短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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テスター

可笑しいなと少し前から疑いをもっていたのに、きっと自分は変化を恐れたのだと思う。

自分の過ごしたこの数年がとても勿体なく感じた。

熱い物が目から溢れる。

 

「っ……う、ぐすっ」

 

思い出し笑いという言葉があるのなら思い出し泣きがあっても良いと思う。

台所で泣いているとネイビーの布が視界に入ってきてそのハンカチから手を伝い、相手の顔を見る前に目を手で拭った。

 

「ハンカチを差し出したおれの立場が無くなる。ほら、使え」

 

強く言われて渋々使う。

 

「ぐす、ありがとう、ございます……みっともない所を見せて、すみません」

 

「泣く事がみっともない訳ねェだろ」

 

「でも、彼は女々しい真似をするなって言ってました……」

 

「また“彼″かよ……好い加減居もしねー奴の言葉は忘れろ」

 

「私だって……私だって忘れたいですよお」

 

でも、忘れられないのだ。

そう言うとローはこちらの顔に手を伸ばして顎を掴み上に上げる。

こんな事をされた事が無いので戸惑いに目がさ迷う。

 

「おれと居るからには、忘れてもらう」

 

「……無茶苦茶です」

 

「それくらいが丁度良い、お前には」

 

「そうかもしれませんが……そちらがお嫌なのではないですか?こんな間抜けな私の相手をするなんて」

 

「嫌ならとっくに追い出してるし、燃えるゴミの日に転がってる」

 

「えー、それは」

 

「今のはジョークだ。本気に取る奴が居るかよ……ククク」

 

楽しげに笑う男に涙目であるが微かに笑みが自然と出た。

それに「笑えるんじゃねェか」と言われて、指摘されて初めて気付く。

 

「涙も出なくなってきた頃だ。笑うのが一番良い薬だ。だろ?」

 

そう言われてまた笑みが零れた。

 

 

 

トラファルガー・ローと出会う前、全ての元凶は終わりを告げた。

終わった瞬間に悪夢と知ったのだけれど。

リーシャには一人の幼なじみが居て、その相手は男で、まるでドラマのようにその男が好きで一途に思っていた。

彼がリーシャに一緒に住んでご飯を作って欲しい、食べたい等と言うから喜んでついて行き、みすみすと世話をした。

喜んで腹を見せる犬みたいに、さぞチョロく見えた事だろう。

今となっては分かるけれど、当時は恋は盲目も良い所で、甘んじて家事をやっていた。

その転機が起きたのはいつものように彼の部屋の鍵を差し込み玄関を開けた瞬間から始まり、見慣れない真っ赤なパンプスを見た瞬間。

誰か人が居るのだと、普通は思うが、馬鹿みたいにもしかしてこの靴はリーシャの為に買ってきてくれたのだと思うと嬉しくなって部屋へ向かい彼の寝室に向かうとシーツに沈む彼と知らない女。

頭が真っ白になって、兎に角彼に理由を聞こうと動揺しつつも揺り起こせば、彼は目を開けて眠そうに起きる。

隣に居る人は誰だとカラカラになる喉に、声音を絞り出す。

行きずりの女だとか、昨日の記憶が無いだとか、そう言ってくれさえしたら一回程度の過ちは許そうなんて思った。

ところが、悪びれもなく聞こえたのは付き合っている女。

そんな訳がない、だって、貴方は私と付き合っているんだよね、と聞くと彼は怪訝に眉を寄せて「はァ?」と言う。

 

『いつお前と付き合ったんだよ』

 

『一緒に住んで、って、言ってくれたよね?それって、同棲でしょう?』

 

その会話を最後にいつの間にか部屋でない所にぼんやりと立ち尽くしていた。

きっと気が動転してしまい適当に足が動いてしまったのだと思う。

相変わらず自分は想定外の事が起こると記憶が飛ぶ体質らしい。

いざという時に限って駄目になる。

ローの家に置いてもらっているのはもうあの家に帰れないからだ。

初めはビジネスホテルだとか漫画喫茶とか、そこで寝泊まりしようと決めていたがローが強引に強引を重ね取り付けられたのですまないという気持ちを抱いて泊まらせてもらっていた。

 

「お前に似合う香水がある。テスターやれよ」

 

ローは色々多趣味な人で何でも手に職を持っていた。

本職はアロマセラピーの方だと本人は豪語している。

確かにローと会う時はいつも良い匂いがしていたし羨ましい気持ちになった。

この家に来てからはやはり良い香りが絶えず鼻を癒していた。

 

「ふう。すみません。落ち着きました。泣いてしまって」

 

殆ど他人に等しいのに。

恥ずかしくなる。

無理矢理取り付けたのに優しさがかいまみえて苦しくなる。

でも、それを好意的に受け取ってしまう己もチョロくて嫌だ。

人間とは嫌なものだ。

こういう所が、嫌悪する。

でも、今の生活を崩したくないから何も感じていないフリをする。

 

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