短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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超ヘタレなローさんと上手くリードしている子のお話。頼れるローさんはいないです。現代パロディ


一番星のヒーロー

買い物から帰宅し部屋の玄関を開けると焦げ臭い匂いが鼻を刺激して買物袋をそこに放置して床を早足に進む。

 

「ロー!?」

 

リビングに入り幼馴染み兼恋人の名を呼ぶとソファから小さく「ここだ」と聞こえ、前に回り込む。

 

「焦げ臭いけどボヤでもあったの!?」

「ない……けど、焦がしちまった……ホットケーキ」

 

「ホットケーキ?……ロー、作ってくれようとしたの?」

 

そう尋ねるとこくりと頷くローは布団にくるまり、まるで引きこもっているように見え相当落ち込んだのだな、と苦笑した。

彼から離れてキッチンに向かうと『ホットケーキ』だった黒い何かがフライパンにこびりついていてその横には途中使用のホットケーキの焼く前の生のものがボウルに残っている。

 

(まだ一枚目なのに、これじゃあ落ち込むか……)

 

ローの不器用さは今に始まったことではなく小さな頃からでそれはそれは見た目とはかけ離れたギャップは凄く、今まで付き合った女子、又は女性を尽く驚かせ何度フラれたことか。

幼馴染みなりに彼の駄目さには免疫力があったから何かあってもいつものことだとすぐに処理し対処できた。

だから残ったのはリーシャだけで、後の女性達は残酷に情け無用の如く幼馴染みから離れていき彼を更にネガティヴへとしてしまった。

 

『おれの何が悪いんだ……』

 

『ローは悪くないよ。きっといつかローのことを理解して受け止めてくれる人はいるから』

 

『リーシャ……お前だけはおれを捨てないでくれ……』

 

高校の最後の夏、彼は何人か目の彼女に幻滅されフラれたのを最後に誰とも付き合わなくなった。

そうして、何故今はローと付き合っているのかというと頑張っても直らない色々な劣等を克服する為の相手役という仮の彼女。

つまり、練習として自分がローをサポートする役割を担う仮初めのパートナーだ。

一応彼女という肩書きを負っているので一緒に住んでいる。

 

このアパートには数人の個性的なの人間が住んでいて、なかなかの良物件なので気に入っているのだが、彼はもっと大きなLDKにしようと提案してくることがあるのでその理由を察すれば笑みが溢れてしまう。

お隣がかなりのお転婆な人なのでいつもローは振り回されている。

それにローには仕事があるのだ。

住む場所を変えれば手続きが面倒というのもある。

 

「ロー」

 

「…………?」

 

呼ぶと布団から顔だけだして泣き出しそうな顔でこちらを見た。

ちょいちょいと手招きすると布団を脱け殻のように原型を崩さず這い出てくるロー。

ようやく布団から離れた彼がキッチンに気まずそうに来るとシュンとした顔でチラチラとこちらの顔色を窺う。

 

「せっかくここまで作ったんだし、一緒に作ろう?そうすれば絶対上手く焼けるよ」

 

「!…………っ~~~!」

 

「わっ」

 

ギュウウ~、と抱きついてきたローは数秒後我に返った様子で慌てて離れた。

 

「わ、悪ィ!……その、嬉しすぎたから…………だからだな……うっ」

 

言い訳をしている間にまた布団に引きこもりそうな空気を漂わせてきたのでどうにかして引き止めフライパンを洗う作業を始める。

こびりつきはなかなか落ちなかったけど努力と根気で頑張った。

ローには手伝わせないことに対する変な誤解を与えてしまい落ちこまないように、何かをさせる代わりに次の仕事で考えている話を聞かせて、と頼んだ。

 

「今回はどんな話にしようと思っているの?」

 

「歯磨きをしようとしたら熱湯で火傷してしまう話にしようと思っている………………あれは本当に熱かった……」

 

「そんなことも、あったね……残らなくて良かった、痕」

 

洗い終えたフライパンを置いてタオルで手を拭くとローの熱湯がかかった箇所である手の甲を触る。

ふるりと彼の手が震えて「あ」とやってしまったことに気付く。

顔を見やれば琥珀色の瞳は動揺したように一点を見詰め顔は熟れた林檎のように真っ赤になる。

身体も少しずつ揺れ始めて直ぐに手を離し話題を変えるが揺れは収まりそうになく彼は悶えてしまいしゃがみ込み膝に顔を埋めた。

 

「ご、ごめんロー。わざとじゃないんだけど…………ロー?」

 

「う"!~~~!!」

 

顔を覗き込めば盛大に肩が揺れ小刻みに震える身体に罪悪感が募る。

ローは極度の人見知りというか、女に弱い。

手に触れてしまえばこんな風に恥ずかしさで自分の殻に籠ってしまう。

まだ幼馴染みとしての反応がこれなので他の異性になんて時は、もう大変だ。

 

「本当にごめんね、私、向こう行ってるから……落ち着いたらホットケーキ作ろう?」

 

そう声をかけて立ち上がる。

横を通りすぎた時、小さな力がジーンズの裾を引くのを感じ止まって後ろを振り返った。

ゴツゴツとした男の手が引き止めるように摘まんでいて眼を見開く。

 

「ロー?どうしたの?」

 

「…………くな」

 

「え?」

 

「行くな。おれを……置いていくな……頼む」

 

寂しがり屋のウサギのように震えながらも強い意思を持った瞳でそう口にしたロー。

暫し考えリーシャは立てるかと尋ねるとこくんと首を縦に動かして彼はゆるゆるとスローペースに動き出す。

手をジーンズから服の端に変えてどこにも行かせないように掴む姿に不覚にもキュンときた。

 

「作る?」

 

こくん。

 

ローは頷くと共にキッチンへ並ぶ。

ホットケーキの元をかき混ぜるとお玉で掬い上げ油の引いたフライパンへと落とす。

そして彼をフライパンの前へ立たせると不安げな顔で見下ろされる。

 

「今度は私も居るから、焦げさせないよ」

 

「……ああ」

 

安心したようと笑うローに髪を撫でたくなる衝動に駆られたが本人がモダモダしてしまうことは必然だったので諦めた。

ぷくりぷくりとホットケーキの表面が気泡のように小さく膨れる。

今がひっくり返すタイミングだというとローはごくりと喉を鳴らしフライ返しを手に近付けるとホットケーキの裏に差し込み持ち上げた。

 

「く、失敗する気がする……」

 

「うーん、じゃあ……ロー、少しだけ我慢してて?」

 

一応先に言っておき彼の手の上から自分の手を重ね合わせた。

驚いた表情を見せたローに気付かないフリをして「いっせーのでひっくり返すから」と言う。

彼は合点がいったのか前を向くと頷いたのでクスッと素直な彼の行動に笑みを浮かべる。

 

「ふふ…………いくよ、いっせーのっ」

 

見事に息の合った共同作業は上手くいきホットケーキが綺麗に裏返った。

ローを見るとそのことに感動しているのか嬉しそうに口元を上げてホットケーキを一心に見詰めている。

お皿を用意して残ったホットケーキを全て焼き終える頃には彼一人でも裏返せるようになっていた。

途中で焼いたものを摘まんだりしてみたが市販のものでありながらも美味しかったので空腹のお腹には有り難かった。

どうらや途中で間違った材料は入れていなかったようで安堵したのもある。

最後に挫けて挫折しかけたものの完成したホットケーキを感激の眼差しで見ていた彼にシロップを渡す。

 

「全部使いきれたね……でもこんなに食べられる?三人分はありそうだけど……」

 

「余裕だ……!」

 

うきうきと珍しく目が輝いているローはサッとホットケーキを自分の更に入れていく。

彼は昔から痩せの大食いでお隣さんよりかは食べはしないがそれなりに食べる。

モグモグと一口が多く頬がこれでかと膨らんでいるのを見て笑う。

それに首を傾げる彼はまた一口と二人前と半人前を平らげた。

そして、落ち込んだ。

 

「お、お前の為に作ったのに殆どおれが……おれが……食うなんて…………」

 

「ロー、私はこれだけでもうお腹いっぱいだよ?それに、ローの食べてる時の表情、私好きだし」

「す、好き……!?」

 

「あ!………………」

 

しまったと本日二度目の失態に声を上げるが時既に遅し。

ローは引きこもりの如くソファにあった抜け出したままの形で放置されていた布団にくるまりモダモダタイムが始まってしまった。

きっと布団の中の彼は真っ赤な顔で悶絶しているのだと安易に想像でき苦笑する。

ホットケーキを食べ終えるとローの食べ終えた分も一緒にシンクへ運ぶ。

 

「お、おれも手伝う!」

 

「あ、じゃあお皿をとか拭いてくれる?」

 

「ああ」

 

役に立てる事が嬉しいのかモダモダタイムから立ち直り彼は皿拭き用のタオルを手にすると洗い終えた食器を拭いていき乾燥棚へ置いてくれた。

 

「ロー、これが終わったらパソコン起動させる?それとも今日は止めとく?」

 

「アイデアが浮かんでるうちに進めてェから今日は仕事する」

 

ローは考え込んでそう答えた。

早速用事を全て片付けると共に居間に座りノートパソコンを開く。

勿論全て彼の管轄なので彼が作業する。

 

「しろくまとヒーロー、新作楽しみ」

 

「っ!今からそんなこと言われたら……」

 

「あ、変にプレッシャーかけちゃった?ごめん……」

 

「!、違う…………ただ、捗るって……言いたかった、だけだ……。いつもリーシャのお陰でこの作品は生まれるしな」

 

ローにそう言われてリーシャは内心嬉しくて、頬の緩みを見られたくなくて下を向く。

 

「その、 い、いつも感謝……してるんだ。」

 

「…………ロー」

 

ローの切実な本音に涙ぐみそうになるが相手がパニックになるかもしれないことを考えると歯止めがかかる。

トラファルガー・ロー、幼馴染みで仮の恋人である彼はペンネーム『ドクター』という名で絵本『しろくまとヒーロー』シリーズを手掛ける絵本作家。

今では世界をも越えて人気があり愛される作品となり、今でもその人気を博しているという不動の絵本作家として有名人だ。

彼の意向で本名と顔はトップシークレット。

謎の絵本作家としても有名で取材も驚くほどしたいという電話があるらしいが全て断っている。

正にローにとっては天職以外の何物でもないだろう。

カタカタとキーボードを打つローは普段のどよどよとした空気ではなく、シャキッとした仕事の出来る男という表情をしているのでいつもの五割増しカッコイイ。

そんな顔を見てしまえば誰しもが応援したくなってしまうだろうな、と見ていることにも気付かない程集中している幼馴染みの顔を休憩が入るまでこっそり見続けていた。

 

 

お昼過ぎになるとインターホンから訪問者を知らせるベルが鳴った。

ビクついたローに大丈夫だと宥めてからインターホンのカメラに映る人物を確認する。

このアパートはセキュリティが凄くハイクオリティーで安全面はこれでもかと言うほど強固なものなので訪問者を入れる時はアパートの入り口から確認しなければいけない二重式。

相手の顔は見えてもこちらの顔は見えないという一般のカメラ付きセンサー搭載の鉄壁の要塞と言っても過言ではない。

 

「あ、ペンギンさんだ」

 

「時間通りだな。通してやれ」

 

ローの許可も降りてインターホン越しでペンギンという名の絵本作家のマネージャーという肩書きを持つ男性をアパートの中へ招き入れる。

程無くして部屋に来たマネージャーを通すと早速本題に入ってきた。

 

「新作が出来たと聞いたんだが……見せてください」

 

敬語になった途中の口調に内心真面目な人だと思うとローも同じ感想を抱いたのか止めろと先手を打つ。

 

「いくらマネージャーでもお前とは付き合いが長ェ……いつもみてーに喋れペンギン」

 

「ですが一応作家の……」

 

「くどい」

 

「………………わかった。悪かったな、ロー。リーシャも」

 

「私は構わないんだけど、ローが怒ると大変だからね」

 

「な!おれはそんなに小せェ器じゃねェっ……っ!くそ……こんなことで怒鳴るなんてダセェ……!」

 

「ロー、今落ち込んだら進まないよ」

 

何とか気を取り直せさせるとローは文章を入れたUSBメモリーと挿し絵の入った封筒をペンギンに渡す。

もう帰ってしまうのかと考えるとそれも淋しい感じがしたので今からお茶を入れるからどうかと尋ねてみればあっさりと承諾する彼に内心、ローと喋りたいんだろうな、と微笑ましくなる。

 

「じゃあ緑茶でもいれてくるから寛いでて」

 

「ああ、すまない」

 

ペンギンの言葉に意を汲むとローがそわそわしていることに気づいた。

何となく察し彼に「ローは?」と聞くと嬉しそうにもじもじさせていた手を止めて立ち上がる。

 

「おれはコーヒー………………何か手伝いてェ……」

 

「うん、わかった。ペンギンは出来上がった挿し絵でも見てて待っててもらっていい?」

 

「ふふ……ああ、そうする」

 

ペンギンは危機として立ち上がる姿を子を見守るような目で見ると頷きリーシャはローを連れてキッチンへ向かう。

お湯を触らせると火傷してしまうかもしれないので三人分の湯呑みを用意することとお茶の葉を取り出すように指示を下す。

まるでお使いを頼まれた子供のように頷くローを微笑ましく感じながら見守る。

無事に役目を果たした彼にありがとうと言うと頬を紅潮させ頭をガリガリとかく。

可愛い仕草にキュンとときめきつい手が寝癖並みにツンツンとしている髪を撫でたくなる。

 

「どうした?」

 

「あ、ご、ごめん……頭を撫でたくなって……嫌だよね……」

 

苦笑して手を引っ込めるとローはきょとんとしてまじまじと手を見てきた。

今度はこっちが見てしまう番でどうしてそんなに見るのだろうと思っていると徐々に口を開きなにか言いたげに目をさ迷わせる。

 

「その……リーシャになら……か、か」

 

「か……?」

 

「構わない……!」

 

「えっ、あ……いいの?触るんだよ?」

 

「ふ、触れて、欲しいと思ってるが……恥ずかしくて……言えねェ……だけだ」

 

初めて聞いた言葉に唖然とするとローは頬を紅潮させたまま怖ず怖ずと頭を撫でやすい位置に下げてきた。

彼は身長が高いので手が届かないことを自覚していたようで嬉しくなる。

お言葉に甘えやんわりと見た目と反して柔らかい癖毛に触れると彼は猫のように目を細そめ気持ちよさそうに笑みを浮かべた。

ペンギンにお茶を渡すと見ていた挿し絵をしまってこちらを向く。

 

「今回も良い作品が出来たな」

 

「元の話が実話だしね……」

 

「ベポが火傷をしてリスのピロが手当てする所までガッツリな」

 

リスのピロとはリーシャをモデルにしたベポの親友だ。

シリーズ当初から共に出ているピロもベポ同様人気なのだが世話焼きのリスよりもドジッ子のしろくまの方が読者に好かれている。

つまりローの体質が全世界で愛されているようなものだ。

 

「火傷をしたな、そういえば……もうすっかり治ったのか?」

 

「うん。軟膏とか湿布とか色々使って完治した」

 

「病院は嫌いだ……そういえばペンギン」

 

「ん?」

 

「次は病院が舞台の話を書くから丁度良い医学書でも資料に探してきてこい」

 

「………………何時の元ネタを使うんだ?」

 

「小学校の時の実話だ」

 

「そういえばそんなこともあったかなぁ」

 

リーシャが思い出そうとしているとローが慌てて「思い出すなっ」と思考を止めにかかってきたので相当なトラウマを抱えているようだ。

ペンギンと顔を合わせ苦笑すると咳払いをする絵本作家。

 

「と、兎に角っ。持ってこい……わかったな?」

 

「ええ、心得ましたよ船長」

 

「高校の時のあだ名だったよね?懐かしい……ね?船長?」

 

「っ!!リーシャまでっ。おれは……ただ頼まれたからで……」

 

ローが必死に弁解しているのか高校の時に男子校という特殊な環境を選んだ彼が部活に助っ人に誘われた際にそこの部長が練習中に怪我をして出られなくなるという事態が起きた。

それに担ぎ出されたのは見た目がクールで頼り概のある彼で、結局断る事ができなかったからと船長と呼ばれて…………カヌーのレースに出場したのだ。

リーシャも応援に行ったのでよく覚えている。

あの時のローは絵本を製作している時と同じように輝いていて、とても男らしかった…………というのは本当にレースの最中だけだったようで見事に一着でゴールした後はふらふらとした足取りでこちらへ来て倒れてしまった。

極度の緊張でぷつりと精神的に気力が切れてしまったのだと思う。

優勝した祝いに何がしたいかと聞くと「二人だけでパフェを食べにいきたい」と笑顔で述べたのだった。

 

「ローって甘いの好きだからねー……」

 

「っ、いきなりどうした?」

 

リーシャの独り言に驚いたのか怯えて聞いてくるローに何でもない、と付け加える。

彼は甘いものが好きで、ギャップがあるというのも女子にはよく驚かれるらしい。

特に苺のパフェが好きでケーキなんかもたくさん食べる。

きっとこの三人の中で女子力は断トツに高いだろう。

それを口にすると落ち込んでしまうので敢えて黙っておくが。

ふとペンギンとローを見るとまるで同窓会のように笑い合っていて、彼も男の子なんだなぁ、と染々感じた。

眺めていると目元に濃い隈をこさえた仮の恋人が首を傾げてきたので少しからかおうと悪戯心が動く。

 

「ロー達が私を蔑ろにするからつまんないだけー」

 

「なっ!お、おれは別に……そんなつもりで、だな……!」

 

「ふ、ふふっ……嘘だから……安心してよロー」

 

「う"!?嘘…………か?」

 

「うん。嘘……ローはからかいたくなるから、つい口から出任せ言っちゃっただけ……ごめんね」

 

「なら、構わない…………心臓が止まるかと思ったじゃねーか…………ペンギン……分かってたんだろ?言え」

 

「いや?知らなかったぞ?」

 

ペンギンは明らかに口元が緩んでいる表情を浮かべていたのできっと分かっていたのだろうと一目で分かる。

ローはあからさまに遊ばれたのを感じ取ったらしくむくれた。

 

「こうなったらお前の過去をネタに使ってやる」

 

「それだけは止めてくれ、頼むから」

 

苦笑して頬を引き吊らせたペンギンはそれから三十分程居座り帰って行った。

 

その日、事件は起きた。

朝起きるといつものようにローがベッドにいつの間にか入り込んでいるのを眺めてソッとおでこを撫でる。

ん、と可愛い声が洩れる姿に小さく笑みを浮かべると起こさないようにベッドから離れスリッパを履いて部屋を出た。

きっとまた悪夢でも見てしまったのだろうと直ぐに行き着く。

これではいつまで経っても彼に彼女は愚か伴侶も見つけられないと考えると早急に自分離れを始めなければと方法を考えながら朝食の準備に取り掛かる。

 

「××××××××!?××××リーシャ~~っっっ!?!!」

 

凄い悲鳴と助けを求めてきたローの声にお皿を置いて寝室に向かう。

 

「ロー!?どうし、きゃああ!?じ、G!!いやああ!?ちょ!あの……ロー!こっちに来れる!?」

 

ローを呼ぶがガタガタとその体躯は揺れ顔を思いっきり一点に定めたままの彼には聞こえていないようだ。

 

「く、そ……!どうすればいいんだっ……!死にそうだ……っ」

 

「取り敢えず慎重に移動を……」

 

もう一度呼び掛けると今度は耳に届いたようでこちらを向いて涙を浮かべてゆっくりとこちらへやってくるロー。

そうして一定距離を定めると新聞紙を丸め…………その後は想像の通りだ。

ごみ袋を捨てにいくとローが仕切りにアルコールでところどろこを拭いていた。

お疲れ様とありがとうを伝えると彼は勢い良くリーシャに抱きついてきたので驚く。

 

「アイツにはもう会いたくねーっ。嫌いだ、大っ嫌いだ…………っ」

 

彼はぐりぐりと胸に顔を押し付けて不安を払拭するかのようにギュッと抱き付く。

そこまで怖かったのかと頭を撫でた。

嫌がるだろうかと思ったが素振りを見せなかっので大丈夫なようだ。

朝食はローの好きな甘いヨーグルトを付けたら彼は喜んで朝の騒動などすっかり忘れて糖分を味わった。

 

「!…………お、おれは、何てこと……して!」

 

その後は抱き付いたことを思い出してしまったのか自己嫌悪に陥りソファで布団にくるまりモダモダタイムを始めてしまう。

大丈夫だから、気にしてないから、と説得し続けると這い出てきてまたヨーグルトを食べ始めたのだった。

 

 

 

ペンギンに絵本を渡してから数週間経過した時、電話があって発売の時期が決まったという報告を受けた。

その発売日が今日で、ローと共に書店へと出掛ける。

今ではどこの本屋にも売られ公共だけに問わず色んな場所で「しろくまとヒーロー」の絵本を目にするようになった。

彼は毎回自信たっぷりに担当のペンギンに完成品を渡すが、その買う人の反応は別なのかとても気になると言い発売日等に本がある場所へと赴くのが普通となっていったのだ。

ドキドキとリーシャも緊張しながら書店へと入店すればコーナーの一角に大きく売り出されているのが見え嬉しくなる。

 

「ロー、良かったね」

 

「………………」

 

「ふふ……お客さん、喜んでる……」

 

静かに感激しているローは下を向いて頷く。

小さな子供に、親も楽しそうに一緒になって読んでいる。

中には発売されている絵本の派生品であるベポ人形を腕に抱いて読む子もいた。

きっとベポが好きなんだろうと考えずとも分かる。

彼がキュッ、と手を握ってきたので握り返す。

 

「どうする?もう、帰る?」

 

涙を浮かべているだろう人物に向かって尋ねると首を横に振り「もう少しだけ……」と言うので真意を汲み取り足を動かすことはしなかった。

幸せだとローは前に口にしたことがある。

たまたま生まれた作品であっても、それを読んでくれる人がいることが何よりの活力源となるのだと。

そうして、自分は必要とされていることを実感出来ると告げた日の事は色濃く残っていて。

いつか死んだ後にも作品は残る。

だから新しいものが次々と産まれ、作りたくなるとネガティヴなことをよく口走るローがそこまで言えるような仕事に出会えてリーシャも幸せだと思えた。

 

「あ、笑った……」

 

「泣いてる奴も、いるぞ」

 

「それは年齢的にそういう子もいるよ……」

 

クスリと笑ってしまうとローも緩やかに口元を上げて幸せそうに声を洩らした。

 

 

今日こそは。

そう胸に誓い、カーペットに直接座るタイプの低いテーブルでテレビを見ているローを見て名前を呼ぶ。

 

「っ……………………な、なんだ……?」

 

真面目な顔をしていたリーシャの様子に怪訝な表情と不安げに揺れた琥珀色の目。

 

「私はローの仮の恋人だよね?」

 

「っ!?ごほっ!………………あ、ァ…………」

 

語尾を小さくしていき耳を真っ赤にさせ下を向いて挙動不審に体を動かすローを今回は心を鬼にしてフォローしない。

リーシャがそれを聞き終えるとその恋人契約を結ぶときにした約束を持ち出す。

恋人になる理由は、彼女、又は結婚相手を見つける為に練習相手…………即ちサポート役になる。

だからもうそろそろ動かなければいかない。

ローにその事を告げると今にも泣き出しそうにすがってきた。

 

「は!早すぎるっ。まだ、おれは……おれは…………」

 

「早くないよ。私以外の女性に免疫を付けてもらわなきゃ…………サポート役になった意味がない。それに、彼女どころか女友達も全くいないし……」

 

「女は……いらねェ。おれの顔だけで寄ってきて…………中身を知ったらポイ捨てしやがる……」

 

「そんななんて一握りで……ローのことを全部受け止めてくれる人は絶対いる。そして、その人に出会う為に……出会いを求めなきゃ始まらないんだよ?」

 

「う"………………おれにも、女を……選ぶ権利が、あ、あ、あるっ」

 

ローは珍しく己の意見を突き通す。

その様子に首を傾げて理想のタイプでもいるのかと考え問うと彼は目元を紅色に染め徐に喋り出した。

 

「め、め……面倒見が良くて……」

 

チラリ、

 

「うん」

 

「おれの中身も全部理解してて……支えてくれて……」

 

チラッ

 

「うんうん」

 

「あ、甘えさせてくれて、頭を撫でてくれて……たまには、守らせてくれて」

 

チラチラッ

 

「うんっ」

 

「一緒になって笑い合って、くれる……女…………」

 

バッ!

 

途中の話でこちらを横目で流し目をするという謎の行動をした彼は最後まで言うと傍にあった布団を被り我慢できないというように中で悶え込んでいた。

モゾモゾと動くのを見ながら成る程と結果を纏める。

 

「つまり、ローが積極的になってその理想のタイプの人と恋をすればその人とめでたく結婚出来るかもしれないわけだ」

 

今だ恥ずかしくて中で蠢く男に出てくるようにとは言わずその場でこれからの事を説明する。

出会いをするにはまず外に出なければ。

と言うと、聞き届いたのか彼はガッと布団から顔を出しピンピンと跳ねる髪を振り乱して首を横に振る。

 

「こ、断るっ。外には女がいる!おれを見ては獣みてーに品定めして下心で近付いてくる場所なんかに……」

 

「私も女…………それに、大丈夫。いつもロー近寄りような人がいたら睨むでしょ。力んで無意識に」

 

苦笑して述べても彼は頑なに布団から出ない。

 

「………………パフェ」

 

ピクリ、

 

「苺の…………」

 

「…………!」

 

「割引券…………無駄にしたくないなー」

 

ピクッ

 

先程から面白いくらいに甘いものの単語に反応するローに笑いが洩れそうになるが我慢。

本当は割引券なんてなくても余裕で生活出来る程の著作権料を貰っている彼には全く意味のない紙切れだが割引券を使うと苺が増えるというサービスが付くのだ。

彼にとっては何よりもプライスレスだろう。

割引券を財布から取りだしヒラリと見せると己の天秤をかけているのか葛藤している表情を浮かべ割引券をジッと物欲しそうに見詰めた後、覚悟を決めたのか布団からゆっくり出てきた。

 

「うむ、よろしい…………楽にいこう」

 

「出来ねェ…………」

 

ガックリと項垂れる男を友人がコーディネートしてくれた服に着替えさせる。

 

「じゃ、私は向こうに行くからね」

 

「ああ、その……」

 

「?」

 

「仮に、は、裸を見たって…………怒らねェ……から…………」

 

「あ、うん。そこは平気。絶対見ないから安心して着替えて?」

 

「…………………………分かった」

 

ケロリと答えるリーシャに何処か不満げに頷き納得していなさそうに頷いたローは出ていくまでこちらを見続けた。

 

(見られないか不安なのか…………ふふ、可愛いんだから…………)

 

寂しそうにも見えたが何を寂しがっているのかも分からないのでそこは気にしないことにした。

 

ローを連れだってアパートを出ると彼は嫌そうに太陽を睨み付けた。

晴天過ぎる、曇りだったら良かった、等と悪態をつきながら近くにあるショッピングモールの中にある個室付きのレストランへ入る。

のだが、その途中でもローは黄色い視線に晒されていて行く先々で女性が振り返ってはその整った顔を凝視しては声を上げたりと注目の的。

彼は顔を歪めてはオドオドしてまるでライオンのいる檻の中に放たれたウサギのように縮こまっていた。

最終的にはリーシャに引っ付き顔を下げて歩くという状態だったので内心あらら、と積極的な行動をさせることを諦めパフェが売りのレストランの個室へと行く。

店員も新人らしくローにうっとりとした顔を浮かべて注文を取っていた。

その視線に気づいた彼はメニュー表で視線を遮断していたので代わりにパフェとお昼ご飯を注文する。

店員の子は注文を受け終わると名残惜しそうに出ていく。

それを見るともう大丈夫だと彼に伝え、メニュー表を下げた幼馴染みは溜め息を吐いた。

 

「何でこんなに色目を使われなきゃならねェんだ…………サングラスが欲しい…………」

 

「それもありだけど、サングラスしたら印象が分からなくて出会えないよ?それにローが顔を隠して歩くなんて寂しいし……」

 

「っ、リーシャ……!」

 

「だから、堂々と歩けばいいよ」

 

「ああ…………そう、だな」

 

「ローがそうやって生きてると私も嬉しい」

 

「!!…………お、お……俺も……その、お前が……笑う姿を見ると、う、うれ」

 

「お待たせしましたーっ」

 

感激したのか何か言いかけたローを遮りタイミング良く運ばれてきた料理。

持ってきたのは先程の女性店員。

 

「わぁ!美味しそう」

 

「ぅ、っ、っ~~!」

 

「食べようロー」

 

「~~~~!」

 

「ひっ!?そ、それでは、ご、ごゆっくり~~!」

 

ほかほかと美味しそうな料理に気を取られていると女性店員は蒼白な顔をして出ていく。

ローを見ると店員が出ていった方を向いて鋭く、まるで仇を見るかのように睨み付けていた。

 

「あっ、ロー!また女の人を睨んでっ、駄目だって何度言えばわかるの!」

 

「!?…………だ、あ、アイツが……俺の、じゃ、邪魔……っ、しやがったから…………だっ」

 

「ん?聞こえないっ、もう一回!」

 

「~~!っ、わ、わ、るかったよ!こ、これで……いいだろ…………」

 

「うん!いいっ。許す!」

 

潔く認めた彼の頭をぐりぐりと撫でれば驚いたように固まるロー。

それを見ると料理が冷めないうちにと箸を手に取る。

 

「お前、昔から…………時々、清々しいくらい簡単に物事許すよな」

 

「んー…………だって、許さないって…………ローは言って欲しいの?」

 

「!?…………それは、困る……」

 

「そういうこと。私は別にローを困らせたくて注意するわけじゃないし、ましてや意地悪で言うわけじゃないから」

 

ぱくりとハンバーグを食べながら自分の意見を口にするとローは悶えたのか聞き終わるや否や注文したカレーをバクバクと大胆に口に詰めていた。

そんなに食べたら喉が詰まると言おうとすると案の定グッと呻き声が聞こえ喉を手で押さえたので水を渡す。

無事に生還したローはやがて正気に戻ったのか落ち着いた様子で再びスプーンを動かした。

食べ終えた後はお待ちかねのパフェだ。

予め割引券を渡しておいたので記述通り苺がサービスされる。

 

「お待たせしましたー…………!?」

 

持ってきたのは先程とは違う店員でローを見た途端に顔を赤く、恋する乙女の如く染める。

ローはそれに気付かずパフェ一点に釘付けだ。

 

「…………生クリームが少ねェな」

 

「それが普通のパフェだって……」

 

苦笑して言うが口をヘの字にするロー。

そうしていつの間にか居なくなっていた店員に珍しいこともあるものだと、いつもなら少し長目にここに立つ女性達の性からして思ったが、中にはそんな人もいるのだと少し嬉しく思った。

 

(ローを見ちゃう人しかいないなんて彼には酷過ぎる)

 

それにしても、とパフェを前にしたローは目を輝かせ嬉しそうに笑みを浮かべること。

その顔を見ることが何よりも好きだったりする。

それほど可愛くて可愛くて仕方がない。

 

その時、

 

「お待たせしましたっ。生クリームのサービスです」

 

「…………え!?」

 

居なくなっていた店員が戻ってきたと思いきや、生クリームの缶スプレーを片手にそう告げた。

そんなサービスなど券にも、メニュー表にも載っていなかった筈だ。

 

「あの、メニュー表に載ってなかった気がするんですけど……」

 

(これは、勝手にそう言ってるだけ?明らかに…………)

 

考えても女性店員がこんな行動を取る理由は一つしかない。

 

『…………生クリームが少ねェな』

 

の先程のローの一言だ。

いつもの女子力が上の発言をする彼が発したオドオドしていない平坦な文句。

彼女からしてみれば好感度を狙った恩を売るチャンスなのだろう。

 

「え?平気です。店長に交渉したので!」

 

(!…………まさか…………)

 

交渉して生クリームが増える等ということは普通考えられないので考えられることは、彼女が実費の分を払うと店長に話したか、店員の特典を使い進言したかのどちらかだろう。

最悪の考えは、振り払うことにした。

ローは嬉々としてそれを受け入れパフェのグラスを彼女の前に移動させる。

 

「…………くれ」

 

「は、はいっ」

 

今にも黄色い声を出しそうな女性はスプレーをグラスに傾け、これでもかいうほど増量した。

女性店員には非情に悪いが、今の幼馴染みはパフェにしか視線が行っていない。

生クリームを増やし終えたローの膝をトンと軽く叩くと彼はこちらに顔を向け首を傾げる。

目でお礼を言うように足すとビクリと肩を揺らし、目をあっちこっちにさ迷わせた。

 

「…………礼を言う」

 

「そ、そんな!こんなこと……当然のことをしたまでです~!」

 

大概この人もローのぶっきらぼうな言葉を眼中ににも入れていないのだろう。

ありがとうが言えず恥ずかしくてクールなだけの上部で作られた声と言葉は甘く、とても好感度を強く感じたと安易に分かる。

彼女の方を見なくて、それもクールな外見を彩る材料でしかなさそうだ。

ただ照れていて、つい口から上手く言葉を出せなかったことに赤面している彼のことなど見てすらいない。

 

「では失礼します~!」

 

やがて居なくなった店員のことなど既に忘れているローはパフェを味わうように食べ始めた。

苺をぱくりと食べ生クリームを味わう姿は整っている顔付きとはアンマッチ。

しかし、そんな彼でも可愛く思えるのだからリーシャの長年の腐れ縁のとしての感覚という名のローフィルターは専用と化しているのだろう。

彼がどんなに駄目でも男力が皆無であろうと彼が彼として生きていってくれれば構わない。

それを口にしたことはないが態度や行動で示しているからか、幼馴染みはいつも笑みを向けてヒコヨのように慕ってくれる。

「?……お前も食べたいのか?」

 

「ふふ……来れるの?」

 

ジッと見ていたからか勘違いをして的外れの言葉を述べた彼に尋ねるとこくりと頷く。

貰おうとグラスを受けとるとスプーンを渡され新しいスプーンを取ろうと浮かした手を止める。

きょと、としてスプーンから手首を見て腕を辿り顔を見ると自然な顔をしていたので首を傾げてから使っても大丈夫なのかと聞くと相手は分からないようでもう一度スプーンを握らせようとした。

 

「間接キス……に、なるけど」

 

「あ?………………!!?」

 

漸く自身の行動の疑問に気付いたローはスプーンを勢い良く手元に戻しペーパーの上に置くと…………テーブルに突っ伏してしまった。

可愛い行動にしか思えないが本人は大真面目に悶えて恥ずかしがっているので顔を緩ませるのを止め、新しいスプーンを手元に持ってきてパフェを食べる。

 

「…………う、美味いか?」

 

「うん。甘くて幸せな気分になる」

 

彼は腕を突っ伏した状態のまま顔だけ出して目元をこちらに覗かせて上目遣いで見上げてくる。

 

「だ、よな…………食べたかったら、全部やる」

 

「ううん……私はもうお腹いっぱい。それにローの方が食べたかったんでしょ?」

 

本当はお腹は程度に膨れていてパフェくらいは食べれたがローの楽しみを減らすことまでして食べようとは思わない。

微笑みながらグラスを返すとぱちくりと目をしばたかせ理解したのか彼は嬉しそうに再びパフェを堪能した。

 

 

今日も一段と天気が良く、洗濯日和。

洗濯物を洗濯機から取り出しいつものカゴに入れてベランダに行く。

その途中で黒渕メガネをかけたローがノートパソコンを開いていて、こちらに気が付くと立ち上がる。

 

「俺も、手伝う」

 

「執筆は大丈夫?」

 

「キリがいいところで終わった」

 

なら良いよ、とオッケーを出すと嬉しそうに頬を緩ませるので釣られてしまう。

カゴを抱え直すと二つの腕が視界に入り前を向くと彼はカゴを持ちたそうに見ていた。

 

「重いけど、これ…………」

 

「平気だ。力仕事は男の役目とテレビで言ってたし、そ、それに……俺もなにか役に立ちてェ……」

 

思いきった台詞に目をしばたかせ、ここまで言われては任せたくなるではないかとカゴを渡す。

危機とした顔を浮かべるローに可愛いなぁ、と内心呟く。

カッコいいというより、彼は可愛いという言葉が似合う。

決して馬鹿にしているわけではなく、愛でたくなるといった感じだ。

そうして考えているうちにアパートの部屋に完備されている中干し専用のガラス張りで不透明な個室がベランダにあって、そこでは雨の日でも乾燥機のシステムがあるので干せる。

サウナと似たようなものだ。

家賃が高めだが便利なのでそれ相応のアパートだと思う。

カゴを何事もなく洗濯物干し部屋に運んだローに付いていき二人で並んで上にある竿に掛けるハンガーを真ん中に置く。

事前に用意しているので本当に助かっている。

洗濯カゴから干す衣類を掴み干すという作業に入ると横で同じく干していたローが引き吊った声を上げた。

 

「こ、こ……!」

 

「え?あ、下着…………あー……ロー?」

 

不注意による、ローがリーシャの下着を見てしまうということが現在起きていた。

既にガッツリ見てしまったらしい彼は下着を指で示しながらそれが女物の下着と理解して顔を赤くさせ、今にも倒れそうな雰囲気。

大丈夫かと問うても返事がない。

別に今更幼馴染みに下着を見られても平気…………というわけではないが、自分より羞恥心に駆られているローを見たら冷静に対処出来た。

これは俗に言う、自分より怖がる人がいると怖くなくなる原理と一緒だろう。

取り敢えず下着をずっと持っておくのもアレなので干してローの方へ近づく。

見えない様に自分のものは干したのでもう彼に見えることもない。

 

「ロー。もう平気だよ。ほら……」

 

「っう、本当か?」

 

「たまに嘘つくけど今回は本当」

 

敢えて前例を付け足してからいうと彼はやっと顔を上げて洗濯物を見ると立ち上がる。

 

「…………情けねェな、俺は……いつも」

 

「そんなことないよ!でも……女の人と出会うには慣れておくに越したことはないかも」

 

もしも、ローが他の女と共に暮らす時は劣等を克服しないと生活に支障をきたすだろう。

そう思いながら言うと彼は微妙な表情を浮かべ落ち込む。

 

「そんな未来の事なんて考えてらんねェ。俺は今が良いなら」

 

「ん?契約違反?」

 

「う、違っ……」

 

契約では恋人(仮)になる代わりに女性とコミュニケーションが取れるように精進する、というものだった筈なのだが。

持ち出すとドモるローを更に問い詰めると「分かった」とかなり渋って答えた。 その答えに満足したリーシャは改めて洗濯物を干して終わらせる。

空になったカゴを持とうとするとやはりローが持つと進言したので渡した。

空だから任せても良いと判断し、後を追うように付いてくる彼。

作業が一段落すると次は絵本作家の作業を始める。

とは言っても自分ではなくローの役目なので見守るだけなのだが。

どうやら今回は絵本ではなくキャラの商品化の案件のようだ。

新しい衣装を身に纏うベポの手には包帯が巻いてあるので発売されたばかりの火傷をしたバージョンらしい。

彼はどんな文野に対しても妥協はしない。

文野と言っても予想できる範疇の話ではあるが。

そんなローでもすぐに妥協してしまうことはあって、それは左にある部屋に住むルフィという少年。

いつも彼がローを良い意味で振り回したり部屋の外へ連れ出してくれる。

それがとても頼もしくて有り難かった。

 

 

 

このアパートには有名でありながらも部外者に干渉されたくないという顔が知れている人やそういった人の関係者という人が集まる場所。

勿論、ローは顔こそ出ては居ないが普通に歩いていれば目立つので万が一の防止対策としてここに決めた。

それに、元はと言えばルフィが彼を誘ったのが始まりである。

ルフィも海軍という組織の重役であるガープという彼と良く似た祖父がいるので狙われるといけないという訳ありな子なのだ。

とても天真爛漫で活発な好青年でときどきガープの目を盗み海でそれなりの騒ぎを起こしているらしい。

この前なんてどこから貰い受けたのかサルベージで宝探しをしらしいが果たして見つかったのかは不明だ。

そんな感じの大人から見れば不良な孫、子供から見れば憧れてるヒーローな彼はちびっ子達の人気者だったりする。

それをアパートの下から眺めるローを見る事もあり混ざりたいのかな、と感じることがあって絵本作家は名前ばかりではないのだと染々感じ、彼にとってはなかなか声を掛ける事が難しいのだと同時に感じ取った。

 

 

「トラ男~~!!」

 

「っっ!?………………麦藁屋……か?」

 

「みたい。凄い声だったねー……ふっ」

 

「!!…………わ、笑うなっ。今のは麦藁屋のせいだ……!」

 

 

突如扉付近の外から大音量の叫びが聞こえ呼ばれた本人はかつてない程戦いた。

ビクつくなんて生温く、まるで世界が震撼したような飛び上がり様にこちらも驚愕したがそちらに笑ってしまう。

驚き方がまるでアニメみたいだ。

顔を赤くして説明するローに目尻に溜まる涙を拭うと「そうだね」と一応頷き扉に向かう。

 

 

「うるっせええええ!!てめェはまたかよ!!今此処で殺ってやろうかァ!あ"あ"!?」

 

 

扉に向かうときに反対側から叫び返す声に足が止まる。

この声は、

 

 

「キッド!お前も外に行かねェか?」

 

「話を摩り替えんな!近所迷惑も甚だしいんだよ!」

 

 

またもや怒声にすら竦み上がるような事にはならなかったルフィに相変わらずの天然だと内心笑う。

するとローが立ち上がり扉へと向かい外へ出た。

ついて行くとやはりキッド達にうるさいと言っていたようだ。

なかなか仲が良いこの三人は何もかもがバラバラだが命令されるのを好かないという共通点と仲間という者を複数集めそれぞれサークルのように集まっているという。

ローはペンギンも含めてシャチというアシスタントを雇っている。

中学からの友人で、キッドもローもルフィもそれぞれ中学時代の友人でよく集まっていた。

彼らも中学からの顔見知りで例に漏れず二人とも有名な人達だ。

 

 

「キッドくんは今日は練習休み?」

 

「キラーにどやされてな」

 

 

キッドはボクシング業界でルーキーと呼ばれる選手。

ルフィは祖父が警察のトップの側近という地位。

なのでこのアパートに住んでいる。

理由は違うが結局は腐れ縁というわけだ。

それにキッドはローに良く戦いを申し込む。

リーシャは、詳しい事は知らないが中学時代に決闘をした時に両者共々互角で勝負は引き分けに終わったらしい。

まさかローがそんなに強いと思わなくて命がかかるものには強くなるのだろうかと疑問に思った。

それからと言うもの、キッドはボクシングで優勝してもローをライバルと認識している。

それに面倒なローは毎回手を怪我すると仕事に支障をきたすと彼の申し込みを上手く断っている。

しかし、それも本当なのでリーシャも何も言わない事にしていた。

彼等を見ると今だに言い合っているのでここら辺で割って入る。

 

 

「三人共、今日はそのくらいにしといた方がいいよ……ルフィくんは確かガープさんが家に来る予定だったよね?キッドくんも今からボクシングの何とか番組始まる時間でしょ」

 

「あ!そーだった!早くアレ隠さねェーとやべー!!」

 

 

ルフィは慌てて自分の部屋に戻る。

キッドも悔しそうに部屋に戻っていく。

 

 

「流石に扱いが上手いな」

 

「だってもう中学から皆と居るんだよ?癖だって知ってるんだから」

 

 

ローが感心したように言えばクスリと笑いながら自分達も自室に戻ろうと足す。

先に玄関へ上がりテレビがある部屋へ入り座れば、ここは毎日が賑やかで楽しいと不意に感じた。

ここだったらローの引っ込み思案な所があっても平穏に暮らせる。

勿論それは治さなければいけないが、ここから少しずつ女性に免疫を付けて行く事だって辞さないつもりだ。

ある種のショック療法も試してみようと画策している。

そして、そろそろ彼が来る時間だ。

 

 

──ピンポーン

 

 

考えている間に、予想通りにインターホンが鳴る。

このシステムは大変便利だが、外に待たせてしまうという問題があるので素早く対応しなければと行動した。

ローが来たのか、と聞いてきたので相手の顔を確認した後に頷く。

 

 

「あいつもよく来るな」

 

「アシストなんだから当然だよ」

 

 

あはは、と笑って扉の解除を解く。

まだ此処に来るまで少し掛かるから今の内にお茶等を用意しておく。

ローも絵本の作成道具を用意している。

そして、この部屋のインターホンに来客が来たことを知らせる音。

いつものように玄関へ向かって扉をガチャリと開けると変わらない笑みを携えたシャチが立っていた。

 

 

「こんにちは。今日も暑いですね。これ、この前行ってきた旅行のお土産です」

 

 

挨拶と共に差し出された物を受け取り礼を言いつつ、上がってもらう。

ローの居る部屋まで来たら彼にも言った。

 

 

「ロー、シャチくんがお土産くれた」

 

「シャチ、言ってきたんだな」

 

「はいっ、めちゃくちゃ綺麗でしたよ」

 

 

目を輝かせて報告するシャチの健気さと慕う気持ちは昔から一途だ。

子犬が尻尾を振るような……いや、大型犬が甘える図の方が合っているかもしれない。

 

 

──ピンポーン

 

 

「あれ?宅配便?」

 

 

それにして頼んだ覚えのない。

シャチと話していたローも首を傾げている。

一応そうだったら困るので出てみるとリーシャよりも年下に見える女の人が写っていた。

 

 

「…………誰?」

 

 

まさかの悪戯なのか、それともローをストーカーしているのか。

危機感を覚えているとローとシャチが同じ様にインターホンを覗く。

ローも知らないらしく怪訝に眉を下げていた。

 

 

「チコ……!?」

 

 

反応したのはシャチだった。

 

 

「シャチくん知り合い?警察に通報しようかと思ってるんだけど……止めた方がいい?」

 

「うっ、その、出来れば止めて下さい……こいつ、俺の妹なんです」

 

「妹……?聞いたような気がする」

 

「なんでその妹がここに来てんだ」

 

 

ローの嫌そうな声音にシャチは苦い顔をする。

 

 

「俺の妹……面食いで。ローさんをかっこいいって自慢しちまったから後を付けてきたのかもしんないです」

 

「シャチ……分かってるな?」

 

「はい、心得てます」

 

 

ローが目で言うとシャチは神妙に頷く。説得して追い返せという事だ。

リーシャはどちらでも良かった。

それに入れない方が良いと思ったのだ。

妹が面食いならば余計にローと合わせない方が絶対にいい。

ローは確かに思わず振り返ってしまうような顔立ちだ。

でも、性格を垣間見てしまえば相手はそのギャップに、勝手に期待して勝手にがっかりする。

それを何度も繰り返したから今のローが出来てしまったと言っても過言ではないのだ。

という事で、シャチ VS 妹 の戦いが幕を開けた。

 

 

 

インターホン越しにシャチの妹というチコという少女の声が聞こえる。

 

「お前な、もう帰れ」

 

『嫌。そこに入れてくれるまで帰らないんだから』

 

「はァ~。すんません。ちょっと出てきます」

 

「うん。頑張って」

 

「絶対追い返せよ。追い返せなかったら明日から来なくていいぞお前」

 

「!……頑張って追い返します!」

 

シャチはショックを受けた顔をしてから汗を顔にかきながら玄関を出た。

果たしてシャチは追い払える事が出来るのか、と思って二人で色々作業をして時間を過ごしていれば携帯にメールが着たらしくローが操作して読み上げる。

 

「粘ったけどなかなか帰りません、かっこ泣き」

 

「あー……泣きそうなくらい粘ったんだね。妹さんも粘るねー」

 

苦笑して言うとローはしつこいんだな、と困ったように言う。

確かにこのままではここに来てしまうのも時間の問題かもしれないごり押しさだ。

しかし、格好いいという理由で押し掛けるのは行動力があり過ぎだと思う。

でも人様の内までストーカーするなんて常識的にどうなのかと思うが、シャチの妹なのであまりぞんざいに帰れとも言いにくい。

シャチの男の見せ所だと思った。

これによってローの信頼度やらが上がるかもしれない。

内心(シャチファイト)とエールを送る。

しかし、再び返ってきたメールの内容は哀愁が漂っていた。

 

「妹が帰りません。一目顔を見るまでと譲りません、かっこ泣き」

 

「妹さん粘り過ぎじゃない?」

 

「大体このアパートはそういう奴から身を守る為に建てられてる。中に入れたら本末転倒も免れねェ」

 

このアパートにはロー以外の有名人が居るから余計に危ない。

芋づる式で出てくるし、出会う確率も高いだろう。

シャチにはそれについてはしっかり説明しているのでちゃんと追い払うだろうと期待しておく。

 

「メール送った?何て書いたの?」

 

スマホを操作して床に置いたローは無表情のまま「説得出来なかったら警備員を呼ぶ」と言った。

妥当というところだ。

流石に警備員が来ると聞いたら妹だって引け腰になるだろう。

 

「あ、シャチくん帰ってきたかな」

 

「妹まで来てたらクビだって言っとけ」

 

そう言付かってインターホンを見るとシャチだけだったので扉を開ける。

 

「すんません。どうしても聞かなくて……連れてきちゃいました」

 

「シャチくん……」

 

「こんにちは!」

 

扉の死角から出てきたのはシャチに似た髪色でシャチを女版にしてもう少し幼くしたらこうであろうという少女。

 

「シャチくん。ローからもし妹さんを連れてきたらクビだって言えって言われた。だから……バイバイシャチくん」

 

「ちょ、えええ!?」

 

「いままでお疲れ様」

 

そう言ってパタリと扉を閉めた。

 

「待って下さい!」

 

妹のチコの声が聞こえた気がするが聞かなかった事にしてリビングに戻る。

ローに妹の事とクビを言い渡した事を告げると「あの馬鹿」と悪態を付いていた。

 

「まァこれで次から誓約違反はしないだろ」

 

「いつ頃また雇うの?」

 

雇うのはシャチだ。

一度はクビにしなければまた同じ間違いを犯すだろうとローが言ったので無慈悲にクビを言い渡した。

 

「これで学んでくれたなら良いね」

 

彼の気持ちを叩き落としたのは悪いが、これは必要な処置なのである。

このアパートを普通のアパートだと思っているのが一番駄目なのである。

警備をちゃんとするには誓約は絶対外せない。

一つ外せば緩くなる。

アパート内の人間の安全が脅かされるのだ。

このアパートには友達も居るし、どちらも大切なのでどちらも心地良く居て欲しい。

シャチに解雇を言い渡したその日、本人からローへ着信が三件、メールが五件届いた。

けれど、ローはそのどちらも取り合わなかったが電話帳からシャチのアドレスや電話を消去する事はしなかったので後日また時間を置いて連絡する事だろう。

 

 

 

それから一ヶ月後、シャチは無事再雇用となった。

あれからシャチは謝りっぱなしでこちらとしても分かってもらえたなら嬉しいと許した。

彼は反省して妹を連れてくる事はなかったが、何故か妹のチコとはアパート内にて出会う事となる。

シャチは驚いていたので関与はしていないのかと思ったが、どうやら彼を解雇した日に途方に暮れていたシャチ達をキッドとキラーが見つけたらしく知り合いのシャチから事情を聞いたりしてチコの存在も知ったという。

それから目に見て分かる程チコは一目惚れしたらしい……キラーに。

そこはキッドではないのかと頭を過ぎたが、好きになる相手は千差万別、人それぞれ。

チコはローを見てもただ妹として挨拶しただけで特に何かにときめいた感情は表れなかったので安堵。

しかし、惚れられたキラーとしては困惑していながらも猛アタックのチコのアプローチを上手く回避する辺り流石は有名人のマネージャーだ。

 

それから、ローの絵本がなんとかの賞を取り、誰かの入れ知恵によりリーシャにプロポーズ紛いの台詞を聞くことになるのは別の話であった。

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