成人したが家庭教師を頼むことにした。
なんでも屋と書いてあった怪しいビラに電話をしてみたのだ。
とんでもないくらいかっこいい男が居た。
思ってもない顔スペック。
おまけに頭もすごく賢いとのこと。
プロフィールはもらっているので知っていたが、写真と本物では違いすぎる。
それに、厳しそうなイメージが漂い、家庭教師は大丈夫だろうかと不安が襲う。
「よ、宜しくお願いします」
最初が肝心なので、挨拶はしっかりと。
「ああ。入るぞ」
「どーぞ」
そそくさ、と家に招き部屋へ通す。
部屋、片付けといて良かったッ。
冷や汗ものだ。
こんなイケメンに汚部屋を見られるなんてしぬ。
なんとなく、ジッと顔を見られているような。
「お前やっぱり……見覚えがあるな」
と、言われたもんだから詐欺を即連想した。
こんな人に覚えがあるなんて言われる原因は騙すことを目的としているとしか思えん。
スッ、と手をグーにした。
「待て、おれはローだ。×××高の一年間在学が重なってた筈」
×××高とは、かつての母校。
そこを知っているとは、やはり──。
「詐欺師が家になんのよう?」
スッと眼を細めて構えを取る。
「いや、おれだって流石に空手部に挑む真似はしないが……!」
空手部だった情報まで。
「疑り深いな。お前が拾った犬、うちで引き取っただろ。これは覚えてるよな、流石に」
「犬?……えっと──うーん、えー、うーん」
「お前アホだったか」
「ちょ、これから教える生徒にアホってなんなの!?」
失礼すぎんでしょ。
「くくくくッ。おいおい、そんなに疑り深いのに、ビラに電話するって、矛盾してるだろ」
ツッコミの部分に吹いた男は耐えられないと告げる。
確かに怪しさに溢れていたけど、その場で考えたから吟味なんてしてないから。
その場の勢いってヤツだ。
「もう!誰なの貴方は!」
どうやら知り合い?らしいけど。
「だから、トラファルガー・ローだ。プロフィール送っただろ。見てないのか?」
「見たけど……記憶にない」
「まだ卒業して5年くらいなのに覚えてないのか」
「同級生じゃないのに無理だって」
そう訴えて、勉強は一先ず後回しになる。
かつての記憶を掘り起こす事がメイン。
でないと、気になってしまう。
勉強しないのかと聞かれたけど、知らないままなんて胸のつっかえで気持ち悪い。
「あんなに言っているのに思い出せないのならもう無理だと思うがな」
「犬だっけ?」
「白い犬だ。今では大型で元気にしてる」
「ふーん」
「無責任なやつだったな」
過去を思い出すように言われ、居心地がすこぶる悪い。
後輩というので、年下なんだと意外に思う。
「いや、高校には遅れて入ったからお前より一つ上だ」
やっぱり年上だった。
雰囲気もいかにもだし。
アイスティーが揺れるのを見ながら相槌。
「お前は有名だったな。空手にしか興味がなくて、テストも赤点ばかり」
「黒歴史だからッ。今は反省してるよ」
過去を知っている相手が居ることがこんなに恥ずかしいだなんて!
しかも、私の赤点って有名だったのか。
皆人の赤点気になるくらい暇だったんだな。
「勉強しましょう」
思い出すのを諦めたんだなって顔で椅子に座る。
仕方ないでしょ、空手にしか興味なかったし。
それに、異性にもそこまで。
友達の彼氏とか、だれがかっこいいかという話題も全く耳に落ちることはなく。
スポーツ青春真っ盛りで仕方なかった。
今思えば充実していたが、もう少し余裕を持てば良かったかも、程度の認識。
ローに教えられて始めた勉強は考えているよりも順調でわかりやすく、固まった頭でも理解出来た。
「分かりやすくて楽しい。勉強って楽しかったんだ……知らなかった」
「運動にステータス振り切ってた弊害だろ」
褒められている気がしないぞ。
睨む程ではないが不機嫌ですよという意思を示すために不服のメを浮かべる。
それを瞬時に理解する相手の洞察力がおそろしい。
私達って久々にあったよね?
そんな相手に即見破られるとかやばくないか。
そんなに顔に出るタイプではなかったんだけど……。
「今日はここまでにしておく」
「ありがとうございました」
久々の勉強でげっそりしてしまっている。
ローはそれを見てクク、と笑い次からご褒美を持ってくると言ってくれた。
まるで子供扱いだ。
帰っていくローを見て今日は不思議な出会いだな、と笑みを浮かべた。
それから週に一度通う契約をした。
着々と進んでいき、手作りテストをやった。
なかなかいい点数叩き出した。
ちょっとずつ楽しくなっていく勉強に笑みが浮かぶ。
ローは何故かご褒美を用意すると言って憚らぬ態度で、好きにすれば良いと言う。
なにを用意するのか凄く気になる。
次のテストでもいい点数を叩き出し、彼は笑いながら箱を取り出す。
「なにこれ」
「プレゼントだ。開けてみろ」
「んー。うん」
箱を見てゆるく解く。
「……シャープペン。可愛い」
しろくまの柄があるシャープペンで、ローが選ぶにしても全く無関係なもののような気がする。
「どうしたの?」
「前から気に入りのシリーズだ。高校の時からのもので、お前も見たことがあると思っていたが、やっぱり覚えてなかったか」
「普通覚えてないって」
一々覚えていることなどない。
でも、プレゼントなんて貰うのは久々で頬が緩む。
「ありがとう。大切にする」
「出来ればボロボロにするくらい使ってくれ」
ふふ、と私はローへ向けて笑みを浮かべてシャープペンを見る。
誰かからのプレゼントが嬉しいことが懐かしい。
ころころと眺めているとじれた声でローが「おい」と声を掛けてくる。
上を向くといつまでするんだと聞かれ、首を傾げた。
なんのことだろうと聞くとこの勉強だと言われ、こてりとハテナを浮かべる。
そりゃあ、期限は近い。
私だってお金はゆみずみたい湯水みたいにない。
「いつか終わるよ。何事でも」
「空手の時もお前は潔くすっぱり辞めたな」
プロになれないのは分かり切っていた。
「そんなお前から目が離せなかった」
「どうしたの?いきなり」
急に空気をガラリと変わった。
「実はここに来る奴はおれじゃなかったが代わってもらった。お前と話したくてな」
「それって」
「いや、気持ち悪いのは理解してる。言わなくていい」
まだ何も行ってないの言ってないのに決めつける。
それをどこか必死だと感じた。
別に真っ赤な他人ではないのに。
もう何度も会って知り合い以上だと私は思っている。
なにをそんなに弁解しているのか。
「いや、気持ち悪くなんてないよ。真剣に教えてくれたって分かってるし」
照れながら返信。
すると、ローは緊張のはらむ空気を緩ませて目尻を下げる。
「今すぐと急かす気はない。気長にせいぜい考えておいてくれ」
「ん?」
んん?
もうお別れするのになんだかかれからも会うみたいな言い方。
「もう契約は切れるから友人としてよろしくってことだ」
男はワイルドな顔で笑う。
なんと、友人。
そこは恋人として、とかじゃなく。
まぁ、気長にって言ってたよね。
なら、気兼ねなく付き合うとしよう。