「おれ達も行く」
ローがこの台詞を言うきっかけを作ってしまった理由が己なので冷や汗全開だ。
どうも、転生者でお馴染みの私だぁ。
ってもこの話を──メタいから止める。
そもそも、この世界は初め、所謂原作沿いというジャンルだった筈。
とは言っても読み込んでいた漫画でもないので普通に知らないエピソードとかあるわけで、そんなのだからうちの船は浮遊するのだという間違った知識で生きていた。
後々知るがトラファルガー・ローの船は飛ぶのではなく沈む方である。
海賊人生を楽しんでいると新聞に不可解で可笑しな記事を見つけた。
『世界政府、異次元の空間にて違う世界を発見する』
なんて与太ばなしなんだと眉間にシワを寄せた。
「せんちょー、なんか新聞の記事がオカルトみたいですよ」
ローの日課の新聞を読む作業は終えているのに、これに関して一切何も反応が無かった。
ま、単に読み飛ばしたとも取れる。
「オカルト?」
怪訝に眉間を寄せたローの顔に新聞の記事を向ける。
「別に何も可笑しいところはねェぞ」
「え?ええ?」
ローにお遊びの記事のなんたるかを伝えるのは難しいなと苦笑した。
「異次元かー。どんなところなんだろ」
思い出すのは異なる世界、現代ニホン。
懐かしさに想いを馳せる。
「興味あんのか」
「まぁ、誰にだってあるとは思いますけどお」
足をぷらぷらさせて新聞を読み込む。
今日はエイプリルフールだったかな?
「考えとく」
「あははは」
ローが冗談を言ったよと軽く受け流しでおく。
が、受け流すのがどれ程大変なのか重い知るだろう自分よ。
彼は暫く隣に居たが電話を受けて離れていく。
引き続き記事を読んだ四日後、ハートの海賊団は七武海として政府に異世界への同行を求められる。
敬語も慣れたなと己を褒め称える。
気を抜くとタメになるから誰も細かくは気にしないが、それでもメリハリを貸した。
そこはやっぱり船員とで分けなければ。
現代っ子に海賊はキツい。
戦闘員ではなく雑用になったのは運が良かった。
また小さいときに歩いていると巨大な穴にはまって「ぷぎゃあ!」とみびめな姿を晒し放置されること半日。
涙でぐしゃぐしゃなリーシャをシャチやペンギン達がえっこらえっこらと引き上げてくれた。
獲物を引いたと思えば人間だったと知ったかれらの残念そうな顔。
そんなに食いたきゃふとももやるよお!と追いかけ回したのは良い思い出だ。
四日後、運命の日。
世界政府から要請されたのだと説明する中、船員達は興奮にまだ見ぬ世界の想像を出しあう。
「どんな世界か分かっているんですか?」
誰かが質問した。
まだ発表されていないが聞いた名前は。
「日本だと」
「え!?」
その驚きは他の船員達の興奮したざわめきにかきけされた。
んなばかな。
他に世界、異世界なんて星の数ほどあるだろう。
なのに、なぜそこなのだ!
わけがわからん。
わからなすぎてくらくらしてきた。
「どーした」
隣に居たシャチが聞いてくる。
「なんでもない。それよりも異世界なんて本当にあったんだね」
「当たり前すぎ。今更何言ってんだよ」
だから、その認識はなんなのだ。
当たり前すぎってなに?
その後、ローは決定事項として用意しておくようにと言い伝えてさっさと解散する。
ローの後を追って船長の部屋へ赴く。
まだ色々飲み込めてないが知りたい事が有りすぎて今すぐ知りたい。
ふらっとなる思考に足を踏ん張らせてノック。
返事はないのでいつものように入る。
「話がある、あります」
慌てて言い直す。
「別にいつもの話し方で良いと言ってるだろ」
ベッドにまだ腰かけてもいない姿があった。
直ぐに追い付いたのでリラックスモードになる前なのかもしれない。
「んーん。今は聞きたいことあって」
いつもの空気になりそうになったので頭を切り替えてなんとか切り出す。
ニホンについては詳しく言えないが、阻止したい。
「なんとかならないかな?行かなくても損はないと思う」
それに対して彼はやれやれと言いそうな顔でこちらをみやる。
「新しい世界を見れるんだ。海賊がその機会をなくすなんて真似するかよ」
くっそー。
確実に日本に言ったら絶対に混乱を招く。
ファンタジーなどあそこにはないのだ。
「私は行きたくないかな。私だけここに残っても良い?」
「残ってどこに行く」
ゆらりとこちらに向けて近づいてきた。
その瞳は怒りを含んでいる気がする。
残りたいのは切実な思いだ。
同郷の人間を侵略するなぞお断りである。
「おれから離れるってか」
じゅわっと溢れる色気に陥没しかけるが、今回はそうは簡単に折れぬぞ。
「じゃあ、行くのやめよ?私は絶対に行かないから──ぎゃ」
言いきる前に耳を指で摘ままれた。
悪ガキ風ではなく夜の帝王風である。
色気のあるしぐさなのにこちらはそんなもの皆無。
「いつもそうやって有耶無耶にするっ」
負けじと吠える。
小型犬のようにしか見えぬだろうが。
「やめて」
久々に怒った。
リーシャは別に今になってローが嫌いになったとかではない。
意地悪過ぎてやめてほしいなーと思うことは多々あるが。
「あ?」
「ひいいい!」
眼光がきらりと光る。
流石海賊なだけあって鋭い。
ナイフを研いだくらい鋭いぞ。
「てめェ、いつおれより偉くなった」
少なくとも海賊団を結成した時から居るから同じだと思うんですが。
「今!今偉くなった」
「へェ」
全然聞いてませんね、分かってた。
ふふふ、しかし、そんなのはわかりきっていたのだ。
大事だから二度言う。
それとても大事。
リーシャは彼が絶対に連れていくだろうと分かっていたからこそ、この時に暖めておいた辞表を懐に納めてある。
だが、そこに船員達が居たら全力で止めていた。
リーシャは今だ、いまいちローに気に入られているのを感じ取っていないのだ。
なので辞表を提出すればどうなるのか、リーシャ以外は予想出来ることである。
「せんちょ、今日をもって止めさせていただきます」
──スッ
辞表をサラリーマンの名刺交換並みに手際よく渡せた。
私今輝いてる。
私スゴいカッコいいんじゃないだろうか。
なんならキラッという効果音すら鳴っている。
因みにせんちょ、は誤字ではないぞ。
「ルーム」
辞表が刀に貫かれ、そのままスカスカの服の布部分も縫い付けられた。
能力はどこからお使いになるのでしょう。
ハートの船員歴は長いのに貢献を考慮してくれないとは嘆かわしい。
「お前、毎日辞表を突きつける練習しといて暖めたもくそもねェんだよ」
見られていたとな。
「許してほんと。私は行きたくなーい!」
じたばたした。
刀が更に布を縫い付けた。
辞表頑張って書いたのにがっくり。
その日、今までファンタジー要素など欠片もなかった筈のニホンに巨大な軍艦とたくさんの船が突如上空に飛来した。
人々はその日を二度と忘れまい。
リーシャは漸くローの部屋から解放され、心身ともにぐったりしていた。
様子を見ていたペンギンはどうしたのだと尋ね、辞表を叩きつけたのに受け取ってもらえなかったのだと話す。
「いや普通に止めるとか無理だろ」
「止めるの。実質私はもう止めたも同然。だから、どこへなりとも行く」
「やめとけって」
「異世界なんて行きたくないもん」
「異世界良いとこかもしれないぞ」
戸籍があるなら楽しいだろうさ!
無法者が歓迎されるかよ。
皮肉をかます。
この世界と違って大分犯罪者に厳しい情報管理社会。
思い出せば出す程、時間にきっちりな長時間労は、あれはやばい。
このぬくぬくイージーモードな世界と比べると耐えきれそうにない。
こわい、現代こわい。
出る杭はハンマーで打たれる。
「やだ、やだやだ!帰る」
「どこにだよ」
「私を知らないとこ」
「お前を知らないやつなんてこの船には居ないと思うが」
マジで返された。
ペンギンと別れて、むすくれながら旅の用意をする。
異世界行きの船から遠ざかる為だ。
せっせと詰め込んで部屋を出ると扉の横の壁にロー本人が背を預けて佇んでいた。
ビビった。
「な、なに?」
後ろに鞄を隠して尋ねる。
「貸せ」
いきなり彼はキャリーバッグを掴んでリーシャごと引き上げどかどかとローの自室まで運ぶ。
手を離したくとも激しく揺れて出来ない。
「あーっ、あぅ、またせんちょが苛める!」
「苛めてねェ」
相手はイラついているらしく声が荒れている。
リーシャにとっては死活問題。
今出られなければ次はもうない。
「じたばたすんな」
口を無理矢理閉じさせられた。
遂に来てしまった。
海軍との打ち合わせ。
ローだけではピリピリしてしまうので互いの緩和材料としてリーシャを配置。
「あの、すみません。そちら」
ローがぴくぴくと反応する言葉を拾いあげて質問を投げ掛ければすらすらと答えてくれる。
普段真面目に会議に出ないローに対して相手側は寛容だ。
「では、行こう」
既に何度か人員を送り込み異世界と話し合いをしたらしい。
えーっ、いいなー。
ニホンジンと話したとか羨ましい。
というか、言葉は通じるのだろうか。
「侵略するのは相手の世界を把握してからか」
ローが楽しそうに笑う。
リーシャは無理だろうなと現実的に思う。
こちらと違ってあちらは知識が平等に振り分けられている。
となれば力で支配しようとすれば全世界は反発する。
そういう方法よりも根付く形の侵略が効果的ではないだろうか。
それに、目に見える争いに対して人々の意識は鈍いからこそそこにつけ入れられる可能性がある。
やだ私ったらまるで海賊みた~い。
出向は直ぐだ。
事前に言われていたので準備だけは万全だ。
デカイサングラスとマスクはないのでハンカチーフを顔に巻く。
偉いさん方に顔を覚えられたくないのと、監視カメラに認識されたくない故。
こういうの、スパイ系ドラマで見たことあるし。
その姿で甲板に出るとローにこいつなにやってんだという目で見られる。
と、タイミング良く時空の穴が開き船がズズズ、と吸い込まれていく。
ローに離れないように抱きつく。
「暑苦しい」
文句は言われたが離されることはない。
「うう、異世界怖い」
「んなもん一々気にするな」
気にしてるんじゃなくて怖がってんだよ。
散々抗議したのに下ろしてもらえず今ココ。
やがて時空のゆがみが消えてどこか見たような光景が広がる。
「わ、ここが異世界!」
船員の誰かが叫ぶ。
ああ、懐かしき世界。
音にならない唇でそっと紡ぐ。
ただいま、と。
地上を降りるとそこは軍の施設っぽい土地。
上に下にてんやわんや。
上には話をつけていたらしく武器を向けられることはなかった。
「はぁ」
しわくちゃになると分かっていてもローの服をぎゅうぎゅう掴むのがやめられない。
「このままじゃ締まらなくないか?」
それを見た団員その8が口にする。
七武海として海軍の横にドーン!と姿を見せるのだから確かにこれは変な空気かもしれない。
「そんなんだったら宇宙人がツナギっていうのも可笑しいよ」
むくれて言い返す。
「はー?意味わかんねェよ」
確かに宇宙人像に囚われてない彼らからしたらいつもの服装でイメージが壊されるだろうなんて分かるわけもないか。
ぞろぞろと歩いていくと海軍の上層部と合流。
その後もニホンジンのお偉方と会う。
多分軍のお偉方だからソーリダイジンは後で会うのだろうか。
「ようこそ我が星へ」
スッと出てきたのはにこやかに笑う中年の人。
この国の外交の方法をぼんやり思い出して、笑顔になるしかないわなと震える。
お前らの世界寄越せやと言われているかは知らんが、取引は成立しているみたいなので一応平和な妥協でもあったのだろう。
「で、準備は出来てるのか」
それに対してうちの態度はやはり変わらない。
めちゃくちゃ強気だ。
天候や空間を操る能力があるのだからそりゃ強気だろーな。
あちらは念力の力もなさげだ。
対抗手段は海水であるが、あちらの海水とこちらの海水は色々違うからどうなんだろう。
美味しいのたくさんあるから壊すのだけはやめて欲しいな。
準備は、の準備とはにほんの全ての放送をこちらの宣言だけに集めさせて周知させるというものだ。
良く映画で電波ジャックとかの類いと違い政府公認。
うちの世界こっわ。
一体なにをしたらこんなに従わせらんの?
それに、この国の同盟国はかなりの強国だった筈。
ちらっと見れば兵士達の中にあむりた国の兵士も居たのでそこはちゃんと紛れ込ませてるんかい、とげんなりする。
やはりこの世界で言う異世界人の行動や動向が気になるわけだ。
宇宙人飛んで、異世界からの従来だし。
リーシャだってもし国に惑星外が居るのなら火星人とかの生物と勝手に思ってた。
夢を壊してすみませんと言いたい。
ま、それはそれとして今の己の格好はスーツだ。
にほん相手ならそっちの方が心証も良いと言うか、昔の仕草が出てしまいどうにも着ないと言う選択肢が選べなかったというか。
スーツじゃなかったら変な目で見られる。
しかし、ここでリーシャは別にそんな気遣いをしても政府からすれば立派な侵略者であるのに変わらぬというのが頭からすっぽぬけていた。
やっぱりどこかピリピリする空気の中、撮影をするところへ案内される。
着いたのは某有名なテレビ局だ。
あのCMとかあのシーンとかがテレビの中で写っている。
流石に占領するにしても何も写さないと皆パニックになるもんね。
かといってドラマを流すわけにもいかない。
なつかし~。
大声で言えないので食い入るように前のめりで撮影所を見る。
やっばーい。
ここに居座ったら有名人とかに会えたりしないだろうか。
「見すぎだ」
ローに襟首をぐりっと掴まれる。
ええ!皆もキョロキョロしてるのになんで私だけ?と疑問が散乱。
「いいでしょ。もう一回これるなんてないかもしれないんだし」
敬語が抜けて頬を膨らませる。
「では、お願いします」
黒服のにほん側である男性がこちらの政府の人間に声をかける。
それを合図に粛々と言葉が放たれる。
あー、ついに言っちゃうのか。
できれば観光だけで済ませたかった。
「我々はこの世界と異なる世界から来た政府機関のものだ。本日から」
といった感じの長々とした発言に暇だったからふらふらとローから離れて歩く。
ふらりと周りを見れば監視されている視線も感じる。
もしかしてスパイしてると思われてたりして。
監視カメラに映らないのは分かっているので闊歩し放題。
都会が地元ではないが地図を見れば戻ってこれるだろう。
一応スマホを連絡用に渡されたんだが、ここから去る時は海の中に捨てる予定だ。
絶対にGPSで監視されてる上に盗聴だってし放題なんだって直ぐに分かった。
ローにそのことをどう伝えようとかと悩む。
皆知らない技術に興奮してスマホをべたべた触っているが、検索したものだって筒抜けになるのを知ったら捨てる筈。
海軍とてスマホの機能を理解しきれてなさげだ。
やっぱりオーバーテクノロジーにはついていけてなかったのが露呈した。
今頃にほんせーふはオッホホー、と高笑いしてあいつら監視されてるの気付かないであそんでやんのーとにやにやしているぞ絶対。
絶対にローを守るのだー。
緩く決意しておいた。
携帯ショップに向かっていき今のデザインなどを知る。
「って、なんかあんまり変わってなさげ?」
バッテリー容量とか受付連続時間とかもそんなに変化がない。
前世で死んだ時からそこまで離れてないと言うことか。
そういや今この世界が何年なのか聞きそびれた。
ぼんやりしていると店員さんに話しかけられた。
「いかがなさいました?」
「ちょっと見るだけなんで」
ここではっきり言えば張り付かれることはないと思いたい。
しかし、人があまりいないみたいで説明をはきはきし始める。
断れないという人種だったことが今己をここに縛り付けている。
政府の人間ならまだしも、一般人に対して非人道的な事をするこもなあ、と諦めた。
──ピリリリ
己のスマホが鳴ったので慌てて出る。
そこには政府関係者の文字。
ロー達はろくに扱えなさそうなので電話するのは無理だろうから妥当な相手だ。
『もう少しでお食事になりますので迎えに行きます』
「今は携帯ショップに居ます。自分で戻れるので大丈夫です」
携帯ショップに行ったというのも実績が出来たのでスマホを扱えても変に思われない。
くっ、某有名店のバーガーとか軽い食べ物を食べたかったのにっ。
どうせ用意されるのはさっぱりとしているのにマナーを考えねばいけないような気の抜けないご飯になるのだから、少しくらい食べたい。
お金は持たされているが多分見張られているんだからもうちょっと滞在してから慣れた風を装いたい。
政府の人は迎えに行くとか言ったけど絶対目立つもん。
黒服のサングラス達がぞろぞろやってくるんでしょ。
目立つのが怖いのでやめてほしい。
船で降りた時は船がメインで騒がれてるんであって、パッと見この世界の現地人にしか見えないのならそれに越したことはないのだ。
さっさとテレビ局へ戻ると政府の人達はあわあわしていた。
問い合わせの電話とか大変だろうな。
なに食わぬ顔ですいすいと通ればローが仁王立ちしていた。
「なにしてた」
「てーさつー」
という名の懐かしさを堪能していた散歩。
「偵察ってお前が?」
ペンギンが心配そうに言ってくる。
「うん」
すっごく納得してなさそうに見てくる。
心配の次は疑いとか失礼な奴だ。
「このスマホを使いこなしたくて色々聞いてきたの」
前世の己の知識にな。
店員さんにとは一言も言ってない、ここ大事。
「ああ。この電話な。色々ややこしくて使う気なくす」
ペンギンじゃなくともスマホを使ったことのない人はまず嫌になる程高性能だし仕方ない。
ローはしっかり言い訳をしても機嫌を戻さないので、もう、と腕を組む。
なんとなくノリで。
振り払われることもなくローは睨み付けたまま行くぞと歩き出す。
テレビ局にはドラマや映画のポスターが張ってあり見たいなあと羨む。
「もうどこへも行くな。船長命令だ」
「え、うう、はーい」
まだまだ散歩したいのに。
後で絶対抜け出そう。
色々画策しておく。
「お前は、絶対守れよ」
彼はじとりとした目で言うので精一杯答えた。
ローが赤と言えば白でも赤になるのだっていう感じですかね。
返事だけは立派と周りから言われるリーシャである。
守る気ないなこいつと周りから慣れた目付きで見られているなど露知らず。
ぞろぞろと引き連れてやってきたのは昼食の和風な高級店。
かぽーんと鳴る音に初めて来たよとどきまぎする。
こういうところは政治家が国賓を案内するのを放送で見たことがあるくらいで肉眼で見たことはなかった。
己が今にほんにとって重要な相手であるのを少し実感した。
ローの隣の隣に座り出てくる食べ物達を見る。
なつかしーをその頃から連呼していた。
おかみさん!浴衣!会合!
すべてを心の中で吠えていた。
美味しそうなものに手を付けようとするがぱしん、と箸が手の甲に落ちてきた。
既に箸を持っているので自分のではない。
いきなり出現した箸を見てローをちらりと見るとこちらをビームでも出そうな顔で見ていた。
ローを挟んで座っているペンギンが「なんで食べようとするんだ」と口でぱくぱくしていた。
そんなあ。
他の人だって食べてるんだよ?と周りを見ると誰も見てなかった。
あ、そっか。
長年習慣とかしてないから忘れていたけどいただきますしなきゃいけないのかな?
「食べちゃだめなの?」
「毒入ってたらどうするんだよ?」
えー?平和主義で有名なにほんがやるかね?
疑わしいその台詞に、うちの政府側も一切口をつけてない態度を見て皆も同じ意見なんだなと呆れた。
相手は無法者でも海賊でもないんですが。
「もう。平気だって」
お箸をローに返して誰も口にしない中、リーシャはぱくりとひじきを食べた。
「おいっ」
ペンギンが吐き出させようと顔に手を伸ばすが避けてごくんと飲み込む。
凄まじい殺気が飛んで来るが特に体に異常はない。
「ほら、ね?」
皆に首をかしげて問う。
ハート達はローを除いて唖然としている。
そもそもこの世界の人間とこちらの人間の体のタフさは理不尽な程違う。
人が家から落ちてしまう場合こちらは無傷で、あちらは最悪死んでしまう。
それくらい差があるのだ。
ここの植物や薬品でどうこうなるとは思えない。
やるならば一番効果がありそうな武器系統だと思う。
向こうのリボルバーで体に穴が空くのだから、異世界の武器を使われたりすれば確実にやられる。
なので毒は無理だろう。
科学が盛んな日本なので絶対は約束出来ないけど。
しかし、異世界が侵略しに来たというのに危ない箸を渡る真似をするとは思えん。
友好的に接するのが今のにほんが出来る危機回避だろう。
まだ殺しにかかるには気が早いような。
出来るだけこちらのことを知りたいだろうし、技術とて盗みたくててぐすね引いてそう。
「ほら、この白ごはんも美味しい」
やっぱりご飯は白い米に限る。
餅米も好きだけど無いのが残念だ。
もぐもぐと更にお皿を平らげていくとローが無言でお茶を啜る。
その行動により船員達も恐る恐る手をつけていく。
海軍もこちらを見ていたが気にしない。
寧ろさっさと楽しくもない、笑いもないお昼を終わらせてぶらぶらにほん見学を再会したいのだ。
政治の駆け引きとか海賊にゃ関係ないですし。
と、知らん顔をして引き続き美味なお食事を取る。
お腹が満たされた頃、腹をぽむぽむと擦りごちそうさました。
きれいに間食して粗茶もいただく。
やはり本場から仕入れているかもしれないお茶も美味しい。
懐かしさの溢れるご飯を食べられてこれでもう満足に帰れる。
「うまかったな」
隣に居る船員がぽつりとこぼす。
そう、そうなんだよ。
ここのご飯は美味しいんだ。
だから、この国を壊すのだけは出来るならやめておいてほしい。
望みはありそうな顔を海軍達はしていたので彼らもなかなかに気に入ったんではないだろうか。
得意気な顔になってどやどやとしていると次は違うところへ案内されるらしく移動を指示された。
舞を披露してもらえるらしい。
ううん、懐かしいけど興味なしなんだよな。
それに、眠たくなってくるだろうし。
さっきの今で一人行動なんて許してもらえなさそうだ。
こっそり抜け出すことにした。
「おい」
そろそろと歩いていると肩を掴まれた。
冷や汗がどばどはと止まらない。
早速秒でバレてしまう。
「船長。私は刺激を求めてるんです。止めないで」
「おれも行く」
「ええ……でも、ロー。武器を置いていかないでしょ?」
「当然だ」
敵陣の中なんだぞと凄まれる。
ついてくるのだったらそれは置いておかないと激しく目立つ。
が、絶対に取る予定はなく普通に刀を担いでいく。
町に出ると騒がしく人々が今だ混乱している。
「あー。これだったら、平気かな」
なんならコスプレとでも周知させれば良い。
まだ未確認であった生物の乗っ取りが行われた世間のざわめきと混乱は続いており、こちらの奇抜さには誰も目を止めない。
周りを見てもこちらを見ている人は居ないし、手元の携帯や自分達のことで頭がいっぱいな表情をしている。
交通機関も麻痺しているだろうから徒歩しかない。
ローを連れていった場所はコンビニ。
ピロリロリーンみたいな音を奏でた扉が自動的に開いた途端、首元にキュウッと絞まるなにか。
「ぐあ!?」
呻いて後ろを見たらローが険しい顔をして後ろへ下がっていた。
「なに、して」
「この扉、勝手に開きやがった!兵器かもしれねェ!」
その解答にやきもきした。
ああああ、と叫んでそんなわけないだろう!とがくんがくん揺らしたくなった。
外の変人二人組を見る店員の目と合う。
「船長!大丈夫!ただの勝手に開く扉なだけ!だからっ」
超近未来なものはローにとって得体の知れぬものなのは頭では理解しているが、説明するのが凄く難しいことを実感した。
「中は食べ物とか売ってるんです!」
ローの腕が絞まるので離すように言い、緩んだのを感じてピューッと入る。
名前を叫ばれたがそんなことをされると刀を所持した彼が目立つ。
「ほら、ローも入ってきて」
流石に町中で船長呼びは違和感があるので、名前を選ぶ。
うちの船長が高校生に見えないのもある。
見えたのならかなり悪のりな学生として見られたが、どう見ても大人に見えるので振る舞うのも難しい。
男は警戒をしながら入ってくる。
今時海の向こうにだってコンビニはあるからその警戒の仕方はまるでコンビニがないところから来た人のように見える。
刀を持ってさえいなければ完璧に溶け込めたのに。
まぁ、侵略しにきている側だから手放せないのも分かる。
田舎来た青年とでも思っているのか店員の視線が暖かい。
結構そこらへんはこの国は寛容だと思う。
「カップラーメンとか美味しそうだから買っていきましょう」
カップラーメンならお湯さえあればどこでだって食べられるし美味しい。
買って損はない。
「未確認の世界の飯を簡単に買うな」
「もう確認しましたよね?なら平気ですって」
一々小うるさい。
まるで過保護ななにかに見えそうだ。
気にしている暇があるのなら今すぐ侵略をやめれば良いのに。
であれば、自分達の世界の食べ物だけで満足していれば良い。
リーシャはこの現代世界の食べ物がどれほど美味しいか知っているから食べたくて食べたくて堪らない。
ローの小言を全て流してレジへ持っていきお金をちゃりんと出す。
少しお金を貰っていたからここで使っていこうという気持ちだ。
発信器を付けられているかもしれないからね。
技術を全て知らないから、庶民だったから裏の世界の技術進歩は分からないので疑う。
今や家族はロー達。
この世界の人達の遺伝子すら存在しない。
守らねばならないのはロー達だ。
扉を出るときも警戒するのは面白かった。
何度か試したくなる。
普段はローがからかわれるなんてことないので、余計にやりたくなる。
可愛いと言うか、永遠に見ていたい。
カップラーメンを店の外で味わうとうっすら涙が出た。
うまいいいい。
懐かしさと味の改良のエグさに戦慄必須。
それと同時にローの初カップラーメンの様子をカメラとムービーで撮る。
おうおう、良く撮れてるや。
「……うめェ」
ローもお墨付きのカップラーメン。
CMとかパッケージに書かれそうなのが想像出来た。
「船長、いやロー、聞いて。これはね、ノーマル味で、他の味が100種類あるの」
そう事実を淡々と告げると彼は目を丸くする。
「なん、だと」
カップラーメンに対してこうして反応するのは初異世界人第一号。
「おまけに、他社のカップラーメンを合わせると途方も無い種類があるんだ」
そう終わらせると彼はごくんとヌードルを喉に入れる。
「やっぱりくるんじゃなかった」
それはここに来る前とは決定的に意味が異なる呟きであろう。
今は日本に来て良かったと心から思っている。
私は日課となっているうどんを啜りながら沁沁となった。
何年ぶりだろう。
Switcを動かして、ビバ現代。
ビバ技術とさけんでいた。
あとPSS5もな!
品薄なのに手に居てくれた人達ありがとう。
ローたちもそれを手に日々遊んでいる。
スマッシュブラザーでボコボコにしていて、非戦闘員なのになんでそんなに強いんだと涙目で言われたことすら高笑いの中に消えていく。
ぷよぷも連鎖させて相手を負かせ、今日もアニメを見ている。
魔法少女だ。
一緒に見ていた人が3話の展開に次の日から部屋から出てこなくなって、少し大変だった。
絶望したらそこで航海は終わりである。
なんとか名言を入れて気を取り直させた。
「あの子は、あの子は……最後までおれは見れそうか?」
展開が気になるらしく、聞いてくるけど私はにこりと笑って見てみたら分かると無責任に述べた。
最後で見たら涙を流したので映画もあるけどもう見ないのかと聞く。
げっそりした顔で彼は。
「見る」
見るらしい。
それを見たら円環め!円環め!と叫んだので船長に彼へ精神安定剤を進める様に進言しておいた。
「うおー、ブラザーを制するのはおれ、だァ!」
シャチが猛特訓していた。
ここまで普及するとは当時思ってなかったな。
みんな、地球に対して排他的だったもん。
あちらの品のジュースを飲みながら漫画を捲る。
ぷるぷるぷる。
電話が鳴り相手をする。
はい、と気楽な声が耳に残ると酷く聞き覚えのある声が聞こえた。
『女のうち一人に用がある。出せ』
海賊に威圧的なのは怖いもの知らずであった。
女は私と彼女だけだが。
誰だと聞いたらキッド海賊団だと言われてぶったまげた。
「ぎゃああ!船長!キッド海賊団から謎の電話がああああ」
パニックに陥りながらも電話を渡す。
ローは過去最高に悪い顔をして出た。
どうだったと尋ねる様子は訳知り顔だ。
嫌な予感がする。
「フフ、そうだろ」
キッド海賊団の船員は引き続き、続投を望むと告げればローは良いだろうと笑う。
電話を終わらせたローになにがなんだかと聞けば、キッド海賊団にコッドファーザーを貸してやったと言うではないか。
うわぁ!
「な、なんてことを!」
「あいつらからレンタル料をせしめられるだろ?」
レンタルショップinハートの海賊団をやり始めたらしい。
ローも日本のメディアに出てから数週間。
既にローのファン達が出来て、ファンサイトも作られている。
狂気を感じると常々思う。
私達は侵略者だ。
侵略者に対してキャーキャー言うのは流石にミーハーが過ぎる。
呆れているとお前のファンサイトもあるぜと見せられた。
コメントには「普通の子」「平凡」というローたちとのファンサイトとは全く違う賑わいを見せていた。
親近感を感じさせるらしい。
「侵略されたいのかこいつらぁ……!」
思わず叫んだ。
「もう侵略完了してるからお前が改めてする事はもうないぞ」
わかっとるわ。
──────
捕虜サイド
私達は歴史的な光景をあの日、目にした。
スマホを掲げる暇もなく、ただ眼にうつるものを見ているしかなかった。
「ねぇ、聞いた?ロー様のファンサイト」
異世界人として現れた一人のカリスマ性に多くの人々が惹かれ、脇目もふらずに飛びつく。
「見たわ。私もう会員」
「あ、いいなぁ」
なんといっても容姿が整っているのにワイルドなところがある。
それに異世界人という肩書は他の存在にはない唯一無二。
「あー、それに、さ?」
「うん。わかる」
お互いに目配せすれば言いたいことが理解出来た。
「女が二人居るけど側に良く居る方が地味なんだよね」
「うんうん。レベル高いのこっちにたくさんいるよ」
「あ、地球人が向こうの船に入るとか実現しちゃったりー?」
ケタケタと笑う。
リーシャは地味だし、異世界人ではなく地球の人間と共に居ても忘れられるくらい薄い見た目をしている。
美醜が同じならば可能性はある。
と、彼女たち以外にも考えていた。
────
「でも、人種が違いすぎるんだよなー!」
彼女たちの会話を画面越しにリアルタイムで見ながら叫ぶ。
「おまけにもう捕虜扱いなんだぞー」
既に覆せない立場になった彼ら。
同じ土俵には立てない、二度と。
「愛玩動画をまた見てるのか」
ローが通りがかりに見てくる。
愛玩扱いになってた。
基本的に私達は海賊なんだよなぁ。
「あー、その、船長のこと凄く好意的に受け止めているからついつい」
言い訳をするとローは鼻で笑う。
「ペットが飼い主に尻尾を振るのは普通だ。一々喜ぶか」
飼い主とな。
等身大になるのは無理そうだ。
内心、なんとか扱いを緩めようと策を練っていたのだが、この動画を見て無理そうだと溜息を吐く。
私だって暇ではない。
わざわざ椅子の上から蹴落とすようなことを言われて、お人好しに言うことは面倒だ。
「ゼロになにをかけてもゼロ」
彼らが認知しても今更になる。
「そんなことより、これ見てみろ」
ローに示されたのは長寿漫画。
ああ、言いたいことは分かる。
「おれたちの文化に似ている」
「そういうのが得意な人達が多いから」
言わずもがな、海賊系統の漫画である。
たくさん世の中にあるからね。
自分の事ではないけどなんだか誇らしい。
「……お前」
「えっ?」
ローが顔をまじまじと見てきて、首を捻る。
「地球にかぶれてきてねェか」
「かぶれる、ですか」
かぶれるどころの話ではないんだが。
宇宙人の皮を被る地球人なんだよね。
ローから疑いの眼差しを受け、汗が出た。
だが、ローは尋問めいた眼を消して「なら、お前を指名してやる」と告げた。
指名とは。
「おれはもうあそこに行くのがダルい。お前が行きたいのなら代表として行き来してこい」
「え!?い、いいのですか?」
「おれらが常に首根っこを掴んでいることを忘れないようにとのことだ」
彼の意向ではなく政府の考えのようだ。
本当に面倒くさそうな顔をしている。
「わかりました」
イヤイヤよりも私が行った方が双方摩擦が少なくて良い。
地球ならば勝手知ったる我が家だもん。
彼は私の答えにがんばれよと寄越してくれた。
こうなったら彼らの為に向こうの文化を取り入れて娯楽として楽しんでもらおう。
地球の方々には悪いが、なにもあげられるものはない。
強いて言うなら……笑顔?
政府が地球になにを求めているかも知らないんだよなぁ。
土地?
うちの世界ですら完全に覇権出来てないのに、キャパオーバーじゃないの?
それに、星を覇権するのは並大抵の事じゃない。
「行ってきます」
改めて許可を得たので意気揚々と向かう。
ここだけ切り取ればSFだった。
「歯向かうやつがいたら即対処しろよ。アホはなにをしても歯向かうからな」
ローが怖い。
海賊だから怖い。
それにヌルい笑みを向けておく。
イエスもノーも言わないからね。
早速地球に移動。
特に問題なく降りられた。
「変装をしたけどする意味ないな」
自分の顔がモブ顔だから。
誰にも気付かれないだろうなあ。
悲しさと楽しみを胸に町へ歩く。
わいわいがやがやしている都会。
実は日本人だった頃、地方住みだったので都会なんて縁がなかったから、見たのは初だったりする。
田舎というほど田舎じゃないけど都会程潤ってはない。
ま、今回は都会に来れたんだから人生なにがあるか分からんってことよな。
異世界に生まれ変わったら地球にリターンするとか、ジャンルなにって感じ。
ローたちにもサブカルを知って欲しいと探す。
スマホを持っているのならばゲームとかは比較的分かりやすく楽しいと思う。
ここの文化しかないものはとても楽しまれると信じている。
動画投稿サービスを初めてみよっかな。
丁度登録したし。
カメラを起動して地球に降り立ったことを撮る。
ライブではなく後に投稿しよう。
今だと場所がバレる。
政府に探索を邪魔される事だろう。
宇宙人にうろちょろされたくはないから気持ちは分かるんだけどね。
ごめんね地球の偉い人。
見つけたのはクレープ。
全員分頼む。
待つ間は地球の人たちの私達への感想をエゴサーチする。
────
宇宙人かっこいい
────
イケメン過ぎる
────
宇宙人になりたい
────
見終わってみるとローを求める人達が多く。
かなり好意的に言われている。
そういや大昔から地球は宇宙人にメッセージを送っていた。
それ程までに交流したがったらしい。
はぁ、そういうことしてるからうちの惑星なんかに眼を付けられちゃったんだよ?
なぜ侵略される危機感を抱かないのかな。
いや、まぁ、政府がそういうやり方をしないから誰も知らない状態なのは分かる。
裏で既に征服されているとは民間人は誰も知らない。
その方が心の安静としては正しいか。
クレープを持ち帰ると皆は喜んで食べていた。
こんなに美味しいものがあるから壊さないでね作戦は果たして上手くいっているのかなぁ。
どうか、誰も壊したいと思いませんよーに。
シャチらに地球はこんなに楽しいんだよとパンフレットを渡す。
ふーん、と流し読みされるので真面目に読めと凄む。
ああ見えて結構時間をかけて作ったのだ。
残滓に扱われて嬉しいわけもなく、シャチ達は引き攣った笑みをくれた。
私を怒らせるからだよ。
こちらが誠心誠意向き合ってるのにさ。
海賊に真面目さを求めるのは間違っているけど、仲間の汗の結晶を刮目させることくらいは許される筈。
ローはというと、遥か彼方の星くらいの距離で興味はなさそうだった。
幾多もある星の一つ、くらいの認識だ。
そんな熱弁を重ねる私に告げられたのは「気に入ったはしいな」という的外れなお言葉。
「気に入ったというか、貴重な美味しい料理などがたくさんある星なので」
と誤魔化す。
珍しい星を保護したいと言外に告げてみる。
「住みたきゃ住め」
「え?解雇通知?」
いきなりのパワーワードに頭が白くなる。
「アホ。んなわけねェだろ。いつでも行けるようにドアを設置してやる」
ホッ、どうやら違ったらしい。
「よ、良かった。船降りろって言われたかと」
「言うか」
「今の言葉じゃ勘違いします」
「勘違いさせるような酷い奴だと思われてたのか?おれは」
にやつくその顔をぶん殴りたく思うのは私の心が狭いからではないと信じてる。
でも、住めるとしれてローの手をぎゅっとする。
「ありがとう船長」
「ああ。ただし」
ただし??
条件をつけられるのかと危機感を今さら感じた。
「ただし、週一で帰ってくるのが条件だ」
「あー、はい、まぁ当然ですね。うん、はい、分かってますよ」
私はハートの海賊団だもん。
当たり前。
こくこくと頷く。
「RINしろ」
リンとは、SNSである。
やり取りできるようになったらしい。
船長可愛い。
ちまちま打ち込んでるの?
可愛い。
ローとそういうやりとりが簡単に出来るようになったのはあっちに行っただけはある。
「はい、たくさん、なんの用事もなくてもします」
「そこは自重しろ」
「いやです」
「あちらへ渡ってから遠慮が更になくなったな」
「地球を侵略するとなったらもうなんでもありになりましたから」
「うちのクルーは頼もしいな」
くすくすと笑う。
そのイケメン度は高くてイケメン。
語彙力はゲシュタルト崩壊。
「ほわー」
「今のはなんだ?」
ロー船長がイケメンすぎて眩しい音です。
私は照れながらコホホンと声を出す。
「取り敢えず慣れたら絶対私の部屋に招待しますね」
「別に船の部屋へ招待してくれても構わないぞ」
あ、もう、揶揄ってからに。
「ダメです。倫理がなくなっちゃいます」
「お、断言するか」
嬉しそうに笑みを見せる男にえへへー、となる。
「地球は楽しいところみたいなので楽しんできます」
「ああ」
ローさんは私の頭をやさしーくやさしーく撫でた。
地球に進出してから特に優しさが増えた気がする。
「えへへー」
笑みも漏れるというもの。
突然笑っても変に思われぬのが凄く嬉しい。
「たくさん美味しいのを買ってきます」
「楽しみにしてる」
あー、船長は今日もイケメンだ。
「イケメン」
この船、そもそもなかなかの男達が在籍している。
私って実はめちゃくちゃ幸せ者なのでは。
自画自賛も過ぎたるものではないよね。
「あ、ペンギン」
ローから離れてから2時間以上経過した後、窓越しに甲板にいるのが見えてそこへ向かう。
ペンギンはこちらへ手を振る。
地球へ行ってもみんなの態度が変わらないのは流石にメンタルがオリハルコンなのではと思わなくもないけど。
「ペンギン、地球どう?良くない?」
何気にアピールしておく。
しかし、普通とのこと。
おたくら、初めての異世界だよね?
私が変なの?これ。
「ペンギン、異世界行くのってもしかして経験ある?」
「あるぞ」
えええ、みんななんで平然としているのか不思議だったんだが、そういうことだったのかー。
「8回目だ」
ビビる。
なぜっ?
「へ、へえ。私一回もなかったから、すご、いかも」
「え?ないのか?」
イヤイヤイヤイヤ、そのきょとん顔!
「な、ないかなあ」
「それは、なんというか……奇数な人生だったんだな」
「う、うん?別に行きたいとかではないから」
そんな残念そうな顔をされてもな。
「そうか?異世界楽しいんだぞ?おれとシャチは毎回わざわざ探しに行ったもんだ」
探して見つかるんだね。
ほおがひくつく。
へ、へえと辛くも頷く。
今の私は首振り人形です。
「どんなところなの」
「んー、そうだな……住人が全員火で出来てる世界とかか」
「火!?すごっ」
想像したくてもしにくい。
いくつか質問しては答えをもらう。
地球についての感想は「機械的だ」と帰ってきた。
機械、か。
言われてみればファンタジー要素は皆無だもんな。
「とっても美味しい物が多いよ」
「そうだな。確かに美味しかった」
「そ、そうだよね」
うんうん。
ペンギンは優しい笑顔で言う。
「おまえは初めての異世界で舞い上がってしまってるんだな」
(ち、違う!)
「や。多分私と地球は運命的に出会ったっていうか」
ちょっとどころではない運命を熱く熱く感じる。
地球に生まれて、また出会った。
なんという偶然を超えたもの。
ペンギンはまた生ぬるい顔を浮かべたまま、私を見る。
可愛い感情だと言いたげだ。
「良かったな。そういう気持ちは大切だ」
(言いたいことはそうじゃないけどなあ)
もう言っても通じないだろう。
通じないなら感じさせねば。
私はペンギンと会話を終えて、部屋に戻って記憶を掘り起こした。
この世界には記録映像やLiveが可能な技術がすでにある。
なんていうか、アンバランスな世界だ。
なにをするべきか。
なにを用意するべきか。
全ては揃えた。
「おおいおおい」
昼食に集まるみんなの注目を集める。
「最近地球に御執心な奴がどうした」
私が地球に拘っていることはみんな把握しているとか、みんなが怖い。
プライベートが赤裸々すぎて。
「その地球産の真髄を教えに来たんだよ」
「たまにいるんだよな。降りた惑星に取り憑かれちまう奴が」
「ふふん」
好きに言うがいい。
持ってきていた物をセットする。
今から上映するね、と無邪気な笑顔を浮かべていく。
「これはアルムスの少女ハイジア。アニメだから長いよ」
最高の笑みでスタートボタンを押した。
***
『グララー!』
『ハイジアー!』
「「「うおおおおおッ」」」
感動の名場面。
船員達は立ち上がる程湧き立つ。
ああ、うん、まー、うん。
確かに名シーンっていうのは自他共に認められているから、感動するのは分かるんだけど。
共感が凄いなこの人達。
相変わらず、いい人達でほっこりする。
熱狂的なスタンディングも良しとする。
「放映前はあれだけ、やれやれって態度だったのにかわり過ぎでしょ」
呆れも入る。
実は放映してから既に3日目。
50話以上ある中での終盤なのだが、ドリルスケジュールにするつもりはなく、一日1話という感じで一か月以上かけて見せるつもりだった。
しかし、彼らは一話目を見せ終わった後にまた明日ねと停止ボタンを押して直ぐ手のひらクルクルを発動。
続きを見たいと言われ辛うじて止められた時には12話をすぎていた。
6時間ぶっ続けで見てたのだ。
見てる間にやることをしようと戻ってきたら彼らはリモコンの操作をして自分達の為にとアニメを見ていた。
流石に見過ぎだと母親のようなことを言った。
今いいところなのに、というセリフをきいた時の私の目は砂嵐のようなざらついたものに違いない。
50話程あるのでやめろと止めて解散させた。
彼らは名残惜しそうに感想や意見を言い合っていて、アルムスの少女ハイジアの感想ルームと化していったのである。
「ロッティマイヤーさん、おれ、似た人居たわ」
「わかる!おれも」
「パーダーみたいのもおるよな」
「ユキィちゃん、めえめえ可愛かったなー」
「いや、ヨーゼフルだ。カタツムリは名場面」
「なにを言ってるんだ!おじいさんがさいかわだろ」
「「お前が一番何言ってんだ」」
お、おお、おじいさんに萌えをかんじるなんて、地球人と意見が合いそうな。
「発起人のお前はだれが好き?」
尋ねられて答える。
「強いて言うならブランコ」
全員えっ?って顔で振り向く。
「登場してる中で最大の謎で、最大のミステリーだから」
「「「…………」」」
「お前はなんでこのアニメを選んだんだ」
静かなる空間でローがきいてくる。
あ、キャプテン居たんだ?
「見たことないから丁度いいかなって」
見たこと、ないのか?
ざわ、ざわ。
船員達がおすすめしたのに自信満々だったあの姿はなんだたんだとブランコ以上のミステリーにざわついた。
地球にちょいちょい行くと気付くのはやはり、こちらへの認識がアイドル扱いだったこと。
侵略は完了しているから、知れることもない。
うまくやったものだ。
「ロー様に会いたーい」
「来日してこないかな。サプライズとか」
サプライズか。
来ないだろうなあ。
興味なさそうだったから。
「宇宙人とかマジすごいよな」
「宇宙の進出も早まるんじゃないか」
宇宙の開発。
私の時は火星に行くとか行かないとかだった。
今はどうなんだろうね。
わたしは水星に行きたいな。
「って、行こうと思えば行けるのか」
アイドル扱いとか、地球の人危機感行方不明。
少しくらい疑問に思わないのか。
わたしもその立場なら受け入れるから国民性か。
高校生ならスマホでパシャる。
わたしは地味だから一部界隈ではローの隣では不釣り合いだと言われているが、立場が凄く違いすぎて話にならない。
「レンタル出来るなら、早く借りよう」
次は何を彼らに見せようかなと思案する。
なにを見せてもキラキラした目で見てくれるので見せ甲斐がある。
「失礼」
急に前を塞がれて驚く。
見ると一般人と違うオーラ。
政府の人間だと名乗るので飽き飽きした。
私になにか権限があると本気で考えているのか?
それとも、人質にでもするのかな。
やめておいた方が良いけどさ。
私も強いよ?
それに、どれだけ下っ端でも海賊であることを忘れないで欲しいなあ。
殺気を解き放てば、相手は膝を地面についた。
軽くしたつもりなんだけど、平和なのは変わらぬようで安心安心。
役人らしき男は膝をついて喉を激しく上下させて、息苦しそうな程体を痙攣させ出す。
脅かすのはこのくらいでいいや。
「で、私になにか?」
「ぜえ、ぜえ」
「なにもないなら去りますね」
笑顔でバイバイキューしておいた。
るんたった、とスキップを繰り広げてさる様は狂気的だった。
その姿は正に海賊。
「というわけで一丁かましておきました」
ハートの海賊団としての海賊団らしさは示せたと思う。
ロー船長にむんと胸を張り、報告する。
現在ポーラータング号。
いつの間にかファンタジーというか、SFになっていた私の生活。
どう変化したら海賊の世界から地球へ行けるんだろう。
訳わからん。
報告し終えるとローは気難しげな顔色となっていた。
この顔は不満がある時のやつだ。
どこらへんが?
「お前が狙われたということはわかった」
「狙われても地球人なんて勝てます」
超超余裕だ。
「次からはおれを連れて行け」
「そこは私を連れて行く、の間違えでは?」
いや?と彼は笑う。
「おまえは最近猫みたいに居なくなるからな」
猫とは言いえて妙。
私は苦笑いしかない。
共に地球へと譲らないので、彼の後ろを歩いて彼の地へ赴く。
目立つ目立つ。
近付こうとする人達を私の近付くなオーラで阻む。
今のリーシャはボディガードなのだ。
何人たりとも寄せ付けない。
周りの人達はなにあの子、と及び腰。
ローの傍にいる私に対して、不快感を感じているらしいが、それはこちらの台詞なのだよ。
彼に簡単に近付けると思ってもらえばローの価値が安くなってしまう。
触れてはいけないナイフなのだ。
ということを考えていたのに、女子高生達の集団に威圧されるローという、大変レアな光景を目に焼き付ける事になるとは。
船員達の羨ましいという声が今にも聞こえてきそう。
スマホで激写した。
やらない理由なんてないでしょ。
撮るしかないでしょ。
「おい、撮ってないで、助けろ。おい、聞けっ」
ローは助けを求めてきたが無心に取り続けた。
勢いって怖いね。
女子高生から脱出した男は暫くムスッとしてホールケーキを自棄食いした。
「機嫌直してくださいよお。タジダジなロー船長、すっごく可愛かったですよ。ホラ、これ、写真です」
見せびらかすとスマホを破壊されそうになったので、寸前でさらりとかわす。
ちょっと怒ってる。
「これは家宝にするので」
「消せ。そんなもん、なんのために持っておくってんだ」
「皆に見せるとか、1人で見て、にやにやするとか、色々活用出来ます」
「生身のおれがいるんだから、そっちを見ればいいだろ」
「船長、貴方の趣味って覚えてますか?放浪ですよ。ほ、う、ろ、う」
「居ない時にってことか。それなら今度お前もおれと異世界に行くか?」
「ええ」
びっくりした。
まさか、お誘いされるとは。
「行きます行きます!ついていきます!でも、異世界?」
そんな旅行みたいな感覚で、行けるの?
私は一体どこの世界線にいつの間にか移動したんだろうか。
私はとろとろとした幸せの顔色をして、ローを仰ぎ見る。
「えー、船長と一緒に異世界を放浪出来るなんて夢見たい」
「そうか?大した事ではないだろう」
「大したことではない、ですっ。ヒヨコのように付いていこうと思いますので宜しく」
リーシャはニコニコと笑みを浮かべた。
ローは最後の一口を飲み込んで、自身の藍色のスマホで彼女を撮った。