短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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遊び心

──キンキン!

 

刃物が混じり合い激しい音が船の中で響く。

 

「大佐!」

 

部下の声が響き、気付いた時には遅く、避けきれぬまま海へ落とされる。

 

──ドボン!

 

カナヅチ故に泳げぬ男が沈んでいく。

 

「出番来た」

 

ちっさく声を出して心の中でガッツポーズ。

ヒーローみたいに海へ飛び込んで綺麗なフォームを維持して男を助ける。

海の中で重力と共に沈み行く体を見つけ腕を掴む。

石のように体は動かなくても意識はあるようで目が薄らぼんやりと開いていた。

それが徐々に開いていく様は驚かせられたという気持ちでいっぱいになる。

それだけで胸が満たされる。

 

「ゲホッ!」

 

海から上がると男の方から息を吸おうとする動きがあった。

間に合ったと思いつつ小舟に運ぶ。

彼が乗っている船は安全ではない。

リーシュは毎日タイミングを見計らいこういう機会を狙っていたのだ。

 

「平気かしら」

 

「お前は」

 

おっと、こういう時の名乗りは聞かないのがお約束なんだよ。

 

「ふふ。秘密」

 

二重生活をするにあたり、彼へ身バレしないように声の変声と口調の変更はかなり重要だ。

普段は村娘のように気配を薄くして過ごしているから。

妖艶さを醸し出す傍ら、この男と接触する機会を漸く掴んだ。

 

「なんだと」

 

イライラしているのか声が刺々しい。

 

「押し問答も良いけれど。お仲間さん達のとこへ行かなくて良いの?」

 

クスッたワラってルージュを光らせる。

それにしても素晴らしい腹筋の持ち主だ。

 

「!──くそっ」

 

焦っているのか彼は唇を歪める。

向こうへ戻るにしてもここからでは時間が掛かる。

 

「助けたい?」

 

男はやっとこちらを見た。

それだけでもう満足になる。

しかし、まだ終わっていないのだ。

 

「じゃあ、取引で助けて上げるわ」

 

良い女を演出するには先ず取引で。

そうじゃなきゃ偽善やらで助けても相手は納得しないでしょ。

 

「ほら」

 

「何をする」

 

男の腕を掴み一気に飛ぶ。

鳥のように飛び大きな軍艦へ。

突然舞い降りた二人に船は一時停止状態だ。

 

「ふふ。ね、行けたでしょう」

 

微笑めば大抵の異性達が見惚れる。

 

「じゃあね、海兵さん。借りは機会があれば返してもらいましょうか」

 

茶目っ気を出して小舟に戻る。

待て、とか聞こえたけど待つ訳ない。

 

 

 

暫く見ていると戦いが終わったのか敵側が捕縛されていく。

 

「目標たっせー!」

 

喜びにむせび泣きそうになる。

ここまで長かった。

死んだと認識がないままあの世で女神に会いスキルを貰い、好きなあのキャラクターに会いたいと願ったらまさかのパラレルワールドだった。

彼──トラファルガー・ローは本来海賊だったが、どこかで過去が変わり海兵になっていた。

確かにそれになる片鱗はあった。

海賊になるとばかり思っていたので海兵と知ってびっくりしたが愛は薄まらない。

なので、どこに勤務しているか調べてそこに住んだ。

女神が気を効かせたのか、偶然の奇跡かは定かではないがローに深く関わりのある人物に会い、話し込み気に入られ、その後その男がローに妻も居ないので是非所帯を持たせてやってほしいと、あくまで仮の話をしていのだが、その男の早とちりにより何故かローの花嫁候補にされていた。

書面にされたわけではないが、仲介人になられでもしたらあのローが断れるか不明。

そうなればローを観察するライフが潰えてしまう。

そう考え、ローと繋がりを持ちたいが無理強いしたいわけではない、と思った末に薄い味噌汁のような村娘をしている中で、こうして颯爽と彼を助ける女の二重生活を送る事を決意した。

確かに繋がりを持ちたいし好きだが、だからこそ執着し最高の復讐、いや、意趣返しがやりたい。

花嫁候補を知らされたらしいローが朝一番に家へやってきて不機嫌な顔をして告げてきた。

 

「どういうつもりかは知らねェがコラさんをたらしこんでおれに取り入ろうとしても無駄だ」

 

うーん、候補としてのそれはリーシュだって預かり知らぬことだったのだが。

 

「それは、その、すみません」

 

へこへこしときゃいいか。

 

「私も初耳だったので」

 

「そんなつもりはなかったと?」

 

ローが目を細める。

色男だから様になる。

 

「つもりもなにも、大変身に余る事なのでとんでもありません。が、私から断ると角が立つので」

 

向こうは大佐。

こっちは村娘風のただの町ビト。

軍配はローが立つ。

 

「身のほどを知ってるらしい」

 

殴りたくなるのは愛ゆえだろう。

 

「はぁ……」

 

犬に頭からかじられて欲しいなー。

そしたらびっくりする顔が見られて1日幸せに過ごせるんだろう。

勿論、ローが好きだからさ。

 

「あの、今朝食作ってるのでもう良いですか」

 

今日はローを見学する予定なので早く帰って貰わないと。

ご飯がいつまで立っても食べられない。

それにここにいると邪魔だ。

 

「ああ」

 

ふふ、ああ、だって~。

この前は水に落ちて溺れてたのに。

ふふ、面白い。

あの澄まし顔が苦しげに歪んだのもしっかり瞼に記録されている。

 

「あ、そうだ」

 

今日は鍛練をする公開訓練の日。

バスケット持っていこ。

女神から貰ったスキルの身体能力強化で目を鋭くして遠くのものを見れる。

これさえあれば近くに寄らなくても平気。

バレることもない。

着飾りレディ妖艶へと変わり、別人の出来上がり。

我ながらべっぴんだ。

ふむふむ。

ローを見てみると女の人から女の子まで声援を受けている。

それに眉間のシワを寄せていて、今にも「うるさい」と怒鳴りそうだ。

彼の性格的に今も怒らないのは今日が公開訓練だからというだけだろう。

割りに合わないことはしない主義だった筈。

怒るのも時間の無駄と思っている節がある。

怒っても怒らなくても魅力的故に周りに集まるから諦めているともいう。

女嫌いではないが、予定を崩されるのが嫌い。

だから、朝一番に家へ押し掛けてきてコラソンにけしかけるなと釘を刺しにきたのだ。

コラソン大好きだもんな。

嫉妬はしないがウザいと思ったのは秘密。

好きでもこれとそれとは別。

 

「模擬戦」

 

部下と打ち合いをし始め声援が響く。

ここまで欠片程度だけ耳をすませれば聞こえてくる。

キャーという黄色い声。

殆どの人がきっとロー目当てなのだろう。

あそこに入った日には女達に牽制されるのだ。

他の人と同じように。

昔はもっと多かったらしいが、本部の海軍基地がある所に所在している令嬢が居て、ローに熱烈なアプローチをしていると小耳に挟んだ。

ロシナンテ経由だが。

権力で普通は結婚させられるのだろうが、彼が無理矢理結婚させるのならば海軍を最悪な形で止めると言って直談判したらしい。

それって海賊になるって意味だろうな。

家で作ったボロネーゼサンドイッチを食べながら海軍ウォッチ。

試合が終わり汗を拭う部下。

ローは汗一つかいておらず飄々としている。

おー、カッコいい。

あの顔で無なんだから普通は怖がられるのに。

直ぐに次の部下が手合わせをする。

ロシナンテ、コラソンとは茶飲み友達なのに嫌われてしまった。

別になにもしてないし、何も言ってないのに。ただ、コラソンのロー自慢にうんうん、はいはい、と頷いていたのに、いつの間にかコラソンの中では株が上がっていたらしい。

もしかしたらコラソンはローにリーシュのことを話してしまったのだろうか。

だとしたら突撃したのも分かる。

顔も素性も知らぬ女にコラソンが惑わされたと。

そう思ったのかもしれない。

どれ程舐められていたのだ。

好きとは言ってもムカつく。

代償は本人の知らぬところで払ってもらう。

試合を一頻り見終わりサンドイッチの入っていた容器を収納する。

 

「ま、彼は別にどうとでも出来る」

 

ローよりも強いのは面と向かって対面した時にも確信を得たので今も余裕、楽勝。

計画では妖艶バージョンで気を引かせて、平凡バージョンでニヤニヤするというやつだ。

優越感総取りだ。

それに、自分の前だけに超綺麗な女が颯爽と現れたら特別感を感じる。

他の者が聞いたらローの人生を弄んでいると憤っているだろうが、本人は無自覚。

なんなら、女を死んだと思わせて美化させておくのもありかもしれない。

そんな鬼畜な計画を立てていると噂の男が試合を終わらせて休憩時間に入る。

あの、仲間と居る時の顔が一番好きなんだよね。

空間が癒されるというか、別世界に見える。

それで夫に捨て置かれている妻として好きに振る舞う未来も考えられた。

別に構いやしない。

結局同一人物のことを考えて身を焦がせばいいのだ。

 

「今から楽しみだな」

 

にやりと笑って盗み見ていたことを誰にも悟られぬようにこっそり雑多の人々の中に紛れこんだ。

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