何もやってはいない筈。
真面目にやってきたのにもたらされたのは解雇だった。
酷い、どうして、と沢山思うことはあるものの、決まったことに口を出す間もなく身を出された。
理由は一応、あるらしい。
円満退職ってなに。
円満も何も聞かされてねぇよ。
アイドルをプロデュースする仕事は聞こえは良いが、体のよいタダ働きに、いや、馬車馬雇用に匹敵する。
うちの事務所は特にそれが酷い。
もしかしたら他の会社は違うかもしれないが、知らないので他に言いようがない。
私が何をしたというのだ、と憤るのは家に帰った後だ。
──その後の事務所
「もう一度言ってみろ」
事務所のボスの胸ぐらを掴む男。
「も、元マネージャーはもう居ないと、言ったのだ!」
殴られるか殴られないかの狭間でプルプルと震えている男は数年前まで弱小な事務所の弱小な小心者だったのに欲と時間は人を変えるものだ。
死ね、と怨念を込めて呟く。
「弁護士がこっち来るとさ」
事務所の要の一人、キッドは赤い髪を弾かせて事務所のボスを射殺さんと睨む。
「き、君たちが弛んでるのは、彼女が原因だ。解雇するのは当然!」
「弛みたくなる程この事務所が脳ミソすかすかだから悪いんだよ負け犬。人のせいにする前にお前は仕事取れよ負け犬。あと解雇って言ったな今。ふざけろころすぞハゲ」
「拳を抑えろ。ヤるのは弁護士が帰った後にしとけ」
「ひ、ひい!今までの恩を仇で返す気か!?」
弁護士と拳でやられるフラグに怯えを表面に出す。
そういやこいつら元は人格的に不良寄りだとプロフィールを思い出した社長は顔面を蒼白にす る。
「契約に違反するのかっ」
はっきりと敵意を感じたボスは苦し紛れに言うが、アイドル兼暴力に訴える奴らにはどこにも居ない。
諦めて弁護士になすがままにされるしか未来はなさげだ。
「到着したな」
ローがスマホを見てキッドへ声をかける。
襟首を離したキッドはフン、と息を吐き、ローが外へ行くのに続く。
それに慌てるのは勿論男だ。
「ま、まてっ」
無情にも扉が閉まる音しか答えてくれる物はなかった。
扉が閉まるとローとキッドは並び歩く。
「おい」
「なんだ」
キッドはローに話しかける。
ローは分かりきった風に言う。
「あいつの場所ならおれの知り合いが場所を見つけた。いつでもどうにでも出来る用意は出来てる」
「は?お前の知り合いが?って事はおれのダチが探しても無駄骨だったわけか」
「嗚呼、お前らも探してたんだな」
ローは納得。
キッドもつるんでいる男友達に伝えて情報網を敷いていたが、見つからずうだうだ考えず例のボス男を締めていた。
しかし、八つ当たりにもならない。
ストレス発散にもならない事をしたが、居場所が分かったのなら今は気にする事はない。
「弁護士どこだ」
ローは外のカフェに待機して貰っていると笑った。
──その頃、片方は
とぼとぼ歩いていたが埒が明かないと早々と悟ったリーシャは転職雑誌を手にベンチへ座っていた。
本当は自分の部屋へ行って休みたいが今は人の居ない雰囲気が漂う自室に行ける精神を失っていた。
「はーあ。なんでこうなるのかなぁ」
ベンチは一人。
砂場で遊ぶ事もない程、人は居ない。
所謂過疎っている公園なのだ。
はぁ、と何度目か分からない程吐き出してばかりのもの。
俯いて転職雑誌を無意味な瞳で眺めていると上へ影が出来て太陽が明るさを失う。
もしかして雲がかかったかな。
「お嬢様」
誰だそんな金持ち呼びする人は。
怪訝な顔で気になったまま上を向くとどこかのじいじやセバスチャンと呼ばれそうな初老な男性が立っていた。
「ローぼっちゃまがお待ちです。お車を用意しましたのでお乗りいただければと思います」
ローと言う、して、ぼっちゃまとは。
ローのプロフィールをぼぼぼ、と浮かばせ思い出すとそういえばローの家の住所は高級住宅街だったな、と思い出す。
ならば執事が居ても、長い黒い車が異質な光景を産み出しているのも納得、出来るかも。
「私はどこへ行くのでしょうか」
職を失ったばかりで、行く宛はうちしかないというのに。
今日は沢山考えることが増えてこれ以上ややこしい事をしたくない。
「恐れることはなにもございません。ただ、身を委ねてもらえれば悪いことにはなりません」
執事は優しい微笑みを薄く備え、びっちりとした燕尾服を見せつける。
「ささ、どうぞ。食事のご用意もしておりますゆえ」
料理が作られっぱなしなのも確かに悪いな。
ゴーストの様に虚ろな目をしたままフラフラと車へ行き、ドアを開けられてそのまま乗る。
「あら、漸く来てくれたのね」
「え?え!?」
初めは誰か分からなかったけど、ローがデビューする前に契約書やらを渡に言った先で見た、ローの母がほがらかに笑ってにこにことしていた。
「トラファルガーさん、お久しぶりです」
言えることなんてこれくらいなのに、何が起こるのだ、言われるのだ。
危機恐々と感じた。
「詳しいことはローから聞いたわ。大変だったわね。大丈夫、うちの子は頼りになるもの」
くすりと手を当てて宣言される。
唖然とし、言葉を探しあぐねていると車が揺れ、動き出したのを感じた。
どうして彼女が拾ったのだろう。
「あの。私は既にあの事務所から抜けた身ですが」
言い淀みたくなる事でクビになった。
「知っているわ。不当である解雇という事は」
出てきた発言にまた詰まる。
話すことがなくなるではないかと困惑。
「その事はあまり気にしなくて良いのよ。だってローが手続きしてくれているんだもの」
イタズラめいていて、何か隠し事をしている顔で言われる。
問いただしたいがどう聞けば良いのか。
彼女と話したのは久々で、会話らしい会話もしたことはないし。
「貴方には感謝しているの。うちの主人もね」
「感謝、ですか」
「ええ。あの子は貴方と出会うまで荒れていて、でも、その後は瞳も体も全て生命力で溢れていた。あの子を救ってくれたのは紛れもない事実」
淡々と、それでいて思い出すように紡がれる。
そういえばと回想される思い出。
父親がちょっとした芸能界の端役をちょんとしている仕事をしているので、自ずとリーシャも興味があった。
ローやキッドと出会ったのはこういう人がテレビを作っていけばテレビはもっと彩られるのではないかと思わずにはいられなくて、同級生とはそこまでいかなくても年齢は近かったので不審者に間違われる覚悟でデビューしてみないかと誘ったのだ。
「燻っていたローは貴方のおかげで広い視野を持てた」
さっきから随分と評価をしてもらえていて、誉められて嬉しい。
車が止まると窓を見た。
そこは一件の家で、玄関の外にはキッドとローが居て何故ここに?と思う。
事務所に居る時間の筈。
「勝手に居なくなるんじゃない」
仁王立ちしているローに言われ成す術なく追い出されてと言うほかあるまい。
「だとしても電話かメールくらいしろ」
二人に言われ、しゅんとなる。
「解雇されたのだから普通は冷静になれないわ。責めるのはお門違いよ」
ローのお母様が二人を嗜めた。
その迫力にうっとなる男達。
「二人の事をずっと見届けるとか言っといて、こうなったことはごめんなさい」
責任を持って二人を放任したのに。
「バカ」
「愚問だ」
二人は頭がぐしゃぐしゃにかいてきた。
もう、こっちはセットするのに時間がかかるのにやめて欲しい。
でも、気持ちが伝わってきて嬉しかった。