短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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船になりました

空は晴天、キラキラした水面を時速100キロで爆走している船があった。

 

「いける!もっとわたしは走れる!」

 

高笑いしながら船を操縦する女を除いて残りの男達は未知なる感覚に床へへばりつき、海へ吐き、もはや息をしていないかもしれないといった事件を引き起こしていた。

陸に着くとなったとき、彼女は後ろを向いて屍の状態になった個人を見てから竹を割ったような、悪びれもせずにあっけらかんと宣った。

 

「あ。船酔い防止しておくの忘れてた」

 

というわけで、全ての始まりにガガーッと戻る。

そうではなくてははしょり過ぎて説明するにも誰も理解出来ないまま進められない。

ことの起こりは一人のリーシャというズボラな女が若干揺れている部屋で覚醒したことから始まった。

なぜ揺れているのかという疑問よりも先になぜ己はこの部屋の記憶が一切ないのかということに疑いを持った。

普通ならばどこにでもある部屋の内装であったのならば多分どこかホテルにでも泊まったままなんだろうなと勝手に完結させていたに違いない。

 

この、意味不明な事態を直視するには寝起きにはキツすぎる。

出来るのなら夢で、起きたら現実でオーダーしたい。

もしここが現実ならばなにもしなくて良くなったのだと思える。

なにもしなくても良いのだ。

生きるのに苦労するかもしれないが、こんなところに誘拐してきたやつにでも己の面倒を見させればいいさ。

それにしてもさっきから自分の知識の中に習得した覚えのないものがある。

本能とでもいうのか、船の内装についてや外装、システム、などなど。

 

まるでゲームの画面のように。

ゲームをするのなら睡眠を取るのに変な夢だ。

夢ということは眠りが浅いということなので早急に眠りを深くせねば。

勿体ないと色んなことが思考として渦巻く。

 

──チャプチャプ

 

妙に濡れた音もする。

最早見て見ぬふりが出来ないところまで現実は迫るので、ふ、と目を開けた。

周りを見渡してすとんと木の質感の地を踏む。

ひんやりするかと思ったが温かった。

木製に対して温いとの表現は可笑しいのは承知しているが、それほどあやふやな温度なのだ。

いや、木製に見えるだけで別の素材かもしれない。

それを確認する術もなく、別に良いかとけろっと別のことを考えることにした。

 

ほら、考えることなんてたくさんあるし。

自分の確認をするためにぺたぺたと体を触るが、特に何か変わったこともなさげ。

安心して歩いて船を見て回るとなんの変哲もない、整っているホテルのような内装であることが判明した。

色々ホテルはあるが、どちらかと言えば洋風であった。

 

「やったー、無料宿泊し放題!」

 

厨房を見てみたが食料部屋もあってたっぷり食料があった。

うっすら壁に無期限と書いてあったが、はて、なんのことやら。

頭の中にステータスボードが浮かびスピリチュア級と書いてあった。

船のランクみたい。

うん、どれくらい凄いのか分からない。

断言出来た。

 

「おーい、誰かいませんかー?ってね」

 

己の勘が船には誰も乗っていないと告げていた。

侘しい。

誰かいればこんな大きな独り言をせずに済んだのに。

しょぼんとなっているとこんなことをしている場合じゃないなと気合いを入れて違う場所を探索する。

 

「おっ、財宝部屋っぽい?」

 

一番厳重そうな部屋だったので開けようとしがノブが見当たらず手がスカッとなる。

なんの為に存在しているのかと扉に手を当てた時、扉へ手がすり抜けた。

カーテンのようにふわっと前屈みに倒れる。

音もなく倒れたが痛みもなく、目をぱちぱちしていると大きな寝台があった。

それ以外になく、球体の形をしている。

どうみてもこれは。

 

「私の?」

 

疑問をつけたが確証していた。

本能的なものであるが。

すうっと導かれる。

糸に引かれているかのように眠りたくて仕方がない。

寝転ぶと型もぴったりでお誂え向き。

瞼もぴたりと閉じた。

 

お腹の辺りがモゾモゾする。

変な気持ちに食あたりだろうかと起き上がる。

何分経ったのか分からないまま床に足をつけて食料庫の場所を見に行く。

お腹の辺りという感覚だ。

胃があるので。

自分でも何を言っているか不明である。

扉を開けるとがさがさ音がして一つの黒い影が蠢いていた。

 

「え」

 

なにやっているのと言おうとしたがあまりの光景に言えなかった。

リーシャの船に泥棒がこんにちわしているのだから。

 

「!」

 

始めに反応したのは影。

こちらを向くと突然袋を持ってこちらへ駆けてきた。

突き飛ばされそうになったので反射的に目を瞑ると当たる感覚もなくふわっとした風が通り抜ける。

 

「は!?」

 

耳の近くで驚愕が聞こえちらりと開けると影が真後ろで扉に背を向け見ていた。

ぶつかってない。

 

「くそっ」

 

大舌打ちをしてそのまま逃げようしたが。

 

──ガタン!

 

なにかが当たる鈍い音。

扉の外を見ると影ではく、ローブをひっかぶる不届きものが尻餅を着いていた。

 

「いってえ」

 

扉を閉めるくらい、朝飯前だ。

それに、どこへ行こうと船の中なら追い付けそう。

やったことはないが出来ると確信していた。

 

「出せ!」

 

騒ぐので静かに見る。

向こうの気持ちが荒ぶっているのなら下手に言葉をかける意味はなさそうだ。

そのまま落ち着くまで待っていると騒いでも出してもらえぬと分かったのか静かになる。

このこそ泥が後に一番目の仲間へとなるのだが、今は取り合えず説教と拳をお見舞いした。

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