短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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旦那様は七武海7ー9

「ワンツーワンツー。はいそこ回ります」

 

どうも皆様こんにちは、ヒロインみたいな登場数を誇るリーシャです。

 

今、ダンスを練習しています。

 

勿論貴族ですので慣れています。

 

でも好きではないです。

 

何故かというとダンスをするという事は夜会やらパーティーやらに行く予定があるというのをひしひしと感じるからです。

 

「はい、今日はここまでにしましょう」

 

と言うのはここの使用人歴が凄く短いシャチだ。

 

そして、ダンスのお相手はロー。

 

驚いただろ?

 

しかも結構様になってるんだぜ?

 

いつから貴族の嗜みを習ったのか知りたいよね。

 

しかも汗り一つかいていないんだから余計に何か腹が立つ。

 

こちとら離婚をじきに渡す女だからね。

 

本当はパーティーなんて行きたくない。

 

だって、ローが海賊だから男の貴族には穢らわしそうに遠目でみられるし、女にはこんな色男が近くに寄っているから僻みと羨ましそうな目で射殺される。

 

もう血反吐な夜会だ。

 

ある意味ドロドロとした場所だから血反吐も違和感はないだろうが。

 

お腹が痛いと訴えてボイコットしようかとも考えている。

 

イケメン滅しろ×無限。

 

全国のイケメンとローのファンの皆様すみません。

 

でも彼は見目が良いから目の保養にはなる。

 

でも親の敵を見るような視線は耐えられない。

 

女の嫉妬は閻魔も食えないだろう。

 

「旦那様、何かお飲みになられますか」

 

「ああ」

 

休憩はコテージだ。

 

前は何かをする前に颯爽と何処かへと行ってしまっていたのに、近くに居る様になった。

 

やはり、自分が変化したからか。

 

それともローの思考が壊れゲフゴフ!

 

取り敢えずコーヒーを入れてクッキーでも摘まもう。

 

「どうぞ」

 

「…………」

 

特に何も言わない男はこちらをジッと見ている。

 

観察しているとも取れる。

 

「…………ふう」

 

座って一息付く。

 

見られているのを感じるが一々気にしていられない。

 

タオルを首に押し当て首筋に流れた汗を拭く。

 

「へェ、色気を感じるな」

 

「旦那様、妻をそんな目で見るものじゃありません」

 

「……お前はおれを何だと思ってんだ」

 

「え?男ですが?」

 

「まあ……間違っちゃいねェが……」

 

聞きたかったのはそんな言葉じゃないと目で言われたが、欲しがったってそんなに簡単に言葉をくれてやらない。

 

いずれ元旦那となる相手にそういう駆け引きめいた話しをするのは時間の無駄だ。

 

意味深な事を言われても、彼はリーシャを女として見放し捨てた。

 

だから、自身にとっても彼は過去の人なのだ。

 

もう人とすら思わない。

 

リーシャの存在を飼い殺したも同然。

 

勿論、父親にも償ってもらう。

 

一人の人間の人生を差し出してはした金で売って、甘い蜜を啜ったのだから。

 

もしかして少しでもローに気が合るんじゃないかと思いましたか?

 

いいえ、言うなればこれは無関心に近いだろう。

 

恨んでいるかと言われればよく分からない。

 

恨むというのがどれくらいの度合いで恨んだ事になるのか分からないし、それに、恨む人生よりも妻と言う契約の鎖を引きちぎるのが先だ。

 

「旦那様、次にお出かけになるのはいつになりますか」

 

彼は一度外へ行くと暫く帰ってこない。

 

恐らくあと半年くらいで原作に沿うならばその後帰ってくる確率は果てしなく低いだろう。

 

あの寒い土地へ滞在し、王下七武海の称号を剥奪される可能性もある。

 

ほぼ確実に予想される未来に、彼の音沙汰がなくなる前に早く婚姻関係を破棄してしまおうと決めていた。

 

だから、猶予は半年だ。

 

「そうだな……暫く居るつもりだ」

 

「あら珍しい。別にこちらの事は気にせずお仲間の方々とお過ごしになっても構いませんのよ」

 

お仲間とは、ベポ達の事だ。

 

でも、ペンギンとシャチはこっちに居るから仲間と過ごしているといったら過ごしているのかもしれない。

 

だから、此処に居ると言ったのかもしれない。

 

「……いや、あいつらは別に大丈夫だ」

 

こっちは凄く迷惑だけどね。

 

黒い太文字で呟く。

 

色々と作業の邪魔だ。

 

碌に帰ってこなかった癖に今更長期に居座られるなんて迷惑以外の何者でもない。

 

帰ってくれ。

 

心の中では大反対だが、顔には出さない。

 

それが妻の勤めだ(違う)。

 

兎に角鬱陶しいハエだと思って気にとめない事にした。

 

それにしてもローの発言から仲間の信頼を感じる。

 

ペンギン達は顔には出ていないが心の中では嬉しい涙でも流しているのだろう。

 

その良心がちょっとでも結婚生活にあったのならば、少しくらいこれからの冒険の手助けくらいはしてあげたのに、誠に残念だ。

 

別に愛してくれと言っている訳ではない。

 

ただ、こんなに寂しくて虚しい生活に押し込めないでと思っているだけだ。

 

今更何を言っても無駄なのだが。

 

言っても彼はこちらに笑顔も良心も向けてはくれないだろうな。

 

「ふふふ。それはそれは……さぞ楽しい居場所なのですね」

 

ひがんでないよ、羨ましいだけだから。

 

このクソヤロウ。

 

 

 

血肉湧き上がる、湧き踊る……どっちが言葉として正解か忘れた。

 

つまり、パーティーへやってきたのだ。

 

この世界では夫婦なリーシャ達だから当然夜会もパーティーも多い。

 

やはり思っていた事態にあった。

 

男達は畏怖やら怯えた目で遠巻きに見ていて、女達はローに惜しみなく色目を使っている。

 

そんなに羨ましいなら変わってよ。

 

まあそれが出来ないからリーシャに彼との結婚というお鉢が回ってきたのだ。

 

見る分には良くて旦那にするには不良物件、野良犬物件と言った所か。

 

貴族が純潔の血統証付きの犬で、庶民は雑種で無法者は何者にもならない野良。

 

良くてボスレベルの大将か。

 

兎にも角にも、現代の一般庶民の時の記憶があるので貴族の世界がまるで別世界のように気味が悪く思えた。

 

一秒でも此処に居たくないと思わせる。

 

海賊が居る世界の貴族は特殊だ。

 

ローとてこんな場所には本来居ない筈の無法者だ。

 

さぞ心苦しい思いで苦渋を舐めているだろう。

 

元々七武海の役割は他の無法者の牽制と力の誇示を見せる役割を持つ。

 

なので貴族にはそこまで作用しない。

 

確かに一般人にはあまり害のない海軍の犬だろう、けれど違う。

 

鎖に繋がれていると見せかけ、いつでも牙を向く準備は整っている。

 

他の七武海だって、恩恵に浸かっているだけで、海軍を毛嫌いしていないわけではないのだ。

 

どの人間達も犬を辞めたって痛くも痒くもない強者達だろう。

 

ローだって一年後くらいには海軍を裏切りあの暑い国へと戦いを挑む。

 

それも、強力な助っ人を得て。

 

それに巻き込まれない為にも離婚は必然だ。

 

ローの弱みになると思われて命を失う事は絶対に避けたい。

 

出来れば完全に縁を切りたいが果たして敵はそう思ってくれるのか不明だ。

 

でも、出来うるならば離れた所で手の届きにくい場所に家を移して住みたい。

 

マリージョアとかはどうだろうか。

 

でも、天竜人が居るし、会うのは嫌だ。

 

悩んでいるとダンスの曲が流れ出した。

 

それに合わせて同じくパーティーの端で壁と同化していたローが「行くぞ」と述べる。

 

この為の妻なので仕方がないと黙って手を取った。

 

端に居ても人は全く寄りつかない。

 

ぽっかりと此処だけ周りに何もないし、誰も居ない。

 

まあぶつかる心配もないし、話しを聞かれないので楽ではある。

 

そして、誰もリーシャに話しかけてこなかったのは今世の自分の悪女っぷりのせいだ。

 

噂をしている者も居るに違いない。

 

使用人を全員クビにしたのも悪役令嬢の世迷い言だと思われている事だろう。

 

それでこそ計画通りだと安堵する。

 

踊っている間に思案にしていた事が分かったのか、ローに声を掛けられた。

 

「お前はおれの事を恨んでいると思っていた」

 

(別に間違ってないけど)

 

まるでそれは間違いだと言われているようで眉根をしかめた。

 

それをどう捉えたのか、見当違いの返事が来る。

 

「勘違いされて怒ったか?」

 

怒ってないし勘違いでもない。

 

正反対に食い違いが起こっているが、訂正するのもおかしいのでしなかった。

 

彼はどうやら嫌われていないと思っているらしい。

 

呆れる。

 

「そうカリカリするな」

 

だからしてない。

 

「旦那様、お言葉にお気を付け下さいませ」

 

暗に黙れと言うとクスクスと笑うロー。

 

何を笑っているのだこの勘違い大魔王は。

 

もしかして、恥ずかしくて黙れと言ったと思われているのか?

 

そうならば何を言っても墓穴を掘るのみだと内心溜息を吐いた。

 

ダンスが終わると水を飲みたくなってウエイトレスの格好に似たボーイに水を貰う。

 

ローとは少し離れてしまったが彼も良い大人だ、平気だろうと一口水を含む。

 

こくりと喉を動かした途端にパシャリと跳ねる水音が耳に聞こえた。

 

正面を見据えるとクスリと悪意の満ちた笑みでこちらを見ている令嬢が視界に入る。

 

パーティーお約束の洗礼、というよりただの嫌がらせだろう。

 

「あらあら、ごめんあそばせ。大切なドレスにワインを零してしまいましたわ」

 

「……お気遣いなく。直ぐに帰るので」

 

「まあ、トラファルガー様はまだ居続けるようですが?」

 

「貴女がワインを零したのなら帰る理由は分かっていますのよね?なら代わりに説明してもらえるかしら、皆様に」

 

どうやら彼女はローが目当てらしい。

 

謝るから夫にも会わせろという魂胆ですね、分かります。

 

だが、そうはいかせない。

 

ここまでしたのなら相応の裁きを与える。

 

「っ」

 

忌々しげに顔を歪める。

 

こっちが歪めたいんですけど。

 

何か言おうとする相手の令嬢の声を他の声が遮(さえぎ)る。

 

「貴様!誰に向かって言っているのか分かっているのか!?」

 

これはリーシャに向けての言葉ではなく、向こうの騒動の怒声だ。

 

こっちもあっちも今日は賑やかだ。

 

疲れる。

 

しかも、怒鳴った貴族の相手はローだった。

 

疲れる。

 

大切な事なので二回言う。

 

酷い日だ今日は。

 

もし止めなかったらローが相手にどう対処するか予想出来ない。

 

もし此処で不祥事が起きたら離婚が遠のくのでフォローしに行く。

 

やれやれと人混み、野次馬を押し退けて向かうと騒動の中心へと出た。

 

相手は顔を真っ赤にして中傷を言い出す。

 

「だから貴族のパーティーに野蛮な輩を入れるべきではないと唱えたのだ!」

 

「じゃあその異論を今すぐ言いに行けよ、海軍のお偉方に」

 

「ぐう!」

 

「まァそんときゃお前が潰されるだろうなァ?明日には貴族達の間で過去の存在になってるだろうな」

 

「っ、言わせておけばっ」

 

今にも殴り掛かりそうな相手に呆れる。

 

我を忘れているからか、彼は相手を誰だか判断出来ていない。

 

止めといた方が身の為だ。

 

攻撃したら最後、瀕死にされるだろう。

 

「失礼させていただきます」

 

一発触発の雰囲気に場違いの言葉を入り込ませる。

 

ん、と言うような顔でローはこちらを向く。

 

「何だ貴様は!」

 

そんな悪代官のような台詞を人はフラグと言うんだよ君。

 

「そちらに居ります彼の王下七武海、トラファルガー様の妻でございます」

 

王下七武海の言葉に肩を大袈裟な程震わせる相手にやっと話しが出来ると落ち着く。

 

「どうか今し方の粗相」

 

手に持っていた水が入ったグラスを頭上に掲げて、

 

──パシャッ

 

「なっ」

 

逆さまにして自身の頭からぶっかける。

 

相手の貴族の唖然とした顔が見えた。

 

こんな程度で驚くなんて小心者というのが丸分かりだ。

 

「これで許してもらえないでしょうか?」

 

最後に令嬢スマイルを一つ。

 

相手は引きつった顔で何も答えない。

 

無言は肯定と受け取る。

 

これにて終了だと息を一つ吐けば、その途端、浮遊感に見回れた。

 

突然の展開に上を見上げるとローが前を向いて歩き始めている所だった。

 

野次馬がモーゼの海のように割れるのを見ながらグラスがいつの間にか手元に無い事に気が付く。

 

「旦那様、私のグラスを知りませんか?」

 

「適当に入れ替えた。誰かが持ってるだろ」

 

入れ替えたと言う言葉に一瞬はて?となるが、そういえば彼の能力にそういったものがあったようななかったような、そんな記憶がぼんやりと甦る。

 

思考の波に揺られていると彼の足がコンパスだからなのか、部屋の一室へと連れ込まれていた。

 

「あら、お早いですね。パーティー会場から離れていたのに」

 

「能力だ」

 

また能力を使ったのか。

 

こちらも薄々蘇ったのだが、彼の能力は使えば使うほど能力者の体力が減っていくのだという事を思い出す。

 

夢小説にも本作にも詳しい消耗の度合いが詳しく説明されていなかったので、彼が疲れているのか疲れていないのか判断し辛い。

 

そうやって考えに身を委ねていると体がやっと降ろされる。

 

そう言えば何故此処に連れてきたのだろうか。

 

「何故あんな事をした」

 

「あの時既にドレスは汚れていたので水に濡れるくらいどうって事ありませんわ」

 

「そういう事を聞いてるんじゃねェ」

 

「はぁ……でしたらどのような理由をお望みで?理由が欲しいのならば付け加えますわよ?」

 

実は、一度でも言いたい言葉ランキングに食い込んでいた台詞だ。

 

かっこいいと思ったので、ローの台詞を置き換えて使用した。

 

ルフィを助けた時に言った言葉だと記憶しているが、結構使いどころがある。

 

そして、肝心のローだが、そう宣(のたま)った途端にハッとした顔になる。

 

流石顔芸だ。

 

「それもそうか……」

 

どうやら今の言葉は効果的だったらしい。

 

そりゃあローですら理由を求められる事を億劫と思っているのだから、相手から言われると納得せざる終えないのだろう。

 

まあそれを見越して言ったのだから計画通り、思惑通りと言った所か。

 

しかし、次の言葉で思考は乱れる事になる。

 

「取り敢えず脱げ」

 

「断る」

 

「…………?、早く脱げ」

 

今の『断る』と言う言葉がリーシャから出た事を怪訝に思ったようなローの顔は直ぐさま切り替わる。

 

でも、だからと言って従う訳ではない。

 

「旦那様、余程変態になりたいとお見受けいたします」

 

その発言にギョッとしたローは「は?」と眉を下げる。

 

下げたいのはこっちだバッキャロウ。

 

 

 

ローが脱げ脱げと煩いので平手打ちしたくなるのは仕方がないと思う。

 

殴りたくて殴りたくて殴り倒したい。

 

亭主関白、今休業中なんだけど。

 

従う従僕な妻を演じる気力は既に尽きているのだ。

 

ムカつくので無視していると、あろう事か脱がしてきた。

 

既に手をかけている状態で、彼の手の上に手を乗せる。

 

「脱ぎません。離して下さい」

 

「風邪を引く」

 

「構いません。旦那様も私の事は気にせず寝て下さって構いませんわ」

 

寝る為に部屋へ入ったのではなかったのかよ。

 

苛々する気持ちを押さえて静かに言うと、今度はローが苛々した声音で言い返してきた。

 

「お前からおれはどんな鬼畜に写ってるんだ」

 

「どんなとは、今正に脱がしていますその姿以外にございましょうか?」

 

相手の言葉を取って返すとプチっという微かな音と共に留め具が壊れた。

 

この男はドレスを何だと思ってんだ。

 

確かにクローゼットには服が入ってるかもしれないが、ドレス一着幾らだと思ってんだこいつ。

 

おっと、つい前世の金銭感覚でものを言ってしまった。

 

そうだ、今の自分はお金持ちの側だった。

 

ついつい大昔の感覚に引きずられて内心苦笑。

 

「お止め下さい、変態の称号を与えますよ?」

 

「なんとでも言え」

 

本当にシレッと気にしていない風に言うので、此処までかと思うくらい色々口に出して、考えられる限りの言葉をぶつける。

 

そして、徐々に不機嫌になっていく顔に勝機は近いと踏む。

 

女に此処まで言われて黙っていられるかな?

 

ドレスは見た目以上に厄介で、着るのも脱ぐのも時間が掛かるのだ。

 

手間取っているらしいローに続々と変態と浴びせる。

 

「さっきからごちゃごちゃ煩ェ」

 

「!」

 

それはほんの一瞬の隙だった。

 

集中して脱がされ掛けている事がなければ避けられるか防げただろう。

 

唇を奪われた。

 

その単純で明快で確かな事実は数々の思考を停止させるには十分過ぎた。

 

止まってからは、どこに隠し持っていたのか、愛刀を手に持ち唇を離す。

 

「スキャン」

 

「?……な!」

 

服が一瞬で無くなった。

 

スキャンて、コピーとか取り込むとか言う意味じゃないの!?

 

と混乱。

 

「か、返して……!」

 

つい敬語を忘れ、ローの手の中にあるドレスを奪い返そうと手を伸ばす。

 

しかし、ひらりと避けられそのまま肩に担がれる。

 

ほぼ下着だけの姿で担がれるとスタスタと扉を開く男に目を白黒させた。

 

開けた先で見たのは浴室だった。

 

降ろされて立ち尽くしているとドアをパタンと閉められて閉じこめられる。

 

向こう側に居るローにドア越しで抗議すると早く入れと言われた。

 

「温めるまで此処からは出さねェ」

 

その言葉に本気だと脱力する。

 

風邪を引かれると困るのはローのみだ。

 

という事だろうか。

 

別にリーシャは引いたって気にしないのに。

 

納得出来ないままシャワーを浴びてお望み通りにお湯を染み込ませた。

 

染み込ませた、は可笑しな表現かもしれないが、特に気にする事ではない。

 

ザーッとシャワーに当たっていると、不意にローがキスした瞬間がフラッシュバックして忘れようとしていたのに思い出す。

 

赤面する顔やシャワーよりも熱い温度になった身体に、声にならない羞恥心の悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生して初めての接吻の相手が旦那だと?ロマンを詰め込み過ぎて酷い。

 

まだ好き同士なら良いのに好きじゃないとか絶望的過ぎる。

 

こうなったらキスをした過去を亡き者にしよう。

 

そうしよう、良い考えだウンウン。

 

「旦那様」

 

「あ?」

 

ノックをして優雅に挨拶。

 

今まで部屋に居なかったのに面倒だ。

 

「準備が出来ました」

 

「朝食か……まァ此処に居る間は食べるしかねェか」

 

(仕方ないならとっとと出てけよ政略婚野郎)

 

おっと思わず悪態が、私ったらおほほほほ。

 

「ささ、どうぞ」

 

妻らしく扉を引いて誘導する。

 

朝食が用意されているダイニングには沢山の。

 

「……一体何の真似だ」

 

怒気(どき)を含んだ声音で問うローに朝のフレッシュもぎたて笑顔で答えてあげた。

 

「メニューは朝露のレクイエムですわ」

 

レクイエム、又は死者へ捧げる歌。

 

ずらりと並ぶのは芳ばしい香りではなく死期の雰囲気を放つ棺桶だ。

 

一つだけではなく幾つもある。

 

色んな種類があって、丸いのから四角、定番の形まで揃っていた。

 

「なんの真似だと聞いたんだ」

 

「こちらの台詞ですわ旦那様……いえ、この泥棒虎さん」

 

これは泥棒猫とかけたのだが、猫科というのも含んだのだが伝わっただろうか?

 

結構良い言葉を選んだと思う。

 

「泥棒虎だァ?」

 

「胸に手を当ててよく考えて下さいませ。嗚呼、この前購入したブラジャーを付けているので心音は聞き取り難かったですわね。申し訳ございません、気付かない不肖の妻で」

 

棺桶の近くに配置していた使用人のペンギンとシャチが下着の存在を知って顔を青白くした。

 

それはそれは多大なダメージだっただろう。

 

憧れの船長が変態の趣味を持っていただなんて。

 

「下着なんて付けるかっ!あれは既に破棄した!おい!今の聞いてたか!?」

 

こめかみに汗を滲ませて使用人二人に弁解するローは見ていて面白かった。

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