短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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友達曰わく私の職場はヤバいらしい(モブ子シリーズ)

リーシャの職場の人間達は、昼は科学者、夜は軍服が制服のモンスター狩りのエキスパートらしいという友達談。

そんな馬鹿なと笑ったが彼女の目が割と本気で笑いを飲み込む。

という事はだ、ローもキッドもホーキンスも同僚もなのか。

 

「そーよ。あんたの周り非凡なんだから」

 

そう告げる友人は真面目に語るとジュースを飲む。

自分はそれに対してどう対処しようかと悩むと、取り敢えず「それで結局何が言いたいの?」と疑問をぶつける事にした。

 

「あんたは所謂死に枠って奴で、死にやすい人物なわけ」

 

「いくらあんたでも今なら私は躊躇無く殴れるよ?」

 

青筋を浮かべそうになって留まりながら拳を見せれば、彼女は待ての仕草をする。

何の権利があって待てば良いのか分からない。

今年の春に新人の子が入ったんでしょ、と聞かれて頷く。

友人はまさしくその子がヒロインなのよ、とこちらを指して言う。

そろそろ友人に頭の検査を進めた方が良いのかと迷っていると相手は得意気に笑う。

 

「あんたが死なない為の助言をするからそれに従ってよ」

 

「へえへえ」

 

適当に返事をすると真面目にしてと怒られた。

こんな話しを聞いてあげたのに怒られるとは解せない。

リーシャが死ぬきっかけは所謂フラグとやらを発生させてから致死率が上がると言われ、ちょっとした理由でも夜中の職場に行ってはならないと言われた。

そんなに致死率が高いのなら防ぎようがないのではないか。

そう言うと彼女は泣きそうに述べる。

 

「あんたがこの世界の運命に殺されるなんて絶対に嫌。死んで欲しくないもん」

 

何かのゲームと勘違いしているのか。

それとも寝不足なのか、夢でも見てまだそれに引きずられているのかもしれない。

凄く辛そうに言う友人に少し嬉しくなる。

例え世迷い言だったとしても、死ぬことを悲しんでくれる人が一人でも居てくれるのは嬉しいものだ。

彼女を慰めてから約束する、と告げて別れた。

別れた後に仕事場に今日持って返って仕事をする筈だった資料を持ち帰るのを忘れた事に気付く。

時計を見るとまだ深夜と呼べない時間だったので、それなら友人との約束を破った事にならないな、と納得して仕事場へ戻る。

既に皆返ったらしく誰も居ない。

此処は仕事場の研究所。

自分は別に科学者でもない、ただの受付係とお茶汲みの係りを担当しているものだ。

新人というのは科学者の女性で今年で此処の一員となった人。

とても綺麗で凛としていて、忽(たちま)ち職場の華として迎え入れられた。

ただの係員とはいえ泥沼の頭脳だし、モテて当然だろう。

彼のトラファルガー・ローやユースタス・キッド、ホーキンス、ルーキーと名高い彼等と親睦を深めているのをよく見る。

彼等の顔も優しげでとてもではないが同じ仕事仲間を見ているようには見えない。

友人がヒロインと呼んでいたのも納得の立場だ。

研究所に入ると係員用のデスクに資料が置いてあったのでそれを見つけると手に取る。

それにしてもいつも深夜に居る筈の警備員が居なかったと不思議に思う。

深夜でもなく、まだ夜だというのに。

関係者以外立ち入り禁止の文字が付いている扉から出て行くと向こう側で何か物音がした。

何だろう、と背筋が伸びる。

警備員だろうか、見回りでもしているのだろうか。

様々な推測に音がどんどんこちらへやって来ているのが耳に聞こえる。

 

(這う音?)

 

靴の音ならもっとコツコツとしている。

しかし、近付いているその音はズルズルとした何かを引きずっている音みたいだ。

耳を澄ませてもやはり靴の音には聞こえない。

加えて懐中電灯の光さえ見えないのでそこで普通じゃないと感じた。

友人の言っていた事が脳裏に過ぎる。

冷や汗と変な緊張がして強張っていく。

逃げなくては、と本能が発すると音を立てないように歩いた。

確か友人が言うにはそのモンスターとやらは人でもなく、人の悪意から生まれるものだと言う。

そして、そのモンスターを生み出した人物、つまり、黒幕がこの研究所に勤務している人物なのだと言っていた。

 

「っ……」

 

悲鳴を上げないで足を早めるのはなかなか難しい作業だった。

けれど、本能に従ってそれから離れたいという気持ち一心で出口を目指す。

 

「おや?」

 

「!」

 

当然声がして上を向くと暗がりに白衣が見えた。

友人は言っていた。

黒幕はこの研究所に長く勤めている男だと。

 

「あ」

 

「シュロロロ。これはこれは。いつも美味しいお茶を入れてくれるリーシャさんではないですか」

 

友人は言っていた。

その人物の名は。

 

「シーザーさん……」

 

悪の科学者、シーザー。

友人は言っていた、彼はヒロイン達の宿敵になる男だと。

 

 

シーザーはこの研究所の研究員で古参だと記憶していた。

友人からこの人が犯人だと知らされた時はそんな馬鹿なと笑ったのだが、どうやら可能性が自分の中で上がり疑うには十分な状況である。

こんな夜に居て、何かが這いずる音。

友人によればシーザーが生み出したのだと言うそのモンスターを作った理由は世界をパニックにしたいという愉快犯な動機で、人の命を何とも思わない冷酷さをかね揃えているらしい。

シーザーはとても優しく笑って毎日リーシャに挨拶をしてくれる人だ。

そんな人が黒幕等と、本当に信じられなかった。

 

「どうしたのですか、このような時間に」

 

「資料を忘れて取りに来たのです」

 

「成る程」

 

朝や昼間に見せない顔つきをするシーザーを不気味に思うのも当然だ。

冷や汗が出てくるのを感じながら愛想笑いして、さっさとこの場所から去ってしまいたくなる。

でないとヤバいのだ。

命の危機がヤバい、と心の中で何度も繰り返す。

這いずる音が部屋をあちこち動き回っているからなのか、なかなかこちらに来ない。

 

「もう帰りますけどね。シーザーさんもこんな時間までやっていると寝不足で体調を崩しますよ?ははは」

 

「これは、私の事を心配してくださってありがとうございます」

 

そう言ってこちらへやってくるシーザーに後ずさるのを忘れない。

どうして後ずさるのかを問われて「てめーが近付くからだよ」なんて言えないので「何となくですよー」と誤魔化す。

彼に近付いたら捕まると思ってしまうのも危機的本能だ。

笑って横を過ぎようとすれば肩を掴まれる。

結構手加減無しに触れられているので痛かった。

痛い、と呻いても話してもらえなくて内心友人の言っていた事は事実だったのかと悟る。

ここまでされれば何か悪いことが起こるのは何となく察せた。

蒼白になる顔を必死に隠してシーザーを見れば、彼は恐ろしい笑みを浮かべていたので悪寒が身体を回る。

此処に居たくない、この人と居たくない。

 

「シ、シーザーさん?あの痛いですし、離してもらえますか?」

 

相手を刺激しないようにソロソロと述べれば相手は愉快だと言いたげに笑う。

 

「何をですか?おやおや……もう外はこんなに真っ暗だ」

 

突然何の脈絡もない言葉に背筋が伸びる。

友人からすれば何かのフラグを立てようとしているのかもしれない。

それだけは絶対に避けたいとシーザーの言葉の続きを待つと彼は良いことを思い付いたと言わんばかりに「そうだ!」と叫ぶ。

 

「確か向こうに不審者撃退用のスプレーがあったなー。貴女に上げますよ」

 

今の不審者は貴様だ、と内心悪態を吐く。

 

「いいえ、遠慮します。あっちは何か居そうで怖いので……もしかしたら侵入者かもしれないですし」

 

「え!?それは大変だ!」

 

どことなくわざとらしさがある驚き方に胡散臭くなる。

此処へ現れた時から胡散臭い男なので割愛する事にした。

驚いたシーザーはそれなら直ぐにあちらへ見に行かないと、と馬鹿げた事を言うので罠に填める気だな、と警戒。

案の定、彼はリーシャにも共に来るように言ってくる。

それをやんわりと拒否してから警備を呼ぶことを提案すると、彼はピタリと顔の表情を変えてゆるりとこちらを向く。

その表情は冷酷と言っても過言ではないものだった。

その瞳は濁っていてとてもではないが、普通の人間がする目ではない。

完全に何かを失っている目だ、これは。

もう逃げ時だと踵を返して走り出すと後は無我夢中で出口に向かう。

シーザーは追って来なかった。

 

(出口!)

 

追ってこない理由は直ぐに分かった。

扉に手を掛けていざ開けようとしたら鍵が掛かっていて開けられなかったのだ。

絶体絶命の中で閉じこめられた事は明白。

サッと青くなる顔に後ろを向くと誰も居ないだろう廊下から何かが這いずる、あの音が聞こえてきた。

被害者で死亡フラグだと語った友人に心から謝る。

 

(あんたの言ってた事、本当だったよ)

 

泣きそうになる顔を引き締めてから生き残る術を考える。

このまま黙って何もせずに死ぬ事はしない。

こうなったらシーザーを道ずれにしてやる。

犯人ならばその報いを受けるべきなのだ。

死ぬこと前提で気を起こす自分はもうヤケである。

シーザーを探そうと走ると這いずる音が近くなって覚悟を決めた。

 

「出て来て!シーザーさーん!」

 

こうなったらこっちから呼んでやる。

ホラーだろうがグロテスクだろうが、何かが出てきてもう逃げるか、と血眼になって探す。

友人が見たら「シュールだね」と言うだろう。

確かに、怪物が出てくる映画でこんなに犯人を探して走るものなどなかなか無いだろう、と内心笑う。

しかし、シーザーが出てくる気配もなく、自分の靴の音が建物の中に響く。

 

「!」

 

(お出まし?)

 

何かの陰が前からやってくる。

這いずる音の正体とご対面か。

ドキドキと高揚感が最高潮になる。

アドレナリンも出てるし、まさにホラー映画さながら。

蠢く何かが月明かりに照らされると一瞬目を点にした。

 

「え?」

 

見間違いではない。

 

「グロくない」

 

これは、所謂スライムだろうか。

目の前に現れた何かはズルズルと音を立ててスライム的な身体を動かしていた。

牙があって怪物というのに相応しい言葉のものを想像していたので呆気に取られる。

しかし、友人は確かに死亡フラグと言っていたので見た目とその攻撃は違うのかもしれない。

構えると相手はユルユルと動く。

それにしても遅いな、と思う。

これなら余裕で避けられる。

 

「へ」

 

シュ、と風を切る音に反射的に動けば足元にヌルヌルな物があった。

間一髪、足に当たらなくて良かった、と安堵。

触るのは絶対に勘弁なのでヌルヌルから二歩下がってから相手を見た。

このままでは死亡の確率も上がるし、兎に角どうにかせねば。

部屋に駆け込むのは自分の首を絞める行為だし、かと言って攻撃出来るものなど。

 

「!……消火器!」

 

視界を巡らせてから見つけたものを手に取る。

 

「お、重っ」

 

初めて触ったが、こんなに重いとは。

フラフラとなる足にしっかりしろ、と言い聞かせた。

 

「……わ!」

 

また何かしてきた。

ヌルヌル攻撃だ。

反射的に消火器を構えて発射した。

ブシャー!と激しく音を立てながら動く。

これでやっつけられたとは思えないが、なるようになれ、といった気持ちである。

泡塗れになった怪物はもがいていた。

その横を通り過ぎて走る。

シーザーを見つけなければ、とそれだけを頭に描いて。

 

 

シーザーを探してひたすら走る。

陰も音も聞こえない。

歯噛みすると後ろからまた這いずる音が聞こえる。

グッと顔を引き締めて後ろを向くとまたあのスライムが姿を見せた。

さっきよりも動きが早くなっているような気がするのはリーシャの勘違いだろうか。

 

「な!」

 

足踏みしたかと思えば小さな分身を生み出す怪物。

唖然とそれを見ていると、その分裂したスライムがこちらに飛びかかってくる。

避けようにも相手の方が早かった。

 

──ザッ

 

目を瞑ってくるであろう痛みに耐えていると何もないまま五秒。

どうして何も起こらないのかと腕を顔の前から外して目を開けると二つに裂かれたスライムが下に転がっていた。

 

「よく逃げ切れたな」

 

楽しそうな声音に後ろを向くと軍服を来たローが立っていた。

友人の言葉をそのまま表した服装に現実か、と頬を抓りたくなる。

本当にローが軍服を着ているので色気がいつもの倍だ。

白衣も良いが少し見慣れたので新鮮である。

軍服というレトロ感がある色気に身を包んだローははっきり言って別次元の人間だと錯覚してしてまいそうだ。

惚けて見ているとローがこちらを流し目で見る。

 

「どうした。くくく、これか?」

 

軍服を指で示すので頷く。

 

「ローさんカッコ良すぎでしょ」

 

ぼそりと言うと彼はクスッと笑って「言うことはそれかよ」と述べた。

怪物を切ったことに関してならばうっすら希望していた事なので割愛してもいい。

友人が言うには、ロー達は怪物を討伐する組織の一員と言うので運良く登場して成敗してくれないかな、と微かな期待をしていた。

だから、特に言う事はない。

 

「兎に角、俺から言うことは一つ」

 

「え?何でしょう?」

 

何を言われるのか。

 

「消火器は置いとけ。走るのに邪魔になる」

 

驚いて手元を見るとまだ握っているさっき使用した消火器を持っていた。

しかし、これは自分にとって最大の今ある武器なのだ。

手放すのが惜しくて悩んでいると耳元に吐息が掛かる。

 

「俺が守ってやるよ」

 

見透かしたその言葉に耳を押さえて悶絶する。

この男はわざとなのだろう。

耳元で厭らしく囁くなんて卑怯だ。

赤くなる耳を見られまいと消火器を手放す事を承諾。

彼は嬉しそうに喉で笑って「いい子だ」と子供扱いをする。

確かにローより少し年下だけれど子供なわけではないのでムッとした。

こんな状況なのにこんな感情が湧くのは彼が助けに来た事で心に余裕が出来た故だろう。

ローは頭を撫でて宥める仕草をする。

 

「付いて来い」

 

頷くと彼は口元を上げてリーシャの手を取る。

走るように足されて足を動かす。

明日は筋肉痛で痛むだろう。

疲労も溜まってきたので息が上がる。

一つの部屋の扉を押し開けたローに「それ追い込まれフラグなんじゃ」と言う。

 

「追い込まれ?……来たぞ!」

 

話している暇もなくやってくる怪物。

やはり移動速度が速くなっている。

 

「想定外だ……悪いな」

 

「え、ええー……ちょ、さっきは守ってやるとかかっこいい事言っといて……?」

 

やはり選択を間違えたのを自覚したらしい。

スライムに囲まれて逃げる事が出来なくなる。

リーシャでも部屋に逃げ込むという事をしなかったのに。

ローは意外とうっかりだったらしい、なんて可愛く言っている暇はない。

なかなか攻撃してこないスライムにヤキモキしているとスライム達の後ろからシーザーがやってくる。

ローは彼を睨んで「お前だったのかシーザー」と言う。

どうやら今まで黒幕を知らない風だったらしい。

ローはギュッと手を握ってリーシャを後ろへやる。

背に庇われてローの好感度が上がった。

 

「ロー。今回はそう簡単にやられるスマイリー達じゃねェぞ?」

 

「はっ、言ってろ」

 

強気に出るロー。

それはフラグなんじゃなかろうか。

傍観しているとシーザーはこちらを見て目を細める。

 

「そちらのお嬢さんはかなり悪運が強いようだ。此処まで逃げ切られたのは初めてだ」

 

「流石だろ?」

 

何故ローが自慢げなのだ。

 

「さて、今日はお前を倒す日としよう。そしてそこのお嬢さんには俺の実験体として役にたってもらう」

 

「させるか、よ!」

 

ローは持っていた刀でスマイリーと呼ばれたスライムに攻撃する。

よくよく見てみると三匹に増えているではないか。

もしかして無限に増えるのかもしれない。

最悪な予想に事の成り行きを見ていればスライムがまた分裂して六匹になる。

これは流石にヤバいんじゃないかと不安になった。

ローが離れた事でリーシャが一人になるのを見計らっていたのかシーザーがこちらにいつの間にか近付いていた。

やはり、消火器を手放すべきじゃなかったのだ。

それとローの言葉を完璧に信じるのを止めよう。

心の中で誓ってから近くに何か無いかと手を彷徨わせてみた。

けれど、めぼしい物はなくてがっかり。

こんな時にメスの一つや二つ、置いていても……と病院でもそれは有り得ないので思考を切り替える。

 

「っ!いっ」

 

「シュロロロ!捕まえたぞ」

 

目の前に迫っていたらしいシーザーの顔が間近に見えて肩を掴まれ手を拘束される。

そのまま引っ張られて疲れ切った体と足は抵抗しても無駄な程弱り切っていた。

体力を温存しとけば良かったのか、と後悔が滲む。

 

「離して!ローさーん!」

 

「ちっ!リーシャを離せシーザー!」

 

叫ぶとこちらに身を乗り出すロー。

スライムが前に居てるので来る事は難しそうだ。

この男をぶっ飛ばしてやる、と睨みつけるとシーザーは六匹居る内の一匹のスライムをこちらに呼び寄せる。

このままでは、と蒼白になる顔。

しかし、無情にもスライムの攻撃は外れる事なくリーシャの身体に当たる。

ああ、ついに浴びてしまった。

 

「シュロロ、シュロロロロ!見ろ、ロー!助けられなかった女の姿を!」

 

シーザーは感極まった様子でリーシャの腕を解く。

もう抵抗されないと踏んだらしい。

それもそうで、今自分は唖然と謎のヌルヌルを浴びてしまい何も考えられなくなっていた。

 

「リーシャ!」

 

耳に入ってくる声にシーザーの笑い声。

そして、脳裏に浮かぶ。

死ぬのなら、と気持ちを再び思い起こして立ち上がる。

後ろを向くと同時に手を丸めて思いっきり振りかぶる。

 

「ぶぐあァ!?」

 

ぶん殴る、そして道ずれに。

今回のテーマはそれだった。

こうなったら道ずれにしてやると誓ったのだ、自分は。

 

 

 

 

どうせ死ぬのだからとスライムを両手で掴んで洗濯機の中へ放り込む。

六台丁度あったので好都合だとそのままスタートボタンを押して、六時間ずっと回し続ける。

その間にならローの組織も何とかこの怪物を処理出来るだろう。

 

「っ……!?」

 

「リーシャ?」

 

呆然とリーシャがシーザーを殴ってスライムを洗濯機に入れていくのを見ていたローが我に返ったらしく、駆け寄ってくる。

 

(ついに、死ぬのか)

 

体に異変を感じた。

毒でもあったのかもしれない、体がビリビリという感覚に見回れる。

 

「どうした!?言え!」

 

「ローさん……私、直に死ぬみたいです……」

 

「!?……今から移動するぞ」

 

ローは慌てて違う部屋にある、職員が使っている仮眠用のソファへ連れて行ってくれた。

寝かされると苦しくて呻く。

体温も上がって汗も出てきた。

熱が出たみたいに体が怠い。

ローはシーザーを問い詰めると言って出て行く。

本当は一人になるのが嫌だったので頷きたくなかったが、彼を困らせたいとも思わなかったので見送る。

一分もしない間に悲鳴が聞こえてきてシーザーの苦しむ顔が脳裏に浮かぶ。

死に枠という友人の台詞は本当だったのだな、とつい思う。

今日は約束を破っていないと思ったが、どうやら約束を破ったみたいだと悲しくなる。

謝っても謝り足りない。

悲しくて涙が出てくる。

 

「泣くな……」

 

いつの間にか戸口に立っていたローが傍に寄ってくる。

涙を指で優しく拭ってくれてまた溢れ出した。

 

「シーザーを問い詰めた……助かるかは分からないが……」

 

ローの言葉に目を向けた。

毒が回っているし、自分は死亡フラグを立ててしまったのだ。

助かる可能性は低いだろう。

 

「なァ、リーシャ。俺を信じるか」

 

「え……?」

 

ローがスルッと頬を撫でる。

その感触にまた体が熱くなる。

触れられると痛むらしい。

 

「ローさん?」

 

「俺に運命を預けてみないか?」

 

そう言ってゆっくりと迫る彼に目を閉じた。

やがて重なる熱に目を閉じたまま委ねる。

離れていく感触に目を開けるとアーバンの瞳とかち合う。

揺らめいていた。

それは死を覚悟する意味か、それとも最後に慈悲をくれる意味か。

真意を尋ねる勇気もなくて笑う。

 

「どうせ、私、死ぬんです……最後くらいは、夢を見てもいいですよね……?」

 

こんな瀕死の女にキスをしてくれるローに甘える。

最後なのだし、どうせ明日には目を閉じてそのまま開かなくなる事は分かっていた。

死期を悟ると何でも出来る気がする。

けれど、それが実行出来る体はもうない。

体力も気力もスレスレな状態。

リミットは二十四時間もないだろう。

目の前にある美形に運命を託しても構わないと思うのは当然だ。

またキスをしてくるローに告げた。

 

「私を……貴女に、捧げます。ローさん」

 

「嗚呼」

 

ローは頷くとリーシャの服のボタンを外してまた口付けをする。

彼の首に手を回すと首筋に吐息を感じて、最後の幸福に目を閉じ涙を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、答えてもらおうかな。我が友よ?」

 

とある某日、午後。

個室がある店でランチを食べるついでに友人に笑顔を向ける。

その先には縮こまっている某友人が居た。

今頃葬式が行われている時間に自分は普通に座っていたのだ。

事件の後、起きると普通に元気だったので驚いた。

更に、そこは自分の部屋で、ローが隣に居て驚愕したのだ。

あれは夢かと思ったが、軍服を着ているまま寝ていたローを見て「これ夢じゃないし」と思った。

ローと肌を重ねてしまった事を思い出して赤面。

ローが目覚めると「ローさん……お、おはようございます」と何とか言えた。

彼は開口一番に「昨日はあんなにローって喘いでたのにそれはどこに言った?」なんて現実をストレートに投げてくるものだからそりゃあ焦りましたとも。

叫んだとも、盛大に。

それから部屋を飛び出してから友人に電話をして、事の真相を確かめようと此処へ呼び出したという経緯だ。

友人はすまなさそうに笑う。

 

「いやあ、それがさ、他のゲームと設定とかストーリーとかごっちゃになってたみたいでー……あはははは」

 

「へえ」

 

「死亡フラグなんてものは存在しない世界だったみたい~…………て感じ?だから私の勘違いだったみたい……ご、ごめんねえ」

 

「勘違い?そーなんだあ?」

 

そんな勘違いを勘違いでした、と許せる事は難しい。

何故ならローと関係を持ってしまったから。

昨日のローの汗や息や顔が離れない。

リーシャ、と切なげに名を呼ぶ低い声が耳にこびり付いてしまっている。

ヤバい、顔を合わせられない。

 

「リーシャー?おーい」

 

「え?あ、と、兎に角、もう良い。終わった事だし……」

 

「え?いいの?ていうか、まだ設定で言ってない事あるし」

 

「もう良いって、その話しは……シナリオとかもう振り回されるの嫌だしさ」

 

「え、でも」

 

食べ終えて一足先に帰る為に立ち上がる。

またメールか電話をする、と言って店を去った。

友人が呟いた内容など知らないまま。

 

「この世界のモデルのゲーム……十八禁なんだけど……」

 

 

 

(完)

 

 

 

 

 

番外編(男の独白)

 

 

組織に入ったのは簡単に言うとコネである。

知り合いの男がその組織の幹部をしていて、その男がローを誘った。

なかなか面白そうだと昔から刺激を欲しがっていたので丁度良い。

と、その組織に加入する事を決めた。

それから副業として始めた組織の仕事をやりながら本業の研究者を続けていた。

それから月日は経ち、ローの職場に一人の女が入ってきて自分の視線を占める事になる。

ただの係員でお茶汲みをしている一般人だが、彼女を見ると一日の始まりと癒しを感じた。

目福という言葉が当てはまる。

お茶汲みをして此処へ持ってくる時の何気ない仕草を見て後から頬を緩ませていた。

耳に髪をかける、目を細めて小さく笑みを浮かべる。

チラッと見てから何事も無いように顔を隠すのが日課になっていた。

 

 

最近研究所内に謎の生物が発生しているらしいと組織から報告を受けた。

実はこの研究所の研究者の大半が組織に通じている関係者だ。

彼等はロー同様何らかの役割を持っている。

ローも組織の一員になった頃からそこそこ危ない事もやってきた。

ベテランとは違うが、ルーキーと呼ばれている。

キッドやホーキンス等もそう呼ばれる人間達であった。

ネバネバというか、プルプルな生物が夜の研究所内を闊歩していると聞いて、研究所長が夜の研究者内を見回るように言いつけてきた。

本当はノーと言いたいくらい地味な仕事だったが、突如昼に出てきて被害や生物の存在を他者に知られては後の処理の方が面倒だと感じて仕方なく受ける。

事件が起こってからも犯人の粗を探したり、犯人を特定しようと頑張って奔走していたのだが、一向に証拠も出なく犯人も目星すら付けられないまま五日も経過した。

警備員と少し話してから白衣を脱ぐ為にロッカールームへ向かい、入れておいた軍服へ着替える。

相変わらずコスプレをしているような感覚に陥る。

このデザインをもっと普通に出来ないのかと幹部の知人の男に訴えているが、どうしてもこれだと譲らない。

あいつは変人と言っても過言ではない男だから仕方のない返事だ。

このコスプレで人前に出れば警察に職務質問されるのは目に見えている。

しかし、女受けが良いのも頷けた。

彼女はどんな目でローを見るだろうか。

そんな事を考えながら最後に帽子を被ると外へ出る。

今の所、所内に怪しい所はない。

しかし、変な事に扉が開かなくなっていた。

それに、見回り直そうと歩いていくと白い泡の何かが床に散乱していた。

匂いとそれらに、近くにあった消火器が見当たらない。

 

「消火器か?」

 

先程はそんな物も目に入らなかったし、此処まで荒れていると流石に誰でも気が付く。

鍵が閉まっていた事も含めて考えると持っていた刀を手に取って、いつでも攻撃出来るように準備した。

コツコツとさせてしまわずに足音を殺して見回る。

 

(報告にあった謎の生物か)

 

ロー以外にも存在が居るのは分かる。

何かの這いずる音と駆けている足音。

犯人にしては嫌に慌てている。

何かがローの胸に嫌な予感がした。

それに伴い走っていくと扉の手前で誰かが謎の生物と思われるそれに行く手を阻まれていた。

暗がりなので最初は誰かと目を細めてからそれが例の彼女だった事に驚く。

それと同時に身体が動く。

早く助けてこの建物から出さなくては。

というか、ローが此処へ来るまでよくあの生物に何かされなかったと感心した。

彼女は目を見開いて驚いていたが、直ぐにローだと認識して安堵していたので内心驚愕に頭が最初は追い付かなかった。

普通はこんな所にローが何故居るのか、何故軍服を着ているのかを指摘してくるだろうと予想していたからだ。

しかし、そんな事を考えている暇もなく直ぐに仕事モードになって彼女の手を取り目の前にあった扉へ手を掛けて押し開ける。

駆け込むと直ぐにスライムみたいな見た目の生物に囲まれた。

自分の犯した致命的なミスに舌打ちしてしまう。

リーシャの残念な声音に心の中で更に落ち込む。

分かっている、こんなミスはとても重大でしてはならない事だ。

悔やんでいるとスライムの向こうから同じ研究者に勤務するシーザー・クラウンが現れた。

それに、こいつが黒幕か、と直ぐに察せて睨む。

 

(何故こいつを狙う?)

 

たまたま此処へやってきて、尚且つ研究者ではないからか。

どちらにしても犠牲者に等させない。

手を出させるものかとスライムを見ていると、奴らは分裂した。

それに、何て厄介な敵だと奥歯をギリッと鳴らす。

シーザーが彼女を実験体にするという、ふざけた戯れ言を言うのでムカムカとなった。

内心声に出して言えないような事を毒づいてからスライム擬きに切りかかる。

また増えていると舌打ちした。

彼女を狙うというのならば滅する事一択のみである。

ところが、だ。

ローが彼女から距離を離した途端にそれを狙っていたのかシーザーが彼女に近付いて捕らえてしまう。

またもや失態を犯してしまい調子の悪い己を叱責。

リーシャの悲鳴が建物に響きわたるとスライムが彼女に向けて攻撃を仕掛けた。

シーザーを殺す、とその時殺意が湧く。

こんなものを作る男など、事故のせいにしてしまえば世間から直ぐ忘れ去られるような存在。

彼女が何かをされてから直ぐにそれは起こった。

何と、放心状態でいたのに立ち上がりシーザーを殴り飛ばしたのだ。

こんな反応は並の一般人に出来る芸当ではない。

彼女が他にしたのはそれだけではなく、スライムも臆する事なく掴んで近くにあった洗濯機に放り込み問答無用でスイッチを押して回しだした。

それを見ているだけしか出来なかったローはリーシャが倒れ込んでからやっと意識を戻した。

何をやっているのだ自分は、と焦り駆け寄ると彼女は苦しみだして息がハァ、と荒くなったので直ぐにソファに寝かせる。

彼女は自分は死ぬみたいだと訴えたので直ぐに気絶して倒れているシーザーの元へ戻った。

 

(何が何でも死なせねェ!)

 

シーザーを拷問してでも聞き出すと決めて相手を起こす。

刀の柄で躊躇なく叩いて起こせば間抜けな声と共に意識を取り戻す男。

萎える叫びに構わず聞き出せば、なんと彼女に浴びせたのは毒ではなく『媚薬』というから、その真意を否か聞くと絶対に媚薬だと言うので一応その媚薬だという前提でどうやれば解毒させられるのか聞くとまだ出来ていないらしい。

なんと役に立たない。

一応毒ではないので死なないと言うので他の方法を問えば相手はニヤリと笑って男女のアレと言った。

ムカついてまた気絶させると急いで彼女の所へ行く。

彼女の様態が芳しくないらしく苦しそうだ。

毒ではないと知らないので死ぬのだと思い込んでいるリーシャに真実を伝えようとする前に、己の脳裏に狡猾な計画が練られる。

何と一石二鳥だろうか。

内心笑みを浮かべて緊急を要する時の真面目な顔で方法がある、俺を信じるか、等と言ってそれっぽく誘導していく。

すると、その成果もしっかりと出て彼女はローに全てを委ねて全てを諦めた。

命さえも諦めたらしいので、その命はローが預かる事にする。

唇を奪っても何ら抵抗も嫌悪さえもされない。

それに気を良くして、ボタンを外していく。

最後に手を回されればローのテリトリーである。

まさに掌に踊らせる、とは言ったものだ。

彼女を朝になる前に研究所から運び出して家に送る。

スライムやシーザーの所には他の奴らを呼んでおいたので今頃は跡型無く、証拠は無くなっているだろう。

翌朝、リーシャが目を覚ます前に部屋へ戻って一休みしていると、彼女の覚醒する気配にニヤリと笑って、どんな反応を示すのかと、ローのこれからを楽しませてくれる予感がした。

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