トレーナーウマ娘がミスターシービーを無敵にした話   作:幸い辛い

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あと3~4話で本編完結の予定。


たいやき、はちみー

 会見場を埋め尽くす記者たちを相手に、トウカイテイオーが不敵な笑みを浮かべている。

 

「皐月賞を制したご感想はいかがでしょうか、トウカイテイオーさん」

「とっても嬉しいよ! 夢にまた一歩近づいたからね!」

「夢と言いますと、やはり無敗の三冠を達成するという、あの?」

「うん! このままダービーも菊花賞も勝って……その先も勝ち続けて無敵の帝王になる、それがボクの夢!」

 

 強気なテイオーの発言に記者が満足そうに頷く。

 その後もインタビューが続き記者が何回か入れ替わった後、とある質問が飛んだ。

 

「失礼ながら、トウカイテイオーさんの走りがミスターシービーさんに似ている、と話題になっていますが、お二人のご関係は?」

「それは……えーっと」

 

 テイオーが迷った様子で視線を記者たちの後ろに向けた。自然とその場にいた者たちの視線も同じ方向を向く。

 その先にいたのは、完全にオフの恰好をしている一人のウマ娘だった。目立たないようにフードを深く被っていたが、ここまで注目されては存在を隠しきるのは難しい。

 あちゃーと手で顔を覆ったウマ娘に対して、どよめきが起こった。

 

「……か、カツラギエースだ」

「マジかよ……カツラギエースっていったらあのジャパンカップの……」

 

 あのミスターシービーと秋の天皇賞で競り合い、ジャパンカップではダービー時のミスターシービーを彷彿とさせる大逃げを見せたウマ娘、カツラギエース。

 テイオーだけなら似ているというだけで話は済んだかもしれないが、彼女まで出てきてしまってはそこにシービーとの繋がりがあることは明白だった。

 エースは少し悩んだ様子だったが、記者たちをかき分けてテイオーと同じ壇上に立った。

 

「あー、その……結論から言うと、あたしたちはシービーと同じチームに所属してます」

 

 記者たちがざわめいた。納得と困惑の声があちこちで上がる。

 エースが続ける。

 

「ただ詳細については非公開です。あたしたちも学園からも、発表はしません」

「それはなぜですか!?」

 

 さきほどシービーとの関係について尋ねた記者が、興奮した様子でマイクをエースに近づけた。

 

「トレーナーの一身上の都合です」

「その一身上の都合とは……」

「それも答えられません」

 

 エースの頑なな態度に諦めたのか、記者が質問を変えた。

 

「トレーナーが非公開というのはわかりました。ですがせめてチーム名だけでもお聞かせいただけませんか?」

「え゛っ……」

 

 テイオーが変な鳴き声を上げた。

 

「ね、ねえエース、どうしたらいいかな……?」

「つってもなぁ……アレで申請しちまったらしいし、もう仕方なくないか? 諦めて楽になっちまおうぜ」

「仕方ないって……」

「テイオーは積極的にメディアに露出させるって決めたんだし、チーム名程度、この場で濁したところで意味ないだろ」

「そりゃそうなんだけど……」

 

 不本意そうに、そして諦めた様子でテイオーがその名を口にした。

 

「ボクたちのチーム名は――」

 

 

 

「それじゃテイオー、フォームを作り直そうか」

 

 いつものコースの小屋にて、レディダスクがホワイトボードの前に立った。

 

「今のテイオーの走り方には欠陥があるからね」

「……ボクの走り方ってそんなにダメ?」

「うん、ダメ。このまま走ってたら怪我するよ」

 

 言いきられた。確信があるらしい。

 

「テイオーの走りは天性のものだよ。素晴らしいと思う。でもその走りは脚への負荷が大きすぎる。3週間の併走で少しは矯正したけど、それじゃ全然足りない」

「でも……なんともないよ?」

「今は大丈夫かもしれないけど、これからパワーが上がって脚にかかる負荷が高くなれば、どこかで怪我する可能性が高い」

「見ただけでわかるの?」

 

 テイオーが聞くとダスクは少しだけ悲しそうな顔をした。

 

「わかるよ。だって実体験だから」

「え……?」

「あなた並みとは言えないけど、私も体が柔らかいんだ。学園の前屈の記録、あなたが塗り替える前は私が記録を持ってたくらいにはね。だから昔はあなたと同じような走り方をしてた」

「……それで、怪我したの?」

「うん。思えばあれのせいで競技人生がさらに短くなっちゃったのかも」

 

 あまりに早く短い本格化。そんなダスクの身の上話は少しだけ聞いていた。

 

「これまでの走りを捨てるわけだから、不調が続くと思う」

「……遅くなるってこと?」

「うん、遅くなる。でも競技人生のことを思うと必ずどこかで矯正しなきゃいけない」

 

 テイオーは自分の脚を撫でた。信じたくない話だが、真剣なダスクの語りには妙な説得力があった。

 ダスクがテイオーを安心させるように微笑んだ。

 

「大丈夫、最終的には今より速くなる。才能を活かしたまま怪我をしない走り方を、あなたに教えてみせる」

 

 でも、とダスクが続ける。

 

「私がその走りを教えるのにはタイムリミットがある」

「タイムリミット?」

「私のトレーニングは併走が主になるけど、その前提条件として私があなたの走力を上回っている必要がある。私の後ろを全力で走ってもらわなきゃいけないからね」

「……ボクがダスクより速くなったら終わりってこと?」

「その通り。速くなった後も細かいフォームチェックくらいはしてあげられるけど、根本的な所はそれまでに終わらせなきゃいけない。だからあなたが本格化して、私よりも速くなるまでがタイムリミット」

 

 テイオーはごくりと唾を飲み込んだ。

 自分の体が少しずつ本格化を迎えている自覚はある。そしてそこに加えてダスクから指導を受ければ、おそらく走りは加速度的に速くなっていくだろう。

 思っているよりも残された時間は少ないのかもしれない。

 

「これは私たちの共通認識だけど、エースが秋の天皇賞でシービーに及ばなかったのはそれが原因だよ。あの時点でエースは私よりも速かったから、完全に走りを継承させてあげられなかった」

「あれで完全じゃない?」

「そうだよ、完全じゃない。完全だったならカツラギエースはミスターシービーに手が届くウマ娘だった」

 

 テイオーは目を見開いた。シンボリルドルフを圧倒したカツラギエースが完全ではなかったなんて、とんでもない話だ。

 

「エースが完璧だったら、どうなってたの?」

「天を翔けるように全てを置き去りにしてた……んじゃないかな」

 

 そう言ったダスクの表情からは深い悔恨が滲み出ていた。

 

 

 

 その日の練習後。

 シービーがタオルで汗を拭いながらコース脇の小屋に戻ると、ダスクとテイオーが向かい合って何かを話していた。

 シービーが戻ってきたことに気がついたダスクが振り向く。

 

「あ、シービー、今ってなにしたい気分?」

「んー?」

 

 特に思いつかなかったが、強いて言えば練習を終えた後でお腹が減っているから、なにか軽くつまみたい。

 

「そうだなぁ……タイ焼きが食べたい気分?」

「じゃあチームタイヤキでいこっか」

「ちょっと待って」

 

 テイオーが慌てた様子で制止した。

 

「流石にタイヤキはないよ……もっとちゃんとした名前にしよう?」

「そう? いいじゃない、タイヤキ。甘くて美味しそうで」

 

 ダスクは暢気に目じりを下げている。あれはタイ焼きに思考が支配されている顔だ。

 シービーは自分が変わった思考回路をしているという自覚があるが、ダスクはそれと同じくらい天然だ。そのせいでエースはだいぶ苦労をしているらしいが、それはさておいて。

 

「ねえシービー、練習終わったら商店街に行って買い食いしない?」

「いいね。ダスクはカスタードでしょ? アタシは餡子にするから半分こしようよ」

「いいよ、そうしようか。テイオーも行く?」

「あ、うん、行く……じゃなくて! 違うよダスク! チーム名の話だよ!」

「ああ、そんな話だっけ」

 

 なんとなく話の流れは理解した。どうやらダスクはチームを結成するつもりらしい。

 しかしダスクにチーム名を決めさせようとするのは人選ミスだ。彼女は致命的にネーミングセンスがない。

 ダスクは腕を組むと、そのまま片腕を上げ、顎に人差し指を当てて考え始めた。

 

「うーん……テイオーの好きなものだと……あ、そうだ、はちみーとかどう?」

「は、はちみー?」

「だめ? タイヤキより今風で可愛いと思うんだけど」

「まず飲食物から離れよ?」

 

 その後もしばらく食べ物の名前が続き、ダスクのネーミングセンスにテイオーが頭を抱えていると、走り込みが終わったらしいエースが小屋の中に戻ってきた。

 テイオーが助け舟を求めた。

 

「あ、エース、聞いてよ! ダスクがタイヤキにするって言うんだよ!」

「今日の買い食いの話か?」

「違うよ! いや買い食いは違わないんだけど……そうじゃなくてチーム名!」

「チーム名……? ああ、そういや結成してなかったっけ」

 

 エースは今思い出したようで、ポン手を打った。

 

「あたしを担当してもらう時に結成しよう、みたいな話もあったんだけどさ、面倒だからって先延ばしになっちまったんだよな」

「そうだっけ?」

 

 心当たりがなさそうなダスクを見たエースがため息を吐いた。

 

「おいおい、面倒って言ったのはダスクだろ」

「……そうだったかな……?」

 

 本気で記憶にないらしい。

 

「にしてもタイヤキかぁ……いいんじゃね? うまそうだし」

「エースまで!?」

「でもなんか弱そうだな」

 

 エースはペンを手に取ると、ホワイトボードに文字を書き始めた。

 

 蛇威夜鬼(たいやき)

 

「これでどうよ。強そうになっただろ?」

「えぇ……」

 

 テイオーが心底困惑した声を上げる。

 そういえばエースは勝負服の背に“葛城栄主”と自分の名前を入れちゃう系のウマ娘だったなと思い出した。センスに関してはエースもあまりダスクのことは言えないのではないか。

 テイオーの様子を見たエースがカラカラと笑った。

 

「流石に冗談だよ」

「びっくりした……エースがまともで安心したよ。一時はどうなることかと」

 

 ホントに冗談なのかとシービーはいぶかしむ。

 そんなエースはテイオーの苦労を察したようで、同情するような目を向けた。

 

「あー、その……ご愁傷様。コイツらってその場のノリで生きてるところがあるからさ……テイオーも慣れねえと疲れるぞ」

「エースは慣れたの?」

「そりゃ何年も付き合ってりゃな」

 

 失礼なことを言うやつだなとは思うが、迷惑をかけているのは事実なので黙っておく。

 エースは遠い目をすると、そうだ、とテイオーの肩に手を置いて深刻そうな声音で言った。

 

「ちなみにだけどテイオー。コイツらとの付き合いの先輩として言わせてもらうんだけどな」

「うん、なに?」

「迷ってちゃ手遅れになるぜ」

「どういうこと?」

「まあ……明日になりゃわかるさ」

 

 結局、良い案が出ることはなかった。

 その日はなんとなくの気分でタイ焼きをキャンセルして、全員でエース行きつけのラーメン屋に行ってから解散した。

 

 

 

 そして翌日のこと。

 練習が始まる前に、テイオーはホワイトボードにいくつかの星の名前を書きだした。

 

「というわけで、いくつかチーム名の候補を考えてきたんだ」

 

 名前やその由来について調べ、コレだと思うものをピックアップしてきたらしい。

 それを見たダスクはきょとんと目を丸くした。シービーはそれだけで全部察した。憐れなり、テイオー。

 

「チームの結成届なら、もう提出したよ」

「えっ」

「名前は思いついたの適当につけちゃった」

「えー!?」

 

 声を上げるテイオーの反応が面白くて、シービーは笑わずにはいられなかった。エースの言っていた手遅れになる、という言葉の意味がこれだ。ダスクはこういうウマ娘なのだ。

 おそらく昨日のやり取りを今朝起きた時に思い出して、朝一で学園に提出したのだろう。なんとなくこうなる気がしていた。

 同じく察していたのか、事の顛末に苦笑しているエースがダスクに尋ねた。

 

「それで? なんて名前にしたんだよ」

「えっとね――」

 

 

 

「ボクたちのチーム名は……えーっと……その……蛇威夜鬼蜂美(たいやきはちみー)

 

 ミスターシービーとカツラギエースというビッグネームが並ぶ怪物チーム、蛇威夜鬼蜂美が世に出た瞬間であった。名前も怪物級だ。

 余談だが、はちみーの屋台がタイアップして同名の新製品を作った結果、ゲテモノメニューとしてそこそこの売り上げになったらしい。




レースで走る以外の才能は、いろんな意味で有り余っているレディダスクさん。

感想ありがとうございます。誤字報告も助かってます。
キャラを完全に掘り下げる前に書き終わりそうなのが問題。
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