唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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79 望まれていない物語を >> WHITE ELEPHANT

 ────同時刻。太平洋。

 

 

 直上に掲げられた太陽によってきらきらと照らされる水面の上に、『何か』が浮かんでいた。

 

 激しい破壊の痕を感じさせる、その破片群。

 その正体は──かつて園縁薫織というメイドによって所有されていたクルーザーの残骸であった。

 

 このクルーザーは、『唯神夜行』と呼ばれる儀式によって発生した大規模な霊気の奔流に晒され、大部分は粉微塵に粉砕され、文字通り海の藻屑となった。

 しかし──その中でも幾つかのパーツは、こうして奇跡的に原型の一部を留めながら太平洋を漂っているのだった。

 

 

 ただし。

 

 この場において重要なのは、クルーザーの残骸などというかつてあった舞台の名残ではなかった。

 

 重要なのは、そこに新たに生まれた変化の方だ。

 

 正確には──クルーザーの残骸たちが散らばる水面の『隙間』。

 

 

 そこに。

 

 

 

 一(・)人(・)の(・)女(・)が(・)、浮(・)か(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)。

 

 

 

 波間を潜る様にして、その女の桃色の長髪は四方へと伸びている。

 波の少ない穏やかな海とはいえ、海岸から数百キロレベルで離れている遠洋の只中において──まるで海水浴でもしているかのような気軽さで海面に仰向けで浮かんでいた。

 

 その女は、とても機嫌がよさそうに、今にも鼻歌を歌わんばかりの調子で波音に耳を傾けていた。

 

 太平洋のど真ん中で、船の残骸と共に漂う女。

 それだけでも異常性十分な光景だったが、しかし女にはさらに異常な特徴があった。

 

 それは、服装。

 

 こんな海のど真ん中、しかもゴールデンウィーク前だというのに──女は、安っぽいスーパーで売られているコ(・)ス(・)プ(・)レ(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)薄(・)っ(・)ぺ(・)ら(・)い(・)ミニスカサンタの衣装を身に纏っていた。

 

 

 女は、本当に楽しそうに微笑みながら言う。

 

 

 

『ん~、失敗、失敗。流石に寝起きに一発で全部吹っ飛ばそうとするのは安直でしたねえ』

 

 

 口(・)を(・)動(・)か(・)さ(・)ず(・)、魂(・)に(・)響(・)く(・)よ(・)う(・)な(・)声(・)で(・)言(・)う(・)。

 

 

『気が付いたらいきなりあの状況だったものだから、びっくりしちゃいましたけどお──』

 

 

 

 ──女には、『こ(・)の(・)世(・)界(・)』で(・)意(・)識(・)を(・)得(・)る(・)前(・)の(・)記(・)憶(・)が(・)存(・)在(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 『天尾羽張』の中で、霊気として渦巻いていた段階。

 まだ『神様』としての存在が確立していない段階から、女はその禍々しい自我を備えて、世界のことを眺めていた。

 

 ──ピースヘイヴンの懸念は正しかった。

 

 本来であれば、生まれつつある『神様』が意思を持って暴走を誘導することなどできないのだ。

 その生まれつつある『神様』に前以て意志が宿ったりしていない限りは。

 だから、ピースヘイヴンの計画は通常であれば完璧──のはずだった。

 

 ただ、ピースヘイヴンは一つの可能性について、考慮することを忘れていた。

 

 つまるところ。

 

 

 己(・)の(・)生(・)み(・)出(・)し(・)た(・)『神(・)様(・)』に(・)転(・)生(・)す(・)る(・)者(・)が(・)現(・)れ(・)て(・)。

 

 そ(・)の(・)転(・)生(・)者(・)が(・)悪(・)意(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)状(・)況(・)を(・)搔(・)き(・)乱(・)す(・)可(・)能(・)性(・)、だ(・)。

 

 

 あり得ないなんてことは、あり得ない。

 

 だって実際に、人(・)間(・)以(・)外(・)の(・)存(・)在(・)が(・)人(・)間(・)に(・)転(・)生(・)す(・)る(・)ケ(・)ー(・)ス(・)は(・)存(・)在(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)だ(・)。

 ならば、逆説。

 人間が人間以外の存在に転生するケースだって、当然ながら存在しうるといえるだろう。

 そしてその『人間以外の存在』が──たまたま『神様』であることだって、十分に起こりえる。

 

 何せ、どういった経緯であったにせよ──転生者が『神様』になるという事態は、既に『あり得ている事態』なのだから。

 

 

『ん~、さっきのオモシロメイドさんにスカイブルーの可愛い子、それと金髪お嬢様──。どなたも見覚えはなかったですがあ、その他の構成要素を見る限り──』

 

 

 波に揺られながら、『神様』となった転生者(そいつ)は思案気に視線を巡らせる。

 雲が流れゆくだけの代わり映えしない青空を眺めながら──彼女はこれまでに見聞きしていた情報を整理していた。

 

 つまりそれは、彼女に整理するだけの情報があり、そしてその情報を整理できる知性が備わっていることを意味していた。

 

 

『──此処って、もしかしなくてもお────』

 

 

 そうして彼女は、目の前の情報から一つの決断を下す。

 これまでこの世界で数多繰り広げられてきたように、転生者(かれら)の多くと同じく。

 

 

『「しきれぼ」の世界──ですよねえ』

 

 

 ──転生者の出自は、千差万別。

 

 男性、女性、種族すら関係なく、遍く魂がこの世界へと誘われる。

 ただ、そこにはただ一つの共通点だけが存在していた。

 

 その共通点とは──

 ──『シキガミクス・レヴォリューション』という物語(せかい)に、踏み入ったことがある者。

 

 逆に言えば、そ(・)の(・)共(・)通(・)点(・)さ(・)え(・)満(・)た(・)し(・)て(・)い(・)れ(・)ば(・)、他(・)は(・)ど(・)れ(・)だ(・)け(・)乖(・)離(・)し(・)て(・)い(・)て(・)も(・)誰(・)だ(・)っ(・)て(・)こ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)生(・)ま(・)れ(・)落(・)ち(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)可(・)能(・)と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)る(・)。

 

 そいつが、どれだけ邪悪な心根を備えていたとしても。

 

 

『──いやあ、奇縁、奇縁☆』

 

 

 その女は、混沌を愛していた。

 

 『その物語』についても、物語そのものを愛していたというより、『その物語』が世界に与えた影響(こんとん)の方をこそ愛していたといった方がいいかもしれない。

 それでも、彼女の愛する混沌を齎すその物語の力に敬意を抱いてはいた。

 ──だからこそ、『その物語』そのものについては前提知識程度しか持たない彼女もこの世界に誘われてしまったのかもしれないが。

 

 

『道半ば──そう思っていたところでしたが、どうやらこれは、これは、これはあ。──面白いことに、なってきましたねえ!』

 

 

 ざばん! と。

 

 楽しそうに言ってから、その女は海(・)面(・)で(・)起(・)き(・)上(・)が(・)る(・)。

 

 液体のはずの海面のその上で、まるでベッドから起き上がるような気軽さで、上体を起こす。

 

 

『さて。こうして無事に降誕することもできた訳ですしい────そろそろ始めるとしますかあ』

 

 

 その女は。

 『神様』と、そう呼ばれる特性を帯びた怪異は、禍々しい悪意を湛えた笑みを浮かべ──そうしてこの世に産声を上げた。

 

 

 

『いざ。望まれてもいない物語(プレゼント)を────世界へ☆☆☆』

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