短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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君の部屋に飼われて久しい1

ふよふよと浮いている。

 

何日こんな風に漂っているのか分からないけれど無性に心地良い。

 

何日経った、のかな。

 

本当にどれだけこの蒼い海を浮いて波に身を任せていたのか判断出来ない。

 

あれ、自分は人間じゃないなんて可笑しいな。

 

あれ?あれれ?

 

人間だと思うのが可笑しいのだろうか。

 

自分は哺乳類なのか微生物なのかも分からない。

 

多分、人間のように外で息が出来る生き物ではないと思う。

 

海の生き物であるのかもしれない。

 

悩んでいると不意に心地良さと切り離される。

 

ザババと音を立てて視界がクリアになると青い空がお目見えした。

 

しかし、ユラユラと揺れる。

 

あまりに揺れ過ぎて吐き気がするのでそこでもあれれー?と疑問に思う。

 

海の生き物は吐き気なんて感じない筈。

 

そもそも脳もミクロンレベルの筈で。

 

そんな余計な思考なんてある訳ない。

 

リーシャは……あれ?誰それ?

 

名前という物なのだ。

 

多分、名前というものは個人を特定するものという言葉が記憶にある。

 

記憶というものが何故か下級の生物にあるのかもしれない。

 

そんな大層なものがあるとは思えないのに、それを不思議と納得。

 

そんな事を考えている間に上へ上がっていくのを体感する。

 

またまた更にグラグラと揺れた。

 

うっぷ……。

 

やはり気のせいでない気持ち悪さが胸を焼く。

 

何を馬鹿な事を言っているのだ、胸等無いに等しいのに。

 

笑いそうになってやはり違和感としっくりくる感情に驚く。

 

どうやら知能がずっとあるようで物事もしっかり把握して、出来るらしい。

 

どうして自分はこんな前世にも過去にも全く関係の無い姿になってしまっているのか意味も全く分からない。

 

パタパタと暴れるのもやぶさかではないし、目の前に居る魚が今にも食べてしまいそうになる。

 

口の中に入らないように気張ってみよう。

 

というか、こんなに口が大きい生物と相席させないで欲しい。

 

相手の顔を拝んでやろうではないか。

 

危機感も多いが好奇心もそれを凌ぐ。

 

実はワクワクしているのは内なる秘密だ。

 

人間が動物か分からないが何かに遭遇出来るかもしれない事に顔の筋肉が緩む。

 

早く会いたい。

 

生命体ならば知的な物がやっぱり来て欲しい。

 

「おー、大漁大漁」

 

「魚こんなに居たんだな」

 

「ん?何か……」

 

「どった?」

 

「あ!やっぱなんか透明なんが居る」

 

「何だ?」

 

「これ……んー、クリオネ?っぽい」

 

「ノースブルークリオネ?って名前だったっけか、確か」

 

(私がクリオネ?)

 

クリオネとはあのふよふよとしていてパタパタと動いているあの見た物を惹きつける可愛さを持つ生き物の事であろう。

 

にわかに信じられないが色々持っている情報を照らし合わせると合致する。

 

輪郭がぼんやりしていて誰も彼もが同じに見えてしまう。

 

もしかして三つ子とか四つ子なのかもしれない。

 

それならそれで楽しそうだ。

 

顔が同じならば名前を覚えるのが大変かもしれないが。

 

ノースほにゃららクリオネなんて種類聞いた事もなかったが言われた事もなかった。

 

そのほにゃらら何とかの自分は間違って捕まってしまったのだが、どうやら多分間違いであるらしい。

 

なのであれば此処でリリースしてくれないかと祈っていると彼等が声を上げて「船長ー」と言うので首を傾げる。

 

傾げる首もないのに傾げられる何てびっくりだ。

 

体感でいうと三十秒くらいでやってきた新たな人間。

 

「珍しいもんが紛れ込んでんな」

 

船長と呼ばれた人はなにか帽子を被っている。

 

この船が漁船と呼ばれているのだと知るのは目がぼんやりしなくなり、はっきり見えてきてから三日後だ。

 

どうやら彼等の話しから商品にされるらしい。

 

確かにクリオネならば北極か、寒い地域のペットとして有名だしなあ。

 

此処は冬の海らしいだけど寒くない。

 

寒中水泳を想像していたから違和感が凄い。

 

船員達の話しを聞いて纏めると【白い町】フレバンスという所へ寄るらしい。

 

クレヨンみたいな名前だ。

 

そこでこのクリオネを売っ払おう、らしい。

 

この私を売ろうとするなんて度胸のある人間達だなとキメ顔をするが悲しきかな、クリオネなので見た目は何も変化していないので無駄な事。

 

クリオネを食べられてはいけないと魚達とは違うカゴに無造作に入れられる。

 

漁船なんてそんな扱いで進んでいてやがてクレバスに着いたと船の乗組員達が嬉しそうに言っていた。

 

陸地に降りるのがそれ程楽しみなのだなと他人事に感じ、只リーシャはふよふよプカプカ遊泳していた。

 

今は海が故郷なので陸が恋しい気持ちはあまり無い。

 

強いて言えば何か人間が食べるものは食べてはみたいが。

 

ポテトフライとかスナックとか。

 

それらが食べたいなと強く願っても誰もこの声を聞き届けられない。

 

あーあ、恋しい。

 

誰か水槽に間違えて落とさないかなあ。

 

ポトっとね。

 

それか餌やりと称して誰かくれないか。

 

うん、諦めよう。

 

諦めが肝心というのが自分の座右の銘である。

 

そう、この小さな生物になったのも既に諦め受け入れている心境だ。

 

誰に買われるんだろうか、もし良かったら海に放たれて、いや、食事に飢えるくらいなら飼われて育ちたい。

 

己は怠慢と呼ばれる性格だった。

 

別にこの姿なら疲れないし、何より世話をしてもらえる。

 

クリオネに対価をもらおうなんて考える人も居ないし、何かを期待されるのもない。

 

即ち楽チンな身分を無意識に手に入れてしまったのは寧ろ幸運と言っても良いかもしれないと思っている。

 

ふよふよふよふよと浮いていると遂にどこかの島へ着いたと皆は浮足立っていた。

 

危うくクリオネの存在を忘れて降りかけていたのはご愛嬌として許してあげよう。

 

ふよっと一回ばたつかせてから景色を見回す。

 

ふむ、良い島に着いたらしい。

 

景色、空気、人の活気具合、笑顔、うん、まあ、80点くらいは評価してみる。

 

リーシャは周りをひたすら見回して田舎者丸出しの様子だが、自分はクリオネなので、只生物が泳いでいるという認識しかされない。

 

魚が興奮するように泳いでいても意に介さないのと一緒だ。

 

ふよー、と泳いで周りに対して観光している間に船員に水槽を抱かれて何処かへ向かうようだ。

 

あと、昨日から船員の一人が風邪を引いたというので恐らく病院なのではないかと推測。

 

まあ売りに行くよりも大切で重要な事なので当然だろう。

 

病院のマークが書かれている建物が見えた。

 

おお、初めて見る病院だ。

 

白い、町も白いがこの病院も白い。

 

全てが白に統一されている町、フレバンスにある大病院。

 

医院長、病院の偉いさんが何故か現れた。

 

お話しを聞いてみるとどうやらクリオネに興味を持ったらしい。

 

意中の女性に喜んで貰いたくて購入したのだと知ったのはそれから三日後。

 

船員達とは別々の離れ離れになってしまったが、特に寂しいだとかは感じなかった。

 

きっと諦めは肝心というのが発動したのと、心機一転をクルっと変えたのが要因であろう。

 

それにしても、クリオネを譲渡した相手の女性がなんとういうか、頭の中がぽやぽやとしている女性で驚いた。

 

男性の方は穏やかな人柄なのでまあお似合いだとは思う。

 

男性の容姿や肩書を説明すると彼は取り敢えず目立った容姿をしている訳ではないが、メガネを掛けている、以上。

 

え、他にないのかって……?

 

嗚呼、そういえば肩書は医者で医療の腕は良いと世間からの評判だ。

 

そして、女性はやはりぽやぽやしている。

 

けれど、男性と同じく医者をしている。

 

そこも似た者同士という訳で、二人共通しているのがぽやぽやしているというか、考え方がまさに借金の保証人をしてしまう、そんなお人好しな人達だ。

 

そんな人達には突っ込みどころが多いが、声が聞こえる訳ではないのは解っているが、やはり突っ込みたい。

 

はぁ、疲れる。

 

誰か煮干しをくれい。

 

ムシャムシャしたい、ストレスで吐きそう。

 

その二人はわざわざ物言わぬクリオネに対しても自己紹介をしてくれたのだが、何か変な伏せ字のように言葉が聞き取れない、しかも、何故か男性の苗字だけしか聞き取れないという怪奇を体験した。

 

「トラファルガー・────」

 

という感じで辛うじて聞き取れた。

 

女性の方は名前も苗字も聞き取れなかったのでお手上げである。

 

トラファルガーという苗字しか分からないのでシンプルな呼び名として男と女と決めて勝手に呼んでいた。

 

しかし、彼等が結婚して子供を産んだのでその呼び名も改めた。

 

お腹がぽっこりなっている時なのでまぁ記念としてパパさん(以下パパ)、ママさん(以下ママ)と呼ぶ。

 

生まれた子は男の子で、何と名前が分かってしまった。

 

子供の名前は「トラファルガー・ロー」。

 

忌み名がどうたらこうたらと言っていたが知らなくても別に困らないと判断してのんびり腰を据えていた。

 

子供の名前なら分かるのかな。

 

そうしてのんびり過ごしていると又もや子供が生まれた。

 

二人目おめでとさんと声をかけておいて彼女の顔と名前を教えてもらう。

 

名前は妹、長女の「レミ」という子。

 

凄く可愛く思えるのは女の子であるからか。

 

でも、男の子も可愛いとは思うよ。

 

すくすく育つ子達を見ている中で、ふとクリオネである自分は随分長生きなのではないのかと可笑しくも、怠慢で過ごせるのなら別に気にしないで生きていこう。

 

ローとレミは兄弟喧嘩なんて事をせずに仲良く二人のお人好し夫婦の中で良い子に育っていった。

 

良くここまで真っ直ぐ育ったと感心してしまう。

 

ローは特に親の職業の医師を目指しているようで医学書をもう読み始めている。

 

言葉ももうすっかり達者で#name1#にも餌をやりだして、その度に嬉しそうにしているので食べるのが捗るのであった。

 

食べがいがあるといえばそうだ。

 

ぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷか。

 

浮いていれば、観賞用としていればご飯が食べられるしと何というか、まるでお金持ちの夢心地だ。

 

浮いて食べて浮いて飼い主を鑑賞。

 

お気軽な身分だ。

 

のびのびとしている。

 

うーん、気持ち良いなあ、と伸びをするとフヨー、と遊泳。

 

ローも定期的に見に来てくれるし、視界には事欠かない。

 

しかも、話しかけてくれるという出血大出血!

 

いやあ、クリオネなのに悪いねぇ。

 

でも、嬉しい事は確かだ。

 

うむ、今日も良い男に育ちつつある。

 

とは言っても十歳未満なのだが。

 

それでも将来的に優秀な医者になるのと、良い心を持つ人間になるのは確定なのだ。

 

今日も一日のんびりと過ごす。

 

ローがやってきてクリオネ用のボール状の水槽を持ち上げてきた。

 

すると、テーブルにある違う容器に移し替えられる。

 

コツンと当たると素材が柔らかい物と知る。

 

「出掛けるぞ」

 

シリコンなのかもと予想を立てていると揺れる。

 

球内にギリギリ入れてくれているので快適だ。

 

ご飯もきっちり入れてくれていて良い飼い主だ。

 

それにしても、この島に住んでから身体がピリピリする。

 

どうしてか分からない。

 

何かが少しずつ蝕んできているかのように痒くて首を傾げる。

 

クリオネが風邪とか笑える。

 

「ロー!カエルじゃなくて今度はクリオネか!?」

 

呼ばれて見てみるとローと同じくらいの子どもが居た。

 

ローと呼ばれた子と同じ服を来ていて彼は返事を返す。

 

「家族だ。昔から居る」

 

家族という言葉に嬉しさでふよふよが増す。

 

ええ子やええ子や。

 

「へー!」

 

興味津々で水槽を覗く子にローは遠ざける。

 

只の散歩がてらなのだと説明して子供の関心を遠ざける手並みは良い。

 

さぞや聡明な大人になるのに期待が胸をじんわりこだまさせる。

 

いい男になるなー。

 

「やっと行ったか」

 

取られまいと思っているのか友達の後ろ姿がみえなくなるまで見つめ、こちらを向くと帰ろうと話し掛けられ頷いた。

 

頷いただなんて分かりっこないけど。

 

 

 

月日が少し経過した。

 

現在の状況を実況しようと思う。

 

このまま穏やかにローやラミが結婚したり子供を産んだりするのを見届けるのかと描いていた未来は潰えてしまった。

 

白い町、この白さはファンタジーだからではなかったのだ。

 

毒の方の白さと知った時、もう何もかもが変わっていた。

 

パパもママもラミも町の皆も居なくなった。

 

全てを無に返すとは正にこの事。

 

ローは意識していたか分からないがずっと水槽を抱えながら練り歩いていたからリーシャも助かった。

 

けれど、傍から見ていたローは変わってしまった。

 

見届けるのがこんなに辛い事だなんて。

 

死体だらけの船に乗っても何一つ表情が動かなくなってしまった。

 

流石に海に捨てられてはしまうかもと思ったが予想に寄らず捨てる事はされなかった。

 

捨てられても生きられる自信はないけれど。

 

そうして辿り着いたのは最悪の出会い。

 

悪名高き海賊と町の人達は言っていたがローはそこに向かってなんと手榴弾を付けて向かった。

 

何故かリーシャも持って行ったのでここまでの命かと覚悟を決めた。

 

だが、そこで運命は交差し、彼の人生は変な感じで曲がった。

 

どうやら彼の寿命は後僅かのようだ。

 

そんなのは予想できていたが、彼が元気だから考えないようにしていた。

 

ちゃぷんと音を立てると笑みは浮かべないが抱え込まれて膝の間に納められる。

 

何も宿していない瞳。

 

最近はドンキホーテ海賊団に加入したらしい。

 

荒事をしては帰ってくる日々を迎えている。

 

餌もちゃんとしてくれる。

 

此処最近は話しかけてくれるようにもなった。

 

少し表情が増えたかも。

 

誕生日を迎えると肌に白い例の模様が浮かんだ。

 

(眠い)

 

あまり動く時間が少なくなってきた。

 

もしかして寿命?死期?なんて浮かぶ。

 

やっと寿命がきたのかと呆れる程長く生きた。

 

「餌食わねーのか」

 

話しかけられて顔を上げるとローが心配している顔で立っていた。

 

嗚呼、ご飯くれたのね。

 

いやいや、食べるよとぱくりぱくりと食べる。

 

動きも鈍いしダルい。

 

「おれを置いていくな、置いていくなよ」

 

どこか遠くに聞こえたその言葉はとても悲しくて胸がズキズキと痛んだ。

 

 

 

目を開けると眠っているローが見えた。

 

いつの間にか寝てしまったみたいだ。

 

意識が薄らいでいるままにローの顔を覗こうと無謀な真似を考えているとスウウ、と浮いた感覚と共にローの顔が近付いた。

 

何気に出来た事が驚きで言葉を失う。

 

手足を見ると薄くぼんやりしている。

 

幽霊にでもなった気分だ。

 

もしかしてクリオネは死んだのかと水槽を見るとぷかぷかとピクリともせず水の中を漂っていて肉体が死滅したのかと首を傾げる。

 

どちらかというまだ生きている感覚はするんだけれど。

 

触れられないままにローの顔を覗くとまだ幼い寝顔。

 

寝顔は変わっていない。

 

安堵と共に酷く小波のような不安が迫る。

 

この子を残して死ねない。

 

(助けてあげたいけど烏滸がましいよね)

 

傍観に徹していたのに今更助けようだなんて身勝手過ぎる。

 

その後直ぐにクリオネの身体に吸い込まれてローが起きたらいつものクリオネになっていた。

 

元気になったんだなと僅かに嬉しそうに言う子供に返事とばかりに浮き上がる。

 

その日から一分くらいだけれど幽霊みたいにローの部屋を浮遊する事が出来た。

 

でも、それはクリオネ本体がある二メートルくらいの範囲だ。

 

ローが起きる前には戻ってしまうが寝入った子供の寝顔くらいは見守れるようになった。

 

そんな生活を続けていると突然子供達が名前を披露しあう場になりローはしつこい言及の末に忌み名を口走る。

 

忌み名とは言ってしまったら駄目なのであるのに。

 

あちゃー、となりながら聞いていると突然振動が起こりあちこちぶつけられる身体。

 

「何しやがる。こいつも居るのに、離せ!」

 

水槽が振動する度にそれが歩みによるものだと知る。

 

打ったけれど痛くないのはシリコンのゴムボール製だからだ。

 

それよりもローがこちらを気遣ってくれる言葉はほろりとなる。

 

それを無視してドサッと一際大きな振動。

 

ローが見るのは例のコラソン。

 

何か真剣な話しなのだが、眠気に勝てなくて寝た。

 

気付くと海の上だった。

 

何が起きたのだローよ。

 

それからコラソンは病院に向かい、追い出され向かい、を繰り返す。

 

その中でローはコラソンに今までとは違う気持ちが芽生え信頼していくのが手に取るように分かった。

 

コラソンは良い人と認識を改め今まで散々ローに痛い事をしていた事は少しだけ許した。

 

海兵だとかそうでないとかいう押し問答の後日、ローの病を治せる実があるとの言葉に胸が弾む。

 

早く来ないかな早く早くとせかせかしていると何やら騒がしい。

 

出てきたコラソンにローは慌てた。

 

こんなに感情を露わにして駆け寄る姿は胸を打つ。

 

リーシャはこの後の未来にコラソンが隣に居ない事を悟る。

 

こう見えても人生をそれなりに生きているから。

 

でも、悟る自分が心底嫌になる。

 

今度こそローは幸せを掴めるのだと信じていた。

 

何度それが裏切られるのだろう。

 

何度この子に人は試練を与えるのか。

 

この人のお陰でローは笑顔を浮かべてくれた。

 

宝箱から出たローは故郷を出た日から泣かなかったのに、大声で泣いた。

 

ごめんね、ロー。

 

そう言いたいのに何も出来ない己は海の藻屑となればいいと自嘲した。

 

 

 

 

 

ローがまた大きくなった。

 

死期が無くなったのだ、喜ばしい。

 

彼は大泣きした後、どういう訳か何かを決意した顔で旗揚げを行った。

 

いや、何かの理由は既に知っていた。

 

コラソンに関する事だろう。

 

十代の子供が仲間を得た事実は嬉しくて、仲間と笑い合える日々になるかもしれないと期待した。

 

期待ばかりだ自分は。

 

「船長!」

 

旗揚げした時の名前はハートの海賊団。

 

気付きましたか皆様、海賊ですって。

 

いやいや、海賊って……。

 

「何だ」

 

「島に着きますよ」

 

そう言って走る男は船員だ。

 

何号かは忘れた。

 

ローが立ち上がったので連れて行けとちゃぷちゃぷさせ水音で強請る。

 

「こら、もう歳なんだからはしゃぐな」

 

(気持ちは若いんだよ!まだ歳じゃないしいいい!)

 

憤慨だ。

 

確かにローより長生きしているから歳を召している思われても可笑しくない。

 

全くローは若いからってこちらを年寄り扱いしてさー。

 

はしゃぐなと言いながら連れてってくれる。

 

うむ、宜しい。

 

仲間に囲まれた彼はそれなりに幸せそうだ。

 

「あ、船長!」

 

「見えてきましたよ」

 

抱えられたまま外に出たローは船員達に歓迎され落ち着けと宥める。

 

楽しい。

 

島に降りると船員達が我先にと酒場を抑えに掛かる。

 

まるで金曜日の騒がしさ。

 

ローは自分のペースで酒場に入って寛ぐ。

 

綺麗な人が彼等にしなだれかかるのを見ていたり暇を潰すとローにも勿論寄ってくる。

 

あら貴方可愛いわと綺麗なお姉さんに言われ満更でも無いご様子。

 

そういう時は船に置いていって欲しいものだ。

 

生々しいのは流石にクリオネだろうと見たくないし。

 

しかし、ローは誘われて酒場の宿になっている場所でしけこむつもりなのかボール状の水槽を持ったまま上へ行く。

 

せめて見えないように布でも掛けておいて欲しい。

 

シャワーを浴びに行くローは水槽をベッドの縁に置くと放置する。

 

この人と二人っきりは勘弁しておくれ。

 

「なあにこれ」

 

「クリオネだ。触るなよ」

 

ローの言葉にお姉さんはふうんと別段興味なさげに言う。

 

彼がシャワーを浴びると女性はお酒を飲むので話しかけられないと安堵。

 

しかし、何を思ったかお酒の入ったコップを水槽に入れてきた。

 

この女イカレテル、助けてー。

 

クリオネにとって有害なのは考えなくても分かる。

 

嗚呼、水が茶色い。

 

ローは触るなって言ってたのに言葉の意味を理解出来ない馬鹿だったようだ。

 

それか、ローを軽んじているかだ。

 

まあ年下の青年に言われて素直に話を聞く大人もそもそも居る筈も無い。

 

しかし、小動物のようなクリオネちゃんに対する鬼畜所行はいくらなんでも酷たらしい。

 

酷すぎる死んだらどう責任を取るんだ。

 

それよりも客のペットを殺そうとするなんて商売人としてどうなんだろう。

 

(長生きしてても丈夫かは謎なんだけど)

 

お酒が投入されて数分経つが特に何か変わったことも無い。

 

しかし、女にまた変な物を入れられるのも嫌なので死んだフリをした。

 

女を熊に見立てて死んだフリをするのは少し楽しかった。

 

ローが見たら怒ってしまうのなんて考えなくても分かるだろうに。

 

「あら、早いのね」

 

色々物音がしてローが戻ってきたらしいと知る。

 

「!?……てめェこいつに何した!何で茶色いんだ!ああ″!?」

 

「何をそんなに怒っているの?私は何もしていないわよ?」

 

「…………どうやら死にたいらしいな」

 

嘘を吐いているのなんて丸分かりのシチュエーション。

 

「!、な、殺すっていうの!魚一匹で可笑しいんじゃない!?」

 

どうやら刀を抜いたらしい。

 

魚じゃないよクリオネさんだよ。

 

それに君より長生きだと思うよー。

 

「可笑しいのはてめェだ。おれは触るなと言ったのに良くもやってくれたな……!」

 

チャキッと刀の抜き身音。

 

パチャパチャと音をさせて蘇生しましたよアピールをする。

 

「!…………生きて、る」

 

ローが呆然とこちらを見る。

 

女は殺されず能力で細切れにされただけに済まされ目の前で血だらけ殺人を見なくて良かった。

 

彼は水を変えると海水を入れてくれる。

 

アルコールの匂いにあの女と怨念が込められたが、持ち直し、女を踏んづけて部屋を出ると能力で自船に戻った。

 

自室に籠もるとリーシャの入ったアクアボールを抱えて黙ったまま堪える様にすまなかったと謝った。

 

彼が謝る事でもないと慰める。

 

パチャパチャするとボール越しに撫でられた。直で触っても良いのに。

 

そんな事があってかローは酒場に行くときは自室に置いて去る様になった。

 

暇になるから何度も飛ぶ練習をして水槽の入り口を外して這いながら部屋を彷徨く。

 

両手をペンギンみたいにすればズリズリとしながらでも徘徊できた。

 

いけないことをやっているのは自覚しているがその背徳感に気分が最高潮。

 

ズリズリしていると振動が伝わってくる。

 

ヤバいローがご帰宅だ。

 

急いで水槽に戻るが蓋がどうにもならない。

 

諦めよう。

 

部屋に入ってきたローは青年から大人になりかけていた。

 

「…………蓋が開いてる?」

 

ギクッとしたが何気なく泳ぎ知らないフリ。

 

今日は疑われる事無く蓋は無事閉められた。

 

 

 

蓋が何故か開く案件に疑惑を持ち出したローは蓋を強固にしてしまい緩める為に日々ドカドカとぶつかる日が続く。

 

なかなか開かないと格闘してはローの目を盗みぜえぜえさせる。

 

彼は満足そうに本を読んではリーシャを鑑賞した。

 

お外に次はいつ行くのだろう。

 

楽しみにしていると彼が水槽を持ち上げるのでお出かけだとちゃぷちゃぷさせる。

 

「興奮するな。身体に障る」

 

クリオネが喜ぶ事に疑問を抱かなくて優しく言ってくれるその声音が大好きだ。

 

「船長、出掛けるんすか?」

 

「嗚呼」

 

船員に声を掛けられて応える。

 

彼らもクリオネを伴って出掛ける彼を変な目で見ない。

 

敬愛を抱く彼らに囲まれて良かったとしみじみ感じる。

 

「海岸沿いにするか」

 

ローの言葉に同意。

 

散歩をする時間は楽しい。

 

けれど、時々思う。

 

リーシャを眺めていると家族の事を思い出すのではないかと。

 

引き金となる悲劇を色濃く脳裏に描いているのではないかと、つい途方もない考えが浮かぶ。

 

それと、コラソンのことも含めて、平行して思い出してしまうのではないかと。

 

無駄な心配を一々感じてしまう。

 

[newpage]

 

また年月が経過してローが大人になった。

 

逞しく、かつ身内贔屓を抜いても格好良くなった気がする。

 

だって周りもカッコいいと騒ぐのだし、自慢に思う。

 

最近はリーシャがいつ死ぬか気掛かりらしく、更に持ち運ぶ時間が増えた。

 

自分でもそろそろ寿命が来ても可笑しくないと思っている。

 

ぷかぷかと浮く中、クリオネはローに抱えられて船の食堂に居た。

 

ドタドタと歩く足音に来たと耳を澄ませる間もなく扉が開き白熊が姿を現す。

 

「キャプテン!お早う!」

 

元気良く挨拶するのはベポという名前の二足歩行の白熊だ。

 

何とか族だから賢いのだと船員達と話していたのを覚えている。

 

ベポより先に食堂に来たらしい二人もベポに話し掛ける。

 

仲が良い二人だ。

 

「ベポ!お前ツナギ洗濯に出せよな~」

 

船員のシャチ。

 

「船長。そろそろアレですよ」

 

二人目はペンギン。

 

「ああ。そういやそうだな」

 

ローは船医も兼ねている故に健康診断を義務付けて、月に一回行っている。

 

怪我を隠す人も居るだろうという事もあるが、やはり船だから一人が異常を来すとなし崩しに船内の人達にも影響が出るというのが有力だ。

 

「じゃあ全員集める」

 

船の回線を使って放送を流す。

 

私はクリオネなので参加は出来ないのがやや残念。

 

彼は一旦健康診断に必要な道具を用意する為に船長室へと行く。

 

お留守番とならず彼らが触診されたりするのを眺めているので月一で一番暇でなくなる日だ。

 

見ているだけでも船員達の表情筋は豊かなので見ていて飽きない。

 

ぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷかぷか。

 

「フフ、お前も受けたいか」

 

気合いを見透かされてしまう。

 

ええ、受けたいですとも。

 

放送をしてから直ぐに船員達は半裸でぞろぞろとやって来て医務室へ集合していく。

 

始まった見慣れた光景、捌かれていく人。

 

能力も使っての作業は大変。

 

終わったらいつも眠り込んでしまう。

 

最後の一人が終わり彼は怠そうに肩を手で揉んでぐるんと首を回す。

 

お疲れ様さまー。

 

「ありがとうございました」

 

退出した船員を見送ると彼は即座に自室へ行きベッドへ向かう。

 

能力を使うと疲れるのに月に一度するなんて大したものである。

 

 

 

ある日、情報屋の女性を部屋に案内したロー。

 

勿論傍にリーシャも居た。

 

抱き抱えられた状態でなく机に置かれている。

 

お陰でどこからでも視界は良好。

 

「で、金は用意できている」

 

「ふふ、あら、急いでも仕損じるだけよ?」

 

何の情報が欲しいのか。

 

ローはお酒を注ごうと視線を外しグラスに入れようとしていた。

 

その時、女性が懐から刃付きの柄を握るのが見えて慌てた。

 

水音だけでは通じるか分からない。

 

緩めておいた蓋を遂に開ける時が今だと走り出そうとしている女の顔面に突撃。

 

──ビタ!

 

ぺちんと顔に直撃した途端、女は「何!?」と混乱し顔を拭おうとしている。

 

ローはそれに気付いた。

 

「!──チッ」

 

女がクリオネの感触を遂に捉えてバシッと剥がすように手を叩きつけ地面に衝突。

 

その間にローの太刀の中に入ったらしく相手が崩れ落ちる。

 

仰向けになったままピチピチしていると彼の焦った声が聞こえた。

 

「何でこんなっ!しっかりしろっ」

 

慌ただしく水槽に戻された。

 

(痛くない?頑丈だよ私……凄過ぎ)

 

あんなに巨人に等しい力で叩きつけられたのに、傷すらも付いていない。

 

やっぱり長生きするだけあって身体は頑丈なようだ。

 

「……心臓に悪過ぎだ。もう次はこんな真似は止めてくれ」

 

久々に泣きそうな声で懇願された。

 

 

 

情報屋ぺちん事件の後日、ローにより更に水槽が進化して開ける方法が変更された。

 

飛び出し厳禁らしい。

 

「出るんじゃないぞ」

 

子供に言い聞かせる様に言う。

 

(猫って死ぬとき飼い主と離れるよね)

 

きっかけはそんな些細な出来心。

 

(私もローに死んだ所見せたくないかなあ)

 

軽くそろそろ海へ返ろうと計画し試しにまた中から離れようと思い入り口を開けようとした。

 

他に他意なんて無かったから少し何が起こったのか把握するのに時間をようした。

 

出ようとしたらいつの間にか落下していてドスンと普通は鳴らない床の軋みに疑問。

 

周りを見て、家具が小さく、いや適正な大きさに見えている事。

 

こういうの不思議の国のアリスのシナリオに似たようなのあったあった。

 

ピチピチしようとしたらクリオネのお手てが人型の手になっていたのに気付いた。

 

不思議な感覚で居ると何故か服を着ているという謎仕様にも気付く。

 

クリオネから人間になる時は少なくとも裸だと予想していたから驚いた。

 

今更人間になれるだなんてもしかして寿命だから、それか長生きしたから妖怪みたいな存在にでもなったのかも。

 

「どうなってんだろう……あらま、声まで」

 

クリオネ時は声を出しても誰にも聞こえなかったのに。

 

変な感じだと立ち上がると床がびょ濡れ。

 

仕方ないか。

 

髪も濡れているがそういうものであろうと納得して水槽を片手に船をこっそり降りる。

 

一番長く船に居るから仕組みも死角も分かっているので彼らを出し抜くなど造作も無い。

 

「ちょっと散歩するだけだし」

 

初めて人間になれた記念。

 

町は栄えていたの一言に尽きるのだが、此処でお金が無い事に漸く気付き、ローのクローゼットから五百ベリー貰っておけば良かったと悔しくなる。

 

念願の食べ物にありつけるとわくわくしていたのに。

 

とぼとぼと歩いていたら前方から知った顔が見えて声を掛けられないが嬉しくなる。

 

「ローが近~い」

 

至近距離まで目に焼き付けておこうと野次馬根性で見つめていると目が合う。

 

いつもは優しさが宿る瞳には今、何の熱もない。

 

「おい」

 

声を掛けられたが視線が顔より下なのに疑問を持ち、彼の眉間が寄っているのを見て何かしたのかと不安になる。

 

バレたわけでもあるまいし。

 

「その手に持っている水槽……」

 

「水槽?」

 

手に持っている物を見ると変わらなくそこに住んでいる水槽はある。

 

それがなんなのだろう。

 

「見せろ」

 

「え、無理」

 

これを無くしたら元に戻っても這うしかなくなる。

 

拒否したから剣呑な顔になって奪おうと彼の手がそれに伸びるので一歩下がり回避。

 

何故そんなにもこだわるのだろう。

 

只の水槽だ。

 

ジリジリと追い詰めてくるので踵を返す。

 

待て、泥棒。

 

後ろからそう聞こえて泥棒認定されたのを知った。

 

この水槽がローの持つ水槽と分かったのか疑問に思いながら駆けていた。

 

後ろには追っ手のローが迫ってきている。

 

捕まっても後ろめたい事などないし、と困る未来を想像し逃げる事を念頭に置く。

 

しかし、ここの町には詳しくないし追い込まれる事間違いなしな予感。

 

軽やかに走れている事実は後から考察するとして、取り敢えず死角に入りクリオネに転じて水槽に出戻る。

 

直ぐにローは此処へ来て辺りをキョロキョロしてから逃げられたかと舌打ちすると水槽を抱き抱える。

 

何もされなかったかと問われるが受け答え等無い。

 

しかし、困ったことになった。

 

ロー本人から泥棒認定を受けてしまった。

 

大人しくしていたいが足で歩きたい為に泥棒でも何でも追いかけられる事になったとしても、それでも外に出たい。

 

どちらも深刻な内容なので譲れないが、ローには悪いが外へ遊びに行かせてもらおう。

 

気付かれても死角に入りクリオネに戻れば消える女の出来上がり。

 

「海賊から盗もうなんて良い度胸してやがるっ」

 

うおう、相当お怒りらしい。

 

自分を盗むとは変な感じがするけれど、本人に申告するつもりがないので信じ込ませておく。

 

未だに自分とて人間に変化出来た事は驚いているし、次も変身出来るか分からない。

 

「もう大丈夫だからな」

 

怖い思いをしたと思っているローが声を掛けてくるが、少し悪いなと思ったので面倒をかけてすみませんと謝る。

 

伝わらないが。

 

彼は踵を返し辺りを警戒して船へ戻った。

 

 

 

また船の上の生活へと戻った。

 

船の中では迂闊に戻らないように気を付けている。

 

陸に行ったら成る予定。

 

水槽の蓋が何故簡単に外れるのかは今も分からないが、分かったところでする事は何も変わらない。

 

ローから逃げられる程身体が柔軟な理由も結局分からず。

 

「船長!陸に着きます」

 

船員の声にピクッとなる。

 

やった、久々の陸だー。

 

「前行ってた泥棒の女、流石に居ないよな?」

 

それにも反応してしまう。

 

島が違うし、流石にとの言葉にローは居たら居たで斬ると述べる。

 

斬られてしまうのは困るからっ。

 

「今回も置いていかなきゃなんねーのがなァ」

 

名残惜しく目線をやられてふよふよしてクリオネアピールをする。

 

船員達は見張りをかい潜り船長室に進入して部屋から水槽を持ち出したと結論付けているのだ。

 

陸に着くとロー達はいつものように行ってしまう。

 

まだ人間になってはいけない。

 

初日はロー達も早めに切り上げてくるから。

 

二時間程して戻ってきたローにやっぱりとなる。

 

見ていると盗まれていない事に安堵しているので気になって仕方ないのだなと苦笑。

 

この島のログは二週間と聞いて長いので出歩けると四日目にして漸く人間へと転じた。

 

ホテルへ泊まっているのでホテルから出ると今度は五百ベリーを持って出掛ける。

 

本当はローに何か買ってあげたいが渡す方法もないので諦めた。

 

アイスを買って食べて歩いて食べ終わり食べた後の運動代わりにてくてくと歩く。

 

「泥棒!死ねっ」

 

突然の声に振り返ると遠目から男──ローが刀を振りかぶるのが見えて咄嗟に飛ぶ。

 

跳躍すると間一髪で範囲外へ飛べたのでスタ!と地面に降りると慌てて走る。

 

死ねとか言われた怖い。

 

般若みたいに睨まれてうわうわと情け無い動作で死角を見つける。

 

確かに唯一の家族であるクリオネを盗み持ち出している悪女なのだから鬼気迫る事は何ら可笑しくないが。

 

今日はここまでだとクリオネになり水槽へポトンと落ちる。

 

間一髪な差でやってきたローは辺りを見回してまた逃げた、チッと舌を打ちソッと水槽を取る。

 

「何故これを盗るんだ」

 

ローの船にはお宝が積んであるのでその疑問は当たり前に湧く。

 

しかも二度目だ。

 

「次合ったら絶対ェヤる」

 

青筋の浮かぶこめかみ。

 

お願いだからお手柔らかにね。

 

それにしてもとローは呟く。

 

「どうやっておれの部屋に侵入を……何かの能力か……?」

 

まあそう辿り着くだろうなという推理だ。

 

それからというもの、島に着いてはバレて追いかけられを数回繰り返した。

 

それが変化したのは一年くらい経過した時だ。

 

ある日、ローに真っ黒の布を掛けられて、もう歳だから日光を避ける為だと。

 

そんなに歳じゃないしと思いながら人間に転じるとワンピースでなくハートの海賊団の団服を着た姿になる。

 

此処最近、町に出るのが難しくなり、上げ底ブーツと付け髭と目深い帽子にブカブカのツナギ。

 

女だとバレずに溶け込めるかもと一度試したら多分溶け込めた。

 

甲板に行かず厨房に行くからローにもバレずにいられている。

 

よし、これで準備は万端だ。

 

嬉々として部屋から出ると辺りを見回して人が居ない内にササッと廊下に行く。

 

今日もジャガイモを剥こう。

 

コックさん甘いものくれるからね。

 

 

 

***

 

 

 

お察しside

 

 

 

男がモニターを見て見事な皺を眉間に作っていた。

 

「船長……」

 

気まずそうに声を掛けてくるクルーに応える気も無くなっていた。

 

今映し出されている光景が覆しようがない。

 

今回が初めてではなく、何ヶ月も似たものを見ているので衝撃は無い。

 

しかし、長年共に居た存在が擬人化したという事実は確実に己を動揺させ、先行きの不明な思考を抱かせていた。

 

「取り敢えず」

 

漸く長の発言に彼らは面を上げて今か今かと待つ。

 

「捕縛しても傷つけるな」

 

良い策も今は思いつかない。

 

そう結論が出るのは至極当然の流れであった。

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