短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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小柄なあの子

いつものように劇団の小道具を作っていると、最近軌道に乗り、名が売れてきていることに浮かれている人達が何かを話していた。

 

普段は大したことのない他愛のない雑談なのだが、耳に聞こえてきたワードにより、聞き耳を立てねばならなくなる。

 

(貴族が見に来るのか)

 

少しでも権力者の情報が入ってきたら気をつけねばならない。

 

そういう道を背負い込んでしまった苦労はいつも私を苦しめる。

 

こんな風に普通の生活が続けられるのなら、いくらでも大枚をはたくのに。

 

なんて、払えもしないから自分を笑う。

 

ここへ転生して何年経過しただろう……。

 

一言でも来たいと願った覚えはないけどね。

 

とほほ、と今世紀最大の不幸であり、最大の謎。

 

だってさ、転生したいと願っていたとしても本当に転生するわけないもん。

 

それなのになにも言ってないのに普通転生しないでしょ。

 

転生と思っているけど憑依とかもあり得るけど、取り敢えずこんがらがるから、転生と定めている。

 

美術の仕事をしていた事を糧にこの世界では小道具をしているが、元の世界ではネットデザインを主にしていたのに、凄く原始的な事をしなくてはならない。

 

まぁ、苦ではないけど恋しくなる。

 

早くネットに触れたいけどこの世界観では望みはない。

 

ネットのネの字も見当たらない。

 

はぁ。

 

「リーシャさん。ここ、見てくれない?」

 

私は腕だけは良い新人なので良く頼られる。

 

一人でちまちまするのが最高なんだけど、この世界でちまちまするのはかなり難しいのだ。

 

誰かとなにかをしないと生きていけない。

 

Amazooがあれば一人で生きていても許されるのに。

 

あと、スマホもほしい。

 

便利な家電も欲しい。

 

ボタン一つでご飯が食べられる生活をしたい。

 

恋しくて恋しくて、時々涙にくれる。

 

元の世界の私は働きっぱなしで乾ききった人生だったけど、娯楽に事欠かない世界だった。

 

部分的に特出していたものね。

 

それに対してこの世界はというと、大海賊時代という過去なのか、パラレルワールドなのか、異世界なのか混乱する世界観。

 

小道具を作る音を聴きため息を密かに吐いた。

 

「そういえば、おばあちゃんは自称異世界の夢を見る魔女だったなー」

 

幼い頃、おばあちゃんは異世界の話を良くしていて、それを聞くのが大好きだった。

 

ネットデザイナーもそれに多大な影響を受けていたな。

 

なんせ、ネットの中ではなんでも叶う。

 

魔法使いになることなど朝飯前。

 

「でも、おばちゃんの夢の話が本物だったなら、私の異世界渡りは血筋だったりして?」

 

今にして思えば壮大なフラグである。

 

そして、現に異世界転生した孫の私がいるので、ほぼほぼ真実。

 

おばちゃん、大人になってからユメモノガタリでしょって思ってごめんね。

 

夢渡の能力持ちでも普通に老化するからそこは人だったのではと思う。

 

お金持ちの人が劇場に来ると噂になってから数日後、本当に来た。

 

殆ど貸し切り状態で、見覚えのある顔がちらほらあった。

 

あの人、護衛に海賊雇ってるのか。

 

なんというか、大胆?

 

海軍は目と鼻の先にあるのに。

 

少し感嘆していると終わったと同時に片付けを始める。

 

小道具担当でもこういうところは皆でやるのだ。

 

家の中で動かなかったときと違い、なかなかの体力作業。

 

帰るときにはくたくた。

 

疲れた脳を揺らして帰宅。

 

ブラウスを外しながらよたよたとリビングに向かう。

 

ロウソクに火を付けようとするが、既についていて、顔をかしげる。

 

火事になるからこういうときは絶対気をつけているのに。

 

近寄ると黒いシルエットが見えてギョッとする。

 

「ひ」

 

強盗、と思いながらも怯んで動けない。

 

「落ち着け」

 

勝手に入ってきて落ち着けとはなんだこいつ。

 

ナイフは玄関に置いてきたままだ。

 

「おれだ。元気だったか?」

 

皮肉げに笑う顔を認めた途端、腰が抜けて足がもつれる。

 

見知った男だった。

 

「び、びっくりした……!ちょっと、なんで中に居るんですか!?」

 

彼は海賊の長、トラファルガー・ローだった。

 

ちょっと昔に知り合ってそれっきりだと思ったのに思い出したように現れる人。

 

「明るくしといてやったろ」

 

「ビビってプラマイゼロですが」

 

汗をかいた額を振ってゆるりと立ち上がる。

 

「そういえば、貴方の部下が今日いましたから、どこかには居るとは思いましたが」

 

「お前は違う島に移動したな」

 

「ローさんに伝えたかったのですが、電話番号を知らなくてもう会うことはないと思ってたんですがね」

 

暗に何故ここが?と聞く。

 

「お前のカードを事前に作っておいた」

 

「ええ!?……なんですか、それ?」

 

驚いたけどなんのこっちゃとハテナだ。

 

「相手の居場所が分かるカードだ」

 

「す、ストーカー御用達」

 

「無闇に使わねェよ」

 

心がやっと落ちついてブラウスを止める。

 

開けたままだった、危ない。

 

なにをしにやってきたのだと聞く前に、先に要件を出された。

 

「料理を食いに来た」

 

そうですか。

 

なら、腕を振るおうかな。

 

彼には恩もあるから、望むのなら答えるのが私に出来る精一杯だ。

 

パイを作ろうと昨日仕込んでおいたので焼く。

 

久々の二人分にわくわくする。

 

「パイなんですけど、大丈夫ですか?」

 

「……まァ、いいだろう」

 

ギリギリセーフだったらしい。

 

焼き上がったパイをザックリと切ってテーブルへ。

 

口に入れるともりもりなくなっていく。

 

いつ見てもその食べっぷりは凄い。

 

ニコニコしながらそれを見ていると彼は落ち着いた頃、話し出す。

 

「少しきな臭いことになった。この島を出た方が良い」

 

「出る?」

 

唐突に不穏な事を言われる。

 

ローのところの部下が護衛していた貴族が関係していて、この島を己の為に開発しようと計画しているらしい。

 

そのためには本来なら住人の認証が必要なのだが、人権とか息をしてない世界だから、力技で来ることがある。

 

それが今回起こる可能性が高いという。

 

劇団を見に来たのは美人と名高い女優を気に入ったら囲い込んで自分のものにして、島の人間を黙らせるつもりらしい。

 

とんでもない奴だ。

 

「持ちかけられたが断った。他にもいくつか持ちかけてるからなあいつは」

 

海軍が黙ってないだろうと思うが、貴族だからというのと裏で既に取引済みだろうと彼は語る。

 

でも、行くって言ってもなぁ。

 

ローは困った私の顔を見てニヤリと笑う。

 

「乗せてやってもいい」

 

その言い方はタダではないぞという?

 

「私は小道具くらいしか作れぬ娘ですが」

 

「そうだな……飯を作ればいい」

 

既にコックが居るだろう。

 

ジト目で見ると、彼はククク、と何が面白いのか笑う。

 

「雑用でもしますが、大してお役に立てませんよ?普通に船を乗り継いで行くだけなのでそちらの船に乗るまでもないですし」

 

わざわざ海賊船に乗るメリットも無いような。

 

難しい顔というか、戸惑いながら告げる。

 

「なら……乗れ、と言ったら?」

 

うーん、命令系統か。

 

ちょっとキュンとした。

 

ワイルドイケメンに言われるなんて私は前世でほとばしる善行を積んだのかもしれない。

 

「あ、そ、それなら、お邪魔します」

 

ドキドキして頷く。

 

ちょっと嬉しそうな女にローは変な顔をした。

 

私の薄いガラスのハートが傷つくからやめてくれ。

 

 

 

船に乗るといっても今すぐは無理だから荷造りと辞表を速やかに提出し、2日後に船に乗る。

 

余りにも急ぐのはローに急げと急かされたから。

 

いつ貴族が事を起こすかわからないもんね。

 

光るキノコを見つめながら唸る。

 

コックに好きに使って良いと許可をもらい、今立っている。

 

ローには料理を作るよう言われていたからなにを作ろうかと悩んでいた。

 

むむむ、とひたすら頭脳を働かせていると三人のクルー達がやってきて、どうしたどうしたと覗いてきた。

 

彼らとは船に一時期身を置いていた時に親身になってくれたので、船の人達とは良好な関係だ。

 

海賊なのに親身なんてと目からウロコがダバダバだった。

 

いやでも前の世界でそういう身分の人達と関わった事なんてないから比較対象がないんだけどね。

 

ローなんて比較しても海賊なのか?というくらいかっこいいし。

 

海賊にかっこいい人結構居るから目の保養になる。

 

私は世の女性はどうか知らないが、かっこいい人に弱い。

 

認めようではないか。

 

強い男性とかもかっこいいと感じている。

 

ふらっとローの船に乗ってしまうくらいにはチョロい。

 

ローはそれを分かっているのかまでは分からないけど。

 

船に乗るように口説かれては仕方ないな。

 

かっこいい女性も好きだけど。

 

カッコよかったらついつい、ね。

 

ついていきたい!と思ってしまう。

 

引き続き光るキノコに意識を戻してクルー達の意見を聞く。

 

きのこならなにを食べたいか。

 

グラタンとか、醤油をつけて食べたいとか言われた。

 

ふうむ、醤油ならば簡単だし、私も食べたくなってきた。

 

決めた、醤油を使おう。

 

キノコを洗い、光る光景を無視して少し茹でる。

 

それから塩が少し欲しいのでぱらりとかけておく。

 

フライパンを使って醤油をかけ、ひたすら焼く。

 

時々かき混ぜ、良い匂いがしてきたら皿に盛り付ける。

 

たくさんの人に食べさせるのは久々なので慎重を重ねてシンプルにした。

 

果たして、皆の評価はどうなのだろう。

 

コックさんを退かして毎日振る舞う真似はしない。

 

今だけだから。

 

流石に素人だからね。

 

恐る恐る先程意見を述べてくれた人達に味見を頼むと美味い美味いと絶賛してくれた。

 

「おい」

 

「「!!!」」

 

全員で肩を揺らす。

 

嫌に低い声を発したのは厨房を塞ぐ2メートル程の巨体。

 

「おれが頼んだんだから先に食わせるべきなのはおれだろうが」

 

おかんむり故にサササ、と皿をローへ渡す。

 

お箸も付けたよ。

 

クルー三人が石像になったので動けるのはリーシャだけだ。

 

息をしろ皆。

 

「どうですか?」

 

もぐもぐとひたすら口に入れていく掃除機トラファルガーに問いかけてみる。

 

じろりと睨まれて「もっと早く出せ」と褒められた。

 

一通りお腹が膨れたのか食の魔神は満足そうに出ていく。

 

石化が解けた彼らはホッとしていた。

 

食の恨みは怖い、と震えている。

 

「ローさんってあんなに食に執着してました?」

 

「いや、お前の作った飯が原因だ」

 

「え!?」

 

初耳だ。

 

今回船に誘われたのも9割ご飯目当てらしい。

 

1割は逆になにか気になる。

 

「船長は大食いだからな」

 

「そのためのコックなのでは?」

 

「そこまでは知らん」

 

謎が増えた。

 

 

 

たまにローの間食を作り、ほのぼのライフを過ごさせてもらう。

 

仕事がない分、暇なのでなにかしようと背をぐっと柔らかくする。

 

「すいませーん」

 

倉庫を片付けていた担当の人の所に向かい、いらないものを教えてもらう。

 

いらない鉄の棒をもらい、丸いボールと板を部屋の中に持っていく。

 

──コンコン

 

「はぁい」

 

ガチャ、と開いた先にいたのは来る予定のない男。

 

「なにか作るのか」

 

「これからですけどね」

 

気になるのか、部屋にきたようだ。

 

ローは本を持ち込み、部屋にある椅子に座る。

 

「あの、煩くなりますよ」

 

「本を読むから気にするな」

 

気にするけどなー。

 

今日はお好み焼きを作ろうとしている。

 

私は材料を用意をすればいいだけ。

 

らくらくだ。

 

混ぜさせても楽しい、作るのが楽しいって料理は見ていて嬉しくなる。

 

サクフワな生地になるように説明書も付けた。

 

「それはなんだ?」

 

「お好み焼きというものです」

 

「オコノミヤキ?」

 

「とある地方の名物なんです。凄く美味しくておすすめなのです」

 

「へェ。待ち切れないな」

 

興味を抱かれ満更でもない。

 

しかも、美味しいから食べたらきっとびっくりするよ。

 

人数分を用意するのはいつも大変だ。

 

ふう、と息を吐いて気合を入れる。

 

鉄板を事前に用意して貰っているのでそれを並べてもらう。

 

この世界、焼けるのも早い。

 

火力マシマシ。

 

全員を集めて早速クッキング。

 

手本を見せ、レクチャーすれば覚えが早い人たちはあっという間に出来る。

 

流石は身体能力がヤバい世界の人だ。

 

私がヒーヒーやっていたことに比べると、いともたやすく行われるそれ。

 

羨ましい。

 

うめえ!と聞こえてくるまで秒。

 

外はさっくり、中はふわふわ。

 

オコノミヤキソースはなんとか再現した。

 

あとは食べてもらうだけ。

 

自信作故にソワソワするけど、落ち着け。

 

余裕の顔をしてご飯を食べる場所へ向かう。

 

一人で運ぶのは至難の業なので近くにいた人に手伝ってもらい、皆の顔を見て鼻をピクピクさせる。

 

「何だこれ?」

 

ざわざわとなるので軽く説明して、デモンストレーション。

 

周りの人達は想像以上に盛り上がっていた。

 

こちらも手に力が入るってもんだ。

 

予想よりも皆が楽しんでいた。

 

ベーコンを盛りだくさん、という個性や焦げ気味になる人など、一種のゲーム状態。

 

ベポも早速口いっぱいに詰め込む。

 

見ていてほのぼのするぅ。

 

ベポだけが絵本から出てきたみたい。

 

いつも思っていたけど、こっそり見る。

 

「ぐん!?」

 

ベポが喉に詰まったときの顔をして水をガバガバと入れる。

 

皆に心配され、入れすぎるなと言われてからもっと食べたいと目を潤ませる。

 

「カワイこぶるな」

 

ローが目を尖らせている。

 

ベポに弱い船長だ。

 

きっと目こぼしするのに300ベリーかける。

 

 

 

ローはオコノミヤキを食べ終えるとしばらく食堂へ居座っていて、皆も余韻を楽しんでいる。

 

こちらへ感想と次も食べたいとリクエストされた。

 

「船長のリーシャを連れてくるって機転はナイス判断だな」

 

美味しいものを食べられるという意味で言われているのが分かって苦笑する。

 

「私は平穏に暮らしたかったんですけどね」

 

「あー、そっか」

 

「ま、おれらがお前の平穏守ってやっから」

 

本当?

 

疑うのはここは海賊船で、彼らは普通に戦うときは身を戦場へ投げ出すから。

 

守れるとは到底思わないけどなぁ。

 

「オコノミヤキ、美味かった」

 

「わ」

 

びっくりと共に振り返る。

 

真後ろにローがいた。

 

椅子にゆったりと腰掛けていて、にんまりとしている。

 

「ありがとうございます」

 

「次はいつ頃食べられる?」

 

「一週間はもうメニューが決まってて」

 

「なら一週間は先か」

 

そんなに早く回らないよ。

 

飽きさせないように考えているから、次があっても一ヶ月先だ。

 

「ちょっと難しいです。買い物もいけませんし」

 

「よし。シャチ。お前泳げるよな」

 

「げえ、そりゃないっすよ!海王類に食われて終いだッ」

 

「フフ、そのまま島まで運んでもらえる」

 

「酸で溶けとるわ!」

 

ボーイズトークは相変わらずだ。

 

ついて行ける時とついて行けない時があって、今日はかなりついて行けた。

 

「ペポなら意外と泳いでいけないか?」

 

仲が良い。

 

「行けなくはないかな」

 

「死ぬだろ」

 

ペンギンはすかさず突っ込む。

 

ローはそれを眺めていた。

 

で、オコノミヤキの件は終わり?

 

結局、一ヶ月なのか一週間なのか。

 

材料がないから無理だけどね。

 

オコノミヤキを食べた人たちは満足してそれぞれ部屋を離れていく。

 

ちゃんと感想を付け加えるので、次への参考になる。

 

あいや、チョコレートは入れないです。

 

一人だけ味覚のズレた人が居たので断った。

 

闇鍋でさえ、チョコレートは入れない。

 

ましてや、オコノミヤキにチョコレート……あれ?意外と平気?

 

よくよく考えたらクレープと材料は変わらないのか?

 

変なのと組み合わせをしなければ無事に食べられることに気付く。

 

塩系のクレープを作ろう。

 

オコノミヤキの材料は無いけど、野菜ならあるから。

 

最後にローへ声をかけられて背筋がズンと伸びる。

 

緊張する!

 

カチカチになって聞いていくと、お褒めの言葉をもらった。

 

やった、やったぁ!

 

いつもより熱のある言葉だ。

 

とても気に入ったみたい。

 

大成功にニマニマ。

 

船に乗って良かったのは誰かと話せることだよね。

 

一人じゃ寂しいから。

 

「日記に書こう」

 

リーシャの日記はズボラ仕様なので一年に5回くらいしか使われない。

 

しかし、三日坊主にはかなり使われている方という悲しい現実。

 

 

 

別の日。

 

コーヒーに牛乳をドバドバ入れているとブラック派の船員が目を丸くして見ていた。

 

こんなに入れる人はあんまりいなさそう。

 

「聞いたか?」

 

聞こえてきた話題に耳を大きくする。

 

「モーレツウ島に着くんだろ」

 

「待ち切れねェぜ」

 

なにがそんなに楽しみなのだろう。

 

首を傾げて不思議に思っていると肩を軽く触れる手にパッと後ろを見遣る。

 

「あ、ローさん」

 

「船には慣れたか」

 

「慣れるも何も古巣ですから」

 

「そうか。なら、眠れてるんだな」 

 

「はいッ。バッチリです」

 

流石はローだ。

 

アフターケアも実施している。

 

海賊なのにホワイトな会社に勤めている気になってくる。

 

ローは椅子に座るので私も同席。

 

もうじき島に着くのは知っているかと聞かれたので頷く。

 

「その島の中でお前には料理をしてもらいたい」

 

「や、野営ですか……それはなかなか難しいです」

 

私は江戸っ子ではなく現代っ子。

 

数々の道具がなければカップラーメンも作れない。

 

無理ゲーオブ・ザ・イヤー。

 

現代のワタシには無理な話なのである。

 

兎にも角にも無理であり、鬼畜モードだと教えると、彼は少し意外そうに見てきた。

 

「お前はどこでも作れるとばかり思ってた」

 

「いえ、私はガチガチの箱入り娘ですゆえ」

 

「くく、あんなにうまいもんを作っておいて」

 

ローはツボに入ったらしく、ひとしきり笑うとお弁当を作るように進言。

 

なるほどなー、それならイケるかな。

 

色々頭の中で組み立てて居ると視界に虫が入り込み、心臓がギュウッと痛みを発した。

 

「やー!?」

 

ほぼ反射的に飛び跳ねて頭を打つ。

 

「ガフ!」

 

「!!──おい?」

 

ローがすっごい怪訝な顔をして側に寄る。

 

や、優しいなこの人。

 

周りに居た彼らも突然の蛮行に戸惑っている。

 

痛みに呻いて虫に驚いただけだと弁明する。

 

「虫……」

 

「女の子だなァ」

 

そんなしみじみした声が聞こえた。

 

 

 

──ガダ、ゴド

 

「ふっ」

 

息を吐いて、吸う。

 

只今、生地を思いっきり叩いています。

 

何故なら必要な準備だから。

 

でも、やっぱり疲れるので誰かしてほしい。

 

ロー達に内緒で勧めているので秘密裏にやらねばならなくて、大変この上なし。

 

誰かだけに打ち明けて手伝ってもらうのもありかなぁ。

 

薄っすら後悔を抱いていると、向こうから足音が。

 

ぴくんと体を止める。

 

バレたらどうしよう。

 

その人を巻き込むしかない。

 

ぐっと手を握りしめていつ来るかと汗を流す。

 

しかし、気づくことなく通り過ぎてしまう。

 

なぁんだ。

 

ドキドキしたのに。

 

(これでサプライズ出来る)

 

笑いそうになる顔に慌てる。

 

ここで笑ったら聞こえてしまう。

 

そうならぬようにコソコソしていたのに。

 

皆が起きる前に作業を終わらせた。

 

(バレてないよね)

 

上手くいった。

 

皆がご飯を食べるのを見て、胸を抑える。

 

 

 

さて、と軽くはない腰を上げて上を向く。

 

ふとしたとき、何故かローがこちらを見ているのは果たして幻覚なのか。

 

不審な行動をした覚えは……あるけど。

 

エル・ネラ計画の為!

 

スッと隠れて本を眺める。

 

ジィっと穴が空く熱量で見ていたら、耳に風が──。

 

 

 

「ん!?」

 

バッッと後ろを見るとローが至近距離に居たのでずるりと後ろに下がる。

 

「何を見ているかと思えば……武器か」

 

確かに武器のカタログを見ていたけど。

 

近くにある飲み物を引き寄せて気まずさを誤魔化す。

 

なぜなら私は武器を使うような経歴を持ってないからだ。

 

ないものねだりへの憧れ。

 

下手な横好き?

 

どういい表せば良いのかわからないけどね。

 

武器を持って、その武器にセンスのある名前をつける。

 

そして、その武器を腰にさす。

 

誰かに聞かれたらサラッと武器の名前を披露して……この世界だから許される行為。

 

お願い、させて!

 

武器は使えないからハリボテ装備。

 

てれてれと顔を赤くして不運だったかもしれない時間を取り戻す様に語る。

 

「あはっは。なんて言いますか、かっこいいなって程度で見てたんです」

 

「気に入ったもんはあるのか。買ってやるよ」

 

(え!?)

 

唐突な奢り発言。

 

(武器を奢るって異世界だ!)

 

カルチャーショック。

 

「安くはないですから。自費で大丈夫です」

 

「金は稼げてる」

 

(アウトローな方法だからなあ)

 

内心こっそり付け加えた。

 

「とにかく選んどけ」

 

(いつの間にか買ってもらう方向に)

 

なんだか強引だなとは思ったけど、私にはこれ以上問答できない。

 

ローは満足そうに笑みを浮かべていた。

 

それを眺めて、互いに良しとするなら良いのかなと私も微笑んだ。

 

 

 

手を拭く。

 

丁寧に丁寧に。

 

緑のベトベトしたものを拭う為に何度も洗う。

 

こんなことになったのも、全て私のこの島の認識が甘かったからに他ならない。

 

ハートの海賊団並びにリーシャは不思議な島に船を停めて冒険へと繰り出していた。

 

自分に異世界ファンタジーのよくある能力持ちとかなら、意気揚々と向かうところ。

 

でも、私は控えめに言っても村の一般的な5歳児よりもか弱い。

 

たった今も変な箱がそこら中に浮いているエリアを眺め、どうしたものかと眉を潜めていた。

 

酷い頭痛も起こるくらいには、惑われてしまっている。

 

「ワープゾーンということか」

 

「ワープゾーンってなんだ?」

 

四人の船員たちの疑問の目がこちらに襲いかかる。

 

一人だけわかる孤独感が凄いけど。

 

「強いて言うなら、ですけど。あちこち場所に移動させられてしまう罠ですね」

 

ローと離れ離れになったのは痛いと痛感した。

 

ことの発端というほどではないけど、この箱がふよふよと浮く場所はかなり限定されていたのに移動してしまったのは、いきなり浮いていた箱が襲いかかるようにビュッと飛んで体当たりしてきたから。

 

「船長の悪魔の実に似てるのな」

 

避けきれなかった人たちも同じ所に飛ばされたらしい。

 

ここが数秒前まで居た所と離れているのではと推測したのはどれだけ叫んでも音沙汰がないからだ。

 

「協力して合流するしかねーな」

 

木に目印をつけて歩き出す彼らについていく。

 

心細いという気持ちがなくて良かった。

 

一人では脱出は無理。

 

「お前なんか話せよ。暇だろ」

 

船員が船員に振る。

 

いつものことなのだろう、彼は気前よく笑う。

 

「ウタちゃんのことがそんなに聞きたいんだな!」

 

「「またかよ」」

 

飽き飽きした顔でリピートされる。

 

「またって言うなまたってェ」

 

「ウタは良い、良いけどお前の語りが同じことの繰り返しなんだっつうの」

 

「ウタさんって方、私も知ってますよ」

 

雑誌とかで見るし、歌姫、だったか。

 

「今は映像機器も珍しくなくなってきたんだもんな」

 

「ウタちゃんの新作楽しみ」

 

ウタという子の事を聞くと心がざわつく。

 

そういう設定はありふれていた。

 

良くある、良く聞く、良く見る。

 

(転生者なんじゃないの?)

 

または移転者。

 

疑うにはまだ足りない。

 

馴染まれているし、愛されている。

 

元々居た存在でも納得は出来る。

 

しかし……愛される方法はいくらでもある。

 

音楽が私の耳から聞くとかなり先取りされているというか、ハイセンス。

 

音楽がとても飛び抜けている。

 

この世界では聞かないタイプの曲。

 

「思い違いなら良いのに」

 

もし転生者なら、恵まれていて、羨ましいことこの上ない。

 

知っても、近くで見ても見てるだけだが。

 

邪魔しようとか、暴こうとか、話しかけるなんて真似はするつもりなどない。

 

「他人だし」

 

熱く語る彼の声を聞いて、一人で決意を固めた。

 

 

 

船に戻った私達はローさんに感謝を伝えながらお風呂に入った。

 

数時間も外で遭難していたのだ。

 

不思議な体験ができたのは異世界らしくて良かったな。

 

ふわふわした気持ちで湯上りを堪能し、飲み物をゴクゴク飲む。

 

帰って来れて良かったー。

 

数日後、お店などがある島に降りるとローがわたしを連れて、武器を無理矢理購入させられた。

 

この前話していた武器カタログの武器だ。

 

カッコよくて、何度もリーシャは目をキラキラさせてしまう。

 

本当は欲しかったんだよね。

 

宝石とかと同等の値段がするから買える日が来るなんて思わなかった。

 

それを見てローは買って良かったと非常に満足していた。

 

満足度は珍しく満点を突破している。

 

それを見た船員全員はローの嬉しそうな顔を見て、彼女が乗って良かったと常々思う。

 

乗る前から彼女は船長のお気に入りだと皆知っていたが、彼女は争い事や、荒々しいこと、つまりは海賊船丸ごとの存在の船に乗るのは不安そうだったので強く誘えなかった。

 

しかし、彼女の住んでいた島できな臭い事があって、それを耳元で仄めかせばあっさり乗船した。

 

うちの船長が囲う時は、非常に色々作戦を練った末の結末に、彼は嬉しそうにしていた。

 

「リーシャ。持ち歩くなんて気に入ってんだな」

 

「カタログでずっと見てたので夢見たいな心地なんです」

 

「良かったなァ」

 

まるで愛娘みたいに愛でる団員達。

 

昔からこんなふうに何故か可愛がられるのだ。

 

今でも何故、ここまで可愛がられるのか不明だけど、皆といると楽しいのでヨシ。

 

「どうしたんですか、武器なんて珍しくないですよね」

 

「いやァ、だってそれ使う予定のないもんだろ」

 

「ええ。使うと汚れます」

 

「ま、お前は一般人だもんな。使わないのが正解なのかもなっ」

 

船員達がうんうんと頷く。

 

「宝石がついているところとかかっこいいです」

 

値段は宝石のせい。

 

宝石付きの武器なんていかにも。

 

超ご機嫌にしている中、色々あった。

 

例えばローが和の国に行ったり、とても強い人達と戦ったこと。

 

その後、黒髭と呼ばれる人に襲撃され、普通に船を破壊された。

 

リーシャになす術などなく、私は船と共に沈む。

 

みんなと違って戦えないからと船の中にいたのだが、ダンプにでも跳ね飛ばされたかと思うくらいの衝撃が襲った。

 

何故状況を把握できたのかというと、衝撃で元いた世界に戻ってきたから。

 

やはり、死んだのだろう。

 

パソコンで検索したけど、似たような世界の情報はなかった。

 

死んだ以上、なにも出来ることはない。

 

諦めの気持ちで過ごして三年。

 

もう戻ることは無いのだろうと確信して日常を過ごしていた。

 

(でも、料理のことは色々記憶してはいるんだよね)

 

ロー達が美味しいと口にしていたものを大切にしたい。

 

記憶も3年経つと薄くなってきて、あれは白昼夢だったのではないかと思う事がある。

 

日々を過ごしていると他の記憶が薄くなっていることに気付いた。

 

そのせいで更に夢だと思えるようになってきた。

 

歩いている時、ヨットを動かす光景が海沿いから見える。

 

懐かしさと海の匂いが甦る。

 

(私は戻りたいのかな。でも。向こうにいた時はこちらに帰りたかった)

 

どちらにも居たい。

 

贅沢な悩みなのだろう。

 

しかし、二兎を追いたいのが人の望み。

 

お風呂に入ると、箱に襲われた事件を思い出した。

 

ものづくりは好きだ。

 

あの船はもう二度と帰って来ないのだろうね。

 

凄く壊れていたみたいだし。

 

わたしは部屋で見ていたけれど、負けてしまった時を見て、とても怖くなってしまった。

 

戦いの場から逃げたいと思った。

 

きっと彼らはわたしを逃げたと責める。

 

そしたら、また彼らと話せるのだろうか。

 

(でも、ローさんが負けたのなら私にどうにか出来るわけがない)

 

そこは理解して欲しい。

 

スマホを操作して、異世界の行き方を調べたけどファンタジーの説明くらいしか表示されない。

 

スマホの電源を落として、そっと動く。

 

もう思い出すのをやめようと決めた。

 

思い出として過去にしよう。

 

(眠い。眠いなあ)

 

この世界に来てから生きる気力を徐々に失っていっている気がする。

 

それを証明するように、体重が減ったかも。

 

フライパンだけ持ってきたので底ら辺にあった種を放り込んで燻した。

 

──ポコッ

 

「んお?」

 

料理人ではない素人故に食材にこだわりもなければ目利きもない。

 

毒かもわからないから。

 

──パンッ

 

「いっだ!」

 

「う、ぐご!」

 

種が熱で飛び出してきた。

 

ポップコーンっぽい。

 

「熱い種が弾け飛んだだけだろ」

 

現実を突きつけてきたので、我に帰る。

 

お腹が空いたと感じた時には迷子になって5時間が経過していた。

 

なにか食べるものはないかとなんでもかんでもフライパンに入れている最中なのである。

 

(このままじゃ)

 

「餓死!」

 

思わず声に出した。

 

「草は食えるかもよ」

 

船員が気遣うように草を毟り取る。

 

「いざとなればおれの帽子食っていいから」

 

どこかで読んだことのある事を言い出すので、思わず無言になる。

 

「帽子ィ?腹の足しになるか!それならお前の事を食う」

 

「カニバってんじゃねーよ。人間としての意識がまだ残ってるうちに打開しようぜ」

 

みんな、流石に冷静だ。

 

私なぞパニックになってただの種を炙ったのに。

 

「箱に触りまくるっていうのは良いが、肝心の箱が見つからない」

 

火を起こすのは彼らがやってくれるので楽だ。

 

料理人ではないけど、次から出来るように誰かに教えてもらわねば。

 

教えてもらえればちょっとは料理出来るようになるかなぁ。

 

ロー達と離れてもう結構経っている。

 

(早く……合流しなきゃ)

 

なんの力もないから彼らだよりになる。

 

いそいそと付いていくだけの足になると、周りの音が聞こえた。

 

色んな動物らしい鳴き声とかが気になる。

 

「っ、な、な、こわ」

 

つい声に出たものを引っ込める。

 

「はっはー、安心しろ!」

 

(皆強さとかどれくらいなんだろう)

 

「あ、電話」

 

(電話……つながるんだ?)

 

毎回、電波はどうなっているんだろうという疑問に襲われる。

 

なぜ無人島で繋がるんだろうかと。

 

首をかしげて声に耳をすませる。

 

「はい、はい、あ、わかりました」

 

団員は弾んだ声をあげる。

 

「そんじゃあ……失礼します」

 

電話を終わらせたあと、彼は皆に説明する。

 

ローは今も私達を探してくれているらしい。

 

これだけ探されて見つけられないとなると、難しい状況。

 

「見つけられたいですね、早く」

 

「まあ、おれらが居るから安心しなッ」

 

何度もそうやって声をかけられると、気遣われていると、ほんわりとなる。

 

ローも優しい人だが、彼らも似た者同士という気持ちがある。

 

海賊って優しい人が多い。

 

会う人が多いってだけかもしれないけど。

 

 

 

箱が浮く中を彷徨うように歩いていると、箱が震えた、ような。

 

「ひっ!」

 

「ん?どーした」

 

聞いてくるけど、ただ震える箱を見るのでいっぱいで顔を向けるしかない。

 

能力?

 

こっっわ。

 

こっっわ。

 

一番今したいのは走ること。

 

「や、やや、やばっ」

 

足も震えるぅ。

 

ぷるっぷるする身体。

 

「おいおい、ヤベーんじゃねーの」

 

船員達も冷や汗をかく。

 

なんせ、動くとは思わなかったし。

 

全員が足早に捕まらぬ為に動く。

 

くうう、ローたちはまだなのかな。

 

早くしないと捕まる!

 

うおおお、就職活動を極限までやった私の脚力は負けんッ。

 

──ヒュンン

 

「あ、負ける。これは負ける」

 

摩訶不思議物体に猿の進化系に見せかけた劣化生物が勝てる筈がなかった。

 

浮遊した感覚に目を丸くする。

 

これ、捕まってね?

 

アウトな感じじゃなかろーか。

 

下から仲間の声が聞こえる。

 

抗えとか、振り払え、とかとか。

 

「もうダメだぁ。食べられるんだぁ」

 

「無機物っぽいからその心配はなさそうだ」

 

仲間からのフォロー。

 

そんなフォローいらないもん。

 

「ぎゃあああッ!」

 

もっと高くなっていく視界にとうとう叫び声が出てしまう。

 

本能というものか。

 

こういうときってヒーローが助けに来るのが常だが、現実はそんな甘くない。

 

ぐんぐん上がる視界に最早理性など保てない。

 

涙目で震える。

 

下手に動くと離されてしまうのでは?

 

急に恐ろしくなった。

 

これはもうオチたら死ぬ。

 

ぶるぶると勝手に震える身体は止められない。

 

誰かがなにかをするという展開もなく、無防備に体は高度をどんどん上げていく。

 

もうだめだ。

 

されるがまま。

 

目を閉じたらいつの間にか止まっていた。

 

あれからどれほど経過したか。

 

10分も経ってなかったかな。

 

それにしては、体感的にそれほど移動する訳がないような。

 

やけに早く移動してしまったらしい。

 

目眩を起こしてしまいそうになるが耐える。

 

「ここどこー?」

 

ほぼ涙が流れている。

 

声もカスカスだぁ。

 

心細くて酷い。

 

吐きそうになる。

 

「ローさぁん。はぁ、呼んで来るならもっとマシな人生送ってるよね私」

 

がっくし。

 

これは、多分置いてかれる。

 

私はよく考えなくとも非戦闘員。

 

いらない、めっさいらない。

 

唯の美術担当の自分は海賊からするとなんの役にも立たぬ。

 

(私は結局、流されているだけで我も強くないし平凡だし)

 

「もうお終いだあ」

 

しくしく泣いていると、足音が聞こえてくる。

 

「探したぞ」

 

「!──ロー、さんっ」

 

「遠いとこまで連れていかれたな」

 

笑われているけど、気にならない。

 

「うう、見捨てられるかと思ってました」

 

涙目で伝える。

 

下ろされて思わずローへ突っ込む。

 

「このまま干からびるかと」

 

「助けただろ」

 

首を振る。

 

「ありがとうございます!凄く凄く大好きです」

 

「そうか」

 

ぽん、と頭に手を乗っけられた。

 

「帰るぞ」

 

「はい!帰りますぅ」

 

得体の知れないものが彷徨く島なんて、一秒でも居たくない。

 

「ローさん、手を繋いで下さい」

 

手を掴んで頼む。

 

切実に頼むと彼は、クスッと声もなく笑みを浮かべて、ゆるりと怠慢な動きでこちらへ指先を差し出す。

 

彼は背が高くて手も大きい。

 

彼の手を半分塞いでしまうが今だけ耐えてもらう。

 

(すみません、怖がりで)

 

恥ずかしいなんて思わない。

 

怖いもん。

 

「どうやって見つけられたんですか」

 

助けられた側の船員の一人が質問。

 

「気配を探った」

 

(まさにバトル漫画の世界!)

 

それを私も言ったみたいな。

 

「流石せんちょー!」

 

「信じてた船長!」

 

「愛してるローさんッ」

 

どさくさに告白する男船員。

 

ハイハイとおざなりに返事をするローさん。

 

そういうところが雑と言われる所以なのではなかろうか。

 

わたしもなにか言わないとと、慌てて「毎日、かっこいい顔を見られて幸せです」と混ざる。

 

ローは何を言ってるんだお前までという顔をしていた。

 

いやいや、本音本音。

 

彼は私の悪ふざけだと思い、適当にお前まで真似するなとこつりと額を叩く。

 

嘘もなにもない真実を口にしただけなんだけどなぁ。

 

 

 

眠りにつくと、うとうとしていたまま、起き上がる。

 

薬品の匂いがする。

 

嗅ぎ覚えがある匂いに、くんくんとなる。

 

寝ぼけていると立ち上がって、そのまま扉を開ける。

 

(ここは夢の中?)

 

どう見ても医療関係の部屋。

 

見ていても進まないので扉の先へ。

 

(少し声が聞こえる)

 

耳をすませると僅かに誰かの声が聞こえて、導かれるように向かう。

 

部屋を出た後の光景は普通の家の廊下に見える。

 

ハートの海賊団の船ではなさそう。

 

(別の世界に行ってしまったとかなら、もう勘弁して欲しい)

 

別の世界の基盤を得るのがどれだけ大変か。

 

そういうのはウェブ小説の中だけで十分だ。

 

周りを見るまでもなく耳を頼りに進むと、少しだけ明るい。

 

首を捻りながらも扉を開けて中を見る為に目を更に開く。

 

──ガチャ

 

キィ、と軋む音は私にその存在を知らせる。

 

そして、それは向こうにも知らせることになるのだ。

 

(え)

 

「「「「え」」」」

 

テーブルが置いてある部屋には人間も居る。

 

お互い無言の時間が過ぎるので、目を薄ら細めて首を傾げる。

 

やっぱり夢かな。

 

撃破されたハートの海賊団の面々がこんなにちゃんと揃っているなんて、可笑しいもん。

 

集めるのに時間もかかるし、怪我もしてないなんて。

 

扉を閉めて部屋から離れる。

 

数秒して「「ええええ!?」」と叫び声が聞こえた。

 

廊下も心なしか震えたような、ないような。

 

兎に角、幻覚か私の見たい夢だからご都合主義が甚だしい。

 

「ローさん!ローさん!」

 

と、聞こえたりもしたけど、気にせずに離れていく。

 

夢で会う、会えない人と顔を合わせる事ほど悲しいことは無い。

 

起きたら夢だったなんて、泣いてしまうよ。

 

せめて、見ずに去ろう。

 

リーシャは出口を探した。

 

出口がきっと夢から醒める方法なのだ。

 

夢を夢に見るお年頃でも無い。

 

バタバタしているし、こちらにも走ってくる気配の足音がする。

 

「死人が生きてたァァ!」

 

という声と共に咽び泣く男達がこちらへ走り寄ってくる。

 

怖くて私まで逃げ出した。

 

なんだか素直に対応出来ない

 

「わたしはそもそも死んでませーんっ」

 

叫ぶ。

 

「そのようだな」

 

と、前方から声が聞こえて頭を物体にぶつけて跳ね返る。

 

そのまま倒れると思ったが腰を支えられて転倒はしなかった。

 

「一応葬儀は済ませておいたんだが」

 

「ん……あの、え?」

 

知っている人にビビるくらい似ている男。

 

「もしかしてローさんの兄?」

 

船員達がズッコケル。

 

だーっと全員仲良く。

 

なぜ今転けたのかと聞く前に、眼の前の男の人に質問される。

 

「お前はリーシャなのか?」

 

「私の名前はローさんから聞き及んでいるみたいですね」

 

納得し、笑みを浮かべる。

 

しかし、推定ローの兄は難しい顔をしてじっくり私の顔を見る。

 

「黒ひげに撃破された時に、死亡したと思っていたが。お前、歳をとってないように見える」

 

どこか食い違う会話に首をかしげる。

 

どうしてここで黒ひげの話?

 

「確かに私は一度死んだと思います。それと同時に。まあ、信じてはもらえないとは思いますが」

 

「おれはロー本人だ。どうやって生き延びた?」

 

どうしても聞きたいらしい。

 

そして、ローだという。

 

びっくり天ぷら!

 

「私、実はそもそも異世界人なんですよね。で、死んだら元いた世界に出戻りしていて、そして、またこの世界に来てしまったんです。ハートの海賊団は壊滅したとばかり思ってたんですが、どういう状態なんですか?」

 

「情報量が思っていたよりデカくて、もう少し待て」

 

どこらへんに待てと述べているのかわからない。

 

とりあえず考える時間を渡す。

 

10分ほど経て、彼らは質問攻めにしてきた。

 

本人確認もされていた。

 

私が私と言う証明をさせられた。

 

驚いたのは、もう海賊団として活動していないらしい。

 

黒ひげから奇襲を受けて一度壊滅し、また再起して航海を続けたあと、麦わらのルフィが海賊の秘宝を探し当て、見事海賊王になったと。

 

そして、目的と海賊を続ける必要もなくなったので個人的に購入した島にて、永住しているらしい。

 

うーん、信じられない話だが、彼らは少しだけ歳をとっているみたいだし、無形な話でもなさげなのだ。

 

何度も同じ質問と答えを問いただされる。

 

まるで刑事ドラマの尋問。

 

「まだ数日間、質問は続ける」

 

「それって、言っている事に相互はあるか、意見が変わらないかって言うテクニックですよね」

 

「これだけでも確証が得られそうではあるが、政府の天才科学者どもはクローンを作れるらしいからな」

 

「この世界、一部の技術がぶっ飛び過ぎなんですよね。私の世界でもクローンはまだ小動物くらいですよ。人間もロボットも、かなり長い年月がまだまだ掛かりそうですし」

 

「まあ、クローンには特徴があるから、だいたい分かるんだが」

 

「記憶は流石に共有出来ないですよね?」

 

「ただ、趣味趣向が同じ傾向らしい。例えばボア・ハンコックのクローンは麦わら屋に惚れたらしい」

 

「ボア・ハンコック!?美女がこの世に二人いると!?なんという展開」

 

「三メートルはあるぞ」

 

「さ、三メートル!?美女がっ!」

 

「それを聞いてそこだけ抽出するのどうかと思うがな」

 

ロー(多分)が色々変化したこの世界の情報を教えてくれる。

 

こんなふうに彼は私に勉強させてくれるところ、彼らしい。

 

だから、船に乗るのだ。

 

でも、争い事は避けたい。

 

「ねえ、ローさん、私、本当は。とっても会いたかった。けど、世界渡りをしてしまったらもう二度と会えないと思ってね。しかも、死んだと思っていたし」

 

「あァ、まさに起死回生だったな」

 

「見捨ててしまって、すみませんでした」

 

「おい!謝るな」

 

船員たちが怒鳴る。

 

怒鳴ったのは、嫌だったからだと教えてくれた。

 

「そうだぜ!おれらは海賊。死ぬ覚悟は出来てる。でも、負けるのは予期してなかったから、おれ等が敗者になっただけだろ」

 

「そうだぜ、しかも、全員生還した!お前も含めてな」

 

彼らは必死に私のせいでないことを伝えてきた。

 

異世界に居たのだから、と最後に締めくくる。

 

涙腺が緩くなり、つう、と涙が落ちる。

 

死んだと思っていたのだ。

 

「皆、本当に生きてるんですか?」

 

「あァ」

 

ローが全肯定をして、やっと夢ではないと知る。

 

私はまた戻って来れたのだ。

 

持ってきていたスマホはインターネットに繋がらないだろうからガラクタだけど、恋しさよりもみんなに会えた事がなによりも、欲しかった。

 

死んだらもう会えないんだよ。

 

水に沈む人間と船が、わたしのこの世界の最後の光景。

 

普通はそっちこそ、死亡扱いしていた。

 

わたしの葬式をしたというが、気になる。

 

「どんな葬式にしたのですか?」

 

「葬式が今気になる事なのか?相変わらずマイペースな奴め」

 

船員達に笑われた。

 

いや、気になるよ。

 

どんな厳かにしたのかってさ。

 

リーシャは彼らに居なかった時の事を聞きながら、自分はここに居ても良いのだろうかと聞く。

 

役に立たない女を置くメリットなどない。

 

しかも、海賊をもう辞めたというのだし。

 

ローは苦笑いをして、アタマを撫でた。

 

彼がこのようにアタマを撫でる仕草をした事に驚き、パッと顔を上げる。

 

「居て良い。葬式をしたが、お前を仲間として埋葬した。永久になるしかなくなったがな」

 

「海か、土か、もう全部土に分解されてますよね。うん、分かりました。またよろしくお願いします!」

 

海賊では無くなったが、ハートの海賊団という集団を今でも警戒している勢力がいるので、なまらないように、訓練は欠かさないらしい。

 

今はなにをしているのかというと、ユースタス・キッドとルフィ達に誘われているので、定例会に向かうとのこと。

 

「宴に結局なるんだ。お前も来い」

 

「えっ」

 

「お前もワノ国で色々動いていただろ」

 

「あれはあたふたして、ジタバタしていただけで。なにかしたと言う訳では」

 

「謙虚だな」

 

謙虚なんじゃなく、やっていないのにしたように思われるのは気まずい。

 

兎に角、お前が無事で良かったともう完全に本人認定されてしまう。

 

もう海賊じゃないから皆からはふんわりした雰囲気があった。

 

やはり、肩の荷が降りたのかも。

 

数日が経ち、私は結局ローからもう見なくて良くなったと言われ、無事に彼らと再び暮らす事となる。

 

少し旅をしたいなと思い、想いを馳せる。

 

「島の外に出てみようかなぁ」

 

ルフィが海賊王になったのならば、治安も良くなった。

 

大海賊時代は終わりを迎えた訳だ。

 

ならば、旅をしやすくなったということだ。

 

それならば、それでいこうと胸がドキドキしてきた。

 

「ローさん。相談がありまして」

 

「ん?」

 

ローは部屋で寛いでいて、半裸で過ごしていた。

 

船に長くいると半裸の異性の半裸など暇にないほど見ているので見慣れたものさ。

 

「旅に出ようと思いまして」

 

彼は目をぱちくりとする。

 

うーん、数年経過して、可愛さがアップしたかも。

 

なんて、良い歳をした男性に思うのも変だけど。

 

「おれがいうのもなんだが、お前はやめておいた方が良い。おれより弱いだろうが」

 

当たり前すぎることを指摘されたが、それでも彼らと別れて、他のところに住んでいた事だってあるというのに。

 

今更なご指摘を受けつつも、でも旅に出たいと言い募る。

 

彼は難しい顔をして、にやりと笑う。

 

ん?

 

「タイミング的には良いか。おれもそろそろ放浪したいと思っていたところだ」

 

「放浪?もしかして、良く居なくなる……徘徊のことですか?」

 

にやりとしていた顔に怒気がわずかに混ざる瞬間をみてしまい、不味ぅ、と口を閉じる。

 

だ、だって、そうとしか思えなかったもん。

 

誰も知らない間に居なくなるって、どう聞いても行方不明扱いだったし。

 

「徘徊とは言ってくれるな?お前も徘徊するか?というか、お前とおれはこれから徘徊するのは決まった」

 

ヤバい程根に持ってしまった。

 

これは一生からかわれてしまうかも。

 

口を滑らすって怖い事だ。

 

数日後、彼は有言実行だと私の首根っこをひっ掴み、船から飛び降りた。

 

ジェットコースターよりも迫力があった。

 

「あや、あやまるから離してえ!」

 

響いた声がハートの船員達に届く事はついぞなかった。

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