短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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海賊に就職

いま、私はこの世の春を眺めている。

 

生まれて早2×歳。

 

昔から思っていたのが筋肉が好き。

 

その一点におけるポテンシャルは凄まじい子供だった。

 

今でもどこからエネルギーが湧いてくるのかと言われている。

 

褒められているのだと思っていて、得意になる。

 

とある男性の胸板を見たとき、その男らしさに一目惚れして人生初のナンパをしたのだが、それが海賊と知らなかった自分は進路を踏み外した。

 

筋肉がヤバイから。

 

我慢できなくてナンパしたのに、まさか生まれ故郷を離れることになるとは。

 

「わ、私はこんな、つもりじゃ」

 

海賊ってどんな詐欺だ。

 

男運無さすぎて泣ける。

 

「それにしては熱い誘い文句を言っていたが」

 

「!」

 

振り向くと一目惚れしてしまった筋肉を持つ男。

 

挙動不審にもなる。

 

どうやら海賊の中で一番偉い人に声をかけてしまったらしい。

 

だからと言って海賊の船にナンパしてきた女を乗せるのもどうかと思う。

 

一般人だよ?

 

なんの力もないのに乗せるとか何要員?

 

え?サンドバッグとかか。

 

怖くなってきた。

 

筋肉は好きだが暴力は嫌いなんだけど。

 

偉い男だった彼はトラファルガー・ローというらしい。

 

聞いたことはない。

 

新聞も滅多に読まないし、隅々まで読まないし。

 

手配書なんてものも横を向いて見ずに男の人の胸板を常に観察してベストな体躯を探していたので、目に入ったこともない。

 

やはり、有名人なのだろうか。

 

すんなり誘拐されてしまって。

 

もしや、人を売り買いするところにつれていかれて売買する魂胆かも。

 

考えれば深みにはまりブルブル震えた。

 

が、こちらの怯えと裏腹にハートの海賊団の面々は優しかった。

 

それはもう。

 

「こっちこいよ」

 

魚釣りに誘われてぼんやりと釣糸を垂らす。

 

時には大物が釣れたりして楽しい。

 

白熊に己の毛皮が昼寝には最適なのだと言われ、一度寝たら病み付き。

 

良く船長が居て近づけないけど。

 

今だ誘拐されたトラウマのせいで苦手意識がある。

 

自分からナンパしといてだけど、一番取っ付きにくい人。

 

その他の団員は皆人懐っこい。

 

お陰でホームシックにならずに日々を過ごしている。

 

助かっていたので馴染むのも早い。

 

船長たるローが居るご飯時は避けられず息を潜めて食べているけど。

 

「お前」

 

「ひい」

 

呼ばれて低い声に飛び上がる。

 

甲板でベポに頭を凭れさせていたところに。

 

突然の声に悲鳴を込めて目を開けていると不機嫌な顔が見えころされる、と震えた。

 

「おれが慣れないうちは、落ち着くまで待っていたことを気づいてないな」

 

「ええ」

 

言われなきゃわかんないことだそれ。

 

分かりにくいけど、優しさをみせていてくれたということなのだろうか。

 

凄まじい分かりにくさに、私に伝わってないよ、と驚く。

 

元来、不器用な人なのかも。

 

「で?」

 

「はいっ、なんでしょう!」

 

眼光と質問の意図に慌てて答える。

 

「いつになったら見るんだ」

 

「なにを……見るので、しょう、か?」

 

なにか言った覚えは──あった。

 

「おれの胸板はバランスが取れているからすごいとお前は言っただろ」

 

言ったけど!

 

言ったけど、今言うことかなぁ!?

 

怯えをまだ持つ女に向かって筋肉見ろよって。

 

男性の胸板を見て遠慮なくナンパした罰なのでしょうか。

 

ぐううう。

 

内心血の涙を流す。

 

はい、変態でしたよね、私っ。

 

それにしても、職業は抜きにして考えれば理想そのものなのだ。

 

どんどん、思考が麻痺して胸板に目が行く。

 

ここは海賊の船なんだぞ、自分。

 

「特別にさわらせてやっても良い」

 

(エッ)

 

海賊が自発的に触らせてくれるの?

 

なにかヤバイ取引でもするのかもしれない、と心がブルブルする。

 

ローがなにを考えているのか分からなくて手がだしずらい。

 

「さ、触る前に……なんで私なんかを船に乗せたんですか?」

 

「今更な質問だな」

 

くすくすと笑われる。

 

今さらだけど、拐われたときに聞けるほど図太くないのだ。

 

「知りたいようだからはっきり言ってやる」

 

聞けないのは皆同じだと思うよ。

 

誰が浚われたとしても同じことをする。

 

断言しても良い。

 

この世の春に迷いこんだと思っておけば良いのかな、ってならないけどさ。

 

迷いこんでも嬉しくない、怖い。

 

でも、船員達は凄く良い人たちで居心地は最高なのだ。

 

問題はこの人だ。

 

「おれは乗せたいやつしか乗せねェ主義だ。お前を乗せたいと思って乗せた。それに、お前もおれに興味を持ってたからお互い様だ」

 

かなり真面目なことを言われた。

 

理由なんて無いんだろうと思い込んでいたので、はっきりとした理由があって目を丸くする。

 

お互い利益あるんだから良いだろ?と短くまとめるとそう言われ、視界がぶれる。

 

「?……何故泣く」

 

泣きもする

 

「お別れも言わしてもらえなくて、故郷から引き離されたんですよ」

 

「……それは……悪かった」

 

ばつの悪そうな顔で謝罪されたが、なにをされても手遅れ。

 

なにも出来ないのに、結果だけに謝られても許されない。

 

でも、少しだけその顔にキュンとした。

 

自分だけが今この表情を見ているのだと優越感と可愛いという気持ちになる。

 

ダメダメ、この人は悪い人だ。

 

不良が猫を拾ったような心情になるが、不良が日々の行いを帳消し出来るわけなく、それとこれとは話が違う、と邪念を祓う。

 

彼はただ、自分がしたことを反省しているように見えて、降ろすつもりがないのだ。

 

許してはいけないと言い聞かせる。

 

しかし、今の顔は反則だ。

 

もしや天然か?

 

それくらいタイプだ。

 

あくまでばつの悪そうな表情だけで、その他は論外だから。

 

そこだけは勘違いしないでほしい。

 

誰に言い訳するでもなく、脳内の会議が終わる。

 

ローはいつの間にか居なくなっていた。

 

謝るだけ謝って放っておくなんて、ありがたいような、モヤモヤするような。

 

寝よう。

 

 

***

 

 

落ち着かない日々を過ごしていたが、慣れてきたのか安眠も容易くなって、いつの間にか違和感も疎外感も感じなくなっていた。

 

だが、それでも、ローだけは未だに慣れぬ。

 

その事を団員達にからかわれることもしばしば。

 

「キャプテンかっこいいのにー。気後れしてるだけだったりして」

 

(違う、断じて)

 

このからかい方、只の野次馬だ。

 

海賊もそういうの興味があるらしい。

 

己の上司にベルクトを向けるのは部下失格なんじゃないの。

 

「好きに言えば良いけど、あの人の耳に入ったら貴方怒られるんじゃない?」

 

「大丈夫、キャプテンそんなことでなにか言わないよ。それに、あんたのこと気に入ってるし、気は悪くないと思う」

 

「心が読める訳でもないのに良く言うよ……」

 

私は自分がそれを吹聴しているのではないかと疑われるのが怖いので、やめてほしいのだが。

 

「あの人との話題はもう無し。面白くないしね」

 

「えー?私らには特大ニュースだけどな」

 

「面白がってるだけじゃん!」

 

「はは」

 

笑うのは他人事だからだぞ、そこ。

 

島についたというのに早速船を降りて行こう。

 

お世話になりましたと手紙は置いてきた。

 

無言で離れるよりはいいだろうね、というささやかな私の気遣い。

 

「おっと!」

 

躓きそうになり、慌てて体勢を立て直す。

 

町へ入ると大工の音が聞こえる。

 

この音は筋肉がある証の音。

 

筋肉が良い男が近くにいるということだ。

 

私のポテンシャルが発揮される。

 

さくっと綺麗な筋肉を見つけて、声をかける。

 

──ガツン

 

「いだ!」

 

前方不注意。

 

顔面をぶつけて、痛みに耐える。

 

ごめんなさい、と謝る。

 

「あ」

 

見上げると今しがた逃げてきた船の関係者。

 

もとい、元凶。

 

なっんで、先回り?

 

「な、なんっ」

 

手を掴まれて強く引っ張られた。

 

あっけなく体は男の方へ倒れる。

 

力の差があってどうにも反撃出来そうにない。

 

言葉でしか、相手に出来る武器はない。

 

「お前の行動はお見通し」

 

分かりきった笑みを嫌みったらしく浮かべ、こちらの驚愕に彩られた顔が男の瞳に写る。

 

なんでこんなに早く行動を読まれたのか。

 

悔しさに歯噛みしていると、働く男達の近くに行けば居るだろうと思ってな、と言われてその思考誘導に己は分かりやすいのだとがっくしなる。

 

「見に行きたければ行けば良い」

 

「え?良いんですか?」

 

「ああ、おれも行くがな」

 

「行くの!?男の人は見てて楽しくないと思うのですが……行くのでしょうか?」

 

わざわざ付き合っても楽しくない。

 

 

 

 

 

「おれはうちのクルーに厳しいぞ」

 

「私はゲストでしょうに」

 

なぜ私がその枠にはいっているのか。

 

普通に考えて厳しくされる謂れがない。

 

それに、絶対怖いのが嫌だ。

 

という世間話に華を咲かせている2人。

 

筋肉をウォッチする合間にしている訳だが、ロー本人が結構話せる人で、楽しく感じた。

 

「自分で筋肉は作らないのか」

 

聞かれたがクスッと笑う。

 

「見るのと触るのが好きなので、自分なんて見ても楽しくないですよ」

 

ローはこちらをジッと見続けてぽつりと言う。

 

「楽しいが」

 

「……え?どこら辺がですか?昔から変人扱いされてたものですからね」

 

問えば男は少し黙り、口を引き結びため息をつく。

 

「どこかと言われたら、おれとこうやって自然体で話せているだろ」

 

(あ)

 

確かに怖くて怖くて避けていたのに、なぜか話せていたことに気づく。

 

「気づくのおせーよ」

 

くくく、と笑う。

 

「それは、だって」

 

「だって?」

 

「楽しいから?」

 

「なんでそこで疑問に変わる」

 

ローはくつりと笑みを浮かべながらいつになったら見るのだろうと機会を伺っていた。

 

なんせ、見たいからと言って声をかけてきたのだから、いつまで経っても見せろと言われずこちらが消化出来ずにモヤモヤしているのだ。

 

なのに、無視されるし避けられるしで理不尽な行動をされていてむしゃくしゃしていた。

 

折角声をかけずにいるという事を行い、静観していたのに、船員達は声をかけられても答えるという矛盾に我慢する事が出来ずに、声を掛けたのだ。

 

かけて良かったと今は思っている。

 

この調子で話していけばいずれ怯えることもないだろうと男は安堵をした。

 

「おれよりも良い筋肉は居たのか」

 

「い、いやぁ、それが……居ませんでした」

 

「そうか。なら、見るか?」

 

「みみ、見ません!」

 

過去述べたことと今述べたことの否定にローは首を傾げた。

 

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