短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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旦那様は七武海23ー25

LAW-side

 

 

廊下に呼び出されたロー。

開口一番にキャロルはとても憐れみを含んだ言葉を投げ掛けてきた。

 

「貴方様のお噂は私の耳にも届いております。貴方は捕らわれのお人……貴方を救ってさしあげたく思います」

 

笑える、と笑みを浮かべる。

何から救おうと言うのだ。

別に捕らわれた覚えはない。

 

「だからトラファルガー様……私を……愛人にして下さいませ」

 

「必要ない」

 

そんな言葉しか出てこないのかとこの女のボキャブラリーの低さにがっかりした。

呼び出したのだからもう少しマシな会話をして欲しいものだ

 

「いいえ、そんな事はありませんわ。だって貴方はあの女に騙されているのです。その姿はまやかしなんですもの」

 

微かな音と気配を後ろに感じた。

 

「私……貴方が七武海として、自由で居る姿を見たいだけなのですわ」

 

良くある、男なら言われてみたい台詞や甘い言葉を散りばめてくる。

ただの男ならコロッと落ちるかもしれないが生憎ローは海賊だ。

そんな陳腐な文句で落ちているのなら笑い話しである。

何故この女はそんな言葉で自分が靡(なび)くとでも思ったのか、頭の中を執刀してみたい。

それよりも、視線の元がリーシャだと確信したので場所を移した方が色々と都合が良い。

ここでこの令嬢を逃せばまたちょっかいをかけてくるかもしれないと分かっていたので庭に行こうと笑う。

相手に皮肉の笑みを向けたというのに女はそんな意味の視線すら気付かずに嬉しそうに行きましょうとつられる。

馬鹿な女だとことごとく思った。

 

 

 

庭に移動すると胸に身を寄せてくるキャロルに今直ぐ引き離したい衝動に駆られた。

 

「トラファルガー様。私を愛人にして下さいませ。その方が貴方の為なのです」

 

(自分の為の間違いだろ)

 

クッと聞こえないように笑う。

ローも権力を得る為だけに結婚したから権力がどれ程重要かは熟知している。

だが、こんな貴族の権力上昇に協力してやる程の魅力はメロディー家にない。

もし、リーシャの家の権力よりも上だったのなら利用仕返す事も考えた。

 

「おれには妻が居るんだぞ」

 

「貴女はあの女に無理矢理結婚させられましたのよね」

 

夫の居る身で無理矢理等とはかなりの無茶な台詞だろう。

おまけに婿養子だから結婚させられた気持ちがこの女に理解出来るとは思えなかった。

 

「可哀想な人、私なら貴方をあの女から守れますわ。あの女性は悪魔なのです。噂でも彼女は様々な事をやってきましたわ。その行いのはしたなさと言ったら……」

 

ローは愛人にしろと言って己の事を棚に上げるキャロルの言葉を遮る。

 

「黙れ」

 

リーシャの何を知っているのだ、と睨む。

この女は噂のローを手に入れたいが為だけに彼女の事を口にしているのだ。

もう脅す事が一番だろうと判断する。

愛刀の鬼哭を能力で出して抜き身を女の首に近付けた。

 

「金輪際おれ達に近付くな。少しでも陰がチラツいたら徹底的に潰す。こっちはそれを出来る力を持っている」

 

それだけで呆気なく顔を青白くして震え出す身体。

 

「その事を忘れるな」

 

刀を鞘に収めると泣き崩れる女が視界の端に見えたが気にする価値もない。

話す時間を無駄にした徒労感が漂い、さっさと寝てしまおうと宛てがわれた部屋の近くに行くとメロディー・キャロルの夫とリーシャが何かを話していた。

しかも男の方は目に期待を秘めて相手を見ていたので内心沸々と知らぬ感情が胸から溢れてくる。

自分には妻が居る癖に他に手を出すなど身の程知らずか。

ローが折角目を付けた女に対して他の男が目を付け掛けているというのは解せない。

そして、許せない。

男が彼女に何かを言い掛けて本能的に言葉を遮る。

彼女は男の言い掛けた言葉の最後が分かっただろうか。

分かったとしても手放さない。

その男には惜しい女である。

高望みし過ぎる男にお前の妻が泣いていると言えば変な方向に想像して顔を青くするつまらない反応。

そんなに嫌なら首輪を付けてちゃんと見張っていれば良いものを。

心の中で呆れ果てながら男を見ていると奴は庭へ去っていく。

そんなに心配なら余所見などするな。

ローはリーシャに向き直ると彼女ヘと皮肉を歌う。

 

「目の前で堂々と浮気か?」

 

なんて言ったら彼女は何と返してくるのだろう。

リーシャは考え方が聡明で頭が良く回るらしい。

それで時々ロー自身を翻弄する。

 

「貴方こそ好き勝手に浮気しているのでは」

 

結婚するのも億劫なのに浮気をしている暇など無い。

 

「してねェ」

 

「どうだか」

 

返してきた言葉に心底イラつきながら彼女を見ていると、とても言い返せない事を言ってくる。

 

「浮気しても構わないと言ったのは貴方ではなくて?」

 

「……チッ」

 

確かにローは結婚をした日に言った。

言った事は無くならない。

どうすれば言葉の意味が緩くなるのか考えた。

今は夜で相手は寝間着だ。

その気にさせれば乗せられてくれるだろうか。

乱れる彼女を想像して高揚感を感じた。

近付いて上を向かせると瞠目するのが見えて口元を上げる。

驚くのはまだ早いとばかりに何かを言われる前に相手の赤く熟した色の唇を塞いだ。

色んな事が頭に渦巻いて思考が乱れている様子のリーシャがこちらだけに集中しないのが釈然としない。

 

「余所見するな」

 

相手の抗議の意志が宿る瞳を無視してその唇を堪能した。

彼女に今まで何度も翻弄させられてきたから意趣返しとでも言おうか。

何度も何度も合わせては足りないと感じる。

首元に噛みつく頃にはいけそうな気がしたのでそのままベッドに運ぶ。

捕食しようと腰に手を這わせた所で彼女の珍妙な動きに目を丸くする事になる。

最初は抗っているのだと思って小さな抵抗を無視していたのだが、その動きが的確に阻止しようと動いているのを知った。

ローの腹にグーパンをしてきたり髪の毛を躊躇なく引っ張ったりと微かに痛い地味な攻撃をしてきたのだ。

数分で体力切れになるだろうと思って気にも止めなかったのだが、それから二時間と経っても攻撃は無くならない。

 

「……そんなに嫌か」

 

「私達は政略的に結婚しましたわっ。ですので私は貴方の妻としてこれまでやってきました。貴方は結婚した日に干渉してくるなと言いましたわよね?でしたら改めて私から言わせていただきます」 

 

あれ程絶え間なく攻撃してきたのに良く話せるものだと関心する。

 

「私に一切個人的に干渉をしてこないで下さい」

 

リーシャは真面目にそう宣言した。

 

 

 

それから帰りもいつローに体を求められないかドキドキしながら夜を迎えた。

けれど、特別何かをしてくる事はなかったのでぐっすり寝ていたのだが、稀に朝になって起きようとすると日課になりかけているローとの添い寝に寝ぼけているのか胸に手を当てて軽く触れてくる。

揉むとまではいかないかもしれないギリギリの行為に必死に手を退けて朝から体力を削られるのが辛い。

一緒に寝ないとソファーで寝たのに朝になるとベッドに寝ていてローも寝ていたなんて事も最終日にあった。

帰りは行きより少し遅め移動していたのであと少しという所には夕方になって日も落ちてきている頃。

そんな時、目を閉じていたローが唐突に目を開いた。

 

「囲まれてる……おい!」

 

馬の手綱を引いている男に声を掛けた。

男はローに馬を止めろと言われて慌てて手綱を引いて移動する事を止める。

 

「お前は此処に居ろ。直ぐに終わらせてくる」

 

ローはリーシャに言い付けると音もなく扉から出た。

御者も困惑しているが、ローの言葉を信じて待つ。

彼は七武海だ。

信憑性はずっと高いと確信しながら目を閉じると男達の声が聞こえて脳裏に小説や新聞の内容が思い出される。

残念な事だが、前世よりも治安の悪い世界だから夜盗も追い剥ぎも居るのだ。

考えに浸っていると騒動も何も聞こえなくなっていたので目を開ける。

きっともう片付けたのだろう。

彼の能力は人を殺すものではないので気絶でもさせたのだと自己完結。

扉が開いて馬車へ乗るロー。

やはり、夜盗では敵にも運動にもならなかったらしい。

少し息を吐き出して馬車の御者に馬を動かすように言う。

全く息も乱れていない。

パンクハザードの戦いがどれほど激しかったのか分かる気がした。

息も乱れて血も流れて、心臓を握られる度に呻き声を上げていたのだ。

さぞかし激戦だったのだろう。

ローはリーシャが見ている事に気付いてこちらを向く。

目が合うと、視線で何だと問いかけられて「別に」と窓に目をやる。

此処はもう暗くて周りが見えない。

やられた夜盗も見えないので少しだけでも見たかったような見たくなかったような気持ちに内心笑う。

表面上では無表情でいた筈なのに、いつの間にか隣にローが座っていて驚く。

 

「気になるなら言え」

 

「ありませんわ」

 

「おれとの結婚が政略的だから言えないのか」

 

唐突に始まるなにかに「は」と呆ける。

今更何を言い出すのかと思えば。

失笑したくなる衝動を抑えてニコリと笑う。

 

「とんでもありません。旦那様。私は旦那様と結婚できて嬉しく思っていますわ。ええ」

 

(真っ赤な嘘ですけどね)

 

きっとローもその嘘に気付いているのだろう。

だって今まで散々彼に政略的結婚だの、干渉してこないで、等という言葉を言ってきたのだから。

ローは少し黙ってから改めてこっちを見てから見つめてきた。

 

「全部、無かった事になればいいのにな」

 

そう述べる声音はいつもよりも沈んでいるように聞こえた。

 

 

 

眠りこけていたらしく、起きたら自分の部屋に居た。

どうやら運ばれたようだ。

丁寧に布団もかけてある。

呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぶとお風呂の用意をしてきて欲しいと頼む。

メイドは畏まりました、と頭を下げて部屋を出ていく。

それを見送ると周りを見回して自分の荷物を見つけて近寄る。

まだ荷を解いていないので中に色々と入ったままだ。

 

「奥様」

 

部屋をノックする音と呼び掛けに答えるとシャチが現れた。

室内に入るとシャチは「おかえりなさいませ」と言ってくれる。

その言葉は何度も言われているけれど、今までと比較してからその声音が本当に帰還を喜んでいるのだと感じられた。

彼が嬉しそうなのはローが帰ってきたからだろう。

決してリーシャに向けての声ではない。

気落ちしているのか、疲れているのか、後ろ向きな考えが浮かんでくる。

それをどうにか隠して「ただいま」と告げた。

家は何のトラブルも無かったかと聞くと肯定が帰ってくる。

そりゃ、シャチとペンギンが居ればそこら辺の警備よりもずっと心強くて頼りになるだろう。

 

「シャンデ。貴方にお願いがあるの」

 

ふと、前々から考えていた作戦を思い出してから彼に頼む。

とある物を用意するようにと頼むと彼は疑問の顔をしながら了承する。

部屋を後にするシャチも見送ると荷物を整理する為に体をグッと解した。

 

 

 

翌日、リーシャは朝から忙しく働いていた。

前に思っていたバイトではなく、屋敷のキッチンで作業を繰り返していた。

シャチに予め言っておいた材料を揃えてから腕まくりして、せっせとレシピを間違えないように作っていく。

とある料理なのだが、ローへと渡すつもりである。

この数日、確実に距離を縮めてしまうという失態を繰り返した汚名返上だ。

好感度を兎に角下げなければと意気込むと出来上がった物をキッチンに並ぶお皿に並べた。

ふう、と滲む汗をハンカチで拭くと我ながら力作だと微笑む。

ふふふふ、と不気味に笑えてしまう自分。

周りに誰も居なくて良かった。

出来上がったものをメイドとシャチ達に運んでもらおうと彼等を集める。

こういう時の電伝虫というのは便利だ。

未だにそれを体内に入れるという事は生理的に出来ないが。

ナミが胸の中に入れているのを見たときは驚いたものだ。

電伝虫は小さくて持ち運びも楽である。

自分なりのマイ電伝虫も作れるし。

 

「これを運んで貰えるかしら」

 

皆に言うと彼等は嫌な顔をせずにいそいそと運んでくれる。

最後の一皿は自分で運ぼうと手に抱えるとキッチンを出て廊下を進む。

五歩程歩いた時に靴がつんのめって転びそうになった。

 

「あ!」

 

お皿も作った物も駄目になる。

と、半ば諦めて転けるのを待つと誰かに抱きかかえられた。

お腹に圧力が掛かってフワリと立たされる。

 

「気を付けろ」

 

助けてくれたのは、なんとローだった。

 

さて、此処で今更なのだが、ローの好感度を下落させようと思う。

もう結構ポイントが溜まってきたので減らさなければ。

正直に言おう、べらぼうに焦っている。

かなり好感度が高まってしまって焦りに焦っている。

いっそフラグっぽい浮気の一つや二つくらいをしようと考えなかったわけではないが、メロディー家の一件でそれをするとタダでは済まない気がした。

生きて帰れない的な悪寒。

 

正しく死にフラグである。

という訳もあって、死にフラグではない比較的生還率の高い方法をしてみる事にした。

という、諸々の事情によりパン計画を立てた訳だ。

もうローは席に着いているので後はこれを出すだけだ。

ほくそ笑んで誤魔化しつつ出すとローは期待通りの反応を示してくれた。

 

「旦那様。私が丹精込めて作ったものですわ」

 

「こんなに沢山……?」

 

好感度が高いので食べてくれる事を期待して相手がパンを摘まむのを待つ。

 

「おれはパンは嫌いだ」

 

「え!?そ、そんなっ」

 

と悲しそうに演技、ここポイント。

そうすれば、ほら。

困った顔をして眉間に皺を寄せるロー。

内心ほくそ笑んで外面は悲しげにをモットーに。

しかし、この反応では食べないし、好感度も下がらないかもしれない。

 

「そうだわ!私が旦那様に食べさせてさしあげます」

 

名案だと手放しで提案するとローは更に顔の表情筋を使う。

険しくなった。

怖くない、そんな顔をしたって。

何せ嫌われるのが目標なのだから。

笑みを浮かべてローの止めろ、という視線をスルー。

椅子に座ってサンドイッチを手で摘まむと#name1#は彼の口へ持って行く。

大丈夫、美味しいから、と告げてまた笑う。

 

「七武海ともあろう方が……まさかこれを食べれないとでも……?」

 

嫌な女を演じる事にした、これなら嫌われるかもしれない。

 

「だから俺はパンが嫌いだと言った筈だ」

 

「すみません、お耳が休業中なのでよく聞こえませんわ」

 

わざとそう言って嫌な態度を取る。

あくまでも表面は笑顔を節度に頑張った。

ローは口角をへの字にしてギラッと睨んでくる。

しかし、そんな事を怖がっていても何ら目的を遂行出来ない。

しっかりとした意志で挑んでいるので逃げ腰に等にはならないリーシャ。

 

それを凄いという目で見ている使用人達の視線を一心に背負い、果敢にローへとパンを進める。

ローは何でこんな事をする、と聞いてくるが、理由なんて色々有りすぎて言えない。

例えば離婚して欲しいからだとか、嫌われたいだとか。

どれも言ったら叶えてくれるだろうか。

いや、ローは微かにリーシャという存在を認識しているから言わないし、叶えないだろう。

それらを口に出すのは賭事に近い。

 

「ほら、早くお食べになって?」

 

ローの質問には答えず微笑みでグイグイ押す。

しかし、ローは嫌な顔をしてパンを押し返した。

パンをリーシャの手から取り上げたので「あ」と行方を追う。

パンの入っている籠に戻したのでまた取ろうとするとその腕を掴まれる。

口を開く前に椅子から強制的に立ち上がらされ、引かれた。

遂に嫌われたのか、と期待に瞳を輝かせる。

どこへ連れていかれるのだろう。

ローの自室として宛てがわれた部屋に付くと部屋へ入れられて問われた。

 

「さっきのあれは何だ」

 

腕を掴まれたまま問われて考えていた答えを提示。

 

「旦那様の為にと作ったパンですけれど」

 

シレッと言うとローは声を出さずにリーシャの顔を見つめる。

一応目を合わせてみると探っているらしく目を細めていた。

真意を覗こうとしているみたいだ。

生憎、それを見破られるようなヤワさは持ち合わせていない。

ニコリと笑って誤魔化すとローは溜め息を一つ吐いた。

 

「もういい」

 

「では部屋を出てもよろしくて?」

 

ローはそれに待てと言う。

まだ他に何かあるのだろうかと彼を見ると一瞬で目の前に距離を縮められる。

驚いて下がろうとすると彼の腕が腰に回されて身動きが出来なくなった。

離して、と言っても聞く耳を持たない。

恐々と上を見上げるとやはり口元を上げたローが居たので嫌われたのは錯覚だったのかとうなだれる。

 

「朝の挨拶がまだだっただろ」

 

いつ、そんなものをするように言ったのか、と思案していると朝の挨拶なのであろうキスを受けた。

 

 

ぐぬぬ、どうやら好感度を下げられなかったし、失敗したみたいだ。

なんと難易度が高いのか。

恐るべしトラファルガー・ロー。

狡猾に計画的に人生を歩んできただけはあるらしい。

こうなったら作戦変更である、プランBと名付けている。

 

因みにパンの計画はAだった。

と、いう余談は池に投げ入れておこう。

プランBはローが嫌いそうなものを選んだ、さぞ退屈で欠伸を出すだろう。

貴族の嗜みの一つ、鑑賞会。

簡単に言えばオペラを見に行くのだ。

海賊にとっては、つまらないし退屈なオペラだ。

それを承知で連れて行き、明日も明後日も一週間連れ回せばいくら好感度が上がったローだろうと我慢等出来まい。

 

内心覚悟しやがれとほくそ笑んで誘う。

渋るなり嫌な顔をするなりと何かアクションを起こすかもしれないと予想していたのだが、どうやら何とも思っていないようだ。

小憎たらしい事この上ない。

ついでにオペラで殺人事件的な何ちゃって事件でも起きて欲しいなと密かに思っている。

オペラ関係者、ごめんなさい。

ちょっと内なる獣を吠えさせたいだけだ、尚、別に厭らしい意味ではないので悪しからず。

ちょっこし暴れたいだけである。

ウズウズするのはローの好感度を下げられるからだ。

オペラも転成してから初めてなので少し楽しみでもある。

 

(確か恋人の話し……だっけ)

 

夫婦で仮初めな自分達が見るにはかなり不相応な内容だ。

逆に世の中にはこんな恋も出来るのかと惨めになるかもしれない。

そんなどうでもいい事を考えながらローを見てみる。

全くの無表情だ、眉一つ動かさない。

面白くないな、の卑屈になっているとオペラ会場に着いたらしく馬車が止まる。

扉を開けて降りるとローがいつの間にか先回りして手を取るというレディファーストをしていた。

サンジなら分かるが、ローがすると違和感有りまくりである。

 

まさかするとは思わなくて目を丸くして固まっているとククク、と笑う男。

からかわれたのか、間抜けな顔を笑ったのか定かではないが手を借りずに自力で降りた。

オペラ会場は貴族御用達の場所で民間人は入れない。

愛人を連れて密会というのもあるので仮面着用オッケイだ。

なのでローは馬車から降りる前に仮面を付けている。

妻であるリーシャも顔バレするとローというのもバレるので同じく仮面を付けていた。

端から見れば訳ありの二人であった。

不本意だが下手に騒がれるのも嫌だから我慢。

中へ入ると外装も凝っているが内装も同じくお金が掛けられている。

落としてくれるお金の桁が違うので当然かと納得。

ボーイが行き交う中で指定された席に座る。

あまり人が居ない所を探してどこが良いかと訊ねられ、好きな場所を言ってチケットを買うというのが方式だ。

だからまあ行き易いといえばそうだろう。

ローだと分かる程人の近くに居るのを避ける為だ。

有名人を隠すのも大変である。

息を吐いてやっと座れたと一息。

 

隣のローはやはり無表情。

何とも思っていない顔だ、何故良いと許可をして付いてきたのか不思議な程。

パンフレットと小さな双眼鏡を渡されていたのを思い出してパンフレットを開くと簡単な説明が書いてあった。

双眼鏡を一応ローに進めると、必要ないと言われた。

目が良いのか、それとも見る気等塵も無いのかもしれない。

元々は見せかけの夫婦なので当然付き合ってくれているだけのようだ。

ローを観察するのを終えると幕の前に人が現れ、幕がこれから開くという合図と司会進行を宣言した。

彼はそれではお楽しみ下さいという言葉を掛けて消えると幕が開く。

わくわくしてきた。

 

オペラが始まってからは随分と引き込まれていたらしくいつの間にか拍手に会場が包まれていた。

どうやら終わったようだ。

気付かなかったと隣を見るとローは真っ直ぐ見ていたので内心見てたのか、と少し意外に思った。

拍手を少ししてから幕が下がるのを見てパラパラと会場に居た人達が席を立つ。

最後ら辺でいいや、と思いながら人の流れを眺めているとローが帰らないのか、と声を掛けてきた。

今日はあまり話さなかったので無口な日なのかと思っていたが、どうやら違うようだ。

話しかけてきたローに自分の考えを伝えると分かった、と一言頷いて席へ座り直す。

こちらの意見を聞いてくれた事に至極驚くとローはこちらの雰囲気を感じたのか口角を上げた。

仮面を付けているので妖しさMAXだ。

オペラの雰囲気に溶け込んでいる。

 

(舞台に居ても違和感ないね)

 

感想を抱くと周りを見てから人が大分減ったと感じて席を立つ。

ローに行きましょう、と声を掛けると彼は立ち上がりコキッと肩を鳴らした。

馬車に乗り込むとフリーマーケットをやっているらしく、人が行き交っているのが見えた。

 

楽しそうだと見ているとローが馬車を止めて#name1#にも降りるように言う。

何か考えがあって言っているかもしれないので素直に従う。

それに、あわよくばフリーマーケットで沢山買って我が儘令嬢を演じられる。

ニコニコと笑みを貼り付けて馬車を降りるとローは迷い無くフリーマーケットの中へ入っていく。

人混みが嫌いそうな感じなのに意外に思う。

 

「旦那様、何か買われるのですか」

 

その為に馬車を止めたのだと思って尋ねたのだが、彼は「見てから決める」と言って淀みなく前を向く。

何となくという意味だろうかと思っているとスイスイと進む体躯。

男の背は高く威圧感もあるので人が避ける。

仮面を此処でも被りたくなるのは仕方ないだろう。

出来れば他人を装いたくなる。

しかし、考えてみてくれ、女で背も対して高くない自分が人混みに紛れるとどうなるか。

流されて揉まれてはぐれる。

 

「だ、旦那様……」

 

呼んでみても人の雑音にかき消される。

 

「あ?」

 

しかし、ローはちゃんと聞こえたようでこちらを見てから少しだけ止まった。

アプアプと海から顔を出すような感覚で人混みを掻き分けるとやっとの事でローの元へ辿り着く。

 

「……行くぞ」

 

「あ」

 

ぶっきらぼうに言ったのに腰を抱いて歩き出す。

突然の行動に呆気に取られながらも付いていくしかない。

ヨタヨタとおぼつかなかった足がローのエスコートが加わった途端にサクサクと進めるようになる。

例えるならばそう、満員電車で連れがさり気なく苦しくないように空間を作り出してくれる感じだ。

自分でも何を言っているのか分からない、今のはなかった事にしてほしい。

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