唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
呆然とする薫織たちだったが、ピースヘイヴンは気楽なもので、まるでティータイムのような落ち着きっぷりでさらに続けていく。
「それに、私の
……そうなってくると、本体たる生身の私がこうやって安全な場所に引きこもっていた方が総合的には都合が良いんだよ」
「あー…………」
そもそも、今回の事件の前段にあった『生徒会』のクーデターにしても根底には『ピースヘイヴンは殺そうと思えば殺せる』という判断があった部分はあるだろう。
そうした危険を排除することが、この無駄に恨まれている落第ラスボスの治世を安定させる効果があると言われれば──それは否定できない。
もっとも、罪を償う為の収監に思いっきり実利的な狙いを含めているこの原作者の図太さには薫織も閉口してしまうが。
「それで? 君たちの要件はなんだね。昨日の今日で私の様子を見に面会までしてくれたのなら、大変光栄だがね」
「んなわけねェだろ。自分を知れ、自分を」
楽しそうに笑うピースヘイヴンに、薫織は吐き捨てるように言い返す。
そして彼女は視線をピースヘイヴンの座る机の左奥へと移す。
そこには──純白の学生服を纏うピースヘイヴンとは違い、黒のスーツを身に纏う灰色の髪の女性がいた。
「
女の名は、嵐殿柚香。
ピースヘイヴンとは前世から続く戦友であり──そして今世においては、ピースヘイヴンの陰謀を防ぐ為に薫織達を導いた人物でもあった。
あった、のだが……。
「テメェ、
本日付で、とある辞令が下った。
その辞令とは、『ウラノツカサ』に一人の校医が着任したというものである。
そしてその校医というのが、彼女。嵐殿柚香──というわけだ。
水を向けられた嵐殿は軽い感じで頷いて、
「まぁ、私が学生をやってたのって、このコの暴走を止める為だからねぇ。実際に止めることに成功した以上、ズルして学生である理由もないしねん。
知ってた? お姉さんってば肉体的にはともかく戸籍上はもう三八歳なのよん。この二〇年の間に医師免許も取ってるから、ちょうどいいし校医として公式に学園に在籍しちゃおっかな~って。
ほら、回復役として私優秀だし~?」
「医師免許なんて持ってたんですの……」
「そりゃもちろん。何せ霊能的にも人体への理解は深めないといけませんから」
言いながら、嵐殿は何やら室内の片づけを再開する。
──というわけで、嵐殿は学生身分を返上し、学生牢付きの校医として正式に『ウラノツカサ』に雇用されたのだった。
学生牢に収監されるような生徒はもれなく陰陽師として優れた能力を持っている上に往々にして血の気が多いので、確かに嵐殿のような反則級の回復霊能の持ち主が所属するのは組織的にもプラスと言えるだろう。
………………彼女のピースヘイヴンを世話する横顔の幸せさを見たら、そんな真っ当な理屈を超える私情の存在を疑わずにはいられないが。
「ケッ、ワンコ野郎が……。元鞘に収まった瞬間、嬉しそうに尻尾振りやがって」
薫織は憎まれ口を叩くが──本題というのはまさにそこにあった。
話を引き継ぐように、流知はガラス板に備え付けられた机をバン!! と叩きながら言う。
「それよりも!! 重要なのはこのままだとライ研の存続が危ういってことですのよ!!」
──『ウラノツカサ』では、生徒の自主性を重んじる校風から自由に部活動の設立を申請することができる。
一応形式上は『生徒会』に申請する形だが、『生徒会』がその申請を弾くことは一切なく、兼部も許されているなど非常に緩い。
ただし──一つだけ部活動の成立には条件があり、三人の定員が課せられているのである。
当然、定員が割れれば部活動は廃止となる。
これまでは嵐殿が裏から色々と手を回して学生としての身分を確保していた為ギリギリ定員を守れていたが、嵐殿が校医として正式に雇用されたということはそうした裏技が使えなくなることを意味する。
するとどうなるか。
薫織と流知しかいなくなったライ研は定員割れとなり、一週間の猶予期間ののちに廃部が決定してしまうのである。
気炎を上げる流知に対し、ピースヘイヴンは首を傾げながら、
「私の陰謀は阻止できたわけだし、それが目的で集まっていたライ研は解散しても別にいいんじゃないか?」
「馬鹿ぁ!! そっちの目的は確かに達成できましたけど!! そもそも私はライ研の活動に本気でしたのよ!!
アナタだってわたくしが生徒会活動に協力してたりしていたのはご存知でしょう!? ライ研がなくなるなんてやだぁ!!」
──とのことであった。
確かに、流知は入学してから一ヵ月のうちに『生徒会』に文化祭準備の仕事を任されるほど精力的に『ライトノベルイラストレーション研究部』として活動していた。
世界を守る為とかそういうことではなく。
何のことはない。
目的の為に集まった関係性ではあったが、流知にとっては既にその集まりが掛け替えのない財産になっていた、ということ。
「…………う……」
「あー……、これはちょっと、ねぇ……?」
──これにはそういう事情を想定していなかった嵐殿も、自分が引き金を引いてしまったがゆえに非常に気まずい表情を浮かべる。