ってもいないか……微妙に。……やれやれ、油断も隙もない』
放たれた
まるで、キャッチャーフライを捕るかのように。
明らかに想定外の一撃だったにも拘らず、
そして、蹴りをガードされた
『だが、さしものメイドと言えど今の一撃を無傷で切り抜けることはできなかったようだ』
確かに、
そればかりか、回転の勢いを攻撃に転用して相手の予測の外からの一撃をお見舞いまでしてみせた。
しかし──根本的なシキガミクスとしてのスペック差は、一目瞭然。
たとえ
その差分は、
ただし。
明確なダメージレースにおける差を認識しておきながら、
「危機感が足りてねェな」
楽しむような笑みを言葉に滲ませる
「理解しろ。今の局面でテメェはまたしても
『随分露骨に圧をかけてくるじゃないか、らしくもない。存外劣勢かね?』
だが、ピースヘイヴンもその程度で己の優勢を疑うような脆弱な精神基盤は持ち合わせていない。
むしろ
言葉は刃。
それぞれが相手の精神に対してその刃先を突きつけながら、互いに戦局を認識していく。
客観的な事実を言えば──
渾身の格闘戦ですら終始
四肢の内一つが使えなくなった状態で、最強のシキガミクスを相手にするのはいかにも心許ないと言える。
ただし。
「何故霊能を使わなかった?」
『…………』
「
沈黙した
「一度発動すれば以降一〇秒は再発動ができない。つまり、使いどころを誤ればそれ以降は霊能なしで切り抜けなくちゃならねェんだ。
スペックで優っているとはいえ、相手は
当然、使うタイミングには細心の注意を払うよなァ……。……その結果、絶好のタイミングを逃すことになっちまっているが」
『んー、図星だな……。だがこれが君に対する最善だ。霊能は保険として使い、あくまで基本はこの圧倒的なスペック差でゴリ押し。
そうすればやがて君の継戦能力は底を突くだろう』
つまり、持久戦。
ただでさえ、
『待ち』の戦法を撃たれれば、セオリーで考えると
「……馬鹿野郎が」
「そんなつまらねェ戦法、自ら逆転負けのフラグを立てに行っているようなモンじゃねェか」
『現実と物語を混同するんじゃない。浪漫だなんだで理想論に傾くのはもうたくさんだ。君も前世で良い大人だったのなら、いい加減に現実を見ろ』
そうして、
体育館の地面をめり込ませながら、肉眼では追い切れないほどの高速で
「逆だ、逆。混同じゃねェ──」
臨戦態勢のメイドの口から洩れた、その台詞を。
「『超克』するんだよ。物語で、現実を!!」