なまじ知識なんてあるせいで厄介な男に目を付けられている。
ただ、その姿を見られたら良いなって思いながら待ち伏せしてたらたまたま相手が気を失ったんだ。
今、自分は看守が居る刑務所に来ている。
目の前には服役しているのにイケメン感が薄くならない男。
なにやら上層部が雇用を決めたのだが、ほぼ自分に関係ないというのに、押し付けられた。
「このおれを捕まえた女がそんな面してるとはな」
そんな面とはなんだ。
そもそも一般人に契約取りに行かせるなよ公務員。
目の前の男は数々の事件を起こした天才的犯行犯。
机越したが、一般人にこんな人と会わせないでほしい。
眉整ってるなこいつ、あまり現代力置いてないのに。
つか、ほんと、なんで普通のOLここに越させてんだ。
ぜーきん返して欲しい。
「もうそれ聞き飽きました。契約内容これなんでサイン書いて下さい」
なんで有給の取ったのにここに来なきゃいけないのか甚だ疑問。
「書かない」
拒否権は無いって聞いてた筈なんだけどまー良いか。
「私には関係ないんでサインの有無は違う人に聞いてください」
果てはめんどくさいもう帰る方向。
椅子から立ち上がろうとするとスッと相手の手がこちらの手を覆うように止める。
これセクハラになるな。
「お前が一緒ならやってやってもいい」
可笑しいな、頼まないといけないのは彼、ロー側の筈だ。
「いや私やらない。私仕事してるし。例え上から圧力かかっても死んでも御免だわ」
ふう、とわざと聞こえるように溜め息を吐く。
「オフィスで腐るなんてOLは働きもんだな」
皮肉盛られた。
「煩いわね。もう用が無いのなら行くわ。手を離さないと看守に言うから」
~わ、と気取っている大人を演じるのは内心小物の心臓だからだ。
OLが刑務所行くなんて勇気が普通はでないもんで、こうやって気丈に振る舞っていなければ今すぐにでも外へ飛び出したくなる。
「待てよ。取引しようぜ?」
耳元に囁く。
そういうのは刑事ドラマでやってこい。
リアルで及びじゃないよ。
あー、耳に囁かれた、あー、あー。
「取引?」
キョトン顔なのは動揺しまくってるから。
う、耳にとか毒だ。
ただでさえ、この人顔が良いからやだ。
「事件を解く度に褒美がなきゃモチベーションが続かない。なァ、そう思わないか」
同意出来ない。
この歩くフェロモンめ。
小心者だからバレないように女らしく笑う。
今日の為に買った真っ赤なルージュ。
自分がまるで魔女にでもなった気分になる。
悪い魔女、人を騙す魔女。
おあつらえ向き。
「魅力的なご褒美なんて私持ってないわよ」
ローが何を言いたいのかじわじわ分かって冷や汗がノンストップだ。
とん、と刺青の彫られた指先を丁度心臓辺りに落とす。
「いいや?お前は持ってる。おれがヨダレを垂らすようなもんを目の前に無防備にぶら下げている」
もしかして今年入ってきた外科医の新人で、真のこの世界のヒロインちゃんの事かね?
「あら?奇遇ね。貴方の言葉で思い出したのだけれど、貴方が好きそうなものを見たわ。今度連れてきて上げる」
どうやらヒロインちゃんも記憶持ちらしく、警察を嗅ぎ回っていて、知らぬ間に彼女は警察にマークをされていて、尚且つ、警戒されまくりの墓穴女である。
何故知っているのかというと、己も警察に行くが、ヒロインの姿を見かけるのだ。
まだ正式に配属されていないのに。
うろちょろしてたら仕事が出来ないダメな方と認識される。
ヒロインの名前が出たら警察署内では変人ってやつで通る。
ふふ、って思い出し笑いしている間はない。
「連れて?…………論点が擦れてるぞ」
「どこがかしら?あらあら、本当に時間切れ」
誰かここから連れ出して欲しいよー。
天才怖い。
いつハッタリがバレるかヒヤヒヤする。
天才だから気付かれてるかもしれない可能性は考えたくない。
ここに本当は来たくないけど、何故かメルアド知ってるローがどこからかメール送ってくるんだもん。
いや、内容は見た目と違って素朴だよ?
「上層部はおれを大層欲しがってるそうだな」
どうやら警察内の反応も分かりきっていてこの場に留まっているらしい。
関係ないからもうどこか行って欲しい。
「外へ出ても私に会いに来ないように」
凛とした声を心掛けておく。
たまたま出会ってキューミリアの手柄であるかのように言われているが、なんてことのない偶然の産物的出来事だった。
なんとなく立ってて、そこにどこか憔悴仕切った男がふらりと倒れて何が起こったか分からなくて唖然としている間に警察に連れていかれたロー。
それで、何故かキューミリアが捕まえた事になっていた。
巻き込まれたと言っても過言ではない。
本人が違うって言ってるのに捕まえたのは君だよってそれしか言わない。
いやだからなんで否定してるし本人が言ってるのに聞かないの。
え、なに、難聴なの?ばかなの?
って当初は思ったけど、それからちょくちょく仕事関係から圧力みたいなのがかかったりしてローと会うように言われたりした。
権力の使い方間違えてますが。
外へ出ると緊張に息苦しかったせいで上手く吸えなかった空気が存分に吸える。
──すう、はあ
はくはく、と生きている事に感動する。
ローと会うたびに蛇に絞め殺されているような錯覚を起こす。
「あ!」
──びくっ
突然声が聞こえて、反射的に振り向くと本能が無視したいなって思える人が目前に居た。
なんでこんな所にいるんだヒロイン。
ヒロインの癖に必須イベントの前から活動的なのはいただけない。
余計な事をされてイベントが変わっていたら避けれなくなるし。
にしても、間接的に知っていても直接会うのは初めてなのに指を指すとかなんなの?
大人の年齢だったから子供ではない筈。
じゃあ、良い年をした大人がこんなところで初対面のこちらを指差しているわけだ。
は、付き合ってらんない。
内心辟易として特に話しかけられたわけでもないので軽く会釈して去る。
うん、平均的な態度。
「ちょ、あ、の」
なんか呼び止められているけど無視無視。
関わると絶対イコールでローに辿り着く未来しかない。
ささっと足早にバス停に行く。
ここって地味に遠いもん。
あー、ここもう来たくないけど圧力かけてくるからやだなぁ。
あああああ帰りたい。
緊張してて吐きそうだったけど唇に引いたルージュのお陰でやらなかったようなもんだ。
──数日後
風の噂でローは取引をして牢獄から出たそうだ。
なんで分かったのか。
それは、ヒロインちゃんがぶつぶつ言いながら歩いているのを偶々偶然見かけて聞く気はなかったが独り言が大き過ぎて聞こえた。
聞こえた内容はもう外に出ているの?という小さな発言だった。
小さくても声はデカいから聞こえるんだが。
自宅へ帰り、いつものように冷蔵庫からパリパリの、イカを取り出す。
出来る女を演出しているが本当の姿なんてこんなものだ。
スルメとDVDがあれば幸せ。
ビールの缶を開けて喉に流す。
ごくん、と潤せるこの瞬間が堪らない。
DVDは鉄板のラブストーリー。
人気声優が声を当てたという作品で出ている俳優は勿論モテ顔。
やっぱりこういう男の人に憧れるな。
「やっぱり犯人はこいつだな」
シナリオ終盤、犯人がやけくそ気味に名乗り上げると、場面も盛り上がる。
それに習い飲み干したビールをテーブルに放置し食べ終わったイカもなくなる。
だが、その時、聞こえる筈がない声が聞こえて一瞬テレビから聞こえたのかと首を傾げた。
後ろに布が擦れる音がしてビクリとなる。
じっとりと背に汗が流れた。
「どうした、いつもの女王様のような態度は」
いつもの態度がバレてる。
では、今までのいらぬ苦労はなんだったのか。
ていうか、なんで部屋に居るんだ。
「あーら、レディの部屋に無断で入るなんて紳士ね」
皮肉を飛ばす。
もう女の中の女の仮面を被る必要はないが、こういう頭が良いやつと話すときはこうでもしないと素足で逃げたしたくなるし。
「フフ、部屋ではだらけてて、おれと会う時はあんなだとは、まるで女優だな」
「当たり前よ!だって貴方が勝手に捕まったのは自業自得なのに私の手柄になるだなんて本当は嫌だし、可笑しいんだものね?」
もう何を言っているのか自分でも訳が分からない。
喋ったら追い込まれる気がする。
比喩ではなくて物理的な意味で。
「出ていってくれないかしら?警察呼ぶわよ」
「出てってもここへ来た証拠は出ない」
「煩いわ。私が出ていけというのなら貴方は出ていくべきよ」
しゃらっと髪をかきあげる。
ドライヤーでなく自然乾燥をさせているからごわごわしてて手に引っ掛かる。
「おれには優秀な情報やが居るからってところだな。お前の事は最初から知ってた」
知ってて来させていたし来るのをヨシとしていたなんて何が目的なんだろうか。
「いっておくけど私、貴方の犯罪の片棒は担がないわよ。擦り付けようとしたら倍返しだから」
ローに情報を提供しているのなんて誰か知ってるもん。
ローより上手な行動を出来る切り札は持っていた。
俄然と相手を見ているとローはフフ、と楽しげに笑い人の部屋にある髪ゴムを奪い去っていく。
なんの為に使うんだ変態か、と目をすがめた。
やれやれ、今日は気持ち良く寝れそうにない。