短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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この度、タコに相成りまして、食されそうです


食材脱出マニュアル

何が原因なのか、何がきっかけなのかは分からない。

いつの間にか自分がタコで、異世界にいたことしか知らない、理解出来なかった。

そもそもタコになったのを知ったのはタコ特有の吸盤が付いた何本もある手足を見たからだ。

タコになるなんてと悲観している暇もなく、サラッと漁師に捕獲され市場に売り出されている(今ここ)。

どうしてこんな目に、と泣いていると市場に売り出している、この店の主人が気味悪がってオリミア一人を違う場所に移動させ吊り上げた。

こんな扱いをされる言われもなく、数時間を過ぎると不意に誰かが主人に話し掛けてきた。

 

(うっ、ううっ)

 

「なんでこのタコをこんなとこに吊ってるんだ?」

 

「それが、気味の悪い事にこいつ泣いているんでさァ……ほら」

 

「んー?あ、マジだ」

 

ぼんやりとボヤける視界は、白いツナギに帽子を被った男性を写す。

えぐえぐとずっと泣いても、誰も助けてはくれない、何故ならタコだから。

こうして食材として売られている限り、自分は命の危機に晒されている訳だ。

理不尽な運命に悲しみ、泣き続けていれば男性がオリミアを買うと言い出し「人生終わった」と絶望する。

ゆらりと揺れる身体を、主人の腕から男性の腕に渡る動作を見ているのも辛くて目を閉じた。

 

「ほんとに泣いてる。アイツらに見せてみっか!きっと驚くな」

 

どうやら自分を見せびらかす為に購入したらしい。

しかも、先程数回何円の相場を何ベリーと言っていたので、自分のいた場所ではないことが判明した。

異世界の可能性なんて現実的に考えれば有り得ないが、こんな姿になってしまったのだから認めざるおえない。

これから食材として殺される運命に、残酷だと心の中でも声でも出して見るが、それが音となって彼に届くわけもなく聞こえないと飽きらめた。

主人にも聞こえなかったのだから、誰にもSOSは聞き届けてもらえないのは最初の時点で理解できた。

そう回想している間に、いきなり立ち止まった男性に前を向くと黄色い潜水艦が見えた。

始めて外の世界をマジマジと見たかもしれない。

大きな船は触ってもいないのに扉が音を立てて開く。

それに乗り込む様子を観察していると彼が向かったのは、人がたくさんいる部屋だった。

全員食事をしていて、彼はそんな事を気にせずに叫ぶ。

 

「すんげータコ買ってきちまった」

 

買うという言葉に不快になりながらも、彼は男達の言葉を受ける。

 

「いきなり入ってきてどうした」

 

「酒でも飲んできたのかシャチ」

 

「な、そ、そんなんじゃねーつの」

 

彼はシャチと言うらしい。

シャチはぶら下げた網の中にいる、タコであるオリミアを持ち上げると、自慢げにこのタコは泣くんだと言う。

そんな発言に数秒静寂が周りを包み、やがて爆笑に呑み込まれた。

 

 

 

その空気にシャチと呼ばれていた人は信じてないな、と周りの人間に向かって拳を振り上げる。

そんなことはないぞ、と思ってもいない言葉を返してくる彼等にシャチはこちらを向いて泣け、と言いながら網から出してきた。

食材にされるにせよ、見世物にされるにせよ、自由になるチャンスは今しかないと目がキラリと光り、彼の手からニュルついている身体をクルリと回して手から逃げる。

 

「あ!逃げる!」

 

「タコを逃がしてやんの!」

 

「あっはっは!やられたなーシャチー」

 

冷やかす彼等にシャチはオリミアを捕まえようと躍起になるが、こちらも生死を賭けているのだから捕まるわけにはいかない。

必死に逃げて、僅かに開けられた向こうの扉へ行くとその隙間に入り扉を閉めた。

相手が開けてしまう前に隙間に入り込み見えないようにと強く願う。

すると、壁の色と同じ色に身体が変色して保護色のようなものを発揮する。

これに驚きながらも、こういうタコもそういえばテレビで見たことがあると己の幸運に感謝した。

シャチが横を通りすぎるのを待つと、他の出口を探す為にさ迷う。

うねうねとさ迷っていると一つの部屋の扉が開いていたので遠慮なく「おじゃまします」と言いながら入る。

外に出るための何かを探していると本が多いな、と感想を抱いた。

何だか分厚い。

ベッドや机などもあって、生活感を感じさせる場所に、もしかしたら紙があるかもと思い、机によじ登る。

こういう時に人間の身体ならばこんなに苦労しないのに、と溜め息が出そうになった。

そんな苦労を身に受けつつ、机に到達して上を見下ろすとノートと羽ペンとインクの瓶があった。

この御時世に羽ペンとインクとは、オツな人もいるのだと首を傾げる。

それにしても、紙の質がいつも使っているものよりも雑というか、とても古い紙質のような気がするのは気のせいか。

そんな事を一々気にしている暇もないか、と自分を納得させて羽ペンにインクを浸して、ノートを開き名前とSOSを書く。

書き終わると、いかに羽ペンとインクが書きにくいかとよく分かる。

大きさも太さもバラバラだ。

でも、何か人間らしさを残せただけでも満足だったので良しとする。

一人で出来た事に喜んでいると後ろからガチャリという無機質な音が聞こえ、振り向くと半裸の男と目が合う。

やばい、身体が刺青だらけな人だと脳内が警告を出す。

きっとあのシャチの仲間だと危機的な状況に、本能的に男へ羽ペンを突き刺す為に飛びかかった。

 

「捕まるか~!」

 

叫びながら飛びかかると、あっさり避けられ揚げ句にはそのブヨッとした体躯をその手で鷲掴まれる。

呆気ない終わりになんで!と声に出して尚うねりながら抵抗した。

 

 

 

 

 

 

 

必死の抵抗空しく捕まった。

その事にここまでか、と肩を落としていると男性がふと机に向かって視線を投げている事に気付く。

 

「ノートに書いてある名前はお前が書いたのか」

 

どんぴしゃな答えに頭を振り肯定すると相手は思案顔を浮かべSOSの意味を尋ねるも喋れないので取られた羽ペンを指してねだると仕方ないといった風に、溜め息をつくと、渋々握らせてくれた。

ノートに上手く説明出来ないけどタコじゃなくて自分は人間だと書く。

それを見た男はノートとオリミアを見てにわかに信じられないと言う一方悪魔の実か、と問われ初めて聞いた単語に知らないとノートで答える。

しかし、男は何やら納得した様子で部屋を出た。

もしかして調理されるのかとハラハラしてジタバタと暴れるも体力の無駄に終わる。

グッタリした状態で再びあの、人がたくさんいる部屋に入った瞬間、声を上げて近寄ってくる男にまだここに居たのかと思った。

 

「そのタコ!船長、どこに居たんですか?」

 

「おれの部屋に居た。このタコはお前が関与してるのか、シャチ」

 

「さっき市場で泣くタコなんだって聞いて本当に泣いてたから買ってきたんですよ」

 

「泣くタコ……成る程な」

 

合点がいったという顔をした船長と呼ばれた男は、こっちを向いて徐に持ち上げると掲げられる。

 

「このタコは自分の事を人間だと主張してる。このノートもこいつが書いたもんだ」

 

先程持ち出してきたノートを彼等に見せる男に、男達は集まりそれを見てはオリミアを見る。

その複数の視線がとても心地悪くて目を下に逸らし、ひたすら理解してもらうのを待つ。

というか、船長とやらは解放してくれないのだろうか?

 

「掴まれてると変な感じ」

 

ぐにゃりと変形しているのに痛みがないのだ。

可笑しな感覚にモダモダしていると、やがて視線がまばらになり首を傾げ出す男達にさっさと理解してくれと訴えた。

その後は食材にならないと保証されホッとし、彼等もさすがに人間ならば食べるわけにはと躊躇したのだろう。

一件落着と思えばこの船の船長、後にトラファルガー・ローという名前が発覚した男により自由の身にされる事はなかった。

どこがどう回ったのか、彼の興味を刺激してしまったらしく。

船に乗らなければ食材にするぞと脅され身がすくむ思いで合意した。

タコという身体は便利だけれど意思疎通がノートのみというのも不便である。

それを前提に最初は、質問攻めだった時は凄く大変だった。

それから一週間、二週間と経過し、今ではこのうねる手先で最初に比べればマシな字を書くようになった。

 

 

 

この頃、厨房を主に手伝うようにもなり、幾つもあるこの手先を利用しながらたくさんの食器や料理を運ぶ事が出来てコックにも喜ばれたり、と良好な関係を築きつつある。

しかし、最初は調理されるのが怖くて近づけなかったのだが、それをペンギンという北極動物のような名前を持つ男性に打ち明けたところ、何かオリミアだと一目で分かる目印を付けてはどうだとアドバイスされいざ考えるとどれもこれもイマイチなばかり。

ペイントはすぐに剥がれそうだし、紙は取れそうだしと試行錯誤していると、彼はじゃあリボンはどうか、と提案してきたのでそれは良いと早速探してきてくれて黄色いリボンを足達の付け根、腰部分といった場所で結んでくれた。

ノートで初期に自分は女だと言っておいたお陰か、それなりに気を使ってくれたらしい。

オリミアはこれさえあれば、と恐る恐る厨房を覗き、ホールの仕事を請け負ったのを皮切りにこれは天職だと嬉しくなりそれを日課に日々勤しんでいる。

それと、何故か彼等に頼み倒されローを起こす役割も増えた。

どうやら自分ならローを怒らせないと言われどうだろうかと疑問に思いながら起こした途端に睨まれた事は忘れない。

──誰だ、怒らせないと言ったのは!

 

「敵襲だー!」

 

そうして海賊だと知った後に襲撃もあった。

ここは海賊団だと言われてとピンと来なくて、ここら辺でやっとその実感を少しした程度。

戦いの場に投じる彼らは隠れていろ、とオリミアに言いどこにだ、と困っていれば食糧庫を思い浮かべあそこなら、と向かう。

食糧に交じり隠れていれば、ツナギを着ていない、明らかに敵である男達が部屋に入ってきた。

どうやら宝石を探しているらしい。

金品の話にもう少し実感を湧かせていれば食糧を盗もうとする男達にこのままではこれらを運ばれると懸念し、こちらにやってきた一人に向かって本能でタコスミを食らわせる。

 

「うぎゃあ!」

 

「……!──どうした!?」

 

光の入らない倉庫は真っ暗で、唯一の明かりは廊下の光り。

それを利用し倒れた男にもスミをかけて目眩ましする。

目を閉じた途端に持っていた護身用の、例の羽ペン(ロー使用済み)を手に敵方の足元に回り、スネを刺す。

すると、奇声を上げて痛がる男にもう一人、と刺していく。

暗闇とスミ攻撃を受けた目が使えない男達は、何が起こっているのか理解出来ないまま部屋を出て逃げて行った。

遣りきった戦いに満足して再び箱の中に戻れば、外からガヤガヤと騒がしく声が聞こえたので終わったのかと外が見える廊下の窓を覗くと、戦闘が終わった雰囲気に安堵する。

やがて、こちらの自船に戻ってきた彼等がオリミアを見付けると船の中から黒い顔をした男二人が逃げるように出てきた事を言い、もしかしてお前か?と聞かれ頷いた。

すると、とても驚いた顔をして豪快に笑い凄いと褒められ嬉しくなる。

守られるよりも自衛出来る自分に自信が出来たような気がするし、ここに入ると楽しさを感じると改めて、ジワリと実感した。

 

 

 

 

戦ったが、暗闇だからこその有利な場所限定でしか発揮出来ないので、やはり普段は厨房を主に働く。

しかし、やはり朝のローを起こすのはとても嫌な役割だ。

睨まれるし理不尽だしとデメリットなのに、起こす事をしなければまた理不尽だしと繰り返す。

朝のシャワーを見送っていると、ローが突然お前も入るか、と聞いてくるのでブンブンと横に振り拒否。

しかし、聞いてくれないらしく風呂場に連行される。

女で人間だと説明したのに何てことだと暴れながら抜け出そうと足掻くが、無駄となりタオルを腰に巻き付けたローにシャワー完備の浴室へと連れて行かれた。

目を手で隠していると暖かいお湯が掛けられる。

 

──ボン!

 

派手な音がして恐る恐る手を退かせば、真っ赤なタコ足ではなく人間の手が見えた。

 

「え?え?え?…………ええええ!?」

 

人間の身体という久々の感覚に唖然としていると、服を着ていない事に気付き下着だけが見えた。

恐る恐る後ろを向くとシャワーを片手に固まっているローが居て、頭の中が白くなる。

 

「きゃああ!見ないで!」

 

身体を隠すように手をクロスさせ隠すが意味を持たない。

でも裸じゃなくて良かったとも同時に思う。

 

「今タオルと着替え持ってきてやるから待ってろ」

 

恥ずかしがることもなくあっさりと部屋を出るローに唖然となりながら、恥ずかしがっている自分が何とも複雑な気分になる。

タオルケットを手渡されぎこちなく体に巻き付けると久々の、人の手先が動いているという事実に嬉しくなった。

着替えも渡され、それまで脱衣所に居てくれたローに着替え終わった事を告げれば彼は先にシャワーを浴びろ、と足す。

 

「浴びたら部屋に来ておれに報告しろ。お前が終われば入る」

 

「は、はい……何だか色々とすみません……」

 

相手を半裸、ほぼ全裸と言っても同じ状態で外に居させてしまった罪悪感に謝ると彼はフフフ、と笑い颯爽と脱衣所から去った。

去り際はとてもかっこよくて、あれぞ本物の男だと不覚にも感動する。

確かにローは、オリミアをただの捕食するだけのタコではないと察したし、やはりそこは船長としての目利きがあるのだろう。

 

 

 

 

改めて人間に戻ったオリミアと、シャワーを浴び終えたローの二人で話し合う時間がやってきた。

何故か暑いからという理由で半裸なローにどこを見ればいいのか分からないと苦言を申し上げたところ、おれの顔でも見とけばいい、とイケメンのみに許された発言をしてくれた。

そういう事ではないのだ、と言っても着てくれる気配がないので、仕方なく目を瞑るという最終的な方法に菅ってみる。

しかし、今度は彼が目を閉じるな、というので困りながらも閉じたまま何故ですか、と問い返す。

すると「お前の反応が面白くてやってるのにこのままじゃ意味がない」らしい。

本当に何をサラッと爆弾発言をしてくれているのか、と飽きれ半分と羞恥心で嫌ですと拒否。

ちなみに服がなかったので、パーカーを上に着て、腰にシーツを巻いてスカートのように着こなしている。

何となく居心地が悪いが、ローの身長が高すぎる為に望む大きさの服はない。

 

「お湯に触れた時に人間に戻りましたね」

 

「そのようだな。しかし、本当に女だったな」

 

「そこは普通"人間だったんだな"って言うところだと思います」

 

人間か否かではなく、女か違うか、を疑っていたなんて。

少しショックだが、こうして元の身体に戻れた事が何よりも喜ばしい。

嬉しくて何度も手を握ったり、足を動かしたり顔の輪郭を確認したり、と常に動く。

ローはずっとこちらを見たまま目を逸らさない。

別にどこにでもいる女性だと思います、という言葉は出さないでおいて、その視線を素直に受け止める。

いきなりタコが女に変われば見たくもなるだろう。

 

「珍しい登場の仕方なのは認めますんで、その目をそろそろどこかに移して欲しいです」

 

「は?おれはただふとももの露出がねェと考えてただけだ」

 

「ははは!?はいいい!?ふとももとか!どこ見てんですか!」

 

破廉恥な発言にローの目を隠そうと彼に突進する。

手を目に向けて覆う形で迫り止めて!と心が騒ぐ。

その時、彼は最初に出会った様にあっさりと避ける事はせずに、何故か受け止めた。

でも、目は防げたので良かったと安心。

 

「お前……確か下着乾かしてる最中だったよな」

 

その言葉に頷くと、殆ど彼が胡座をかいている膝の上に乗り上げるという姿勢になっている事に気づかないまま、ローは口元をゆるりと意味ありげに上げて、手を降参のポーズにする。

その格好に疑問に思うと、彼は一言。

 

「お前が勝手に寄ってきたんだぞ」

 

と、言うのでそれが何だと言うのだ、と言えば身体がくっついているけど良いのかと言われ、そこで下着のない状態を思い出し、目を塞ぐのも忘れて飛び退く。

顔が熱くなるのを感じ太股を服で隠しながらローに改めて言う。

 

「えと、とにかく、人間になりましたので変わらず雑用をさせていただきます」

 

ローが考えるようにこちらを見詰めると、タコの方が手伝いが効率良く進められるんじゃないのかと言われ、確かにそうだけど、と自分でも思う。

せっかく人間に戻ったのだからもう暫くこの解放感を味わいたい。

それから気持ち的に落ち着いた頃を見計らってか、ローが船員達にその姿を見せに行くぞと催促され、驚くだろうなぁ、と彼等の驚愕顔を想像してみれば笑みが漏れる。

一人一人の部屋に回るという作業感にダレそうになったが、突拍子のない顔やリアクションに段々と楽しくなってきた。

足のリハビリも兼ねて部屋を訪問し、最後の部屋を回るとローの寝室に戻りベッドの端にころりと転がった。

そして、そこでこのベッドの主を思い出し慌てて起き上がりベッドから降りるとローが怪訝な顔をして何故いきなり変な行動をしたのだ、と聞いてくる。

 

「だ、だって、私、もう……人ですし……ローさんのスペースなくなりますし……それに、は、恥ずかしいです」

 

一番言いたかった事を最後に口にして赤面すると、ローがオリミアをベッドに突き返す。

不意打ちの攻撃に、ベッドの端にペタンと座ると呆然とローを見上げた。

 

「意識してんのはお前だけじゃねェよ……精々中で悶えとけ」

 

まるで全てを見透かすように笑うローは布団をバサリとかけると、一緒にベッドへと横になり布団越しから抱き締める。

ドキドキとタコの時にはしなかった急激な鼓動の早鐘に、無意識に呼吸をすると男の人の匂いが鼻孔へと漂う。

ローの匂いだと意識すると、彼が言った通り悶えてしまい目が冴えて、どうしても眠れなくて、次の日に隈を作ってしまった。

 

「フフフ……そんなにおれとお揃いにしたかったか」

 

少しイラッとした。

誰のせいだと思っているんだ、と睨み付けると彼はそんな視線を気にせずに淡々と朝食を食べている。

おにぎりを頬張る姿は可愛いのに、と何となく思う。

可愛いなんて言えば怒るから絶対に言わないが。

内心、密かに愛でていると突然船が大きく揺れ、一人だけ大袈裟に転ぶ。

 

「いった!ななな、何!!?」

 

「敵襲だな」

 

さも日常だと言わんばかりの空気に辺りを見回すと、ローがこちらに来て、そして何故かバケツを片手にオリミアの腕を掴む。

そのまま自然な動作で船長室まで行き、浴室に向かう。

一体何なんだろうと、引かれるままに進むと浴室に押し込まれ上からバケツの中をひっくり返して、かけてきた。

 

「うえぷ!」

 

鼻に水が入り、上を向いてローに文句を言おうとすると、異常な程に目線が低くなっている事に気付き、己の腕や足が吸盤に変化していた。

驚いて話せない中で、ローが早口に捲し立てる。

 

「もしかしてと思って海水をかけてみたんだが予測通り変体したな。これで見つかっても大丈夫だと思うが、気を抜くなよ」

 

それだけ言うとローはさっさと浴室から出ていき、一人状況を整理出来ていない間に残される。

 

「もしかして、私の身の保険を……?」

 

こんなに手早く、効率良く行動したのは何も出来ない女とわかっていて、同業者に危害を加えられない策を考えてくれていた末の行動だったんだ、と思い返す。

そして、胸がドキドキした。

 

(こんな風に守られたら……私でも好きになりそう……って、ダメダメ!)

 

己を叱責する。

異世界に戻れるか戻れないのか、曖昧な存在である自分がこの世界の人間に惚れてはいけない。

誰からそうと言われた訳ではないが、やはり異世界から来た身としては安易に未練を抱くのはやめといた方が良いと本能が警告するのだ。

必死に惚れちゃダメだ、と言い聞かせている間に戦闘が終わったらしく、ローがもう戻っても平気だと浴室まで伝えに来てくれた。

嬉しくも複雑な心を抱き、彼の元へと向かい、人間に戻った身体を礼儀正しく座らせ視線を投げる。

真面目な話がある、と切り出し一旦呼吸を挟む。

 

「私、この船を降りさせていただきます」

 

「理由は」

 

「いつ帰るか、帰れるか分からないのに……居候するのが申し訳なく」

 

「くだらねェ……お前はそんな難しいこと考えずにここに居とけばいいんだよ……理由がほしけりゃ」

 

与えてやると言われた。

 

(理由なんてあるわけないのに)

 

当初は食材として連れてこられた経緯があっても、今は恩人の船に乗っているのだと罪悪感が募るばかり。

理由なんて与えられても、甘んじてそれを受け入れて居続けるなんて自分には出来ない。

 

「悪縁も縁……もしお前が出て行って、そこら辺でのたれ死なれちゃ後がめんどくせェ……ごちゃごちゃ言ってねェで黙ってこの船に図太く居付いてろ」

 

「ロ、ローさぁああ~んん!!」

 

器のでかさに感動して抱きついた。

あっさり出ていく事をやめたのは、本当は出ていきたくなったからだと実感。

寂しい、一人は。

知っている人が誰も居ない世界で心の休まる人達が居る場所はどんなところだろう、と安らぎを与えてくれる。

異世界から来ても迎えてくれたハートの海賊団は、世間から嫌われていても、どんな風に思われていても、大好きな人達が居る場所。

手放したくない、居たい。

 

「帰るその日まで……よろしくお願いします!」

 

ローの手が頭に乗るのを感じ、泣きそうな顔を彼の服で隠したのはここだけの秘密だ。

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