プレゼントはロシナンテの指南を受けて、シンプルに食べ物にした。
特別でもなんでもない市販のものだ。
ありふれていると被らないだろうというアドバイス。
予定通り目立つこと無くソッと近くにおいておいた。
あとでじっくり開けていくのだろう。
そういうのも知らないけど、想像だ。
別に本人の開け方とか知らないもん。
ロシナンテだって知らないって言ってた。
「カンパーイ」
お酒もかなり入ってきて酔っ払い増量中。
ロシナンテもいつもより遠慮なく飲んでいる。
本人的にハメを外しているようで。
ローも既に前からお酒を飲んでいるので、飲み慣れた様子でお酒を飲んでいる。
囲まれている姿は船長だ。
もうすっかり海賊だった。
何故まだ動かないのかは知らないけど。
なにか頭の中に計画書でも作成されていると予測する。
カンだが。
少しずつフラフラになっていく大人達。
介抱は嫌なので自室に戻った。
あれは服を盛大に汚されて二度とやりたかない。
私室にて本を熟読しているとドアが開く。
年々遠慮無い空け方になっている。
ここは乙女の部屋ということを君は忘れているのかな?
「入るぞ」
今更遅っ。
既に扉を過ぎてるよ。
入るぞと来たのはローだった。
宴の主役がここに来てどうしたのだ。
彼らは主役無しでもう飲んで、気にしないのだろうね。
気付いてない人すら居ないかも。
「どうしたの?皆ローくんを待ってるんじゃない?」
「ただの飲酒だろ、もうあれは」
確かに。
いつもよりランク高い酒とかあるから、余計に楽しいだろう。
「座るぞ」
側にある椅子に座る。
慣れたようで、慣れてない。
滅多にこの部屋に来ないもん。
逆に、ローの部屋に行くことが多い。
「どーぞどーぞ」
「旅に出るのか」
「そうだねぇ、そろそろ飛びたいなー」
スライムでふよふよするのが好きである。
想像したら楽しくなってきた。
スライムになってあとで飛び跳ねよう。
「また違うことを考えているな」
「え、すごい、よく分かったね」
「そんな顔をしてたらだれだって分かるだろ」
呆れた顔をした男は、まだ速るな、と笑みも浮かべる。
「今日は皆、浮かれてたな」
「ローくんだって嬉しかったでしょぉ」
くすくす、と笑う。
「そろそろ、その、くんって奴をやめろ」
「んー?」
大人になるとそういうの気になってくるのかな。
ローくんは昔からそう呼んでいたから、今更変更出来ないって。
苦笑。
「なんて呼んで欲しいの?」
「ロー、と」
「船長で良いんじゃない?」
「それだけは嫌だ」
いきなりわがままになった。
「じゃ、ローくんで」
「仕方ないな」
「仕方ないなって……!」
吹き出した。
「まだ行くな。命令だ」
さっき、船長と呼ぶなと言ったのに。
でも、その願いは叶えたい。
***
只今、ハートの海賊団を離れて違う島に居る。
本当はずっと居たのだ。
島に付いたらスライムにて日向ぼっこをしていたのに、いつの間にか海に落ちたらしく、何故か知らない島に流れ着いていた。
助かったのはスライムだったからだろう。
「可愛い……可愛いな」
ぷにっと揺れる体で答える。
「よしよし、これをやったのは秘密だからな」
お菓子を上げすぎては駄目だと言われているのを破ってまで、くれるお茶目な人にぷるっと震える。
「甘いから喜ぶよな」
お菓子を近づけてくるので消化する。
可愛い、と顔を緩めて体をぷにぷにする。
このぽにぽにボディーがかなり好きみたい。
ドレーク船長は。
彼は海賊らしく、海賊団を率いる人だ。
その割に、なーんか可笑しい。
特に会話。
海賊の会話というか、社会人の会話とっていうか。
「ドレークさん。この書類の確認をお願いします」
「!……ああ、やっておこう」
お菓子をあげている場面をササッと隠す。
誰か知らない無名の人だけど、可愛いと可愛がってくれている。
激甘だ。
ここに住みたくなるくらい、激甘だ。
欠点は人間に戻れないことだから居られないけど。
一番のデメリットだな。
「癒やされる」
ため息を吐きながら言うので、かなり好みっぽい。
かれこれ5日程保護されている。
肌見放さずな状態だ。
流石にちょっと苦しい。
そろそろ動きたい。
お菓子をくれたりするのは普通に歓迎。
まともに動けないのはこのまま籠の鳥になっちゃう。
「船長、船のところで見てほしい所が」
「今行く」
キリッとした顔をして執務室から退室する。
(あー!やっっと離れた!)
安堵に躯をぐぐっと伸ばす。
アメーバみたいに。
今どき珍しいのか珍しくないのか、可愛いものに目がない人なのかな。
シャンクスと同類だ。
可愛がり方の方向は少し違うけど。
「今のうちに」
窓を開けて飛行を始める。
さよなら、ドレーク船長。
多分落ち込むかもしれないけど、元気に生きて。
船から離れて島まで長い間飛行し、電話する。
ローか、ロシナンテか。
先にローに電話して今まで離れなくて電話出来なかったと述べる。
いい加減帰ってこいと言われるけど、簡単に行ける距離じゃないと思うんですよ。
ということを説明すると無言を返される。
兎に角来いというシンプルな言葉を最後に切れた。
やはり、ローの態度は隔たりがあるのでは。
「今はいかにも無人島しかないし……」
獣道しか見えず、再び飛ぶしか無い。
「ん、聞き間違え?」
微かになにか音が聞こえたが、木が揺れる音だと完結させる。
ドン、という太鼓っぽい、それに類似した音が聞こえる。
はて、ここは人類が住んでいるのか?
音の招待を無視した方が良いのか、探りに行った方が良いのか。
でも、旅ならば探検はつきもの。
気になってきて、突き止めようと足を樹海に踏み入れさせることにした。
さくさく、とスライムの手を硬化させてナイフ状にすると邪魔な草や枝を切り落とす。
もう旅を長いことしていると、こういうのが自然と出来るようになっていったのでお手の物。
ロー達が居る時は基本お留守番なので知られてないと思う。
見せる機会がない。
近付く度に音が大きくなり、他の音も増える。
これは自然ではない。
人工物の奏でるものだ。
いくつもの枝を切り落とし、進むと赤く揺れるものが見えた。
(火?……え、祭壇?)
空間に突如穴が空き、場所が現れる。
どう見ても儀式の最中ですという感じだ。
こういうときに誰かに遭遇するのは厄介だろう。
息を殺して待つ。
なんだかリーシャの胸にざわつきをもたらすような造形だ。
同じではないが嫌なことがあったという過去のなにかに共感しているみたい。
(儀式?私の身に近い事があったとか?)
頭に浮かぶものはないが、嫌な感じがする。
近寄りたくないのに、目が離せなくなるのだ。
人が集まっているのも見えて、ざわめきは聞こえない程全員話さないということに行き着く。
生きているのに立っているだけ。
なにかに注目している。
「スバラ様にお越しいただいた」
「「「おー」」」
一人の男が全員に向かって告げると集まる人たちは雄叫びのように応える。
相槌ではなく讃えているような意味合いに聞こえる。
「ニエをここに」
また太鼓がリズム良く鳴らされる。
神輿に担がれる豆粒に見えるなにか。
遠くてそれがなんなのか。
獣のお肉とかでありますよーに。
どーかヤバい儀式じゃないように、と祈る。
神輿にのせられて階段を登る。
ゆるやかに時間をかけて登っていき、平坦な上に行き着くと、そこに降ろされた。
望遠鏡が欲しい。
「スバラ様、我らからの供物です」
男と神輿を担いでいた男衆達が離れる。
「む」
供物が動いた。
「ひ、ひ」
(人身御供じゃんッ)
喉から声が漏れるが、耐えた。
酷いものを見せられようとしている。
スライム化して地面をはいずった。
「この世界、キレイなのに汚すなんて」
気色はきれいだし、命の営みは嵐さえ圧巻。
命の無駄を体現させた怠慢の極み。
供物なら、自分たちが躯を差し出せば良い。
それで終わるはずなのに、命おしさにそれはしないという奴等。
一体なにを捧げているのかと近寄り、更に近寄る。
「ポポラは失敗したのです」
独り言が聞こえる。
「近くに次元移動をしたのに、違うところに来たのです」
まるで反省文を書いているようなことを言う。
今はそんな場合じゃないような。
生贄にされてるよ。
「これ、生贄はシャベルでない」
まとめ役らしき老人がポポラ(?)っ子を小突く。
(小さい)
幼い子だ。
「ポポラのテクノロジーよりも劣化している分際で、指図されたくないです」
「テクノロジー?」
彼女の反論した言葉が何故か理解できる。
この世界にも機械とかあるけど、なんだか響きが違う。
「まだ言うか」
今度は杖を振り上げ、叩きつけようとしている。
「暴力は負けを認めるのと同意義──タイム」
──ズズッ
なにかが通り抜けた感覚に肌が泡立つ。
「?」
周りを見るけど、変わりは見当たらない。
顔を前に戻すと老人が杖を振り上げた状態で止まっていた。
「なに?」
彼女がなにをしたのかわからないが、未だ暴行を受けない。
アレは、止まっているのか?
それとも、固まっているのか。
──ドド
──ドドド
把握する余裕もなく、今度は地響き。
「来た!スバラ様だ!」
「降臨なさった」
人々が口々に興奮を乗せる。
儀式のメインらしい。
地響きの仕方からして、デカイな。
木々を盛大に揺らす様はここからでも感じる。
木が倒れる音が聞こえてくるからだ。
「ぐお」
姿を壮大に表した存在は誇示するように鳴く。
「グオオオ!」
「ゴリラー!?」
蛇でもなく、トカゲでもなく、ゴリラ。
巨大生物に生贄って、皆やることが安易過ぎるよお!
空気が声だけで震える。
「巨大生物に生贄なんて、ポポラはなんのひねりもない背景に失望します」
確かに使われすぎて擦り切れごめんなやつだけども。
二番煎じだけど。
巨大生物は祭壇を凝視して、今も固まった男を見る。
供物ならあいつだけで良くないか?
「小さい子を供物なんて、自分たちが死にたくないだけじゃない」
ボム、ボム、とスライムの型を跳ねさせて、祭壇の上にまで飛ぶ。
丁度巨大生物がなにかを唱えて讃えている民衆に気を取られている間にスライムの中に入れて、そのまま下まで落下する。
ロシナンテをアレから守った強度を持っているので下で潰れる事もない。
「?……??」
女の子が半分あいた目をキョロキョロさせる。
下に降りられたので出す。
「スライム?……!」
ポポラは暫し見ていると爛々と眼を輝かせる。
「ポポラはやっぱり間違ってなかったです」
そう述べるとぷにぷにのスライムを激しくこね始めた。
突然のお触りに驚く。
確かにスライムを見た人の反応は大体これだ。
「ポポラは!成功してたのです!なのにあの能天気はっ。そういえばあの能天気はどこいったです?」
「ぐおおお!」
「ああ!村長が!」
どよめきに見ると推定ゴリラが村長をわかづかんだ。
口に運ばれてゆく様。
──ヒュン
「やっと出番だね」
軽快な声音と共に跳躍して森から跳んできた人は、このまま空気を蹴って曲がるとゴリラの方向へ。
「はぁ!」
いつの間にかゴリラの顎の下に移動して、顎を撃ち抜く。
残像のようにゴリラが後ろに倒れる。
「スバラ様ァ!」
「アイツを捕まえろ!」
おいおい、長老を助けられたくせに。
「遅くてやってることも無駄です」
傍に居る子がボソッと言う。
「それよりも、スライム」
「!」
突然雰囲気を切り替えられて緊張する。
「やっと会えました。ポポラの目的の一つは貴方に会うこと」
「私に」
「やっぱり話しましたね。同一人物確定」
うっかり話しちゃった。
それにしてもゴリラを一方的にボコボコにしている人が気になる。
むしろ、それしか気にならない。
他の事は些末過ぎる。
ボコボコが終わったのかその人はポポラの隣に飛躍して降り立つ。
凄いバネだ。
「ちゃんと言われた通りしたでしょ?」
「ポポラは既にここにいるので、貴方のやることはもう無くなって居ました」
「え?だって、あの怪物が来たらやれって」
「ポポラを差し出した愚老を助けただけです。モナ」
この人の名前も最後のモナ、というものか。
「駄目だったかぁ」
「仇を恩にした行為です」
「そっかそっか」
深く考えてない答えだ。
「ん?あ!スライム!?もしかしてッ?」
「そうです。恐らく私達の探していた人です」
「うわぁあ!嬉しい!」
テンション高めにスライムを抱き上げ熱烈なハグをくれる。
「会いたかったよ!名前は知らない人」
「……え」
意味のわからないことを言われて眼を点にする。
「能天気は言葉が少なく、ポポラも嫌になります」
どうやら説明してくれているらしい。
ポポラの能力で移動する。
生贄の島とは違う、二人が拠点にしている一つの島に連れてこられた。
「見つけられて良かった」
モナに抱きしめられたまま、豊満な胸に埋もれる。
スライムなのでぴっちり隙間もない。
ディスタンスって必要ですよね。
「さて、見つかったのなら次の目的に以降を」
「いやいやいや!待って待って!」
説明されないまま終は酷い。
「なんです?」
「そもそも貴方達は誰、ですか?」
「私はモナ!岩族と猫族のハーフ!」
元気よく自己紹介を始めたのはモナ。
うん、絶対にこの世界の人じゃぁない。
漠然と感じる。
「プライバシーは欲しいのです。しかし、進まないのです」
ため息を吐くポポラ。
「ポポラは自分をポポラって言うから、もう知ってるんじゃない?」
モナが指摘する。
「モナは少しせっかちです。ポポラはポポラ。魔法よりもテクノロジーを専攻にする科学者です」
「ど、どうも」
「スライムでも、人にもなれるですよね。早く戻ってもらいたいです」
いきなりのバレにビビる。
「え!」
なんで、この人……。
「なにを驚くですか?」
「んー。なにか変だよ」
モナが催促を止める。
「君が人なのは私も知ってるし……私たち、前に会ってるんだよ」
「え?」
こちらの戸惑いを感じた二人は首を傾げる。
もしかして、記憶がないときの人達?
だって、忘れるような人たちじゃない。
「もしや、あの忘れるに忘れられないことを……覚えてない、ですか?」
「えっ!?」
モナがびっくりした顔で二度見してくる。
「嘘!あんなに凄かったのに!?」
「いえ、寧ろ、あの時の反動で記憶が欠如するには、条件も揃ってます」
こくり、とポポラが頷く。
「あ、もしかして、私がスライムになった時の事を知ってるんですか?」
「勿論です」
「なんたって」
話しだそうとするモナをポポラは厳しく止める。
「だめです。記憶のない人に無闇に消えた記憶を告げると、脳に負荷がかかるのです」
「でも」
「先ずは今の情報を数日かけて消化させてからです。荒治療はさらなる悪化を招きます」
ズイッとモナに迫る彼女。
「モナはこの人を危険にさせたいのですか?」
モナはぶるぶると首を横に振る。
幼女に迫られるという恐怖。
「貴方はモヤモヤするでしょうが、医学的安静を優先させてもらうのです」
くるっとこちらを見た子。
頷くしかない。
改めて家の中に案内される。
スライムではもてなせないとた言われて、人間に戻っていた。
中に入って、外見とちぐはぐな事を知った。
なんというか、まるで高級ホテルの内装で、機械がところどころに置いてある。
なにか分からないけど、凄いモノなのだろうということはしっかり本能的に分かるので、触れないたように気を付けた。
二人に座るように足されると突然テーブルの上にティーセットが出現する。
なんということか、と思ったが、驚いたが、それだけなことにも気付く。
普通、もっと飛び上がるように感情を出す気がする。
なのに、少し受け入れている。
この光景を。
それに、懐かしさを感じる。
彼女たちは私の記憶を知れる真実を知っているらしい。
「今日は見つけられたから私達ラッキーだね」
「ポポラの予測地が精確だったからなのです」
「あ、そうだったね。変な島に来ちゃったって、ポポラ落ち込んでたもんね。良かったねー」
「ポポラは天才なのですから当然のことです」
紅茶がカップに入る。
匂いをかいで、良いかおりなので頬が蕩けそう。
絶対に良い茶葉だ。
全てが洗礼されていて、テクノロジーの進化を感じる。
テクノロジーと聞かされて、不思議に思わない感覚に、きっと彼女達と親しい世界の人間なのでは?という疑問が過ぎた。
流石に記憶喪失なのに、思ったより胸に収まっている感覚があるのは、この世界で生まれたのならあり得ない。
「あはは。まさか、恩人と一緒にここへ来られるなんて嬉しいや」
モナがニコニコと笑う。
恩人って、記憶がないから他人事に聞こえるよ。
「えっと、気にしないで?」
他に言いようがない。
苦笑してみる。
「自己紹介は私もしてなかったね」
驚いたから自己紹介とかやってなかった。
「うん。ずっと知りたかったんだよお!」
テンションを高め、高揚する姿に名前を出しにくくなる。
しかし、礼儀的に名前は知っていて欲しい。
「私はリーシャと言います」
「リーシャさん!」
「正体不明だったのでデータが埋まって安心したのです」
二人と少し話して、電話番号を交換した。
***
自分の本当の記憶の欠片に近寄って、ハートの船に戻るのが楽しみになった。
自分の事を伝えられるのがこんなに嬉しいなんて。
ロシナンテだってずっと気にしていたから、喜んでもらえる筈。
スライムの躯でぷらぷらして、ハートの船に帰った。
たまに運良く通るんだよねぇ。
ラッキー!
先ずはロシナンテに報告する。
「ただいま。聞いて、私、記憶の事で分かったことがあるよ!」
足早に、早口で説明していく。
「ん?いや、おかえり……えらい興奮してるな。落ち着け落ち着け」
落ち着いてるよ私は。
「ほら、水を飲め」
足されて飲む。
二度お代わりして落ち着くことが出来た。
ロシナンテは大人だからか、こういうのが得意なのだ。
相談役にされるのが良く分かるな。
息を吐いた後、分かった出来事を順番に説明していく。
スライムが人になるということを知っていたことを言うと、ロシナンテは難しい顔をした。
「どうしてそいつらをそんなに信用する?」
と、聞かれたので、最新機器を使用してして、尚且つ、この世界にはあり得ないものだったことを言うと、ロシナンテの顔が微かに緩む。
どうやら彼も安堵したようだ。
騙されているのではないかと心配してくれたらしい。
こういう所が彼の優しさで、良く心配になるんだよなぁ。
「まァ、なんとなくは理解出来た。取り敢えず良かったな」
コクッと首を縦に振る。
「ローは多分二度と近付くなって言いそうだな」
思案している内容は私も同じ考えだった。
あまり、相談が出来なさそうだ。
なんせ、ローは考えすぎちゃう慎重派。
何処とも知れない彼女達を信用するとは思えない。
言い方が変だが、他の人に懐くペットに嫉妬する、みたいな。
そんな気迫を感じている。
「ま、折を見て言うのが良いんじゃないか?」
「うん……」
記憶に関してだけは誰彼言えないもんね。
相談と報告を終えて胸に溜まっていたものが消化され、悩みがなくなる。
記憶がなくても知り合いがこの世界に居るというのは気持ちを穏やかにさせるものだ。
ロシナンテにまた来ると述べて部屋を後にした。
廊下を進んでいると横から手を掴まれて驚く。
「え!?」
きょどりながら横を向くとローだったので力を抜く。
「やっと来たか。遅かったぞ」
「そもそも待ってたの?」
「毎回コラさんのところに行かなくてもいいだろうが」
「う。そこを突っ込まれるとは。なんか……ごめん?」
いや、まぁ相談しやすいし、変に行動を咎められたりしないからさ。
えへへ、と誤魔化し笑いを浮かべてローの様子を伺う。
やはり、眉間にシワを寄せていて、雰囲気が黒い。
「えっと、あ!そうだそうだ。ローくんにお土産があって」
取り出そうと懐を触ると、ローはおれの部屋でもらう、と部屋までグイグイ引かれる。
うん、やはり飼い主が嫉妬しているのに似ているな。
しみじみ感じた。
されるがままにつれてこられて椅子に座るよう言われる。
ちょこんと座ればローも聞く体制になっていた。
そんなに話すこともないんだけど。
困った、と頬を人差し指で触る。
「土産はこれ」
スッとペーパータオルを渡す。
暫しそれを見て横に置いた。
取り敢えず良かったというべきかな。
いつもお土産は迷うのだ。
「で?」
「ん?」
他に言えと言われ首を傾げる。
はて、なにも言うことなんてない。
なにを言えというのだろう。
「えっ、なに?」
「どんなトラブルに塗れてきたんだ」
「塗れてないけど??」
被せ気味に述べた。
まるで決まっているかのよう。
毎回毎回漫画みたいに引くわけないでしょ。
ため息を何故か吐く男。
「少し様子が可笑しい」
「可笑しくないって」
しかし、尚も可笑しいと言う。
「言え」
「いや、だからぁあ」
押し問答していると船員の声に攻防が止まる。
「あのォ。お昼の時間だって、コックが」
扉越しに伝えられてお互い立ち上がる。
追求をやめてもらえて内心ホッとした。
危なー、というかローは鋭い。
「あとでまた聞くからな」
「ないものを聞かれても……ね」
昼食を食べに移動。
ローの無言の話させるオーラが見える。
ムムッ、これは軟禁の予感。
逃げようっと。
スライムになって逃亡することに決めた。
ローはそれを既に察知していた。
説明が少しでも面倒だと女は逃亡するという性格を熟知している。
長年共に居るのだから、当然。
「逃げても無駄だ」
聞こえぬ様に小声で通知。
「お、お前も来たか」
船員が声をかけてくるので応える。
こういうのを聞くと帰ってきたな、ってじんわりしてきた。
今日はスペアリブらしく、ツヤツヤしていて美味しい。
もぐもぐと堪能して、お代わりもした。
うーん、暫く滞在したくなるがローの質問の煩わしさを考えると悩む。
別に彼を疎んでいるわけじゃなく、説明して納得してもらえる気がこれっぽっちもないのだ。
それだけだが、ローの影響力はこの船で大きいから、船員たちも私をここへ留めようとするのが、とても大変。
全員を相手取って脱出するよりも、なにも知らせず気ままに行くのがベター。
ということで、ローに隠れて飛び立つ。
──グワシ
肩に重みがあり、突然の止めに振り向く。
悪い顔を浮かべる男が居て、頬が引きつった。
飛び立つ前にどうやら察知されたらしい。
黒いオーラを纏った男が居て、逃がすまいという意思を感じる強さの握力を身に受ける。
どんどん痛みが出てきてるよ。
今にも割ってやろうという気迫に思わず人型に戻った。
スライムのままじゃ逃げられない。
はわ、と頭を取り返してガードする。
「な、なんで今回は邪魔するの」
毎回、なんだかんだと放っておいてくれるのに。
「次の島にお前がいるからここにいろ」
「なにさせる……つもり?」
「次の島はカジノの盛んな島。そこで盗むだけだ」
「いや、加担しないよ!?」
なにさせようとしてんの!?
やらないからッと拒否する。
「絶対に獲りに行ってもらう」
狩人の瞳をして画策するので、震える。
ロシナンテに言うから、と告げた。
悪事に私を使おうなんてロシナンテが一番嫌うだろう。
「そろそろやらねェと資金が集まらない」
「私は関係ないよ。てか、巻き込まないで」
幼気な女にメインをやらせようとしている、と直感が働く。
そうはさせんぞ。
「やらないってば」
ローを振り切り、ロシナンテの部屋へ直行。
扉を叩く間もなく、ロシナンテの方へ進むとローに聞かされた事をチクる。
「無理強いしてきたのか?ローが?」
「そう!そうなの!」
敬語を忘れるくらい伝えたくて、必死になる。
ローはロシナンテに弱い。
言えば言葉を聞くだろう。
頼む、聞いてくれ。
でないと、暫くこの船に帰れなくなるかも。
「ううん……ローがお前に頼むなんてよっぽどだろ」
「でも、やりたくないよ」
「そうだな。お前も嫌なんだから駄目だな」
コクッと頷く。
2時間後、ロシナンテの部屋で匿われ休憩してから部屋へ戻る。
たとえ、待ち伏せされてても断るんだからッ。
絶対に屈しないよ。
「ん?」
周りを見たけど居なかった。
気配も感じず、居た形跡もない。
ホッとした。
居たら冷戦確実だもん。
「ローくん、勝手に海賊団作った癖に」
「聞こえてるぞ」
「ぶ!」
びっくりして慌てながら振り返り、バッと構えを取る。
「わ、私は悪いことはしないから」
大声で意思表示する。
それにローは馬鹿にした様子で笑う。
「相変わらずお前は甘いな」
「私が甘いのは私は普通の人だから、だよ」
裏社会で生きてない。
ローはその気持ちを知っているはずなのだ。
「いずれお前はこちら側になる」
「?、ならないけど」
変なことを言うなあ、と疑問符になる。
「今は別に考える意味もない。忘れろ」
いや、気になるわッ。
突っ込みたくて仕方ない。
「怖いよ、なんかさ」
「そうか」
指摘しても響かない。
「もう行くから」
部屋に入るためにローの横を通る。
「おい」
「!」
呼び止められてちらりと見る。
「体調管理しとけよ」
「う、うん」
いきなり気遣われ、そう言うしかない。
なんだか落ち着かない。
遂にカジノがあるらしい島に着いた。
逃げたくてもハートの包囲網により無理だった。
こういう時、連携に阻まれて歯噛みしたい。
ため息を吐いて、ロシナンテのところへ行く為に立ち上がる。
ロシナンテになんとか説得してもらおう作戦は今のところ効き目なし。
彼もいつもと違う事に違和感と危機感を抱いていた。
「危機感を感じるの遅い」
そういうところ、天然だなー。
「入るぞ」
「へ?」
ノックなしのゼロでドアを開けた音。
こんな構わず行動をする奴なんて──。
「は!?」
「まだ着替えてないのか」
もしかして、朝からドアの前にあった、きらびやかなドレスの事を言っているのかな?
「着替えるわけ無いでしょ!こんなに嫌がってるのにやらせるなんて、見損なった」
キツめに睨む。
しかし、意に返さない男は鼻で笑う。
「見損なわれるのが怖くて、海賊なんてやってられるか」
「……く」
拳を震えさせ、耐える。
「私はしない。強制させるの?好きにすれば良い。その代わり、私は二度とここには現れない」
略奪なんてお断り。
決断に声を張る。
「じゃあ、バイバイ」
「……そうかよ」
緊張を孕む空気のまま私は部屋を出る。
そうして嫌な気分のまま、跳んで、海へ踏み外した。
──ドブ!
海の叩きつける音に頭がぼんやりした。
こぽりこぽりと息が上へ流れていく。
(あれ……私、能力者じゃないのに)
体が動かない。
いつから動かなくなったの。
(息が)
泳げる筈なのに、何故かぴくりとも動かない。
爪先さえも。
(なにか変)
たまたま海に落ちるのも色々不可思議だ。
どういうことだ。
前に落ちた事もあったが、普通に泳げたのに。
──キィ
「い。おい、おいっ」
唐突に耳に大音量が流れてくる。
「!っ、う」
ズキン、と頭痛が走る。
あれ、幻視でも見てるのかな?
居るはずのない人が眼を覗き込んでいる。
「な、で、ロシナンテさんが」
ろれつが回らなくて自分の状態に驚く。
ふう、と安心したように息を吐く男。
「もしかして、記憶が飛んでいるのか」
なら、説明しなきゃだな、と言われ立ち上がる。
ふらっ、となる足にたたらを踏む。
「私、なんで横になってたの」
独り言を呟く。
さっきまで船に居たのに、急にどこかで倒れていたなんて。
ロシナンテは苦笑して肩を支えてくれる。
近くにある段差に私を座らせると頭を撫でてきた。
「先ずは、ここはクシャ島っていう島なんだが、覚えてたか?」
首を振る。
覚えてないから戸惑ってしまう。
ローと喧嘩別れした……それとも、それは違う?
「私──痛い」
思い出そうとして、痛みが響く。
ズキズキするんだけど。
「無理するな。どうやら変な機械に繋がれてたんだとよ」
「機械……?なに、それっ」
気持ち悪さに眼を細める。
なぜ繋がれる事態に陥っているのか知りたくて、先を足す。
「ローと喧嘩別れ?いや?そんな話は聞いてないが……夢でも見せられてたのかもな」
ロシナンテは度し難いな、と苦虫の顔になる。
「取り敢えず動けるか?お前をたすけるためにあいつらも暴れてるんだ。ここから早く去らないと」
「ロシナンテさんはなんで出てきたの?顔を見られたらあの人に追われちゃう」
息切れしながら伝えると彼は苦しげな顔をして、ごめんと謝ってくる。
彼が謝るところなんてないのに。
こちらこそ、苦しくなってきそう。
なにも悪くないのに。
「分かった!ダッシュツしよう」
元気を出すように頬を緩める。
それにロシナンテは笑う。
ロシナンテには笑顔が合う。
「ロシナンテさんはやっぱりかっこいいな」
「はは。突然どうした。そんなことを言っているとローがヤキモチやくぞ」
ロシナンテこそ、なにをいっているんだろうか。
何故そこで急にヤキモチなんて言葉になるのかな。
ロシナンテと言葉を交わしつつも歩けるルートを速やかに移動していた。
彼の悪魔の実による音界。
無の状態により、誰かに見つかることなく脱出する。
こちらとしてはいつ囚われたのか全く分からたない。
それに人のまま囚われたから、人のまま眼が覚めたというわけだ。
なにが目的だったのかな。
私なんてどこにでもいる娘だ。
記憶喪失だし、得られる情報なんてものもないだろう。
やはり、首を傾げたくなる。
己ほど情報がない人間が居るのかというもの。
「よし、ここまでこればいーな」
ロシナンテは左右確認をし、養われてきたものを駆使して外へ出た。
そういうのは苦手なので大変頼りになる。
「あの、ロシナンテさん、さっきコケてたけど捻らなかった?」
変なコケ方をしていたので心配になる。
いつものことだけど。
男は冷や汗を流して気丈に振る舞う。
勿論ぴったり隣に居るので汗の具合が良く分かる。
申し訳なさとロシナンテの貧弱さにこの先、やはり海賊行為をさせるのが不安になる。
私と同じくアクシデントの場に出ないように気をつけてもらわねば。
助けられた手前、言いにくいけど。
彼の為にも言わないとね。
「お、ロー達も終わらせたようだ。へへ。やったな」
どこからか歓声が聞こえる。
いつの間にか陰謀イベントに巻き込まれていたけど、無事に終わったようだ。
私もホッとして腰が抜ける。
「おっ、と!大丈夫か!?」
「だ。だい、」
なんとか答えようとしたが、意識が薄れていく。
息も浅くなる。
気を失う、と他人事のような気持ちを最後に暗転。
──チャプ
──パタ
水音がし、意識が浮上。
薄く瞼を上げれば白があった。
「──っ」
なにか言おうとした時、掠れた音が横から聞こえた。
「リーシャ」
覗き込むはブラウンゴールド。
真剣な揺らぎが見えて、思わず言葉を失う。
「おれが誰か分かるな」
そこは医者らしく、分かるか?というところだと思うんだが。
そうじゃないと許さないみたいな質問。
流石はローだ。
「さっさと言え」
「ローくん」
「よし」
一つ満足そうに頷く。
てきぱきと触診したり質問され答えていけばローは足を組む。
「なにも覚えてないのか。おれはお前を攫ったやつから情報を既に聞き出している」
ドヤ顔でマウントを取る相手に慌てる。
なにをさせられるのかという震えまでくる。
(夢に出てきたカジノのやつ、正夢!?)
そんな馬鹿な。
狼狽するのに時間差がおき、冷や汗をたらりと背中にかく。
しかし、どうやらカジノの件に関してなにも知らないらしく、記憶が混濁しているんだなと冷静に判断される。
既に事件も終わっているのにふわふわした気持ちなのは、追いつけてないからなのだろうな。
知らぬ間に渦中に居たわけだし。
実際なにをされたのか分からなくて。
「私はなにをされたの?」
「奴等曰く、記憶の抽出だとよ」
(抽出。記憶目当て)
なんの記憶を目的にしていたのかな。
無いというのに。
「どうやら異世界人というだけで、狙ったんだ」
「異世界……私、やっぱり」
「ああ。スライムになるという特異体質だしな。確定だろ」
きっぱりと断定される。
分かっていたので、そこは別に気にしてない。
問題は異世界から来たから、という点。
異世界の文明とか、目当てだったのかな。
それとも、異世界を渡る方法か。
色々ありすぎて眠たくなってきた。
うとうとしているとローがさらりと頭を撫でた。
その仕草に内心驚く。
「珍しい、ね……ローくんが撫で撫でしてくれるなんて」
「今のお前には一番効く処方箋だ」
「うん。嬉しい」
布団を深く被せてくれるローに瞼を再び落とす。
おやすみ、と言えたかは分からない。
***
「で、どうなんだ」
「焦るな」
男達が深刻な空気に声を低くして顔を近付け合う。
人目を憚っているわけではないが、知られたくはないという気持ちと、早く知りたいという気持ちが流行っているのだ。
「早くしろ」
「待て、まだ焦るなって」
「見せろ」
触発しそうな雰囲気に一つの声が落とされる。
「もう一冊買えば良いのに」
不憫な声音で突き刺す。
それに一部の男等はウッと針を刺された声を発する。
「勿体ねェだろォ」
「待ちきれないのに、ケチるのはどうなの」
それとこれのは別なんだ、という意見も来る。
「だーっ、さっさとしろ!」
男の一人が本を取り上げてヒモを解く。
はらりと地面に落ちるヒモに買ってきた男が叫ぶ。
「雑に扱うな」
「シワになったら困る」
本にあるタイトルは【春は麗らか、グラビアNo.17】というもの。
さっきから彼らが言っているのはグラビア冊子のことだ。
回し読みするのが昔からの習慣。
グラビアに真剣に読もうとする心理は女には一生分からないと思う。
女の一人である女全員も騒ぐ男達を横目に椅子に座っている。
「船長だって気になりますよね」
船員たちが眼を付けたのはコーヒーを啜っていた船長、ロー。
男は眉根を片方上げて思案する。
「本より実物だな」
「や、そういうのではなく……」
天然なところを出されてしまい、船員達も言葉に窮する。
可哀想なことになった。
それに、こう言ってはなんだが、ローにそういう話題はミスである。
船員たちが思っているより、ローの興味はもう少し男の子っぽいところに位置している。
「ふふ。ふふ、あー、駄目、笑っちゃう」
「?」
トラファルガー・ローの不思議そうな顔で更に笑みが深くなる。
世間じゃハートの海賊団やローの話題が出始めていた。
それと同時にロシナンテの露出の危険が増えるので、どうしようと悩む一方。
「そろそろ笑うな」
ローが頬をギギっと引っ張る。
痛い、痛いよ。
頬を取り返して労る。
「船長の好みはどんな女なんだ」
そういうボーイズトークは女子を避けて欲しい。
共同生活故に難しいんだけどね。
でもね、ほら、やっぱり聞きたくはないよ。
ローは少し考えている。
え、これ私も聞かないと駄目なの?
普通に知りたくない。
知らないままで居たい。
スゥ、と立ち上がり何食わぬ顔で廊下に出る。
はー、危なかった。
耳が汚染するところだったよ。
なにをしようかと船を彷徨いていると電話が鳴り、ポポラという異世界の人からのもの。
近くの島まで来られるかとのことなので、あらかじめポポラからもらっていたコンパスを使ってスライムになり、ハングライダーみたいに空高く飛ぶ。
ロシナンテに一応行ってくることを伝えてあるので、ローに怒られることはないと、祈っている。
ポポラに言われた場所は花が一面に咲く、自然豊かな所だった。
良かった、変な島に来いって言われなくて。
最初に会った時は生贄にされていたから……さ。
気まずくなるのはもう嫌だ。
というわけで、お花畑の真ん中にちょこんとすわる。
花粉症だったら大惨事だけど、お陰様で丈夫なんです。
30分程してからポポラが来て、もう一人はどうしたのと聞くと、寝ていて起きないとうんざりした顔で述べる。
いつものことなのだろうと苦笑して、ポポラも座る。
その後、記憶はどうなのだと聞かれ、なにもないと言う。
こちらからも記憶を目的とした者に誘拐され、記憶を覗かれたかもしれないと情報を渡した。
「あの時の事が漏れたのだとしたら、可能性は高いです。あの時、この世界に残ったのは貴女だけだったのです」
「なにがあったのか、そろそろ聞きたい」
知らないまま、またなにかに誘拐されるのが怖くて。
俯く私に彼女は思案をし、ゆっくり頷く。
「異世界からの人間を狙う奴が現れたのなら、説明は早いほうがいいのです」
リーシャの顔を見て、推し量るように説明を始める子に、賢いその脳がどれ程回っているのか、なんて想像していた。
伝えてくれるような、優しい子なのだ。
わざわざ電話をして、丁寧に経過も観察してくれる。
ふわりと花の香りが鼻孔を擽る。
「始まりは、愚かな男が異世界の知恵を得ようと召喚を試みた事です」
…………
「やった!やってやったぞォ!」
男の甲高い声が耳につく。
どうやらここはどこかの建物で、真下には新しい召喚の儀式に用意られるだろう、魔術を模したものが書かれていた。
ポポラも丁度召喚と科学が混合した実験をしていたから、奇跡的に重なってしまったのかもしれない。
帰ったら実験と検証をせねば。
と、思っていたら急に躯が痺れるような感覚がした。
どうやら召喚の魔法陣になにか制約をしていたらしい。
相手の考えることを想定していなかった己が心底迂闊だった。
周りを見るとここに喚ばれたのは5人。
多くも少なくもない。
まともな魔力もない世界なのに、良く喚べたものだ。
「これで、世界を手に入れられるッ」
口から乾いた笑いが出る。
これほどの事をしておいて、願うことはそんなことか。
「ふふ、ふはは!」
「それは無理です」
高笑いする愚者に凛とした声がかかる。
「は!はァ?」
笑っている途中に真顔になる男。
狂っているな。
「魔法は汚いことなんかに使われるものじゃありません」
そのはっきりした言葉に、心惹かれた。
別にポポラは魔法がどのように使われようと興味はない。
「魔法の心理も知らぬ者は永遠に使わなくともいいですから」
そう言う女はスッと拘束を解いた。
「誘拐には罰を」
十字を切る仕草をした途端、魔法陣が輝き出す。
「なにを、やめろ!やめろォ!」
男が止めようとするがバチン!という音と共に弾かれ、男は吹き飛ぶ。
「皆様、さようなら」
女は微笑んで、物悲しげにあった。
それが最後に見た記憶。
眼を開けると家だった。
あの魔法が帰還の魔法なら、なにか対価を払った筈。
悲しげにとんだ顔を思い出した時、それはきっとなにが起こるか覚悟していたのではないかと、気になった。
気になると調べるのがポポラのサガ。
勿論、そこからはその謎と追求に熱を上げた。
召喚された世界に戻るということまでしてしまう程には。
そこで、同じ結論に至りモナという怪力の魔法を使う人間《?》と出会った。
彼女も例の女を探していたので、互いに協力関係となったが、なかなかうまくいかない日々。
この魔科学の天才と呼ばれたポポラ・クキストが。
更に熱意を燃やしテレポートの地点を設定したはいいが、下劣な人間に問答無用に捕らえられた。
コイツラは天から貰い受けた知性と声帯を所持しているにも関わらず、獣以下の畜生だ。
魔法も使えぬゴリラに遅れを取ることもないが、この畜生共に泡を吹かせようと頭の中でいくつもの拷問を羅列していた。
その時、芳しい香り──魔法の残像──を感知、のちにそれに包まれていた。
「スライム」
この魔法の香りは、帰還魔法の香りと同じ。
やっと見つけた。
神童と謳われたポポラはあんな行動をした女の事が知りたくて、聞いてみたかった。
それに、魔法の香りがとても好みだ。
「モナ、彼女は貴女のことも覚えてない。どうするのです?」
モナは恩人を助けるために異世界に渡った。
記憶がなければ助けるのは困難。
しかし、モナはニコッと笑う。
「そんなの、助けを求められるまで待つだけだよ」
このクソポジティブなところだけは少しだけ見直した。
…………
一連のポポラの回想。
最後のモナへの評価はどう感想を言うべきか。
取り敢えずお礼を言う。
助けに来てくれたのだ、彼女も。
「ポポラは己の欲求を優先したのです。例など不要」
「そう?でも、嬉しかったから」
「記憶に変化はありましたか?」
「うーん」
再び、頭の中を整理するが、そこだけぷつんと切れている。
「恐らく記憶を対価にしたのです」
「そうなんだ」
「後悔してないのです?」
「後悔……惜しいなって思うけど」
それに、魔法なら使いたい。
ロー達の役に立ちたいもん。
「なんだか、記憶を失う前より幸せなんだと思う」
過去、どんなことがあったとか、気になるけど、私自身がこれでいいと思っている。
そこに偽りも悲しさもない。
「戻りたい程の気持ちが貴方にないのなら、ポポラにすることは無いようです」
「無駄足にさせてごめんね」
「良い経験をしました。満足なのです」
彼女は頷くと立ち上がり、まだこの世界にいるので、なにかあったら連絡が可能、と言付けてから魔法で消えた。
今のが移動出来る魔法なんだー。
リーシャも立ち上がると居場所を知れる紙でローの居る船へと戻る。
船へ降り立つとローが仁王立ちしていて、びくついた。
なんでここに?
不思議に首を捻っていると彼がドスドスと音をさせ、こちらへ迫る。
その迫力に逃げ腰で一歩後ろへ足をやると、彼は顔を不快に染めた。
「どこへ行ってた」
「私の事を知ってるって人に会いに」
解決したので素直に申告する。
尚、ローが鬼の如くクワッと顔を怖くさせた。
「お前……!おれに黙ってたなッ」
「ご、ごめんって」
「なにかあったらどうする。最近巻き込まれたのに、なにを考えてるんだ」
巻き込まれたから、ローたちには知られぬようにこっそり知りたかった。
男に深く頭を下げ、知った過去を話したいと言う。
「おれの部屋に来い」
そう告げられ、頷くと後ろを付いていく。
魔法とか説明して平気だろうか、と思いながら部屋へ入り長居するので椅子へお邪魔した。
端から恥まで話し終えるとローは唇をムッとさせ、眼を閉じていた。
この世界ではお目にかかれない類の眉唾。
「お前はそれを馬鹿正直に信じるのか」
「本当の話しだって、私自身感じてるから」
それに、一部嘘があっても今となっては関係がないこと。
魔法は使えないし、スライムになるし。
「たとえ、過去の事が分かっても私はこの世界が好き。ローくん達と離れることもない」
「……分かった」
ローはこちらへ来るとギュッと抱きしめた。
「おれもコラさんもお前を手放さない」
「うん」
瞼がツンと痛い。
ロシナンテが骨折したかもしれない、と医務室に運ばれてきた。
ローは怒りを持って診察していたが、無事だったので彼はへらりと笑う。
「コラさん。あんた、一生歩くの禁止だ」
「人間としての機能をやめさせんの!?」
「あと、ついでに禁煙だ」
「人生の楽しみまで!」
ロシナンテ劇場は今日も大変賑わっている。
「ロシナンテさん、ついに骨折疑惑まで浮上したのなら、もうやめたほうが身のためじゃない?」
「下の世話なんてされたくねーよッ」
下半身を衰えさせるイコールに結びついた未来を回避しようと必死だ。
「私だってヤダけど、ロシナンテさんがドジで死ぬよりは良いかなあー」
「おれはどっちも嫌だ!」
彼は子供のように首を振る。
「きっとおれはコラさんの為に医者の子供に生まれてきたんじゃねェかと考え始めたよ」
うん、と同意する。
「おれはそんなことをされるためにお前を引き離したんじゃねェからな?やらせねーよ?」
「大丈夫。スライムってなんでも消化するって絵本で読んだ」
「より最悪になってるぞ!?」
ロシナンテは逃げ出そうとするが赤く腫れた足が邪魔をして、すってんころりんと転ける。
呻く大の大人にやれやれと医者が呆れを向けた。
「コラさん。そんなにアピールしなくても」
「ロシナンテさん。いや、ロシナンテおじーちゃんって呼ぼうか?」
「おれはまだ、若い!」
悲痛な叫びが船にこだまする。
ロシナンテを脅しつけたローは満足して船員たちに指示出しのために部屋を出た。
それに安堵して見送るロシナンテにクスッと笑う。
「あれから、どうだ?」
ロシナンテへは書き置きを残していたので、誰かからなにかを聞いたことは知っている。
それに、過去についても。
最初はなにが起こったのか言おうとしたが、ロシナンテは知る人間は最低限にしておけというので、知ってもらうのをやめた。
人の気遣いに長けた大人だよ。
「ローも受け入れてくれて、前よりこの世界に足が着いた感じ」
「良かったな」
「うん、おかげさまで」
よしよし、と頭を撫でられる。
「お前はなんだかんだと自分を犠牲にするタイプだ」
ロシナンテにだけは言われたくない。
「ローの為にドフラミンゴに殺されそうたなった人の言葉じゃない」
「は、は。痛いぞこのこの」
抉られた精神的なものを誤魔化すようにグリグリされる。
「ロシナンテさんはもっと自分を大切にしなきゃ。じゃないと次はローくんが自己犠牲に走るかもね」
「あー、そう……か?」
「保証する」
洒落になんねェ、と彼は苦々しく笑みを浮かべる。
「重いよ、ロシナンテさんが注ぐ愛は」
「愛が芽吹くのなら、嬉しいけどな」
「違う方に行きそう」
ローは愛を理解してる。
でも、一人で抱えるだろう。
「お前もなー」
既に異世界の自己犠牲を成した後。
それに、ロシナンテへの鳥籠の救出。
いや、あれは結果であって結局はロシナンテを救う為の行為だった。
自分がクッションになるという自己犠牲。
「大切だから、失いたくない。私はエゴの塊」
このきれいな世界も手放したくない。
「若人らしいじゃねェの」
ロシナンテはくく、と笑う。
ドアが不意に空いて、ローがヌッと顔を出す。
「生産性の欠片もない話をするのなら、お前はこっちに来い」
どうやら話を盗み聞きしていたよう。
「あ、ロー!んなことしたら女の子に嫌われるぞ」
盗み聞きを咎める恩人に船長はハッと鼻で笑う。
「コラさんは禁煙してから言え」
「ぬう」
押黙ることにした男を尻目にローはリーシャを引っ張る。
廊下にまで手を引く男にされるがまま。
ぱたりと目前でドアが閉まる。
「なにを手伝う?」
用があって呼ばれたと思ったまま問えば、ローは無表情でスライムになれと言う。
なぁんだ、スライム触りたかったんだ。
ムニュッとした感触が大人気。
スライムになるとすかさずわしづかまれる。
「もー、優しく掴んでよー」
「おれがそんなことするか」
遠慮なく掴まれたまま持ち運ばれた。
そのまま、太陽が降り注ぐ甲板に行き、ベポの寝ている横に座り、枕代わりにされた。
ひんやりして気持ちいいらしい。
そこにやってくるのは。
「トラファルガー!」
ユースタス・キッド。
「スライム寄越せやァ!」
「ユースタス屋、また邪魔しやがって」
青筋を浮かべたローが刀を抜く。
この戦い、昔から一歩も動かず変わらない。
その間、ベポに抱っこされている。
「アイ!?」
突然の浮遊。
下を見るとベポが幹部のキラーに襲撃され、ぷるぷるボディが飛んだみたい。
リーシャが空中にいるのを見たキッドがにやりと笑い鉄の腕をこちらに向けてくる。
これがUFOキャッチャーの商品の気持ちってやつか。
「うっし!キラー、よくやった」
「させるか」
船員達も気合が違う。
一人ちゃんと500円払ってボタン押してくださいね。
──ドムっ
跳ねて腕をかいくぐる。
「待てっ。スライム!」
ロシナンテが窓からハラハラした顔で見ていた。
「スライム、見つけたぞ」
違う声が聞こえて見てみると、ドレークの船があった。
「「ドレーク!?」」
全員思わぬ男の登場にどよめく。
「船長、近付きます」
もう誰の声かわからん。
「リーシャ、逃げろ」
全員が追ってくる。
「お前ら!全員ぶったぎってやるッ」
ローが刀を振りかぶるのが見えて──。
──スバァ!!