ケータイというものは機種によって色が違うし、色も限られる。
だから一番無難な藍色にした、のに。
「おい」
「相変わらず口悪いな」
スマートが売りな機種『ロー』
凄く人気だった為、最初はガッツポーズだった昔の話し。
「メール来てるぞ」
「え、誰から?」
「男から」
「男?合コンの時メアド交換した人かな」
「消去した」
「え!?」
あまりの身勝手な行動にローの電話帳を慌てて開く。
見事にメアドがなくなっていた。
「あとメアド変えといたからな」
「なにぃ!?」
ありえないと頭を抱える私にローはメアド変更メールを全員に送っておいたとヌケヌケと言いのけた。
……勘弁してくれ。
ローの暴挙は今に始まったことではない。
それはそれは束縛レベルである。
しょぼくれている私にローはトントンと肩を叩いてきた。
もちろん私は恨めしくローを睨む。
「まァ、そう落ち込むな。お詫びにすげェ上手いっつー評判のパティスリー見つけておいたぜ?」
「え、ほ、本当?」
「あァ」
さすがローだ。
アメとムチの使い方をよくわかっている。
だから手放せないのだが。
自分の思考に呆れながらも、それでもいいかと諦める。
「じゃあ行こうかな」
「おれも食うからな」
「携帯は食べれないでしょ……」
「なァ」
「何?」
携帯ロー。
それが私の携帯。
まだ購入して日は浅いが、かなり気にいっている。
「マッサージしてほしくないか?」
「急にどうしたの?」
「さっき動画見た。やりたくなっちまってな」
「なるほどね。いいよ」
ちょうど肩も凝っていたことだし、と了承する。
「じゃあ横になれ」
「ん」
言われた通りに寝転ぶ。
するとローは私の肩に触れた。
「いつも動画とか見てるの?」
「たまにな」
ぽつぽつと喋る私に返事をする彼は器用にマッサージしている。
不意にローの手が腰に触れた。
「……ねぇ、あのさ」
「どうかしたか」
「手つきいやらしくない?」
「気のせいだ」
そう言うローの手の動きは怪しげに動いている。
しかし、彼はとぼけたまま手を動かす。
「ち、ちょっと!」
「今度はなんだ」
「お尻関係ないよね!?」
「そんなことはない」
「もう止めて!十分だから!」
「まだ太股と足が残ってる」
「……そ、そう」
私が慌てても冷静なローに、もしかして本当に真面目にマッサージをしているのかもしれないと思った。
もう少し様子を見よう。
「最後に太股だな」
「あ!太股だけは待っ……!」
ピクリとこしょばくて反応してしまった。
私の反応にローは一瞬キョトンとした表情をする。
「もしかして、弱いのか?ここ」
「え、と」
もじもじとする私にローの顔は徐々に妖しい表情になっていく。
これはマズイと感じる。
「ほォ」
「!……や、まっ!」
私の声を無視してローはこしょばい場所をマッサージしだす。
そのせいで、どSな彼の本性をことごとく実感することとなった。
リラックスどころか軽くトラウマになりました。
(水に付けてやる!)
(マッサージしただけだろ)
((このヤロー……!))
喧嘩編
「本当にローってありえないっ!」
「したいと思ったからしただけだ」
ローの言葉にリーシャの怒りは燃え上がる。
「もう、ローなんて知らないっ。違う携帯に移り変える!!」
「ハッ、やれるもんならやってみろ」
喧嘩の原因はローによる束縛。
携帯であるローはリーシャ宛てに来た男からのメールや電話帳の記録などことごとく消す。
今までは、まぁいいかと許してきた。
だが、今回だけは流石に無理である。
(大事なメールだったのに!)
おまけに、最近は少しだけいいな、と感じた人からだったのに。
なのにローはリーシャの許可なく消去したのだ。
憤りを感じたリーシャは直ぐさま携帯会社の販売店舗へと向かう。
「いらっしゃいませ」
事務的な挨拶を聞きながらリーシャは並べられている携帯を見る。
「わ、今話題のルーキーだ」
そこで目に止まったのは、新機種スマートフォンの新モデル『ルーキー』だった。
「あ?お前携帯買いに来たのか?」
「は、はい」
突然話し掛けてきたのはルーキーの中で一、ニの人気を誇る『キッド』。
リーシャは真っ赤な髪に目を奪われる。
「前の奴はどうした」
「喧嘩して、買い替えようと……」
「なるほどな」
ニヤリと、またローとは違った笑みを浮かべるキッド。
「おれにしてみるか?」
「え?」
「お試しだ」
「お、試し……」
誘惑的な単語にリーシャは頷きかける。
「リーシャ!!」
「……ロー!?」
突如、リーシャの名を呼ぶ声が。
振り返ると息を切らせた自分の携帯の姿が。
「そんなに走ったら痛んじゃうよ!」
「構わねェ」
ローに駆け寄って身体を支える。
それを見ていたキッドが口を開く。
「なんだ、てめェだったのか。トラファルガー」
「トラファルガー?」
「ユースタス屋。リーシャを口説こうとするなんていい度胸だなァ?」
「ユースタス、屋……?」
聞いたことのない名前にリーシャは二人を見遣る。
ユースタスとトラファルガー。
一体どういった関係なのだろうか。
「ねぇ」
「「あ゙?」」
二つの携帯がリーシャを見る。
眼力がどちらも強く、リーシャは後込んだ。
「ちょ、あの、二人ともあんまり見ないで、なんか怖い……」
恐々と言えば二人はまたお互いを見る。
「ユースタス屋の眼力が怖いんだそうだ」
「あ?主人に見放された奴に言われたくねェよ」
「見放されてねェ。少し喧嘩しただけだ」
「どうだか」
終わりの見えない言い争いにリーシャはどうすればいいのかと周りを見回す。視界の端に何か黄色いものが過ぎ去った。
「キッド」
「あ、キラーだ!」
キッドの次に人気の機種にリーシャは興奮する。
その優しさは母親に匹敵し、扱い易さは老若男女問わず。キッドと同時購入すればキッド専用ストッパー特典という美味しいものが付いてくる『キラー』。
「なんだ」
面倒そうに返事をするキッド。
「店に迷惑がかかる」
「おぉ!キラーのお世話機能って凄い!」
世渡り上手なキラーにリーシャは更に盛り上がる。
「キラー屋、リーシャをたぶらかすな……」
「たぶらかすわけがない。ただお前の持ち主は興奮しているだけだ」
ローの不機嫌オーラをものともせず、あくまでも淡々と述べるキラー。
「それに、噂では持ち主を束縛してるらしいな。携帯は使われる機器のはずだが?」
「……誰からの噂だ」
「ツイッターだ。やはり便利だからな」
「シャチか!」
シャチとは、リーシャの友人が所持している携帯だ。よく喋る携帯ではあるがローを慕っている。
「帰ったら問い詰めてやる」
恐ろしい言葉を呟いたローは、やっとそこでリーシャを見た。
「リーシャ。悪かった……だからおれを捨てるな」
「そんなこと言っても。あれはいくらなんでも酷いよ……大事なメールだったのに」
「あァ。お前が最近いいと感じている男からの、だろ?尚更嫌だった」
「ロー……今回だけだよ?」
「わかった」
仕方ないとくす、とリーシャが笑うとローも笑った。
「結局こうなるのかよ……」
「隙はないな、キッド」
機種変は今のところないようです。
友人編
先日、携帯のローと喧嘩をして仲直りを済ませたリーシャ。
今日はローの友達なのか舎弟なのか下僕なのか、立ち位置がよくわからないシャチと。
同じくローの友達で、物静かに見えて実は毒舌なペンギンが家に遊びにくる。
二人(?)とも携帯なので持ち主にはしっかり話をつけてくるそうだ。
珍しくローもローでリーシャに確認を取った。
「いいよな。あいつらが来るのはお前も嬉しいだろ?」
と。
もはや確認ではなく確定だ。
確認なんて取りゃしない。
ローらしいと言えばらしいが。
リーシャがソファで寛いでいると家のインターフォンが鳴った。
横で同じように寛いでいたローが出る。
「こんにちわー」
「お邪魔します」
ローの後からシャチとペンギンが歩いてきた。
「久しぶり。シャチくん、ペンギンくん」
二人に挨拶をするとローがシャチを見た。
「そういえばシャチ」
「なんすか?」
「お前ツイッター使ってんのか?」
「え……はい、使ってますけど……」
本題にいきなり入るローにシャチは困惑しつつ答えた。
リーシャも自分の携帯の考えていることが読めない。
「シャチ、お前。おれとリーシャのこと呟いてんだろ」
「え゙」
「ネタは上がってんだ」
「シャチ、諦めろ」
「ペ、ペンギンまで……!見捨てんなよっ」
断崖絶壁の端に立たされたような表情でペンギンに泣きつくシャチ。
そんなシャチを見下ろすローはニヤリと、そんじょそこらの携帯とは思えない笑みを浮かべていた。
「ロー。別にシャチくんは悪いことしてないと思うよ?」
「リーシャさんっ」
ふるふると涙目のシャチがリーシャを見る。
パァッと明るい表情になった可哀相な携帯にピキリと青筋を立てる黒い携帯。
「シャチ。てめェ、リーシャにしっぽ振ってんじゃねェよ」
「何言ってんすか、携帯にしっぽなんてあるわけないじゃないですか。あるのはストラップくらいですよ……ってェ!?」
言葉の最後にシャチがうめき声を上げたのはペンギンが頭を叩いたからである。
「馬鹿か」
「何すんだよ!」
「ローさん見てみろ」
「……やべっ」
シャチがそろりと前を向くとぶわっと汗が噴き出すのが見えた。
「気を楽にしろ。すぐには終わらないがな……」
「いつもの台詞と違うー!!」
ローはニヤリと弱い者を虐める時のような笑みを浮かべていた。
「シャチくん。あれあれ、防犯ブザー使った方がいいよ!」
「リーシャさん!おれ、子供用携帯じゃないから、ブザーなんて付いてないっすよォ!」
「あ、そっか……!次から付けてもらったら?」
「あんまり意味ないと思いますけどっ」
「シャチ。どれがいい?選ばせてやるよ。今すぐおれの中に組み込まれているカメラ機能でお前の裸を撮られるのと、お前がもっているアレをこっちに寄越すか、選べ」
「選択肢が二つしかない!しかも、アレの存在をなんでローさんが!?」
「ツイッターで呟いてただろ」
ペンギンが言うと、シャチは顔を真っ青にする。
リーシャは何の事だかさっぱりわからず、首を傾げた。
(あれって?)
リーシャの疑問に満ちた表情に気付いたローがリーシャをちらりと見る。
「お前には意味のないものでおれにはあるものだ。聞かない方が懸命だな」
「余計に気になる」
「リーシャさん、知らない方が幸せな事もありますよ」
ペンギンがリーシャの肩に手をポン、と乗せて力無く笑う。
(リーシャさんの秘蔵写真なんて、な)
リーシャは真面目な携帯であるペンギンにそんな表情をさせてしまう代物なのか、と驚く。
内心、ペンギンが三人の男の秘密を思い浮かべているなど知る由もないだろう。
携帯もツイッターをするの巻。