短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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婚約破棄という狂気の沙汰(モブ子シリーズ)

「エルシャール・ライマ!今を保って貴様との婚約は破棄する!か弱きスィスルーを悪質に貶める者などとは人生を預ける事は出来ん!」

 

何かアホがビービー言ってます。

こんにちは、転生者事、背景のライマでーす。

背景っていうのは脇役顔無しって意味。

つまりはヒロインの噛ませになりうる存在。

というわけで、噛ませになっちゃった。

でも、泣き寝入りする只の噛ませじゃないのがライマである。

取り敢えずそこの隣に居るスィスルーとかいう女の悪質な何かについては完全に濡れ衣。

そんなまどろっこい真似しなくてもこの世から消せば済む。

物騒だって?当たり前だよー、貴族の世界って駆け引き裏ごとが当たり前なんだから。

特にこの世界は、ね。

所謂ファンタジーのジャンルだからそういうのは王家のハーレム宮に蔓延ってんだよ。

それを第一王子は知らないらしい。

 

「そして!私はこの優しく大らかなスィスルーと婚約し結婚する!」

 

「王子!バッカン王子!やっと私達結ばれるのねっ」

 

結ばれねー。

いや、結んで馬鹿者同士離れた土地に隔離してしまった方が良いな。

 

「あー、盛り上がっているとこ悪いんですけど、婚約は破棄するというので宜しいんですね?」

 

キッと睨みつけてくる王子にあー怖い怖いと身体をぷるぷるさせる。

てか、その悪質な事の証拠は?

 

「ああ!金輪際顔を見せるな!この悪女!」

 

(悪女じゃなくて悪鬼なんだけどな。惜しいなバカ王子。あ、小さいッが抜けてた。ま~いいか)

 

心の中で王子には知らされていない事を思い浮かべてほくそ笑む。

彼は何を口走ったのか全く理解していないらしい。

王は全く何を教育させてるんだか。

税金をドロの中に捨てたレベルで無駄金だ。

もう一回教育やり直しとならないのが世の辛い部分だ。

それにしても言質も取ってしまったし、こんな人がたっくさん居る場所で発言したのはヤバい。

何がって発言を秘密裏になかったことにして交渉の余地がなくなった王家が。

つまりはこちらはノーダメージ。

あ、でも…………ライマが拘束された時間の勿体なさでは腹が立つ。

冤罪でワーワー騒ぎやがって。

 

「確認ですけど。証拠はおありで?」

 

こっちは勿論王子の浮気の証拠いーっぱいあるよ。

 

「スィスルーがお前に虐められたと言っている。こんなに彼女が苦しんでいるのに罪悪感も抱けないのか!?」

 

言い様で、つまりは物的証拠も無し。

そんでもって本人の言葉だけで裏付け無し。

こりゃ、この王家は、国はもう各国から見限られるな。

 

「つまりは、情況証拠すらないというわけですね。解りました。では、次はこちらの番です」

 

その言葉に待ってましたと出てきたのは従者のロー。

今でこそローのこの態度に慣れたものの、当初は何度戦慄したのか。

それを思い出しても鳥肌ものだ。

今のローは偽りの地位に性格。

本人曰く、オンとオフで性格が完全に切り替わるように設定されている魔法らしい。

ライマもそれをやってもらいたいと何度も頼んだが面倒だからと断られてきた。

だってヒロインと王子のイチャイチャを見るのが果てしなくウザかったから。

従者を見ると彼は懐から紙を出してそれを受けとると、それを読み上げる。

せいぜい後悔しやがれー。

 

「愛しのスィスルーへ。君に会うのが堪らなく楽しみだ。以下略。今の婚約者は全く私をときめかせてくれない」

 

「な、そ、そ、その手紙…………!」

 

「勝手に私の部屋に入ったの!?」

 

ヒロインの悲鳴に薄ら笑う。

 

「入ったのではないです。私の部屋の窓から舞ってきたので掴んだら殿下の恋文だっただけです」

 

ぶっちゃけると証拠云々なんて最早関係がない国際問題だ。

証拠があってもなくてもこれからの未来を変える事なんて無理。

手紙を読んだのはこちらに正当性を突きつける為と、浮気していたのが王子であったというのを周りに認知させる為。

そして、茶番。

浮気していたというのに大胆な行動に出たバッカン王子には感服する。

個人的な部屋で言ってくれたら王家も苦労せずに済んだのに。

しかも、そのスィスルー嬢はれっきとした平民。

平民は流石に正室には無理である。

良くてぎりぎり日陰の愛人。

側室の中に放り込んだら後宮の女達に嬲り殺される。

後ろ盾も教養もない平民に安静は訪れない。

 

「というわけで、貴方の浮気が破棄の要因。皆様お分かり?」

 

演説みたいに問うと周りの視線が王子達に突き刺さる。

それに怯むバッカン王子は勇姿を間違った方向に転換させた。

 

「スィスルーを虐めたことを認めたな!?」

 

「認めてませんし虐めてません。貴方が好きじゃないので虐める理由もないです」

 

「嘘よ。貴方は私を階段から落として…………笑ったわ!」

 

「いつの事です」

 

「しらばっくれるな。スィスルーを医務室に運んだから私は知っている。昨日の夕方だ」

 

「医務室の医師の診断書は?」

 

「スィスルーが騒ぎにしたくないと紙はもらってない。貴様も見習ったらどうだ!」

 

「結局騒ぎになってるし。ウザ。それではこちらにその診断書をお持ちしています」

 

手を上げてその診断書を掲げる。

それを見たスィスルー嬢は顔を驚きに染めて、次に怒りに染めた。

バレるのは時間の問題だった筈。

間抜けな女だ。

 

「この紙によりますと、特に怪我を負った様子は無いようでーす」

 

「な、何!?か、貸せ」

 

ツカツカとやってきた王子に後から来る平民女。

そこに平然と佇むライマはドヤ顔だ。

王子は手をブルブルさせて不当だと叫ぶ。

 

「どうせ貴様が偽造したんだっ」

 

「あらあら。そこに医師と王の印があるのに。これって王様も貶しちゃってます?あーあ。不敬~」

 

「は!?…………ち、父上の」

 

漸く気付いた王子は真っ青な顔でよろめく。

それを支えようとしたスィスルーの腕を跳ね除ける。

 

「わ、私を、騙していたのか」

 

「ち、ち」

 

「ちょっと言い争いは今は止めて。えー。先ず私から一言。王子との婚約は申し出により破棄します。成立。そして、先程の宣言しましたスィスルー嬢とバッカン王子の婚姻を祝福しまーす」

 

彼らが決定的な発言をする前に捩じ込んだ。

それは、もう二度とライマと婚約も契約も出来ない事と、スィスルーとしか結婚するしかないという事実。

二人が仲違いするとこの国は困るだろうから、最後の温情。

ローが目だけでやったな、と細める。

 

「そ、そんな!」

 

「おい!婚約破棄は取り消す!こんな女とは居られない」

 

「は?貴方みたいな浮気男と一緒になんて居たくないのは私も一緒です。そして、何を勘違いしてるんです?私の方が貴方より地位は上なんですけど。そっちが劣るのに一方的な浮気や契約破棄しといて、タダで済むわけ無いですよ」

 

本当は婚約破棄だって宣言される前に散々罵倒をぶつけてきたのだって許してないんだから。

ムカムカする胸を我慢した。

なのに、婚約破棄を無効?

そんな都合の良い展開なんてあるわけないない。

ないっしんぐー。

ローだってあり得ないってボヤいてるから。

それと、王子にスィスルー嬢が他の子息達とも密会していたことを写真も合わせて渡す。

メギツネに騙されちゃって。

それにしても、そろそろローってタメ聞くの辞めても良い?

 

「そうだな潮時だ」

 

(よし!)

 

ローからゴーサインが出たので鬱陶しい制服から真っ黒な制服に着替える。

 

「な、なんだ!?」

 

「改めて紹介します。我らは魔法王国より大使として当国に来ました、ライマと、我らが魔法王国第十代目公爵の──」

 

「トラファルガー・ローだ。今回婚約破棄は正式にこちらは受理した。尚、こちら側に非がなく冤罪で裁こうとしたので、こちらもそれ相応に対応させてもらう」

 

恐らくこの国の貿易は停滞し、魔法も発動しにくくなる。

魔法は魔法大国から送られているからスムーズに使えた。

言わば電気みたいなもの。

魔法には対価が必要で、魔法大国が潤滑して対価が軽めに抑えられていた。

それが無くなるという事は即ち滅亡まっしぐら。

回避するには各国に頼み込んでちょっとずつ魔法を支援してもらったりと方法はある。

だが、重要な婚約すらまともに出来ない王子が居る国の未来は真っ暗。

総スカンを食らう。

ライマはローに手を引かれて学園を出る。

交換留学だったから取り敢えずこの国は出よう。

 

「王様引き止めて来るかもね、ローさん」

 

「ああ。だが、ここでの事を中継したから文句言うバカなんて居るわけない」

 

「なら、気楽に行けるね」

 

「まァな。それより、あいつには未練ねェのか?」

 

「うん。お詫びとして魔法大国の王様にはローさんとの婚約認めてもらうから」

 

「やり手な女でおれは嬉しい」

 

「どーいたしまして」

 

 

 

***

 

 

 

祖国に帰って早半年。

ローとの婚約が認められ、今は花嫁修業中の身。

何というか半年間に一度も苦に感じなかったんだから凄い。

ローの婚約者になったら嫌味や嫌がらせのパレードを送る生活になるとばかり思っていたから。

根回ししていてくれたようで、公爵仲間の婦人や女性にサロンへ招かれた。

とても皆優しくて魔法王国万歳って言いたい。

虐められたりする事もなくウハウハ。

流石に陰口はどうにもならないが、ロー本人は愛妻家候補と囁かれるくらい周りに婚約者をいかに愛しているかを吹聴しているらしい。

それを友人から聞いた時は流石にローへ文句を言いたくなった。

惚気るのはやめてくれ、と。

恥ずかしいったらない。

ローとの婚約を勝ち取ったくらい、ローを好きになると言ったのはライマだ。

半年の今でもローと婚約したのは最近だ。

婚約破棄されて直ぐに誰かと婚約するのはローの名に傷が付くと嫌に思った。

だから、ローに伸ばしてもらったのだが。

それでも婚約をするのはあと三ヶ月後くらいだと思っていたのに、ローがとある事を周りに話し出したのがきっかけで早くなった。

それは、以前婚約してた男に裏切られ傷心を抱いて深く傷ついている女性を守ってやりたいと思っていた。

婚約を破棄されて、浮気が原因で、更に浮気していた婚約者の浮気相手を傷つけたと冤罪を着せられ責められたのに、何故、彼女は幸せになってはいけないのだろうかと。

誰が書いたのかは知らないが、本まで出て、全てではないが、一部脚色された内容で売り出された本が爆発的に売れ魔法の国だけにのみならず、他国にまでそれは伝わった。

国の民に賛同され、押すに押される形で仕方なく今期に婚約をすることとなった。

 

 

この国の王に早く婚約を結んで欲しいと催促が来た時は電話でローに胃が傷んだと文句を言ったものだ。

王に頼まれたのだ、しかも困惑顔で。

本の件と言い、脚色を含んだ話しを周りにばら撒いた事と言い、何もかもがレールに沿って起こされたとしか思えない。

ローがそういう人間だったと知っているが、まさか、ここまで追い込んでくるなんて夢にも思わなかった。

 

「ライマ。良いニュースと悪いニュースと胸くそ悪くニュースと、どれから聞きたい」

 

「悪いニュースと胸くそ悪いニュースの意味はおんなじなんじゃないの?」

 

ローが部屋にやってきて蔓延の笑みで抱擁して頬にキスしてくるなり、そう切り出してきた。

取り敢えずボケられたならば突っ込むのは礼儀だろう。

 

「じゃあ悪いニュースからな」

 

わお、こちらの疑問をぶった斬ってきた。

 

「お前の元婚約者の男が例の男漁りの女と婚約する」

 

「それ、良いニュースじゃないの?」

 

「良いニュースは他にもあるからな。で、胸くそ悪いニュースはその婚約パーティから招待状が来てる」

 

「厚かましいし図々しい~」

 

「お前を呼んで謝ろうってものと、見放されていないって各国に思わせる為だろうな。全く、どの面下げて送ってきたんだか」

 

まだ半年しか経過していないのに。

許してもらえると思い込んでいるその鼻っつらを圧し折りたい。

招待状には婚約パーティをした後結婚をするので兼用して客を留まらせるらしい。

そこで何かあのスィスルーとかいう平民がデモンストレーションをする。

婚約者として不足でないとアピールする為。

だろうな、とローは言う。

そんなのを今更しても無駄な足掻き。

既に醜態を晒し過ぎた、彼らは。

デモンストレーションというが、魔力が使いにくいのに成功するというのだろうか。

 

「例の平民は精霊に好かれていて治癒系の魔法が得意なんだそうだ」

 

「精霊に?あの子供みたいな癇癪を起こすっていう?ああ…………展開読めた」

 

きっと精霊はスィスルーが必死に妃の座を得ようとする姿は滑稽に写る。

天邪鬼で悪意が好きでからかうのを得意とする精霊達にはその姿はまさに弄りがいのあるものだろう。

多分、かの国にとっては最悪な事が起こる。

 

「見に行く価値は見いだせそうか?」

 

「かなり、ね」

 

更にローはこんな提案をしてきた。

 

「なら、もっと良いスパイスを振りかけてやろう」

 

普通ならこんな事は言わないが、前に我慢に我慢を重ねて嵌められないように奔走した時のお返しがまだ済んでいない。

だから、報復とまでは言わないかもしれないが、こちらを苦労させたのだから、どんな試練があっても文句なんてないよね?な意趣返しである。

ローのこういうノリの良い所が実は結構ツボだったり。

勿論賛成だし、やろうと言ったのは必然だ。

そうと決まればとパーティまでにやることは沢山ある。

暇でないというのもなかなかに楽しいものだ。

半年間向こうのパーティには一切出ていないからまだ怒ってるんだろう、と向こうは思っているだろうな。

ローは秘密事を囁くように甘く誘惑してくる。

 

「──と、いう訳だ。どうだ?」

 

「ええっと、それはいくらなんでも…………」

 

「別に不都合は無い筈だ」

 

「不都合というより、ローのお母様とかラミさんとか…………怒ると思うけど」

 

「どうせおれだけ怒られるんだ。なら、一纏めにやらかした方が怒られ得ってもんだろ」

 

それは暴論ですよ婚約者さん。

苦笑を浮かべてジィッと指を見てからグーパーグーパーさせて、溜息を吐いた。

 

「全てはあの男達を踊らせる為」

 

「ああ。最高に楽しくなるぞ」

 

ローはニヤリと笑って唇に口付けた。

 

 

 

婚約と結婚の披露パーティは特に視線が多く、今まで姿を表さなかった元婚約者のライマと魔法大国の公爵であるローとの同時出席は少なからずパーティ内を盛り上げる一因になっていた。

ついに魔法が使いやすくなるのか、それも近いかもそれない。

そんな都合の良い解釈や見解を述べ合う貴族を見ながらローはクスッと笑う。

そんなわけ無いだろ、と声に出さなくてもそれは聞こえてきそうだ。

都合が良すぎるのだこの国は。

この国の人間は己達の国の王子が何をしたのか全く理解出来ていないようだった。

婚約破棄を一方的にして契約を勝手に破り、更にはこちらを濡れ衣で有りもしない罪で独自に裁こうとした。

婚約者だったからまだ国籍は向かうだから、裁くなど出来ない。

だというのに散々罵倒しこちらを舐めて食って掛かり、浮気をした癖に随分と馬鹿な暴挙に出た。

その結果、魔法は廃り貿易は進まなくなり、各国から敵視や領土を狙われるようになる。

ロー達を招きたくなる状況にまで追い込まれていたのだ。

別にそれはライマのせいではない、王子の怠慢が原因だ。

立場が上の婚約者を放置し貶した。

平民と恋に現を抜かし虚言を信じてしまった。

虚言をなんの根拠もなく信じる次世代の王なんて民はどう思うだろうか。

排他され継承権も剥がされる日は近い。

それに、彼はスィスルーとかいう女とも結婚ぜざるおえない。

ライマよりも優れていて自分に相応だと周りに宣言した為に。

 

「ねぇ、ローさん。王子夫婦がこっち見てる」

 

甘えるように擦り寄るとローは承知とばかりに腰を引き寄せてくる。

 

「ああ。知ってる。まるで縋ってくる成れの果てみたいな目をしてやがるな」

 

ローの例えばドンピシャだ。

しかし、こちらはウェルカムではないので挨拶などしに行かない。

辛うじてやるのなら王様夫婦くらいだ。

こちらの方が地位も国も上。

本当は戦争になっても可笑しくなかったが、罪のない民間人を巻き込むのは後味も悪く、ローと婚約出来たのだから抑えてもらった。

次に矢を引いたら止められる可能性は低くなるけれど。

舐められたからこそヤバかった。

ところで、女の方についてなのだが、正室になれないかもしれないと専らの話し。

ライマは王妃になる為に八年程無駄にした。

それを二年でやらねば婚約者から降ろされるか側室を取らされる。

八年も待っていたら寧ろ王妃等いらない。

しかし、いらないともいかないので無用となって側室へ下げられる。

二年なんてかなり厳しいのに覚えるのは余程の記憶持ちでなければ無理だろう。

王妃はガーデンテラスで紅茶でも飲んでおけば良いとスィスルーは思っていたのか四苦八苦しているらしい。

国の顔として近隣諸国に行かねばならない他にもサロンを沢山開いて持て成したり、やる事は王よりあるかもしれないと思ってしまうくらいある。

ローが言うにはもしかしたら王妃になる女の教育係として誘われる可能性を示唆され、気持ち悪いと吐き気がした。

言ったら絶対に王妃としてすげ替えられるに決まっている。

囲って逃げられなくする可能性も無きに有らず。

 

「デモンストレーションはいつするんだ?」

 

ローが周りを見渡してぽつりと言う。

実は、招待状にはもう一つ書いてあって、もしよければ魔力をほんの少し持ってきて欲しいとあった。

なんじゃそりゃ、と馬鹿馬鹿しくなってどこまで落ちるに語れば気が済むんだと思った。

ローも同じ事を言って火に手紙を入れたので、勿論持ってきてはいない。

デモンストレーションまでこちらに用意させようとしたのだろう。

謝るために呼んだのに傷口広げてどうするんだって思った。

 

「そろそろご挨拶しようよ、ロー」

 

腕を組んでいるままローを見ると彼は薄く笑みを浮かべて「そうだな」と述べると足は王座へ向かう。

誰もがそれに密かに見ているのを肌で感じる。

王妃として育てられたから見られるのは慣れているし、こんな事で萎縮等しない。

 

「今日はお招きいただきありがとうございました」

 

ローが先に挨拶してこちらは足を緩く曲げて礼を取る。

王と王妃は誰でもいける用の顔で対応する。

けれど、そこには計算されている瞳の光が見えた。

そんな都合の良い結末はないんだよ。

内心嗤って話しが終わるのを待つ。

ローが去ろうと踵を返すと会場がまた盛り上がる。

やはり魔力はまた貰えるようだ。

これでやっと不便な暮らしも終わる。

あはは、馬鹿?

そんなわけない。

魔力をまた通すなんて言ってないし。

王様達と裏で密かに交わしたなんてものもない。

つまりは、通さないしまだ許してない。

格下の国に馬鹿にされたのに簡単に許されると思ってるなんて貴族達はお花畑に住んでいるのかな?

 

「トラファルガー公爵」

 

おやおや、ついに王子達がやってきた。

にしても、スィスルーの方はにこっと笑みを浮かべているものの、瞳は嫉妬と僻みと恨みが蠢いている。

人の婚約者を取ったのに良いご身分だ。

そんな余裕はない筈なんだけどね。

ていうか、この二人仲悪いよきっと。

表面では一緒に居るけど腕も組んでいない。

こりゃ聞いていたよりも二人の立場はグラグラに揺れているだろう。

 

「これはこれは、バッカン王子、婚約者様。相変わらず仲睦まじいご様子で」

 

(ぷっ!ローやめてよ、お腹壊れるぅっ)

 

凄い嫌味だ。

ほら、彼らも頬が引き攣ってるじゃん。

動かしにくいだろう口でそれ程でもと謙遜に聞こえているが実は本音な事を言う。

その発言に僅かにスィスルーは無言になってローへ話しかける。

ふーん、次はローを掠め取るつもりなのねー。

 

「今度そちらの国へ行ってみたいですわ」

 

「どうでしょう。入国審査で止められるかもしれませんが、止めないでおきましょう」

 

ローの発言に女はきょとんとして男は顔を蒼白にさせる。

まだ許していないのを今知ったとか。

無能だな、本当。

ライマがこの王子を陰で操るように王妃に言い含められていた。

それは、彼はもう政を担えさせられないと王族や周りが昔から思っていたという事実。

だというのに、頼みの婚約は破棄され、変わった女は尻軽の上に頭が緩い。

王家の落胆は押して図るべきと言わざるおえない。

このまますんなり王と王妃が座を譲るのも周りがそれをさせるのかも怪しい。

不幸な事故で死んでしまう方がずっと有り得るのだ。

何にもない辺鄙な領地で隠居を選択した方が命は多少救われる。

不便さを考えればお花畑な二人は我慢出来そうにないと思われるから、それを行う事は余程命が脅かされ無いとあり得ないと思う。

ローが一礼すると婚約者同士から離れる。

踊った後にデモンストレーションがあると司会者が説明し、遊覧な音楽が流れ出した。

王子達も踊り、ライマ達も他の人達の視線を気にせず踊る。

くるくるくるくる、くるくるくくるくる。

ああ、ローの言うとおり最高のパーティだ。

何もかもが楽しくて優越感すら感じる。

ローとライマは似た物同士。

やられたら、やり返す。

やったことを後悔させるくらい。

過剰であればある程その後から来る後味は美味となる。

復讐と言うには物足りなくて、報復と呼ぶにも自業自得。

悪戯としては生温い。

そうだ──ー見せしめ。

これが二人のやる事にしっくり来る。

 

「ロー。私、今のこの状況にピッタリな言葉を思い付いたよ」

 

「お遊び、とかじゃねェのか?」

 

ローもなかなか辛辣な言葉を選んだものだ。

 

「ううん。彼らは見せしめ」

 

「見せしめ…………フフ、意気の良い語呂だな」

 

ローも気に入ってくれたみたいでニヤリと笑う。

その悪人顔が好きだ。

悪いことをしている、面白い事をしていると実感出来るのだから。

踊り終わると司会者から庭に出て欲しいと頼まれる。

デモンストレーションの流れを聞き及んでいた招待客達はスムーズに庭へ向かう。

 

「結果が楽しみだな」

 

ローが耳元へ愉快な羅列を並べ立てる。

妖精は魔力を好む。

しかし、今この国は絶賛魔力不足により何もかもが停滞気味。

妖精も不満を溜めて離れるのだって時間の問題だ。

妖精は魔力を貰い代わりに力を貸す。

人は魔力を持っているが魔法は生活魔法程度しか使えない。

奇跡と呼ばれる程の魔法を使えるのは妖精の恩恵が大きい。

魔法も鈍くなり妖精にも見放されつつあるのだから王も貴族達も焦っている。

こうなるのは分かっていたのにこちらを盛大に侮辱し民衆の耳にも入る程の醜態を晒した尻拭いは死ぬまで終わらないのだろう。

 

 

魔法はこの世界で言う資源だ。

けれど、一度その土地に魔力が出るの半永久的に魔法は出続ける。

温泉に近い。

魔法大国は世界一魔法の濃度が高く、それを他国に輸入する技術を独自に得ていた。

他の国も輸入しているが、魔法大国の様に多くて濃い魔力は無理だ。

どんなに国力を持ってしても魔法で勝る国は魔法大国以外存在しない。

運良く今居るバッカン王子が居る国は輸入して欲しいと"頼んできた"のだ。

つまり、王子の方が"婿入り"したようなものなのである。

国はこちらに、というものがどういう契約と探り合いの結果になったのかは知らない。

ライマの推測にはなるが、魔法大国はこの国に戦争をしかけたとして、結果を得ても何も無いこの国は何の魅力もないのでこちらに敵対の意思はないと各国に知らせる為だったのではないか。

手っ取り早く示すために王子を大国にこさせる為に嫁入りという事を選んだのかもしれない。

魔法大国の方が立場は上。

王子を国にこさせればそれは周りに人質を取ったと思われる。

ピリピリな状態にしたいと思ったのなら有無を言わさず命令できるのだから。

その推測があり得るのかはさて置き、取り敢えず向こうから勝手に破棄したのでもう遠慮も何もする事無くこの国を総スカンする方針に決まった。

この国の王は荒事が好きではなく、小心者であるというのは誰でも知っているのに王の胃をキュッと締めた王子の心理が理解出来ない。

そもそも喧嘩を吹っ掛けて旨味も無いし、色々ヤバイ立場になるのは彼。

 

「これから彼女が妖精達とイリュージョンを行います」

 

司会役の男が女に視線を渡す。

さてさて、魔力もあまりない状態でどうやるのか。

女、スィスルーは深く深呼吸して手をフラフラさせる。

妖精達に語りかけているのか口元が小さく動く。

 

「…………え?」

 

何の反応も起こさない周りに先ず声を発したのはスィスルー。

何も起こらないのはデモンストレーションの一環と捉えていた客達はスィスルーの困惑に騒然となる。

何も起こらないのは本当に何も起こっていないからだと周りは知った。

それにより囁かれるのは失敗した、妖精が協力しない女性。

という、未来に王妃へとなる切符が燃えていく様。

まぁ、平民の女はそもそも王妃になどなれない。

そういう為に位置づけられてもいないし教育だって幼い頃から受けていないからこそこの国の王子に図々しく擦り寄れたわけだが。

権利を持たないのに教育を受けていたのはあくまで外交へ行かせるだけで本来の王妃の仕事は絶対に任せられる事はなかっただろう。

婚約したのはそうせざるを得ないように仕掛けたからだ。

有無も無くそうする事しか最早道はなかった。

 

「あんたね!」

 

耳につんざく耳障りな罵倒染みた声。

誰に向かって言っているのかと声の出処であるスィスルーを見ると目がこちらを睨めつけていた。

遂にトチ狂ったか。

そう思わずにはいられない気迫と謂れのない問い。

 

「ロー様」

 

「ああ…………可哀想に」

 

ローに擦り寄ると演技派なローは見事に自分のパートナーを庇う仕草をやってのける。

この状態は正に昔スィスルー達やられた茶番をなぞった真似だ。

それに気を尖らせたらしいスィスルーは王子を呼んで叫ぶ。

惨めったらしい真似は止せば良いのに。

これ以上人間としての尊厳を自ら貶めるなんてとてもではないが恐ろしい。

 

「王子っ。見てあれ!あのふざけたやり口を!彼女が私達を嵌めたのよ!妖精達が応えてくれないのはあの女が毒を撒いているからに違いないわ!」

 

あれ、王子顔面蒼白でスィスルーを見ている。

ああ、そういえばスィスルーの嘘を告げて化けの皮を剥がしたのをやったからもう女の言い分を信じる馬鹿で愚かな王子は居ないみたいだ。

ここまで騒がせたら二人一緒に処刑行きは確定してしまうから当然の反応である。

 

「邪なのは貴様だスィスルー。我らに温情と猶予を与えて下さった王家に仇なすとは」

 

フォローする為にスィスルーを断罪する事にした王子は淡々と告げていく。

保身に走ったかどうかなんてこの際どうでも良い。

私的な言い訳なんてキリが無いし興味も無いのだ。

只、凄く気に入らないのは王子も同罪である事。

だというのに、スィスルーだけをトカゲのしっぽ切りにするという、被害者の己が居る前でパフォーマンスをやった事はやってはいけなかった。

ローと目を合わせて、頷く。

 

「安心して欲しい、トラファルガー公爵様。もうスィスルーが彼女と貴方を害することはない」

 

己の失態を棚に上げたこの台詞。

嘲笑を浮かべるのも通り越し空笑いを行く。

 

「まさか、謝罪しているのですか?」

 

「はい。謝罪と慈悲を」

 

「………………端から謝罪を受ける受けないの次元でもないのですけれど?何を仰っておられるのです?こんな公の場で謝るだなんて、土下座されて許さなければいけない雰囲気にするのと対して変わらない行為です」

 

周りに人が居るのに空けスケに謝るなんてそもそも誠意を感じないし、寧ろ悪意を凄まじく感じる。

周りの視線は謝られている方にまるで加害者のような視線を浴びせられ、非がそっちにあるのに不憫な人だという同情の視線を向けられるのだ。

王子という小さは頃から政治の帝王学を習わされているのを思えば悪意のある罠に嵌めようとしているのがスカスカに分かる。

元はといえば悪いのは王子側だというのに、だ。

それを理解してしまったのだから許すという次元の前に吐き気と嫌悪で心が拒絶する。

 

「宣言します。妖精の魔法により汝バッカン殿下と私の間に起こり得るありとあらゆる接触を拒絶します」

 

魔法の言葉で制約を唱えた。

 

「なっ」

 

バッカンは絶句した。

これから未来永劫死体にすら触れる事が出来なくなったのだから。

下手をすれば話す事も支障が出るかもしれない。

気持ち悪いし声も聞きたくない。

これを妖精達が受理した場合誰が相手だろうと制約を破棄させる事も、無しにさせる事も出来ない。

王族よりも上なのが妖精という存在なのだから。

 

「受理」

 

風が吹いて身体に制約が書かれていく感覚に侵され、受理された事を実感する。

恐らく王子側にも起こっているだろう変化にローが笑みを浮かべた。

内心嬉しく思っているに違いない。

何せ、虫酸が走る程嫌悪している相手が触れる事も近寄ることもないのだから。

何者にも邪魔される事なく距離を引き離せた。

嬉しくて、今日は祝いたい気分だろう。

ローも制約を掛ける事が出来るが、その時は王子が接触しようとしてくる時だ。

受理された事で永久に会う必要のなくなった事で解放感が素晴らしい。

もっと早くにしとけば良いと思うかもしれないが、もっと不味い真似をしてもらわなければ受理されない可能性があったし、王家の事等今日まで塵にも考える事がなかった事もあってする機会が無かった。

 

「どういうつもりだ!」

 

途端に激しい尖った声音の方向を向くと例の馬鹿王子がこちらを剣呑な瞳でねめつけていて、サッと顔色を青くさせ(演技ですけど)ローへ寄りかかる。

こうすれば被害者の完成だ。

前にされた濡れ衣の空気をとくと味わえと思いつつローが腰に手をやってくれて目で合図する。

 

「どういうつもり、とは?」

 

彼が有無を言わさぬ声で問うと王子は先程の勢いを無くした。

逃げ腰で怯えの気配を見せてローへの反論を言えないらしい。

勢いを無くした姿は得も言えぬ程間抜けだ。

こんなのが王子として、民を導いていけるだなんて誰も思えないだろう。

婚約者であったのが黒歴史だ最早。

ローと共に生きて行けるきっかけになった分には役に立った。

しかし、浮気をする国の顔はいらない。

存在すら見たくない。

だから、もう彼が近寄れなくなったのは幸いである。

 

「婚約者殿はもう私と、その」

 

「会えなくなっただけだが?それが何でしょう。会えなくなって何か都合が悪いとでも?今、彼女と婚約し、そして──結婚したのですから、もう何の関係もない」

 

ざわざわ。

ローの言葉で周囲が煩くなる。

婚約者として参加していたのだから情報としては古い。

否、決まったのを知って、更に役所へ届け出たのは二人だけで決めた事。

つまり、ローと己しか居ない。

親族すらそれは知らないので彼等がえええ!となるのは分かっていた。

ああ、彼等の驚く顔は堪らなく愉快だ。

ローが二人だけしか知らない結婚届けを出して、もう王子が隙を感じられないモノにしようと言われた時、そんなアホな真似をしないだろうと高を括っていたのだが、彼の予言通り王子は婚約者を切り捨て自分の罪も重ねて背負わせた。

全く愚か。

 

「結婚したとは、知らなかった」

 

「どこかの誰かが婚約者を手込めにしてしまおうとか、彼女のお人好しにかこつけて自分の浮気を許してもらおうとか思われても鬱陶しいですからね」

 

誰とは言わないがと暗に含まれた内容に心当たりのある王子は口を閉じているが、今回の婚約者切り捨てや押しつけを予期されていたと知り、顔色が悪くなっている。

 

「恋愛ごっこは私達の知らないところでやってくれ」

 

「っ」

 

恋愛ごっことの発言にもう何も言えなくなった相手を放ってローは踵を返した。

どうやらもう帰るらしい。

 

「魔力がまた通ると思っている薄情者がいるらしいが、やった事をよくよく思い出してから考えろ」

 

腰に手を当てたまま広場から脱出させられた。

息苦しい訳ではないが息を思い切り吸った。

噴水のある所よりも何もない方が心地が良い。

 

「平気か」

 

人気が無い場所へ移動した二人。

労るローに笑みを返して凄くスカッとしたと答えると彼も満足そうに笑い返してくれた。

誰にも秘密で行ったのは結婚の婚姻届提出。

今回、王子が失態を取り返す為に今後陰湿なまでに接触を図ってくるだろうとローは予期し、人妻になっておけば婚約者という立場が覆される事もないし、既に結んでしまうともうどうにも出来ない。

だから、引き裂かれない様に二人で行いそれは実を確かに結んだ。

王子は多分今日が駄目でもと行動を起こして婚約者との仲を裂く様な手を使ってくる事は前例もある。

婚約者を捨てまた婚約者を捨て、もう王子の婚姻関係になって得をするどころか捨てられるとのレッテルはこれで強固になり二度と剥がれる事はなくなっただろう。

嫁ぐ事も出来ないレベルの国の王子の未来は明るい物ではない。

王子の加護を失ったあの女の未来もきっと真っ暗。

人も蹴落とすのは蹴落とされる側にもなるというのを忘れていた付け。

振り返らず馬車に乗る。

そして、

 

「ロー、ギュッとして」

 

「ああ。いくらでもしてやる」

 

もうライマはロー以外愛せないのだ。

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