短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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正義の味方

誰しもが一度は背徳的な妄想をする事はあるはずだ。

少なくとも自分はいっぱいやってしまっている。

例えば暗がりに連れ込まれてキスされるだとか。

とても耳にくる声で囁かれてネクタイで拘束されたりだとか。

小説ではギュッとなる展開は最早切っても切り離せない。

シナリオ重視のものであった場合、相手の秘密を握るだとか。

 

「さて、どうしてやろうか」

 

だが、今、この場を持ってして、その背徳の推進は取り止めたい。

相手の秘密を握って嬉しいのはあくまで立場が弱い相手の時だ。

 

「どうして、やろう、とは…………」

 

震える声音で何とか辛うじて聞けた物の、良き未来を想像出来なくてゾッと背筋が悪寒にビリビリとなる。

相手が悪すぎる、相手が特殊過ぎるのだ。

 

「まさか立ち聞きされるとは、なァ?」

 

事の発端は海軍勤務歴三年、未だ下っ端止まりであるリーシャが同じ勤務先である海兵で海軍少将という地位を得ているルーキーのトラファルガー・ローの電話を聞いてしまった事から冒頭へ繋がる。

別に意図して立ち聞きしたのではなく、友人からトラファルガー・ロー氏が気になっているので少し様子を見てきて欲しいと間を頼まれ、居るか居ないかの確認をする為に耳を澄ませたところ「嗚呼、漸く海軍共が俺に極秘任務を任せ出した」と悪役な声でクスクスという笑い声。

これは聞いちゃいけなかった事だとそろりと戻ろうとしたら扉が開き鋭い眼光で睨まれ逃げられなくなった折りに問われたどうしてやろうか、の言葉。

正直、殺されるのだと諦めている。

彼は少将の地位を地で這い上がって来たタイプなので、実力はペーパーでなく本物なのだ。

そんな実力主義者が相手では出し抜ける事も叶えられない。

ひやりと伝う背中を震わせ怯えるしか出来ない弱者である自覚はある。

 

「言い訳も命乞いもしねェ、か」

 

(してもどうせ土に埋められるんでしょうがっ!)

 

スパイという秘密を知られた、知った人間を野放しにする程の間抜けでないだろうし。

肉食獣を彷彿とさせる眼光が余すことなく見ているのを確認して、やはり逃げる事も出来なさそうだと意気消沈。

カチャカチャと音がした。

それは、彼が愛刀を抜く音だ。

刃に己の顔が写る。

 

「…………まァ、潔く逝け」

 

目を閉じる。

ギュウギュウと痛いくらい強く。

 

「っ」

 

息を詰めて死の痛みに備える。

ヒュッと風が当たり頬や髪をフワッと揺らす。

しかし、待てども待てども肝心の死の痛みは無い。

それを不審に感じて目を恐る恐る開けてみるとチンッと刀を鞘に戻すロー少将の姿。

目を揺らし、彼を見て何故鞘に収めたのだろうと凝視する。

 

「フフ、訳が解らねーって顔してるぞ」

 

「………………本当に、訳が分からないのですが」

 

殺されなかった事に喜ばなければいけないと分かっていても、素直に喜べない。

裏があるとそこは矢張り勘ぐってしまう。

 

「リーシャ。平海兵」

 

「!」

 

(名乗ってないのに何で名前をっ)

 

ゾクッとしたものが背筋を駆ける。

逃げ出したい衝動に駆られていると顎を掴まれ上へ向かされるとその瞳とかち合う。

友人はこの瞳も冷たくて好きだと言っていたが、心底同調できない。

この瞳に見られていると何もかもが見透かされていて、それでもって自虐的な瞳にも見えて見つめていられない心地になる。

 

「お前にはもう命の権利が放棄された。その意味は分かるか」

 

生かしてやるが、殺す事も出来る立場になったと暗に示されごくりと息を呑む。

そんな立場に立たさなくて良いから、口を割る真似なんてしないからと命乞いしたかった。

しかし、ローの視線が絡むと徐に彼は顔を近付けマツゲまで見える距離に来た。

確かに顔は整っているが今は頬を染める余裕も無い。

 

「これからは俺の下部として生きてもらう」

 

下部だなんて生きてきて初めてきいた。

そんな関係ない事を考えているとローはスッと顔を自然に近付け口付けをしてきたので固まる。

 

「んっ」

 

息をまた呑むが、お構いなしに数秒唇を離さずにいて、やっと話したかと思うと相手はニヤッと笑みを浮かべ愉快そうに囁く。

 

「これは忠誠の証だ。精々身を粉にして働け」

 

キスは挨拶等という人が居るが、自分は貞操が分厚いタイプで手順を踏む古い考えの女だ。

それなのに脅されて挙げ句に口付けされるというコンボに何かがキレた。

 

「ふざけんな!何人の体無断で触れてるんだこのクソ○○○○○○○○!」

 

放送禁止用語を吐いて目の前の尻軽な男にぶつける。

この際コイツが密偵だろうと何だろうと、生かされただとか死にかけただとか本気で抜きにして血が上り爆発。

全てを言い終えて息を乱していると前から耐えきれないとばかりに爆笑しているローが見えて、更に頭がグングン噴火しかける。

 

「キス一つで此処まで言われるとは予想外過ぎて、な」

 

まるで、その反応は無いと思われていた事に腹が立つ。

誰だって恋仲でも無い男にそんな真似されたら恐怖か怒りが湧く。

まさかこの男は顔が良い方だからと言って怒られないとでも思っていたのではと勘ぐる。

そのジト目にローは漸く笑みを収めたと思えばまた近寄ってきたのでザッと歩みを後ろにやって、退路を確保した。

 

「もし扉から出て行こうとしたら心臓を抉る」

 

(恐!それって例の能力だったか!?)

 

彼のプロフィールでは何かの能力持ちだった。

それを具体的に思い出す事は出来なかったが、言って出来ない感じてはなかったので逃げるに逃げられなくなる。

まあ元から逃げられる確率はゼロなのだけれど。

しかし、抉るとはまた表現がグロテスク。

 

「人の唇まで奪う事は無かったのでは!」

 

「さてな………それはお前の論だ」

 

ここまで言われてもそれ以上論破出来るお話でもないので、悔し涙を堪えてローを睨む。

 

「その目、ゾクゾクする」

 

フフッと笑い何が可笑しいのか。

憤りをたぎらせて拳を握る。

正直スパイとか裏切り者とかどうでも良かったし、誰に言うでもないと、告白する予定もない。

なのに、勝手に潜入していた事がバレたのは明らかにローの失態なのだから。

 

「今日からお前は俺の目から離れられない。覚悟しておくことだ」

 

そんな事を言われても言われなくとも、とっくに理解しているので横を向いて不機嫌を露わにした。

それでもなお機嫌が悪くなるどころか楽しそうだったのが不気味。

それから呆気なく解放され釘を刺される事もなく、友人にローの性格を教える為に違う建物へ向かった。

 

「どうだった!?」

 

「最低な人だよ。二股してるんだって」

 

「え、うっそ!?」

 

友人は驚いていた。

しかし、モテるから仕方ない事かもと納得もしていた。

仕方なくなんてないと思う。

それから直ぐにローが浮気男という噂が海軍内に広まった。

ざまーみろ裏切り者め。

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