今、壁に挟まっていて動けない。
うにょうにょ動かしても1ミリも変化無し。
誰か通りがかってくれやないかと期待する。
──ゲシッ
ぷるるん、と衝撃が突き抜けて叫ぶ。
「きゃ、な、なに!?」
左右を見ても誰も居なくて後ろだ。
「面白い遊びだな」
ヒッと息を飲む。
「ロ、ローくん……これは、その、あの」
フルネーム、トラファルガー・ロー。
彼は私の古くからの知り合いっていうか、うーん、友達でもないし、なんの関係が正解なのか分からない。
さっきの衝撃はきっとこの子が私を蹴ったのだ。
いつものことなので手に取るように理解。
ついで、ムギーッと引っ張られる感覚に慌てて唸る。
「い、いたたた!痛いって!」
「スライムのくせに痛いわけ無いだろ」
痛覚を持っていることを知っているのにそういうこと言うんだよ本当。
ひどいなんてもんじゃない。
「手、手を離しっ」
──ギリリリ
木の板にめり込むマイボディ。
今はとろりとした液体のような個体が見事に挟まっている。
船の床を拭いていたらぶつかっていたのだ。
失敗失敗。
「いだ!いや、あの、痛いんですけどっっ」
力を緩めない男の子に文句を言うが一切離されないままずっと引っ張られて、抜ける頃には伸び切っていた。
私はリーシャ。
多分この世界とは違う世界から来た。
全く記憶にないけど、気付いたらこの世界に居て、スライムになっていた。
ちゃんと人にもなれるけど、スライムのときが楽なときは使い分けをしている。
「たく、世話がかかる」
宝箱の中で眠るという生存方法をとっていたら色んな所にたらい回しにされて今、ここにいる。
行き着くところが海賊船なのが己の不運の象徴なのかな。
ロー意外は尖ってないから居心地は良い。
問題なのはローなのだ。
「人に戻るから離して下さい」
「このまま運ぶ」
色々言うけど一切認められず個体のままわしずかまれて歩く。
人間として終わってるなこの扱い。
とほほぉ、今までも見た目でペット扱いされていることは多々あった。
スライム化によりスライム扱いされる運命に嘆く。
ローは己の部屋につくとポイッとリーシャをベッドへ放り投げ、本を掴んで読み始めた。
放置されてる。
いつものことだけどさ。
でも、暇。
「うんしょ」
人に戻って自らの足で降りる。
大人の、前の世界の私の姿。
「勝手に戻るな」
「え、でも……まだやることが」
「そんなの他のやつにやらせとけ」
──タッ
無茶苦茶をいう子に黙って部屋を飛び出した。
待てと聞こえた気がするが気にしないでおこう。
なんせ、やることは詰まっている。
部屋をノックして開けるとふとんがこんもりしている。
まだ寝ていたのだ。
「起きてください」
ユサッと揺らす。
もぞりと動いたかと思えばそれはそのまま地面へ激突した。
「いでッ」
──ドシン!
固い床にぶつかっては痛かろう。
怪我の具合を訊ねれば大丈夫とのこと。
「おはようございます。流石に目が覚めましたよね?──ロシナンテさん」
男性に苦笑したまま、挨拶をする。
「あ、ああ。毎朝悪い」
起こしていることにたいしてか、はたまたなにかしらの事故に合うことか。
「さて、怪我をしたところをローくんに見せに行きましょう」
「エッッ!そ、それは……」
露骨に嫌な顔をする大の大人。
体が大きくても仕草は歯医者を嫌がる子供を彷彿とさせる。
「どうせいつかバレるのに」
今隠しても次に怪我をした時に箇所を見られたら、直ぐに問い詰められてしまう。
その分怒られるというだけ。
今見せたら怒られる事はないと思う。
嫌味を少し言われるだけだ。
多分……ね。
ロシナンテは嫌々と首を振って元気になったと体を振って、急ぎ足で食堂へ行く。
廊下の途中でコケた。
誰にも今のところ見られてはいないけど。
結局一日の終わりに検査されるからな、この人。
実はロシナンテとも出会ってからの付き合いが長い。
あの、宝箱からスライムが出てきた時の顔。
そして、無口と言うか口が聞けぬという疑問。
黙ってて欲しいと言われて、過去に出会った時を思い出し、きっとなにか事情があるのだと見ていたが、まさか、死にかけるとは思わなんだ。
あの時咄嗟に彼を包み込んだ事により、なんとか生きていけた。
そこで少しだけローと離れて再会した時の号泣は凄かった。
そのあと理不尽にスライムボディをもみくちゃにされたのは今でも納得してない。
確かに死んだと思われていたみたいだし、仕方ないと甘んじて受けたものの、コラソンはそんな対応されてなかった。
つまり、私だけ理不尽を受けたのだ。
普通、平等に接するんじゃないのかな。
「起きたんなら、先ずは動いて下さいね」
「あー、わかった」
(脳が起きるまで動かないね)
いつものことなので放置。
仕事はまだあるから彼だけのことに割いている暇はない。
「そうだ!」
「はい?」
思いついたとばかりに手をぽん、と叩く。
タバコを持っていたらうっかり手に持っていただろう想像をしてしまい、背筋がゾッとした。
コラソンだからやってしまうな。
「菓子、またなんか作りてーんだ」
「じゃあ、適当に考えときます」
「頼むわ」
ロシナンテのことを名残でコラソンと呼んでしまうが、致し方なしだ。
ロシナンテの第二の名前みたいになっているし。
ローとて、コラソンコラソン言ってるし。
そして、子供たちに渡す用のお菓子を制作したいとのことなので、レシピを考える。
ロシナンテはやっぱり優しくて、いや、優しすぎる。
それよる不利益すらも彼は受ける。
過去のあの出来事が微かに浮かぶが、もう終わったことだと部屋を出た。
「やっぱりコラさんの所に居たか」
前方に仁王立ちしている男児ことロー。
ずっと出待ちしていたのだろうか。
「あ、うん。起こしてた」
「そんなもん、お前の仕事じゃない」
「でも、必要だから」
「必要ない。コラさんは良い大人だ」
その、いい大人が大やけどしかけたり、骨折しかけたり、日常的に起こるのだが。
本気で言ってるのか、とローの目を見つめているとソウッと逸らされる。
「まァ、コラさんは例外だが」
ほら、ほらほら、やっぱり。
良い大人枠じゃなかったって事だ。
リーシャの視線に負けてしまうほどの駄目な大人である。
「そんなことは後回しだ」
ローはスライムに戻れと我儘を言うので、ローの願いを叶えてしんぜようとぷるぷるボディーに変身した。
すかさずゼラチンみたいな扱いで、わしずかまれる。
相変わらず気遣いの欠片もない。
そのくせ、懐に無理矢理押し込まれる。
嫌われてるってわけじゃないし、扱いの差に悩む。
懐は温かい。
ここは冬の地域らしいし。
なんていったか──あー、ノースブルーだ。
そういう地名は覚えやすい。
寒いからスライムには酷だ。
まぁ、そこまで温度を敏感に感じ取ってはないから、凍えるという程ではないけど。
それにしても、ローはいつも入れるんだよ。
ホッカイロ代わりなのだと勝手に判断している。
「次はどこへ?」
「タルン島」
「島に着くんだね」
船で周辺をぶらぶらしているから、旅行気分だ。
船で周るのが夢だっだんだよねぇ。
戯言で皆海賊になるんだ、なーんて言ってるけど、いくらローが海賊で下積み下としても、無理。
大人はロシナンテだけで、後は子供だけしかいない。
海賊なんて夢なのだ。
ローとロシナンテだけが飛び抜けて強いってだけで、別にその他の彼らは強いわけでもなし。
そんな偏ったメンバーで海を渡るのは夢物語。
「タルンは珍しく、成金の集う島らしい」
相変わらず言葉が悪くてなによりだ。
ローは楽しげに荒らしにいくぞと言う。
S気質のところを見て、くわばらくわばら。
私以外にも向けられるのは不憫だ。
「リーシャ。悪趣味な奴らが集まってるから気をつけて行動しろ」
「う、うん……」
優しいときもあってキョドル。
「ローくん、私が捕まったらどうするのかな」
聞こえない程の声で呟いた。
ローに厳重に囲まれつつ、移動。
スライム型ではやはり速度が遅いので運ばれるのが都合もいい。
無名でただの子供に見えるローはだれからも見られずスイスイと人混みを縫っていく。
子供だからこそ出来る方法。
あちこちから屋台や店の宣伝が聞こえてくる。
「あっ、焼き餅食べたい」
独り言みたいなものだったが、途端にぴたりと振動が止む。
「?……どうしたの?」
急に方向転換するのを感じて問いかけてみるが、答える声はなく、また止まる。
隙間から様子を見ようとするが、服があって見えないし、恐らく上から押さえつけられていた。
「あ、っと。流石に潰れるよぉ」
「3つ」
「はいよ!」
掛け声に見つからぬように声を無くした。
スライムが懐に居たら周辺が騒がしくなると知っているからだ。
またあるき出した子に再度聞く。
「なに買ったの?」
「うるさい」
り、理不尽!
ロシナンテには丁寧に接するのに。
タルン島はお金持ちが集まる島というだけあり、随分と栄えている。
栄えてない島も見ていると、泥沼の差。
地域格差ってやつか。
いくつかお店を見ているみたいで立ち止まる気配がある。
「帰る」
いつもより早めに伝えてくるので、この島は好みじゃなかったのだろうかと無い首を傾げた。
人間に戻ればちゃあんとあるよ。
「おかえり、ロー」
「コラさん……!」
嬉しそー。
天と地の差の対応である。
ロシナンテこと、コラソンが出迎える。
「あいつは懐の中か?」
「こいつになにか用なのか」
「ちょーっと借りるぞ」
まるでモノみたいに渡す。
こらこら、そこは人にもどってからついていくとか、二度手間だけど。
ロシナンテもロシナンテでそこは人扱いしてやれよ、くらい物申してくれ。
「聞きたいことがあってよォ」
ローが離れた時にこっそり聞いてくる。
「ローくんに聞かせられないことなの?」
今更ローへなにか隠し事をする意味も必要もないのに、どうしたのかな。
コソコソ、と無音の能力を発動した男。
この人は悪魔の実という不思議な実を食べ、音を操る力を手に入れたのだとか。
非科学的過ぎて、ちょっと困る。
科学的にどうにか説明出来ないのかと聞いたが、困った顔をするだけ。
「この前の菓子のレシピなんだが、あれ、ローへのサプライズ用にと思ってて」
「サプライズ?」
「おう、誕生日だよ」
「あ、あっっ、忘れてたー!」
頭を抱えた。
「大丈夫、ローはそんなに括ってない」
「いや、それはロシナンテさんが怒られないってだけで、私が相手だと激変しますから」
慌てて否定に入る。
この私がそれほど恐れるような事態。
「んー?まァ、あいつもまだまだガキンチョってことだろ。お前は年上なんだからビシッと対応しときゃ良い」
簡単に言ってくれるよ、この人。
自分は態度を変えられないからこそそんな余裕があるわけだ。
「じゃあ、その日は一日ずっとロシナンテさんの懐にいますから。約束して下さい」
「別に良いけどよ」
よし、言質いただき。
天変地異が起こっても破らないようにと約束させる。
妨害が起こらないともしれないし。
ロシナンテと別れて、歩いていくと船員達が座っているのが見える。
「どうしたの」
「新聞見てんだよ」
なんだ、新聞かと興味をなくしたが、彼らは追加した。
「癒し姫だって」
「ぶ!」
思わず吹き出した。
この世界のネーミングセンスは政府公認なので、どうにも出来ない。
諦めるしかないのだ。
吹き出したのはおもろいからではなくて、逆だ。
可哀想過ぎて耐えられない。
ということだ。
相変わらず名付け方の方針を変えたらどうか。
私ならつけられたくない。
つけられたら最後、スライムとか頭に付きそうでホラーだ。
「どうやらいろんな船に乗って会話をしたりするみたいだな」
「まぁ、合理的な商売だけど……リスクがバカデカくて、そこらへんどうしてるんだろう」
海賊船とかも客としてカウントしてるのなら、危ない橋を渡っている。
「ボディーガードでも居るんだろ」
「癒しか。いーなー」
「呼んでみたいな」
呼ぼう呼ぼうと盛り上がってきて、止める。
「待って、ローくんはまだそういうの駄目なんだから、やめてよ」
「え?おれら海賊なんだぞ」
「海賊でも旗揚げはしてないし、あくまで仮状態!」
一端に海賊になったつもりの彼らに教える。
旗揚げはしっかり計画してからだと船長となっている彼のセリフ。
海賊にもなってない、旅行の団体止まり。
「それに、お金が勿体ない」
「そんな高くないだろ」
「この世界の文化レベルで高くないわけないでしょ」
小声で誰にも聞こえぬ様に反論する。
まだなにかを成し遂げたわけでもないのに、盛り上がれるのが羨ましく感じるな。
「もっともっと名を挙げないとああいうのは来てくれない」
もっとも、ここまで来るのにありえないようなお金を払わねばならないだろうから、強くなる頃には身の程くらいは理解してくれていれば良いという、遠回しな否定。
古株扱いのリーシャに言われて団員達はがっかりしつつも、その場を解散させた。
一応、古株と思われているが正式なメンバーではないということをどれ程の者たちが知っているのだろう。
少なくとも私とロシナンテは居候。
それに、成り行きとはいえ、ロシナンテなどは絶対に海賊にはならない。
なんせ、彼は海兵なのだ。
今でも在籍しているのは知らない。
彼曰く、除籍されているか、死亡扱いされているかもしれないと言っているし。
なので、隠れるために外へは行かないようにしているというだけで、船の中は都合が良い。
リーシャはなんとなく乗っているだけ。
ロシナンテとほぼ動機は同じ。
団員達には同じ仲間に写っているのなら、訂正しておいた方が良いのか。
うーん、変にギスギスさせたくないしな。
悩む。
タルン島にて停泊している船が他にもある。
「あー、ついてねー」
望遠鏡を覗く男。
「あの赤い髪の奴も居る」
「キッドか……あいつどうやって海を渡ってるんだよ」
「あの右腕っぽい黄色い奴だろどうせ」
ユースタスのキッドという子供が良くローといがみ合っているのを見る。
ホントにどうやって海を渡ってるのだろう。
「オラ!トラファルガー!出てこいっ」
噂をすれば、と互いに皆顔を合わせる。
つんつんとした髪型の子供が船の前で叫ぶ。
「あ!スライム!」
うん、そうだね。
この子とは遭難している時にあったわけだが。
出会い編とか……居る?
割愛しておこう。
「スライム、こっち来い」
言われたのでぽむぽむと近寄る。
この子もこの子で扱いが強いので近るの不安。
遠慮なく引っ掴むもんで。
「スライム!なんでおれの船にのらねーんだよ!」
「乱暴なところを治したら、少しだけ乗船してあげる」
「ちぇ」
それでも引かないのが、この海賊候補。
ローは今不在なので彼の事を対応してないとね。
──ガシィ
「ん!?」
悪ガキが掴んだのかと思ったが視界の正面に写るキッドに違うと判断。
「あッ!トラファルガー!」
トラファルガー、がわしづかんでいるようだ。
おっかしーなぁ、いつまでもこんな扱い。
優しく掴んでくれないかなぁ。
「トラファルガーずりィ。おれにスライム寄越せ」
「年功序列だ」
そんなルールなんて存在したら年寄にしか触れられなくなる。
ダンディな人が好みだからちょっと嬉しい。
そして、ツリ目とか、強めの三角目とかも好き。
「疚しい気配……!」
──ギリリリ
「いたーい!?」
ローがムムッとした顔でスライム体を強く握りしめる。
「おい、野蛮に扱うんならおれにくれ」
「躾だ。お前にはやらない」
会話が展開しているが、痛みから逃れる為に人間になる。
「そういいや人間にもなれるんだったか」
逆だよ逆。
人間がスライムになるの。
「キッド、買い物に行くんだろ」
片腕か、右腕だったか、そのキラーが近寄ってからキッドに囁く。
透明な手づなが私には見える。
見事な手腕。
「そうだった」
ライバル心を忘れるくらいコロッとしている。
扱いうますぎ。
「スライム」
と、言い、彼は私を引っ張った。
ローも持っているので両サイドから引っ張りだこ。
だから、痛いんでー!
「いや、スライム取り合わないで!」
確かに小学生とかはスライム大好きだよ。
理科の授業とかね。
でも、リアルの生きてるスライムを取り合うなんて嫌だ。
ましてや、当事者だしり
「おれ、に!寄越せ!」
「断るッッ!」
ローが放つ台詞後、スライムは宙に飛ぶ。
離れるように敢えて手から飛んだ。
早めに終わらせないと伸びちゃう。
ポーンと放り投げられた体を平べったくして風に乗る。
誰かが気付いた時には遠くに離れていて、ローは舌打ちした。
「はァ、お前と話している間にあいつを逃した」
「じゃああいつを先に手に入れたらおれのな!」
勝手に宣言してキッドは我先に走り出す。
その後ろをキラーが付いていく。
二人を見送り、ローは静かに踵を返す。
ベポ達が追わなくても良いのかと聞く。
それに対して男子は素っ気なく放っておけと述べるので、船全体に困惑の雰囲気が漂う。
なんせ、彼女がどこかへ行くと大抵なにかのトラブル、または誰かを釣り上げる。
それを知っているのにローは放置するのかとなるのだ。
特に思わぬ者を連れてきたり、知り合っていたり、誘拐されたり。
レパートリーが豊富だ。
次はなにをしてくるのか怖い。
「えー、あいつこのまま?」
「なにやらかすのか予想出来ないぞ」
ぷわぷわと浮いているといつの間にか船が見えなくなって、うっかりしてた。
このままではマジで帰れなくなると直感。
「ど、どうしよう……流石に今回は帰れないかも」
今までは奇跡的に帰れたけど、次はどうなのか私にも分からない。
もし帰れなかったら普通に探せば良いかな。
この海は広いもんね。
「あ、船」
ぽつんとある船にふよふよ近付く。
今までの経験的に海賊船だったら即離れる予定。
「海賊船だったか」
ハズレ。
慌てて引き返す。
しかし、ぐんっと引っ張られてしまう。
何事かと後ろを見る前になにかにぶつかる。
「ぐふあ」
変な声が出る。
「なんだァ、こいつゥ」
ただのごろつき海賊だった。
有名な札付きでもなかった。
一番大変なシチュエーションだと思う。
つい声が出たけど、幸いそのことに気づかれなかったので声は出さないでおく。
声が出ると知られたらオークションハウス行きだ。
おまけに、ボコボコにされるかもしれない。
生存するには黙秘する他ない。
因みに動くのもアレなのでふにふにの緑の物体にしておく。
「きたねーなァ」
引っ張られたのはどうやら鍵縄っぽい。
貫通しているけど痛くない。
本当に危機感を感じると無痛になるようだ。
少しだけ自分のことを知れて良かった。
それから、この薄汚いを通り越した衛生的にアウトな船へ置いておかれて10日。
この船は文字通り他の海賊に敗退していた。
いや、敗退なんて過程もなく、その船が見えた途端、白旗を振っていた。
「い、いいいいのちだけはァああ!」
必死に命乞いをする男等の船の端の端にへばりついている。
雨が来てもへっちゃらだから問題ない。
問題はこの船もいずれ沈むのかという心配である。
「つまんねェな」
「そう言うな頭」
話し合っているのは勝利した方。
「ん?なんだこの粘っこいの」
だれかが私を見つけて地面から離そうとした。
「どうしたァ」
「頭!スライムっぽいの見つけましたぜ」
「なに!?スライム!?」
少年のようにこちらへくる男、見覚えある。
昔、一緒に住まわされて気迫に耐えきれず逃げた男だ!
しまったな……。
「あ!こいつ!おれのミドリーナじゃねーか!」
だれもかれも、勝手に私に名前を付ける。
この人もその一人だ。
「ミドリーナ?」
「ああ、確か一年程前に拾ったけど逃げたんだ。やっぱ飼い主んとこに必ずもどってくるんだな」
飼い主じゃないっての。
なんていう勘違い。
「え?頭、このスライムを船に置くんですかい?」
嫌そうに言う。
私だって同じ立場でスライムと同じところに居るのを知ったら拒否するよ。
「おれのだからな」
主張が激しいオッサンだ。
「わかりました」
でもこのオッサン、覇気があるんだよね。
オッサンにわしづかまれてせっせと運ばれる。
くそ、舞い戻ってしまった。
一緒にいると緊張するからヤなんだ。
「おー、よしよし」
完全にペット扱い。
もちもちした感触を楽しんでる人からもう逃げられないかもしれない。
一度目は逃げられたけど……。
船も大きくて外へ出るのに苦労した。
知能がないスライムと思われていたので逃げられたようなもの。
今回も騙されてくれ。
スライムボディーを堪能した男、名をシャンクスという。
オッサンと言っているがまだ若い。
多分30代くらいかな。
言動とか、お酒大好きとか、歳以上に感じる。
10日間風呂に入ってないからお風呂に入りたい。
ずっと地面にへばりついていたから。
「餌は食うか?」
そう言って肉を押し付けてくる。
勿論吸収した。
「良い子だ」
真夜中、人の気配がないのでスライムのまま風呂に入る。
お約束の人間に戻るなんてことをしない。
そんなことをしたら確実にバレる。
スライムでも出来るのでスライム一択。
お風呂に浸かっていると意外に快適だと感じる。
誰もスライムだからって苛めないし。
風呂から上がって酒浸りになってるシャンクスのところへ向かう。
甲板で飲んでいたのでお酒を取り上げる。
お前も飲むか、なんて誘われたが飲むのはしないので飲まない。
お酒を遠くに置いてシャンクスを寝室に誘導する。
「む、お前、前より……賢くなってるな」
顔を赤らめて言っているので酔っぱらいの名推理として処理。
「スライムなのに賢いなァ」
シャンクスは寝ぼけた目でリーシャを抱き込んで寝た。
しょうがないな、このオッサンは。
一緒に寝てあげよう。
寝たと思われるスライムを見下ろし、シャンクスは薄っすらと探る。
「やっぱり、感じるな」
前に拾った時は気にならなかったが、今は人の気配がある。
スライムなのに、人の気配がするのは可笑しなこと。
しかし、可能性を広ければ一つだけ理由が見えている。
「まァ、良いか」
酒瓶をわざわざ取り上げて健康を案じる素振りを見せるのは今回が初めてではない。
過ごした時間を考えれば今更疑う気にもならない。
おやすみを唱えて目を閉じた。
起きるとまだ抱き枕にされていた。
「ック……動け無い」
囁く様に一人ごちた。
「んんん、んんん!」
いきなり腕をグッと伸ばして起きた男。
き、聞こえてませんよーに!
「ん?あー、おはよ、ミドリーナ」
そういや命名されてた。
ミドリーナって、安直だ。
だからこそ、ペットらしいからつけたのだろうな。
いつもどおりもみくちゃにされる。
船員たちも居る食堂へ連れて行かれて同じように食事を出されて食べる。
バカに見えるように箸なんて使わず犬食い方式。
それだけで視線も集まる。
そして、わざとグチャグチャ咀嚼音を響かせる。
こういうラインも難しい。
討伐をさせるようなぎりぎり、討伐しなくて良いという感想を抱けるように行動しなくてはいけないのだ。
「良い食いっぷりだな」
相変わらずこの人の倫理観とか、価値観とか器がデカすぎて困る。
「シャンクス、そいつをまた飼うのか」
傍に来たのは副船長。
兎に角ハードボイルドっぽい。
「ああ!ベンがなんと言おうが飼う」
ベンはやれやれという顔をして向こうへ行ってしまう。
これくらいでああなるなんて、普段の言動が窺える。
「よし、おれと釣りだ」
外へ連れ出されて、もしや離脱可能か?と期待に胸をときめかせる。
しかし、シャンクスがなかなか離してくれない。
うにうに蠢くが怯むことなく難しい。
スライムって普通摩擦でこういうの抜け出せるよね。
釣りだって言われても見てるだけ。
ただそこに居るだけだ。
暇ということ。
それを理解してくれないのだこのオッサンは。
るんるんと釣り竿を揺らすのも見ているだけなんてつまらない。
いつになったら釣れるのか。
二時間も過ごして眠りこける。
スライムは標準なので人形になることはない。
そもそも何故スライムなのかも知れてない。
うっかり解けるということはないので居眠りも出来る。
シャンクスは釣れたらしくて上機嫌に剣を研いでた。
スライムをかかえてやらないでほしい。
刃物が間近にあるって怖い。
「起きたか」
怖い、ちょっとした身動ぎで分かるって。
息を潜めて絶対に下手を打たないようにしなきゃ。
「良い刀だろォ」
それ、前にも言ってたよ。
「かっこいいだろォ?」
ハートの海賊団(仮)の子達も同じようなこと言ってたな……。
皆、思うことは同じということかね。
赤髪海賊団に強制的乗船して早三ヶ月、そろそろ包囲網も緩んできている頃。
なはは、よぉし、脱出するぞー。
良い天気だ。
パラシュートの様に広げて船から離れる。
一応シャンクスの部屋にたあった紙に『お世話になりました。スライムより』と書いておいた。
一応知性はあるとそれなりに知っているだろうという前提だ。
そのままふわふわと飛んでいき、どこかに船はないかと探していると商船を見つけた。
見つからぬようにふわふわと降りる。
よし、なんとかなった。
ハートの海賊団(仮)のところに戻れるかはわからないけど、このまま、気のままに進もう。
船に乗っていると様々な情報を得られる。
それにより、次の島はキャッスル島というところらしい。
城が観光地という所。
そういうのはどこでもあるわけじゃないのか。
ローはなにをしているだろう。
帰ったらきっとアイアンクローされるな。
「見えたぞー!」
「おお」
商船の船員が伝える。
私も心の中でおお、と共感。
「よし。錨を下げろっ」
こうして、島についた。
スライムで降りて少し歩いてから人になる。
やっぱり観光は人になるのが良い。
「おおー、城だ」
やはり観光地としておすすめするだけあって、綺麗なお城だ。
和風ではなく洋風。
実に私好みだった。
「あ、バイト」
一軒のお店にアルバイト募集の張り紙。
町並みも洋風なので街全体が観光地一体型。
「気に入ったし、ここに暫く居ようかな」
早速そこへ入っていく。
「すみません」
***
老夫婦の経営している昔懐かしい雰囲気のレストランにて、ウエイターをしていた。
ローたちと合流する前とか、ロシナンテの代わりに稼いでいたので慣れている。
ロシナンテは死亡していると思わせるために表に出られないし、息を潜めていてもらうしかない。
「3番テーブル、おまちどう」
「はぁい」
メニューのものが出来上がり、テーブルへ運ぶ。
慣れてきたな。
リーシャから探すのは難しいが、ローにはなんとかカードとかいう本人の位置を知らせる便利なものがあると聞いたので、作ってもらっていた。
一応ロシナンテのものを持っているから場所はわかるんだろうけど、非効率だ。
彼らは船で動いているのだから、追いつくのは至難の業。
ローたちのことは今は忘れるとしよう。
今はとりあえず観光したい。
「休憩入ります」
お店の人に声をかけて制服のまま、外へ出る。
頭にある付近の地図を思い出すとお店の並ぶ地区に行く。
観光地だから人がたくさんだ。
「あー、白亜のお城」
素敵な街なので永住したいが、もっと良いところもあるかもしれないので我慢。
「お菓子の国とか無いかな」
想像して、食べられなくとも構わないと付け足す。
食べられたら再建が面倒過ぎる。
青空に映える琥珀の鐘も良く聞こえる。
どこかデジャヴュを感じたが、無い記憶に反応しているのだろう。
あくびをしながら近くにあったベンチに腰掛けた。
この世界は凄く興味深い。
色んなところがあって、悪魔の実、なんていう摩訶不思議な能力者になれる実がある。
隅々まで知りたい。
「ロシナンテさんは知りすぎるのが危険だって言ってたな」
知りすぎて過去の科学者が秘密裏に消されることなんてザラにあるらしい。
怖い世界だ。
魅力的でもある。
ローも世界を見たいと言っていた。
皆の方が盛り上がってるけど。
ドフラミンゴがいる限りローの大好きなロシナンテと共に歩けないのが不愉快そうだった。
その気持ちは分かる。
「んー……あ、眠くなってきたな」
休憩時間だから戻らねばと立ち上がる。
「あ──!?」
──ビクッ
私自身戦闘力はそんなにないので危険なことの免疫がない。
いきなり大声なんて聞こえたらビビる。
「お前!」
そう呼ぶ誰かを見る為に目を向ける。
「え、もしかして」
考えていたけど予想に反して早い再会に驚く。
「シャチいい!」
抱着く。
勢い余って押し倒してしまった。
「いっで!」
ゴン、という鈍い音。
かなり痛いな。
「ああ、ごめんごめん」
「いててェっ」
頭を擦りながら立ち上がる。
大丈夫、君は鍛えているし。
常に鍛えているとあんなに自慢していたから。
「ふふ、元気みたいで良かった」
「お前なァ!どんだけ不在期間長かったと思ってるんだよォ!」
泣きそうになっている声で訴えかけられている。
泣くことなんて……ある?
大人である人達が何故にここまで泣くのか不思議だ。
「もおォおおお!マジで船長に今直ぐ会いに行けッ」
「ええ?私今バイトの休憩だから戻らないと」
言いかけている最中なのに腕をもぎ取られそうなくらい強く引っ張られる。
「うぐ!?」
スライム型の時にローに引っ張られるのと謙遜ないくらい痛い。
「痛いって!なにすんの」
「ダメだダメだ。行かせない」
グイグイと男特有の馬鹿力で阻まれる。
そんな、バイトは仕事。
仕事を途中でほっぽり出すなんて不実な真似出来ない。
「もう。あんまり私を困らせないで」
「困・っ・て・る・の・は・おれだーっ」
一言一句区切って強調され、耳元が煩い。
そんなに大声で言わなくても聞こえる。
それに、大人が困る事なんて早々ない。
それにロシナンテも居るんだからなんとか出来そうなものだ。
そのまま強制的に制服を来たまま船へ連行された。
「変わってないね」
特にリフォームした形跡もなし、破損も見当たらない。
どうしたというんだ。
シャチに引っ張られてローの居るのだろう部屋に押し込まれる。
「船長!こいつ見つかったぞ」
開口一番に告げる行為。
そんな言わずとも姿を見たら分かるだろう。
ローはベッドの上に腰掛けていた。
無言。
こちらを見ても無言。
ただいま、と述べてもなんにも言わず。
流石に連絡もせずに音信不通に成りすぎたかなぁ。
「遅くなってごめんね?」
謝ってもまだ微動だにしない。
確かに連絡しなさ過ぎた。
電話しておけば良かったよ。
ロシナンテと旅をした事で放浪するのが癖になった。
「シャチ、はなせ」
まだ声変わりしてない言葉。
シャチはスッと早業の如く静かに退室していく。
まるで私を生贄にしたみたいに感じるぞ。
恨めしい気持ちで見送っているとベッドから重みがキ消える音。
どうやら動いた、と首を戻す。
「なにしてた」
「海賊船に乗って、別の海賊船、商船のち、島」
今まで通りどういう順番に動いたのか説明する。
「良く生きてたな」
「2つ目の海賊船は前に一度乗ったことがあって」
「ふうん」
酷く不機嫌に相槌を打たれる。
海賊船に対抗心でも燃やしてるのかな。
シャンクスがどのくらい強いかなんて知らないから、燃やすだけ大変だと思う。
「数日後にはここに戻ってくるから」
「は?」
子供なのにドスの効いた声が恐ろしい。
「っ……バイトしてるからすぐには無理」
「そんなの今辞めてこい」
「いや、そんな迷惑かけらんない」
「先におれにかけられたのは無視か」
別に蔑ろにしたわけじゃないもん。
リーシャは丸め込まれる前にじゃーね、と扉へ向かっていき、素早く閉めた。
なにか他に投げかけられていたけど、次はロシナンテのところだ。
「ロシナンテさーん」
彼の自室に行き、呼ぶ。
直ぐにドアが空き歓迎される。
「おっ、帰ってきたか」
そうそう、こういうのが欲しかったんだよ。
「ロシナンテさん聞いて。帰って早々ローくんが怒ってるんです」
「あー、まァ、毎回のことだよな……」
ロシナンテは軽く笑う。
内情は激しくローを激動しているが。
誰にも知られずの心。
しかし、スライムなので掴みどころなく消える女に、仕方ないなと頭をかく。
「ちょっと付き合え」
「勿論喜んで」
彼に懐き、信頼をしているので誘われたことに心が踊る。
旅をする前も旅をしている間にも共に生きていた。
死なせたくないと願ったのだ。
彼がここに居るだけで何故か涙が出そうになるのは、謎だが。
いくらなんでも既に事件から経過しているのに、だ。
「で、なにを話すの?」
ドアをくぐり、椅子に座る。
この部屋には来客用のテーブルとかがある。
良くこの部屋には人が出入りする。
多分、相談とかじゃないかな。
なんだかんだ、年長者。
頼られることも多いなではないか。
「別にこれといった話じゃないぞ。この島じゃなにをしてたんだ」
と、聞こえたので島に来るまでの経緯を話す。
2つ目の海賊までは普通に聞いていたロシナンテ。
突然顔面を蒼白にさせて震え始める。
まるでバイブレーションのよう。
この部屋、そんなに寒くないけど……。
「ちょ、ちょちょ、ちょっとッッッと待て!」
「どうしたの?」
「どうしたの?って真顔で言うお前がおれは怖いッ」
「怖い?」
あそこの船にお邪魔するのは二度目だ。
「に、二ド!?二度って言ったか!?お前、良く生きて帰れてたなァ」
「もしかして、有名な人?」
「有名なんていうもんじゃない。有名を通り越した殿堂入りだ」
「殿堂入り……」
伝説的な?
ロシナンテはそれから、コンコンと赤髪海賊団について説明がなされる。
「魔境じゃないですかー」
「魔境に二度お前は突っ込んだんだ」
「2度あることは3度あるっていうから、あるかな」
「スライムと思われているからまだ大丈夫だが、くれぐれもバレないようにしろよ」
こくりと頷く。
「なんとか生還する」
「よしよし」
ロシナンテは詰めていた息を吐く。
とんでもない所に居たものだと緊張を解く。
メモを残してきたけど見たのだろうか。
次会う時は気を付けねば。
リーシャはロシナンテを見ながら、シャンクス以外の大物と知り合っている自覚無く、思考を回転させた。
様々な海賊や人と出会っているので誰が危なくなどと考えていない。
後に、フラグ回収されることとなるかも、しれない。
ロシナンテと別れてローのところに向かう。
そろそろ機嫌も治っているだろう。
ドアをノックして入る。
入れと言わないときが殆どだから、無言で催促している時がある。
そういうのを把握出来ないのでもう入るしかないのだ。
──ギィ
ドアの軋む音。
ゆっくり入ると寂しさそうな背中が見える。
ソッと近寄ると同じく縁に座った。
「電話しないまま行方不明になってごめんね」
「別に。お前は船員じゃないから」
確かに居候だ。
「うん。でも、皆家族で友達だから」
「おれはなんだ」
「ん?んー……家族じゃないかな」
考えたことなんてなかったな。
居て当然な人だから。
「おれはここに居ろと言ったのに、お前は直ぐひ消える」
「旅にでたくなっちゃう魅力的な世界だからね」
「だが、必ずここに帰ってくるから許してやる」
「ふふ。ありがとう」
いつもスライムボディーを虐めるローだが、意思を尊重してくれる優しい子だ。
ナデナデするとバシンと手を叩き落とされる。
もう子供扱いされたくないのかな。
って、会ったときから態度は子供みたいではなかったけど。
遠慮なく叩き落されていた。
「家族として向かい入れてやる」
ナデナデしたことをなかったかのように振る舞う。
「私の帰ってこれる場所だね」
記憶のない私には故郷が分からない。
だから、作ってくれるローには感謝している。
「また旅に出るけど、ローくんのこと忘れたことなんてないし、今度は電話するから」
「いや、お前は当分この船に居ろ」
「ええ」
向かい入れてくれるってことは、いつでも旅して良いよってことなんじゃないの?
ことじゃなかったみたいです、はい。
うう、と落ち込みながらローの部屋から去る。
読書の邪魔だと追い出された。
軟禁されるらしい。
皆、ローを甘やかしてない?
なんだか私にばかり手厳しい。
海の上だけどスライムなら飛べるが、居ろと言われたのだから、暫く居る他あるまい。
「おい、菓子あるから食いに行こうぜ」
船員達の会話が聞こえて、私もお菓子をもらいに向かう。
この船にはコックが居るので美味しいご飯を海の上でも食べられるのは至福。
「お、シャチの情報通りだな」
「だから言ったろ」
シャチが帰還したことを吹聴して回ったのだろう。
誰かが必ず声をかけてくる。
「おかえり!聞いてくれよ!」
帰って早々、誰かに抱きつかれる。
「ロー船長、怒ってただろ」
他の人にも言われてうん、と頷く。
「めっちゃ雰囲気悪かったんだからな。しばらくはここに居てくれよッ」
懇願されて再度首を振る。
流石に音信不通だったから反省。
でも、シャンクスの船に居る時に連絡なんぞ出来ない。
凄い船だからなにかにつけてバレるだろうから。
とりあえず全員に帰還の挨拶を終えて、船の中の自室にて休む。
これで暫くは旅は休憩。
「寝よ」
体に言い聞かせるようにベッドに倒れ込む。
そろそろハマっている新刊の小説も起きたら読もう。
あの二人どうなったのだろう、と先行きが気になっていたのだ。
毎回帰ってくると必ず誰が買っていてくれているのか、本棚に入っている。
スッ、と夢に身を任せた。
***
なんだか、周りに成長痛らしき痛みを訴える人達が居て、首を等しく傾げている。
船のなんとかかんとかの名前……思い出せない。
に、居るが、ハート達面々がくるぶしが痛いとか肩が凝るとか。
それは老年しているからでは?と突っ込みたくなるような事を述べていて、ロシナンテに聞きに言ってみた。
「ロシナンテさんって幾つ?」
「もう三十路過ぎて曲がってるな」
そんな女子みたいな答え。
うーん、ということは。
「ローくんは幾つになったの?」
「確か今年で20歳だろ」
「えッッッッ!うそ!?」
驚き過ぎて小さいツがたくさん出る。
ロシナンテは感慨深そうに頷く。
傷心に浸ってる場合じゃないよ、と揺さぶる。
「こらこら、で、なんなんだ」
「ローくんはローくんでなくなるの?早くないですかっ」
「もうそんなに経つってことさ」
「うー」
なんだか納得できない。
それに、スライムの時の態度が昔と一切変わらないよ。
「なにかプレゼント考えないと」
「んー。そうだなァ」
ロシナンテもまだ考えついてないらしい。
共同にしようよ、と先手を打つ。
それなら、プレゼントで悩むのが半分だけになるし。
ローの誕生当日。
サプライズだったらしきものに参加している。
彼は相変わらず表情を変えずにいる。
良く、長年共にいたら気持ちがわかるとかいうものがあるが、私には当てはまらなかった。
分からないものは分からないってことだ。