ふと、気づいたら転生していた。
全く気づいてなかったけど。
シンプルに頭を打つまでね。
「ってことなんですけど……どう思いますか?」
「それをおれに何故言う?」
「いえ、現代の感覚でいうと海賊船に乗っている私ってどうなっているんだろうってびっくりして」
「本業を目の前に良く言い切れたな。お前がスゲェな」
転生後のわたしは海賊船の居候。
ギリギリ海賊ではなかったのって逆になんなのだろう。
わたしはどの立場なのだ。
「この船の船長の貴方にしか言えないんですよ。あ、でも他の人にも言っても良いかも」
「他のやつに言っても全員困るだろ。コメントに困るってやつだ」
私はこの船の一番上の彼に相談したのだが、真面目に取り合ってくれなかった。
悲しやー。
私はローさんにこんこんと言っていたのだが、取り合ってくれなかった。
「わたしは信じてもらえなくて、とても悲しいです。うだつの如く涙を流したいです」
「少し変な言葉を使っていて、よいしょよいしょ、間違っているんだが、指摘してやろうか?」
「い、いえ、必要ありません」
「お前は側だけ見れば真面目だがかなり抜けているんだ。例え過去の人生があったとしても大して経験値として生かされてるように思えない」
「え?」
わたし、ドジっ子だったの?
うう、まさかの現実。
「わたし死ぬんです?」
「知らん」
「えええ、ちょちょちょ」
私をひ弱扱いしておいて放置するのかい?
ええ?
ひどくないかそれ。
「海賊船に乗っていて平気なのでしょうか」
「そもそもお前は空から落ちてきたしな。頑丈だ」
「そういえば私って空島出身でした。レア度的に激レアですよね」
「生まれをレアリティに当てはめるのはお前くらいだ」
「田舎なので上も下も大して差がないんですけどね。田舎で良かったです。都会はなにかゴチャゴチャしてたみたいで。噂レベルですけど」
「雲の上では一代国家も作れないだろうな」
「人工的に限界がありますから。それに人の天敵も普通にいますし」
「限界環境で良く生きていけたな。指一つくらい欠けていたとしても可笑しくない。欠けてないよな?」
酷い!
ナチュラルに言われてぷっくりとなる。
「ううう。私はトボけた性格じゃないですよ」
「思い込みもそこまで行くと羨ましくないぞ」
ローは話は終わりだと、立ち上がる。
すがるように服を掴もうとするが、色々過って止める。
「わかりました!私、飛びます」
硬い金属だって宇宙を飛べたのだから、私だって飛べるぞ。
この羽さえあれば。
私は部屋を飛び出す。
「お前は極端か」
ローの叫びが聞こえた気がするが、聞こえなかった。
羽で飛ぶことで頭がいっぱいだったので。
「どうした!!」
走る私に驚く船員の一人が叫ぶ。
「私は飛ぶの!飛ぶッ」
勢いよく甲板へ行く。
船首と迷ったけど、広いほうが見渡しやすいと思って。
「羽は、うん。洗ってるからきれいだけど、なんかパサついてる」
バサバサかも。
ローがのろのろとデッキに出てきて、野次馬と化していた船員になにか指示している。
バサバサ、と翼を広げてよいしょと手すりに足をかける。
追い込み作業である。
「私はこれでも天神だし」
天神というのは種族名。
あ、私がつけたんじゃないよ。
うちの集落で呼ばれていた。
随分驕っている、又は名前負けしているなとは薄っすら思っていた。
それから程なくして天に実っていた実を取ろうとして転落したというわけ。
正直に言うと羽が無ければ即死。
エクストリーム転落死だ。
まだ、そのときは前世とか思い出してないしさ。
天の種族なのに落ちるって凄いな私。
「飛べたら里帰りも有りかも」
「その前に死ぬぞ。酸素がなくて」
「あ、ローさん。ワタシいってきます」
「待て!早まるな──!」
叫ぶ男らに早まるとはなんだ早まるとは、と胡乱な顔を向けた。
「私は羽を持ってるから飛べるの」
「ここ何年も飛んでるところ見たことないぞ。流石に飛び方忘れてるんじゃないか」
という別の男に喉が詰まる。
たしかにスランプ気味というか、飛び方を忘れかけているかも。
信憑性のある羽の中身に一旦手すりから降りる。
なぜか空気で安堵が広がる。
し、失礼な。
まさか、飛び込もうとしていると思われたなんて。
流石に肉食のいる海に落ちたくないよ。
ブランクなんぞ吹き飛ばすぞ。
という気概でみんなに理由を説明する。
これで納得して見送ってくれると思いきや、逆に強く引き止められた。
「やめとけやめとけ」
「落ちるって」
「オチだオチだ」
「な、な、な!この羽が皆さんには見えないんですか?」
反対されたらやりたくなるのが私。
「落ちたせいかもしれないが、飛ぶことを怖がるようになってたよな」
「え?そうでしたか?」
「いやー、自分のことだろお?」
船員らに突っ込まれる。
はて、そんな記憶は……ある。
そうだ。
なんで飛ばなかったのかというと怖かったから飛べなくなっていたのだ、確か。
でも、私は前世を思い出すということの他にかなり、ヤバい情報も思い出した。
それは、ハートの海賊団が全滅してしまうというもの。
この未来は私の勘違いではない。
今までの航海でも全く同じ事が寸分違わず起きた。
これは由々しい事だ。
ワタシは自分で言うのも何だけど強くない。
なんとしても飛べるようにならないと足手まといと、それと……。
シェファニは兎にも角にも命を捨てたくないので必死になる。
それから、日々飛ぶ練習をしてなんとか足は浮くようになった。
必死にやっては泥のように眠るを繰り返す。
少しでも強さに自身があれば戦いに赴いたんだけど、戦力にならないから違う方向に頑張るぞ。
「そろそろ休め。連日連夜、やりすぎだ」
「ドクターストップしないでください」
生死が掛かってるんだ。
「体壊すぞ」
日々、襲われる恐怖に布団を震わせる私には、飛ぶことを考えて精神安定を図ることしか出来ないから。
ローはカタカタと震える女を見て、目を細める。
船員ではないが短くない付き合いなのでみんなの相性も悪くない。
「悩みがあるんなら、言え」
「うぐ、あの、ないです。そんなの、ないです」
「ウソが下手だから二度と言わない方が良い」
「一生ウソ禁止とか厳しいです!」
「で?シャキシャキ吐けば楽になるぞ」
吐きたくてもはけん。
「色々、色々あるんです。勘弁してください」
ぺこりと頭を下げる。
彼はやはりなにか考えるように黙り込む。
もしや、ばれたかとヒヤヒヤする。
バレてもバレなくてもどちらにせよ船にはいられまい。
「あ、そうだ。お風呂入らないと」
と逃げた。
「三時間前に入っただろ」
呆れた声が追いかけてきたけど逃げ切った。
しかし、どんどんと追い込まれていく。
精神に異常をきたす。
「う、もうだめかも」
潔く船を降りた方が良いのかも。
トラファルガー・ロー氏に深く謝罪をしながら船を降りることを告げる。
理由はそろそろ土地に住みたいというそれらしいもの。
そう言っておけば反対されないという思惑もある。
ローさんは鋭い目でこちらを見つめて無言を返してきた。
「唐突だな?」
漸く聞こえた声は鋭利に尖っていた。
「唐突ではないです。かなり昔から考えておりました」
「へェ」
彼はこちらを暴くように見てくるので居心地は悪い。
「じゃ、じゃあ。その、お世話になりました」
ゆるりと立ち上がる。
足を組んだローはのそりとする私から目を背けずにずっとおってくる。
「みんなにもお別れ言いますね」
「お別れね……入団したわけじゃないお前は出るも出ないも自由だが。どうしても行きたいなら理由をしっかり言えよ」
「言いましたよ。言いました」
「いってないな。言っていけ」
「さ、さようならっ」
既にマトメておいたカバンを肩にかけて走る。
バタバタと音をたてて廊下を疾走。
「あ、おい、どうして急いでる?」
すれ違いざまの誰かの声が後ろに流れる。
「カバン!?」
「たしかに陸だが!」
「ふん!よし、着地!!!あれ、無人島っぽい!?」
よくよく、見なくても人の気配がしない。
え?ワタシこれからサバイバルするの?
そろそろと後ろを見るとニヤつく顔をする男たちが居て、なにだか無性にイラッとした。
「お、降りるんですから」
ブツブツ言って前へ進む。
割りと数歩だけ進んだ先にテントを張る。
ハートの船に居続けて死ぬ目にあう事に比べれば、サバイバルの方が良い。
「ローさんたちは死なないから心配しない。でもワタシは重症」
言い聞かせる。
「もしもおし、居るかー」
ローではない声にビクッとする。
ベポだ。
「なに?」
何しに来たんだろう。
「キャプテンがこれ渡してこいって」
渡されたものを見るとそれは食べ物。
なぜ、これ?
ベポを見るとつぶらな瞳でこちらを見ていた。
まだ居たのか。
確かに長年共にしていた人が急に降りるとか言い出したら何事かと私でもめちゃくちゃ気になる。
「おれ、だれにも言わないぞ」
ベポは私に悩みがある前提で述べてくる。
「だめだめ。そう言ってローさんに確実に伝わるの知ってるんだからねッ」
「しないよー、信じてくれよー」
「信じない。ローさん好きだから皆、言っちゃうよ」
殆ど独り言に近い呟き。
それを聞きかじったベポはへにょりと眉を下げていた。
捨てられた小熊みたいな顔したって言わないんだから。
それに今のところ未来は確実でも無形な話で煙よりも色がない。
眉唾なのだ。
「でも、ここ無人島で、死ぬかもしれない」
ベポのいう内容は事実。自前の羽で飛んで島を出るしかない。
むん、と口を引き結ぶ。
言っても言わなくても怖いことは怖い。
「帰ろうよ」
「ワタシは下りたんです」
「いきなりなんで?」
「だ、だから、降りたいから降りたんです」
それ以外ないです、と言い張る。
ベポの尋問はなかなか緩まらなくて困りに困って彼を無理やり追い出す。
勿論私の腕力では追い出されないわけで、相手は渋々外へ出たわけだ。
ベポを追い出して安堵していたのに今度は女クルーがおいでなすった。
はあ、と溜め息を明らかに吐く。
「おいおい、どうした?おれが聞いてやるよ」
同性なんだから、と皆から送り出されたのが丸わかりなんだよなあ。
なにがしたいか分かるから取り合うつもりはない。
「悩みか?」
「……」
「船を降りるなんてよっぽどだよなぁ?ん?」
取り合うつもりはないと目を閉じて首を振る。
「もしかして恋煩いなのか?それならそうと言えよな」
「違います」
「お、喋ったか。恋煩いじゃないんだな」
女クルーである彼女は深く頷く。
テントからさっさと出ていくのを、今度はこちらがポカーンとしている。
「なんだったの??」
再びテントで寛ぐ。
本をぱらりと開く。
この世界って本が貴重なんだよね。
「入るぞ」
「ここ、個人のテントなのですが!?」
次々と人が来すぎでは!?
女クルーが来てから一時間も経過してない。
やがて顔を出したのはロー。
話し終えたと思ったのに。
もう二度と会わないかと思っていた。
「さよなら、と言ったのですがね」
暗い声音で響くテント内。
「おれは答えてないがな。それに、納得もしてない」
「いえ、ワタシはここで別れさせてもらいます」
きっぱり宣言しておく。
結果的に私はやはり彼らと別れた。
しかし、決別は出来なかった。
なぜならこうやって彼らの動向をこそこそついて回った。
そのときはやって来た。
キャプテンも皆も船からバラバラになって投げ出されては海に流れていく。
それを遠くの雲から眺めていた。
私の種族は極まるとどうやら視力がよくなるらしく、離れていてもはっきり見える。
それに、飛ぶ距離もかなり伸びた。
彼らを追跡して食べ物を手に再び羽を広げる。
例え拒絶されても私は、わたしは。