始まりは兄の骨折から始まる。
折角軍に入ってバリバリ働くぞと言っていた兄が試験の3日前。
これには苦労人の彼も意気消沈。
「元気だして。私良いこと思いついたんだけど!」
「一生実行するな」
汗をかいた顔で言われても妹は元気に吐く。
「私が変わりに行ってくるね!」
「いや、だから」
「オニイをコネで入れたげる!」
静止の声を掛ける前に飛び出した彼女。
「戻ってこい!!!」
叫び声の次はベッドから落ちる音。
「あ──!」
入院期間が10日伸びた音と看護師達の声をものともせずただひたすら兄の為と走る娘は健気だ。
しかし、兄だけは知っている。
健気と書いてパワフルじゃじゃ馬と書くということを。
彼女がやらかすのは確定している。
「おにいの為ならえんやーこーらえんやーこーら」
兄の心などつゆ知らず、全てにおいて正しき事をしていると考えている女は歌まで歌う。
「私の現代知識ならチート出来る!」
前世の記憶を今も俯瞰して見る事が出来る。
記憶なのか記録媒体なのかそこら辺はあやふやなんだけどね。
そもそも拳で殴ったりするゲームの優勝常連の記憶になんの意味があるのかな。
今まで特にこれで得をしたことはない。
「勝てるもんね」
るんるんと進んでいるともちっとした存在が行く手を阻む。
「シルフォ!聞いて聞いて!」
「嫌な予感がする」
まるで同格の相手と話している様子だが、相手はアヒルだ。
「おにいの代わりに試験を受ける」
シルフォはアヒルに見えるがれっきとした精霊である。
「無理にも程があるからやめなさい」
二人の兄弟の守護精霊として日々、特に妹の暴走をなんとか押さえている。
妹の無鉄砲は今に始まったことではないが、代わりに入るという程度、別にやらかしではない。
まだマシってものだ。
でも、兄は大変に反対するだろう。
その気持は手にとるように分かる。
だから、私も止める。
焼け石に水だが。
「貴方、お兄さんのお見舞いに行ってたでしょ?どうして貴方が入ることになってるの?」
「おにいは軍に入るのが一年遅れるでしょ?だから私が先に入ればコネでいつでも入れられるじゃん」
うーん、言いたいことは分かるが、新米でコネとか使える?
一年以上はかかる気の長い計画だ。
説得が無駄になるままに連れてこられた先では鬼のようなオーラを纏う男が指揮官で監視官。
妹ちゃんは即バレしそうで怖い。
ビクビクしているのは私で本人は何食わぬ顔をして剣を磨いているのってどーなの?
少しは警戒というか、慎重にしようよ。
試験が始まって、何故か入れてしまった。
合格理由は妖精付きだからだ……って。
は!?
私?私のせい?
これ、私居なかったから合格しなかったよ!
失敗したっっ。
痛恨のミスだ。
妹ちゃんは喜んでいるけど実力で入ったとかではないから先行き不安である。
妹ちゃんの上官はローという男だが、まるで見えているかのようにこちらをジッと見つめるのが怖い。
私、悪いアヒルじゃないよッッ。