短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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吸血鬼もの


吸血

どうしてこうなったのだろう。

 

赤く染まる腹を感じ、感覚も無くなった体はもう動かない。

 

複数の目に注目されていることに苦笑する。

 

先生先生と呼ぶ砲口は未練という傷を残す。

 

もっと色々教えてあげたかったな。

 

遥か昔から異人と呼ばれ今では異能という能力を持つもの達を隔離して洗脳教育をする機関が存在していた。

 

しかし、その機関がなかなかうまくいかないのは仕方がないのだ。

 

まだ始まったばかりの新米に任せるから。

 

お上は話を聞かず結果だけを見る。

 

答えを丸暗記したテストを見せれば長年騙し続けられた。

 

その近郊が崩れたのは上層部の一部のやつらが権力争いにここを巻き込んだ。

 

子供さえ居なくなれば自分達は勝てるとでも思っていたのか。

 

人災に配慮されない子供らを守るために必死に送り込まれた刺客を倒し続けた。

 

(ぐ……血が喉に)

 

ここまでダメージを追っていては助かるまい。

 

「良く聞け、皆」

 

ハッと泣いていた子達も顔を挙げる。

 

「これは不幸なんかじゃない、始まりだ。施設は崩壊したから家族の元へ戻るんだ」

 

置いていきたくないと言われたが、大人の体を運ぶ意味もない。

 

無駄と言い切り情を捨てた。

 

「行け」

 

質す時間すら惜しい。

 

最後は悪魔のように徹しようかな。

 

「また飼われたいのか?」

 

小さな箱庭に再び囚われるかと聞いた。

 

子供達は嫌々と首を降る。

 

どちらの意味に聞こえたのかわからぬが、どちらにせよ首を振る。

 

だよな、囚われたくはないよな。

 

当たり前の感覚に溜め息をついたが肺が痛くて噎せる。

 

大げさでもなく、感覚も麻痺にしてきた。

 

行け、と短く告げた。

 

渋々子供達は散っていく。

 

ぽつりぽつりと居なくなっている子供達に残る子も居るので、眉間にシワに寄せる。

 

フッと笑う。

 

「お前らはバカだ。底抜けのな。禊なんぞ立てんで良い。はよ行け、バカども」

 

子供らは笑ったことで安心したのか、ぞろりと離れていく。

 

最後まで残ったやつの頭をボキッと殴る。

 

「っう」

 

呻いた子はそれでも離れないので突き放した。

 

割りと最後の力だ。

 

くたりともうなにも動けなくて声も喉が焼けてしまい出せなくなる。

 

最後が冷酷な言葉など思ってもみなかった。

 

最も幸福な気持ちになれる台詞を一度でも与えたかったな。

 

そして、彼女は息を引き取った──。

 

 

 

「っっっ!!!」

 

びくりと目が反射的に開く。

 

辺りを見ると一番初めに目に入るのは金箔を溶かした髪色が特徴的な長髪男。

 

不気味で良く言ってもミステリアスな部分が隠せない。

 

その男一人だけが自分を確かめるが如く見つめていた。

 

「起きたか」

 

低い声音で感じ取れたのはやれやれといった待ちくたびれた様子の態度。

 

前後の記憶どころかごっそり抜け落ちている情報に焦る他あるまい。

 

「わたし、私は……死んだのでは」

 

「ほぅ……どうやら記憶は保持していると」

 

さらりとメモをつける男に聞かれていることを思い出し口を閉じた。

 

情報を与えては不利になる。

 

なんらかの事を男は知っている口ぶりに窺う。

 

「……ああ、もしや警戒をしているのか。だとしたらそんなものは無意味だ」

 

「そもそも貴方が誰か知らないので」

 

「かつてお前から教えを乞い、今まで受け継いできたというのに、冷たいな」

 

男はからりとも顔色を変えず淡々と述べていく。

 

「改めて名乗ろう。過去第8特区に監修され、逃げ延びた者の一人、バジル・ホーキンス」

 

「…………え、いや、嘘をついても」

 

「かの時から既に10年以上経過していて多少外見に変化があってもなんら可笑しくはない」

 

最後に死んだ。

 

それからそんなに経過して。

 

死んだ記憶が偽物なのか。

 

混乱の極みに入ろうとしたがそれを止めた男。

 

「考える前に見た方が早い」

 

ホーキンスはソッとこちらへ寄ってきて羽のようなキスを頬にした。

 

その途端体力も何もかもが満タンになって、動きたいと脳が活動し始める。

 

「冗談みたいな話しだ」

 

「夢ではない」

 

じゃあなんで今ここにおのれが居るのか。

 

とても遠回りな話し方をする男は確かに記憶にある子供と連動し合致する。

 

本当に本物だとでもいうのか。

 

人間離れしていた能力を持っていたのは知っていたがそんなことが可能なのかな。

 

「今は皆大人になるような程時間が経過したのか」

 

凛々しい男言葉を使うのは決して教え子達に同情しないようにという距離を意識していたからだ。

 

今でも抜けないのはあれから時間が自分の中では経過してないから。

 

今から変更するのは無理だった。

 

これから変えていかねばならないのかとかなり面倒に思った。

 

むしろこれを生かして男装でもしようかな。

 

そうして旅でもしようか。

 

「おれは実験をしたかったからしただけだ。あとはどうしようと勝手にすれば良い」

 

「はぁ」

 

生き方も忘れているのにポイされるのが早い。

 

「じゃあ、適当に旅人にでもなるさ」

 

「ああ……それは構わんがあいつらには会わない方が良い。お前が生きていることはおれ以外知らない」

 

「分かった。顔だけ見て帰る」

 

「精々捕まらんことだ」

 

「だれがわたしみたいな奴を見て話しかけるんだ」

 

結構スパルタを施した記憶がある。

 

嫌われているだろうから知られないようにしなければ。

 

恨まれているから知られないようにしろと言われたのだとそう認識する。

 

私が担当していたのは昔でいう異形のものらだ。

 

特別な力を持つ吸血鬼と言われる幼子達。

 

そこそこ年齢をいっているものも居たから誰も担当したがらなくてお鉢が回ってきた。

 

ホーキンスが居た建物から出て、彼に持たされたリュックを肩にかけて北へ向かう。

 

地図もあるので広げると記憶にある地図があり、いくつか国の名前が違っていた。

 

どういうことだと疑問に感じつつ、世界を見て回れという彼の指示に沿い、自由を知る旅が始まった。

 

北へ北へと進み、村や町を経てたどり着いたのはそこそこ大きい国の街道。

 

もうすぐその国へ着くという時、ドォンという地響きが耳に流れてきた。

 

足からも振動があり、それがどれほど驚異な震音か窺えた。

 

なにが起こっているのだと左右を見て空を見上げると遠目に煙玉が見えた。

 

政でもあるのか?

 

一応警戒しつつ向かう。

 

門に辿り着くと検問があり、ホーキンスが用意してくれた証明書を手に並ぶ。

 

なかに無事通されてまずは腹ごしらえだなと酒場のレストランへ。

 

席に着くとメニューをたのみ喉を潤す。

 

「はァあああ!やってらんねえー」

 

耳に聞こえてきたのは男の声で席の方を見ると団体でやってきているらしい。

 

「毎回おんなじ事を言ってるぞ」

 

有益な情報を得るためにさりげなく聞き耳を立てる。

 

「うっせー。こういうときくらい愚痴言わせろ」

 

「はいはい」

 

「おれだって嫁がほしーんだっての。清楚なな!」

 

「はいはい」

 

「探したらみつかんねーかなァ」

 

「はいはい」

 

いつもの会話なのだろう相づちに内心どの酒場にも同じ悩みはあるのだなと不思議に思う。

 

キョロキョロする男はこちらに目をやりピタッとこちらを凝視した。

 

まさか嫁候補にされたんではないよな。

 

今は男に見えているのだろうし。

 

「おいなんだ。本当に嫁を見つけたんじゃないよな」

 

同じことを考えている相方。

 

「……う、うそ、だろ」

 

「おい、シャチ?」

 

 

 

 

 

──ガタッ

 

名前を唱えた途端、脳裏に子供の無邪気な声が反芻する。

 

『ぜってーここから出てやるんだっ』

 

決意を何度も何度も涙声で叫ぶ子供の。

 

「ペンギン、おい!ペンギン、うしろ、うしろ見ろ」

 

男の声にハッと回想を止めてさっと下を向く。

 

ペンギンと呼ばれた男は面倒そうにこちらを見ようと向くが下を向いているこちらを見て「お前が騒ぐから嫌がられてるだろ」と窘める。

 

見られたくないと本能的に顔を背けた。

 

背けられて間に合った。

 

しかし困ってしまう。

 

このままこの店にいられない。

 

逆手にとってこの店から出ていこうか。

 

「ペンギン本当で……!」

 

男の声が近付いたと感じた瞬間、手を取られた。

 

「……うお」

 

反射的に手を捻り手を離させた。

 

「失礼、いきなりだったもので」

 

「いや」

 

男は顔を見て、疑いをかけているの色を纏う。

 

「すまないな連れが」

 

もう一人の男がこちらへ来る。

 

「こりゃ驚いた。似てるな」

 

男は驚いたようだが、世の中にはそっくりな者がいる。

 

 

 

それに年齢的に遥かに年上でなたくてはならないのだから、本人なんて思えない。

 

「そうなんですの」

 

突発的に言葉を変えた。

 

「ほら、シャチ。別人だ。謝れよ」

 

ペンギンと呼ばれてきた男がシャチに足す。

 

「そりゃそうだよな……」

 

シャチはがっかりした顔で謝罪してくる。

 

「気にしてません」

 

早く終わらせたくて済ませる。

 

謝られても困るしな。

 

お詫びに奢ると言われたがボロが出るので断ると足早に店を出た。

 

この国からもう出なくては。

 

門から出ようとすると突発的な雨が降ってきて不運に舌打ちした。

 

ずぶ濡れになり宿を慌てて取り、シャワーを借りた。

 

この国は豊かなのでお湯が使えて幸いだ。

 

水の音と雨音が奏でられ、今までこうして浸ったこともなかったなと苦笑。

 

──ボガァン!

 

「!?」

 

鈍く聞こえずらいが近くでなにかの物音が聞こえ、慌ててシャワー室から出る。

 

「な、なんだ!?」

 

暗闇に蝋燭。

 

夕日も過ぎた時間。

 

「よォ」

 

扉が破壊されているのかと思ったが乱暴に開けられただけだが、侵入者だ。

 

居たのは男。

 

しかもただものではない。

 

「誰だ!」

 

シャワー室に置いてあった得物を向ける。

 

「出ていけ!警らを呼ぶぞ」

 

「随分な挨拶だな」

 

ユラッと近付いてくる。

 

「知ってるか、吸血鬼には特殊な力がある」

 

「む……なんだと」

 

「昔の臭いでも一度嗅げば覚えられる」

 

「嗅ぐ……五感か」

 

誰だこの男は。

 

「わからねーとは教師失格だろ」

 

担当だった子供か。

 

瞬時に思い出そうとするが大人過ぎてわからん。

 

「それはすまん。で?お前はだれだ。知り合いだったとして訪問のマナーがなってないな」

 

やれやれと首を振り、武器を突きつける。

 

恨まれていそうな空気に武器は必要だ。

 

「お前が居ると垂れ込みがあってつい嬉しくて突撃をかましただけだ」

 

「私は誰だと質問している」

 

「フフ……当ててみてもくれねェとは。それに、良いタイミングで来れたらしい」

 

舐めるように全身を見られるが、不快よりも警戒が優先なので構わない。

 

「姿形は代わってねェ。どういうからくりだ」

 

やはり誰だかわからない。

 

クズ教師だったから覚えてるわけないだろ。

 

「全くこれっぽっちも思い出せん。帰れ」

 

「嫌だね」

 

「殺すぞ?」

 

スッと目を細めて剣を引く。

 

次いで前へ進みステップを踏む。

 

──ドス

 

「っ」

 

弾かれた!

 

一瞬でそれは起きた。

 

次の軌道に移行して相手を狙う。

 

「の、割には技術はあのときのままか」

 

成長してないから上達しているわけもなし。

 

三度目の追撃に相手も出してきた。

 

(く、早いっ)

 

猛攻でもないのに一撃がとてつもなく重い。

 

吸血鬼たる力であろう。

 

このままでは負けると計算し、外へ出た。

 

服さえも着られずに出ると裸だが命とは比べものにならない。

 

「そのまま出ていくのか!」

 

相手は何故か驚いていたが女を捨てているので驚いていると推測。

 

予想外過ぎるだろ!と怒鳴る声が聞こえるが身の上が危ないのでさっさと走る。

 

「ふん。たわいもない」

 

成長した吸血鬼だろうと回復した体であれば振りきることなんて容易い。

 

安堵の息で辺りを見回して誰にも見つからぬように隠密行動。

 

が、頭上から声が聞こえて舌を打つ。

 

「おれは耳も良い」

 

「はぁ。自慢など傲慢だな」

 

その傲慢さの裏をかかれてまんまと組織に子供などを誘拐された。

 

何度も己を過信するなと教えたのに。

 

学びが浸透してなかったらしい。

 

「いいや。おれはお前より強い。だからもう離れはしない」

 

「ただの子供だった男にねちっこくされる覚えはない。消えろ」

 

なんのことかさっぱりだが、大方昔の恨みだろう。

 

「もういい。トラファルガー・ロー。思い出したか?覚えてないとほざくのなら覚悟しておけ」

 

思い出さない女に焦れて解答を出す。

 

「トラファルガー・ロー……?いたが、別になんでもないぞ。ああ、最後にまとわりついてきた小僧か。いや、違ったか?」

 

「おれだけだ……!」

 

「おい、いきなり怒鳴るな」

 

そんなに切れる要素あったかな。

 

入る余地のない断言に押し黙ると彼は目の前に飛び降り着地。

 

「うるさいぞまったく」

 

「忘れてるお前が悪い。そして、早く降参しておけ」

 

どかどかと足音荒くこちらへ寄る男は不機嫌そうに見てくる。

 

恨んでいるのかわからなくなった。

 

今までどこでなにをしていたと質問されたが、ホーキンスの事を述べて良いものか。

 

因縁が生まれてしまうんじゃないのかな。

 

「とある男に囲われてた」

 

暫しの間が空き、ローのからだが小刻みに震える。

 

「どいつだ」

 

「教えられん」

 

「言え。そいつを庇っても得なんてない」

 

「お前は殺しに行きそうだが?言えるわけない」

 

そう断固として言えばローはキッとこちらをねめつけてきて、一瞬で距離をゼロにする。

 

武器も間に合わない速度にそのまま肩を押されて壁に押し付けられ対峙。

 

「若いままに保持出来る能力者なんて探せば見つかるんだぞ。そいつを見つけるのは容易い」

 

「恩人をうる訳ないだろ。普通に考えて。お前もそんな真似しないだろ。同じだ」

 

押さえつけられたまま上を向く。

 

子供だったときの男の記憶を少し思い出した。

 

そうだ、あの子は聡明であったな。

 

「トラファルガー・ロー。ふむ。ほんの少し思い出せた」

 

しかし、やはり好かれる要素がどこまでもない。

 

「お前は他の懐柔しようとする奴等と違って態度が刺々しかったからな」

 

くつりを笑う男は押し付けた手を肩から顔に移動させ、髪を退かす。

 

さらりと鳴る。

 

「記憶と全く同じだ。時が止まったような状態だな。時間操作じゃない。これは形状記憶か」

 

推理していく様はやっぱり賢さを彷彿とさせる。

 

やがてピースが填まった男は歯ぎしりすると「バジル屋……あいつ」と答えを出した。

 

そんなことを全く言ってなかっただろと悔しがっている。

 

知れてしまっても言うつもりはない。

 

どういうつもりで私を生かしたのかもホーキンスの意図が読めないので、説明のしようがないというだけだが。

 

というか、いつまで裸で立っていれば良いのかな。

 

困ったという顔で相手をみやるとローも考えることを終わらせたのか目が合う。

 

「取り合えずおれのところへ来い。他のやつらにも説明しないとおれ以外の奴等からも追われることになるだけだ」

 

それは困るなと付いていくことに決めた。

 

ついていって着いたのは豪勢であった建物だ。

 

「どういうことだ?なんでこんなところに連れてきた」

 

「おまえ、なにも知らないのか」

 

「ああ、知らん。私の恩人については話せないが、目覚めたのは最近でな。なにも知らない」

 

ホーキンスに何年間かの新聞でもねだれば良かったと今更に悔やむ。

 

眠っていたせいで昔の感覚のまま外に出てしまったのだ。

 

「ああ、そういえば連座で思い出したが、お前に良く突っかかっていたユースタス・キッドは今も息災か」

 

「あ?生きてる。おれは覚えてねェのにユースタス屋は覚えてるってどういうことだ」

 

「いや、あんな問題児忘れられるわけもない」

 

喧嘩っぱやいし、なにより暴れると大変だった。

 

「おれも暴れておけば良かったな。ふん」

 

「いや、おまえが暴れていたら施設は牢屋を作っていただろうから暴れなくて正解だ」

 

昔は確実にコントロールするという名目でやられていた筈だ。

 

「おまえの手に終えなくなっていたということか」

 

「なんの話だ」

 

「さてな……ほら、ここがおまえの部屋だ」

 

「は?私の!?なにを言っている?」

 

「空き部屋は腐るほどある。一つ渡した程度でなんともねェ」

 

「いや、そもそもお前は今どうなっているんだ?」

 

「その質問をする前に砂ぼこりをどうにかしてからが良さそうだ。シャワーも全部好きに使えるから自由にしろ」

 

「分かった。今は従う」

 

逃げて体がぺとぺとする。

 

早く洗い流したくて仕方なく、シャワールームへ向かい簡単に洗い流して出た。

 

「ずっと待つなんてしおらしい」

 

「場所は分からないだろうと思ってな。あと、お前はおれと年齢が変わらない」

 

「ん?それがなんだ」

 

「おれの守備範囲内だ」

 

「……精神年齢的にもアウトだろそれは」

 

「どうだかな。そもそもおれ達は長寿だから年齢にもそんなに括らない」

 

「まぁ勝手にしろ。私は無しだがな」

 

「世の中には下克上とかいうものもあるからそんな風に思えるのも今のうちだ。フフフ」

 

体を流し目で見てきて、まるで食べ頃のなにかを見ているような気分になる。

 

「もにょるからやめろ」

 

「おまえもまだ若いから体をもて余してるってことだ」

 

「子供だったやつと生々しいことを言い合うのは不愉快だ」

 

「もう大人だ。残念だろ」

 

ローに案内されたのは何人も集まる居間のような寛ぎ空間。

 

集いの場なのだろう。

 

各自好きに過ごしている。

 

「あ!やっぱ連れ帰ってきた」

 

昼間見たシャチがいち早く気づく。

 

「おまえがチクった犯人か」

 

じとめで責めればシャチがだってと拗ねる。

 

「私は静かに過ごしたかったのに汲むこともしないのはどうかと思うぞ」

 

狙われているかもしれないのに焦った。

 

「ふん。船長!」

 

ふてぶてしい違う男が間に割って入ってきた。

 

敵意を感じる。

 

「この女はおれ達を閉じ込めた仲間なのに連れてくるだけで終わりなんて納得いかない」

 

酷く冷たい目で見られ、やはり居たなと安堵する。

 

「お前はまだその段階だったか」

 

ローは冷静に男へ問いかけた。

 

「船長?なにをいって」

 

「おれ達が逃げ延びた日、本当にあの家事が偶然起こったと今でも信じていることに驚いただけだ。構うな」

 

(なるほどな。聡明な男なのは昔からだったからな。知られても可笑しくはない)

 

ネビアは元々あの組織では吸血鬼について研究する研究者という平凡な立ち位置だった。

 

「はっ。なにを言うのかと思えばっ!あれは愚かな奴等に報いが当たっただけだ」

 

いつからあの組織は傲慢にも研究対象を物理的に捕らえて叶いもしない世界の征服を考えるようになったのかは知らない。

 

「あの火災は意図的だ。あんなに綺麗に逃げ延びられたのは仕組んだ人間におれ達が助けられたからと分かる。それに、逃げていたのに全く追っ手がこなかったのは不自然だ」

 

「そ、れは」

 

追っ手が来なかったことに疑問を感じていた男へ、投げ掛ける。

 

「人間にしかろくに効かない煙。おれ達には只の煙だった」

 

ネビアが最後の瞬間力尽きたのはその煙を吸い込んだからだ。

 

「効かないからこそおれはみすみす置いていく事しか出来なかった。仕掛けた奴が捨て身でおれ達を逃して自分は始めから建物を出るつもりがなかったと思い知った時は腹も立った」

 

「船長」

 

ペンギン達が俯く。

 

「私もどれ程なにかをしようとあの組織の人間の一人である事実は変わらない。責任は等しく組織の者にある。罪悪感など感じる方がどうかしているぞ」

 

罪悪感など感じられても受けとれぬので水を差しておく。

 

「お、お前は~」

 

シャチ等が文句をいう。

 

「ところで今はあれから何年経ったのか知らないから誰か教えてくれ」

 

「いやいや、ほんとなんで知らねーの」

 

シャチの突っ込みは冴えていて、広間は笑いに包まれた。

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