短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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巻き込まれたんですけど

友人が映ってしまった写真を見て手が力みグシャ、と潰してしまう。

 

「カノコぉお」

 

ドスの効いた低い声で恨み節を唱えた。

この子が原因。

すべての起因だというのに、なんて呑気に過ごしてるんだ。

イラついてイラついてたまらん。

沸々と怒りをためていると後ろからテノールが振ってくる。

 

「また映ってたらしいな」

 

「ローさん。いつもすいません。あの子直ぐ見つけますんで」

 

拾ってくれ、船にまで乗せてくれた人だ。

ローは海賊をしていて、そこの船長。

とても偉い人なのだ。

何故乗せてもらえているのかというと、彼の船員が買ったという眉唾ものの惚れ薬を楽しげに語り、その人の惚れ薬が謝ってぱしゃりとかかったのが他でもない私である。

その惚れ薬を浴びたリーシャは唖然としていて、ぼんやりしている間にその惚れ薬が本物と知れた。

突然同じようにびっくりした面々とは違う反応をトラファルガー・ロー本人が示した。

 

「やべェ……な……」

 

ふわりふわりとした声で、どこか浮わついた様子でこちらにやってきた男は熱のこもった瞳を向け、リーシャを抱き締めた。

こういうの乙女ゲームとかの展開だから許されるんだぞ。

実はこういう程度の不幸は初めてではない。

この不幸体質にせいかは知らんが、一人の友人が部屋で寛いでいた時に変な本を持ってきて、この海賊今推しなのって言ってきたことから始まる。

海賊推しなのも別にいい、そこに本の中とかは今更だ。

しかし、その本の世界に行きたいからとおまじないを己にも強要し、渋々付き合ったからにその不幸体質から派生。

起きたときにはなにも知らない世界に居た。

そこそこ世界の事を学びどうしようかと途方にくれていた頃、友人の映った新聞紙を見て、ぶちりと切れた。

 

(人のこと巻き込んでおいて幸せそうに笑うな)

 

凄く凄く大変だった。

慣れるまできつくて、なのになんでこの子は意中らしき海賊と共に笑っているのか。

黒笑を浮かべて横にたつ男、今もどうやら惚れ薬が効いているらしい。

それからは離れないしでほぼ強制的に船に乗せられている。

名目はローの治療のため、らしい。

渡りに船なので乗せられたことは殆ど感謝している。

しかし、惚れ薬が切れてこちらを敵と思うのは勘弁なので団員達には説得を約束させている。

 

「全く、あの子にあったら現代に戻らせないと」

 

あちら側に全て置いてしまっているのだ。

帰らないとやってられまい。

いつ惚れ薬も切れるか分からないので早めに会いたい。

 

船をひたすら動かしてもらい追い付いたのはそれから半年後。

惚れ薬がまだ継続中なのは事故か事件なのやも。

特にこれといって態度も変わらないしで怖いような。

でも、それも今日でおわりだ。

 

「カノコ!」

 

「あ、生きてたのね」

 

あっけらかんとそう言う女。

あまりにも腹が立って近くに跳ぶと肩を強く握る。

 

「あたたたた!」

 

痛みに呻くが知ったことではない。

冷酷に見ていると男が出てきてなにをしているんだとこちらに掴みかかってきた。

 

「ヘイユー!助けて」

 

こいつがかなこの推し。

三流やないか。

思わず突っ込みたくなる。

こんなモブ野郎の為に異世界渡ったのか。

そして、巻き込まれたのか。

 

「カナコ、私が怒っている理由、当然わかるよね」

 

静かに怒気を見せる。

 

「えっと、ずっと放置していたこと?でも、あなたがこの世界に居ると知らなかったの」

 

「カナコ、それは二番目の理由。なんであんただけで異世界に行かなかったの」

 

「成功するなんて誰も思わなかったもん」

 

かなこの言い分はわかるが、巻き込んでいる可能性を残しておき己をせめて探しておくことをしておくべきだろうが。

二人でさりげなくイチャイチャしているのも気に障る。

 

「カナコ、私は異世界に帰るから返して」

 

「い、異世界の帰り方なんて知らないわ」

 

「な、んで」

 

「ヘイユー、私は帰らないから心配しないで」

 

「安心したよ。ところで君の知り合いなのか」

 

「ええ、そうよ、友人の」

 

かなこのアホらしい紹介なんてぶっちぎり、ヘイユーなんぞ放おってカナコの肩を掴む。

 

「カナコ、あんた私を異国の地に誘拐した自覚ある?」

 

「え?」

 

カナコはきょとんとしている。

 

「私には家族がいて、向こうの生活があったんだよ?カナコは私を向こうの世界から消した。ころしたんだよ?わかる?」

 

「そんなつもり」

 

「向こうの私の家族に私があっちに居ない説明出来るの?なんていうの?」

 

「ち、ちが」

 

カナコは現実逃避した。

男が煩くカナコを泣かせるなと言う。

 

「黙ってろ雑魚」

 

突然無の顔で吐き捨てる女にヘイユーは目を点にした。

発言したのはリーシャだ。

この男、こぶのくせにうるさい。

たいして強くもないのに態度だけは一人前。

 

「なんだと!」

 

海賊だからか喧嘩をしようとする。

煽られるのは簡単なんて今時もっと我慢しなくちゃな。

 

「ふん」

 

殴りにきたので足を振り上げて蹴飛ばした。

男は五メートル飛んだ。

あっけないおわりにカナコは目をぱちぱちしている。

リーシャがなにをしているのか認識出来てないらしい。

今目の前で起こったろーに。

 

この男、バカだな。

脳が足りない低知能な奴だったみたい。

こんな奴のせいでこの世界に来てしまったとか、本当に頭が痛い。

殴られ、とてもひ弱な男に鼻で笑う。

弱すぎて話にならん。

しかし、カノコは驚いたように目を回す。

 

「な、なんで!?なんでヘイユーにダメージを与えられるの?ヘイユーは自然系の能力者なのに」

 

あきれ果てることを言う。

能力に頼りきりだとあーなるんだよな。

驕りに至る者は能力を信じすぎる所が多々ある。

 

「数多ある異世界を渡って猛者と戦ってきた私を相手に程度が低いんだよ」

 

「……へ?」

 

カノコは思わぬことを聞いたと顔を驚愕に体を止める。

驚きすぎて思考が停止しているっぽいぞ。

まさか、初めて異世界に行ったと思われているとは。

己の不幸度を知っていながら。

もうこの女は友達でもなんでもないので教えないけど。

 

「トラファルガーさん。今までお世話になりました」

 

「おれも恋愛感情について勉強になった」

 

「ええ?もしかしてもう解けてるんですか?教えてくれないなんて酷いじゃないですか」

 

冷静に自分の感情を羅列出来るのなんて、解けている証拠。

もう、と言うが気にしていたので問題が消えて良かったと嬉しい。

ローにお礼を述べてカノコを縛る。

連れの男も縛っておいて下手に阻止されぬようにしておく。

カノコがヘイユーヘイユー煩いけど、どうでも良いや。

カノコに帰還用の魔方陣の為に血を提供させて団員達に別れを述べる。

男達は帰れると知って良かったなー、と祝ってくれるので涙ぐむ。

有難うと笑みを浮かべてカノコに帰還の有無を聞く。

 

「え?良いの?」

 

「うん。でも、自分の人生だから悔いのないように決めるんだよ」

 

「う、うん」

 

問答無用に連れ帰られると思っていたみたいだが、目的は異世界を渡航する時の本人のものが必要なので追いかけていたに過ぎない。

カノコは悩む仕草でヘイユーの放り出されている方角を見ている。

 

「もう二度と来れないのか」

 

「ううん。来ようと思ったら来れるけど、私は自分の世界で生きたいから」

 

首を振ってこの世界での生きる選択を無くす。

握手をして目を細める。

 

「残念だ」

 

「私も。良い出会いでした」

 

カノコはこちらに気付くと頷くので彼にそれではと向かう。

彼女の前に立つと覚悟のある瞳でこの世界に戻らないと言われるので、分かったと答えた。

 

「もう行くね。達者で」

 

決して現代の人間に言うことはないだろうと思っていた台詞を言う。

吐き出すとこれでお別れなんだなとしんみりなる。

もう友達でもなんでもないけど、少しは仲良かったからさ。

淡い光を発する魔方陣の上に乗れば景色が歪み、知っている部屋から出る。

友人の部屋であった。

懐かしい。

そこから出ると魔方陣を消してそのまま出ていく。

 

「大変だった」

 

早くお風呂に入りたい。

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