短編集(夢小説)   作:苺のタルトですが

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キスしないと出られない空間(モブ子シリーズ)

どうもどうも、いつもながら。

 

あなたのノルウェです。

 

一家に一台欲しいと渇望されてきゃあきゃあ言われてみたいノルウェです。

 

と、ホストみたいなことを言ってみた。

 

さて、紹介はここで一旦置いとき、次は今己がどんな立場にあるか説明しよう。

 

まずは魔法があって、異世界転生や召喚などは普通に普及している。

 

良くあることというやつだ。

 

魔法省と呼ばれる部署でお役所仕事のようなことをしている。

 

上司は最上級魔法使いのトラファルガー・ロー。

 

最上級というのは言葉の通り、一番魔法が使える人の事だ。

 

なぜノルウェがモブになっているのだと悟ったのかというと、異世界であるのに異世界転移をしてきたヒロイン擬きがやってきた。

 

あんな誰彼構わずコナをかける女を純ヒロインだなんて認めない。

 

ノルウェの立場は所謂お茶係のような雑用だ。

 

最上級魔法使いではないが、全体的にフォローする。

 

ローとは茶飲み友達のように穏やかな関係で、とても良い空気を発生させてくれる。

 

しかし、それをぶち壊してきたのが例のニセヒロインだ。

 

どうやらこの国の王子をたらしこんだらしく、婚約者の座に近付いている。

 

しかし、身分と身元が不確かな為に王から許可は出ていない。

 

不確かなというのとは、間者という可能性も睨まれているのだ。

 

だというのに、最上級の魔法使いが居る場所に出入りしているのはそのバカアホな王子が視察に来るときに金魚のフンとなっているからだ。

 

護衛とてあの女を守るのは遺憾だろう。

 

コナをかけるのはシャチ、ペンギン、などなど。

 

所謂優良な男達という。

 

凄く分かりやすい。

 

世界が変われど、惹かれる部分は変わらないというところが罪深い。

 

しかも、それを見透かしている王子以外の男達。

 

早々に無視を決め込んでいる。

 

「トラファルガー・ロー殿。研究はいかがかな」

 

「何言ってやがる。お前が婚約者候補だというのに、我が物顔で歩く女を連れてくるから捗るもんも捗らねェんだよ」

 

王子はローの明け透けな台詞に目が泳ぐ。

 

「連れてくるなっつったよな?」

 

がらが悪くても許される。

 

ローだから。

 

「それは誠に申し訳なく」

 

「ご託は聞きたくない。お前のせいで薬の開発は遅くなるとお前が伝えろ。ちょっとでも今の言葉をねじ曲げて伝えたら今回の話は白紙にする」

 

男性の悩みである頭皮のデリケートな薬を開発していた。

 

王が所望しているそれが白紙になる可能性があるのだと伝えねばならぬ王子は顔面蒼白。

 

特殊な態度であるが、今まで素性が不明な女を国家において重要な施設に出入りさせていた事実は消えない。

 

「次、女がやってきたら縛り首にして王座の前へ叩きつけてやる」

 

彼の容赦ない毒舌が開花する。

 

元々結構辛辣な方だけに、やはり溜まる必要もないストレスを貯蓄していたのかも。

 

王子は吹き出す汗を拭う事もなく建物を戻っていく。

 

彼女の回収を忘れないか心配だ。

 

愛しい女と公言してしまっているせいで彼女は社交界の嫌われものだ。

 

さぞ、他の婚約者候補の女性達も出来レースで婚期を遅らせている事に不満がみなぎっていることだろう。

 

「ローさん。ストレス解消に茶菓子をお持ちしましたので一緒にいかが?」

 

王子が去った後溜め息をついている男に近寄る。

 

眉間のシワが寄っている為に厳つい雰囲気。

 

それがふんわりと和らぐ。

 

「見てたのか。ああ。そういやそんな時間か」

 

彼はもらうと一言言っていつもの部屋へ向かう。

 

誰でも利用できるフリールームに到着すると双方にある椅子へ腰を据える。

 

テキパキと慣れた手付きで芳ばしい菓子を用意し、ローは魔法でお茶を注ぐ。

 

今ごろ噂の自爆系女は回収されてるだろうか。

 

「色男も大変ですね」

 

くすくすとからかいを含む言葉を投げ掛ければ予想していた反応が返ってくる。

 

「モテたくねェ女に惚れられるんなら捨てちまいてェ」

 

心底嫌がった顔を浮かべて機嫌悪く溜め息を吐く。

 

「あの声がべったり耳に張り付いていて離れねェ」

 

うんうん、その気持ちは良く分かる。

 

同じことを異性に置き換えたって最悪だ。

 

日々ストレスで胃に穴が開くことになる。

 

同じ異性であってもあの声はとても不快だ。

 

それに、本命一筋ではなくちょっとでも有能なら誰にでもよい顔をするタイプというのが何よりも最悪なのだ。

 

彼女が男であっても結局嫌な相手としてリスト入りする。

 

気を取り直して途中まで無くなった飲み物を入れ足す。

 

そうするとホッとした雰囲気になる。

 

結構ストレスを溜めているから、吐き出しているのかもしれない。

 

研究に没頭したいのに邪魔が入る程、研究者がイライラすることはないのではないか。

 

それをやってのけるあの女は最悪な方向で感心する。

 

好かれたいというその口で話しかけて嫌われに行くのだから。

 

「ぜってェ許さん」

 

ローはぽそりとこちらに聞こえない声で言う。

 

「え?なにか言いました?」

 

問いかけても独り言だと一人で完結されて、なんだ、なら問題ないやとスルーした。

 

小さな呟きまでしつこく聞くなんて人として守らねばならない線を越えたくない。

 

 

 

それから、少しの間だけ来なくなった女。

 

だが、喉元過ぎればなんとやら。

 

懲りなかったようで、研究者達の塔で見かけてしまう。

 

王がローに平謝りで薬を作ってほしいと小耳に挟んだのに、今度と言う今度は許されはしないだろう。

 

女が兵士に捕まり追放されるまでの未来が手に取るように分かる。

 

が、次に目を瞬きさせた刹那、視界が一点。

 

真っ白な雲の中を彷彿とさせる光景があった。

 

何がなんだか分からないうちに、もう一つの声が聞こえた。

 

「ねぇあんた!」

 

視界に汚物が見えて思わず顔をしかめた。

 

見なかったことにしたい。

 

何故こんな不運なコースなんだ。

 

声をかけてきた女でなかったら誰でも良い。

 

「私が話しかけてんのよ」

 

憤慨しているが、彼女の肩書きは何もない。

 

塔の関係者でも王族に連なる系譜でもなし。

 

王子の愛人候補くらいしか思い付かないが、王の考えをブレさせたという前歴を残してしまったので、生きていけないと思う。

 

不幸にも目を付けられて話しかけられている不快感を隠して愛想笑いで切り抜けたい。

 

「なんでございましょう」

 

こちらをメイドかなにかだと勘違いでも起こしているのか、ローの所へ案内しろと宣う。

 

というか、この塔は認証式なので王子と共にくらいしか入れる方法がない筈だ。

 

しかし、王子が来ているという情報が無い。

 

もしかして不法侵入か。

 

そうなれば警備をサクッと呼ぶ。

 

──ブォオン

 

「ん?」

 

何かに触れた気がして振り返る。

 

しかし、変わった所は見たところ無い。

 

どういうことだろう。

 

勘違いだろうと一歩踏み出すと声をかけられた。

 

金切り声ではなく優しい声。

 

「由々しき事態になった」

 

前を見るの焦った顔のローが居た。

 

「あ、どうしたんでしょうか?」

 

そんなに焦るだなんて余程の事態だ。

 

しかも、国家の危機になる。

 

もしかして、なにかヤバイことがおきは始めるということか。

 

「最悪だ。想定外だ」

 

ということは、ローにもどうにも出来ない事態ということか。

 

どんどん己の顔色が悪くなる。

 

彼にもどうにも出来ないということはこの国は、否、人類は滅亡するのだ。

 

最早どうにも出来ないを何度も繰り返している自覚はあるが、どうにもが何度もリプレイ状態で今すぐ絶望を止めたい。

 

頭がイカれそうになる。

 

しかし、その思考を切ったのは他でもない男だ。

 

グイッと肩を掴みこちらを真剣に見た。

 

「死ぬんですか?ダメなんですか?」

 

死ぬしかと思考が危険な方向に行きかけるのを見ているしかなかった。

 

天才が匙を投げるということはどうにも出来ないというのと同等の答えだ。

 

その可能性が高いと瞬時に理解したがやはりここは再三確認を取りたくもなる。

 

もしかすると真逆の答えを得ているという極小さなものを見つけたい。

 

しかし、彼が持ってきたのは安心するものではなかった。

 

「ちっ。陣に追い付かれた」

 

「へ?陣って」

 

呟いた時、空気がふわっとなり空間が真っ白に侵食した。

 

一瞬、瞬きをする間もなく。

 

視界が白だけになると目をぱちりと動かすしか出来ない。

 

唖然とすることしか出来なかった。

 

一番知っていそうで見知った顔の彼もこの現象は想定外な台詞を吐いていた。

 

既に陣の中なのだとしたらどうしていれば良いのだろうか。

 

迷っているのが伝わったのかローは落ち着くように言ってくる。

 

彼が言うにはこの魔法を解く条件を揃えれば出られるらしい。

 

陣にそう書かれているのだとか。

 

「条件?」

 

「口付け」

 

ローから到底出そうにない言葉が飛び出してきた。

 

目が出そうな顔になるが閉じ込める。

 

「あ、そういえば例の女性もさっきまで傍に居たんですが」

 

口付け云々も気になるが陣とやらが現れてから見えなくなったお騒がせ女の行方もちょっぴり気になる。

 

「知らんな」

 

ぽそり。

 

呟かれたそれに僅かな思考が動きもう考えることをやめた。

 

今は生き残ることを優先する。

 

ローはキスをすれば元に戻れると説明してくれたが、自分達しかいなさそうなので自動的にローとすることになるわけだ。

 

それで良いのだろうかと彼をちらりと見ると目が合う。

 

相手も見ていたことに驚きパッと目を引き離す。

 

彼はその態度を気にすることはなくつかつかと近寄る。

 

「するのか、しないのか」

 

彼は何故か近寄り更に顔を近付けてきた。

 

そして、耳元に秘密ごとを囁く。

 

「キスが条件らしいと言っただろ」

 

跳ねるように離れたのは仕方ない。

 

聞いたけれどローとするということだろうか。

 

胸がドキドキと音を立てて上を向けない。

 

彼が肩に手をやりゆるりと距離を縮めてきた。

 

これはドラマで見たことあるやつだ。

 

これはするのか、してしまうのか。

 

ごくり、と喉が無意識に動いた。

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