唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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91 旅立ちは唐突に >> SHOTGUN TOUR ②

 ──『ライトノベルイラストレーション研究部』部室。

 

 

 朝早くに到着した薫織と流知は、とりあえず二人で部室にて待機することになっていた。

 

 カチャリ、と音を立てて置かれた紅茶を一瞥して、流知は真実世間話をする調子で薫織に問いかける。

 

 

「……そういえば、当たり前の様に冷的さんと伽退さんを作戦実行要員に勘定しておりましたけれど、確かあの二人のシキガミクスは破壊されておりましたわよね?」

 

「あァ。それも、両方とも(オレ)が破壊したな」

 

「…………シキガミクスがなかったら、流石に危なすぎではありませんこと?」

 

 

 ピースヘイヴンほどの例外(インチキ)であれば別だが、基本的に陰陽師というのは己が構築した専用シキガミクスを壊されれば脆い。

 身体能力は基本的に一般人と同等なので、専用シキガミクスを奪われた陰陽師の多くは戦えなくなってしまうのだ。

 

 

「あん? 何言ってんだ。もう作り直してるに決まってんだろ」

 

「えぇ!? 早くありませんこと!? 一体どこから木材を調達して!? 冷的さんはともかく、伽退さんに至っては昨日の今日ですわよ!」

 

「どこからも何も……、え、もしかしてお嬢様、知らねェのか? ……そうか。これは(オレ)教育(せい)で生まれた歪みだな…………」

 

 

 天を仰ぎながら、どこか憂いたような声色の薫織に、ただただ首を傾げるばかりの流知。

 

 仕方なしとばかりに視線を下げて、薫織は部室に備え付けられたホワイトボードの前に立った。

 

 

「結論を真っ先に話しても良いが……余計に混乱しそうだしな。まず、()()()()()()()()()()()()()()()()()から説明するか」

 

「いや薫織、流石にわたくしだってそれくらい分かりますわよ。これでもウラノツカサの入学試験を突破してるんですのよ?」

 

「そりゃ基礎の基礎だ。初等部や中等部はともかく、高等部の入学試験は実技偏重なんだよ。

 即戦力を求めているから、応用の練度が高けりゃそれで合格にしちまう。だから(オレ)は入学前に専用シキガミクスを作れって話をしたろ?」

 

 

 流知にシキガミクスの技術を教えたのは、薫織である。

 

 中学二年生の頃──今から二年ほど前にひょんなことから流知と知り合った薫織は、ウラノツカサ合格を夢見る彼女に『あんなトコ、専用シキガミクスの一つでも作れる腕がありゃあ一発だ』などと宣った。

 そして色んな前提をスッ飛ばして『己の霊能を把握する方法』と『己の霊能をシキガミクスに組み込む方法』と『シキガミクスを通して己の霊能を調整する方法』をレクチャーしたのだ。

 

 ──その後色々あって中学三年生の冬休み明けあたりから彼女の家に居候したりもしたのだが、それはまた別の話である。

 

 

「で、だ。だからお嬢様は基礎が疎かになっている。それを前提として、根本のトコから話させてもらうぞ」

 

「なんだか釈然としませんけれど……まぁいいですわ」

 

 

 キュポッ、とマジックを取り出し、薫織はホワイトボードに文字を書いていく。

 

 

「そもそもお嬢様は、シキガミクスがどうやって動いているか説明できるか?」

 

「え、それは霊気で…………」

 

 

 説明しようとして、流知は固まる。

 

 シキガミクスが術者の霊気を動力源として稼働していることは知っている。

 ただ、術者の霊気をどういう風に使って動いているかは分からなかった。

 

 そんなことでよく専用シキガミクスの構築なんてできたなと思うかもしれないが、これが意外とできてしまうのである。

 感覚的には、コンピュータの電子基板についての知識が乏しくてもプログラミングはできてしまうのが近いか。

 

 

「半分は正解だ。正確には、内部血路によって霊気を運動エネルギーに変換することで稼働しているって表現の方が正しいがな」

 

 

 言いながら、薫織はホワイトボードに『運動』と文字を書く。

 

 

「他にも、陰陽コンロは『放熱』、冷蔵庫は『放冷』、モニタは『発光』によって成り立っている」

 

 

 新たにホワイトボードに『放熱』、『放冷』、『発光』という文字が書かれる。

 ちょうど一角が欠けた五角形のような配置になったホワイトボードの一角にペンを置いて、

 

 

「ここまでが、基本の四機能だ」

 

()()()()()?」

 

「あァ。次がお嬢様の疑問に答える五つ目の機能……『発育』だ。この五つの機能を、陰陽術用語で『汎用五行』と呼ぶ」

 

 

 ホワイトボードに『発育』という文字が書かれて、五角形が完成する。

 

 薫織はホワイトボードをペンで叩きながら、

 

 

「これ自体は、実は陰陽術を修得した日本国民全員が遍く影響を受けている。

 陰陽術の影響で、健康寿命はグンと伸びたろ? アレは人体の神経系や血管が僅かに『発育』の内部血路の効果を成している為だ」

 

「なるほど……」

 

 

 ──シキガミクスを支える汎用五行、『運動』『放熱』『放冷』『発光』『発育』。

 これらは、術者の霊能を行使する専用シキガミクスの内部血路と違い、誰でも使用することができる汎用的な内部血路である。

 

 その前提を流知が理解したのを見て、薫織はようやく本題を話す。

 

 

「んで。陰陽師は、自前のシキガミクスの材料を確保する為に、『発育』によって稼働する『材木生成シキガミクス』ってのを持っているモンだ」

 

 

 言葉と同時に、薫織の手に手のひらサイズの切り株が発現される。

 

 女中の心得(ホーミーアーミー)によって、保管していたものを取り出したのだろう。

 初めて見るアイテムに興味深そうな視線を向ける流知に向かって、

 

 

「コイツは、術者の意志によって自在に成長してくれる代物だ。

 たとえば木の板が欲しけりゃあ木の板が伸びて来るし、葉が欲しければ葉が生い茂る。モニタに琥珀が欲しければ樹液が流れ出てくる……って塩梅でな」

 

 

 『伽退の押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)のモニターなんかは、樹液を固めて作っているだろうな』と言いながら、薫織はペンを置く。

 

 

「コイツを使うと、設計図さえあれば全壊していたとしても半日で修復はできる。

 ヤツらも馬鹿じゃねェ。今までの時間があれば、専用シキガミクスくらいは余裕で修復してくるだろうよ」

 

「良かったですわ……。専用シキガミクスもないのに丸腰で修羅場とか、わたくしなら絶対に御免ですもの」

 

 

 流知はほっと胸を撫で下ろして、それからあることに気付いた。

 

 

「……ん? 汎用五行を誰でもシキガミクスに組み込めるのであれば、皆どうして専用シキガミクスにそういう能力を組み込まないんですの?

 『発光』でレーザービームとか、お手軽な上に強力だと思うのですが」

 

「あー……そりゃそう思うわな」

 

 

 実際、流知の指摘は真っ当だった。

 シキガミクスの分野では、術者自身の霊能と『運動』以外の汎用五行の両立は今も研究されている盛んなテーマだ。

 

 ただし。

 

 

「第一の問題は、出力だ。長らく研究されてきた『運動』以外の汎用五行は、出力に乏しいんだよ。

 やろうと思えばそれなりのモノにはできるだろうが……レーザーは専用の霊能でもなけりゃあ無理だろうな」

 

「無理なんですの……。残念ですわ」

 

 

 『発光』で分かりやすい武器を作ることが無理なのであれば、『放熱』『放冷』『発育』の出力もたかが知れているだろう。

 

 『放熱』は触れれば火傷を負う程度といった感じで、殺傷力も乏しくシキガミクス同士の戦闘ではほぼ使えない水準なのだとしたら、あまり使われないのも納得がいく。

 

 

「第二の問題は……燃費だ。汎用五行を一機の中に組み込めば、その分シキガミクスの消費霊気も増大する。

 ただでさえ霊能の為の回路を積んでるんだ。よほどシナジーがなけりゃあ、損の方がデカイだろう」

 

「意外と難しいんですのね……」

 

「もちろん例外もあるがな。さっきも例に挙げたが……伽退のシキガミクス、ありゃあ『発光』を組み込みながら、燃費もよく考えられたシキガミクスだ。アイツの執念の賜物だな」

 

「………………」

 

 

 その執念とは即ち世界への憎しみだったことを知る流知としては、素直に感心できない部分でもあった。

 

 とはいえ、今はそんな彼女も背中を預けて戦うことができる間柄だ。そう思うと、その技術力は頼もしくすらある。

 

 

「伽退の例を見ても分かるように、実力者の中には汎用五行を霊能と掛け合わせたシキガミクスを開発するヤツもいる。

 嵐殿の『継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)』は『移植』におそらく『発育』を使っているだろう。

 さっき使った『内弁慶どもの社交界(ゲームチェンジャー:タイプ2)』は分かりやすく『発光』だな」

 

 

 もっとも、汎用五行を上手く組み込んでいれば優れているというほど、シキガミクスの世界は単純な訳でもない。

 

 逆に、ピースヘイヴンの『崩れ去る定説(リヴィジョン)』は霊能の余計な改変を削ぎ落して運動性能を限りなく向上させている。

 結果として自分の霊能やスタイルに合う技術を選び取るセンスが一番重要なのだ。

 

 

「……意外と、お嬢様の周りには凄腕がいるんだ。何か行き詰ったら、(オレ)だけじゃなく連中に助けを求めるのもアリかもな」

 

 

 薫織がどこか達観した様子でそう話題を総括したあたりで。

 

 

 バダム!! と、勢いよく部室の扉が開けられた。

 

 大きな音に薫織は眉を顰め、

 

 

「おい、扉は静かに……、」

 

「たったっ、大変なんだぞ!!!!」

 

 

 ──そしてその言葉は、血相を変えた冷的によって遮られた。

 

 

 冷的は手でチラシを広げながら、薫織と流知の前まで転がり込むように走ってくる。

 

 そこには、こんな内容が書かれていた。

 

 

 『生徒会執行部主催! 突発・無人島遊覧船キャンペーン!』。

 

 

 ──発起人の欄には、『トレイシー=ピースヘイヴン』の文字。

 

 そして、このタイミングで『無人島』に関するイベント、ということは。

 

 

「あっ、あのおばか……イベントって体で、自分の目的にまた生徒を巻き込むつもりだぞ!!」

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