唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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77 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ⑭

「な……!?」

 

 

 突如ステージの方から発生した波動に、薫織は茫然とした視線を向ける。

 

 小心者の流知は脱兎のごとくステージから転げ落ちて逃げ出しており、そこだけは安心できたが──しかし、それ以前の問題が発生していた。

 

 『唯神夜行』を内包していた『天尾羽張』から、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………そうか」

 

 

 小さく、ピースヘイヴンが呟いた。

 

 

「おかしいとは思っていた。私の計算は完璧だったはずなのに、何故園縁君を霊気の奔流が直撃したのかと。……あそこから、既に計算は狂っていたんだな」

 

「おい、どういうことだ黒幕野郎。まさかテメェまた……」

 

「ああ、私の失敗だなこれは」

 

「このおバカ!?!?!?」

 

 

 胸倉に掴みかかろうとする流知だったが、これは薫織によって抑えられる。

 

 

「『唯神夜行』は通常の『百鬼夜行(カタストロフ)』と違い、神様を生み出す術式だ。一分の無駄もなくすべての霊気が神様の生成に使われる計算になる。

 一方で、神様は大気中の霊気を取り込むことで存在を維持することができる唯一の存在だ。……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何ですのそれ!? それじゃあつまり、アナタは自分が生み出して利用しようとした『神様』の挙動を読み違えて勝手に大ピンチに陥っているってことですの!?」

 

 

 とはいえ、まだ存在も安定していない状態でそんなことをすれば『神様』自身もただでは済まないだろう。

 

 そもそも、存在が安定していない状態で『神様』がそこまで明確な意志を持って行動すること自体が本来ではあればあり得ないのだ。

 何せ、存在が安定していないということは意志すらないということなのだから。

 本能で行動しているのであれば、己の存在を不安定にするような行動は()()()()()()()()()

 ……そのはずなのだが。

 

 しかし、ピースヘイヴンはそのあたりの考察や弁明は一切省略し、

 

 

「まぁ、そうなる」

 

「このおバカ!! ええい離して薫織! この人三発くらい叩いても許されると思う!!」

 

「落ち着け流知。半殺しにしても許されるレベルだが、一旦待て」

 

 

 流知を宥め、薫織はピースヘイヴンの様子を見る。

 己の策謀が暴走したにしては、ピースヘイヴンは落ち着き払った様子だった。

 

 

「なに、問題といっても、不完全な『神様』の誕生と共に霊気の奔流でこのあたり一帯が更地になるだけだ。大した問題じゃない」

 

「そんなの大問題に決まって……っ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 黒幕の言葉に、その場が凍り付いた。

 

 

「私を誰だと思っている? 霊気の挙動を知り尽くし、そして霊気操作を極めて独力での霊能発動を可能にした人間だ。端的に言って、その気になって適切な準備を整えれば『神様』になることすらできるレベルだぞ」

 

 

 ピースヘイヴンは少しだけ誇らしげに胸を張って、

 

 

「その私が魂を使い潰すレベルですり減らせば……まぁ、霊気の奔流程度なら十分相殺可能だな。中の『神様』は……この鳴動だ。放っておいても術式の不発に伴って存在の維持すらできずに消えるだろう」

 

「アナタ……この期に及んでまだそんなことを言って……!」

 

 

 つまり──自己犠牲。

 自分が死ぬことによって、その計画を全て無に帰し丸く収める、と。

 この黒幕はそう言っているのだ。

 

 そして黒幕は困ったように笑いながら、こう続けた。

 

 

「ところが、ここで一つ計算外の事象が発生した」

 

「この上、さらに何かあるんですの!?」

 

「ああ。……なんと、私は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そんな、当たり前の欲望を。

 

 

「それこそ『この期に及んで』……と思うかな。だが、諦めていたのに……今更になって見たくなってしまったんだよ。()()()()を。誰もが笑って、同じ方向を見る……そんな最高のハッピーエンドを。

 私もそこで、一緒になって笑っていたいと、そんな分不相応な望みを持ってしまったんだ」

 

 

 それこそが。

 それこそが、おそらくはこの世界に蔓延っていたとある邪悪(ぜつぼう)の敗北であり。

 そして、そうした邪悪(ぜつぼう)に立ち向かっていた者達の勝利だったのかもしれない。

 

 

 だから、二人は静かに語り合う。

 

 

「ねぇ、薫織。お願いがあるのですけど」

 

「お伺いしようか、ご主人様」

 

 

 ここまでくれば、あとはもう単純だとばかりに。

 お嬢様は、メイドに命ずる。

 

 

「あの馬鹿な黒幕を……いいえ。わたくし達を……陳腐な最悪の結末(カタストロフ)から、救いなさい!」

 

「仰せのままに」

 

 

 そしてメイドは、獰猛に笑った。

 

 

「さァ…………」

 

 

 嬉しそうに。

 

 楽しそうに。

 

 そして心から──幸せそうに。

 

 

 

「『ご奉仕』の時間だ!!!!」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「こんなモンに、奇跡や気合は勿体ねェ」

 

 

 今にも暴走しそうな『唯神夜行』を前にして、薫織は鼻で笑うように言い切った。

 

 『時』すらもその手中に収めた黒幕を下したそのメイドは、あくまでも不遜に、

 

 

「勝つなら完膚なきまでに、瀟洒でスマートな勝利を。それがメイドだ。……っつーわけで」

 

 

 その手に、一枚の紙が現れる。一面に何らかの図式が描かれた、正方形の紙だ。

 薫織はそれを流知に手渡す。

 

 

「これは?」

 

「逆転の一手。……そいつを床一面に描いてくれるか? 材質は(オレ)の血だと最高だが、まァ簡単に消えなければ何でもいい」

 

「わ……分かりましたけど……」

 

 

 突然の指示に怪訝そうな表情を浮かべながらも、流知は床面に絵筆を突き立てて霊能を発動し、薫織が渡した紙の通りの紋様を地面に描いていく。

 

 それを見ながら、薫織はゆっくりと語り始めた。

 

 

(オレ)女中の心得(ホーミーアーミー)は、こうやって陣を刻んだ家屋・『裏階段』の中の物品を手元に瞬間移動させる霊能だ。

 瞬間移動させた物品・『女中道具』は基本的にそのままだが、(オレ)が望めば元の『裏階段』に戻すこともできる。(オレ)は単純に解除と呼んでるがな」

 

 

 取り寄せと、解除。

 

 瞬時に多彩な物品を取り出し扱うことができるのが、女中の心得(ホーミーアーミー)の最大の強みと言えるだろう。

 

 

「そして……(オレ)だけは例外的に『裏階段』に転移することができる。各『裏階段』の整備の為の機能だが……ま、応用すれば緊急回避程度には使える。さっきみてェにな」

 

「……なるほど、アレはそういうカラクリか……」

 

 

 ピースヘイヴンは納得するが、しかし流知は首を傾げたままだった。

 

 

「そこは既に知っていますわよ。問題は、その霊能を使ってどうやってこの状況を解決するのかってところではありませんの? 今聞いた限りでは、どうしようもないように思えるのですが……あっ、終わりましたわよ」

 

「あァ。まァ論より証拠だ。まずは見てな」

 

 

 薫織は軽い感じでそう答えて、

 

 

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