光が差すテーブル。
静寂が満ちる部屋に一人の女が小瓶に入っているものを見つめながら物憂げにしていた。
見つめる先にはカラフルな丸いキャンディ。
女にとっては幸せ絶頂の証である。
しかし、作り方を知っていたからと言って記憶にある味や見た目になることはない。
未完成なキャンディなのだ。
「貴方が居ない色はとても寂しいものね」
色だけ見てみればどこの色も欠けてはいないのに。
見えないからこそその違和感に目を細めた。
真似をして作れば過去へとほんの少し戻れたりするかもしない、と作ってみたが全くの別物だ。
似ているけれど完成はしないキャンディが出来てしまう。
「見えないのに見たくなってしまう」
ビン越しにそっと撫でて顔を伏した。
***
とある学院、今日は卒業式。
卒業生であるリリアンは不躾で不愉快な目を煩わしくも鬱陶しいと感じたま進む。
魔法があって、属性は色で分けられるという派閥や階級に匹敵する制度、身分ができあかっているこの世界において、己の存在が異質であると自覚し同時に下らないと吐き捨てた。
あぐらをかきまくっている子供らに今すぐ地獄のフィールドワークを体験させてやりたくなる。
この学院は所謂錬金術士、アルケミストなどという職を目指す卵達が学ぶところだ。
どんな人間にも色があり、それにより作れるものの属性が違う。
大きく分けて12色。
そのうちのリリアンの色はというと、びっくり、無色だ。
世の中に認知され適材として用意されているどの色にも属さない無色。
そのせいで学院生活は散々だった。
特に好き勝手出来ないということについて。
リリアンはこの世で珍しい前世持ちだ。
過去はこの世界で生きていたのだが、それも世代をいくつか遡る。
色の派閥が狭すぎてひどかったのを今でも覚えている。
それを思い出したのはあとは卒業式のみという最近。
別に今更習うことやハブられていたことに関してどうこう思う程メンタルは弱くない。
腹立たしいのはサティという一大工房の黒の工房という全く希望と違う工房へ就職先として内定していたことについて。
黒の工房とか聞いたことがない。
「色なしがなんでサティなんかに」
こそこそと悪口が聞こえてきた。
どうでもいい工房の嫉妬なんて痛くもないな。
かつて生産系バーサーカーと呼ばれていたことに比べれば。
別名のうすじとも呼ぶ。
「色なしなんて直ぐに追い出される」
色なしと呼ばれたのは二度目だ。
前世も文句なしの無色であった。
アルケミストとして単独で工房に所属せずに素材も自家で補っていたし。
色がなくとも不便などなかった。
どの世代にもエリートを鼻にかけて足元を掬われるやつなんているんだな。
卒業式が終わるとそのまま家に帰り次の日の工房に移る。
工房はどこも寮生となる。
見習いであるから工房に入るのだが、リリアンはアトリエを一人でやりたいなとぼやく。
集まって何が作れるのか、とため息を吐く。
昔はフィールドワークをしまくって没頭したのが懐かしい。
他の卒業したものたちが集まるところへ行くとやはり異質な目で見られて誰も見ようとしない。
前世はエリートから外れたいわゆる落ちこぼれ達が嘆いていたので同じ無色という落ちこぼれレッテルを貼られていたリリアンは憤った。
12色だけ贔屓される世の中はそもそも間違ってると。
何百万という色があるのを知っているので余計に笑ってやる。
過去に想いを飛ばしているとサティ工房の代表が姿を表した。
真っ赤な服に金髪という出で立ち。
彼女はこのデカイ工房で赤の工房長をしているレッドチェリーだ。
「ようこそ、雛鳥達。貴方達の羽ばたきを楽しみにしております」
それから工房長自らが施設を案内する。
周りの見習い達は憧れの仕事場に興奮していてうるさい。
工房を次々説明されながら配属になった色の工房へそれぞれの見習い達がその工房長らと挨拶をして減っていく。
最後は自分だけとなった。
二人きりとなったときに赤の工房レッドチェリーに話しかけられる。
「あなたはリリアンさんよね。無色という珍しい色で覚えてますわ」
「はぁ、そうですか」
初対面なので一応弁えておく。
「好奇の目で見られることはこの工房ではありませんことよ。ご安心なさって」
「それはようございました。あの、聞きたいことがありまして」
パンフレットにも説明を聞いても不明だったことを知りたいので手っ取り早くたずねるに限る。
なんですの、と人のよさげな笑みに淡々と聞く。
「無色の工房はどこにあるんでしょう」
そう述べたら、レッドチェリーはぴし、と笑みのままに硬直した。
10秒程経過するとレッドチェリーははくはくと口を動かし、言葉を詰まらせる。
「どこでその名を」
「もしかして、なくなってしまったの……?」
相手の態度に酷く嫌な予感がする。
「ああ、つきましたわよ、ここが黒の工房ですわ」
誤魔化すように扉の前で止まる。
扉をノックし入室すればそこには男だらけ。
「あら、ローはどこですの」
「工房長なら外出してます」
中に居た男が答える。
困ったわ、ちゃんと伝えていたのに留守なんて、あのガキは、と呟きが聞こえた。
こちらを見たレッドチェリーはリリアンをその場に居た人達に向けて紹介する。
「今日から見習いとして配属されたリリアンさんよ」
「よろしくお願いします」
男達はそういやそんな話もあったなと囁きあう。
赤の工房長はそれだけすると頑張りなさいと声をかけてドアを潜って去る。
残された見習いは己だけなので話が出来ない。
「よー、おれシャチ。宜しくな新米」
新米って言われるような中身ではないと自負しているが、見た目的には新米なので頷く。
「皆さんは全員なんの仕事をしてるんですか」
「え!?しらねーの?」
「討伐とかなんとかしか分かりません」
「あ、しってんじゃん。それそれ」
「フィールドワークは分かってるんですけど、物は作るんですよね」
「ん?それは他部署の管轄でおれらは材料とか集めるだけだぞ?」
「……はぇ?」
衝撃にくらりと目眩。
ただでさえ我慢してるのにやらないとか、学院卒業した意味よ。
その後、全員に紹介されたが記憶が飛んでいたのでそれどころではない。
トイレに行くと偽りはやあしに地下へ降りる。
普通は工房長でないと入れないへやなのだが、すっ飛ばした。
怒りと絶望にナリふり構わず。
かつて、己の工房であった部屋まで止まらず進んだ。
部屋を開ければ掃除されていてほこりは飛ばない。
赤のやつに聞いたらつぶれたのかと思っていたが残っていたのだ。
なぜ、言葉に窮したのか。
ここは無色の工房、過去の己のアトリエだ。
あのときのままの部屋にやっとこさ落ち着いた。
「全く!アルケミストが錬成しないってなに?バカにしてんのかあいつら!無色だから扱いは底辺で良いやってか!?絞めころしてやろうか!」
錬金術をするために入ったのにやらないと聞かされた時。
こんな工房やめてやると思ったが、無色の工房があるんなら話は別だ。
「……ん?」
机の上にビン。
その中に見覚えのありまくるキャンディ。
「レインボーだ。なつーい」
切磋琢磨したライバル達の色を集めて特別な日にプレゼントするなど多用した制作された菓子。
美味しいとかではなく気持ちの現れをメインとした分かりやすいキャンディだ。
持ち上げて誰が放置したのだろうと思案しているとガツン、と扉が乱暴に開かれる。
「それから手を離しなさい」
「……レッドチェリー工房長」
ビンを持ったまま振り向けばきつい目をした金髪が鬼の気迫でこちらを見ていた。
「無色の工房のことを聞いた時から変だと思っていたわ。どうやってこの場所を知ったのか聞きたいわね。どこのスパイかしら」
「え?スパイ?」
そっちの疑いに向くのか。
「私も貴方に聞きたいことがあったんです。無色の工房は閉鎖されてるんですけど、どうしてですか?私ここに所属したくて来たのに」
「もうここは誰も使ってませんの」
「私が使うから開けて下さいね」
「なにを……!」
怒りを込めたそれは、不思議としか言えない。
「工房こそ、なぜ私を黒に?」
「それは黒の工房長が決めたのよ」
「ふうん。私はここで良いですから」
赤はこちらへつかつかと来ると腕を掴む為に迫る。
「私を捕まえられるかな?」
ビュン、と彼女の横へ移動した。
相手はその予想外の行動に瞠目して驚いていた。
「今日から私が無色の工房をアトリエにしますので以後よろしく」
なにを思ったのかレッドチェリーは今しがた宣言した見習いの無色を唖然した顔で見て、ふつふつと怒りを助長。
「なにを言ってるの!そんなことを許すわけがない!」
いや、リリアンが良いと思っているので良い。
だれの許しも必要ないです、と答えた。
「貴方は規則に違反したので即刻出ていきなさい!」
「出ていくのは工房長の方ですね。摘まみ出せ《ガードマン》」
無色の魔力を部屋に行き渡らせると部屋の奥からギシギシという音とドアをぶち破る音が聞こえた。
赤の工房長はガードマンとの台詞に目を揺らしふるりと震えた。
なぜ、この見習いはガードマンのことを知ってるのか!
レッドチェリーは先ほどから機械音のする方向を見つめる。
「相当奥にし舞い込まれてるみたい。遅いな……毛皮、《拘束》」
足元にあった動物の毛皮をもした錬金術により作られた飾りが、張りぼてを越えてゆら、と動く。
「え……!うそ、そんなっ」
無色の魔力を纏う毛皮に拘束されかけて間一髪で避ける。
彼女は開設当時からいるので実力者なのだ。
「く!私達の思い出を……!」
燃やすに燃やせぬ品なので下手に攻撃を当てられず苦戦。
「お、来た来た」
ガードマンが漸く登場した。
遅いスタートに古いから仕方ないかと思い直し、リリアンは再度けしかけた。
「工房長、私が勝ったらこの部屋を貰いますね」
「かってなことをっ」
「この世は【弱肉強食】なんですよ」
「……っ!?」
聞き覚えがある言葉に女が気を取られて毛皮に足を掬われる。
しまったとなった時には第2波が襲い捕まっていた。
「ガードマン、優しく摘まんでポイ捨てしてよね」
ゴキゴキと音を鳴らして外へ向かうガードマンらを満足げに見たあとは、懐かしの机を掃除し始めた。
その後、何度か突撃してくるレッドチェリーを二つのガードマンが阻止してはいつの間にか誰も入ってくることがない。
「うわ、誰?私のノート盗んだの」
色々書き連ねていた錬金術のマル秘ノートのNo.1からが見当たらない。
って良く考えたら盗んだのではなく借りられてるってわけか。
「別に良いけど早めの返却足さないとこっちも素材必要なんだけどなぁ」
周りを見回すと写真などもあって懐かしのメンバー達がうつっている。
「黒の工房長……そろそろ帰ってくるかもしれないから戻っておこ」
扉から出るとガードマン達に部屋へ戻るように命令して地下の廊下を進む。
その真ん中らへんに真っ赤なドレスを来た女が立ちふさがっていた。
「……遅いですわ!」
「すんません工房長。別に待ってなくても良かったのに」
「なっ。それより!どうやってあの錬成物を動かしたのです!?」
煽られなかったな。
「それはあの工房が私の部屋になったからです」
「ふざけるのはおよしなさい!」
「無色の工房の登録は済ませたのでレッドチェリーさんがなにを言おうと変更されません」
「登録!?なんのことですの?」
「あそこにある錬成に必要な道具も動き始めてるので今日から使いますね。黒の工房はやめても良いですけど、一応そこの代表には挨拶しないとですよね」
レッドチェリーがなにか問いかけてくるけど無視して言いたいことを伝えて上に上がる。
「お待ちな」
「あ!」
ビンを取り出して工房長へ押し付ける。
「キャンディ、これ返しますね」
食べてないしそのつもりもないので返却。
レッドチェリーは受けとるしかなく、やっと取り返せた唯一のビンを掴む。
その間に走ってエレベーターへ乗るリリアンを逃し見えなくなる。
「一体なんなの」
レッドチェリーは呆然としたがキャンディの無事を確かめる為に慌ててビンを上へ掲げて、覗き込んだ。
「はぁ、良かった。どうやら欠けては……な、い──!?」
まじまじと見つめた先、キャンディ。
それは前々からあるキャンディだ。
しかし、レッドチェリーの想い出の中にある完成品がそこにはあった。
「そんな、はず」
そのキャンディは唯一とある色がないまま永遠に見ることの出来ないものだった。
「うそ……レインボーキャンディ」
主に12色をイメージされたそれは13番目が入ることによって、想いが込められる。
「完成してる……無色、いえ、透明」
透き通った色、目に見えない色彩。
いくら無色といっても同じ色になることはない。
なのに、記憶と全く同じレインボーキャンディが手の中にあった。
「あ、す、スカイブルーに言わなくちゃ。でも、どうしたら」
こんこんと悩み頭を抱えたくなった。
黒の工房へ走って向かうと部屋を通り先輩達に声をかける。
遅いぞなにをやってたんだと聞かれること間違いなしなことを言われて迷ってしまいましたとさらっと弁解。
「まあこの工房でかいからなー」
どうやら時代的に増築もしているみたいで巨大になってるみたい。
シャチと名乗った黒の工房の一人が納得。
「やっと帰ってきたか」
そこで低くて腰に良く響くテノールが耳を通る。
シャチを隔てた先に長身の男。
「あ、工房長。こいつが新人だぞ」
「無色の見習いか」
彼が工房長のようで周りの空気が浮き足立つ。
よろしく、と軽めに挨拶をして目の前へ行く。
「どうやら一人だけらしいのですが、私の他にはいませんか?」
「お前だけだ。適材が欲しかった」
「私、錬金術がしたいと希望したのですが」
「ここは討伐と諜報を主とした工房だ」
「移動願います」
「無色はここで決まってる」
「……はぁ」
やっぱり適当な扱い。
「フィールドワーク行ってこい、シャチと」
「え!?」
声を出したのはシャチ。
いきなり仕事を割り振られて悲しそうに彼は行くぞと催促。
「シャチさん。どこへ行くんです?」
「谷だとよ」
「あー、崖から飛び降りた先にある花を取るって話ですか?」
工房を出て聞くととんでもないと叫ぶ。
「あんなの年に一度で良い!」
そんなに一生懸命に言わんでも。
相当何かしらの責め苦にあったみたい。
工房長らのフィールドワークが可笑しい件についてという独自内容を聞かせられてとりあえず気を使って聞いた。
聞いていると内容は工房の人達の壮絶なる武勇伝らしいが「なんだそんなことか」と内心つまらなくなる。
そんな武勇伝は当時に比べたら武勇伝でもなんでもなく、只のフィールドワークでしかない。
それを武勇伝と言っている今の時代の若人は府抜けてるんだな。
谷に行けば記憶にあるので苦もなくたどり着けて先輩のシャチはゼーゼーと苦しそうに肺を酷使していた。
運動不足というか、経験不足。
全く、黒の工房長は部下を甘やかしてるのかな。
「お、お前、なんで平気そうなんだ」
信じられんという顔でこちらを見る男は、それは逆になぜそんなにも柔なんだと言いたくなる。
そうか、身に付けてるものの質のせいだな。
崖付近になると風が吹き抜けている。
谷を覗き込むとそこには光る花がたくさん咲いていた。
「よし、フィールドワークは終わりだ。転移魔法を使うから待ってろ」
なぬ?帰りは魔法を使うと。
それは酷いな。
「シャチさん。私谷を降りるので待ってて下さい」
え?と間抜けの声を奏でたシャチ。
その間にリリアンは崖をするりするりと降りる。
焦って名を呼ばれるが、戻るのはまだ早いときにせず進む。
「これと妖精の粉をもらえばシルフィの靴が作れる。フィールドワークも捗るか」
花を幾つか摘み、シャチのところに戻ればシャチの怒る姿が見て取れる。
「降りるなんてなに考えてる!この谷にはジャイアントが居るんだぞっ」
シャチのいうそれは花の蜜を好むモンスターだ。
今のところモンスターの気配もないのだ。
彼のいう怯えは杞憂。
シャチに手を掴まれて無理矢理転移を使われた。
そんなに急がなくとも歩いて帰ったのに。
現代の錬金術師は甘やかされているなとやっぱり思う。
黒の工房に帰還するとシャチと自分は黒の工房員に取り囲まれてどうだったのだと聞いてくる。
ローはまだ椅子に座っていた。
呑気なものだな。
「聞いてくれよ!それがさァ」
と、リリアンの話をする。
驚きを表す工房員らに気にせずローのところへ赴く。
「花を摘んだ?本当か」
「ええ」
「まァ、いずれさせるつもりではあったが……取り敢えず提出しろ」
そういや黒の工房は他所に配る為に集めるという部署だったな。
全く酷い有り様だとローの要求を切り捨てた。
「これは私が取ったので私の素材です」
ローは反論が気に入らないのか眉間にシワを寄せて不機嫌を見せてくる。
「黒の工房の役割を忘れたか」
「いいえ?私は錬金術をしたいと申し上げましたよ」
「無色はここに配属すると規則で決められている」
「では、私の意思はいらないと。わかりました。黒の部署は私も嫌なので構いません。無色が嫌なら初めから採用しなければ良かったのに」
失望を見せてやり、やれやれと扉へ向かう。
「待て」
「なんでしょう」
「素材は置いていけ」
リリアンはローの言い分に無色工房にて取り出した武具をローに突きつけた。
その武具を最初は面白そうに見ていたが、それが無色工房からの持ち出し品と気づいた時の顔色は義憤である。
「それをどこから盗んだ」
「これは元々私のなの」
「これはおれたちの仲間のものだ!」
彼は吠えると同じく杖を出していく。
楽しくなってきたな。
「ガキが図に乗るな」
ローが攻撃の動作に入ったので全ての空間から作りおきされていた幾多もの装置が作動し、ローの動きを完全に止めた。
その不思議な光景は工房員達にも見えており、ローがどうこうされるのを見たことがなかった者達にとって衝撃的な姿。
彼も己に起こっている現象に目を開き信じられないようだ。
「良い年した男が子供にムチを振るう様は見ていて気分は良くないね。誠に失望したよ。黒猫」
「……!」
男は最後にぽつりと聞こえた呼び名にからだが震える。
リリアンは皆にも聞こえるように出ていくと告げた。
錬金術をすることの出来ない工房に用はない。
颯爽と出ていく見習いに彼らは見ているしかない。
工房員達は工房長をやり込めた本人に戦いで勝てるとは思えなかったのだ。
そういうところが甘えだのと無色に断じられているのだが。
彼らはそれを知らないでいる。
次は無色工房に完全に場を移す。
無色の工房には鍵をかけてないが、誰もいなかった。
昔は本人が不在なのに工房の人達が好き勝手に入り浸っていたものだ。
なぜ彼女らはここを閉鎖したのか疑問。
好きに使えば良いのに。
また屯するも集まるも。
「なにか問題が起こったのか」
リリアンがこの体へ転生する間は結構あった。
それこそ、サティが一番でかい工房と吟われるような長い間が。
考えるのは得意でないので自由になったのだから、今度はシルフィの靴とマントを改めて作ることにした。
ノートなどなくとも頭に入っているものだけでも新しくしたい。
古いものもよいが、研究はしたい。
その為にここへ移るのだ。
出ていけと言われても出ていくつもりはない。
もし、出ていくのならこの部屋の中をくり貫いて持っていくので単ばつアトリエをするだけ。
なら、誰も文句はないだろう
ここはそもそも自身のものだけしかないのだし。
「リリアンさん。居るのですよね」
おっと、早速赤の工房長が怒りに来たかな。
扉を開けるとがーディアンが無色と待機していたので、レッドチェリーは顔をひきつらせた。
今まで採用してきたどの子よりも好戦的なのである。
「そんなに殺気だてなくてもよろしくてよ」
「すんません、レッドチェリーさん。なんせ、どこかの誰かさんが話をしたのにも関わらず大人げなく攻撃きてきて不様に負けたので、大人顔負けに上にチクってここへ来たのかと思ったので」
とげのありまくる言動にレッドチェリーは頭痛を起こす。
それはローのことよね、と事実確認してくる。
「そーです。レッドチェリーさん。あの人は私の摘み取った素材を出せと無情にもいってのけたので、黙らせただけです」
「でも、黒の工房は素材を他の工房に配る工房なのよ」
「だから、他の工房員などの質か著しく低下してるんですね。ということは、黒の工房長がこの工房の成長を妨害してるんですか」
レッドチェリーはリリアンの図星にぎくんとなる。
「しょうがないですね。甘いのは素材だけで十分なのに」
リリアンは顔色が読めないので赤の工房長は何故か冷や汗が全身から吹き出す。
「わ、わたしくしはっ」
なぜだか全力で言い訳しなければいけない気がした。
「ま、私はここにこもるのでこの工房がどうなっても関係ないですけどね」
一気に重苦しさから解き放たれてレッドチェリーは何度も何度も深呼吸する。
しかし、ここで向こうへ行けば取り返せなくなると本能が囁く。
なにがだとか、なぜ初対面なのにとか、理性が働かないのだ。
掴まねば今後手を伸ばす資格がなくなると恐れる。
工房長となりここまで緊張するのは久々。
「待って、せめて、ローに話を通してからにしてくれないかしら。ここへ乗り込んでくるわよ」
「んー、別に良いけど」
好戦的で勝ったばかりの相手を二度目にやり込めるなど捻るのは至極簡単だと笑みを浮かべる。
その笑みに凄まじいデジャヴを感じ、ローに詰めよって謝らせないとと焦る女。
しかし、焦らせている本人はどこ吹く風で工房を動かしてものを作り始めている。
その流れるような仕草に赤の女はみいる。
重なる姿に息を飲む。
まるで昔に戻ったよう空気になる。
当の本人は気にすることなく次々と必要な素材を混ぜてレシピを見ながら鼻歌を口ずさむ。
昔聞いたことのある鼻歌をレッドチェリーは耳に入ってきた瞬間手を相手に伸ばす。
「あ、────」
友の名を口ずさむ。
ぴくり。
リリアンの手が止まる。
「なにかな。真っ赤な林檎ちゃん」
「っっ!」
涙が頬を伝っていた。
理性が戻らない。
最早何故泣いているのか自身でも分からなくて、訳がわからぬまま泣き続けた。
泣いている時にローがやってきたのでリリアンは無言で空に吹き飛ばしたのは事故である。