短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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短編詰め合わせセット

「せ、船長……」

 

「なんだ?」

 

「っっ!」

 

私は今ロー船長に壁まで追い込まれているというありえない図が出来ていた。

そんな状況に船長、と恐る恐る呟くと彼が返事をする時に私の耳に吐息が掛かり私は顔が赤くなった。

 

「せせ、船長冗談はやめてください……!」

 

私は下を向きながら言った。

 

「冗談じゃねェよ」

 

「え……!」

 

私は驚いて顔を上げると視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

「……んんっ!」

 

船長に口をキスで塞がれたからだ。

 

「……はっ…んん…!」

 

驚いた私は口を少し開けた瞬間、船長の舌が私の唇を割って入って来た。

 

「……ふんんっ……っ…」

 

船長の舌は私の口内を暴れ回った。

 

「ふっ……あ」

 

船長は目を細めて私を見ながら髪に手を差し入れてきた。

 

「……んんんっ!」

 

そして更に口内をまさぐるように深くしてきた。

 

(もう、だめっ)

 

私はもう耐えられなくて身体ががくりと傾いた。

 

「フフ……腰が砕けたか?」

 

エヴァンジェリンが倒れる前に船長が身体を支えてくれたおかげで座り込む事はまぬがれた。

 

「はぁっ……ど、して……」

 

私はどうしてキスしたんですか、と聞こうとしたが上手く言えなかった。

 

「なんでキスしたか知りたいか?」

 

言いたい事を自分から尋ねてきた。

 

「……はい……」

 

そう言うと船長はエヴァンジェリンの顎を掴み上を向かせた。

 

 

「それはな」

 

「んっ」

 

船長は言葉の途中で掠めるように私に触れるだけのキスをした。

 

(なななっ……!)

 

その一瞬の動作に恥ずかしくなり口をぱくぱくと動かした。

そんな私の様子に船長は愉快そうに笑って、

 

 

「お前が欲しいからだ」

 

 

 

と甘く妖美な声で囁いた。

 

 

 

 

甘い痺れが支配する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着けおれ。

 

チャンスは今日しかねェんだ。

 

 

 

何故おれがこんな道の曲がり角に突っ立っているのか──。

 

 

それはこれから己の人生において始めての行動を起こす為だ。

 

 

 

(もうすぐだな……)

 

 

 

おれはガラにもなく心臓がばくばくしている事に緊張が増した。

 

 

 

──タッタッタ

 

 

 

(……!)

 

 

おれは目的の人物の足音が聞こえると偶然を装う準備をした。

 

 

 

「わっ!ごめんなさい!」

 

 

 

少女は曲がり角を曲がった所で少年にぶつかりそうになった事を慌てて謝った。

 

 

「いや、平気だ」

 

 

「え、ト、トラファルガーくん……?!」

 

 

「あァ、ソーサリアか」

 

 

おれは自分の苗字を呼ばれた事に嬉しさが込み上げてきたが、顔に出さなかった。

 

 

「え、えと……偶然だね!」

 

 

彼女は笑いながらおれの隣を歩き出した。

 

 

「そうだな。お前も遅刻か?」

 

 

「うん。昨日ちょと色々あってね」

 

 

おれは彼女の色々という部分を実は知っていたりする。

 

 

昨日教室でこいつが夜に星を眺める為に遅くまで起きているから明日は遅刻するかも、と友達に漏らしていたからだ。

 

 

偶然それを聞いたお陰でおれは彼女を待ち伏せできた。

 

 

おれが回想しているとソーサリアが話し掛けてきた。

 

 

「そういえばローくんと話すの初めてだよね?」

 

 

「確かにな」

 

 

おれはいつも横目でちらりと彼女を盗み見るしかなかったからな。

 

 

(おれはどこぞのヘタレか……)

 

 

おれはそう思いながら、自分の奥手だった行動を今日でおしまいにするために行動に出た。

 

 

「お前星好きか?」

 

 

「え……あ、うん……!すごく好きだよ!」

 

 

おれの突然の質問に驚きながらもしっかりと答えたこいつにふ、と笑みが漏れた。

 

 

 

「そうか、なら一緒にプラネタリウムを見に行かないか?」

 

 

「え?」

 

 

「おれの友人が余ったチケットを押し付けてきて困ってんだよ」

 

 

おれはポケットに入れておいたチケット二枚を見せた。

 

 

「どうだ?」

 

 

「う、うん!行きたい……!」

 

 

おれの言葉にすかさず答える。

 

 

おれはその言葉を聞くと口元が上がるのを感じた。

 

 

 

「決まりだな……よし、走るぞ」

 

 

「え……ちょ!」

 

 

おれ達は学校に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

曲がり角で待ち伏せなんてベタな事だってする

 

 

 

(ベタだと言われても)

 

(手に入れる為にはどんな事だってするさ)

 

 

 

 

 

title/ルネの青に溺れる鳥

 

 

 

生まれたことに幸福を

 

 

 

「じゃあ行ってきますね船長」

 

「待て」

 

「はい?」

 

「おれも行く」

 

「え…わ、わかりました」

 

ロー船長が突然そんなことをゆうものだから私は不思議に思いながらも頷いた。

 

 

 

***

 

 

 

「わぁ!ショッピングモールがたくさんありますね!」

 

「あァ」

 

エイファリルが楽しそうに首を忙しなく動かすのをおれはふっと笑いながら見る。

 

最初おれが一緒に買い物についていくと言った時のこいつの顔は面白かった。

 

好きな女と一緒にいたいのは当たり前だろ、と思いながら、でもまだこいつには言ってやらない。

 

「あっ!」

 

エイファリルが何かを見つけたらしくおれの方に振り返る。

 

「どうかしたか?」

 

「少し外で待っててもらえませんか…?」

 

エイファリルは言いずらそうに顔を傾げる。

 

「…わかった」

 

おれはその言葉に少し不機嫌になるが、仕方なく了承する。

 

 

 

***

 

 

 

「お待たせしました船長!」

 

「待ってねぇ。行くぞ」

 

「え、ちょ……!」

 

私は船長の不機嫌な様子に首を傾げる。

 

私何かしちゃったのかな……?

 

全く身に覚えがないことにエイファリルは頭を巡らせる。

 

「わっ……!」

 

考えに気を取られていた私は通行人にぶっかってしまった。

 

「なにしてる……」

 

船長が呆れたようにこちらへ歩み寄る。

 

「あはは……すみません」

 

私は苦笑いしながら手を頭の後ろへやる。

 

「あ、船長に渡したい物があるんですけど」

 

忘れないうちに、と先程買ってきた物を紙袋から取り出す。

 

「なんだ?」

 

「ふふっ、これです!」

 

私は得意げに船長の顔の前に掲げる。

 

「……指輪?」

 

「はい!指輪です!」

 

目を丸くする船長に驚かせたと、密かに喜びながら、船長の手に指輪を乗せる。

 

「誕生日おめでとうございます!」

 

「………」

 

「船長?」

 

「!……いや、ありがとな」

 

「えへへ…」

 

船長に褒められることなんて滅多にないから照れ臭い。

 

船長はしばらく指輪を見つめると指に嵌めた。

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

歩き出した船長は心なしか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

生まれたことに幸福を

 

 

(おい)

 

(なんですか?)

 

(今夜船長室に来い)

 

(?、わかりました)

 

そして夜、船長室に来た彼女は顔を赤くしてとびきりの笑顔になることだろう。

 

 

 

 

 

人魚のメランコリー

 

 

 

 

「人魚かぁ……」 

 

海を自由に泳げるなんてうらやましい。

 

エイファリルは鎖を付けられている人魚を見ながら呟く。

 

ローに無理矢理連れてこられたヒューマンオークションで彼女は悲しげに笑った。

 

「悲しいのか」

 

無表情のローが尋ねてきた。

 

「当たり前だよ」

 

エイファリルはすかさず言う。

だって人が人を売っているから。

 

人魚だって人だから。

 

そんなエイファリルにローはそうか、とそれだけ。

 

「助けたいなぁ……」

 

おそらくその願いは叶うことはないけど。

 

だってさっきから天竜人が騒いでる。

 

誰も逆らえない者達。

 

海賊よりタチが悪い。

 

リーシャは人魚に思いを馳せながら目を閉じる。

 

「この世界は変えられない」

 

私は傍観者でしかないのだから。

 

この先を知っていても何もできない弱者。

 

でも、だから全部を救いたいと思う。

 

「お前は何も考えるな」

 

まるで心を見透かしたようにローが言う。

 

「できるならしたいよ」

 

この、手が届きそうな可哀相な人魚を今すぐ助けられたら。

 

「でも、これは私の役目じゃないんだね」

 

もうすぐあの人が来てくれるから。

 

ほら、ユースタス・キッドが動いた。

 

「来た」

 

私がそう言うとローが横を向く。

 

──ガァーン!!

 

「うわぁぁ~!!」

 

凄まじい衝撃音と共に救世主は現れる。

 

「良かった」

 

エイファリルは微笑む。

 

「これからだね」

 

そして、私はそれを見届けるしかできないけど。

 

麦藁帽子は私にとって救いである。

 

「頑張って、負けないで」

 

私は願い続ける。

 

「貴方は強いから」

 

たとえこの先に、大切な人がいなくなるとしても。

 

貴方が世界の灯になることを信じています。

 

 

麦藁帽子の君へ

 

 

 

 

 

 

title/joy

 

 

 

キュイーン!

キュイーン!

 

サイレンの音が鳴り響く。

 

今日も風の如く舞い降りる。

 

「てめェ……おれのセキュリティを破りやがったな」

 

軍服に身を包む男。

 

「あらあら、少佐様がそんな言葉遣いしてはいけないですよ?」

 

「ハッ、泥棒相手に礼儀なんざするかよ」

 

「それはそれはご丁寧に」

 

 

皮肉を言い合うのはこの帝国の警察であるロー少佐とそのライバル。

 

「また随分と嘗めた真似をしてくれるなァ」

 

「こちらの台詞ですよ」

 

妖艶に笑う女。

 

不適に笑う男。

 

何度も対峙している二人は挑発し合いながら見つめる。

 

「今度こそてめェを捕まえてその面剥ぎ取ってやるよ」

 

「まぁ怖い」

 

くすくすと笑う女の顔は仮面に覆われ素顔は見えない。

 

けれど、美しい素顔だとその瞳で安易に想像できた。

 

「今時新聞をこんなに騒がせる奴なんてお前ぐらいだな」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「フッ……」

 

なんともピリピリとした空気を漂わせる二人。

 

「あ、ロー少佐!」

 

「あ?」

 

「包囲完了しました!」

 

帽子を被った部下が敬礼しながら報告する。

 

「わかった。……だとよ女怪盗──」

 

ローがそう言いながら女に顔を向けると怪盗は口を三日月のように上げた。

 

「ふふ……じゃあ私はそろそろおいたまさせていただきます」

 

その言葉と同時に出てきたのはパラグライダー。

 

 

「ちっ……そういうことか!」

 

ローが歯をギリッと鳴らす。

 

「あんまり力を入れると疲れますよ。それではまた」

 

薔薇の花びらが視界を覆い尽くし、一瞬で晴れる。

 

「逃げられたか……」

 

「探しますか?」

 

シャチが慌てたように聞いてきた。

 

しかしローは首を横に振り却下する。

 

「探しても見つからねェ。今頃は素顔晒してそこら辺を歩いてんだろ」

 

そう言い、ローは次こそは捕まえやると女怪盗を脳裏に思い浮かべながら丸い月を仰ぎ見たのだった。

 

 

宝箱には鍵を

 

 

(逃がすわけがないだろ、このおれが)

 

 

 

 

 

 

 

ファンタジーな展開

 

 

 

 

「んんっ……!」

 

少しかさついた感触に驚きながらも男は私の唇を貪るのに抵抗するが力に叶うはずもなくただ奪われるのみ。

どうしてこうなったのか、なんて私が一番聞きたいのに。

もし物語の始まりならこう説明されるだろう。

 

『魔法と人が共存する世界において──』と。

 

つまりは私は魔法使いでちゃんと魔法省という政府公認の職業なのだ。

 

人間には二種あって白魔術と黒魔術を使う魔法使いがいる。

 

人間という人種には魔法を使えない者は存在しえない。

 

もちろん魔法が苦手な者や落ちこぼれのような者もいつの時代にもいて馬鹿にされる人間がいるが少なくとも私は馬鹿になんてしないし偏見や差別なんて見苦しい真似はしない。

 

ここから本題に入るとすればつまり私は魔法使いで任務として子供を誘拐した犯人を捕まえる為に突入した建物に入り子供を救出したのはいいが犯人に不意をつかれ攻撃され避ける隙もなく衝撃に耐えようとすればどこからともなく衝撃波が犯人の攻撃を跳ね返した。

 

私も犯人も驚いて犯人が吹き飛んで気絶したのを確認し衝撃波が飛んできた方向を見れば薄暗い建物の上の方に黒いマントをはためかせている人間がいた。

 

フードでこちらを見ているが私からは顔がよく見えない。

 

 

 

「ありがとう、助かりました」

 

「フフ……構わねェ」

 

 

 

その声でようやく黒いマントが男だと知り私は「何かお礼をしたいのですが」と助けてくれた彼に言えば口元を上げ「じゃあ」と私の目の前にスタンと降り立った。

 

浮遊の魔力が高いことからかなりの実力者だとわかり内心関心していればいきなり顎をクイッと持ち上げられ理解する前に唇を塞がれ最初に戻る。

 

突然過ぎてしばらく固まっていれば唇を離され「これでいい」と男はその指で私の少し濡れた唇をなぞった。

 

「っ……!」

 

やっと頭が何をされたのか理解した時には男の姿は消えていた。

 

動揺と混乱が起きたがとりあえず今は子供を親に届けるのと犯人を警察に持っていこうと歩き出した。

 

 

 

 

シリーズなんかにさせるか

 

 

変態がいます。

いたのではなく現在進行形です。

私が来るなと言うのにベランダにジャンプしてお隣りからアクロバットな技を決めてしまう幼なじみロー。

今度あったら彼のお気に入りの帽子のふわふわな繊維を抜こう。

ブチブチと音を立てて抜いたならさぞかしストレス発散になるだろう。

そんな計画を考えていると隣からカンカンッではなくバンバン!という窓を割りかねない騒音を立てる音が聞こえた。

 

「うっさいわ!」

 

「お前風呂上がりか?」

 

「初めから飛ばすな変態が!」

 

「首筋がたまんねーな。今度シャンプー寄越せ」

 

「だが断る」

 

悪用される前提で誰が渡すかと窓をピシャリと閉める。

また騒音レベルの近所迷惑並な音が耳に響いたのでこめかみをひくつかせてしまう。

私女なのに男っぽくなるのはきっと隣の変態幼なじみのせいだと相手を呪いたくなった。

うっさいわ!ともう一度注意すると近くにあった歯ブラシを投げつけた。

しまった反動で思わず向こうに私物を渡してしまった。

悩んだ末にあれはもう諦めることにする。

どう使われるのかは深く考えないようにすると髪がまだ乾いていないと気付いてブラシを手に取った。

 

「それお前のか?」

 

「うるさぁい!」

 

いつの間にか復活していたローはベランダの窓に顔をくっつけていたのでイケフェイス(女子に何故か人気)が歪んでいた。

その破顔した顔をお前のファンに見せてやりたい。

腹に一物抱えてローの執念に呆れるとブラシで髪を梳かした。

いつまでベランダに居座るつもりなのか。イライラが積もる。

 

「髪の毛寄越せ。悪いようにはしねー」

 

「ふんっ、誰が信じんの?しかも髪の毛ってチョイスが怪しい」

 

「ただ鑑賞様に保存するだけだ」

 

背筋がゾワッ!としたのでブラシを反射的に向こうへ置いてベランダの窓を開けて新技の『ザ・地獄にオチロー』を彼に仕掛けて向こうの自宅に送り返した。

 

 

 

 

プロローグという程のものではない

 

 

 

地獄。

日常。

天秤に掛けなくてもそんなの決まっているよね。

勿論、日常を選ぶんでしょ?

ローの前に現れた女は何の脈絡も無しに口にし出した。

いつも通っているバーで良く見かけると頭の中に僅かに引っ掛かる人物。

平凡な見た目に反してどうにも中身が合わない。

ローにこうやって話しかける事が既に異質なのだ。

十年前に王族や国がガラリと変化し今も続いている平和な国、ドレスローザ。

真実を知るものはそれこそ国のトップとその幹部のみ。

ローもその幹部の一人でハートの席に座る者だ。

この国でローを知らぬ者はほぼ居ない。

何て言ったって英雄なのだから。

当時まだ青年とも付かぬ歳に一国を救う英雄達と戦い、勝ち、全てを終わらせた。

全てを理解し、その上でドフラミンゴに付いていき、この腐った世界を壊せるのならと罪悪感なんて毛程もなかった。

しかし、女を一つ見掛けたくらいで胸の中がざわざとした。

まるで、今知ったとばかりにぽっかりと穴が空いたよう。

意味が分からなかった。

もしかして自分は女を欲して渇きを感じているのかもしれない。

だとすれば火遊び感覚で女を口説けば全ては解決する。

そんな軽い気持ちで近付いた。

 

「もしかして虫の知らせがする?」

 

からかいを含んだ声音で女はローを見ずに喉を震わせる。

 

「これがそうだとしたらお前はおれを殺しに来た奴なのか?」

 

内心それはないなと笑みを浮かべた。

暗殺をする類の人間ならば見抜ける。

彼女からはド素人の範囲の気配がするから只の一般人なのは明白。

冗談を舌で転がして話題を提供するつもりで言ってみた。

 

「暗殺ね……私からはとんと縁遠い言葉。でも、貴方を消すんじゃなくて助けるって意味なら近からずも当たってるのかもね」

 

一つも女の言葉が分からなかった。

 

「胸のざわめきはきっと、そっとやちょっとではなくならない」

 

断言していた。

というか、ローが胸にざわめきを覚えたと何故分かったのかと疑問が湧く。

 

「ふふ。貴方のそんな顔。新鮮」

 

「おれの事知ってんのか?」

 

「だって周り見てみなよ。皆が貴方を見て囁いてるんだよ?」

 

確かに英雄だと人気のローは何処へ言っても待望の眼差しで見つめられる。

慣れた感覚なのに、胸のざわめきと共に不愉快さが生まれてきた。

何故不愉快?だって見られるのは慣れている。

可笑しい。

 

「戸惑ってる?当然か。本来の貴方は、自分を許せる訳ない。もう一つの未来が仮にあったとしたら、もう一人の貴方は今の貴方を見て、きっと……絶望するんだろうなあ」

 

女の言葉は支離滅裂にも等しい。

なのに、何故気持ちは引かないのか。

 

「自分が自分でないようで、気持ち悪い。だから、貴方の意識が混乱してる」

 

「なに、を」

 

デタラメ言うな。

それを言えたら良かった。

でも、出来なかった。

それをデタラメではないと心が固まっていたから。

 

「ねぇ」

 

女がカラリと笑って、仏のような顔で述べた。

 

「貴方の周りにある偽りの世界……壊してあげよっか?」

 

ルージュでもなんでもない健康な唇が酷く印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ローが酔っぱらった日、ほんの冗談で行ってみた。

催眠術をかけてもいいかと。

すると、ローはニヤリと笑いやってみろと悠々自適に足を組む。

船員という憧れから話すのなんて無理だと恥ずかしい気持ちから楽しませようと口にした。

そうだ、楽しませようとしていただけで他意は確実になかった。

 

「……あの」

 

そう言ってみたら何故か黙ったロー。

こういう冗談は好きではなかったらしいと失敗したことに慌てた。

本意ではないと口にしたのに、こちらを見たまま黙る。

グイッと手を引かれてよろけ、彼の胸元に飛び込む形となった。

離れようとすみませんと謝れば思いの外近くにめが合ったので背けた。

 

「キスとか、今の、なしでお願いします」

 

シラフであったのにそんなことを言うなんて、ローがお酒を口にしてなければ言うこともなかったのに、もう。

言い訳をして降りようとするけど、下ろしてもらえず顎を向かせられて強制的な顔合わせ。

その目に見られると赤面が止まらない。

あせあせしているのを見られたくなくて眼が潤む。

 

「催眠術っていうのは凄いな」

 

「へっ?」

 

催眠術なんて冗談の一部。

この世界で唯一かもしれないアルラウネという種族だからといってなんでも出来るわけではない。

人を操るなんて無理。

ちょっとしたからかうような感覚で申してやっぱりかかりませんでしたねと笑い飛ばす予定。

だったのに、何故ローのアーモンドにミルクを溶かした色彩の瞳にいぬかれているのか。

 

こちらはきっと見つめられている熱で頬も瞳も見れたものではない。

キスしてほしいとねだったことが気にさわったのならごめんなさいと謝る。

そもそも催眠術などかかるわけもない。

どうか冗談と笑って欲しいのだ。

しかし、それは叶う事がなかった。

笑うことなく真面目な顔を見せ、彼はソッと泣きそうな私を静かにさせた。

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