唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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74 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ⑪

 天井に投げられたロープが薫織(かおり)の手元まで戻り、そして虚空へと消える。

 

 そして崩れ去る定説(リヴィジョン)の真上を取っていた薫織(かおり)の身体が徐々に地上へと降りていくが──、

 

 

 

 ググ、と。

 

 そこで、薫織(かおり)の時間遡行が緩やかになっていく。当然、足元にあるガソリンはまだ引いてはいない。

 

 

 

『何……? 馬鹿な、これは……』

 

「違うぞ、崩れ去る定説(リヴィジョン)!」

 

 

 そこで、背後から本体・ピースヘイヴンの声がかけられる。

 

 

「『五秒』だ……。既に時間遡行の限界秒数に到達している! これ以上の遡行はできない!!」

 

 

 ピースヘイヴンの言葉を受けて、崩れ去る定説(リヴィジョン)はようやく薫織(かおり)の行動に隠されたすべての意図に気付いた。

 

 先程のロープで天井にぶら下がっての小休止。

 アレはガソリンに注意を向けさせないだけでなく──崩れ去る定説(リヴィジョン)の遡行限界まで『時』を巻き戻してもガソリンをなかったことにさせない為、即ち詰めの為の『待ち』だったのだ。

 

 愕然とする崩れ去る定説(リヴィジョン)に対し、遡行の限界ギリギリの境地にいるピースヘイヴンは言う。

 

 

「シロウはこの後の一秒で確実に倒す! この状況、もはや園縁(そのべり)君による炎上を阻止するのは不可能だが……お前が炎上してから完全に焼け落ちるまでのその時間で、終わりにする!」

 

『……了解した!』

 

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)が応じた瞬間、虚空に生じた亀裂は消失し、そして再び時が正しい運行を開始する。

 

 

『しかし決着はここで着けるぞ! ここから先「一秒」は我々のみが時を書き換えるッ!!』

 

 

 背後のピースヘイヴンが継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)の脇をくぐって嵐殿(らしでん)を押し倒したのと同時に、崩れ去る定説(リヴィジョン)は腰を低く落として構える。

 足元のガソリンは、やはり消えてはいない。

 この状況で下手に移動しようとすれば足を取られて転倒し、逆に隙を生んでしまうだろう。

 

 だからこそ──あえて炎上は受け入れ、燃え尽きるまでの数秒で二対一の盤面を形成し、勝負を決する。

 その為の『待ち』の構えである。

 

 

 薫織(かおり)が跳躍し、一秒が経過する──。

 

 

()()()()()()()()()()。ならこの後がどうなるか分かってるだろ?」

 

 

 そして『時の慣性』が終わった直後、薫織(かおり)はそう断言した。

 

 ──『時の慣性』に囚われている者は、『一秒』の間に生じた動きの変化についていくことができない。

 それは裏を返せば、『時』を書き換えた場合はその瞬間に動きの差分がはっきりと表れるということにもなる。

 空中に位置していた薫織(かおり)は、一瞬前まで戦っていたピースヘイヴンが嵐殿(らしでん)を押し倒したことで霊能の発動を悟ったのだ。

 

 

「その反応。やはり『四秒後』の(オレ)は既に詰めていたらしい……そして今再びの」

 

 

 空中で、薫織(かおり)は手の中に大量のマッチを発現する。

 

 そしてそれを別で空中に発現したマッチ箱にこすりつけることで着火し、崩れ去る定説(リヴィジョン)にばら撒く。

 足元のガソリンで身動きが取れない崩れ去る定説(リヴィジョン)は、それを回避する術を持たないが──

 

 

「『熾火奉仕(イグナイトサービス)』だ!!」

 

『だが、ただではやられんッ!!』

 

 

 足元にばら撒かれたガソリン。

 これは崩れ去る定説(リヴィジョン)の機動力を潰す薫織(かおり)の策だが──考えようによっては、崩れ去る定説(リヴィジョン)の手元に大量の可燃物を用意したとも言える。

 

 炎上を回避しようとしても行動を無駄にするだけだが、炎上を不可避のものとして受け入れれば、逆にその大量の可燃物を()()()()だけの余裕が生まれるのではないだろうか?

 

 

『私が焼け落ちるのはいい……。だが君にも同じ目に遭ってもらうぞ!!』

 

 

 ヒュドッ!! と、崩れ去る定説(リヴィジョン)薫織(かおり)目掛けて勢いよく足を振る。

 

 それだけで、ガソリン塗れの足は可燃物の水弾を薫織(かおり)に向かって放った。

 こうすれば、崩れ去る定説(リヴィジョン)の炎上は避けられないまでも、薫織(かおり)自身も炎上は不可避となるだろう。

 

 

《『女中道具』の解除による回避……その可能性もあるだろう。しかし、果たして水滴単位を選択しての解除が可能なほどの精密さが君の霊能にあるか!?

 いや、不可能だ……! ()()()()()()()()()()()()()()! 女中の心得(ホーミーアーミー)による発現の解除はできて部品(パーツ)ごと! 液体や粉末の解除は一括でしか不可能だ!!

 つまり解除すればこの『詰め』の盤面を放棄することになる!!》

 

 

 ──崩れ去る定説(リヴィジョン)の見立ては、実際に正確なものだった。

 

 女中の心得(ホーミーアーミー)、『裏階段』と呼ばれる事前準備した倉庫に格納されてある物品を『女中道具』として手元に瞬間移動させる霊能。

 

 発現直後はその場に強い力で固定され、その後は自由意志で解除することができる。

 発現・解除は部品ごとに行うことができ、たとえば一つのマッチ箱を『マッチ棒』と『マッチ箱』に分けて発現することで取り出しの手間をなくすことも可能である。

 

 ただし──個別発現・解除の限界は『もともと分かれているもの』ごととなり、組み立てられた椅子をバラバラに解除することなどは不可能。

 また、粉末の集合体や液体などは発現時の一塊で『一つ』とカウントされるため、個別に解除することもできない。

 (ピースヘイヴンは知らないことだが)伽退(きゃのく)との戦闘において小麦粉を煙幕として使用した際、個別ではなく全体を一括で解除していたことからもこの性質は明白だ。

 

 

 そうした個別の事例を知らないにも拘らず、それまで培ってきた経験則からこの法則を暴き出し即座に突いて来た崩れ去る定説(リヴィジョン)の洞察は優れていると言わざるを得ない。

 

 ただし。

 

 

「あァ、テメェならそこまで読むと思っていた」

 

 

 そう言い残し──薫織(かおり)はその場から、()()()()

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