とある島、そこはウェディングの最も盛んな場所として有名だ。
仕方なく、とローは嫌な顔をしながらもログポースを貯めねばならないので立ち寄るのだと言った。
勿論、リーシャはもろ手を上げて賛同した。
やった、日々の行いの良さにお天道様が気をきかせてくれたんだ。
緩む頬は隠しきれず船員達から良かったなー、と緩いエールを貰った。
なにを言っとんだこいつらはとじと目になった。
女心を一ミクロンも理解してない。
リーシャがこんなに喜んでいるのは夢の結婚をお前らの船長にぶっ潰されたからだよ、なんて、言う意味もないな。
言ってもどうせ許してあげろよとなに目線だと罵りたくなる回答しか帰ってこない。
断言してやる。
この船員達は海賊であるが完璧に宴を楽しむタイプだ。
繊細で配慮に欠けたことしか言われまい。
唯一言ってくれるとしてもそれはそれで言われたら殴っちゃいそうな頭脳派なローだけだ。
きっと「お前が言うな」と熱いパトスが砲撃となってこの船を襲う。
と、つらつら考えている間に島に着いたので早速向かうことにした。
が。
「え?なんで来るのです?」
「おれもこっちに用事がある」
「え?あっち行って下さる?」
びっくりな言葉に苦虫噛むの巻き。
「買ってやる」
なんの脈絡もない。
呆気に取られていると、ローが先に行ってしまう。
私の手を引っ付かんで。
半ば引きずられていると過言ではなく、それをみたカップルの男の方が三度ほど大魔王から救おうと試みてくれたが魔王の眼光によりその勇気が表に出ることはなかった。
あーあー、今彼女の好感度激下がった!
100の愛情があるとすればマイナス40は下がったな。
女から助けられないモヤシが、と心のうちで罵られていることだろう。
ローに連れ回された結果着いたのはジュエリーショップだった。
男が来そうにない所へこさせられて目からブドウが落ちる思いだ。
無理矢理連れて入られてガラスケースの前へ立たせられて一言。
「好きなのを選べ」
とだけ言われ、彼はそのまま壁の横へ刀を持ったまま腕を組んでしまった。
無表情なのでここで茶番を口にする気力もない。
助けを求めようとしても無駄だが、店員はスマイル1万円を輝かせて無言の応答拒否をしている。
笑顔って言葉いらないんだなー。
こちらは笑みを浮かべる余裕もない。
ならば、ここは適当に。
「この中で一番」
店員の鼻がひくりと広がる。
「安いものを」
店員の未来に慈悲はない。
見捨てたのを忘れるわけがなかろう、バカめ。
それに高いから欲しいとは思わないので無くしても心が痛まないものが好ましい。
高すぎても絶対に付けない自信がある。
ガラスケース前でがっくりした姿をしている店員を見送る。
お持ちしますと言われ待機するとローがマスターソースとケチャップをかけたような顔をしていた。
「ちゃんと選べ」
わあ、スパイシー。
「選んだ結果です」
しんなりと頷く。
だが、納得していないのかムスッとしている。
「なら、貴方が選べば済んだ話では」
男はキツく睨んでから店員の持ってきた宝石付きの指輪を、ぶんどるとお金が詰まった袋を投げた。
「あら、渡しすぎよ旦那様。お金は大事にしなきゃ」
店員に投げたものをすかさず先にキャッチしてしっかり金額分だけを渡す。
店員は貰える予定だった袋を死んだ目で見てから枯れたスマイルを張り付けてまたのご利用云々を言った。
なんて心に残る悲しい音色なんだろう。
という喜劇は置いといてさくっと指輪持ちの旦那の後ろを付いていく。
ふて腐れた空気を纏うローにもうそろそろメインへ行きたいのだが、と述べる。
「おれを乱れさせてさぞ楽しいだろう」
恨み言が溢れたので拭かずに。
「ええ。とっっっても」
ふきんで汚れを拡大させる。
綻ぶ笑顔を見せた途端、刀の方からガチャガチャガチャガチャ、と震えた音が聞こえた。
必須イベント震えるトラ男さんがおいでなすった。
ああ、震えてる震えてるとにやつき、一通り観察するとローを追い抜く。
タッと走れば「おい」と呼び止めてくる。
今にも追いかけてきそうなローに早くしないと行きたい店が閉まる、と告げた。
何度も人にぶつかりそうになるが目当ての場所、ウェディングドレス試着所へ急ぐ。
夢にまでみたドレス!
何度着たいと思ったか。
着せてもらえそうになかったので諦め気味だった。
自分の意思で自分の着たいものを選ぶ。
想像しただけでたまらん。
試着出来る会場へ着くとローを待たずして入った。
何人かいるが、支障なし。
うふふ、と笑いドレスを見る。
向こうには教会があるので簡単なものではあるが、挙式が出来るらしい。
なんて幸せな時間なんだと選ぶ。
絞りに絞ってなん着か着てから一番しっくり来たものに決めた。
教会へ行くとローと船員達が居た。
合流するほど時間が経っていたのだと思えば納得だ。
近寄るにつれて別件でなにか騒がしい。
ロー達はロー達で固まっているので無関係な感じだ。
巻き込まれぬように見ていると男が女を宥めている。
「お、似合ってんじゃねェか」
船員にほめられて満更でもない。
やっぱりウェディングを着たらこうでなくては。
盛り上がっていると一際甲高い声がこだまする。
「なんでよ!今日しなくちゃもう来れないかもしれないでしょ!」
「だから、頼むよ。無理なんだ」
「今になってなんでそんなこと……もしかして!他の女なの?だからやめようなんて言うの!?」
「違うよ」
「もう信じられない!最低!浮気者!」
なんだなんだと周りも見始めた。
花嫁らしきウェディングドレスを身に纏う女がこちらへやってきた。
リーシャにぶつかりたたらを踏む。
女はこちらを見て、ローも見ると追いかけてくる男を振り返る。
「浮気者!貴方がそのつもりならっ。私はこの人と」
ローの腕を組んで。
「結婚するわ!」
あろうことか、真横からこんにちはしたのだ。
なので。
「お前が言うな!」
──ビュ
──ドス!
リーシャの特注品武器、チェーンが純白の花嫁のべんけいの泣き所を激しくワンキルしたとしても、顔を狙わなかっただけ感謝してもらいたい。
「ひぎいいい!」
女にあらずな声を出して地面にはらりと白い布を広げ、落ちる様を冷えた瞳で見る。
うぎゃあああ。
あしがー、とのたうち回る花嫁にタキシードを来た花婿駆け寄る。
「なんてことを!」
「なんてことを?」
チェーンを鳴らして懐にしまう。
もう必要ないだろう。
「人の旦那と浮気します宣言は、なんてこと、の範囲には入らないとでも言いますの?」
ど正論に花婿のお口は閉口。
「だ、だが、それは勢いで」
「お黙りになって?」
ピシャリと有無の言えぬ言葉で言わせない。
「荒ぶった自分の女一人に手こずる貴方では私の敵ではなくてよ」
花嫁のブーケが側にあったのでそれを手に取りくるくるとまわす。
「あ、それは私の」
弱々しく呟く女に視線をやらない。
さっき男を女は詰った。
「先程、貴方たちの痴話喧嘩を聞いておりましたら、貴方は彼を詰っていましたが、人の男をかっさらおうとした時点で立場が入れ替わったのはお分かり?」
花嫁はハッとした顔をして花婿の顔を窺うように見る。
「僕は気にしてな」
「甲斐甲斐のない男の声が聞こえるのは不愉快だわ」
男が完全に膝を着く。
「おい、それくらいに」
船員達が挟まってきた。
そんなに挟まりたいのなら洗濯して干してやろうか。
「それに、花嫁なんだからもうちょっとだな」
気をつかったらどうだ。
その宥める声にぶちギレた。
「お前らが言うな」
ブーケをくくりつけてチェーンを振り回して船員達がぎゃあぎゃあと逃げる。
おれ、花粉症なんだと鼻水を出し始めたのを見て冷静になった。
ローの花嫁に優しくなかったのにブーメランじゃね?となる。
最初、絶対にローの結婚相手を良く思ってなかっただろう。
「人のものを取る前に言いわけくらい聞きなさい。貴方も貴女もどちらも浮気済みなのよ」
「いや、僕はしてな」
「それもそうね」
花婿の言葉を花嫁がぶったぎり始めた。
花婿の精神が試される。
「ねえ。なんで結婚式をやめようなんて言ったの?」
漸く弁解を聞いてもらえると弱々しい声で話し出す。
ローはというと聞かなきゃダメなのかという顔で見ていた。
「指輪が用意出来なかったからだ」
「え、でも」
「君がよろこぶものを選ぼうとしたらどんどん深みにはまってどれを買えば良いのか分からなくなって」
ダメな男さ僕は、と最後にいうのでなにを当然のことを言っているのだと言おうとしたらローが口を塞いできた。
「お前がなにか言うとややこしい。もう言うな」
そう咎めると彼は花婿におい、と声をかけてピンっと指先で何かを飛ばす。
それをヘタレ男が掴む。
あ、あれは、買った指輪。
「えっ。いや、え?」
「もう必要なくなったんでな」
ローはかっこよく告げて花婿は返そうとするので付け加える。
「男ならこれよりも良い指輪をやるから僕と結婚してくれますか、くらい言いなさい」
男はその言葉にスッと表情を引き締めるとその場で躊躇なくひざまずく。
周りから野次馬がきゃああと黄色い声を上げる。
うんうん、わかるよ。
憧れのシチュエーションだもん。
男は皆が見ている中、ステンドグラスに照らされて公開プロポーズバージョン2をする。
彼女はそれに涙を流して受けた。
それを見続けるのも流石に疲れたので試着室へ行き着替えた。
外へ出るとローが待ち伏せしていた。
待ってなくても良かったのにと言うと彼はなにも言わずに能力を展開し、どこか知らない建物の上へ移動させた。
突然のことに驚いていると彼はスッと指輪を出してきた。
最初に買ったものではない、もっと高そうなものだ。
いらなくなったというのはそういうことだったのだ。
「私に?」
「ああ」
「今更?もう貰ってるのに」
結婚した時に形式的に渡されてそれきり、指に填まっている。
「今と昔では違う」
「違う、とは?」
「なんだと思う」
ローの目を見て久々になにも言えなくなった。
その瞳は真剣で、男を感じさせた。
「私に惚れたとか?」
いつもなんだかんだで口説いてくるので。
当たりも外れもどちらでも構わない。
「おれにお前が惚れたの間違いだろ」
クッと笑みを浮かべ悪い顔をする。
「なにそれ!」
ぎろりと相手を見上げればそこには指輪が見える。
そして、己の手先を見て指輪を抜く。
「じゃあ、昔のものは貴方が持ってて。私を試みなかった戒めよ」
ローに渡せば彼はそれを受け取りしまうと、今度はリーシャに新しい方をつけさせた。
「これはおれのものという鎖だ。外したら後悔させる」
もうちょっと言い方を考えろとドツキたくなるが、この指輪に免じて許す。
なぜならば好みの形をしているからだ。
いつの間に図ったのかサイズまでぴったりなので悪くない。
「へぇ。やりますわね」
「素直な時はとことん素直だな」
「一言余計ですの」
つけられた指輪を太陽に翳してからじっくり眺めた。
「たまにはこういうのも悪くねェな」
「あら、海賊の台詞ではありませんね」
クスッと笑って同意した。
下で部下達がローの名を呼んで探しているのを見つけて、降りてあげたらどうだと尋ねる。
そうだな、と彼は#name1#を抱えるとビルの上から飛び降りた。
そういうところが非常識、マナーがないと思うんだ。
「あ、船長にリーシャ」
探していた人が見つかり船員達はホッとした顔になる。
「帰るぞ」
まだ船は動かせないので何日か滞在することになる。
「旦那様はタキシードを着てくれないのね」
「おれにあれを着ろと?断る」
確かにそれを着たら笑いながら写真を撮って海軍本部に送りつけるだろう。
ウェディングドレスを着られただけで満足ではあるが、いつか式も体験してみたいものだ。
チェーンの感触を確かめながらキラリと光る指輪を見て、密かにそれを優しく撫でた。