高等学校二年、情報部(新聞部とも言う)に所属。
それ以外は成績も容姿も何もかもが平凡であるコトラ。
そんな平凡女子が只今誠に僭越ながら男子に告白されている。
由々しき事態である。
「いきなりこんな事言って、困るよな……でも、本当に好きなんだ……付き合って欲しい」
「……私、えっと」
この子の名前は同じクラスだから知っている。
(でもなあ、付き合うとか、気が早いな……)
普通、デートをしてから付き合うか吟味するのが先であろう。
──ピン、ポン、パン、ポーン。
『二年──組の──コトラさん。至急生徒会室まで起こし下さい。繰り返します』
呼び出された。
しかも、魔の巣に。
「ごめん……行かなきゃ」
「あ、良いんだ。返事待ってるから」
優等生が草系だろうに頑張っておる。
「じゃあ、また、来週……」
名残惜しげな視線を背中に受けて生徒会室に急ぐ。
今度は何の呼び出しだろう。
「失礼しまーす……て、あれ?居ない……?」
豪華の一言に尽きる生徒会室にノック後入室するも、誰も言ない。
椅子には誰も座っていない。
キョロ、と見回してからソファに座ると少し息を吐く。
「はーあ。どうしよう」
「んなの決まってるだろ」
「!、え!?」
真後ろから声が聞こえてきて驚く。
いつの間にか居た相手に首が動く。
「トラファルガー会長……居たのなら言って下さいよ……」
「言わなくても言っても結果は同じ。だから言わねェ」
「天の邪鬼ですやん」
思わず突っ込む。
でも、スルーされて泣きそうになっているとローが真面目な顔をして肩に手を置いてきた。
相変わらず背が高い。
「俺以外と付き合う事は許さない」
「…………帰って良いですか?」
まさか、そんな事だけで呼びつけたのか。
冷めた目でローを見てから言うと彼は何の躊躇も無くキスしてきた。
思わず手を振り上げるが呆気なく掴まれる。
彼とは恋人でも何でもないのに何故こんな事をされる必要があるのか。
唇を押し付けられながらも彼は器用にソファへ体を押し倒してくる。
本格的に舌を捻込むと口内を懐柔し息を付く暇もない程過激に追い詰めてきた。
「!……、……っ……!……は」
タラリと唾液が口の端から落ちるのを感じてその厭らしさに恥ずかしさが襲う。
というか、この人はキスが謎に上手い。
サクランボのヘタでも使って練習しているのだろうか。
トラファルガー・ローは生徒会会長でありながらも女子のスキャンダルが絶えない人物。
スマホには百単位の女子のアドレスが入っているなんて噂もある。
簡潔に言えば、彼は女タラしなのだ。
そんな相手にどう反応すれば良いのか判断出来ないのは恋や男女のイロハ云々経験のしていないコトラだから。
だから、自分の恋愛はあまり積極的になれない。
ローが相手でも、あの告白してきた子も。
ローは身体を離すとこちらを下目に流し見てきた。
「さて、お前に告った奴を締めに行くか」
「止めて、本当に止めてっ、後生ですから」
懇願すると、誠意が感じられないと言う。
嘘っぱちにも程がある。
止めても良いと思えるくらいの報酬を得たいが為に言っているのだこの男は。
「俺との婚約…………それで手を打ってやる」
半ば強引な取引に割に合わないと嘆く。
実はコトラの両親が産んだのは自分だけでなく、歳の離れた兄弟が居るのだが、その兄が数年前に起業して少しばかり波に乗っている有望株なのだ。
その兄がトラファルガー・ローという生徒の事を知り、仲良くなれと言ってきたので無視していた。
仲良くというとかなり語弊があるが、新聞部として少し面識がある程度。
前にローを貶めようとした生徒の秘密を暴露した事があるのだが、その時に目をつけられた程度。
なんら問題はない。
なのに、何の気持ちの変化でそう思ったのかは知らないが、何故か気に入られてしまった。
貴方、利用されそうになっていますよ、とまだ言わないでいる。
ローが近寄ってくるのは兄関係でないのかと疑っているのだ。
それでも、近寄ってしまうのは己も既に惹かれ始めているからかもしれぬ。
あ、恋愛という意味ではない。
人としてのカリスマ性があるからかもしれないと考えている。
ローは人を寄せ付ける。
女も男も。
男が惹き付けられた日には心酔する程。
そんな人を見たときはドン引きしたけれど。
彼は気まぐれだ。
気まぐれに呼び出す。
でも、コトラだって暇ではない。
こんなふしだらな事をされるために来るのは嫌だ。
「あまり調子に乗らないでいただきたい」
スッと身を引き、己の気持ちを静めて口を開く。
彼は今の言葉にくっ、と笑う。
何を笑っているのだこの青二才が。
「俺が好意を向けているのに喜ばない所が面白ェと思ってな」
わざわざ口にするなんて嫌われたいと言われている様にしか感じない。
いや、寧ろそう仕向けているのか。
相手の気持ちを探ろうとジロジロ見るが、相手は飄々と口元を上げるだけでそれ以外の感情を見せようとしない。
なんだが今日は疲れたからもう行こう。
諦めてローへ背を向ける。
──ガシッ
「何!?」
突然後ろから羽交い締めを受けた。
慌てて腕を解こうとするが、ローの腕は剥がれない。
「行くな」
「離し!──は?」
足掻こうしていた口先が疑問を生む。
なんといったのだこの人は。
唖然と、真っ白になった頭。
「お前が好きなんだよ、気付けよ」
理解する前に次々と告白を詰め込まれていく。
「いい加減、俺を見ろ。俺を受け入れろ」
背中がじわじわと真夏でも無いのに熱くなった。