短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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旦那様は七武海12ー14

貴族の少年はその後、とても凛々しい顔で帰る、と言うので路地裏を出るまで付いて行き、少しだけ逞しくてちょっとだけ成長した後ろ姿はもう何かを背負ってはいなかった。

 

ローを見たときは七武海のローを知っていたらしく飛び上がって驚いていたが。

 

そして、例の写真集は残念ながら渡せなかった。

 

折角の機会を潰したローにがっかりだという視線を背中に突き刺していると彼が唐突に振り返るので慌てて目を違う方向へ向ける。

 

「帰るぞ」

 

行きと同じようにさっさと歩き出す男にはいはい、と歩みを始める。

 

少しくらい歩幅を合わせるくらいして欲しいところだ。

 

内心むくれているとこちらを向いたローが首を傾げる。

 

「行かないのか。歩いて帰るのか?」

 

からかう口調で言ってくる男に言い返す。

 

「とんでもない。ただ旦那様のブラジャーを買うのを忘れたと思っただけですわ」

 

「買っても絶対付けねェぞ」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

LAW side

 

 

 

ローはかつてない程頭がカオスに満ちていた。

 

久々に仮初めの家に帰ってきてみれば何もかもがなくなっていた。

 

七武海として政府の一部となった後、仕方なく結婚をした。

 

その相手と言うのがまた面倒な女だったと記憶している。

 

家に居ない間に何があったのか、我が儘女は普通の女になっていた。

 

帰る前に彼女が使用人全員を一斉にクビにしたと聞いて事態の把握の為に船員のシャチとペンギンを派遣した。

 

相手は顔も名前も知らないから持って来いだ。

 

それから時々届く報告は目を疑うものばかりだった。

 

以前のリーシャからは想像出来ないような明るさと心にこれはしかと自身の目で確かめた方が早いと判断する。

 

それから家に帰ると出迎えがあったものの無口な女だった。

 

何も離さないので不思議に思いながら話しかけるとツンと澄ました顔で言い返してくる。

 

彼女は父親に何か言われて行動を起こしたのだと最初は思ったが、矛盾が生じた。

 

辞めさせた使用人達は全て父親と繋がっていたのだ。

 

辞めさせたら父親に報告がいかない。

 

他にも幾つか考えたが、今のままでは何も分からない。

 

取り敢えず長期にここへ居る事にした。

 

すると、徐々に女の態度が柔らかくなってきたので驚く。

 

こんなに雰囲気も違う。

 

まるで全くの別人だ。

 

初夜をスルーして、今まで会話したのは片手で事足りる。

 

かと思えばそれまでの夫婦感の無さが無かったかのように変な事を言ってきたりした。

 

いきなりバストのサイズを聞いてきて女物の下着をお土産に買ってくると言った時はただの冗談かと思ったが、いざ共にランジェリーショップへ行くと試着室にてローの胸に冗談抜きでサイズの合う胸当てを採寸してくる。

 

これほど背中に悪寒が駆けた事等、今までない。

 

色んな店へ連れ回されては本気か冗談か分からない事に付き合わされて、帰ってきて意識を戻すとシャチをピンヒールでいつの間にか踏んでいた。

 

自分の意志で履いたのではないから、彼女がローに履かせたのだ。

 

シャチの悲痛な叫びが今でも思い起こされる。

 

ダンスを練習している時だってそうだ。

 

終わった後に、汗に濡れるうなじに色気があると褒めたのに妻に欲情するなと言われ、ローの事を何だと思っているのだと聞くと「男」という答えが返ってきた。

 

合っているが、そんな事を聞きたいのではない。

 

目で訴えたのに敢えなくスルーされた。

 

これはローを男として意識していない証拠だ。

 

やはり、結婚したばかりの時とそんなに変わっていないようにも思える。

 

まだ此処に居ようと決めながら、いつ頃また海へ行くのかと聞かれた時、僅かな瞬間、その瞳が憧れにも似た光りを宿らせた様な気がした。

 

仲間が居て、さぞや賑やかだろうと。

 

だが、それを言う瞳の中には悲しみがあったような気がする。

 

どうしてそんなに悲しそうに、羨ましげに見てきたのか分からない事だらけだ。

 

 

 

ダンスパーティーの日、彼女はローと同じくつまらなそうにパーティーの様子を眺めていた。

 

こういった所が好きだと思っていたのでそんな反応に密かに驚愕する。

 

一体彼女は何に興味を示すのかと気になった。

 

そんな事を僅かにでも思った己にも驚いたが。

 

パーティーの音楽が始まると仕方がないといった顔でローの手を取る仕草に、密かに眉を下げた。

 

そして、口元に笑みが浮かぶ。

 

リーシャがまるで子供に見えて可愛いと思った。

 

ベポとは全く似ても似付かないが、一緒にいても他の貴族の様に煩わしいと思わなかった。

 

何となく口を次い出たのは嫌われていると思っていた内なる思い。

 

それに対して怒ったように目を上げる彼女の様子に拍子を少し抜かす。

 

当然だと、開口一番に飛んでくると思っていた。

 

試しに聞いてみたのだが、その次は呆れた顔をしたりして面白い。

 

別に答えがどうだろうと、女がローの事を嫌いでも特に不都合はなく、寧ろどうでも良かった。

 

ダンスの時間が終わり、リーシャは喉が渇いたから取りに行くと言って去っていく。

 

ローに命令して持ってこいと言う女だと思っていただけに意外だ。

 

前も荷物持ちをさせるとか言いながら何も言わなかったし、何を考えて言っているのか不明である。

 

一人になった所で貴族の一人が怖ず怖ずと話しかけてきた。

 

どうやら向こうに居る貴族の取り巻きらしい。

 

挨拶をしたいと言われたので仕方なくここから動く。

 

本当は挨拶もご機嫌伺いもしたくはないが、誰も放ってはくれないらしい。

 

例え此処で暴れてもローには口頭注意のみで許されるだろう。

 

ローの七武海というラインセンスはお金が集まりやすい。

 

だから、鬱陶しい貴族が湧いてくる。

 

辟易しつつ、そこへ向かうと如何にも威張り散らした雰囲気の男が居て名を名乗ってきた。

 

それに対して「…………」と無言で返す。

 

こんなのに一々返していたらキリがないし、時間の無駄だ。

 

今までだったら怯えて直ぐにローから離れるか、失礼な男だと言って怒って去る者が大半。

 

だが、今回の男は厄介なタイプだった。

 

無視するなと怒鳴ってきたのだ。

 

全く、ローを同じ貴族とでも思っているのか。

 

呆れて蔑んだ目を向けると更に憤慨する男。

 

会場の人間達が騒ぎに気付きざわつく。

 

恐らく今のでリーシャも騒動に気が付いただろう。

 

声を出し続ける暇な男に好い加減飽き飽きする。

 

ここいらで終いにしようと軽く嫌味を言うと思っていた通り、口が止まる。

 

嘲笑うと次は暴力に走ろうとするのでニヤリと笑う。

 

(こっちが本分だ……くくく)

 

内心罠に掛かった馬鹿な男に沸々と湧き上がる衝動を抑えながら避ける準備をする。

 

だが、相手が事を成す前に止めが入った。

 

知っている声に振り向くとローの妻が居た。

 

凛と立つ姿に一瞬目を奪われたが、彼女が相手に対して行った事にギョッとする。

 

なんと、貴族の令嬢である筈の女が躊躇せずにグラスの水を頭から被ったのだ!

 

信じられないその光景に、反射的に相手の身体を抱き上げ野次馬の間を早足に進めた。

 

グラスは適当に入れ替えてから。

 

呑気に自分のグラスの行方を聞いてくるので苛立ちを感じながら答えて能力で部屋へと急ぐ。

 

(なんであんな事をした?)

 

乱暴に部屋へ入り思った事を尋ねると既に服が汚れていたからだと全く検討違いな事を述べる。

 

もういいと思い、脱げと言うと彼女の口から直ぐに拒否を聞く。

 

だが、最初から聞く気はない。

 

問答無用だと服を脱がそうとすると変態と言われピクリと反応した。

 

濡れている女を脱がせて変態呼ばわりされるのは心外だ。

 

腹が立つ事はなかったが、機嫌は悪くなってきた。

 

意味は一緒だろうが、そんな事は既にどうでも良い。

 

変態やら暴言を吐くリーシャに苛立ちが募っていく。

 

そろそろ黙らせたいと思った時、視線の先に僅かに赤らんだ頬と唇が写る。

 

暴言は正に羞恥心を隠す為だと思い、ふと悪戯心が湧いて彼女の文句を塞いだ。

 

目先には大きく目を開ける女の顔。

 

油断をしている隙に能力で服を剥いだ。

 

すると、状況を察したリーシャは直ぐに服を返せと手を伸ばすがこの身長差では届かない。

 

必死に奪おうとしているが、先にやらなければいけない事がある。

 

取り敢えず彼女を担いで浴室に放り込む。

 

これでやる事はした。

 

扉越しに出せと言ってくる女に即答えてからローはソファに身を沈めた。

 

先程は一瞬だけだったにしろ、焦った事を無かった事にしたい。

 

思考を平常心にさせると、浴室から小さく叫びが聞こえてきた事により、それさえもどうでも良くなった。

 

 

 

さて、今夜の晩餐はどんな料理が出るのだろうか。

 

皆さんこんばんわ。

 

特に仲良くもない父子関係を持つ皆のリーシャです。

 

ロー(おまけ)も隣に居ます。

 

「娘は君に迷惑を掛けていないかね?」

 

「いいえ」

 

ローが敬語を使っている。

 

明日は血の雨が降るのかもしれない、傘を忘れないでおこう。

 

ローが敬語とかレアなんじゃなかろうか。

 

そして迷惑を掛けるほど一緒に居ないよね?旦那様。

 

いいえ、で嘘が簡単に付ける簡単なお仕事で良かったね。

 

後でご褒美に飴でも上げようか?

 

黒い笑顔で同じ釜の飯を食べているリーシャは黙々と手を動かしている。

 

特に入るような会話でもないし、答えたらローにも支障が出るだろう。

 

父親の欲に塗れた目が心底嫌いだ。

 

海軍で貴族の癖に。

 

金だけで地位を買って成り上がった男。

 

娘を王下七武海と政略結婚させて更に地位を確立させた。

 

反吐が出そうだ。

 

「そうかい。不肖の娘だが自慢の子だよ」

 

「…………お父様、もう私の事は宜しいのではなくて?」

 

「はは、そうだな」

 

笑顔さえも吐き気を催す。

 

(不肖なのはてめーだよクソ野郎)

 

不肖不肖って自分も時々使うけれど、それはあくまで自分だけ使う時だ。

 

相手に使うとほぼ侮辱である。

 

ローに言うということは「駄目な娘だけど許してね」のニュアンスだ。

 

我慢してるのはこっちだっつーの。

 

悪態をつきながら黒い笑顔で一緒に笑う。

 

この場は物凄く混沌としていた。

 

黒い儀式をして藁人に釘を刺して呪いの言葉を言うのと、父親に相槌を打つのが一緒の様なものだ。

 

ローはそれを見る中立的立場だろうか。

 

貴族の黒い思惑なんてこれから起こすパンクハザードから始まる事態に比べると全く小さな事だろう。

 

この男と一文字でも話すとガリガリと自身のHPが削れる。

 

ローだって精神的な部分が減っているかもしれない。

 

それを分かっていて付いて来たのだから物好きと言うか何と言うか。

 

「今夜の部屋は用意しているから是非寛いでくれたまえ。勿論二人で寝れるので安心してくれたまえ」

 

安心してくれたまえじゃねえよこのクソジジイ!

 

フォークとナイフを落とさなかったリーシャは偉い。

 

誰も褒めてくれないので自分で褒めます。

 

(嘘でしょ?今まで一緒に寝たこともないのにっ)

 

内心歯軋りしているとクソジジイが(本音がついでちゃう、テヘペロ)愉快そうな顔で酒は飲めるかいトラファルガーさんと言う。

 

一応リーシャもトラファルガーなんだけれど。

 

「ええ、飲めます」

 

明らかに作ったへりくだりの台詞に父親はまんまと上機嫌になる。

 

その会話に混ざる気も出ない。

 

食事を終えると二人に「お先に失礼致します」と断って宛てがわれた部屋にいそいそと戻る。

 

ローを父親と居させても特に弊害はないので安心して眠れた。

 

 

 

朝起きるとかつて今まで体験した事のない状態に晒されていた。

 

そう、夢小説では鉄板シナリオとなっている『朝起きたら彼が私を抱きしめて眠っていた。だから重いし身体に腕が巻き付いて起き上がれない。キャッ!』という乙女がムネキュンするだろうシチュエーションだ。

 

(というか本当に重いこの人……!)

 

リーシャにはまだ父親との面倒臭いお話しが待っているというのに。

 

グッと身体を遠心力で動かしてもビクともしない。

 

身長が百九十以上あるから包容力が半端ないのだ。

 

押し潰されるという恐怖をこの男は塵にも考えていないのだろう。

 

こんな状態にムネアツとなるのは何も知らずにいつの間にか既婚女性だったという体験をしていない人だろう。

 

まあそんな女性が世の中に居るのかは定かではないが。

 

思考の海に浸っていると相手が身じろぐのを感じた。

 

こういう時のローのパターンは幾つかあるのを実は知っている。

 

一つ、実は起きている。

 

二つ、本当に寝ている。

 

どっちかのタイプだ。

 

幾つかあるとか言っときながら、二つしか上げられないのは……許してねっ。

 

リーシャが疑っているのは、実は起きているという説だ。

 

この世界のローは見ている限り原作に近い。

 

原作のローが結婚しているという事実は矛盾している。

 

となれば、考えられるのはパラレルワールドという理論だ。

 

もし、その理論があったならば性格も多少変わってくる。

 

でも、その違いをリーシャは絶対に知る事は不可能。

 

原作を知っていても、彼の全てを知っている訳でもない。

 

だからこの世界は別れた道だとしか知る事は出来ないのだ。

 

「もう起きて下さい。意識は既に覚めておられるのでしょう?」

 

カマをかけるなんて初めての行為だが、それは功を成した。

 

「気付いてたのか、驚いたな」

 

「貴方様は海賊。私が身体を僅かにでも動かすだけでその浅い眠りを浮上させる事は簡単なのでしょうね」

 

「流石は海賊の妻だな」

 

「鬱陶し(おっと!)、それよりも解放して下さいませ」

 

「………………なにか言い掛けたか」

 

「寝ぼけただけですわおほほほほ」

 

 

 

 

 

 

 

朝の支度を長い時間をかけていれば、あっという間にお昼前。

 

父親に指示されていた時間に行くと書斎の椅子に座って手を組んでいた。

 

仕事はどうした仕事は。

 

「お父様、ご用とは何でしょう」

 

「言わなくても分かっているだろう」

 

「言ってもらわなくては分かりませんわ」

 

「使用人を解雇した件だ」

 

「あれは使用人が無能だったからの単純な事です」

 

「私が選んだんだ。無能なわけがあるまい」

 

「お父様の前では有能なフリをしていただけなのでは?それに私の言ったことをちっともしなかったわ」

 

「また見繕うから使用人を取れ」

 

「嫌ですわ」

 

「もうお前は役人の妻なのだ、我が儘は……」

 

「でしたらトラファルガーの姓はいらないです」

 

「!」

 

我が儘って便利だな。

 

「こんな窮屈なお願い。私耐えられませんわ」

 

「はあ……分かった。そのままでいい」

 

「流石はお父様。貴族の娘として誇らしいですわ。うふふ」

 

してやったりだ。

 

「トラファルガー、あの男についてなにか言うことはあるか」

 

お、次の本題に入った。

 

「いいえ、相変わらず全く家に帰りませんので」

 

その言葉で父は苦い顔をして部屋を出るように言った。

 

本当は言う事がたくさんあるのだが、言うかバーカ!!

 

 

 

父親に報告にもならない報告をした後、直ぐに家路への帰路を進めた。

 

再び馬車へと乗るとローは寝息を立てて寝始める。

 

実家ではどうやら熟睡出来なかったようだ。

 

当然と言ったら当然だろう。

 

カタカタと馬車の車輪が回る音と馬の蹄の音が心地よく耳に届き、いつの間にかリーシャも眠ってしまっていた。

 

起きたらローの腕に体重を掛けて枕にしてしまっていたので慌てて起きる。

 

「すみませんっ」

 

「この程度で怒らねェよ」

 

「……そうですか」

 

確かにルフィの破天荒な行動にも怒りながらも行動していた事を思えば納得だ。

 

それからポツリポツリと途切れながら時間が過ぎていき、漸く家に着いた。

 

出迎えたシャチとペンギンとメイド達にお土産を渡す。

 

「お帰りなさいませ!」

 

「ああ」

 

シャチが嬉しそうに言うのを見ながらお土産を差し出す。

 

「はい、シャンデ」

 

「ん?……ここここれっっ!?」

 

「はい、ペ、ペンダ……これ」

 

ダメだ、偽名が長すぎて言えない。

 

誤魔化す様にペンギンへ渡す。

 

震えるシャチを不思議そうに見ながら受け取ると彼も肩を震わせた。

 

「どうした」

 

ローが二人の様子に歩み寄ってくる。

 

「な、なににもありません!」

 

「え、ええ!なにも!なにもありませんからっ!!」

 

「?、そうは見えねェが……」

 

「旦那様、無粋な事は主人として知らぬフリをするのが優しさですわ」

 

クスリと笑って言い添えると同調して首を縦に動かす部下二人。

 

禁忌に触れてはいけない。

 

(喜んでもらえた様で何より。ここに居てたら色々大変だろうから、買ってよかった)

 

「ペンギン……お前のは」

 

「違う写真集だ……シャチ、それ後で見せ合おう」

 

「分かってるっつーの」

 

おいそこの二人、本名で呼び合ってますよ。

 

致命的なミスが浮き彫りだ。

 

「なんなんだ……!……まさか……」

 

ローには一度悩める少年に渡そうとした物を見られてしまっている。

 

だから、彼等に渡したお土産が何か行き着いたのだろう。

 

二人の緩んだ鼻の下を見れば分かる。

 

ローは心底冷めた目で溜息を付いた。

 

「旦那様も欲しかったですか?」

 

「まかり間違っても買うな。おれはいらねェ」

 

「旦那様は節操なしでしたわね、そう言えば」

 

「おれは一度も言った事はない……その話しはもういい。数時間後に出掛ける。帰るのは数週間後だ」

 

凄く急なスケジュールだ。

 

別に良いけど。

 

「そうですか、いってらっしゃいませ」

 

スッと頭を下げて階段を上がった。

 

ローがこちらを見ているのを感じながら。

 

 

 

 

 

数週間後と言いながら二週間もしない内に出戻ってきた。

 

一体何の為のアナウンスだったのか。

 

それに、一番驚いたのは刀の他に手に持ってきた物を渡された。

 

お土産とは言わなかったが「珍しい物らしい」と述べて無表情で受け取らせる。

 

やはり、意味が不明だ。

 

(………………!!ままま、まさかっ!好感度が上がってるの!?)

 

ふと立ち止まって考えてみれば、そうとしか思えない。

 

どうでも良い相手に物なんて普通買わないし、話しかけてきたのだって何よりの証拠だ。

 

大変な事になったと冷や汗をかく。

 

このままでは離婚計画が無くなるどころではない。

 

リーシャの人生に邪魔が入る。

 

完璧にミスを犯したのであろう己に叱責した。

 

(なにやってんだろ!こうなる事は薄々可能性もあったのにい!)

 

好かれるなんて望んでいない。

 

自由になりたいだけなのに。

 

「…………いりませんわ」

 

「そうか」

 

あっさりと納得するローに歯を噛む。

 

不機嫌になるかと思ったのに。

 

「今日は気分が悪いので話しかけないでもらえますか」

 

そう言うとローは特に表情を変える事なく去っていく。

 

うう、これじゃあ罪悪感が半端ない。

 

でも、これも自由への投資だと思えば我慢するしかないのだ。

 

顔を歪めて首を振ると自室に籠もった。

 

せめてローが海へ出るまで顔を合わせなければいい。

 

此処は彼のテリトリーの船ではないし、強要される要素はないと思った結果だ。

 

(もうっ。とっとと離婚したい!なんでこんな世界に生まれてきちゃったんだろ)

 

トリップしてきたなら帰れる宛てもあったのに。

 

溜め息を付いてはカリカリと羽ペンを動かす。

 

こんな事では上手く頭も働かない。

 

家に居続けるのも飽きてきたし、ローに合わないまま過ごすのも彼がこの場所に滞在している限り避け続けるのさえ難しいと思う。

 

(バイトしようかな……もう煩わしい使用人達も居ない事だし)

 

リーシャがどこで何をしていたって文句を言わないだろう。

 

憂鬱になっていると扉越しにノックの音が聞こえて返事を返す。

 

入ってきたのはワゴンを押したペンギンだった。

 

彼はハーブティーは如何(いかが)かと聞いてくるので頭を切り替えようと頷く。

 

少しして入れ終わったカップを手渡され口に運ぶ。

 

何も言わずに出て行くペンギンに首を傾げて見送ると再びカップを傾ける。

 

ただ入れに来ただけなのかと拍子抜けした。

 

凝った肩をグルリと回すと視界にある筈のない物が写る。

 

二度見したらそれはローの買ってきたというお土産だった。

 

驚いて暫く放置してからソッと立ち上がり袋を開けて見る。

 

中身はチョコレートのタルトだった。

 

賞味期限は今日までなので慌てて袋から出して食べた。

 

ハーブティーはこの為に入れたのだと知ったのは食べ終わった後だ。

 

なかなかキザな事をしてくれるじゃないかペンギン。

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