はい、こんにちは転生者です。
と先にカミングアウトしておく。
何故ならとても説明が大変だから。
これから少し、自分の人生の歴史を説明しようと思う。
まず、この世界は間違いなく大海賊時代。
そして後に『最悪な世代』 と言われる時代。
更にリーシャは力のある海賊の船の金銭管理を任されている。
見た目は黒い髪に黒い瞳と平凡な所謂モブ。
シャチやペンギンよりも出番が少ないので脇役というより船員Aだろう。
この船に乗ったのはまだハートの海賊団が名を売っていない時。
その時はまだ前世の記憶なんてなかったし気ままに暮らしていた。
なのに、何の因果か船長であるトラファルガー・ローという人に目を付けられあれよあれよと乗船させられたのだ。
それから目立たず黙々と雑務をこなしていく内にいつの間にか金銭を管理する役割を任されていたというより……なっていた。
シャチにあるとき肩を何気に叩かれた瞬間、フラッシュバックするように前世の記憶が脳裏を渦巻いたのだ。
それから二日寝込み起き上がれるようになったらここはとある世界だと知った。
漫画でもあり小説の世界のここは物語をそのままに進行中。
進行中だと理解出来たのはトリップしてきた現代の人間が空から落ちて来たからだ。
見間違うことなく少女だったので、確かにそのままだと内心苦笑した。
「おい、リーシャ」
「なに、シャチ」
「もう少し休んだらどうだ?」
「大丈夫だって、軽い風邪だから」
先日熱を出したので皆が気遣う声や目線を渡してくる。
呻くように悩む声を出すシャチの気遣いに感謝して、もう一度少女が落ちてきた方面を見ると丁度ベポ達が引き上げているところ。
小説通りなら彼女はヒロインで名前はバリバリ和名だろう。
「船長に報告しに行かないの?」
(私は関わり合いたくないなぁ)
この少女はこれからこの船をある意味引っ掻き回す存在になる。
「お前行けよ」
「さっきの気遣いどこいったのかなー?」
呆れるように呟けばシャチはカラカラと笑い背中を船内に向けて軽く押すので仕方なく船長室に向かう。
きっともう昼だから起きている筈の男にこれから少女の事をいうのは憂鬱だ。
八つ当たりされなければいいが。
溜め息を付きながら扉の前に立つとノックを二回する。
数秒して扉を潜るのはローが返事をしないのは当たり前だから。
「船長、報告です。たった今空から落ちてきた少女を船員達が引き上げました」
「空から?」
椅子に座っていたローは面を上げてピクリと眉を動かす。
詳しい話は他の船員達にと丸投げすると彼は暫し考えるように固まる。
もう行ってもいいだろうかと踵を返そうとすると呼び止められた。
「体調はどうだ?」
「彼女の、ですか……気を失っているので」
言葉を紡ごうとするとローは首を横に振りお前のだ、と言われ納得。
問題ないと言うとこっちに来いと言われ渋りたくなる。
彼は医者だからそうなのかもしれないが、成人している男性に診察されるのは恥ずかしい。
いくら精神的に年齢が目の前の船長より上であっても羞恥心は残る。
痺れを切らしたのか彼は立ち上がってこちらに来た。
「船長、あの…………椅子に座りますから…………」
妖しい雰囲気に心臓がバクバクと鳴る。
まるで追い詰められているかのようだ。
その空気を感じ進言するのだが彼は聞こえていないかの様にこちらに寄る。
悲鳴を上げたくてもこんな事で上げるのはという精神年齢の自分に叱責したくなるのは仕方がない。
でも今の自分の身体の年齢は二十二なので成人はしている。
合計の年齢は実に冷静にさせるには十分なお年になるのが最近のコンプレックス。
しかし、やはり年齢はずっと彼よりも上なので正直ローを相手にする時も仲間を相手にする時も年下にしか感じないのだ。
しかも甘やかしたくなる精神付きの。
頭を撫でたくなるし、彼らの相談役として日々過ごしているから恋愛要素のあるドキリというのはあまりしたくない。
「…………分かりました。お好きにどうぞ」
どうせ診察されるのなら、早く終わればいいと思いながら言えば彼はピタリとその動きを止め、こちらをまじまじと見る。
「面白くねェな」
「診察に面白さを求めないで下さい」
溜め息を付けばクツリと頭上から笑う声が聞こえ、この人は絶対にS気質だと改めて思った。
そして屈折しつつも報告し終わり診察も受けたので自室に戻った。
それから数十分後、ベポが来て服を貸して欲しいと頼んできたので、断る理由すらないので普通に渡す。
動きやすいデニムパンツとTシャツを貸せばありがとうと癒される獣の笑顔に母性本能が疼いて後で身体をモフモフさせてもらおうと決める。
それから、と食堂に集まるようにと伝言され頷く。
十中八九あの少女についてだろう。
考えつつ部屋で金銭手帳を開きながら次の島を降りて買う物をあらかた決めておく。
そこから出費した分と襲撃されたりして得た金銭価値のあるものの割合を考えながら計算する。
リーシャはお金が溜まる感覚が好きだ。
それにこの船はぶっちゃけ金銭管理なんて必要ではないくらいお金持ちなのである。
それはすべてこの船の人間が強くて全勝零敗な程に相手を撒かすので出ることより入る方がずっと多いのだ。
それに二年後には、ローは海軍の組織に加入するだろうからその時に向けて自分だけでも管理しようと思ったことから金銭管理という役割が始まった。
だから少女の為だけに使わないように注意を払わなければならない。
と思考している間に時間が経過したようで、もうそろそろかと椅子から立ち上がる。
食堂に向かうとちらほら船員達がいたので軽く挨拶すると全員が集まった。
そこでふと気付いたのは少女がリーシャがベポに渡した自身の私服を着ていたこと。
確か記憶ではツナギを着ていたのだが…………まぁ少しくらい違うのは当然かと現実的に考える。
全員の視線がローと少女に向いた時、船長が説明し始めた。
「次の島まで乗せることになった」
「あの、ツキシマカンナです。よろしく、お願いします……!」
ツキシマカンナ、小説のヒロインの名前だ。
ついに物語は動き出した、というところだろう。
「色々尋問したが、今のところは普通の女だ。こいつには雑用をさせる。意見はあるか?」
「どこから来たんですか?」
ローの問いに船員が質問すると彼はこの世界ではないところだと言った。
その言葉にざわりと周りが驚く。
当然の反応だが自分が転生しているという存在なのでこの世界にトリップできる可能性はかなり高い。
冷静に分析していればローの視線がこちらを向いたので首を傾げた。
「使われていない部屋を用意できるまでこの女の部屋についてだが……」
その言葉に少女、カンナの目が期待に満ちた事をリーシャは密かに感じ怪訝に思った。
小説では不安げにしていたからだ。
「リーシャ、お前の部屋に置けるか」
「?…………条件付きですが構いませんか?」
不思議に思った。
本の通りならローの部屋に住まわせる筈なのだが…………考えても仕方ないので頷くと船長はああ、と言い解散を言い渡す。
その時に船員から「気を付けろ」と言われ苦笑。
確かに彼女が敵である可能性もあるが、ないと分かっているので複雑な気分だ。
「リーシャ」
呼ばれてそちらへ向かえばカンナがジロジロと見てくるのでなんなのだろうと考える前に思い出す。
そういえば部屋割りの時にこちらを、もの凄く驚いてた顔をして見ていたので恐らく女はいないものだと思っていたからかもしれない。
改めて名前とよろしくという言葉を伝えるとローに足され自室に置く条件を説明する。
「服は貸すし必要最低限のことも教える。だからプライバシーだけは守ってね。何か貸して欲しい時は言って。あと、この船は海賊船だからそれは絶対に覚えておいて……それくらいですかね」
「分かりました。よろしくお願いします」
物分かりの良さはヒロインらしかった。
問題はローのことを見る目だったが面倒だから指摘も何もしない。
もっと言うならば、引っ掻き回すことはしないでほしいがヒロインなので無理だろう。
名前も名乗り終わり互いに認識し合うとローは頼んだ、と言ってニヤリと笑う。
こちらもいいえ、と返しカンナを連れてシェアする部屋に案内する。
その間彼女は質問してきた。
「リーシャさんはいつからこの船に乗っているんですか?」
「結構初期だよ」
「凄いですね……私海賊船どころかこの世界について何も知らないんで……憧れます」
「ありがとう」
(凄く良い子……ヒロインだなぁ)
染々と感じる笑顔にこちらも感化される。
「ここだよ」
「…………」
「?、どうかした?」
部屋を見て向こうにある部屋を見つめるカンナに問うとあの部屋は、という質問に船長の自室だと言えばそうですか、と気落ちした声で呟く。
何なんだろう、と疑問に思いながら必要になるであろう服を出して渡すとやはり気落ちした声で受けとる。
海賊のいる世界に落ちた事が不安なのだろうかと考え当たり前だ、と感じた。
リーシャも前世の、現代の記憶であれど、この世界は平和とはかけ離れたシビアな世界。
最初は生きていけないと諦めそうになったがこの船の人間に助けられながら過ごしていく内に少しくらいこの世界で生きていこうかな、と思った。
だからヒロインである彼女に少なからず同情してしまう。
「大丈夫、この船の人たちは強いから」
「え?」
(は?……違うの?)
呆気に取られた顔で首を傾げるカンナに内心で疑問に思うと彼女は頬を引きつらせて曖昧に笑う。
「あ、あ……そうですよね……あはは……」
何かを間違っただろうと感じると、カンナはお手洗いの場所を聞いてきたので案内した。
迷子になるからそこで待っていると微かな呟きが聞こえて来たので仰天した。
「可笑しい……本にはそんなキャラなんていなかったのに…………」
…………だ、そうだ。
(これは…………えー…………面倒臭いなぁ)
思わず顔に手を当て溜め息をつかないように気を付ける。
まさかの展開に頭が痛くなった。
(ヒロインが知ってる世界?でもヒロインがそんなこと……本には一言もなかったのに)
たしかヒロインは知識なしのトリップ主だった筈。
何らかの理由でこの世界にきた人間が知識ありとはここまで本の内容を無視したことなどあるのか。
自分もイレギュラーな存在だがあくまでモブだ。
しかし彼女は本当のイレギュラーな人間だと知った今、どうしたものかと考え、もう少し様子を見ようと扉を叩く。
「大丈夫?使い方分かる?」
あまりに長いお手洗いになっていると暗に伝えれば慌てて出てくるヒロイン……になりきっているだろうヒロイン。
ごめんなさいと謝る姿にこの人はまるで女優だな、とある意味関心するがいつかはボロが出てしまうのではないかと遠い目をしていまう。
取り敢えず邪魔やこちらに不利益なことはして欲しくないので原作に沿わすわけにはいかないと内心面倒な役割に折れそうになった。
それから夕食の時間になったので一緒に向かうと船員達とお疲れ様を交わす。
後ろにいるヒロインは周りをキョロキョロと見回している。
多分ローを探しているのだろう。
これが物語なら彼の隣に居座れるというものだがまだその船長は食堂には来ていない。
なのでカンナに食堂の使用方法を教えてどこでも自由に座るように言っておきベポの隣に座る。
「あ、リーシャお疲れ」
「お疲れ様。ねぇベポ、後でブラッシングさせてくれる?」
「いいぞ」
機嫌良く頷いたベポを見てからカンナを見ると彼女は質問攻めにされていて少し迷惑そうにしていたが異世界から来たという話は空島に行くのと同じくらい男達の興味を抱かせるのだろう。
そこでローが来たところでヒロインが立ち上がるのが見えた。
「あの、トラファルガーさん」
「なんだ」
「この船に置いて下さってありがとうございます!」
「次の島までだ。それは分かってるな?」
「はいっ。もちろんです」
彼女は嬉しそうにニコニコしている。