短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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悪魔に甘口

わからない。

出来るだけ距離を取っていたのに、何故迫られているのか。

昔は純真なその心に漬け込みいつか糧にしようと考えつつも、めきめきと聖なる属性を得て強くなる男と距離を離そうと危機感を覚えるのは当然。

向こうはそう思ってくれなかったようで、離れようとするほど、その鋭い瞳で場所を特定して追ってくる。

紹介が遅くなったが自分は悪魔だ。

生まれ落ちたのは別の種族だったが転生なるものをして生まれ変わった。

生前は普通の町娘Cレベルの平凡さで派手なこともなく、普通に人生を終わらせたという曖昧な記憶だけ残り、今度は別世界の悪魔という所謂チート種族に生まれた。

 

生まれて直ぐに生まれ故郷を出たのはオス、男の悪魔の誘いがとてつもなく煩わしかったからだ。

やれ、おれとピーだの。

やれ、ピーしようぜ、だの。

聞くに耐えぬ単語を出し貞操の緩い世界だったので、合わないことが苦痛になったので。

流石は悪魔だと思った。

しかし、翼があるので好きなだけ好きなところへ行ける。

とある町に行き短期間の住みかとしたのが、冒頭の男の家の隣。

不運だとしか思えず。

最初は普通に可愛くて可愛がっていたが、男が思春期になると妖しい瞳を向けてきたのでなにか起こる前に引っ越した。

 

しかし、町を変えても名を変えても追ってくるそのしつこさに辟易した。

いい加減やめてくれと頼むと良いぜとあっさり了承され、へ、と間の抜けた声音をもらしたのも致し方ないだろう。

それくらい嫌気が差していたのだ。

なんのために故郷を飛び出したのだと後悔していたのに。

その肩透かしを覚えつつ、流石にイラついて今更なにをと吐く。

吐いた途端に迫られて手首を拘束され、唇を奪われたのには驚いた。

突き飛ばす間もなく床に倒されて呆気に取られ、喜怒のどれも浮かべることなく唇を離される。

 

(なに??)

 

「ん!?は、あぅ」

 

大人のキスを人間の男からされるなど、ましてやファーストキスをされるなんて。

悪魔の名折れではなかろうか。

場違いな思考に、いや、場違いなものかと考える。

 

「……ん」

 

頬をするりと撫でられる。

 

「おれのものになれ。それが条件だ」

 

「聖騎士が悪魔を??なにを考えているの」

 

確かに小さな頃からローを知っているが、ローが悪魔を娶ろうとする結論になるとは思いもよらない。

そんなことで追われていたなんて。

 

「もしかして、飼うの?」

 

悪趣味な想像で指摘してみれば顔を歪め舌打ちをされる。

悪魔より悪魔らしい態度だ。

前からそんなんだったけど。

キスされておいてなんだけどね。

ローの態度は好意を抱いている男としてずれているわけだ。

そりゃ、わからん。

ギンッと睨み付けてローのものになるつもりはないと示す。

しかし、彼はその邪な手を離さない。

凄く強いなオイ。

強気なローは全くあとに引かないのでこちらが力ずくでどうこうすることしか考えられない。

でないと、絶対に離してはくれなさそうだし。

 

(ふん)

 

少し力を込めると腕が抜ける。

その隙に彼を仰ぎ見たまま離れていく。

彼は追わずにただ見ている。

 

「フフ、逃げても良いぞ。ゲームだな」

 

にやにやと楽しそうだ。

こっちは悪魔だ、身体能力は上だ。

ダッと彼から目を背けて飛び出した。

 

 

それを一連のゲームと判断した男はぺろりと唇を舐めた。

捕まえた後にはゲームの勝者としてどうしてやろうかとゲスい思考に伏せた。

ローはあの悪魔を捕まえられる自信がある。

あの悪魔を捕まえる為に様々なことを乗り越えてきたからこそ、捕まえるというスパイスは寧ろ歓迎するところ。

男は隠れた場所の気配を直ぐに掴んでいるが、じわりと追い詰める楽しみのために時間稼ぎをするよう、ゆっくり歩みを進めた。

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