短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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ツンデレが成熟したら

それは突然の事だった。

ふわっと体が浮くような感覚を感じて辺りを見回すと向こうから黒い点がやってくる。

なんなのだろうと首を傾げていると黒い点が人形に変わりつつあり、それが名を読んでいる事に気付く。

 

「あれ、ロー?」

 

「漸く見つけた!」

 

息を激しく乱している訳ではないが、ぜェぜェと聞こえてきそうな程疲れた顔をしている。

 

「見つけてくれたの?ありがとう」

 

「は?お前なんか、探すかよ」

 

さっきはその口で漸く見つけたと叫んだことを棚に上げる。

しかし、それがローなのだ。

ローはツンデレとヤンデレと変態が混ざったあべこべな性格をしている。

 

「ふふ」

 

照れ隠しと分かっているので微かに微笑んで流す。

リーシャが笑った途端、ボウッと顔を見てきて、頬を紅くさせる。

第三者曰く、見惚れている時の顔だ。

太陽の眩しさを目にしているように見えた。

 

「今日の下着、見せろ。お前が本物か確かめる必要がある」

 

変態がひょっこりお出ましだ。

 

「やあよ」

 

「!」

 

拒否した途端、ぷるぷると震えるロー。

下着を見せる事を拒否した事ではなく、リーシャの口から否定が飛び出た事にショックを受けているらしい。

手に取るように分かる。

結婚してから何十年も共にしてきたのだから。

 

「ふざけんなっ」

 

ーーガバッ

 

ーーギュウウウウ

 

暴言を吐きながらぬいぐるみに抱きつくようなやり方で抱き締めてくる。

 

「私が嫌と言ったのは、今するべき事ではないからよ?無駄な時間を作りたくないもの」

 

「………一理ある」

 

納得しているのに何故まだ自由にさせてくれないのか。

まだ抱き締めている。

 

「ねぇ、歩けないから解いて?」

 

「俺から離れたらお前死ぬぞ。お前は弱いんだからな」

 

と言って、ギュムッと手を絡める。

没年が幾つか曖昧になっている記憶。

しかし、ローと離れる気配もない。

 

「仕方ねえからお前を引っ張って行ってやる。お前トロいんだから。後で俺が面倒になる前に未然に防ぐ方が合理的だ」

 

訳「お前と離れるなんてあり得ない。お前は俺の妻なんだから離れるなんて許さない。迷子になっても見つけるけどな。お前と居たいだけだ」

 

はい、これが本音と建前です。

え?何かの間違えって?ないない。

半世紀以上も苦楽を共にしたローの内心は分かりあっている。

年齢が年齢であったならツンデレじいさんとでも呼ばれていただろう。

デレるのは見惚れていてものにぶつかったりものを落としたりする時だ。

結構分かりやすい。

恋する乙女モードと密かに付けられている。

凄いぴったり過ぎて自分でも嵌まり過ぎだと思った。

 

「あと少しでプラチナ婚だったのに」

 

悔しげに言われ、プラチナ婚について思い出す。

金婚式よりも長い日数の先にある名前だったような。

 

「私達それよりも前から付き合ってたんだから、プラチナ婚はもう過ぎてるようなもんだと思うよ」

 

ハッとした顔でローがこちらを見て、熱に浮かされた顔で声を震わせる。

 

「今の、なんだよ」

 

「?」

 

カタカタと震える。

 

「プラチナ婚のプラチナっていう発音、お前、なんだよ。プラチナって、もっぺん言え」

 

どうやら、お気に召したようだ。

端から見れば怒りに身を任せて今にも殴りかかってくる男に見える。

しかし、長年のツーカー的なもので分かる。

 

「プラチナ?」

 

「は?おま、馬鹿か!もっと舌ったらずに言えよっ」

 

「ぷらちな」

 

「!ーー俺を誘惑するなんてお前何なんだ。他のヤツが居なくて良かったな!お前が舌ったらずにしゃべったってバレずにすんだんだからな!(俺は今こいつの発音で二度死んだな絶対。聞いたヤツ居たら許されなかった)」

 

一々ローの内心を説明するのも二度手間なので文面的にご都合という不思議パワーをやってみた。

え?メタい?

まぁまぁ。

ツンデレじいさんとは良く的を得ている。

 

「ここにいつまでも居る訳にはいかないね」

 

「別に俺は」

 

「ほら、歩こう」

 

「チッ」

 

舌打ちは構って欲しいのに外せない用事が出来て構ってもらえなかった事への舌打ち。

 

「そういえばローも指摘しないから違うかもって思ってたんだけど、私達、若返ってるわ」

 

「ああ」

 

何歳くらいだろう、五才以上ではあるだろうけれど。

 

「手、ちっちぇ」

 

ローが紅葉のようなリーシャの手を恍惚な顔でふにふにしている。

 

「ローもちっちゃいね」

 

「!、は、お前よりは男らしい手だ。お前なんて柔らかくてスライムみたいだぞ」

 

ツンデレェ。

 

はい、これが突っ込みね。

 

「だから、こう、やって」

 

ローは横抱きにし始めて運ぶ。

歩いても疲れないのに。

 

「お前なんか俺にかかればこうされるんだ!」

 

ツンデレェ。

歩かせたくないから横抱きにしたんでしょうね。

そういえば何度か疲れたなって呟いたら「軟弱な女だな、仕方なく俺が肩を揉んでやる。肩を揉む夫を持てて嬉しいだろ?」って言ってたかも。

その数日前にお隣の老夫婦の息子相手に何やら「じいさん強いな」「こうか?」「柔らかすぎだ。こんなんで肩が解れない」「この野郎、うちの嫁はナイーブだからお前が弱くてもアイツはうっかり複雑骨折する」「じいさんの嫁に対する裏での努力がナイーブに見え、ぐあ!いってえ!俺の肩が粉砕するわあ!」「うるせぇぞ青二才、お前なんてはなから俺の女の代役なぞ勤められると思い上がるのが悪い」「うわー、まじかこのツンデレじじい!」「なんだとこのーー」って言い合う声が縁側に居て丸聞こえだったなー。

 

「そうね。とっても便りになる」

 

「馬鹿だなお前は。だからお前は俺と離れられねェんだ。分かったなら離れようとなんてしない方が身のためなんだからなっ」

 

ツンデレ、いや、甘酸っぺーよ!

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