短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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成長

町中の一軒家、くつくつと鍋が煮られる音がする。

 

椅子に座る小さい男の子はこちらを不服に見つめるばかりで、段々苦笑していく。

 

しかし、その子の顔が満足に満たされることは出来ない。

 

だって、強い女なんだから弟子入りしたいと言うのだ。

 

そんなの、平凡に生きていきたい、と町中で暮らすことを望んだ我が身にはいらぬものだ。

 

それすら汲んでもらえないのは、まだ感情をコントロール出来ぬ年齢だからだろう。

 

「食べに来て良いけれど、貴方の師匠になるつもりは欠片もないよ」

 

お皿に持ったビーフシチューをテーブルに置く。

 

二人分を置けば、こちらが座るまでもなく勝手に食べだした。

 

餓鬼のように飢えていた装いだったのにこの数ヵ月で肉がついてきた。

 

「あの戦闘が頭から離れねェ、責任取れ」

 

生意気な口調。

 

まさに、野生児のよう。

 

それほど世間の荒波に揉まれたという証明なのだろうと、なんともいえない顔になる。

 

この世は世間によってそれぞれ、飢えの具合が異なる。

 

地方によって、村によって、独裁者によって。

 

満たされている国はあまりに少ない。

 

それはどの異世界でも同じだ。

 

それに、異世界という概念がこの世界にも、自身にも教育によって植え付けられている。

 

その知識はこの世界によるものではない。

 

その世界より遥かに高い水準による世界で誕生したが、その世界で化せられる義務に辟易して飛び出した先がこの世界だった。

 

戦闘と舌に乗せた光景をたいして覚えてもいないが、その子はどうしても興奮して覚めやらぬそうだ。

 

それは申し訳ないと眉を下げた。

 

彼の鬱憤を晴らすにはご飯を与えるだけしか出来そうにない。

 

「ご飯は美味しくない?」

 

「美味い」

 

そこはしっかり頷いて肯定してくれた。

 

だが、それとこれとは別だと目が語る。

 

それでも絶対に頷くことも快諾することもない。

 

だって、そういう世界が嫌になってこの世界に来たのだ。

 

どうしても無理だと毎日のように訴えては首を横に振る。

 

そんな日々、セナは仕方ないなといつもは拒否する口で違うことを囁く。

 

ここで腐っていては彼が欲しい強さなど手に入ることは永遠にない。

 

というわけで、違う人に早く弟子入りしないといつまでも強くなれないと言う。

 

それに彼も自覚し焦っていたのかそうだな、と納得する。

 

ご飯は毎日食べに来ても良いからと先に回って告げると少し嬉しそうに顔を緩めて出ていく。

 

早死にしませんようと祈っておく。

 

 

 

 

 

それからそこそこ月日が経って、今でも普通に食卓へ来るのは全く変わらない。

 

セナも身長が伸びて女らしい体躯になった。

 

それがとても嬉しく、鏡をついつい見てしまう。

 

弟子入りをしにきた子はローというのだが、最近その名を良く聞くようになった。

 

それは、剣を極めた存在につけられる肩書きの剣帝という称号を賜る噂。

 

異世界からのセナはその知識はあるものの、すごいという感覚とは別。

 

いまいちピンとこない。

 

しかし、ほぼ通いに来るローは特別な存在になったということも感じさせないことも起因な気がする。

 

料理を作っては渡す生活が変わったのは最近だ。

 

なぜならローが手伝ってくれるようになったのだ。

 

垢抜けしはじめている姿は成長を感じさせたが、剣帝というものを匂わせてはいない。

 

でも、ステータスが日に日に上がっているのは感じるが、元々自分と差があるので彼がこの世界でどれほど強いのかというのは不明。

 

「ありがとう。遂に君もそこまで出来るようになったんだね」

 

「おれは男だぞ」

 

そこは当然わかっているのだが、突然どうしたんだろう。

 

いきなり、男に使うのはどうかと思うけど、色気づいたな。

 

指摘してみたら、お前のせいだと不機嫌そうに言われた。

 

「おれの誘いを断るから色々我慢してやってるんだ」

 

なにを我慢しているのか分からないけど、師匠になれないと昔から言ってるのに我慢しても無駄。

 

色気とはなにも関係ないような。

 

もしや、関係あるのか。

 

強さはなにも豪腕だけの話ではない。

 

誘惑の技術でも学びたいのかもしれない。

 

可愛いとも、勇ましいものだと微笑ましくなる。

 

「おれがもっと強くなったら」

 

「んん?」

 

約束を今交わそうというのか。

 

ドラマとか漫画にありそうだな。

 

「外に食べに行けよ、おれと」

 

「外食?別に良いよ。特別なことがなくても付き合うよ」

 

青年の域を出かけている子を見送る。

 

少し落胆の空気を肩から出しているように見えるな。

 

セナだって、多少の情は出てきている。

 

しかし、相手はこちらの攻撃力を目的にしているのを分かっているので望む存在にはなれない。

 

ローをかっこいいとちゃんと認識にしている。

 

それとこれとは違うのだ。

 

ここでしっかり褒めたりして好意に好意を伝えたいが、一応料理を作っているのでそれが最低限。

 

ローが出ていって直ぐにセナも身軽な服装で外へ出る。

 

そこから町の近くにあるダンジョンにソロで潜り下へ下っていく。

 

この世界の常識でソロは自殺行為だ。

 

すべからく、この世界の攻撃ステータスはそこまで高くない。

 

それを知らない一人の女はなんてことないスタイルでダンジョンに居るモンスターを駆逐。

 

一撃の杖でのスイングで進む。

 

ローの衝撃的な光景というのは森で大きな獣を一撃で同世代の少女が仕留める光景だったのだ。

 

そんなのは記憶に残って当然だ。

 

彼が弟子になりたがるのは納得の実力だった。

 

セナは己がどれくらい強く、どれほど規格外という意識はほぼない。

 

なんせ、町中の女というだけで職業が冒険者でもない限り注目することもないのだ。

 

ローくらいしか強さを知らない。

 

それは女に何一つ変化をもたらさないし、強いと言われても変わることはない。

 

なぜなら、強さが自身以外に影響を与えることはないと分かっているからだ。

 

どれだけ誰かが困っているのだから強いやつがやるべきだと訴えたところで、そこは強い者のさじ加減による采配に終わる。

 

セナは自分がお人好しでもないことを理解しているので無償でボランティアでやることはない。

 

弱いなりに強くなれと他人事にいうことしかしない。

 

「ギュルルルルル!ブギャア!?」

 

──ボカッ

 

間抜けな打倒音によって一撃の杖によりモンスターは倒れて光の粒になる。

 

残ったのは宝石のような小さな粒だ。

 

それを換金してもらうのが換金所というもの。

 

それを一撃で終わらせて効率を優先していく。

 

お金が入り用になったので今討伐をしているのだ。

 

自身の生活が安定できるお金があれば必要以上にお金はいらない。

 

どれ程言われてもそれ以上望むことは滅多にない。

 

次々にモンスターが倒れていくのを見ずに宝石を回収。

 

モンスタージュエルというらしい。

 

冒険者登録もしておらず生活だけに使うので冒険者も己の力量を全く把握しておらず一般人の中に留めている。

 

ローは最初はそれが不服そうだったが今はそういう態度もしなくなった。

 

丸くなったのかも。

 

ここまでにしておこうとダンジョンに出ると町が黒い影に覆われていた。

 

悲鳴は遠いので聞こえてこないがグシャグシャと建物を潰している音は轟音として耳に聞こえてくる。

 

外にいるのはモンスターの規格外という存在で希に町を襲ったりする災害。

 

ギュオンギュオンと声を出して町を襲っている存在にそこら辺にあった石ころを手にとって強化の魔法をかけて、的に投げた。

 

スゴい勢いで飛んでいく石はモンスターという的にぶち当たり、数秒後、時間をかけて倒れていく様を見届けないで町へ急ぐ。

 

セナの頭にあるのは家が潰されていないかの心配だ。

 

決して町の平和を守るためという理由でないところが、女がマイペースに生きてきた理由だ。

 

人の悲劇をいちいち同情していたら自分の人生を歩めなくなる。

 

それを知っているので自身のためにしか生きないのだ。

 

一人がすべてを解決するということこそがおごっている。

 

倒れていく様に混乱している町にいつもより早く戻った。

 

慌てている町のもの達を素通りして家が無事なのを確認している。

 

「どうなっているんだ!?」

 

全員が混乱している中、モンスターに一筋の攻撃が追加で起こる。

 

モンスターに起きられては困るという意味での攻撃。

 

「どうなってる」

 

町が襲われていて、セナのみの安否を気にして駆け付けたローは彼女とある意味同類である。

 

しかし、町人はそんなことを露知らずローへかけよって英雄だと持ち上げた。

 

猪の大型モンスターを最初に倒したのは己でないというが歓声が多すぎてかき消されてしまう。

 

倒されて嬉しいのに、その男を全く尊重せずに興奮する面々に、これだから人間はと冷たい目で見つめた。

 

ローは人類のために力をつけたわけではない。

 

助ける義理もない。

 

なので、剣帝の肩書きを上から言われているのだが、肩書きだけはもらうが、無償でなにかをすることはやらない。

 

今回は彼女が居る町なので駆け付けたまでのこと。

 

彼女がいなければなんの価値もない。

 

「退け」

 

さっさと煩い音から離れ、彼女に会いに行かないと。

 

ローは浮遊の魔法で囲まれないようにスピードを出して一軒の家に向かう。

 

観衆がなにか言っていたが雑音と捨てた。

 

「セナ!居るか」

 

「居るよ」

 

簡潔な答えにローの胸が安堵と喜びに満たされる。

 

怪我もあるか確かめねばと中に入りながら彼女へ向かう。

 

「まだお昼じゃないのに来たの?」

 

「災害級が来たなら来るだろ」

 

「そう?」

 

このきにしてない感じ、もしや彼女が災害級を?

 

災害級は軍隊や複数のパーティーの冒険者が推薦され、ソロでなど帝の肩書きをつけられたものか、同等の実力者が行かねばいけないほどの個体だ。

 

それはない、と判断。

 

「まだご飯は出来てないからね」

 

分かっているのにわざわざ言うところを見るとローを食い意地のはったものだと思っている節がある。

 

確かに毎日食べにきていれば目的はそれだと思われるかもしれないが、もう少し、目的は料理を作る本人だと細かく感じて欲しくなる。

 

初手に力や師匠、弟子などということを発したのが様々な原因であろうことは明白。

 

反省してそれとなく口説いているものの、全くうまくいかない。

 

「外で食べに行けば良いだろ」

 

「材料もあるのに?」

 

「おれが奢ってやる。ついてこい」

 

女の華奢な手を取って返事を聞く前に外へ出た。

 

災害級の処理は他のやつがなし崩しにするだろうと優先事項をさらりと変動させる。

 

帝の名が入る肩書きは人々の思惑でなく純粋な力に与えられるので影響は差ほどない。

 

因みに、セナの知識で一番この世界で人気なのは聖帝だ。

 

回復を利とする偉人だとか。

 

人々に貢献しているので一番慕われているらしい。

 

そういう人は大抵政に深く入っているという特徴がある。

 

でなければ、わざわざ能力を使うこともない。

 

ローに手を引かれて人々のざわめきの間を通り、雑音の無い場所へ移る。

 

町から出ると己を横抱きにして足を素早く動かし高速で走り出す。

 

隣町まで行くようだ。

 

巨体は見えただろうが、混乱はまだ弱い方だとなるほど納得。

 

ローに掴まらなくともバランスは取れるが、なんとなく手を首に回して凭れる。

 

キュッと彼の手が強くなった。

 

少し照れ臭い。

 

町へすぐについたが、混乱の為にかなり騒がしい。

 

しかし、現場よりは落ち着いている。

 

遠くの町で起きたこと、災害級が動きを止めたことが関係しているのだろう。

 

石を投げたのは己だが、ローがまさか来てくれるとはつゆにも思わなかった。

 

嬉しさに頬を緩ませていると隣町の人達が今度は見に行こうかという話題に花を咲かせる。

 

災害級が動かないのは討伐されたのではと噂が広まる。

 

真実が分からないのに楽観している様は少し考えが足りないのでは。

 

溜め息を押し込めて、いつもよりも歩いていない体は元気が有り余っている。

 

ローに今日はありがとうと言っておすすめとやらの外食屋へ入った。

 

ざわめいているが、お昼前なので流石に店員は店を回していた。

 

お客は外の様子を見に向かったのか料理だけあるぽつんとしたテーブルしかない。

 

閑散としているがローは気にせず空いている席に座るとメニューを選び店員に言いつける。

 

一旦ここで落ち着けたので改めて話す。

 

話すと言っても、災害級がどうなるのかについてだけくらい。

 

災害級がなんやかんやと説明されても倒れてしまったゆえに驚異には感じないので。

 

「あのあと解体されてオークションにかけられる」

 

ローはどうするのだと言われ、それをどうやって売るかも本人が選べるらしい。

 

本人はギルドに所属しているので、一度はギルド預かりになるらしい。

 

確かに巨体がいつまでも町の側にあったら往き来するのか不便だから。

 

災害級は遠くから見たことがある。

 

後ろ姿を見送っただけというほのぼのだったが、さっきのようになにもしてないのに来るという事態が不透明。

 

なので、本来は国が動くような事態らしいが、どうでもよい。

 

石に当たっているし、もう済んだこと。

 

こちらが関わったと知られるのは好きではないので勝手にしてくれというものだ。

 

とりあえず、心配してわざわざ来てくれたローには頬にキスをしておいた。

 

「は?」

 

されるとは思わなかったという顔だ。

 

「お嫌い?」

 

そう斜め上から見上げるとぷるぷるしたあと、サッと顔を背けてしまった。

 

こちらも恥ずかしさで顔が真っ赤なのでタイミングはよかった。

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