マンホールに落ちる感覚というのは経験した事がないけれど、こういう感覚なんだなと感じながら落ちる感覚を味わっていた。
不思議の国のアリスのアリスもこんな風に落ちたのかも。
不思議な思いでぐんぐん落ちていく。
どれほど落ちたのか分からなくなる程の麻痺を起こしている頃、漸く見えてきた終わりは突然だった。
フオオオンと風を切る音と共に視界が出来、ドサッとお尻から落っこちた。
しかし、何か柔らかい物の上に落ちたのか痛くない。
痛いのは普通に嫌なので助かった。
安堵していると地面から呻き声が聞こえた。
「ぐ」
とても苦しそうなそれに下を向くとフサフサしたキツネ色の草があって、その下から聞こえている。
暫く耳を澄ませていると重苦しい声音で退けと言われハテナが頭上で回る。
誰に向かって言っているのか最初は分からなかったがどうやらリーシャに向けているらしいと暫くして理解すると立ち上がる。
「ふさふさな草が動いてる?」
首を傾げてソレを観察しているとぽつんとそこにだけ生えている草が声を上げた。
「ふざけんな女。おれの上に落ちて来たと思えば草だと?」
「えー、草がしゃべ」
「草じゃねェ毛に決まってんだろ目ェ腐ってんのか」
それなりにお怒りなのか言葉を被せて訂正させられる。
よくよく言われて見てみれば確かに草にしては太い。
剛毛という奴だ。
その毛玉はもそもそ動くと毛に被われた体をダルそうに起きあがらせた。
キツネ色だがキツネではない生物。
凄く細くてウナギの細さに似ている。
「お前のせいで骨が骨折した」
「チンピラの常套句お疲れ様でーす」
目を濁らせて付き合ってあげる。
生憎そんなモノに騙されるバカさは持っていない。
「!?──はァ?お前何で騙されねェ」
「は?舐めてんじゃないですよ。子供だってそんな嘘信じませんよ今時」
何故騙されないんだと言われても教養のある人間にはあり得ない嘘だ。
ましてやそれを信じると信じ込んでいた彼(声が男性だから)にびっくりである。
じゃあごきげんようと立ち去ろうとするとまた呼び止められて首にぐるんとその異物が巻き付いてきた。
「きゃ!何!?やだ!離れろ!」
ぐいぐいと引っ張るとまあ話しを聞けと言われその不条理さに腹が立つがこのままキュ!と首を絞められるのも勘弁である。
渋々話しを聞いてやった。
「行ってほしい地域があってな」
「私方向音痴だし、此処がどこだがそもそも知らない」
「おれが行けと言ったら行くんだ。慰謝料」
「この世界の事何も知らないのに行けるわけないですよ」
「やっぱり転移者か」
ラノベのありがち語。
「分かってるのなら他をあたってくだ、」
「いや、お前の首になら巻いてやっても良い。他の女に媚びを売るなんて死ぬ」
じゃあ、死ねよと言えるが、言わなくても良い事かと思い口を慎む。
「連れていけ。おれを連れていけばお得だ」
お得と言われても今この場所に到達したばかりでメリットなど分かる訳がないだろうに。
それに得たいの知れぬ管キツネにも信用は今ゼロだ。
寧ろマイナスだ。
「話しながら歩いてくれ」
「えー、足かよ。ていうか、首にとかナチュラルに急所だからほんとやめてほしい」
このキツネ?に本気でやられてしまう。
何かの拍子に首を締められるかもしれん。
「でもぬくぬくだろ」
「夏にはうっとうしくて叩きつられろと?寧ろ粉砕してくださいと言われるのでは」
「夏?夏ってなんだ」
「熱い季節のこと」
「そんときゃ冷たくしてやる。ほら、歩け」
人使いが荒い。
今すぐ絞ってやっても良いんだぞコラ。