短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

124 / 139
宇宙人で海賊。転生した話


照らす魚

ここは宇宙の中。

 

こじまんりした船が骸骨を旗日かせて夜空にはためいている。

 

骸骨をぼんやりとみてお酒を飲むのは正真正銘本物の海賊で、長の女。

 

女は酒を飲む中で星を数えたりして楽しんでいたが、ふいに気配が横からした気がして顔を斜めに向けると、憎たらしい腐れ縁がなんの許可もなくぐびぐび己の秘蔵酒を遠慮なく喉で受け止めていた。

 

堪らず叫び声もあげたくなる。

 

「お前!トラファルガー・ロー!なに勝手に飲んでんだ!?」

 

絞め殺したくなる殺意。

 

「やめろ!飲むな!」

 

船長の制止に何事かと窓から甲板を覗いた船員は他の敵の筈の男が女を怒らせているのにその光景をいつものことかと断じて再び窓から遠退いた。

 

薄情な船員め。

 

給金減らしてやる。

 

減っていく酒をむりやりその手に取り返せば、ローはにやりと笑みを浮かべる。

 

「美味いが少し安物だったな」

 

「勝手に飲んだ癖に煩い!」

 

本音を暴露され、そりゃ、ロー達よりも小さい海賊団だから贅沢なんて出来ないし、ローが普段飲むお酒みたいに美味しくはない。

 

しかし、なけなしの良い酒を楽しんでいたのに水を刺されて怒らないわけがない。

 

突き落としたくなる。

 

「私の許可なく船に入ってくんな。しっし!」

 

いぬみたいに追い払うが全く去らず、居座ろうとする。

 

「お前のところのコックは良い腕してるな」

 

「また引き抜くなよ!やったらお前の首を捻るぞまじで」

 

「全く怖くないな、相変わらず」

 

「バカにしやがって」

 

取り返したお酒を奪われないように抱え込む。

 

「賭けのことは覚えてるよな」

 

「はぁ?あんなの無効だ!」

 

「どちらが多く旗を奪えたか。おれだったろ」

 

ローから少し前にそういうことを提案されたが、途中船員が腕を負傷して暫く身を潜めていたので全く稼げてなかった。

 

おまけにサラッとローに秘密の場所を突き止められ、挙げ句負傷した船員を治療したのだ。

 

色々先手に回られて悔しい。

 

「お金ならないぞ。うちの貧乏は知ってるだろ腹黒」

 

「フフ、別に金に限ったもんじゃねェ」

 

なにかにつけて突っかかってる男がかんに触る。

 

だとして、船員をやるようなアホなことはしない。

 

バカバカシイ提案をされて無視していたが船員を助けられてそのままは具合が悪かった。

 

「ちっ。酒が不味くなるからあっちいけ」

 

恩着せがましく言われても反発したくなるだけだ。

 

物理的に距離を起きたい。

 

「考えとけよ」

 

なにかの謎解きのように男は妖しく笑い夜の暗闇に消えた。

 

そして、それ以降は意図せず男と会うことはなかった。

 

理由はラルフローレが死亡したからだ。

 

客観的に述べているのは回想出来るくらい、人生が回ったからだ。

 

海賊船長の己は不慮の事件で死に、生まれ変わりこの田舎の普通の娘っ子として地味に暮らしている。

 

「はぁ!」

 

──ドン

 

「ぐえ!」

 

「くそ!やっぱこいつつえーよ!逃げろ!」

 

数少ない女友達が悪ガキにつんつんされていたので実力行使で助けた。

 

ケティはうるうるさせた目でありがとうと頬を染めて礼を言ってくる。

 

この村で二人だけの女。

 

自ずと自分が守る方になるのは自然なことだ。

 

砂ぼこりのついた手を払うとなんてこないさと笑う。

 

このむらはどう見ても田舎。

 

宇宙や海賊なんかと全く縁遠い。

 

海賊なんていったら雲の上、絵本の中。

 

それくらい田舎なので襲われない平和な村だ。

 

運良く魔法の使える個体として生まれたことは至極幸運である。

 

前の人生では魔法の使えない個体だったので貧乏。

 

今は魔法があるので好きに稼げる。

 

稼いで稼いで稼ぎまくるぞ。

 

今だって実力をつけてめきめきと仕事をこなしている。

 

あのトラファルガー・ローだって目じゃないなと浮わつく。

 

そんな生活が危ぶまれたのはこの村が本当に田舎だったからだ。

 

なんと、次々と海賊がこの村に押し寄せてきた。

 

いや、村だけでなく国単位で。

 

なんでも海賊の隠れ蓑の会合場所として不運にも選ばれてしまったらしい。

 

どういうこだ。

 

確率としてもめちゃくちゃなのに、海賊に集まられていく村は当然パニックで。

 

どこへ逃げても無駄だと分かり、女子供は表に出ず、男たちだけで接待することで乗り切ろうとなった。

 

女を見たらどう豹変するかわかったものではない。

 

この自分なような男勝りでも海賊時代は女と知られれば可愛がってやるという台詞が良く出てきた。

 

そんな男みたいなのでも対象になるのなら、か弱い女たちなんて即席だ。

 

「お酒を兎に角用意しよう」

 

各自の提案に皆が頷く。

 

海賊たちは何故かたくさんいるのに統制が取れていた。

 

一番最後に降りてきた船を見て思わず息を飲む。

 

知っていた。

 

あの旗を見たことがあった。

 

まさか時代的にまだ存命していたとは。

 

新聞は全く海賊のことをとりあげない田舎の星だから。

 

「あれって、まさか」

 

村の長はマークだけは見たことがあるのか、顔を青ざめさせていた。

 

新聞には乗らないのにマークは見たことがあることに違和感はある。

 

そこそこ時間経過があったので渋いおじさんにでもなってるんだろうかと降りてくるのを見ていると、奴はついに現れた。

 

そして、年を取ってない。

 

ということは種族が長命なのかもしれない。

 

ふけた顔を見てせせら笑ってやろうとしたのに。

 

真顔で昔より近寄りがたい空気を発して奴の仲間も続々と降りてくる。

 

なんだあれ、本当に同一なのか。

 

村を使用することをトラファルガー・ローは淡々と村長に伝える。

 

そこには同意を求める空気がない。

 

「……長くは居ない」

 

ローは端的に告げ、その真っ黒な目をこちらに向けることなく行く。

 

ラルフローレはそれを遠い窓から見つめていた。

 

奴ならばれると思っていたが、あえて見なかったふりをしたかも。

 

知っている男の変貌に戸惑う。

 

女たちが動くのは主に水を組むときと料理を作るとき。

 

夜だ。

 

夜なら男らも寝ている。

 

動きやすく、見つかりにくい。

 

井戸に水を組む番になりそそくさと足音を潜める。

 

何度か組んでいると気配を感じて月のある空を見上げる。

 

ハッと息が止まる。

 

双方の眼が間違いなく自身を見つめていた。

 

夜でも月の光のおかげで男が見ていることは分かる。

 

こちらを知られているのなら余計なことをすまいと水を放置して身一つで寝泊まりしているところに戻った。

 

「はぁ、いつまで待てば良い?」

 

それは村人の愚痴ではなく、どうやら奴の仲間だった。

 

建物越しだけど耳が聞こえやすくなり夜も静かで良く聞こえる。

 

「もう戻ることはない、諦めろ」

 

「でもよ、おれはあのときの船長の方が良いかなって思うんだ」

 

聞き覚えのあるような、ないような。

 

「あいつがああなって、まだこうやって策を講じれるだけマシだ。終わったあとはどうなるかが問題さ」

 

「無気力にだけは勘弁だなー」

 

「それでもおれ達が支えるだけだろ」

 

そこまで聞いて、一度井戸に戻ればそこに視線も気配もなく、なにもなかったのを装い水を運んだ。

 

不安にさせても逃げる場所もないので男に見られて居たことは伏せた。

 

パニックで混乱しても抗えない。

 

己だけに秘めておく。

 

あれは、誰だったのか。

 

もしかしてローかな。

 

あんな風に観察するみたいに見ているのが違和感。

 

あいつなら、話しかけてきそうだが。

 

いや、降りてくるときの顔やせい急性のある行動で、今はそんな余裕がないのかも。

 

なにやら計画しているみたいだったし。

 

海賊が滞在して5日。

 

なんの動きもなく、酒で騒ぐこともなく。

 

不気味な会合だ。

 

会合というは罵倒くらいあるのが常。

 

それなのに全く煩くない。

 

朝、寝ぼけて起きてきた男が一人、男の姿をした己とかち合い、気まずげに話しかけてくる。

 

「この星に娯楽はないのか?」

 

平謝りを見せつつ「ございません」と悲しげに訴えかける。

 

それに罪悪感を刺激されたのか話しかけてきた男であるローの部下は慌てて怒ってないと弁解。

 

「船長に少しでも気分を和らげてもらおうと聞いただけだ」

 

「そのお方は気分が優れないのですか?」

 

「いや、そーいうわけじゃ……あー、この村に若い女っている?」

 

その瞬間、毛穴がぶわりと開くのを実感した。

 

「……はっ?」

 

ぶちまけると、キレたのだ。

 

殺気という殺気を全開にして相手に投げつけると男は動揺して怯んだ。

 

ローの部下はましなやつらかと思っていたのに。

 

「なにかあったのか」

 

殺気をなくすタイミングをスッと移動し、なにもなかったかのように頭を下げた。

 

声をかけてきたのはローだった。

 

「あ、いや、ただ、あの、なんでもないっす」

 

ローの部下は逃げるように帰っていく。

 

関心の男はまだそこにとどまっているらしい。

 

「お前から懐かしい気配がする」

 

ローの口からとんでもないものが出てきた。

 

「歩き方、気配、殺気、癖」

 

そういわれてしまうと、前の人生で得たものだから、やはりそちらに引かれてしまうから直しようがないとしか。

 

というか、殺気って。

 

「もしかして、お前、なのか?」

 

誰をさすかは薄々感じ取ったが、ここで頷いても既に道は違えている。

 

「お客様、すいません。朝の用意をしてきたいのですが」

 

出来るだけわからないようにわからないように、ローへ強ばった笑みを浮かべた。

 

ただの村娘だ。

 

「ああ、好きにしろ」

 

捨てるように吐き、彼は直ぐに目を外へ。

 

去っていく女に男は歪に笑みを浮かべた。

 

「残り少ない時間をな」

 

 

 

 

 

夕げの時間になると男たちはそそくさと慣れた手つきで海賊たちにふるまう。

 

慣れたが怖さは薄まらない。

 

男たちは海賊たちの会話から明日なるとこの島を離れることを知り、皆を喜ばせた。

 

もうすぐあの宇宙へ飛び立つ面々。

 

少しだけ懐かしくなった。

 

船員たちは短命だったからもう生きては居ないだろうな。

 

寂しく思う。

 

元々各自スペシャリストだっただけで、元は民間人の男たちだ。

 

スペシャリストだったから、有権者に目をつけられて逃げるために故郷を追われた経緯を持つ。

 

「また飛びたいな」

 

空を見つめてささやくように呟く。

 

「言ったな」

 

返答のあった独り言。

 

パッと振り向くと何故かいる腹黒男。

 

「な!あ、な、なにか、ご用で?」

 

動揺したが今は村人なのだ。

 

「その前に、なぜ勝手に死んだ」

 

「え?」

 

ローの言葉に目をむく。

 

死んでませんが。

 

「お前には貸しがいくつもある。期限をとっくに過ぎて踏み倒したんだ。膨大な利子があると思え」

 

なんのこっちゃとローの台詞に戦いていると、彼はお前の船員の怪我を治しただろうがと笑う。

 

これは完全にこの身がなんなのかバレている。

 

「お客様──っ!」

 

尚もはぜぬを突き通そうとすると、男は一気に間合いを詰めた。

 

「次回まで考えとけと言ったが、ここまで待たされるとは。お前はつくづく予想出来ない」

 

なんのことだと疑問を呈する内容に記憶が引っ掛かる。

 

昔、こいつは勝手に勝手な約束を一方的に押し付けた記憶。

 

今まで忘れていた。

 

なんせ、魔法が使えたことに受かれていたし。

 

──スッ

 

「……なんのつもりだ」

 

ローに向けて手のひらをかざしている。

 

これはローの思考をかき消すために仕込む為。

 

彼はただの攻撃行為だと勘違いしているのかな。

 

「お客様……少々勘違いされてますね」

 

ラルフローレは発言が終わると同時に術を発動させた。

 

しかし、ぱちんと弾かれる感覚に眉を動かす。

 

こいつ結構長生きだから耐性でもあるのか。

 

「攻撃じゃなく、忘却か。無駄なことを」

 

ローは気にした素振りもなく淡々と指摘してくる。

 

もう少し再会を喜べば良いのに。

 

しかも、昔あったときよりなんだか暗い。

 

影をインクにして全身に浴びているような。

 

「なにがあったんだ、ほんと」

 

小さな声で疑問をもらせばローは初めてここに来て、歯をぎしりと鳴らす。

 

「お前が勝手におれの前から消えたせいだ!」

 

(ええええ)

 

驚きの連続だ。

 

ローはそんななよなよしてないよ。

 

「責任を取れ、利子つきでな」

 

「落ち着けよ……めんどくさい奴に成り下がってよ」

 

「黙るのはお前だ」

 

ローは睨み付ける目で、先程よりも何故からんらんと熱を帯び、生気を取り戻しつつある。

 

そんなヒートアップするような台詞を吐いたつもりはないんだが。

 

「あー、こほんこほん」

 

と、三人目の咳払いが聞こえて内心忘れていたことを恥じる。

 

そういや、ローの部下もまだ傍に居たんだった。

 

まとめて記憶を消すには部が悪いな。

 

「えっと、おれ今結構混乱してるんすすけど、確認しますね。この女があの海賊の放浪コンダクターのラルフローレだって船長はそう談じるんすか?」

 

「ああ。なにかもかもそっくりだ。更に今の反応を見ていただろ」

 

「あーあ、ばれちまったかぁ。ふうん。そうなりゃやることは決まってくるよなー」

 

「お前は呑気に何を言ってやがる。一生監禁だ」

 

「怖いってお前、この不摂生野郎。おりゃ!」

 

目の前で煙幕の魔法を発動してくす玉を割る。

 

その間にすたこらと家に戻り手荷物を持って逃げる。

 

家族には置き手紙があるし、海賊に追われるかもしれないと書いておけば察してくれるだろう。

 

誰かしら追われても可笑しくないしな。

 

「へへ!また私の勝ちだな」

 

トラファルガー・ローよりも上に立てて、逃げ切れたことに優越感。

 

勝利の感触に浸って道を急いでいると急に船が顔面スレスレに落ちてくる。

 

「きゃ!」

 

「お前でも女声を出せたんだな」

 

「生まれた時から女だよ!お前、私を殺す気か!」

 

船を生身で落としてくるなんて仕留めにきているとしか思えない。

 

怒らせるような因縁はないぞ。

 

どうなってるんだあいつの頭の中。

 

「ラルフローレ!生きてたんだな」

 

げ、シャチ達も追い付いてきた。

 

あいつら弱かったのに、年月の差で埋めている。

 

「うるせー。ついてくんな!」

 

「船長嬉しそうだなおい」

 

船員達がなにやら騒いでいるが、構ってられるか。

 

とっとこ逃げねばと船を迂回して逃避行を続投。

 

しかし、ローが船やものをヒュンヒュン飛ばすので避けるのが大変。

 

船員達も巻き添えで避けていて、効率悪い海賊達に呆れた。

 

「部下も巻き込むなよネクラ!」

 

「お前が捕まるのなら安いもんだ」

 

「気持ち悪くなりやがってよ」

 

「……フフ、その台詞が続けば良いな」

 

ローの地雷を踏んだのか攻撃の猛攻が強まる。

 

本気でやりにきている、やばいぞ。

 

「こうやりゃ……は!」

 

脚力に魔力を付与して一気に跳び、ローを越えて地面に着地。

 

そのまま速度を保ち地面が擦れるままに走る。

 

「ふ!お前ばっかに捕まるか」

 

負けては悔しかった時代は最早過ぎた。

 

ローのような能力者に己のなったのだよ。

 

猛スピードで足を交互に動かして逃走を図る。

 

こうなったらもう一度宇宙に飛び出すしかないな。

 

ローが連れてきた海賊の船を使うしかあるまい。

 

この田舎に宇宙船なんて高価なものは当然無い。

 

「おれを本気にさせるか」

 

後ろから更に迫る男に空中へ飛ぶ。

 

「蒼龍火焔!」

 

手のひらをローに向けて翳し足止めのために火を放つ。

 

相手はするりと避け、その手の中に収まる豆鉄砲を撃つ。

 

いい加減にしてよ。

 

飽き飽きする攻防戦にそろそろ着地したい。

 

炎を円にしてくるくると回るままに彼へお見舞いする。

 

船員達は慌てて避けるが次々出すので追い付けない。

 

「嘘だろ、あいつ強いぜ!」

 

「うう、あんな弱小だったのに」

 

「おい、黙れっ」

 

聞き捨てならず注意する。

 

強くはなかったけど、部下ごときに舐められるのはそのままにしたくない。

 

「ひぃ!」

 

「あいつ変わらずこえええ」

 

自分達が先に喧嘩を売ってきた癖に怖がるんじゃないよと睨み付けて威圧する。

 

その隙にローが前へ出て距離を縮めてくるが手の内を知っているのでタイミングに合わせて足止め。

 

案の定動けなくなっていた。

 

舌を盛大に鳴らす男は全力を出してきて落ち着かれそうになる。

 

「悪いが、おれの勝ちだ」

 

ローが後ろに回ってラルフローレの首をわしづかむ。

 

「カウンターショック」

 

──バリバリ!

 

「ぐあああ!」

 

負ける、なんて、悔しい!

 

その気持ちが最後だった。

 

 

 

次いで目を覚ませば待っていたのは村、ではなくどこかの部屋だった。

 

くそう、捕まっちまった。

 

歯ぎしりする。

 

ご丁寧に手首も足も動かせない。

 

「おいこら!誰かこいや!」

 

──パタン

 

「うるさい、静かにしろ」

 

やってきたのはベポ。

 

「うるせーよ熊!」

 

「熊ですいません」

 

相変わらず打たれ弱いな。

 

成長してねーじゃん。

 

「おい、トラファルガー・ロー呼べ」

 

「キャプテンは今計画を実行してて居ない」

 

「なんだよ計画って」

 

「……知らない方が良いけど」

 

「お前が決めるな」

 

「はぁ、たく、キャプテンはお前のどこが良いんだ?」

 

「熊鍋にしてやろうか?今の私にはそれが出来るんだぞ」

 

「ヒッ」

 

熊は外へ逃げていく。

 

が、間を開けず開かれる戸。

 

熊ではなくハートの海賊団の二人。

 

「げ、くんな」

 

「うおお!ラルフローレ!今の台詞でお前だって確信出来た!」

 

「ううう、やっぱりお前だったんだな~!」

 

抱きついてきた。

 

今拘束されてるからなすすべなし。

 

「やめろ!私は女だぞ!」

 

「つるぺたなとこもかわんねーな」

 

「ぶちころすぞ」

 

流石に黙ってられない。

 

胸が本当はほしかったなんて言えないけど、ほしかった。

 

殺気に目を光らせる。

 

「うご!悪い……嬉しくてついつい」

 

「お前ら、拘束取れたら速効殺してやっからな?ははは」

 

「悪かったよ!怖いからやめろよその笑い」

 

乾いた笑いに危機感を今更覚えたとか謝ってくるが、一度吐いた言葉はなくならねー。

 

にこにこと今の人生になって普通に笑えるようになった顔を見せる。

 

奴等にとってこの顔は威圧感があるはず。

 

思った通り怯む奴等に鼻で藁き飛ばす。

 

やっぱりへたれた男らだ。

 

変わらない性格に直せば良いのにと頼りなさを感じた。

 

それなのにそのやつらの親玉はこの顔を見ても楽しそうに笑う。

 

こいつのこういう所は変わってないなとため息を盛大に吐き出したくなる。

 

威圧されてくれれば楽だったのによ。

 

男達は気圧されながらも立ち退かない。

 

今は相手をしていくつもりもない。

 

こいつらよりも圧倒的な力を得た。

 

となれば、全てが思いのまま。

 

やつらは飯食おうぜと馴れ馴れしく言うが、なにをされたのか忘れてない自分を招くなんて頭が緩くなっちゃったのかと思う。

 

しかし、今の己の腹を欺けず素直に音をグウと鳴らしているので相手方にも伝わってほらよと言われる。

 

なにがほらよ、だよと怒りたかったが無意味なことかと一度頭を冷静にさせてご飯を食べにいくことにした。

 

ってこのままかよ。

 

普通に誘拐じゃね?

 

 

 

***side ロー

 

 

 

互いに海賊だった。

 

所謂腐れ縁ということだ。

 

ふざけたりからかったりと心が満たされるのを感じつつ、それが永遠に続くものだと楽観的思考をしていた。

 

それに、ロー達は長寿の種族だからこそまだまだ時間があると思っていた。

 

じわじわと口説いていけば良いと今にして思えば亀並みの思考だ。

 

クソ、と拳を叩きつけた日は覚えている。

 

葬式も死後の姿も見れることなく、死んだと知ったのはずっと後だ。

 

有名な海賊ではないので新聞に載ることもなかったので知れる機会はない。

 

約束しただろ、と内心憤りあいつが死んだ理由に言葉を失う。

 

子供を庇って死ぬとは。

 

「運命ってやつはイタズラが好きだな」

 

あいつの間接的命を奪った奴等は根絶やしにしたが、心は晴れることはなく、どこかぽっかりと空いた感情に生きてきた。

 

クルー達にはずいぶんと心配させてしまった。

 

二度目の再会があるなんて普通思わないだろ。

 

のんきに飯を食いに来た女はあくびをしつつ食堂へやってきた。

 

そのおり、ローの姿を見てローの腹をストレートで抉ってきた。

 

しかし、痛くない。

 

「変態野郎!謝れあたしに!」

 

元気だ、戻ってきたとローはにやりと笑い彼女を更に怒らせた。

 

 

 

全く全く、ラルフローレは怒りを携えつつご飯を頬張っていた。

 

反省を足すために腹を殴ったと言うのにローは何故か嬉しそうに笑ったのだ。

 

気持ち悪い気持ち悪い。

 

あー、早く故郷に帰りてー。

 

故郷というのは今の方であって、昔の飛び出した方ではない。

 

あんな情もない家などごめんだ。

 

ラルフローレはこの状況に甘んじているつもりは皆無。

 

絶対に逃げ出してやるんだと拳を固く握りしめる。

 

それにしても、船員達も何故か馴れ馴れしくないか。

 

確かにかつての旧友みたいな態度だが、転生したことについて誰も疑問に思わない所が変。

 

「お前らの犬みたいなところもかわんねーのな」

 

嫌みを投下しても皆にやにやしてて腹立つ。

 

少しくらい怒れば逃げやすくて楽なのに。

 

ローにもしや周知されてるのかもな。

 

その本人はご飯を食べているラルフローレを見て口を開く。

 

あいつらの墓参りに行きたくはないかと。

 

流石に無視できなくて見上げる。

 

そこには腹のたつにやけがお、でなく真剣な顔が待っており驚く。

 

「……そりゃ、いきてーけど」

 

男の思う壺なのが嫌でふうと溜め息を吐く。

 

別に自力で行くつもりではあったがなぁ

 

「良いぜ。ただし、二ヶ月この船に乗れ」

 

「なッ、はぁ?」

 

その取引内容が意味不明なんだよ。

 

得たいも知れぬぞわぞわした気持ちが浮き彫りになる。

 

何を考えているのか全く理解出来ん。

 

頭も痛くなってくる。

 

船員の方を見て、お前らなんか言えよと意見を言わせようとしたが、楽しそうだなと盛り上がるだけ。

 

おい、そこの船員C、お前昔ラルフローレに船長に色目使うなって威圧してきたよな!?

 

船員達の票が入らず孤立してしまう。

 

「嫌だ。断る」

 

「じゃあ永遠に乗ってろ」

 

「お前可笑しいだろそれ。監禁だよこの野郎!」

 

胸ぐらを掴んで揺さぶってやろうかと掴みかかるが、避けられた。

 

避けるなよっ。

 

「良い。お前らがそのつもりなら」

 

ラルフローレは十分ご飯を食べたので、前を向いたまま後ろの窓ガラスをすかさず突き破り、宇宙空間へ身を投げた。

 

後ろから絶叫が聞こえたが構わず。

 

ふよふよと漂っていたが、眠くなったしすることもないので寝た。

 

無造作に飛び出したけど行く宛なんてなし。

 

腕を組んで仮眠。

 

──ウィーン

 

機械音が聞こえて目を開けると何故か太くてごついアームに体を覆われ捕獲されていた。

 

しかも、この旗も見覚えある!

 

どれだけ引き強いんだ自分は。

 

「頭、女が浮いてました」

 

「女が宇宙に?」

 

声が聞こえて横を向くとむさ苦し男達に囲まれている。

 

うん、怖い男たちだから間違ってない。

 

「キッドかお前」

 

なんとなく呟いたが男はぴくりとも反応しない。

 

そりゃ、名前は多く知られているしな。

 

「あたしだ。ラルフローレだ」

 

「誰だてめー」

 

あんなに意気投合して酒のんだのに薄情な奴。

 

「お前とあたしにしかわからねぇこと言ってやるよ」

 

キッドにこっそり耳打ちすると眉間のシワが寄る。

 

お前は死んだだろと言われ生まれ変わっただけだよと笑う。

 

こいつの船の方がましだ。

 

「キッドひでえ。お前もう結婚したか?良い女欲しいって言ってたろ」

 

「はっ。そんなもんとっくに変わってる。と、言うところだったが」

 

キッドの意味深な台詞に首を傾げているとアームが解放されて体が自由になる。

 

持つべきものは友であった。

 

「信じたのか?」

 

彼は一応なと笑う。

 

付いてこいと言われ、物置の部屋に連れてこられ、ここに居ろと言われる。

 

キッド本人でなくとも良かったような。

 

それこそ部下にやらせても良いようなこと。

 

首を再度傾げて待機していると朝になった。

 

別に居させてほしいと頼まないのでまたふかふかと浮く旅に出させてほしいな。

 

寧ろ、喜んで出ていく。

 

キッドは朝来て少し話した。

 

質問に幾つか答えていくと眉間の厳つさが緩んでいく。

 

「本当にお前か?」

 

「ああ。明かすつもりもなかったがトラファルガー・ローに知られてしまった手前」

 

トラファルガー・ローの元で何があったかを詳しく話すとキッドは顎を擦る。

 

「あいつが連合を組んで権力者を潰した話はあったが、お前つながりか」

 

連合をくんだ理由までは知らんぞ。

 

「なぁキッド。あたしは別に厄介になるつもりはなくて、もう出てっても良い。信じなくて良いしさ」

 

「お前とおれの会話をそこまで覚えていて今更偽物ということはしねぇ。だが、ちょっと待て。送ってやる。好きなところでな」

 

「え?本当か?ありがと」

 

「ああ、ただし」

 

キッドまでなにか要求するのかとびっくりする。

 

目前までやってきて、肩をぎゅっと掴む。

 

え、と辺りをキョロキョロする。

 

「え、キッド?……!」

 

キッドの手が太ももの裏に滑るのを感じ揺れる。

 

「な、なんなんだ」

 

この世代は変な奇病にかかりやすいのか。

 

頭溶けてんじゃないだろうな。

 

「やめろ、あたしはそういうのじゃないからな」

 

「分かってる。お前が死んでなかったら、おれは今してるんだっての」

 

この言い分は混乱してうまく考えられない。

 

それよりも熱が暑くてくるしい。

 

「離せ。ぶん殴られたいのかッ」

 

「やれよ。おれは取り合えずお前を襲う」

 

「おそっ、バカが」

 

赤面して暴れるが相手の方が強くて押さえ込まれる。

 

「あたしは女じゃない!」

 

「女だろ。トラファルガーより先におれが取ればおれの勝ちだ」

 

「トラファルガー・ローと勝負してるんなら違うのにしろ。あたしを巻き込むな、ひ」

 

胸に触られた!

 

訴えたい。

 

「ちっせ」

 

「嫌ならやめろよバカめ」

 

「でもちっさくても別に良い。前は呆気なく死んで惜しんだからな」

 

「待て!まじで待て!お前、目が可笑しくなったのか?おおお、お前の好みはたわわな胸だろ!?」

 

ローのところじゃ胸について激怒したが、今は必要な要素だ。

 

キッドとてそこは変わってねーだろ。

 

「昔のことだ。それに、お前がいるんなら用済みだ」

 

「お前もだけど、一体どうしちまったんだ」

 

キッドは胸を触ったまま真顔で見てくる。

 

「お前が死んだから、お前のせいだ」

 

「なにいってんだ」

 

「ま、男のざれ言と捨て置け」

 

そういうとキッドは服を破いた。

 

力任せにやったのでめちゃくちゃだ。

 

「ひいっ!っておい!」

 

服これしかないぞ。

 

「やめろよまじで!お前ほんとオカシーぞっ!?」

 

体をうねらせる。

 

手を払いこれ以上なにも出来ないように体を丸める。

 

無理矢理開かれては無駄になるが、もうなにもされてくない。

 

なにがなんでもさせないぞと思って抗戦する。

 

「あっちいけアホ!もう男なんて信じねーよ」

 

「へェ、おれのこと信じてたってのか」

 

「決まってるだろ!でももう今ので終わりだかんな」

 

キッドは破れた服で不服そうにふてくされる彼女を見て、見下ろす。

 

そそる、と喉を鳴らす。

 

「久々でついお前を逃がしたくなくなっちまった。悪い」

 

「謝っても許せない、早く前から消えろ」

 

手を振りあっちへ行くように払う。

 

キッドは耳を触り意味ありげに擦り、部屋を出ていく。

 

服を忘れるなと叫ぶ。

 

ちくしょうとムカムカする。

 

「なんなんだよ、トラファルガー・ローもキッドも」

 

男達の異変に戸惑い、怒りを覚える。

 

皆勝手だろ本当に。

 

キッドでない誰かが服を持ってきて、いそいそと着替える。

 

殴ってやりたくてキッドを探すことにした。

 

船員たちにキッドの居場所を聞くと食堂で酒をカッ食らっているというではないか。

 

乗り込む勢いで食堂に向けて足を向ける。

 

「キッドー!殴らせろ、ほら、差し出せよ顔っ」

 

拳を握り突撃してキッドの目の前に行くと、彼は待っていたように腰を引き寄せて男のがっしりした太ももの上に座らせられた。

 

暴れようと身を捩ると、男はにやりと笑う。

 

「なんのもりだよ」

 

「ははは、目の前に居るのを確認してんだよ」

 

男の姿に眉間を寄せているとキッドの船員が慌てて部屋へ入ってくる。

 

トラファルガー・ローの船が交戦を仕掛けてきたのだと報告。

 

ああ、逃げたのに逃げた先でも囚われるしで散々。

 

「どっちもヤダ!トラファルガーは永遠に船に監禁するっていうし、キッドはあたしを女として触ってくるし」

 

「……お前も災難だな」

 

「あっ、お前キラーか!久々だなおい!」

 

キラーが気配の薄さで気づかなかったけど。

 

キッドの右腕はやはり頷くだけで濃いリアクションを取ることはなかった。

 

皆なんだかんだと長生きな種族だから生きてるのは羨ましい。

 

「はっ!迎え撃つぞてめーら!」

 

「「おう!」」

 

海賊らしい掛け声に争うのなら下ろして欲しいなと感想。

 

だって関係ねーしよぉ。

 

キラーに顔を向けてあたし帰りたいと頼む。

 

ダメなら強硬突破だよ。

 

「かつてのルーキーどもの喧嘩なんて近寄りたくねえもん」

 

「ふふ、ルーキーと呼ばれたのは久しい」

 

キラーが嬉しそうに懐かしそうに呟き、会話を盗み聞いていたキッドがラルフローレの手を取り強引に外へ連れていく。

 

出してくれるんならと思ったが、どうやら出す為ではないらしい。

 

なんでわざわざ女一人を連れて行くんだ。

 

甲板を出るとあの黄色い船と再会した。

 

トップが出てきたことにより注目され、腰を抱かれている女にも目が刺さる。

 

「ユースタス屋……どうしてお前がそいつを保護してる」

 

「そんなの決まってんだろ?昔からこいつとはおれが親しかった。今も楽しんだばかりだ」

 

はて、キッドの言い分で分からぬ事がある。

 

そもそも一方的に服を剥いで終ったのだ、そこにこちらの意思はない。

 

「あ?死にたいのか」

 

「くく、お前こそ逃げられてんだろ」

 

相変わらずこいつらなか悪いな。

 

悪いのに近寄るから周りが迷惑かかるんだよね。

 

やめろやめろと口を出したくなるが、こいつら聞かないし無駄なエネルギー使いたくない。

 

よって、ほとぼりが覚めるまで待つしかないのだ。

 

「こいつはおれのだ。触るな」

 

「ふざけてんじゃァねェ、こいつはおれのだ。少なくともおれは監禁なんて真似しねーよ」

 

「な、は、はァ!?」

 

ふざけてるのこいつらだろ!?

 

なに女々しい真似してるんだっ!

 

仮にも大物海賊として有名な癖に。

 

「あたしはあたしのだ。だれもんにもならねえし」

 

そう言うと全員こちらを見て流石に怖じけた。

 

こんなに一気に見られたら流石に怖いぞ。

 

ふん、と息を吐く。

 

「こいつはなにを言ってるんだ」

 

「ああ、お前は本当に諦めが悪い」

 

ローもキッドも何故か息が合っている。

 

その態度に苛つく。

 

なんで仲良くなってんだよ。

 

能力を発動して白い空間を作る。

 

真っ白でなにも見えなくなる。

 

自分がしたと知られてないので周りは自然に慌て出す。

 

そのまま外へ飛び出す。

 

「待て!」

 

「逃がすな」

 

二人の声が聞こえたがあばよと宇宙空間に体を解放した。

 

 

 

長い、追いかけられる生活の始まりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。