「お前ほんと役立たずだな」
その言葉から始まったのは聞くに耐えない罵倒ばかりで呆れ果てる。
確かに目立つのが嫌なので平均より多少低めに調節しているからこのグループ内では一番弱いかもしれないがパワーで手伝わない代わりに雑用は完璧にこなしているわけで。
だから、他のグループと比べて目に見えて派手ではないが生活やその他諸々を考えてみればかなり役にたっている筈。
それを、今のいままでの事をすっ飛ばして役に立たないと切り捨てられる評価の仕方にもっとがっかりした。
恐らく成績とかは普通な分、己の働きを別視点で試みれないからかもしれない。
滅茶苦茶成績が良いならば何かしら理解されたかもしれないのを考えてからやはりあり得ないなと彼らを切り捨てる。
ばっさりと思考を整頓して、リナリィは一人自分を元気付けた。
「なァ皆。あの時の決まった事を伝えないか?」
白々しい演説で5人の生徒は同じグループに属しているリナリィを間違いの異分子の如く視界に納めながら腐ったような気持ち悪い顔で宣言する。
大体言われるだろう事は察しているのでやっと言ってくれるかと待ちくたびれさえしていた。
「おれ達のグループから抜けてもらう」
「分かった」
凄く軽快に、あっさり、海鮮スープのようなさっぱりさで返答した。
「……ああ、自分が最下位だって自覚してたんだね」
最初は変なやつだという目で見ていたが自分だけの完結でもって納得したらしい。
バカだなと内心思った。
言われるかもしれない、言われないかもしれないで心を傷つけて内心仲間内でニヤニヤ嗤いながら悪口を言い合う、それこそジュースのおやつ扱いをするだろう、そんなことをされると超能力者の悟りがあったとしても不要なレベルな透けて見えるその思考。
分かりやすすぎてわざとその揚げ足とりを受けてあげたくなる天の邪鬼を必死に押し込んでしおしおとした様子を見せてやる。
「私が不甲斐ないのは仕方ない。だから迷惑をかけないように止めるのがせめてもの」
こっちが下手に出ていれば煩い囀りを聞かなくて済む。
面白いくらいにこちらの誘導したい展開に持っていけたので楽しくなる。
こんなグループなんてそもそも入りたくなかった。
グループというのは仲良しでやることもあれば特に人の指定がなければランダムで組まれる。
誰でも良いと考えた人用のシステムだ。
まだ学生の身なので入れ換えたりして相性を確かめるという経験値も兼ねている。
このチームはリナリィにとって、否、他の人にとっても破滅的に最低な相性だ。
選民意識が高く、自分達は無敵だと驕っている。
それならまだしも、同じグループ内で優劣を付ける。
相性抜きにしてあり得ない程頭の悪いやつらであった。
流石にもう嫌だと思ったが遺恨を残したりして噂を流されるのは面倒だし、抜けた後にあれこれ干渉されるのも真っ平で、もうやってられないとさっさと歩き出した。
そういや料理とかどうするんだろうかこの人達。
いや、もう関係ないか。
不味い飯でも食って腹下せば良い。
ドクトカゲとか毒の処理しないと食べられないのだが、そんなの常識だし。
他にも面倒な手順を踏まないといけないものがあるだけに、人数も手もあるのだからリナリィよりも楽にやれるよねと意気揚々と別れた。
罵倒されたのに言い返さなかったことに関しては後々身内同士で醜い言い愛を、ではなく、言い合いをするだろうから。
己が吐き出した言葉を何倍も痛烈な皮肉に変換されるだろうその時は是非鑑賞してみたいものだ。
チケット代を払ってもいい。
分かっているから楽しいのだ。
今までこき使って散々バカにしたのだ。
復讐しても許される。
寧ろ周りも共に手伝ってくれるだろう。
「おい」
聞いたことのない声に誘われゆるりと振り返ればなんてことない、学年の最優秀くんが居た。
あのアホの祭典のような修羅場を眺めていたに違いない。
悪趣味め。
アホアホ魔神達の総攻撃をツマミにしたならばなんとも味が底辺なものになるのに良く見れたものである。
咀嚼しようものなら虫歯で死ねるな。
「グループから抜けたんならおれと組まないか」
「良いよ」
直ぐ様返事をしたのなら、長いことグループに属さねば成績に響くからだ。
決して、学年の最優秀が居るからゴマを擦ったわけじゃない。
あと、かっこいいから即答したんじゃない、ないない。
「おれのところに入るんなら本気出せよ」
「あー、知ってたんだ」
「実力を出せばあいつらがウザいのはおれでも分かる」
うん、プライドだけはお天道様よりも高いやつらだから。
女だからと最早人類の種類別という生命が生まれた頃から決まっているものに文句を言うに決まっていた。
生まれる惑星を変えてこいとでも遠回しに言っているのかと鼻で笑って終わりだが。
もしくはオスメスのどちらでもない種になってこいとお尻を蹴飛ばすしか相手の価値観をネジ曲げる方法はない。
「分かった。宜しく」
「ローだ」
「ロー。私はリナリィ」
「知ってる。あと脱退出来て良かったな」
にやりと笑う男はとても優等生には見えない。
猫でも被ってるのかと思ったがわりかし普段でも特に態度は同じだった気がする。
「早速試しに不甲斐ない森へ行かないか」
「おお、行く」
ストレス発散もしたかった。
「噂のお前の手料理を食わせてくれよ」
雑用をしていたので地味なのに噂になっていたのは残念だ。
黒子になりたい。
影で支える女になりたいのに、皆虐げるなんて思いもしなんだ。
ローと森へ同行する。
彼はどうやら単独らしい。
今までどうやって成績を稼いできたんだろう。
「一人なのにどうやって成績を維持出来ているの?」
ノルマが高めで一人でやるには難しいのだ。
「簡単だ。ギルドのクエストもやってる」
「そっか。私は休日はのんびりしたいからギルドはちょっと」
いくら能力があっても休日返上まではしたくない。
「そうだろうな」
モンスターががさがさとやってきては切り捨てる男に目を丸くする。
素材を取る気配がない。
「お前にはおれがやったものを集めてもらいたい。いちいちやるよりも作業別の方が効率も良い」
「それもそうだ。私も楽だし」
モンスターは倒されると素材になってコロンと落ちる。
それを自動でアイテム用のボックスへ吸い込まれる魔法を開発した。
それすらも雑用なんだから当然と切り捨てたかつてのグループ仲間はとても愚かだと思い出した。
素材を毎回集めるだけでも時間がかかるのを全くこれっぽっちでも理解していなかったのは雑用に頼りきった結果だ。
どうせ後で泣きを見ると放置しておいた。
お優しくあのねー、素材をねーと説明するにはシュウトメのようにねちねち言われる為に言わない。
君らの先生じゃありませんから。
なんて、思っていた。
「凄く便利だな」
「私も楽したくてね」
「あいつらはそれを自ら捨てたんだな」
顔にあり得ないとでかでか書いてある。
確かに。
回収だけでもかなり時間を取られる。
安全に回収しないといけないので戦闘が終わってからやるので移動の時間が短くなり、結局一日に狩れる回数が減る。
しかし、この自動回収魔法があれば狩ったそばから移動できる。
それに、屈まずともいいのでその分の行動による疲労を短縮。
サポートが更に専念出来る。
更に奥へ進むが彼はサクサクと先へ行く。
物凄く簡単に済ませるから流石は実力者だと舌を巻いた。
倍速の支援魔法をかければ彼は驚いた顔で白熱して猛攻していた。
実力者に支援をすればああなるのかと支援魔法の効果をやっと実感出来た。
あの人達が受けていた時はそんなにやれていなかったなと日々感じていた。
彼らはとても満足そうだったからそれ以上早くなることもなかった。
投資をドブに捨てた気持ちになるのでかけるのも憂鬱になっていたから晴れ晴れだ。
「これなら昼間には帰れるな」
「なら、ご飯はどうする?」
手作りを食べたいと言っていた。
「食いてェから作れ」
「はいはい」
そんなに食べたいのか。
前グループ達は舌が肥えてしまったのにリナリィが抜けた後の料理に我慢出来るのでしょうかね。
くっくっく、と高笑いしたくなる。
「邪悪な顔してるぞ」
「うーん。でも、あんな風に追い出されたら誰だって怒るでしょ?」
人を悪く言うにしても限度を守らねばそれはただの言葉の暴力。
それに晒されながらも相手をゴールデンハンドで丁寧に棺桶へぶちこまなかったのは称賛されるべきだ。
規律を唯一切実に守っていた。
うむ、やはり褒められて然るべき。
そうして一人思い出に浸かっているとローがデカイモンスターに突進した。
攻撃力が上がる効果の支援を施し観戦。
なるほど、こんなに戦えるなら一人でチームもグループも属さないでやれるのは当然だ。
学生達と強さの各が違う。
──ガキィン
最後に攻撃を加える。
あっという間に蹴散らしアイテムがドロップしていく。
大漁だ。
「お前の支援、学生がやれるレベルじゃないな」
「楽が出来るのなら惜しまないよ」
美味しいものも食べたい。
楽して稼ぎたい。
効率を考えれば強い人に強い支援魔法をかければ全て叶うのだ。
「ローとはかなり利益が上がりやすくて楽」
「おれもやり易い」
互いに絶妙なマッチ具合でほくほくだ。
収入も良い。
但しローがこちらをなんと捉えるかだ。
雑用である。
それとも家政婦扱いか。
森から帰った後、何度も彼とモンスターを狩っていった。
驚いたのはローが互いの報酬を毎回綺麗にきっちり分けていることだ。
それに、ちゃんとグループとして対等にしてくれる。
前グループの愚か者共が落ちつぶれたと最近になって噂が出回るのを聞いた。
チケットは完売してしまうらしく、それらしいものを目撃したことはない。
運良くチケットを手に入れられたお喋り雀達が皆にも楽しい話題提供をしてくれているので詳しい内容が入ってくる。
バードウォッチングを趣味としている人達も居るので今では愚か者達は良い笑い者だ。
人間と鳥を楽しませられる芸という過去を自ら露呈してくれている彼らに皆はふかーく感謝していることだろう。
リナリィが追放されたと知るものも多く、その恥の上塗りをしている者達の泥舟から避難
出来たこと感心していた。
「聞いたか」
ローが慣れた雰囲気で話しかけてくる。
曰く、リナリィが去った後のご飯でドクトカゲを食べたら全員痺れて動けなくなったらしい。
それをリナリィの策略だと訴えた生徒が居て、救援にかけつけて原因となった食事を聞いた教員が冷たい目をしてドクトカゲの毒の処理という当たり前の知識を教えて彼らはそんなの知らないと顔を赤くして怒ったらしい。
授業で習ったやつなのに。
自分達の不始末なのに責任を追放した生徒に押し付けるという赤っ恥も学園に広まる。
これ以上何が落ちるのか楽しみで楽しみで。
料理が不味いと洩らして料理を作った女を怒らせたらしい。
いつものように料理評論家ぶって言ったのだろう。
リナリィが特に怒らなかったので折角作った料理を貶された女が鍋を文句を言った人達に引っ掻けたらしい。
当たり前すぎの反応。
ほうほうの体で一生懸命に作ったのに文句を言われる。
女だって己がその位置に居たのを思い出してグループを抜けた。
料理を一度否定されたくらいで止めるなんて、なんていう腑抜けっぷりなんだと呆れる。
そこは「美味しいって言ってくれるまで頑張る」と健気に言うところだろう。
また噂がグレードアップした。
今度はモンスターを狩る数がげっそりと減ったと。
行動の倍速化をかけていないのだし、当然の結果だ。
「今日はなんだ?」
「テフフマのからあげ」
モンスターを狩りに門を出ると落武者のように疲れた顔の亡者モドキ達が待ち構えていた。
プライドが高すぎてここまで朽ちるまでやっていたのだろう。
「お願いだ、戻ってきてくれ」
恥知らずもここまでくると鑑賞するのも飽きてくる。
「戻るもなにも、私は貴方達に追放されたの。追放、意味、分かる?」
追放をした場合、一年以上は追放した相手を戻せないという規則がある。
「君がシステム局に間違いだったと連絡してくれればそんなの無くなる」
「なんの為に連絡を?私はそのつもりは一切ないのに」
「謝る。なんでも君が望むことを言ってくれれば」
「なんでも?」
そんなの、奴隷になれと言ったのならされてしまうのにバカだなやっぱり。
「じゃあ、私へ一度も悪口も罵倒も摂取も底辺の扱いもしたことがない人としか組まないって、願うから」
全員、口をつぐんだ。
誰一人とて当てはまるものがないのだ。
復帰の芽などこちらから踏みにじってくれるわ。
なんでもなんて言うからカウンターを食らうのだ。
黙りこんだ今や役立たずの烙印を押された彼らを無視して向かう。
「デザートは?」
「メルマーガのポラ」
食い意地が張ってるキャラとして今やローは己のなかでぽこんと張り付いている。
モンスターが襲ってくるのを待ち、彼が狩るのを見てから、昼食へと移る。
その時、話題にしなかった先程の仲間に戻ってきてくれ騒動を掘り返す。
「良いのか。あいつらが非を認めたなら他のグループに入れるだろ」
「なにいってるの、もう」
そこは流石はおれのパートナーだ、とか、おれのパートナーなんだから抜けさせるなんてさせねーぜ的なときめきさをちょっとでも醸し出してほしかった。
「おれの前ならお前の実力を出せているから必要ないよな。くらい言ってほしいよ」
「おれ一人よりも他のやつにかければいつか何かあったときに貸しが作れるよな」
今後の人脈作りについて意見しているようだ。
確かに一理ある。
だが、まだいまいちすっきりしていないことがあるのだ。
前グループ達の今以上の転落を望む。
再起不能で良い。
やりすぎだと言わようとも、使うだけ使ってポイされたのだから許さん。
下手をしたら成績評価不能で留年していた可能性が多大にあったのだから。
ローが拾ってくれなければ、特に評価されない女一人、どこもグループに今更入れてくれまい。
更なる不幸を願ってローにデザートを差し出した。