短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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旦那様は七武海10ー11

海に出るだろうと考えていたのに、未だローは家に住み着いていた。

 

間違えた、住んでいた。

 

(これじゃあ計画が進まないじゃん)

 

とんだ迷惑だ。

 

結婚してあげた恩を忘れたのか、このアンポンタンが。

 

「旦那様、そろそろ海に帰られるんですよね?」

 

「奥様、その言い方は……」

 

ええ分かってます、海に帰れは安直過ぎるから伝わればいいと言う気持ちなんです、ええ。

 

シャチが怖々と口に出すのを無視して相手の目を見るとローは全くこっちを見ずに本をめくって読んでいた。

 

こっちは紅茶を飲んでいたのだが、このダイニングへやってきて居座ったのだ、この男は。

 

邪魔だ、凄く邪魔だ。

 

今すぐ海賊船にでも空島にでも飛んで言って欲しいくらい邪魔であった。

 

遠回しに帰れと言うのも変に思われるので直接言ったのだが、聞いてもいない。

 

「旦那様、そう言えば言わなくてはいけない事があります」

 

「あ?」

 

そのあ?って言う返事はどうかと思うの。

 

君の部下でもないのにぞんざい過ぎる。

 

女の子に対してダメだと思う。

 

「父から手紙が届きまして実家へと顔を出すように仰せつかっておりますの。ですから明日から実家に帰らせていただきますわ」

 

恐らく使用人の解雇やらローの動向について聞かれるのだろう。

 

とてつもなく面倒だし、時間の浪費にしかならない茶番。

 

そんな時間を趣味に当てていたいからこそ離婚したくなる。

 

早く準備を終わらせたいものだ。

 

「ああ……あの男か。お前も難儀な家に生まれたな」

 

それが幸いして貴族の娘と結婚できたローに言われたくない、豆腐に頭を打ってしまえ。

 

「ふふ……それでは準備がありますので私はこれで」

 

ダイニングにある椅子から立ち上がると苛つく気持ちを殺して背を向けた。

 

 

 

 

 

翌日、荷物を詰めた馬車を待たせてある外へと廊下を進んでいた。

 

シャチとペンギン(既に偽名は忘却の彼方である)の顔を見て、家をよろしく頼むと告げる。

 

彼等はどこか苦笑気味の顔で見てくるのではて、と首を傾げながら玄関へと行く。

 

馬車の御者がどこか緊張した笑みで扉を開けてくれるのを見ていると、徐々にリーシャも背中をかける悪寒に浸食された。

 

「遅かったじゃねェか」

 

「……何故ここにいらっしゃるのですか?」

 

旦那が一番乗りしていた。

 

来ると聞いていないのに。

 

嫌な意味のサプライズならば大成功だ。

 

ついでにドッキリもおまけされている。

 

答えの質問をまだ貰っていないので再度同じ台詞を言う。

 

すると、彼は得意気なドヤ顔をする。

 

苛々を助長させるから止めてくんないかな。

 

「実家に帰るんだろ。おれも行く」

 

「では何故昨日おっしゃって下さらなかったのですか?朝食の時にも何も言っていなかったですよね?」

 

「つい五分前に決まった」

 

(おい)

 

つい単発なツッコミをしてしまう。

 

五分前とかどんだけ即決だよ。

 

言えよ先に。

 

告げる前に馬車で待つとか、その場過ぎる。

 

もう何を言っても動かないであろう男に嘆息しながら隣に座った。

 

馬車の業者がそれに合わせて馬を動かす。

 

そういえば、転生後の記憶が戻ってから初の馬車だ。

 

お尻が痛くないようにお尻置きを準備しといたのだが、これはなかなか快適だ。

 

勿論一人で行くつもりだったので一人分しかない。

 

ローは元々海賊だし、こんな程度で痛むヤワなお尻は持っていないだろうから、別に気にしない事にした。

 

ガラガラと揺れる馬車は現大力の文明である車、自転車の乗り心地には遠く及ばない。

 

そういえば、麦藁海賊団の船員の一人であるオレンジが好きなナミと言う女性が乗っていた、海の上を走れる乗り物はとても楽しそうだった。

 

あれにとても乗ってみたい。

 

空島編で乗っていた雲の上にも挑んでみたいと欲望がふと湧いた。

 

やっぱり麦藁海賊に入りたいな。

 

思考をあちこち飛ばしていると不意にローが声を発したので振り向く。

 

「なんでしょう」

 

「お前について考察した」

 

「はあ……?」

 

全く脈絡を得ない言葉に空気の抜ける声を出す。

 

考察した、と言われても。

 

「色々考えた。例えば改心した、何かを体験してしまった」

 

もしかして、悪役令嬢だった自分が普通の令嬢になった経緯の話をしているのだろうか。

 

「おれを騙す。演技をしている」

 

騙してなんの得がある。

 

女は皆大女優だ覚えておけ。

 

「最後に行き着いたのは、記憶喪失と入れ替わりだ」

 

「……!」

 

(図星だっていう驚き)

 

そんな風に驚いた場合、ビンゴと相手は勝手に思ってくれる。

 

自分としては入れ替えの方に驚いた。

 

影武者が令嬢のフリをしているとかいうのが人間のセオリーだが、宇宙のセオリーは転生だ。

 

ある意味では入れ替えというのは結構近いかもしれない。

 

ローはどちらに思ったのか。

 

記憶喪失ならば説明出来ない事も納得出来るだろう。

 

いきなり人が変わると不審に思われるのは当然だ。

 

でも、リーシャが前世の悪役令嬢の性格へとしなかったのはローがリーシャの存在を殆ど無いものとしていたからに他ならない。

 

なのに、リーシャの顔も碌に見たことがない癖に散々好き勝手を言ってくれる。

 

勿論半分正解だ。

 

(でも、ほったらかしにしといて偽物とか記憶喪失とか言われるのは案外腹が立つ)

 

「旦那様、貴方はお忘れですね。私達はただただ利益の為に結婚しただけの仮初めの夫婦と言う事を。余計な詮索はご自分に返ってきますわよ?」

 

久々に悪役令嬢の悪役顔と台詞が出た。

 

今世の自分も自分に他ならないから演技でもない本気の言葉である。

 

ロマンのある恋愛結婚を夢見ていたのにてめぇのせいでぶち壊しだよ、と今でも根に持っているのに、そんな事を言われてリーシャは今とてもご立腹です。

 

目がいってると言われる笑みで言うと、ローは目をを大きく見開いて「確かにそうだな」と納得した模様。

 

乙女の夢を返してもらうには離婚するしかない。

 

その為にローとの苦肉の同居生活を我慢しているのだ。

 

ローは自由に海へ出て、彼を慕う仲間と好きに楽しく冒険出来る。

 

けれどリーシャは王下七武海の一人と妻として地に居続けなければいけない。

 

妻なのに海にすら連れて行ってくれないのだ。

 

政略結婚で好きでもない女を連れていく理由など無いから。

 

それだけのくだらない己の満身の為の、勝手な事で自分は好きな事が全く出来ない。

 

どれほどそれが苦しい事なのか彼には決して分かる訳がないのだ。

 

誰も彼もが勝手に夫婦として添い遂げよと言う。

 

何不自由無い生活が出来るのならばと誰もがそう思っている。

 

満足なのは身体だけで心は全く空っぽな人生だ。

 

「そんなに顰めっ面をしてるとシワになるぞ」

 

「……放っておいて下さいませ」

 

急に話し掛けてくるなんて。

 

さっきの言葉でもう話しかけて来ることはないと思っていた。

 

そりゃあこんな小娘の脅しと殺気なんかで威圧される男ならば海賊をしていないか。

 

「そうもいかねェ」

 

「そうでしたわね。父に不仲だと文句を言われますわ」

 

主にリーシャが。

 

七武海のローに釘を刺すなんて真似が出来る父ならば娘を生け贄になんて差し出さない。

 

「それもあるが……」

 

「なにをなさっておりますの」

 

隣に座っていたローが肩が引っ付くくらいの距離まで寄ってきて肩を掴んで寄せた。

 

恋人がするみたいに寄り合う。

 

抗議を込めて声を出すとクスッと笑う旦那(仮)。

 

「今から仲が良いように見せる為の練習だ」

 

「別に必要ありません。貴方が一番面倒な事なのでは?」

 

いつローと仲が良いような事があったのか。

 

馴れ合いが好きではない筈のローをジト目で見た。

 

馬車に揺られること数時間、やっと実家の豪邸に着いた。

 

この場所は富裕層の住む住宅街でいけ好かないお偉方がたくさん密集している。

 

一匹いたら百匹居ると思ってくれればいい。

 

出迎えたのはズラリと並ぶメイド達。

 

良い子になった事を知られない為には幾つか注意しなければいけない事がある。

 

先ずは基本的にお礼の「ありがとう」「お疲れ様」は言わない。

 

それを言うと「お嬢様が!」という驚きがあっという間にお屋敷に広がり、やがて父親の耳に入り聞かれるという構図。

 

後はあまり綺麗な笑顔で笑わない。

 

何を言っとんじゃと思うが、今世のリーシャの笑顔は悪役笑顔だ。

 

だから決して綺麗な令嬢バージョンの笑顔を出してはならない。

 

ローには気付かれるだろうが、結婚してから片手で足りる程しか言葉を交わした事がないので変化後の自分の事など知らないから指摘出来ない。

 

家だから猫を被っているんだろうとしか思わないだろう。

 

一々つん、と澄まさないといけないのだ。

 

「お帰りなさいませ」

 

執事長とメイド長が先頭に立って迎えてくる。

 

小さな事からの古株だ。

 

顔馴染みには変化が知られてしまうかもしれない、という不安はある。

 

「お父様は」

 

挨拶もせずに聞くのが令嬢スタイルだ。

 

「書斎にてお仕事をされております。晩餐の席にて面会が出来ますのでそれまでは用意したお部屋でお休みになられますようと仰せ遣っております」

 

執事長がスラスラと言葉を述べる。

 

相も変わらず放置プレイが好きな父親だ(嫌味である)。

 

夜とかまだまだ先だ。

 

一眠りする気も起きないので部屋に戻って荷を解いた後、貴族の居るお店へと行く事にした。

 

部屋を出て玄関に行こうとするとメイドが来て何処へ行くのかと聞いてくる。

 

報告を一々しないといけないのかと面倒に思いながらも言うと彼女達は慌てて「ご一緒に」と言ってきた。

 

そう言ってくる事は勿論分かっていたので「邪魔だから着いてこないで」とぞんざいに扱う。

 

これで我が儘娘っぷりを改めて感じてもらえると嬉しい。

 

悪役令嬢はご健在だと感じたらしいメイド達は顔を強ばらせて必死に身体をここに縫いつけている。

 

忍耐力は流石と言うべきか。

 

「おれが付いて行く」

 

後ろを向くとローが刀を担いで立っていた。

 

あの「おれの別荘に何か用か」のポーズだ。

 

ちなみにその時の台詞は朧気にしか覚えていないから合っているか知らない。

 

兎に角絶妙なタイミングでやってきたローに更に顔を強ばらせたメイド達。

 

相手はあの海賊なのだから当然だが。

 

しかし、直ぐに順応したらしく何処かへ行ってしまう。

 

父親にでも報告に向かったのだろう。

 

「行くぞ」

 

さっさと行ってしまうローにやれやれと顔をしかめて付いて行く他なかった。

 

本日二度目の馬車に揺られて着いた先は貴族がたくさん利用している店ばかりが立ち並ぶショッピングモールのような場所。

 

ローは立ち止まると何処へ行きたいのか聞いてきた。

 

「別行動に致しましょう」

 

それに分かったと答える素直なローに驚きながらも頷いてもらえた事に安堵。

 

約束の場所と時間を決めてから人混みに消えた男の姿を確認して、こちらも買い物へと歩みを進めた。

 

欲しい物やその他の物を求めては購入して袋を腕に下げる。

 

こういうのは付き従う従者に持たせるべきなのだろうが、生憎袋の中身は他者に預けられる代物ではない。

 

それから適当にブラリとウィンドウショッピングをしていると耳に小さな声が聞こえた。

 

黒服の男達が小さな男の子を追いかけている。

 

彼等の格好から察するにSPだ。

 

子供だって貴族の格好だから間違いないだろう。

 

子供は大人達と違ってすばしっこくてあっという間に彼等を撒く。

 

向こうからは目視できなかった様だが、ここからはどこへ逃げたのか見えた。

 

好奇心が疼いたリーシャは子供が逃げた所へと向かう。

 

血肉踊る所ならば、何処へでも向かう女とはわいの事だあ!

 

コソッと脇道へ向かうと路地裏へ出た。

 

犯罪の溜まり場みたいな所だ。

 

ウロウロとしていると子供の泣き声が聞こえた。

 

そこへ向かうと先程見た貴族の子供が三角座りで薄暗い所にぽつんと居る。

 

こっそり見ているつもりだったが持っていた袋をうっかり下に落とした。

 

しまった、大切な物なのに。

 

「!、誰だ!」

 

SPとでも思っていたのか、その子は姿を見せると面白いくらい目をまん丸にしてこちらを凝視した。

 

「アイツ等じゃない?お前……貴族か!?」

 

この服装で分かった子供は敵意剥き出しで吠えてくる。

 

「貴族ですわよ」

 

「何で女がこんなとこにいんだよ!あっち行けよ」

 

「はい?私が女だからと言う理由で立ち去らなくてはいけないのですか?」

 

「そうに決まってんだろ!ここはおれが先に見つけたんだ!女は入ってくるイッデエエエエ!!?」

 

生意気な男尊女卑だ。

 

ムカついたから頭に拳骨をめり込ませて上げてしんぜました。

 

貴族という立ち位置で全く握力はないが、振り下ろす力と体格差でかなり力を上げた一振りだ。

 

痛みに身を悶えさせる子供は涙目で睨んで来た。

 

これが全く怖くない、寧ろ可愛い。

 

だから子供は子供なのだ。

 

「な、何すんだ!貴族の癖に殴ってくるなんてよっ」

 

「貴方だって貴族でしょう」

 

「そ、れは……おれは貴族になんてなりたくねェ!」

 

「貴族はなる、ならないという物ではないですわ」

 

「うるせー!ならない!おれは貴族なんて嫌いだっ」

 

「それで逃げたのですか?ご自分のガードマンから」

 

「見てたのかよ……」

 

しょんぼりとなる子供は悔しそうに頭から手を離す。

 

何故彼は貴族を嫌うのか。

 

「貴族が貴方になにかをしたの?」

 

「してねェ……けど、父様も母様も皆自分の事ばっかだ。悪い事してる」

 

「……そんなのは貴族でなくともしますわ」

 

「浮気もか?」

 

「当然です」

 

「香水臭くて男に媚びてんのもか?」

 

「当然です」

 

「あんたもか?」

 

「出来るならばしたいですわ」

 

「え?」

 

子供の声にハッとなる。

 

願望が口から出た。

 

「貴族でも人ですもの。欲望には忠実なのです。汚い物を汚い物と認識する貴方の価値観はまだ狭くて小さい。だから、今判断するのではなく、これから吟味していきなさい」

 

「これから……でも、おれ、もう此処に居たくない。遠い所に行きたい……!」

 

「そんな世迷い言は頭の中から消し去るべきだわ」

 

「うう!お、お前だって!お前だってそう思わないか!?な、なあ!おれを連れてってくれよ!頼むよおお!」

 

また大泣きし出した子供にふう、と息を吐く。

 

そして、彼の胸倉をガッと掴んで顔をこれでもかと近付ける。

 

 

 

 

 

 

 

「舐めるなよ、小僧」

 

突然の事に泣くのを止めて、信じられないと瞠目する無垢な目。

 

「泣けば貴族と言う肩書きが無くなると思っているの?貴方は今のままじゃただの“世話の焼ける貴族の子供”として親に頬を打たれるだけのか弱い人間よ。本当に貴族として人生を過ごしたくないのなら今直ぐ泣くのをお止めなさい。私の様に鎖に繋がれて飼い殺されるだけ。今は小さくて力もない。貴方が大人になって誰にも手を出させないようになった時が勝機よ。分かったならもう世話が焼ける子供のふりをするのは止めなさい」

 

涙で目を腫らした子供はコクリと、唖然とした様子で頷く。

 

「それでこそよ、少年。さて、泣くのを止めた記念にこれを貴方に上げるわ。これで貴方も大人の第一歩を登るのよ」

 

にっこりと笑って例の物を差し出した。

 

素直に受け取ろうとしていた少年の手が不意にその物に釘付けになる。

 

「これ、父様の机の裏に張り付けてあった物と同じ……」

 

「あら、なら別の物に……」

 

「おい」

 

当然の声にそこへ向くと哀愁を帯びたローが立っていた。

 

何だろう、今から大切な大人の儀式を始めるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガキにヌード写真集渡すの止めろ」

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