短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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ヒロインとか結構です5ー6

カンナに向き直り注意をしておく。

 

「カンナさん、何があっても動いてはダメですよ。一人にもなってはいけませんよ」

 

 

言うが、彼女は分かっていないような声で返事をした。

先程から仕切りにチラチラと後ろを見るせいだろうが肩を叩いて意識をこちらに向けさせると同じ言葉を繰り返す。

彼女はあと一年で二十歳だと言うのにまるで子供だ。

 

 

――ドカァァン!!

 

 

爆発音に驚いたフリをしたのか、本当に驚いたのか否か分からない様子の彼女。

そして、その向こうから走ってくる避難してくる人々。

 

 

「カンナさんっ」

 

 

走り去ろうとする少女の手首を掴み行こうとするのを阻止。

 

 

「何故行こうとするの?何があっても動いてはダメだと言ったでしょう」

 

「でも……!」

 

「でも?危険なのは分かるでしょう?巻き込まれるのが落ちなのだから……」

 

 

すると余程焦っているのかブンブンと手を離そうとする。

避難しようとするのに抗うヒロインに少し怒りが沸く。

こんなにも無理矢理シナリオに沿おうとする行動に自ずと指先に力が入る。

 

 

(危険から遠ざけようとするのに飛び込もうとするなんて……恩知らずなんてものじゃない)

 

 

このまま流れに身を任せれば船員達を危険に晒すのは必然。

そんなことはさせたくないと思うが振りほどこうとする手は抗う。

本来このヒロインと行動を共にするのはベポだった。

だからベポを彼女は誘ったのだ。

しかもこれから出会う筈だった男から彼女を取り返す為に戦い苦戦する……予定だった。

 

 

「!、もう、離して!」

 

「出来ません、カンナさん。貴女を危険にさせることはね」

 

 

するとかなり焦っている態度でみるみる内に顔を怒りに染めるヒロイン(知識あり)。

 

「離せって言ってるでしょ!この……年増!」

 

「!?」

 

 

あまりのショックで動揺し隙を作られた。

そしてあっという間に向こうへ行った少女を呆然と見る。

 

 

「と、と、しま…………」

 

 

実年齢はそうだが仮にもこの姿はまだ二十歳プラス二だ。

それなのに、たった三つの違いで暴言を言われた。

 

 

「なんで、そんなことを言われなきゃいけないわけ?」

 

 

ヒロイン気取りも良いとこだ。

 

 

「じゃああんたはガキってことね……なんて」

 

 

自分で悪態をついておいて、深呼吸をして冷静になると走り去っていった彼女を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

追い付くと瓦礫の影で向こうの様子を窺っていたのでホッとした。

肩に手を置いて驚いた顔を向けてきたカンナに戻るように言う。

すると聞こえて来たのは舌打ちで頬が思わず引き吊る。

 

 

「邪魔しないで下さい……」

 

「貴女自分の行動がどれ程可笑しいか分かってる?動かないでと言われたのに動いたのよ?」

 

「静かにして」

 

 

最後にはついに敬語がなくなり青筋が立ちそうになる。

こうなればこちらも手段を選ばない。

そうして決意すると向こうにいた人間が動く。

 

 

「弱ェ奴が俺を馬鹿にするな」

 

「う、ぐ……」

 

 

倒れてる人間を踏みつける男が嘲笑う。

そして腰にあるナイフを取り手にかける。

すると隣にいたカンナが立ち上がり叫ぶ。

 

 

「止めて!」

 

(ついにやった……最低な子だなぁ)

 

 

シナリオに沿おうと必死だと心の中で罵る。

 

 

「あ?何だ女。邪魔すんじゃねェ」

 

 

本当に今日は邪魔という言葉をよく聞く日だ。

更に話そうとする彼女を止める為にリーシャも立ち上がり口を塞ぐ。

 

 

「カンナさん。馬鹿なことを言ってないで向こうに逃げますよ……う!」

 

 

あろうことか、この少女はリーシャの足を踏んだ。

幾らなんでも止めようとしているだけの自分に無茶苦茶な仕打ちだと思う。

むくむくと沸く憎悪。

 

 

「そんな事をしても意味なんてありません!」

 

「カンナさん!ダメですよ!」

 

「貴女、強いでしょ……!ううん、強いかは分からないけれど、そんなことをしても無意味よ」

 

「へェ?じゃあ何が無意味なんだ?」

 

 

シナリオに、本の通りに台詞が流れては

いけないと彼女の腕を掴む。

 

 

「関わってはいけません!」

 

 

幸運にも自分達は私服だからハートの海賊団とはまだ知られていない。

もう一度手を引くと今度は容赦なく彼女は手を振り払う。

 

 

「モブは引っ込んでて……無意味が何かなんて分かってるでしょ!」

 

 

最初の暴言はリーシャにしか聞こえなかったが十分腸(はらわた)が煮えくり返った。

危険だから止めようとしている一人の人間に対して彼女は意味不明な仕打ちをし、現実に生きている人間に失礼を通り越したことを言ったのだ。

自分はいくら脇役でも感情のある女。

ここまでされればもう何かをしてあげる義理も慈悲もない。

急速に冷える脳に今までリーシャは何をしていたのだろうと馬鹿馬鹿しくなる。

ここは本の世界ではない……現実だ。

リセットもセーブもない世界。

人間関係もハーレムなんて有り得ない。

よく考えれば分かること。

目の前にいるヒロイン気取りの少女と向こうにいる赤い髪を逆立てたユースタス・キッドを見て自嘲の笑みを内心浮かべカンナを見る。

 

 

「生意気なこと言いやがる……気の強い女は嫌いじゃねェが相手を見てから言えよ」

 

 

ククッと笑うキッドにカンナは挑むように睨む。

王道な展開でキッドに気に入られ連れ去られることは確定したのかもしれないが、彼女には言っておきたいことがある。

 

 

「カンナさん、貴女が今戻らないなら私はこのまま帰らせてもらいます」

 

「…………へ?」

 

 

震える声で返すカンナはそんな馬鹿なと目を揺らがせている。

 

 

「私は何度も貴女を止めた……残念です。さようなら」

 

 

そうして踵を返す。

 

 

「な!?……ちょっと待って……!」

 

 

聞こえないフリをして身勝手な小娘を見放す。

きっと彼女はこう思っているだろう。

私の為にボロボロになって取り返そうとしてくれるんじゃないの?

そうしてローに伝えて助けに来てくれるんじゃないの?

シナリオには彼女が敵の船で過ごしている間にロー達が追いかけて来てくれるのだと思っているがヒロインには大きな誤算があった。

まだ好感度がそこまで上がっていない、という事実が。

 

「リペル」

 

 

ハッと気付いた時にはもう身体が浮いていた。

手足をばたつかせるが吸い込まれるように動く。

近くあった建物の残骸に手を伸ばし、行くものかとへばりつく。

しかし、なかなか吸引されている感覚はなくならない。

 

 

「ここまで抵抗されたのは初めてだ」

 

 

くつりと喉で笑うキッドに唇を噛み締める。

しかし、その空気をぶち壊すのはヒロイン。

 

 

「この人は関係ないでしょ!連れて行くなら私だけで十分よ!」

 

 

それを訳すなら「モブじゃなくてヒロインを連れ去れ」だろう。

カンナが守るフリをしてリーシャを触るので苛ついた。

 

 

「カンナさん、私に触らないで下さいませんか?年増が、移りますよ?」

 

 

年増、を強調して言えばカンナの顔がピシリと凍りつく。

今になって失言だと知ったのかと嘲笑う。

 

「欲しいものは奪う主義なんだよ」

 

 

笑う顔は見えないが勝てない相手だと分かっているので戦うつもりはない。

やっと能力から解放される頃にはもう体力が殆ど残っていなかった。

 

 

「ロー船長……ごめんなさい」

 

 

自分にしか聞こえない音量で呟くとこちらにやってくる赤い男を見ながら悔しく思った。

阻止したかっただけなのに、ヒロインが全てを台無しにしたのだ。

どうして皆が傷付くことを分かっていてこんなことをするのか本当に理解が出来ないと思いながら。

 

 

「っ……私に、触れないで……」

 

 

絞り出した声は聞こえた筈なのにキッドは更に笑みを深くして面白い玩具を見るかのように目を細めた。

 

 

 

目を覚ますと見覚えのない天井があった。

もうその時点で嫌な予感しかしない。

見覚えがないだけでこんなにも不快に感じる事はなかなか体験出来るものではないだろう。

左右を見回してもやはり見覚えのないものばかりで部屋の装飾はかなり悪趣味なものばかり。

 

 

 

 

あの消毒液の匂いが恋しくなる日が来るとは思わなかったと苦笑。

そろりと起き上がると近くに置いてあった靴を履く。

さて、どうしたものか。

ここは冒険という名の死亡フラグを潜ってみよう。

普段ならそんなことは絶対にしなかいが今の心は荒れに荒れに荒んでいた。

 

 

(あの小娘が余計な真似をしなかったからこんなところにはいなかった……!)

 

 

悪態をついてもついても不満は増えていくばかり。

ムカムカしながら扉を慎重に開けて周りを窺うが誰もいなかった。

すかさず部屋を出てそこにあった窓枠へと寄ると外はまだ夕日だったので安堵する。

しかし、船は不規則に揺れていて……どう見ても出航しているのは火を見るよりも明らか。

絶望的になっていると後ろかは呼ばれビクッとなる。

ここで言っておきたいのはリーシャは戦闘員ではなくただの一般民間人のようなものだ。

だから強くないし弱い。

 

 

「起きたのか」

 

「……貴方は、殺戮武人のキラーさん」

 

 

ということはやはりこの船はかの泣く子も喚くキッド海賊団で間違いないのだろう。

 

 

「ああ。俺のことを知っていたか」

 

「手配書が出回っていますので」

 

「もう一人のカンナという女はキッドや俺のことを知らなかった」

 

「彼女は箱入り娘ですから」

 

「異世界から来たと言っていたが」

 

(口が軽い小娘め)

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「……お腹は空いているか」

 

 

何も言えなくなった空間でキラーが聞いてきたので頷く。

すると付いてこいと言われ後に続く。

途中で船員らしき人に出会い軽く頭を下げると凄く驚いた顔で凝視された。

この誰にでも低姿勢は前世の記憶が戻ってからどうしても変える事が出来ないことだ。

 

 

「お前は変わっているな」

 

「はぁ……恐縮です」

 

 

そう答えるとクスクスと笑われた。

笑われたにしてはからかいの含みが感じられたので馬鹿にはされていないとは思う。

ここだ、と言われ開かれた扉を潜るとハートの海賊団とは違う雰囲気の食堂があった。

 

 

「何かアレルギーはあるか」

 

「いえ」

 

 

それから食堂の使い方を教えてもらい早速料理を手に座る。

当にお昼は過ぎていたので食堂はほぼ無人だった。

 

 

 

 

 

キラーも向かいに座りコーヒーを飲む。

 

 

「お前達はハートの海賊団だというのは事実か?」

 

(…………最悪)

 

「どこからの情報ですか?」

 

「カンナだ」

 

「…………彼女は船員ではありません。普通の一般人です」

 

「ではお前はハートの海賊団なのか」

 

「そちらが連れてきた私に尋問ですか?威嚇するのなら拐う前に確認されれば良かったのでは?」

 

「……普通はそうするが、キッドが勝手にしたことだからな」

 

「貴方も苦労しているのですね」

 

 

そう言うとこちらをジッと見る彼。

怒らせてしまったかと思ったが違ったようで笑みを浮かべているかのような楽しそうな声で「違いない」と述べた。

それからぽつりぽつりと会話してハートの海賊団についてのことは答えない。

情報は武器になるとローに言われていたのであくまで黙秘か言えませんと答える。

それ以外はあの小娘のことについて。

 

 

「あの女はやけに態度が変わりやすいな」

 

「よく見ていますね」

 

「ああ。キッドにはツンけんしていて常に言い合っている」

 

「へぇ」

 

(ハーレムを築こうとでもしてるわけ?)

 

 

馬鹿馬鹿しい計画に内心失笑。

 

 

「お前はカンナとあまり仲は良くないのか?」

 

「女同士の関係は聞いてはいけないのですよ」

 

「そうなのか」

 

「はい。後悔しますからね」

 

 

キラーは自分から見ても会話を楽しんでいるようだった。

どんな答えを返しても機嫌を損なうことはない。

比較的温厚な性格なのだろう。

 

 

「そういえばまだ名前を聞いてなかった」

 

「お好きに呼んで下さればいいです」

 

「…………それは困るが」

 

「では脇役、とでも」

 

「…………それも難しい」

 

「ではお前、のままでいいです」

 

「…………無頓着なのか?」

 

「理由ならば、どう呼ばれても私は私なので、と答えておきます」

 

 

キラーが何か言いたそうに揺らぐ。

きっと変わった女とでも思っているのだろう。

精神年齢があまりにもアレなのでこう言ってしまうのは仕方ない。

それにキラーも自分からすれば若者としか思えず同年代のような感じに接するのはなかなか難しい。

諦めてこのままでいこうと既に決めているので変えるつもりはなかった。

 

 

「ご馳走さま。返してきますね」

 

「ああ」

 

 

食堂に返却して厨房に美味しかったと伝えるとこちらを向いて目を見開くのが見えたが知らないフリをして背中を向けた。

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