短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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セカンドノワール02【完結】

ローの反応は明らかに納得していなかったが、知らないフリをしているが吉だ。

 

納得しまいがこちらには関係がない。

 

今の自分も前世の自分も結局は全て一人の人間である。

 

そう脳内完結させると彼にもう自室に戻っても良いかと聞く。

 

「もう少しくらい付き合えよ」

 

そう言うローの手にはいつの間にか酒のボトルがあってマズイと焦る。

 

「最近、お酒を受け付けなくなりまして、飲めないんです」

 

冷や汗をかきながら告げるとローはポカンとした顔になり、珍しい表情にこちらも間の抜けた顔になる。

 

「もしかしてお前、妊娠したのか」

 

「え"」

 

突拍子もない疑問に濁った声を上げた。

 

「いやいやいや!あり得ません!!に、ににに、妊娠って!?」

 

「最近のお前は母性に目覚めたかの様に変貌してるが?」

 

「!」

 

(年食ってるとか言いたいの!?このっ、言わせておけばっ)

 

何気ない言葉なのだろうがまだ若い身体を有している自分に対して、あんまりな言いように奥歯を噛み締めるが、ここは癇癪を起こすべきではないと冷静になる。

 

「じ、自分の生きざまを振り返った結果の今を私は生きようと決めただけですっ。母性とか、まだ私はそんな年増じゃありません」

 

必死に弁解し、ローに注意すると相手は顔をポカンとさせて、くつりと笑うとソファに座り隣を叩く。

 

「悪かった。にしても今の生きざまを振り返った話には興味が出た。詳しく話してもらおうか」

 

「っ、それは」

 

酌も兼ねてな、と付け加えられ断る暇もなく再度座るように足され、已む無く腰をそこへ落ち着かせる。

 

そっと慣れた手付きで腰に腕を回され、隣同士の身体が近くなって、驚きにより離れようと腰を引くが負けてしまう。

 

相手の吐息が頭上に当たり、赤面してしまうとローはまた笑みを携え、酒瓶とコップを近くに寄せて早く入れろと言ってくる。

 

震える指先のまま酒の入った瓶を掴むと、掴まれているコップに並々と注ぐ。

 

「えれェ注ぐ事も下手になったみてーだな」

 

フフフと笑う声にギュッと瓶を握る。

 

完璧に遊ばれていると思いながら、転生する前のリーシャにはこんな風に、からかう行為など全くしなかった彼の変化にも戸惑っていた。

 

普通の町に居る、たまたま相性の良かった娼婦をこんな感じに、意地悪を仕掛ける心情など読める訳もなく、相手のこちらを知りもしない羞恥心で弄ばれていることに悔しく思う。

 

前の自分は高飛車で我儘で偏った偏見持ちな、そこそこな悪女だった自覚と、それは生きるための処世術だという割りきりもあった事も、ちゃんと理解していた。

 

だから命を掛けてまで、この海賊という命の保証がない船に乗り、危険を犯してまで欲の発散相手として乗船したのだ。

 

弱い人間は強い人間の下に付くという生きる為の方程式に従っただけ。

 

それを、今の自分が責める事も出来ない虚しさも自ずと出てくる。

 

「お酒、あんまり飲み過ぎないようにしてくださいね」

 

「おれに命令するなと」

 

「彼らが貴方を失う事が、とても困るので」

 

「…………何が困る」

 

眉間に皺を寄せて不快感を抱く表情が不可解に変わり、クスッと笑う。

 

「大泣きして誰の手にも終えなくなるから困るんです」

 

そう述べるとローは暫し無言になり下を向く。

 

その顔は考え事で一杯といった感じで、リーシャは待っているしかなかった。

 

「お前は…………変わった奴だな。そんな甘い考えの女なんて初めてだ」

 

考えた末に出てきたのだったら結構ショックな答えだ。

 

でも基本<日本人>思考な回答なのだからこの世界には存在しない甘さなのだと思う。

 

そう一人で解決させていると顔に、彼の顔が近くなっている事に気付き無意識に仰け反る。

 

こちらの反応に顔をしかめて、もしかしてキスも無理なのかと問われ、何度も首を縦に振るとグッと眉間が更に上がり不機嫌になったことを示された。

 

そんなことを空気で言われてもオッケーなんて訳にはいかないと、こちらも仰け反り、挙げ句の果てには押し倒されるような体勢になってしまう。

 

アワアワとその状態に焦る暇はなく、あっさりと手首を掴まれ、身体を身動き出来ないように押さえ込まれる。

 

「よく分からねェが、今凄くお前に触れたくなった」

 

「わ、分からないならっ、何もしない方がいいんじゃ、ん!」

 

相手に口答えしたからか、唇を彼に奪われた。

 

啄むように離れないかさつく感触にそれが何か分からない程子供でもない。

 

そんな自身の物分かりの良さに恨めしく思い、段々と深くなる口付けに脳が次第にふやけてきた。

 

ついに深いキスへとステップアップされ抗うことも出来なくなるような性急な行為が長い間に続く。

 

息の仕方も忘れてしまったリーシャはもう無理だと男の胸を軽く押すと、名残惜しげに離され、その時に厭らしく光る唾液に沸々と恥ずかしさが襲ってくる。

 

「まるで経験のない女みてェだぜ?」

 

もの欲しげに光る眼と、スルリと撫でられる頬に「はあっ」と熱い息が出る。

 

それに満足げに笑うローは背中に腕を入れそっと抱き起こしてくれるので、こちらが意外だと呆気に感じた。

 

「約束、ちゃんと覚えていてくれたんですね…………既にアウトですけど」

 

嫌味でキスについてと、その先へ行く気のない事を述べると、ローはその色っぽい口元から舌をぺろっと出し、唇を見せ付ける様に舐める。

 

「キス一つでこんな反応するんだ。簡単にするなんて勿体ねェ真似するかよ」

 

「夜の相手は貴方だろうとしません。頼むのはあの子だけにして下さい…………約束しましたよね?」

 

まるでいつかはするというカミングアウトに顔を引き吊らせながら問えば、彼は俺は海賊だという、イエスかノーかも分からない事を言い出す。

 

「!!、もし致すというのなら私は迷わずこの海に飛び込みます!」

 

「くくく、そう死に急ぐな。別に今直ぐ…………いや、約束してやるよ…………しねェってな」

 

「…………それは良かったです」

 

「おいおい、絶対信じてねーな」

 

先程から疑いの目を突き刺しているのに相手はずっと楽しそうに笑みを浮かべているだけで益々疑わしくなる。

 

「喰わねェよ」

 

「ひゃい!?」

 

と口にしつつリーシャのお尻を触ってくるローに奇声を上げると男はくくく、と笑い声を噛み殺していた。

 

イラッとして、ドンッと肩を叩くが大したダメージにもなっていない攻撃に、またもやからかう様な笑い声を響かせるだけ。

 

「前はこんな事しなかったのにっ」

 

小さく悪態をつく。

 

「もう夜だ、キスもろくに出来ねェ奴は早く寝ろよ」

 

「っ~!隈を生産してる人も寝る時間なんじゃないですかっ」

 

ついつい馬鹿にされて言い返すとローは怒る事なく口角をクイッと上げた。

 

 

 

朝、朝食をベポと取っているとシャチが何故かリーシャに質問してきた。

 

「なんか朝から船長が起きてんだけど何か知ってるか?」

 

噂好きのシャチが気になる(物珍しさ)お相手はハートの海賊団船長、トラファルガー・ロー。

 

彼が朝からコーヒーを啜る等珍しい出来事で、普段は昼まで夢を見て睡眠を貪っている、不健全な生活を送る事を熟知しているが故の疑問だろう。

 

かく言うリーシャも乗船してからローが朝から居るという光景は初めて見た。

 

なのでこちらが、何故夜型な筈の彼が朝に出没しているのかと聞きたい。

 

(私が昨日早く寝たら……とか言ったから?ま、まさか……だよね)

 

冷や汗の出る覚えのある記憶に信じられないと思い直す。

 

そもそも彼は命令されるのが嫌いだ。

 

リーシャ一人の悪態に左右されるとは考え難い。

 

すると、コソコソ言い合っていたシャチが突然「あ"」と言い、そそくさと自分の座っていた席に戻る。

 

どうしたのかとシャチの行動を目で追っていると、不意に目の前に人影ができ、ベポがキャプテン、と発した。

 

「!……お、おはようございます」

 

目の前に音を立てて座ったのはロー本人で、シャチが逃げるように去っていった理由をやっと悟り、一人にしないで欲しかったと内心嘆く。

 

一応まだ朝の挨拶をしていなかったので口にすると男は口元をニヤリと動かした。

 

こちらはビクビクとしているのに余裕のある態度でいられるのは少々辛い。

 

そこで緩和材となってくれるのがベポで、この船で唯一癒しとなるベポさえ近くに居れば、この人と喋る必要は自動的に無くなる。

 

「キャプテンがわざわざここに座るなんて珍しいな」

 

「面白いもんが目に入ったからな」

 

徐にリーシャへと視線を移動させるローにビクつけば、ゆるりと上機嫌に唇が上がる。

 

人を怯えさせて何が面白いんだか、と内心毒づいていれば扉が開く音が聞こえ甲高く、あの耳障りなソプラノ声がつんざく。

 

「あ!ローさんっ、今日はとても早いのねっ」

 

キャッキャとはしゃぐ様子に、朝からよくそんなテンション高く出来る、と呆れる。

 

「お、ナンシー!お前も早いな」

 

「シャチおはよー!昨日は久々に夜誰も来なくてゆっくり眠れたの!」

 

誰に自慢しているのか安易に分かる視線で、勝ち誇った目を向けてくるナンシーにアホらしい構ってられるか、と思いながら手元にあるマグカップを飲む。

 

すると悔しかったのか、更に捲し立てる女に鬱陶しくなる。

 

あと一週間でこの生活が終わるのだから我慢だと言い聞かせ、この後甲板の掃除だと二人に告げ席を立った。

 

甲板に行くと既に当番の船員達がいて、遅くなった事を詫びたが、快く許してくれて嬉しくなる。

 

海賊にしては良い人間がたくさんいるし、寧ろ前世は海軍だったのかもしれないと勘ぐってしまうような人柄の男達に勿体ないと日頃常々感じていた。

 

船長に惚れてこの船に乗った者が集まるハートの海賊団には噂がとてもあり、それは残忍という目の前の光景には似ても似つかないもの。

 

「皆、本当にカッコイイですよね」

 

「へ!?いきなり何言い出すんだっ」

 

「そそそそーだぞ!てかハズイ!」

 

ぽそりと呟いた言葉にこれでもかと大袈裟に返してくる彼らに次は「可愛い」と言えば、また大袈裟な言葉を返され頬が緩む。

 

この船は本当に素敵な人達が集まっていて楽しいと思ってしまう。

 

そう感じてしまえば船を下船する事を寂しく思う。

 

だがもう揺らいではいけない。

 

ただこの世界の陸に骨を埋めようという覚悟で生きていく事だけが自分に課せられた最大の願いだから。

 

「この船に半年間以上乗れて幸せでした」

 

感傷的になり溢せば、彼らは赤くさせていた頬を真顔に戻し困ったように笑っていた。

 

そんな顔にさせるつもりはなくて慌ててごめんなさいと謝ると「いや」と気遣われ、話題を変えようと、朝からローさんが起きているという珍事件を出せば船員達は直ぐに食いつき、眠そうなローを見られたと夢見心地で語り出した。

 

 

 

 

 

見張りから島が見えたと聞こえたのが二時間前で、その前に荷造りとローに最後の挨拶をしに言った。

 

その際に最後だからと迫られたが四苦八苦しながらも抜け出した。

 

それに一番スタミナを持っていかれたのは言うまでもない。

 

ゼェゼェと息を整えていると、近くにナンシーが通りフイッと顔を背けて通り過ぎたが、敢えてこちらも餞別に話しかける等と馬鹿馬鹿しい行為はしなかった。

 

構うだけ無駄な事だと本能で理解している。

 

シャチもベポも涙を流し別れを惜しんでくれて暖かいものが胸を通った。

 

たった半年だが自分の為に泣いてくれる人がいるというのは何ともむず痒くて幸せな事だ。

 

前の前世には伴侶がいたが、もう顔も全く覚えていない。

 

 

 

(ついにお別れ)

 

 

 

降りた梯子の上を見上げれば見張りを始めとし、ローとナンシー以外がいて大所帯で見送りをしてくれていた。

 

手を振ると名前を叫ぶベポに少し涙ぐむ。

 

いけないと前を向き後ろを見ないように歩き出す。

 

今まで貯めたお金もあるし、生きていけると言い聞かせる。

 

リーシャはもう、脇役として生きることこそが楽な道だと拳を握りしめた。

 

それから先ず物件を紹介してもらえる店に行き、丁度手頃な、一人が余裕で住める一軒家が見つかりそこへ荷物を置く。

 

その近くにある服屋で派手な服とおさらばし、新しいズボンやお洒落な上着を購入した。

 

 

 

「……と、早々に皆と再会しちゃった」

 

 

 

目の前にハートの海賊団のクルーが歩いてきてベンチに座っていたリーシャを見つけ、普通に久しぶりだと挨拶してきた。

 

ペンギンとシャチは酒場にいて、ベポとその他の船員は買い出し組なのだと言われそう、とだけ言う。

 

するとベポが隣に座ってきてもう一度船に乗らないかと聞いてくるので苦笑。

 

乗らないときっぱり断ればズーンと落ち込んだので背中を擦る。

 

そうしていれば突然彼がじゃあせめて酒場に顔を出して欲しいと手を引くので、離してもらえない雰囲気に仕方なく付いて行った。

 

酒場に着くと船員達はボディの綺麗な女性達を侍らせて鼻を伸ばしていたので、やはりここは女性の自分が居るべき場所ではないと察する。

 

船員の目がまだこちらを見ていない内に出ていこうと、ベポに帰ると早口に述べ扉へ向かう。

 

すると運悪く扉が先に、前触れもなく開きローと面を合わせてしまった。

 

鉢合わせしたところで、気まずくて俯きながら「こんばんわ」とだけ言い捨てる。

 

 

 

「長い間一緒の船にいたのに連れねーな」

 

 

 

言葉とは裏腹に腕を掴まれグイグイと引かれる。

 

何をするんだという目を向けると、ローはニヤッと口元を上げていて、嫌な予感を感じた。

 

 

 

「まだ夜は長い……そう急ぐ事もないだろ?」

 

 

 

まるで遊ばれているとしか思えない言葉の選び方に胸がカッと熱くなり、怒りを感じた。

 

ときめきとは程遠い感情なのに、何故か冷静な自分もいることに自分自身で驚く。

 

馬鹿にされているのか、はたまた、本当に本心での声なのか。

 

 

 

 

 

結局、酒場でローに会って腕を捕まれた後は彼の手を振り払って脇目も振らず走った。

 

家に着いてベッドに勢い良くダイブすると鼻から唸り声が漏れる。

 

「はぁーっ……あ"あ"~!もう!完全にトラファルガーさんのペースに呑まれてる」

 

先程のローの言葉を思い出してみれば怒る程の事でもないと思い直す。

 

一体自分は何に対して怒っていたのか自分が分からない。

 

もう他人なのに、こうも弄ばれるのがどうしようもなく腹立たしくも、少しだけ嬉しいような……。

 

こっちもあっちも簡単には割り切っていないところがあって気まずいが、他人のフリをされるのも嫌なのでマシなのかもしれない。

 

一旦頭の中を整理してみようと取り敢えず寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝早く起きるとキッチンへ向かう。

 

眠気の抜けない目元を何度もしばたかせながら先日購入しておいた牛乳を飲む為に冷蔵庫を開ける。

 

牛乳瓶しかなかったのでお風呂上がりを彷彿とさせる。

 

ガチャンと音を立てて取り出し、瓶の蓋を開けて飲んだ。

 

「牛乳は臭くて飲めないんじゃなかったか?」

 

「っっ…………!!!」

 

(は!?)

 

騒然と後ろを振り返ると、何食わぬ顔でローが居間のテーブルに座っていた。

 

カウンターを挟んでいたので見えなかった事もあるが、居るはずのない男の姿に目を疑う。

 

何で居るんだこの人、と怪訝に見ていればまた牛乳の事を指摘してくる。

 

何だかしつこい気がするが、この際誤魔化す事にした。

 

「味覚は大人になっても変わるんです。それに、ここの牛乳は取れたてで美味しいですから。それより、不法進入ですよ」

 

「飯を作れ。腹が減った」

 

(話聞いてない。この人こんなに唯我独尊だったっけ?)

 

腹が減ったなら船の専属コックにでも用意してもらえばいいのに。

 

可笑しな事を言うローに固まっていれば彼はまた作れと言う。

 

作れば帰ってくれるのかと聞くと「保証はしないがな」と言われた。

 

この人は、こんなに人を困らせる性格をしていただろうか。

 

いや、少なくとも記憶の蘇る前のローは人に命令されて何かをするタイプではなかったし、彼もわざわざ動かし難い自分をこき使う事なんてしなかった。

 

 

 

 

 

それから、トラファルガー・ローは毎日毎日この家に来てご飯を食べたり寛いだりした。

 

まるで自宅のように半分住み着くようになって、彼はお酒を持ってきたり食べ物を持ってきたり、宝石ですら持ってくる。

 

だから、宝石は外側の扉のノブに袋へ入れて引っ掛けておいた。

 

「おい」

 

「はい?」

 

 

 

ローがその袋を手に持ち入ってきた。

 

彼はご立腹な様子でこれはどういうつもりだと聞いてきたので答える。

 

「不要な物は持ってこないで下さい。お酒や食べ物は分けられますから範囲内ですが、明らかに範囲外の物は困ります。でも捨てるのも忍びないのでトラファルガーさんに引き取ってもらおうと引っ掛けてみました」

 

そう告げると彼は口をぽかんと開けて立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

その次の日、ローが来るよりも早くに訪問者が来た。

 

玄関に向かうとどう見ても穏やかではない気配に窓へ移動し、こっそり扉の場所を見ると、なんとナンシーが立っているではないか。

 

「はぁああ……」

 

窓から顔を離して溜め息をつく。

 

またドンドンと先程よりも強めに叩かれた音に近所迷惑だな、と心底疲れる。

 

まるでリーシャが何か悪いことをしているような態度でやってきた彼女には到底関わりたくない。

 

よし、と決めた。

 

(居留守をやろう!)

 

初めての試みに、罪悪感よりも胸躍る高揚感を感じた。

 

子供の頃に感じた、貰ったお菓子を開ける瞬間に似ているような気がする。

 

(ヤバい、居留守とかやってることは駄目な事なのにちょっと楽しい)

 

別に嫌いだからというより出るのが面倒だし、対応するのも面倒そうだから居留守を使っているだけだ。

 

というか、ここにローが来なくなれば良いのではないか。

 

それかせめて今、タイミング良く来て欲しいと願った。

 

 

 

ナンシーに帰れと念じていれば真後ろからローが遣ってくるのが窓越しから見えた。

 

(目が合うとか!気配とかなの?)

 

凄く狭い視野で見つからないように見ていたのにあっさりと窓へ顔を向けたローと目が合う。

 

驚いているとローに呼ばれたナンシーが体をビクつかせて後ろを向く。

 

そして、二、三言葉を交わすと逃げるように去っていく女。

 

脅威が去った事に安堵していると青白いサークルがボワワンと身体をすり抜け、気付いた時には家の中にローが居た。

 

「ナンシーさんをどうにかして下さいよ」

 

「俺がそこまでする義理はねェ」

 

(えー、何それ)

 

「でも、これはトラファルガーさんの船に乗っている子の問題ですから。貴方は船長ですよね?」

 

あまりの理不尽さに抗議を兼ねて異を唱える。

 

しかし、彼はこちらの言葉に鼻で笑う。

 

「まァ言うくらいはやってやる」

 

そう言われて安堵する。

 

海賊の言う言葉を完全に信じるのもいかがなもなのかと思うが。

 

ローはソファに座ると「何か作れ」と言ってきた。

 

その命令する姿に溜息を付く。

 

首を振ったって帰る事もないだろうし、そこから動く事もなさそうだ。

 

俺様な船長なのに、どうして反抗するリーシャの所に来るのか分からない。

 

ローのリクエスト通りに、適当に冷蔵庫に入れている簡易な素材を煮込んだ食べ物を食卓に並べ立てた。

 

最後に白いご飯を盛ってから上に置くと出来ました、と声を掛ける。

 

彼は無言で席に付いてフォークを手に取った。

 

好きな食べ物はないのでしょうか、と尋ねてみる。

 

「焼き魚だ」

 

「これはどうですか?」

 

食卓に並べた梅干しを指で示す。

 

「嫌いだ。近くに動かすなよ」

 

「そ、そこまで、ですか……?」

 

嫌そうな顔をしている。

 

とてつもなく嫌っているのがありありと伝わってきた。

 

「ふふふ、何だか可愛い……あ、いやいや、好き嫌いがあっても良いと思いますよ、はい」

 

「……………………………………」

 

「すすすみません!」

 

「別に気にしてねェ」

 

(根に持たれそう)

 

失態をやらかしたなぁ、と内心苦笑。

 

そうして雑談をしたりと、一日を終えた。

 

 

 

その日の夕方、ローに強制的に連行された酒場にて。

 

女性の居るような夜の酒場で、シャチやペンギン達も勿論居た。

 

彼等には既にお酒が入っているらしく、こちらに絡んでくる。

 

「お前、何か、貫禄を感じるんだよなああああ~」

 

「は、はあ」

 

呆れて空気の抜けた適当な返事を返す。

 

貫禄はイコール歳の事かな、と予想。

 

それか、性格の話しなのか。

 

シャチはベロンベロンの状態で続けて話す。

 

「マジで、俺の故郷の一番歳取った婆さんの空気に激似でよ……ぶっへええ!」

 

「シャチ、酔い過ぎだ」

 

隣でシャチを叩いたペンギン。

 

シャチの代わりに「すまない」と謝ってくる彼に気にしないで、と手を振る。

 

そこで不意に、隣にいるローの隣に女性が居ない事に気付く。

 

いつも酒場へ行くときは侍らせるのに。

 

珍しい姿についつい見つめていれば、酒のコップに口を付けていた男がこちらを見る。

 

何だ、と言われて答えた。

 

「隣に女性を呼ばないんですか?いつもは……」

 

「くくく……落としたい女がいるのに、他の女に構ってなんてられねーよ」

 

「!!──そうですか……」

 

「くくっ」

 

「いきなり笑わないで下さいよ」

 

分かっていて笑い声を上げるローにこちらも段々と恥ずかしくなる。

 

気を紛らわせる為にチビチビとお酒を飲むしかなかった。

 

 

 

 

 

彼等のログが後三日で溜まるという日、唐突の来訪者。

 

予想出来なかったシロクマのベポ。

 

ローより何億倍も可愛い彼を部屋に招き入れようとした折りに、相手から予想だにしない言葉を言われた。

 

「リーシャ、船にまた乗ってくれよ」

 

「…………やだ」

 

「頼む!あんなに楽しそうなキャプテン見るの初めてなんだ!」

 

「だから?私に何の関係もないでしょ」

 

「そ、れはっ」

 

ドスドスと大きな足音と共に詰め寄られて避ける。

 

それと同じくしてキッチンに素早く移動してお玉とフライパンを手に持つ。

 

自分より大きな巨大にこれが効くかどうかはやってみないと分からない。

 

二つのキッチン道具を構えると玄関先から招かれざる客が来訪。

 

ペンギンだった。

 

どうやら初めから二人で来たらしい。

 

だとしても関係ない。

 

構わずお玉とフライパンを構えて相手をする。

 

「別にフライパンを包丁に変える事だって厭わないんだけど」

 

「落ち着け」

 

「ペンギンさんこそ、自分が不法侵入してること気付いてる?出てって。二人とも、出てってよ!!」

 

二人は困った顔をしてお互い顔を見合わせる。

 

フライパンを思いっ切り振りかぶり二人を追い出す。

 

こんなの、簡単にねじ伏せられるだろうに。

 

本気で連れて行こうとはしなかったらしい。

 

ぜえぜえ、と荒い息を吐いてテーブルに武器のフライパンとお玉を置いた。

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