小島がぷかりと一つ、大海原に浮いている。
その島の真ん中には一軒家。
悠々自適に暮らす転生という珍道を歩む若き女が椅子に揺られて火を傍に眠りこけていた。
しかし、その睡眠はやがてどんどんという乱暴な音で妨げられる。
眠りを妨げられて眠い目のまま、指を振たって扉を開ける。
この島の範囲内でなら自由自在なのだ。
扉が開けられて姿を表したのはまだ小さな子供らだ。
「ジェナフィ!遊びに来てやったぜー!」
誰も頼んでないですという言葉は2人目の声によりかき消される。
2人目も悪ガキ宜しくずかずと入ってくる。
4人目になると扉は静かに閉まった。
いつも4人組なので家が狭く感じてしまう。
「あ、あの、いつもいつも乱暴にしないでくれるかなぁ?」
「いいじゃん。お前暇だろ」
くそガキその3シャチがズバッと遠慮もなく言う。
暇じゃなくてスローライフしてるんだ。
「いやっ、年上に敬語くらい使ってほしい」
内心弾き飛ばしてやりたいと指を震えさせる。
「悪いな。勝手に」
いつも先に謝る白熊のせいで振るい損ねる。
白熊のベポはそこのところ常識がある。
「ベポは良いんだよっ」
「おれ達は?」
「はぁ、言わなくとも分かるでしょう」
青筋を立てたこの顔を見ればな。
穏和や平穏と呼ばれる女でも勝手に島に上陸してくるこの子達には困っていた。
島自体に上がれなくしてしまえという発想もえるが、そこまではまだ出来かねた。
三人目に該当する男の子は最年少だがなんとリーダーらしい。
その子は特に話すことも無く椅子に座る。
「なァ、茶出してくれよ」
「私の家だからここ」
ペンギンという子もズバズバと言ってくる。
いい加減にしろや。
「魔法でこう、くいっと!」
シャチが指を振って真似をする。
「はい」
ジェナフィは指を振ってタオルを空間に出現させてシャチの頭に被せた。
突然の視界不良に慌てる男の子。
ペンギンが傍で笑っている。
「うお!おい、笑ってないで取れよっ」
相棒に伝えるがペンギンは取らない。
尚も笑う相方にシャチはむぐむぐとタオルをひっぺ返す。
お茶ではなくタオルをプレゼントされたわけだ。
全員がこの島に居る人数だ。
どうやって島を当てて船をつけているのか不明だが、よくまぁ来ること。
暇なのかと聞くと暇じゃねーしと叫ばれる。
暇でないのならどうしてここへくるのか。
「お前が一人で住んでて寂しいかと思ってな」
「頼んでないってば」
「いいじゃんかよ」
嫌がらせだ。
悠々自適にスローに暮らしたいのだこちらは。
「ジェナフィ。これはなんだ」
三人目のローがこれと指差したのは最新機器だ。
ハンドミキサーである。
「ジュースや色んなものを刻んで飲むものを作れる機械」
「え、マジ!」
そのつぎはやりたいとか言い出すな。
先に言い出したのはローだった。
「使いたい」
「良いよー」
「あ、ずる!なんでローだけそんなあっさり許可すんだ!?」
丁寧に使うからという以外にないでしょ。
シャチやペンギンに触らせたらどんな壊れかたをするか。
それを危惧して触らせる方を選ぶのは回避の極意。
どや顔して触るローも話さないがペンギンらと同じ気質だ。
分かるぞ、だって何度もこられたら覚えるもん。
静かにミキサーが回ると四人は食い入るように見る。
まぁこの世界の技術からは想像が難しい機械だから珍しいだろうね。
回り終えるとそれを注いでコップを四人に配る。
飲んでは喜び飲んでは笑い、飲んでは驚くという反応を見せる彼ら。
異世界の人間からすればどれもこれもが珍しい筈。
内心実は暇なので来る分には暇でなくなるのは良いなと頷く。
ここに籠りっきりなのは実は小心者だからという至極単純な理由。
怖くない彼らくらいならば直ぐにどうもでも出来るから入れても構わない程度には認知していた。
怯えを見せないように注意を払っているからこそ、辛辣な対応。
ばかにされては困るのだ。
だからといってなんの罪もない子供を無慈悲に放り投げるのも無理というか。
そういうところを突かれて子供らが侵入してきているのだが。
ジェナフィは子供達が飲んでいるのを横目にテレビを再び見る。
騒ぐ声をBGMに視聴しているとテレビにも集まってくる。
この文明に関しては来たときから目にしているので驚くことはなくなったが、子供番組をやたら気に入って見ることが多くなった。
近すぎる距離に離れなさいと注意する。
一旦はそそくさと離れるが少しずつ近寄っていくのだ。
もう一度注意をしてからテレビの音量をあげた。
今も全てに声を出して反応しているので煩い。
音を大きくしてもかじりつき見続けているのでスマートフォンを出して弄る。
テレビも見られなくなるから子供らには居てほしくないのだ。
子供達が親近感たっぷりに近寄ってくるのはジェナフィの見た目が彼らよりも幼いからだろうな。
他の世界から転生してこの世界に生まれたが持ち前の大容量な魔力は失われず、この魔力もない世界で不自由せずに暮らせているのは幸運である。
スマホを触っていようと彼らは今テレビに夢中なので絡まれない。
天気予報を見ているともうすぐ嵐と書いてあり、ローに伝えた。
もうすぐ嵐ですよと言えば、4人は慌てて外へ飛び出していく。
ジェナフィが天気を伝えるとその通りになることを何度か経験しているので信じて飛んでいったのだ。
船が停泊しているのなら嵐に遭う。
そうなると船が破損する確率も高く、この範囲から離れるために船を動かしに行ったのだ。
この島はジェナフィの設定した人間のみが入れるので船は範囲外。
だから船は嵐に遭うし、ローらは慌てた。
というわけで暫く来ないだろうからテレビ視聴を取り戻した。
一年間に彼らが来る回数は何回なのだろう。
いくらなんでも来すぎではなかろうか。
来すぎだと仄めかしてもこんなの全然来てないぜと言う。
いや、めっちゃ来てるよと付け加え、君らは戦いをしっかり学んでるのかと聞く。
こんなに遊びに来ては未来も弱い男になるぞ。
と、言う感じで追い払おうとしてもお前だって子供だろうと言われる。
しかし、文明の差もあり、小島持ちなのだからこちらの方が自活出来ているのだ。
それを理解していての言葉なので彼らは年齢を前にしている。
今時年齢であれやこれやとなるのはないな。
見た目が幼くても中身はしっかりしている。
彼らこそ、もっと急いではどうか。
船を持ってるので十分なのだが、彼ら曰くもっと強くなりたいと常々言っているのだ。
こちらからすればその船で暮らせよと言いたい。
彼はそれでも来てはダラケテ過ごしていた。
このままではダメ人間になるのではと冷ややかな目で観察している。
ろーの体が成長して成長痛に苦しむ中、どこかの小さな国から悪人を退治せよと頼まれたと嬉しそうにシャチが語る。
ここってそういう世界じゃなかったと思うんだが。
悪人を退治させるとか。
自分達でしろよと襟首をつかんでぶん投げたい。
しかし、彼は楽しんでいるので放っておいた。
放っておいてくれないシャチが何故かこちらにまで参加要請をしてくる。
なにもメリットがなく、受けるに値しないと拒否。
ちょっと知り合いだからって手伝うわけがない。
帰れ帰れと追い払う。
受けないしこの島から出ることもないとつけて、4人を島から出す。
そんな日から5日後、再びやってきた子達にロープでぐるぐる巻きにされて船に乗せられていた。
立派な誘拐である。
相手を複数纏めて睨み付けた。
「嫌だー!」
「拒否権はない。連れていくと決めた」
意外なことにローが先に提案したことらしい。
ジェナフィがあまりにも外に出ないので、とのこと。
余計な世話である。
睨み付けるのを止めないまま、後悔すると再度宣言した。
「絶対になにもしないからっ、絶対!」
「戦闘員として連れていくわけじゃない」
ベポはのんきにそんなことを言うが、後から色々文句を言われるんだよなこういう場合。
契約書を記してと強く願い、彼らはなんの意味があるのか知らぬまま契約書を作りそこにサインした。
この世界では無効にされるから軽く考えていそうだが、魔法を使えるジェナフィは違う。
契約書に魔法を施しておいた。
後々戦えと言われても戦わなくて済むように。
眼を光らせて契約を結び終えるとロープを引きちぎる。
ええ、と騒ぐ三人を睨み付けて黙らせた。
「うう」
「わざと捕まったのか?」
シャチが恐る恐る聞いてくる。
うん、そうと答えておく。
急にロープを巻かれてびっくりして固まっていたというのは秘密。
そんな臆病風に晒されたので八つ当たりぎみに部屋へこもって誰もこれないように施錠した。
プライベート空間くらいは確保しておきたい。
暫く篭っていると昼御飯だとベポが呼びに来た。
それに対してドアを開いて昼なら食べたからいらんと断る。
断ったことや食べ物を持っているように見えなかったのに食べ終えたジェナフィに嘘ついてないか?と聞いてく失礼な熊。
熊こうにでこぴんしてやろうかと燃えるが、魔法で取り出したので食べたと答えて、帰ってもらう。
小心者とばれぬように生きてきたのにこのままでは。
うう、うう、と唸る。
強気で部屋に来たが島の外へ居るという事実に震えが止まらない。
人に会うなんて絶対に避けたい。
ロー達はなにもしないと知っているから関わっているのに。
なんていうことをしたのだと怒鳴りたくなる。
めちゃくちゃに暴れてつれて行けないと思わせてから島に戻りたい。
そうでもせねばまた同じ事を繰り返されるだろう。
部屋にこもった女にローは気にすることなく過ごしていることも確認済み。
こんなことをしたのにケロッとしているなんて図太いな、謝りに来るとかすることあるだろ。
すごくすごく、すごーく、恨みがましく相手が居る扉の先を睨み付けて布団に籠る。
自分は引きこもりたいのになぜにこんなことが出来るのか、とても悲しい。
──トントン
ローがノックして入ってきた。
なにしにきたんだと布団の隙間に目をやりちらりとローの下半身だけが視界の中に見える。
わざわざ男の子はこちらの方に顔を下にして逆に覗いてくる。
ギョッとなる。
いきなり近くに居ると発覚して動揺。
更に後ろへ行く。
どこかへ行かなくてはと後ろへずりずりと下がるが、壁で行き止まり。
「なにを言われたってなにもしないから」
「やらせない」
「なんで私を連れてきたのじゃあ」
「一緒に居たかったからだ」
「子供に強い存在を討伐させる人達なんなの。最低過ぎる」
「この近くの島には村が少なくて子供もほとんど居ない。おれ達だけなんだ」
「限界集落……!」
そんなところに移動してきてしまったのが不運。
泣きそうになっていると、ローがぽんぽんと頭のある布団の上を触る。
どうみても慰めているが連れてきた本人だ。
嬉しいわけがない。
ぎゅうと布団を握っていると緩く布団を剥がされた。
涙目で瞼が赤くなっている女がちょこんと縮こまっているのが丸見え。
彼はなにを考えているのか分からない瞳を揺らし、こちらへ片足を乗せるとギュッと抱き締めてきた。
まるであやしているみたい。
一分ほど抱き締められて解き放たれると羽のようにふんわりと唇に触れる。
キスは唐突で、それこそ慰めているようだ。
「ませてるって」
「フ、ませてるのは正解だ」
顔を緩めて笑みを浮かべるローに少し年上の威厳を切り取られたようでちょっとだけ悔しい。
それでもって、犯罪者になってしまうような歳の差なので待ってくれ。
「傍にいてくれりゃ、それで満足だ」
殺し文句!
大人になったときの成長具合が今から怖い。