逆転。あべこべ。夢小説
ここは何処だと周りを見回せば唖然としてしまう自分を感じた。
だって目の前に海軍と漢字で書かれた文字に大きな建物がそびえ立っていたのだから。
ここは所謂トリップした世界ということか。
某海賊の漫画を頭に思い浮かべるとにわかに信じ難くなる。
そんな馬鹿なと現実にはありえない自分の今を受け入れられないでいると海軍の建物の中から誰かが出てきた。
立ち尽くしていたセレスティアに近付いてきた人物は有り得ない服装をしていて目を疑う。
まさか、まさか。
「七、っ」
七武海と口走りかけた唇を押さえると男を見た。
男もこちらを見て凝視している。
体に緊張が走りカタカタと震え出す。
「民間人がこんな所で何やってんだ。迷子か?」
「え、あ、えと」
混乱していると更に不可解なことを言われ返答に困る。
誰だと聞かれ身元を言うか言うまいか迷う。
そもそも違う世界に来たのだから故郷すらない。
そんな状態で家はどこだと聞かれ言葉に詰まる。
心情を知らない相手は勘違いして検討外れの事を口にした。
「おれは少将のトラファルガー・ローだ。これでこっちは名乗り終えた。お前も名乗れ。それとも口が聞けないのか?」
「少将?」
確かローの肩書きは海賊であり海軍の犬だった筈だ。
違和感を感じ凝視するとまた問われハッと思い出し名前を言うと彼はセレスティアを爪先から頭まで見て「使えそうじゃねェか」と意味ありげな視線を寄越す。
何か不手際をしてしまったと焦るがローは全く予想にしていないことを口にする。
「保護してやる、付いて来い」
顎で示され気後れしながら付いていった。
これが海軍という組織に身を置く逆転した世界でのローとの出会いだった。
保護という名目で海軍に雑用として身を置いて二年の月日が経過した。
ローは当時二十二という年齢だったので現在は原作の年齢にハマったと誕生日の日にセレスティアは感じ嬉しかったのを覚えている。
二年も経てばこの逆転した海軍の仕組みを少しは理解出来たが今だ不透明な部分もあった。
しかし、楽しい事に代わりはない。
けれどやはり違和感は拭えない。
それは原作の中での海軍が海賊をしているということ。
七武海は微妙な立場な為判断出来なかった。
そんなあべこべな世界観でのセレスティアの癒しは何と言っても彼だ。
「ルフィ中将~!」
「おう来たか!にしし、肉食うか?」
「貰いますっ。いただきます!」
部屋に行けばスマイル天使が肉を片手に歓迎してくれるのだ。
当然ながら英雄と呼ばれたガープは海軍にはいない。
海賊として四帝ならぬ八帝として絶賛活躍中だ。
だからと言ってルフィの血筋は変わらず繋がっている。
だから新聞を読むたびに「じーちゃん暴れてんなー」と呑気に呟いているのを度々目撃していた。
本当にこの世界は逆さまな世界。
ガープが切に願った海兵ルフィが目の前にいることに涙が出そうだ。
せっかく海兵になったはいいが肝心のガープが海賊とは。
「あ、トラ男~!お前も食うか!?」
「ギクッ!」
「いらねーよ。それよりセレスティア、お前掃除終わったらおれの部屋に来いって言ったよな?それに何だ今の効果音は」
デーモンが、来た!
ルフィが残念そうにトラ男は付き合い悪ィな、と文句を言っている間に素早く部屋から出ていく為にダッシュする。
だが失敗に終わり襟首を捕まれぷらりと目の前に隈がある瞳が近づきはっきりとブラウン寄りの琥珀色の目が見えごくりと生唾を飲み込む。
俺から逃げられるとでも思ったかと上から目線で言われふるふると首を振る。
これは後が怖いパターンだ。
「いじめんなよトラ男~。セレスティアはお前の、あれ?なんだったけか」
「恋人だ麦藁屋、ちゃんと記憶しとけ」
「そうだ、コイビトだな!」
合点がいったとルフィは天使の笑顔で手を叩く。
その笑顔がたまらないよ中将!
デレデレしているとローに顎ではなく顔面を掴まれ正面を向かされ目を合わせられる。
近いよ、マイダーリンとおふざけで呼んだらローは目をしばたかせ暫し固まった。
大丈夫かと思う前に逃げ出そうと足をばたつかせると彼は我に帰り邪魔したな、と伝えセレスティアを脇に抱えながら部屋を出た。
誰もいない廊下を進みローは自室兼執務室の扉を豪快に開け中に入り椅子に座る。
セレスティアを太股に置き足の間に座らせると赤面するのを感じた。
やはり、慣れない。
羞恥心に黙っていると彼が笑いながら質問してきた。
「まだ慣れねーのか。初なことで」
「ぐ、だって、こんなの、慣れるわけないですよぉ……ローさんが慣れすぎてるんです」
「おれは百戦錬磨だからな」
「うええ、嫌味なローさんきた。キッドさんに報告しますよ」
逆転世界、勿論キッドも例に漏れず海軍に身を置いている一人。
最初に会った時はロー以上に目を疑ったが。
それも良い思い出だ。
彼の名を口にすれは途端に不機嫌になるローに戸惑う。
何かを言ったが聞こえなくてもう一度と聞き返せば「他の男の名前を言うな」らしい。
二人っきりの時はいつもそうで支配欲が強くなる。
それは少し だけ慣れたのでそこまで苦痛ではなかった。
彼はセレスティアの肩に顎を置きぐりぐりと動かす。
くすぐったい気持ちに身を捩ればローが突然これをあそこに仕舞ってくれと本を渡してきたのでしゃくられた場所を見て向かう。
一番上にある収納スペースに行く手段としてかけてある小さい梯子に上るとここですか、と尋ねる。
「ああ。それにしても良く見える」
「何がですか?」
「下着」
「えええ!?」
ガタガタと動揺し梯子が揺れバランスを崩し手から梯子が離れる。
落ちる衝撃を覚悟した時、ふわりと抱き止められた。
今も心臓がバクバクと鳴ることに安堵も感じローを軽く咎めるように見る。
「酷いですローさん、下着、わざとですよねっ」
「別に恋人同士なんだから恥ずかしがる必要あるか?」
「ありますよ。親しきなかにも礼儀あり、です!」
ローはプンスカと怒るセレスティアを笑いこちらも怒る気がなくなりふふ、と笑い合った。
二年前、異世界からやってきたという珍妙な経歴を持つ自分にローは人手が足りないと雑用としてセレスティアを海軍で働かせてくれた謂わば恩人だ。
敬意や理由はこのうえなく雑だが少将としては有望な男だった。
会議でまとめ役をするのはエドワード・ニューゲート元帥。
ローは影の参謀長官のような存在として意見していたので開いた口が塞がらない。
逆さまでもあべこべで誰がどの役割に嵌まっているかは別物なのだと三ヶ月ほどでやっと理解できた。
シャンクスは中将で驚いたし、仲良く海兵としてシャンクスにベッタリなルフィが少将という地位。
もう頭がパンクしそうだった。
ローには尋問されなかったが一応ちょろっと自分は違う世界からきたと言っておいたのだが、グランドラインだしな、という言葉で終わり呆気なかった。
ここは立場が逆転しても言うことは変わらないのだと苦笑したのを覚えている。
ちなみに一番怯えたのはユースタス・キッド少将だ。
彼が海軍という固い組織に縛られるのか、と思ったがスモーカーを連想させる常識な人間だったので安心したのも良い思い出だ。
あとは覚えることも覚え直さなくてはならない彼らの立場が苦労した。
さて、それは置いといてセレスティアとロー、海軍達が関わる事件やハプニングなどを紹介していきたい。
などと日記を読み返していると頭上に影が落ち慌てて日記を閉じ後ろを振り返る。
「日記か。まだ続いてたんだな」
「そーですよローさん。私とローさん、皆の思い出がこのノートには詰まっているんですから」
「ほォ?拝見させてもらおうか」
「え、ああ!ダメです!」
慈悲なく日記を奪い去ったロー。
焦りに焦り奪還しようとすれば上から端正な顔が近づきチュ、と唇を塞がれる。
息苦しくて驚く。
「ん」
「なんだ?して欲しくて近づいてきたんだろ?」
「返して欲しくて、ち、近付いたんですっ。不意打ちとか、ローさんのバカ!」
「そんなにキスして欲しいなら早く言えよ」
バカと言っただけでキスをされるなど羞恥の極み過ぎる。
カアッと顔が熱くなるのを感じつつ日記に手を伸ばすと更に上へ高く上げられ困った。
さすがは百九十一センチの長身。
平均より低い自分では到底届かない。
その間にローは日記を開き音読し始める。
「おれと付き合う前の日付か。王様ゲーム事件?タイトル全部に事件って付いてるじゃねェか」
「うう。その方が事件っぽくていいかなって……」
照れながら言えば彼は興味がなさそうにまた読んでいく。
この人は鬼畜か。
「私はその日──」
その日、廊下を歩いて入ればローの部下であるベポが声を掛けてきた。
今から王様ゲームをしないかと。
最初はえ?と耳を疑ったが楽しそうな行事に暇だったこともあり参加をして彼について行った。
扉の前に付くとシャンクス元帥の部屋だと分かり成る程と彼が考えそうな遊びに納得する。
ベポがノックをして部屋に入ればニコニコと上機嫌な男性が出迎えた。
「よく来たな!入れ入れっ」
「なんだか今日はいつも以上にテンションが高いですね」
「えっ」
「え?」
指摘したというよりただ思った事を口にしただけなのに過剰に反応し固まる相手に疑問の声が漏れる。
何かを企んでいるのかと首をかしげたが自分には疚しいこともなかったので思い違いかと思考を振り払う。
「シャンクス元帥。王様ゲームするんだろ?セレスティアも連れてきたけどこれじゃあ人数が足りないぞ」
ベポが喋りだし硬直していたシャンクスがそれなら大丈夫だと言った。
すると部屋の扉を叩く音が聞こえルフィが顔を覗かせシャンクス!と彼に飛び付く。
ここは原作を連想させる。
ほのぼのと生暖かい目で二人を見ていると次はキラーが現れた。
意外な人物の登場に驚いていると彼はこちらを見て微笑んだ気がしたがマスクで分からない。
それからホーキンス、ゾロまでも部屋に来て全員とはいかないが原作でのルーキーが揃う。
そんな面子に囲まれ少し興奮してしまうのは彼らがかっこいいからだと乙女思考の自分。
キッドやローが居ないことを残念に思いながらシャンクスに呼ばれたのだろう彼らは王様ゲームをしに来たと揃いも揃って言うのでにわかに信じられない。
ゲームに参加できるほどこの時間はみんな暇なのか。
と思っていればキラーが面白い話が聞けるというシャンクスの言葉に集まったのだとか。
中途半端にしか思えない集め具合に更に謎は深まっていく。
揃ったし始めるかというシャンクスの言葉でゲームは始まった。
王様だーれだ、という合言葉と同時に割り箸を引き色が付いたものを引いた人が王様。
番号は下自民というシンプルなもの。
一番最初に引いたのはルフィだった。
シャンクスはルフィだと知るやゴニョゴニョと耳打ちする。
フェアでなくなってきたぞこのゲーム、と嫌な予感が迫り現実となった。
「最近、女と、夜を、過ごしたのは、何日前だ?」
誘導されながら言われた質問にシャンクスに向かって軽蔑の念を送る。
シャンクスはニヤニヤと笑い、ルフィは四番と指名した。
なんとゾロで、答えは「女と過ごす暇なんてねーよ」といかにも彼らしい答えに安堵の息を漏らす。
シャンクスはつまらなさそうにふーん、と言う。
続いての王様はシャンクス。
もう嫌な予感しかしない。
「二番、トラファルガーとの関係を吐け」
「えー、これが目的だったんですかぁ?」
「とーぜんだ!さァさァ吐け」
この手の質問はかれこれ少し前からあちこちで聞かれセレスティア自身飽き飽きするほど同じことを繰り返す。
「だから私は、ローさんとは何にもないですってばああ……」
「職場恋愛はありだとおれは思ってる。だから隠さなくてもいいんだぞ」
シャンクスは勘違いをしている。
何故ならローとは恋人でも何でもなくただの雑用として共にいる時間が多いだけなのだから。
キラーがその質問は平等性に欠けると意義を唱えてきたのでシャンクスがまたニヤニヤと笑い出す。
もう顔が元帥ではない、興味が旺盛なオジサマと化している。
「お前んとこのキッドもどうやらお熱らしいなァ?一人の女に」
「そこまでわかっていてこのゲームをするということはつまり、そういうことでいいんだな」
キラーから本気のオーラが漂い始め王様だーれだ、と棒を引く。
というか、あのキッドに好きな人がいたとは初耳だ。
「ホーキンスか」
今度はホーキンスが引き当て五番はローとキッドに悪戯をしてこい、と命令する。
何だかこのゲームに限定されたメンバーしかいない理由がわかった気がした。
しかもピンポイント攻撃とは。
自分の割り箸の番号を見て五番を確認すると立ち上がる。
イカサマゲームをしている心地になるが我慢だここは。
何故セレスティアの持っている番号を当てられたのかはわからないがホーキンスだからと納得するしかない。
かくして、壮大な悪戯をしに部屋へ向かった。
王様ゲームのかもにされ挙げ句集団詐欺という名の標的されたセレスティアはホーキンスに言われた通りにローとキッドに悪戯をするという命令を頭の中で繰り返す。
まずはキッドの部屋に向かった。
ノックをすると返事がなかったのでドアノブを捻り中を窺うも誰も居なかったので肩の力が抜けトボトボとデスクに近寄る。
少しゴテゴテした装飾の椅子を見て座りたくなりうずうずし少しだけでも、と座った。
くるくると回ったりしていると眠たくなりぐったりと身体の体重を預ける。
***
それから十分後、キッドが戻ってきた。
「うおっ!?なんでいんだ、しかも寝てやがる」
キッドは訳が分からず、でも悪い気もしなかったので起こす真似などしなかった。
どうして此所にいるのかは知らないがローがいない今、彼女を独占出来る時間に口許が上がる。
ローが数ヵ月前に連れてきた身元不明の自称異世界人と自らを名乗る女。
最初こそスパイか何かかと疑ったがそんなものを塵にも感じさせない性格と分け隔てなく誰とでも話せてしまうセレスティアをいつの間にか目で追うようになった。
くるくると表情が変わり喜怒哀楽が一番出やすい。
なのに怖いものや泣くことも少なくない。
あの白髭と呼ばれる海軍の英雄にも近づく胆の座った背が小さい彼女。
かと思えば失敗や悲しいことがあると泣くし弱音も吐く一般人としか思えないこともある。
異世界云々は別に注目することではない。
あのトラファルガー・ローが彼女と付き合っているという噂だ。
どちらも否定している。
セレスティアはきっぱりと言うのだがローの方がぼやかすらしい。
『どっちだったらお前は嬉しいんだ?』
不意に甦るローの胸くそ悪い笑みと言葉にギリッと奥歯を無意識に噛み締める。
どちらだとしても奪えば問題ないとキラーに溢したところ「問題大有りだキッド」と言われた。
どこが問題なのだと不機嫌になると右腕はため息をついて、
『あのトラファルガー・ローから簡単に奪えるわけがないだろう。たとえお前でもな。という前にまだあの二人は付き合ってすらないぞ』
忠告をされそういえばまだ付き合ってなかったのだと思い出す。
結局はどちらでも手に入れたい女であることに変わりはない。
そこでキッドの目に彼女の薄い桜色の唇が入りハッとなる。
周りを見回し外に人の気配がいないか確かめそろそろと女に近付き椅子の前に近付き腰を屈めた。
起こさないように優しく口づけをしようとすると本人が小さく唸りビクッと肩が揺れる。
急いで二歩後ろに下がると睫毛がふるりと揺れ薄く瞼が開き数回瞬きをしたセレスティアに心臓がばくばくと鳴るのを感じたキッド。
あと少しで、と悔しい気持ちに内心舌打ちし不機嫌になる。
しかし、どうにか冷静な顔をして彼女を見る。
「あ、私……寝て?っ、ああ!?しまったあ!」
「何がだ?」
「キキキキッドさんんんん!そ、それは、ですねっ、あの、キッドさんに、に」
「に?」
何か言いたげなセレスティアは突然キッドの身体に突進してきた。
***
起きるとキッドが目の前にいて本来の用事を思い出し悪戯しに来ましたなんて言える訳がなくどうしようと迷い取り敢えず逞しい身体に飛び込んだ。
悪戯など生まれてこのかたしたことがないので訳も分からず見切り発車のような事をしてしまった。
そろりとキッドの顔を見ようとすると黒いマニキュアが塗られた爪が特徴的な手に両目を塞がれる。
戸惑いどうしたのかと聞くと震えた声音で見るんじゃねえ、と言われ下を向く。
「あの、私、皆さんとしているゲームの指示に従ってるんです。迷惑をかけてしまってすいませんでした……」
しょんぼりとなりながら謝ると背中に圧迫を感じ気落ちしてしまった表情で上を向く。
すると真面目な赤い瞳とぶつかりドキリと胸が甘い響きを奏でる。
筋肉ががっしりと付いた胸板を手の平がリアルに感じ取り、それすらも鼓動を早めるものでしかない。
暫くまるで抱き合っているかのような姿勢で徐々に顔が紅色に染まるのをじわりと感じた。
時計の音しか聞こえない中、ふわりともう片方の手が自分の頭にふんわりと乗せられくしゃくしゃと撫でられ反射的に目をキュッと閉じる。
「別に迷惑じゃねえよ。だから泣きそうな顔すんじゃねえ」
「っ、でも」
「あいつらにカモにされたんだろ?んなもん簡単に想像出来る」
そうして髪からおでこに指が移動しパコッとデコピンされる。
いたっ、と洩らせばキッドのからかいを含んだ笑みが見えホッとした。
「まだやることあんのか」
「はい。ローさんにも悪戯しなきゃいけないんです」
「くく、精々仕返しされねーようにな」
と、楽しそうに忠告されうっと言葉に詰まる。 あり得そうなことに苦笑して頑張りますと彼の部屋を出た。
さてはて、どうしたものかと腕を組む。迷わずローの自室へ歩いてはいるが闇雲に悪戯をしようものなら返り討ちにされるのが落ちだ。
それを回避するには策を考えなければいけない。
しかし、よい案が浮かばないのでもうこれは突撃するしかないだろうと覚悟を決め、辿り着いたローの執務室のドアノブを掴みそろりと開ける。
目を閉じていたのだが何の反応もなかったので恐る恐る開けばそこには居眠りをしている珍しい姿があったので安堵した。
それと同時に可愛らしい寝顔を拝見したくなり近付く。
そういえばベポが寝起きのローは危険だから近付くなと言っていた。
だが、今まで寝顔どころか寝起きすら拝んだことがなかったので恐らく寝起きは不機嫌になるのだろうと予想する。
よく見ていた夢小説では正しくそのバージョンが圧倒的に多かった。
そう思い出しながらソロソロと寝顔を覗き込む。
椅子に凭れて寝息をグー、とかいていたのでくすくすと笑い声を潜めてカメラを持ってきていないことを後悔。
悪戯をしようと驚かせる作戦を思い付く。
(そうだ、もう夜だって言おう)
まだ昼なのだが時計を見る前に騙そうと身体を揺さぶり起こす。
ローの名前を連呼していればゆるりと目が開きチャンスとばかりに嘘を吹き込む。
「ローさん、寝過ぎですよ。もう夜で、んむ!?」
ボーッと寝惚け眼で見詰めていたかと思えば急に顔を近づけキスをされる。
いきなりのことに固まっていればとろんとした表情で目を薄く細めた彼はセレスティアの後頭部に手を置きグイッと押さえ付けてきた。
「ん、んん!?ん~!!」
これは絶体寝惚けているのだと頭では理解していたが、初めての受難に脳内は混沌と困惑が混ざり合いただ抜け出すことしか考えられない。
その間にもキスは深くなり貪られるように何度も唇が重なる。
引き結んでいた唇も割られローの熱い舌が進入してきてもうお手上げ状態。
翻弄される口内は彼にされるがまま。
酸欠と腰が砕けるかと思うような上手さに頭は真っ白と化す。
離れたのは数分後でくたりと傾いた身体は彼の胸元に落ちた。
「ん……」
「へ?」
再び椅子で寝たローを見て唖然としたセレスティアだった。
それからローを起こさないように部屋を出ていくと少ししてシャチと出会う。
ローのことを聞かれ寝ていると報告すれば顔を蒼白にして起こさなかったな、と凄い剣幕で聞かれつい頷いてしまう。
「前からシャチさんそう言ってるけど、どうしてなんですか?気になります」
「う、こ、これはな!海軍の秘密なんだよ!」
「えええ!起こすことが、ですか?余計に気になりますよ」
と、粘って粘って粘り通すとシャチは渋々教えてくれた。
「少将はな、寝起きにキス魔になんだよ」
「………………え」
「だ、だから言いたくないんだよ!」
「そ、そのことは本人は知っているんですか?」
「知らねェんだ、実は」
「どうしてですか?」
「被害者は一人や二人じゃねーから、今更んなこと言えば少将は落ち込むとかいうレベルでは済まないんだよ……それに被害者側も言いたくねェんだろうよ」
「あ"ー、あ"~!!」
堪らず奇声を上げると目の前にいたシャチがどうしたんだよ!?と汗をかきながら怪訝に聞いてくるが答える余裕などないくらい羞恥心が身体中を駆け巡り先程のキスの感触を思い出し再び奇声を上げるの繰返し。
キスを返してとはベタなことまでは言わないからせめて記憶から消し去らせてくれと願う。
まだローが覚えていないことが救いかもしれないと思うが恥ずかしくなり、やはり頭を押さえ苦悩した。
落ち着くまでシャチは居てくれて何とか平常心に近い心理状態まで戻ると彼と別れてシャンクスの部屋に帰還。
こうなった原因に報復しようと彼の大好物である餡マンに辛子を仕込んだのであった。