短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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血の介抱

怪我人が倒れていて、やむ無く血を使うことにした。

勿論、己の血を。

直接させた方が良いが、それだとあとからの反動が凄いのでなにかを介して与えることにした。

久々の光景に目を背けたくなる。

使うと決めたからには中途半端ではいられまい。

男のぼんやりした目を見て罪悪感に苛まれた。

結構な怪我で己に治療は出来ないと判断したのだ。

血を与えたら相手はこちらに好意を抱くのが副作用だと知っているが、複雑なもの。

 

「おい、おれにもなにかをさせろ。体が鈍る」

 

怪我人に言われても説得力がない。

それに、安静にして欲しいのだ。

自分を医者と説明する男にふふふ、と笑みを見せる。

怪我をしているからそんなこと関係ないのにね。

患者であるし、怪我人であるのだから安静してて。

するりと服の間から見える逞しい胸板を撫でた。

 

「お願い、安静に」

 

「……明日はなにかをさせろよ」

 

惚れた弱味で聞いてくれる。

 

「貴方のそれは無理矢理起こっている反応なのだけど」

 

「おれの感情はおれが一番知ってる」

 

「うん。副作用だと何度も言っているのに。怪我が治ったら治療をやめるけど、あくまで治療をしてたんだから襲わないでね」

 

「襲われたくないのなら体寄越せよ」

 

卑猥だ。

赤面する顔に人相悪く笑う男。

一般人な気がしない。

体を寄越せなんて言われたことはない。

自分を異性として見られることはあるが、ここまでストレートな物言いはなかった。

つくづく一般人な感じではないぞ。

 

「ほら、寝て」

 

「添い寝しろ」

 

「はいはい、早く寝て」

 

「おいっ」

 

さっさと部屋から出ていく。

近くに居ると余計に相手を興奮させてしまうと知っているから。

こんな出会い方でなければ、とてもではないが知り合うことも近づくようなこともしない。

なんせ、自分は臆病だから。

血を与えてこちらに酔っていると分かっているから気安く触れて話せるのだ。

 

治療のかいもあり、かなり回復してきた。

これ以上はこちらのエゴになると彼に伝える。

 

「今日からもう治療はしない。少しずつ副作用が抜けてくる。だから、まかり間違っても攻撃しないでね。殺すつもりもないし。そんな機会なんて何度もあったけどしなかったのが証明。ちゃんと思い出してね。勝手に出ていって」

 

唐突に説明したからか怒りを宿す瞳。

愛している女にそんなことを言われてなにも思わない人でないことはわかっていたが、言わずにいると後々負債が残る。

それだけは避けたい。

ローは勝手に決めるなと怒気をこもらせるが、まだ怯える段階でないので首を振る。

 

「勝手なのは承知。けれど、貴方の私への欲はあくまで副作用なの。今は分からないけれど抜けたら意味も分かる。その時は是非勝手に扉から出ていってね。ちゃんと帰り方も全て紙に書いてあるから」

 

因みに電話も自由に使えと指示する。

それでくるりと踵を返せば後ろから引っ張られて足が浮く。

抱き上げられたのだと気付くと次いで彼のぬくもりが感じられた。

思わず出来すぎの行為に苦笑。

離してと述べても抱き締める力が強くなるだけ。

そんなに嫌なのかな、嫌なのだろうな。

こんなに好きなのにと彼のなかで納得出来ない思考が回っているのだろう。

 

ローは行くなと熱のこもった声で名前を呼んでくる。

その心地よさに罪悪感も加わる。

やはり、血を使った治療はメンタルに打撃が行くな。

離れると分かっていても、辛い。

そんな心情に反応したのか相手が歩き出す。

そのは寝室なので止めて、と声を出す。

 

「おれはお前が欲しい。お前はおれが欲しくないのか」

 

なんていう残酷さだ。

後に残されるのはこちらだけだというのに。

そりゃ、思いあっていれば問題ないが、ローの心は偽りだし。

泣くことになるのは己だ。

強く抵抗する。

 

「いやっ!」

 

「っ」

 

どんと押せばショックを受けた顔をする。

 

「一人にして」

 

その顔は、明日にはけろりとしている。

顔を背けて否定すると彼は背中を向けて出ていく。

自分で貫くと決めたのに胸が痛くて痛くて。

涙もぽろぽろと溢れてしまう。

どうしてこんなからだにならなくてはいけなかったのかと恨む。

もっと違う方法で人を救いたい。

それではダメなのかな。

 

夜も更け、彼が自発的に出ていくのを息を潜めていた。

考える能力を取り戻しただろうから、暴れられても見つからない所へと身を隠したのだ。

狂暴になって襲ってこないとも限らない。

特にプライドが高そうな男は。

なけなしの影の薄さが特徴的な女であると自負しているので、そんな女に支配されていたと知れば激怒することもあるだろう。

故意でもなく人命救助を優先しただけ。

己に何度も言い聞かせてきた。

今日も一人の夜を迎えることになるけど、これで良いのだ。

 

──キィ

 

(出た)

 

扉が開く音が聞こえ、反対側から聞こえることを確認し、最後に扉へ近寄り窓を見た。

霧で良く見えないけど、人の気配もない。

安堵と寂しさが胸に染みる。

 

(これで良い、これで)

 

「安心したか」

 

え!?、と声に出したけれど、それはそう。

なんせ、二度と会うこともないと思っていた男に会ったのだ。

もしや逆襲のために?

 

「私、何度も説明したでしょ」

 

「ああ。確か血を飲むと意思に関係なく服従したくなるんだったか?能力者じゃなさそうだが」

 

「わかってるんなら、私を討伐しに来たんじゃないよね。どうして戻ってきたの?」

 

「お前の質問は答える時間が無駄だ。ことは簡単だろ。おれの意思でここにいて、それだけだ」

 

全く答えになってないのに、動機が酷い。

好意の延長戦に聞こえてならない。

酷く息がしにくい。

ローから離れるためにジリジリと後ろに下がる。

 

「お前は一人で居るべきでない」

 

「私はッ」

 

勝手に代弁され、カッとなる。

決めないで、勝手に気持ちを言わないで。

 

「寂しそうに目を潤ませといて、違うなんて通じないぞ」

 

「貴方にはそう見えたけど、それは副作用で」

 

惚れている状態なのだから、女が可愛く見えるだけだ。

それに、男の言うような目はしてない。

 

「今は正気だ。分かってんだろ?」

 

ローはクイッと目元を摩る。

幾度となく触れられてきた部分。

 

「やめて、構わないで」

 

忘れてくれと顔をうつむかせる。

かするようにキスをされて、ぽろりと涙が1滴零れ落ちる。

もう嫌だった。

治したいだけなのに、この余計な副作用で気にしたくないことを気にしなければならないことに。

目元をぎゅっとさせ、見られたくないと俯く。

 

「構う。おれはもうお前を知った。知らんふりは出来ない」

 

拐うように抱き締められた。

こんなに普通の抱擁は久しい。

なんの感情もなく、女にする男の包容でない。

あやされている。

 

「私、ただ、貴方を治したかっただけ。誘惑なんてするつもりもなくて」

 

純粋に治したいのに、妻の居る男を治すことだってあった。

しかし、妻の居る前で堂々と愛を囁く夫に妻は自分事罵った。

事前に説明されている筈なのに。

そして、当局から来ることを拒否、を言い渡された男の妻は無理矢理連れていかれ、怪我を治した男は妻に言い訳して、責めるように自分を見た。

副作用については再三説明したのだが。

それでも避けられない非難の目に、逃げられたのは幸運だった。

異世界という未知の世界に。

ローは抱き締めたままリーシャを持ち上げる。

 

「お前が治したいのなら治せ。おれはそれを補ってやる」

 

ローはそれができる力があると笑う。

助けてくれるのかと聞くと当たり前だろと断言され、目を緩ませる。

ああ、それを聞きたかった。

能力がもう効いていないので、恋い焦がれて言っている可能性もない。

本心だ。

嬉しい、と返せば行くぞと彼は進む。

拒む気持ちはなく、行ってみたいと心が囁いた。

もしかしたら、居場所が見つかるかもしれないと胸がドキドキした。

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